『青エク』新作ゲーム『オルタナヴェルト』インタビュー。約8年の試行錯誤を経てリリースされた同作最大の見どころは「正十字学園町で生きている」とリアルに感じられる体験
 『ジャンプSQ.』にてロングヒット連載中のマンガ『青の祓魔師』。同作を原作とするアクションRPG『オルタナヴェルト -青の祓魔師 外伝-』(以下、『オルエク』)が、2025年6月25日にリリースされた。
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※対象プラットフォームはスマートフォンとPC。2025年6月にスマートフォン版がサービス開始し、PC版は配信日未定となっている。
 本作では、プレイヤーの分身たる主人公と、原作者の加藤和恵氏がデザイン統括をしたオリジナルキャラクターたちを中心に物語が進んでいく。奥村燐を始めとする原作キャラクターは、シナリオの一部に登場するほか、イベントシナリオの中には原作キャラクターが活躍するものも。

 この『オルエク』を手掛けているのは、『青の祓魔師』のアニメ制作でも知られるアニプレックスだ。そして、アニプレックスが『青の祓魔師』のゲーム化に挑むのは、じつは今回が初めてではない。2018年に、『
青の祓魔師 DAMNED CHORD』というスマートフォン向けタイトルの開発を発表していたのだが、クオリティーが目標にいたらず、中止になってしまったという過去がある。

 その挫折を乗り越えて、『オルエク』をリリースするまでに、いったいどんな困難や努力があったのだろうか。本作のプロデューサーを務めるアニプレックスの稲生舜太郎氏に話をうかがった。
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稲生舜太郎氏(いのう しゅんたろう)

アニプレックスのプロデューサー。『オルエク』のほかに、『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』なども手掛ける。

前身の開発中止やコロナ禍を乗り越えて、ついに誕生した『オルエク』

――ついにリリースを迎えた『オルエク』ですが、本作の前身にあたるプロジェクト『青の祓魔師 DAMNED CHORD』(※)から数えると、開発開始からリリースまで、かなりの時間がかかったと思います。完成にいたるまでには、やはりさまざまな苦労があったのでしょうか。
※アニプレックスが手掛けていたスマートフォン用ゲーム。2018年末に発表されたものの、目標とする品質向上に至らず、開発中止となった。
稲生
 僕がアニプレックスに入社したのは2017年なのですが、その時点で『DAMNED CHORD』の開発はすでに始まっていました。ですので、『DAMNED CHORD』の立ち上げの経緯は把握していないのですが、ゲームのクオリティーを上げるために、途中から僕もチームに入ることになりました。そうしてチームに参加した当初は「クオリティーは足りていないけど、キャラクターやストーリーはおもしろいから、なんとかできるはず」と思っていたのですが……。

――それでも目標のクオリティーには到達しなかった?

稲生
 2019年に『七つの大罪 ~光と闇の交戦(グランドクロス)~』がリリースされましたが、あのゲームによって、いわゆるIPもののゲームの見かたが変わったと思うんですね。圧倒的なグラフィックとおもしろいシステムで、同時期にリリースされたゲームは、否が応でも『七つの大罪 ~光と闇の交戦(グランドクロス)~』と比べられてしまう状況でした。個人的には、あのタイトルの存在が『DAMNED CHORD』の開発中止の背中を押したのではないかと思っています。「つぎに出すゲームは、あのくらいのクオリティーにしなくてはいけない」と感じました。

――そうして『DAMNED CHORD』が開発中止になって、『オルエク』が生まれるまでに、どのような経緯があったのでしょうか?

稲生
 『青の祓魔師』は、アニプレックスにとってものすごく大事な作品です。長年アニメを作らせていただいていて、さらにゲームも作らせていただくことになったのだから、「『DAMNED CHORD』は開発中止になってしまったけれど、もう一度がんばって、納得のいくゲームを世に出さなくてはいけない」と決意しました。そして作り直すのならば、軸をしっかり決めないといけない。そこで、プレイヤーの目を引く3Dグラフィックと、『青の祓魔師』の魅力であるカッコいいバトルを表現できるゲーム性を中心に据えて、これを実現できる開発スタジオを探し始めました。

――本作の開発は、中国のbilibiliのゲーム開発センターが担当されているとのことですね。

稲生
 最初は日本国内で探していたのですが、どうしても既存タイトルの延長に近いものになってしまいそうだったんです。そこで、近年はアクションバトルが得意なアジアの開発スタジオも多いですから、海外も視野に入れ、アニプレックスの上海オフィスのメンバーや、KLab Chinaの皆さんにサポートしてもらいながら各所と交渉を続けて、いまの開発チーム(旧:心源工作室)といっしょに取り組むことになりました。そうして開発が決まったのが2019年の年末です。ですが、その後、また新しい問題が起こりまして……新型コロナウイルスの流行です。

――開発が決まった矢先にコロナ禍になってしまったのですね。

稲生
 はい。ご存知の通り、たいへんな事態になり、中国では外出もできない状態が続きましたから、なかなか開発を進められませんでした。本当は現地に行って細かいところをすり合わせたかったのですが、それができない。とはいえ時間を無駄にはできないので、まずはグラフィックを作り始めてもらったものの、文字ベースのコミュニケーションだけでは僕らが大事にしたいものがなかなか伝わらず、上がってきた成果物を見ては、修正を依頼して……。現地のチームも出社できないので、スタッフがそれぞれ単独で作業していたこともあり、本当にうまく進まなかったんです。僕がようやく現地に頻繁に行けるようになったのは、2023年になってからのことで、それからは開発スタッフと密なコミュニケーションを取ることができました。

――本当に、リリースにいたるまでに多くの苦労があったのですね。先ほど、「文字のコミュニケーションだけでは、大事にしたいものがなかなかチームに伝わらなかった」というお話がありましたが、『青の祓魔師』というIPのゲームを作るうえで、とくに大事にしたことは何ですか?

稲生
 まず大前提として、『青の祓魔師』は原作が続いていますし、アニメも新シリーズを展開していますので、「原作の体験や、アニメの体験を阻害してはいけない」ということに注意していました。そして、「マンガでもアニメでもなく、ゲームで『青の祓魔師』を体験することの意味・理由をしっかり設けないといけない」と。そう考えてたどり着いたのが、“正十字学園町を自分で歩くことができる”ことです。

――本作では、正十字学園町が3Dグラフィックで表現されていて、自由に探索できますね。

稲生
 正十字学園町は非常にアイコニックな町で、和洋折衷な雰囲気も魅力的ですので、そこを自分で歩き回れるというのは、マンガにもアニメにもない体験だと思っています。
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――本作はオリジナルキャラクターを中心に物語が展開しますが、それも同じ理由から?

稲生
 そうですね。原作と同じストーリーをなぞるだけでは、先ほどお話ししたようにゲームでやる意味があまりなくなってしまいますし、かといって、原作キャラクターに新しい設定を付け加えてしまうと、矛盾が生まれてしまう可能性もあります。そこで“特立捜査係”というオリジナル部署を作り、オリジナルキャラクターたちが活躍するシナリオを作りました。

――それらのキャラクターは、原作の加藤和恵先生がデザイン統括を担当されているんですよね。

稲生
 加藤先生にはたくさんのキャラクターたちのデザインを統括していただきまして、特立捜査係のメインキャラクター8人だけでなく、サブキャラクターも手掛けていただいています。全部で20人以上のデザインをお願いしたかと。また、キャラクターや町のグラフィックに関しては、本当に何度も監修していただきましたし、「こういう形にしてみては」とご提案をいただくこともありました。そのおかげで、ものすごくブラッシュアップできたと思っています。
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“オルタナヴェルト”というタイトルに込めた、開発スタッフの想いと覚悟

――本作はオリジナルキャラクター中心に物語が進むということですが、原作のキャラクターはどのように関わってくるのですか?

稲生
 メインシナリオに関しては、原作キャラクターが登場する機会は多くありません。でも、ふつうに町中にいたりします。本作は、“祓魔師たちは、ふつうにこの町で生きている”ということにフォーカスして描いています。この町で日常を過ごしていたら、原作キャラクターとすれ違うことも当たり前にあるよね、という感じで、燐が出てきたりします。

――では、原作キャラクターの活躍はどこで見られますか?

稲生
 イベントシナリオの中には、原作キャラクターが中心に活躍するものもあります。また、個々のキャラクターに紐づくストーリーもありますので、そちらでは原作キャラクターの活躍を楽しんでいただけます。ちょうど、このインタビューが掲載されるころには、夏のイベントをプレイしていただけるはずです。『青の祓魔師』は、原作ではシリアスな物語が続いているので、「ゲームのシナリオでは少し明るい気持ちになってもらいたいよね」と加藤先生ともお話ししまして、楽しげなテイストのストーリーになっています。
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――ちなみに本作の物語は、原作のどのくらいの時点で起こった出来事なのでしょうか?

稲生
 以前、『オルエク』の特別番組でご紹介したのですが、原作の9巻、京都・不浄王篇の終わりから分岐したオリジナルストーリーが展開します。
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特別番組『青の祓魔師 特別授業 -オルタナヴェルト大解剖- #1』より。
――“オルタナヴェルト”というタイトルには、どんな意味が込められているのでしょうか。“Welt”はドイツ語で“世界”という意味ですよね。

稲生
 これはもちろんメインシナリオに関わる意味を込めたタイトルなのですが、開発チームの心意気を込めたタイトルでもあるんです。『青の祓魔師』って、自分が言うまでもないのですが、本当にすごい作品なんです。マンガは長く連載が続いていますが、ずっとおもしろいですし、アニメもひとつの時代を作った作品だと思っています。そんな中で、『オルエク』はまだまだ始まったばかりのひよっこではありますが、僕らは愛情と覚悟を持って長年開発をしてきました。もうひとつの大きい世界として、『オルエク』をきちんと盛り上げたい。それは、オルタナティブ・ロックに近しい信念だと思うんです。

――ロックの本流に対するオルタナティブ・ロックと同じような立ち位置のゲームであると?

稲生
 諸説あると思いますが、オルタナティブ・ロックは、主流のロックを尊重しつつ、もうひとつのロックとして派生して盛り上がっていったものだと思いますので……そこにシンパシーを感じるなと。『青の祓魔師』という本流に敬意を持ちながら、もうひとつの世界を作り上げよう、僕らは僕らでいいものを作ろうという決意が、この“オルタナヴェルト”というタイトルに込められています。ドイツ語を採用したのは、メフィストのルーツがドイツにあるので、やはり何かしらドイツ語を使いたいと思ったからですね。

キャラクターのアクションはもちろん、何気ない仕草にも注目してほしい

――続いて、本作のシステムの見どころについて教えてください。アクションがカッコいいバトルであることを軸に据えたと冒頭でお話しされていましたが、具体的にこだわったところは?

稲生
 キャラクターにはそれぞれスキルが2種類用意されていますが、当然ながら、それぞれのモーションはすべて固有のものとして作っています。武器もオーソドックスなものだけではなくて、ちょっと変わったものもあったり。たとえば、オリジナルキャラクターの子盛時令(こもり じれい)はかなり変わったヤツで、悪魔を釣って飼ったりしているような人物なので、彼の武器は釣り竿なんです。そういう、キャラクターの特性に合わせた武器のアクションや、遊び心も楽しんでいただきたいですね。開発メンバーのアクションへのこだわりもすごくて、エフェクトは派手で見応えがあります。
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 それと、バトル中以外のモーションにもこだわっているんですよ。それぞれ性格に合わせた動きをするので。たとえばオリジナルキャラクターの居切一飛(いぎり かずと)は動画配信やSNSが好きなので、道端で写真を撮ったりします。アクションはもちろん、そういった細かい仕草も見ていただけるとうれしいです。

――キャラクターは、イベントに合わせて追加されていくのでしょうか。

稲生
 はい。夏のイベントでは、まずは水着のしえみが登場して、その後にも水着のキャラクターが何人か続きます。それと、オリジナルキャラクターである紅羽亜鳥(くれは あどり)の水着バージョンを配布します。
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――『青の祓魔師』のファンの中には、あまりゲームに親しんでいない方もいると思いますが、そういった初心者ユーザー向けの配慮はありますか?

稲生
 バトルはオートで進めることもできます。“呪物”という装備アイテムをしっかり装備したり、スキルを強化したりと、育成をこつこつがんばれば、オートでもボス戦に勝てるようになると思います。

――本作では4人パーティーを組むことができますが、おすすめのキャラクターはいますか?

稲生
 おすすめはやっぱり燐ですね。騎士(ナイト)は、直感的に戦えて使いやすいです。シュラも強くておすすめです。回復役として紅羽、しえみを入れるのもいいですが、僕は最初のうちは力で押すほうがいいかなと思います。僕は個人的には、先程お話しした、釣り竿で戦う子盛が好きなので、子盛をよくパーティーに入れています。主人公とか燐のような使いやすいキャラクターを操作しつつ、子盛を眺めているという感じです(笑)。

「自分は正十字学園町で生きている」と感じられるゲーム体験

――いよいよリリースされた本作ですが、プレイヤーに、『オルエク』をどのように楽しんでほしいですか?

稲生
 先ほど、“祓魔師たちは、ふつうにこの町で生きている”ことにフォーカスしたとお話ししましたが、本作のゲームプレイを通じて、「正十字学園町で、祓魔師として自分は生きているんだ」とリアルに感じられるような体験をご提供したいと思っています。

 原作では重大な事件がフィーチャーされますが、祓魔師の仕事は大事件に対処するだけじゃないですよね。祓魔師がリアルに生きているとしたら、どんな仕事を、どんな生活をしているんだろうか。それを描きたいと思いました。町を歩いていると、原作キャラクターやオリジナルキャラクターが散歩・買い物などをしているところに遭遇して、その会話を聞くことができたり……そういった体験は、本作ならではのものだと思います。
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 とはいえもちろん、穏やかな日常がずっと続くというわけではなく、お話の緩急はしっかり用意しています。本作のプロローグの中に、主人公が「祓魔師とはどういう存在か?」と問われる場面がありますが、あの質問は本作のテーマでもあります。悪魔を祓う存在なのか、人を守る存在なのか、悪魔との共存の道を探す存在なのか? それぞれの考えを持つ祓魔師が、どう生きていくのかというドラマを見ていただければと。

――今後、本作に関する情報は、特別番組などで発表されていくのでしょうか?

稲生
 配信番組だったり、ジャンプフェスタのようなイベントを通じてお伝えしていければと思います。本作ではシーズンごとに、新しいイベントシナリオやキャラクターをお届けしていきますが、夏のイベントの後はもちろん、クリスマスやお正月などが待っていますので、楽しみにしていてください。
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本作の開発のため、何度も中国を訪れたという稲生氏。中国はごはんがとってもおいしいが、なかでも美味なのはザリガニとのこと。ザリガニの旬は夏! 近々中国に行く予定がある人は、ぜひザリガニを食してみてほしい。
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