『デス・ストランディング2』小島監督インタビューで紐解く小島秀夫という男の頭の中。小ネタや遊びはすべて監督が考案、つながりすぎなネット社会への恐怖、監督だからこその孤独……
 2025年6月~11月まで、“DEATH STRANDING WORLD STRAND TOUR 2”と称したステージイベントが、世界各国で開催中だ。発売日当日は東京会場で、抽選に当選したファンを交えて小島秀夫監督らがトークなどをくり広げた。イベントの内容は下記アーカイブ動画をチェックしてほしい。
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 イベント開催前にはメディア向けの囲みインタビューが実施され、各メディアから寄せられた質問に小島監督が回答。本記事では、その内容をお届けする。なお、物語のネタバレはないが、一部シーンやシステムなどの話もあるので気になる人はご注意を。
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渋谷パルコミニリポート

 と、インタビューの内容をお伝えするその前に、ツアーイベントが開催された東京の渋谷パルコでは、『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』(デス・ストランディング2)のショップなどが展開中だ。その模様もざっくりとお届けしよう。

DEATH STRANDING 2 JAPAN POPUP TOUR

 6階では『デス・ストランディング2』のグッズショップが2025年7月21日までオープン。オリジナルグッズやブランドコラボアイテムなどが多数揃っているほか、小島監督をはじめとするスタッフ陣のサインも見られるので、ぜひ足を運んでみよう。ちなみに、渋谷パルコはゲームグッズを販売しているショップが多いので、お財布の紐が緩むこと間違いナシ。
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ショップには小島監督などのサインあり。
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米とサーカス(コラボレストラン)

 地下1階のジビエ料理店・米とサーカスでは、『デス・ストランディング2』とのコラボフードを提供中。ゲーム中にも登場するカイラル茶やクリプトビオシスをイメージしたスイーツ、サムの血液袋を模したドリンクなど、さまざまなフード&ドリンクを楽しめる。
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個性的な店舗の前にはサムとヒッグスのパネルがある。不思議とマッチ!
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店内にはスタッフなどのサインがあり、宛書は“ポーター”になっているので、皆さんに向けたものだ。
 驚いたのはそのメニューのクオリティー。お店のスタッフたちは『デス・ストランディング』の大ファンとのことで、かなり気合を入れて世界観を再現したそうだ。
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押井守監督がモデルを務めるピザ屋“ピザ熱海”を再現。
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クリプトビオシスはスイーツ。カワイイ。
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メニューを注文すると、ランダムでステッカーをゲットできる。
 ゲームではピザを食べるシーンもあるが、やはり食事といえばクリプトビオシスのイメージが強い。通常営業ではワニやウサギ肉などはもちろんのこと、オオグソクムシや昆虫料理なども提供している米とサーカスとの相性はバッチリだ。
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クリプトビオシスが飾られているが、その下には何が何だかわからない食材が並んでいるのもイイ(グロテスクかもしれないのであまり写さないでおく)。
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本作より登場するカイラル茶も。スタミナ最大値が上がりそうだ。
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サムの血液袋がドリンクに! ゲームでお世話になった人(またはいまお世話になっている人)も多いと思うので、不思議な愛着があった。
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テイクアウト限定なのだが、冷蔵されたその見た目はもう血液袋そのものだった(笑)。もちろんちゃんと飲める、美味しいドリンクです。
 期間中、平日はコラボメニューのみとなるが、土日の17時以降であれば通常メニューも提供しているそうだ。興味があればジビエ料理も楽しんでみてはいかがだろうか。
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米とサーカス 『デス・ストランディング2』コラボ告知ページ

小島監督インタビュー

 ではイベント会場の様子とともに、小島監督への囲みインタビューをお届けしよう。
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来場者はメッセージカードに、スタッフたちへのメッセージを残すこともできた。
――発売を迎えたお気持ちをお聞かせください。
小島
 2019年に『デス・ストランディング』が発売されました。2020年から本作の準備を進めていましたが、世界はコロナ禍になり、作業がリモートになりました。そのとき、僕個人で病気にかかりまして、たいへんな時期が続きました。僕自身、ゲーム作りがこのままできるのか? と悩むところまで行きました。

 ゲーム制作を40年近く続けてきたなかで、いちばんのピンチだったと思います。そんな本作の発売を迎えられたのは、言葉にできない気持ちです。よくやったみんな、よくやったぞ自分と。

 本作はアーリーアクセスがありました。発売記念イベントを開催し、皆さんに来ていただいて、それから皆さんがゲームを遊ばれるのではなく、すでに遊んでいる人もイベントに来てくれます。時代が変わったんだなと感じつつ、発売をうれしく思います。

――前作と比べて、本作の反響の違いはありましたか?

小島
 前作のほうが反響があったと思います。なぜならば、この世に存在しないジャンルのゲームでしたし、僕のゲームに期待している人たちからの「『メタルギア』じゃないんだ」と(笑)。この世にない尖ったゲームを作ろうとしていたので、意図的に尖らせた部分もあります。たとえば、ゲームの導入部分やテンポですとか。

 発売から5年間で『デス・ストランディング』のユーザーは2000万人を突破しました。その土台のうえに、続編を作ろうと。当然『デス・ストランディング』のファンに喜んでもらいたいと考えましたが、ゲームがスローテンポで付いていけなかった人もいるので、ゲームのテンポを上げたり、システムを変えています。

 ただ、まったく違うタイトルにしてはいけないと思っていたので、前作の雰囲気や山を踏破するプレイが楽しめるように、続編としてできる範囲のなかで、尖ったことはしています。
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――前作ではできなかった、やらなかったことに本作で挑戦したりしていますか?
小島
 前作はルーはいますが、基本たったひとりで山を越え川を越え、人のもとに配達するゲームでしたよね。孤独ですが、自分のような人たち(プレイヤー)が、ネットの向こう側にたくさんいて、さまざまなものを共有するタイトルでした。

 本作は、マゼラン号(DHVマゼラン)という船がサムについてきます。ただ、カイラル通信をつながないとマゼラン号はついてこれないので、新天地へはひとりで行くことになります。

 マゼラン号がいますし、旅路にもドールマンがついてきます。ですので、前とは少し違います。サムにも帰る家があるんですね。マゼラン号に帰れば、跳ね橋部隊のメンバーが待っています。そしてメンバーたちの物語があり、サムとの絆も深まっていきます。

 (前作の開発時は)スタッフは少なかったですし、スタジオを立ち上げたばかりなので、リスクを減らすために前作はシーンに登場する人物を少なくしていました。キャラクター自体はたくさんいますが、各シーンはサムとフラジャイルだけですとか、プライベートルームで2~3人集まるくらいのシーンが多かったんです。

 ただ、ドラマとしてそれはちょっとカッコ悪いんです。今回はマゼラン号にたくさん人物が登場して、5~6人で集まって演技することを目指しました。これがたいへんで。まず役者たちのスケジュールを合わせるのがたいへんでしたし、リアルタイムで描く3D描画が難しくて。少人数ならいいんですが、多いとポリゴン数やテクスチャが増えますから。地味なところですが、なんとかできました。

――前作の制作時から、すでに続編の物語を考えていたとお聞きしていますが、前作と本作を併せたものがサムの物語であると、当初から予定していたのでしょうか?

小島
 いえ、そういった構想があったというよりは、妄想です。前作を作りながら「サムはつぎ何をするのかな?」と考えたり、“デス・ストランディング”とは何かもっと解明したいとか、ありますよね。ですので3部作みたいな感じで考えていたのではなく、自然と頭のなかで1.5や2を作っていた感じです。ただコロナ禍があったので、すべて捨てました。

 ですから本作のエンディングは、前作を作っていたときに考えていたものと全然違うんですよ。これ言っていいのかな……? えっと、当初考えていたエンディングは、サムがどこかで待っていて、そこにフラジャイルが遅れて現れて、ふたりでどこかにデートに行くってエンディングだったんですよ。コロナ禍前に考えていたものです。

 新ちゃん(新川洋司氏。アートディレクター/キャラクター&メカデザイン)にも、おしゃれなサムのスーツやフラジャイルのドレスのラフも考えてもらったりしていました。言っちゃいけないかもですね、これは記事にしないでください(苦笑)※。
※冗談とのこと。
――サムを主役としてもう一度描くうえで、前作から変えた部分、変えなかった部分を教えてください。
小島
 サム役のノーマン・リーダスさんのモデルをもっと緻密にしたかったので、そこはテクノロジー的に新しいものを入れて、リグやAIラーニング、筋肉のシミュレーションなどを取り入れました。

 大きく変えたのはプライベートルームです。前作のプライベートルームは、入るとサムがいきなり、ノーマン・リーダスに変わるんです。あそこだけはサムじゃなくてノーマンなんですよ。演技もノーマンのアドリブで全部撮りました。プライベートルームのコンセプトが“ノーマン・リーダスで遊ぼう”でしたから。

 ただ、物語的にヘンでした。今回はそういったリアクションが楽しめたりする要素をプライベートルームから消しました。股間を見たらパンチするとか、そういった要素を楽しみにしていた方はすみません(笑)。やっぱり、ヘンだったので。
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――サム役のノーマン・リーダスさんに惹かれた点、本作で注目してほしいポイントを教えてください。
小島
 スティーブ・マックイーンやチャールズ・ブロンソンは僕の子どものころのヒーローです。ノーマンも、スーパースターというかロックスターと言いますか。ノーマンが立っているだけでキュンときます。ダスティン・ホフマンとかとはちょっと違います。俳優としていろいろな役を演じるというより、ノーマン・リーダスというキャラクターがそこにあって。その魅力をゲームでも出したいので、そういう作りになっています。

 あまり言うとネタバレになってしまいますが、物語のなかでサムにいろいろなことが襲い掛かってくるので、号泣してしまうシーンが多いです。当然ノーマンにも泣いてもらうわけですが、けっこうな回数泣いてもらっています。

 ある日の撮影は、朝イチで泣いてもらうことがありました。もちろんそれも何回も泣いてもらうのですが、あとでノーマンから「朝から泣かせやがって!」と言われ、ちょっとムッとしていましたね(笑)。
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――本作はホログラムではない生身の人間と触れ合い、つながりが強調されているように感じました。コロナ禍を経て変化した要素でしょうか? 意識的に変えた部分がほかにもあれば教えてください。

小島
 サムはひとりですが、帰る家があって、そこにはいろいろなキャラクターがいて、人間関係という厄介な問題にサムは出くわします。人々の言い合いや意見の違いがありつつ、集団のなかの孤独を描こうとしました。

 深くは言いませんが、サムにもいろいろ事情があります。そこでの仲間のサポートもあるのですが、サムとしてはそのサポートが余計だったり。前作にはなかったドラマ要素ですよね。複数人のなかでの孤独感を出しました。

 ホログラムはホログラムで、現実の配達は“置き配”がコロナ禍で流行っちゃいまして(笑)。配達で仲よくなったらその人の家に入るシステムを考えていたのですが、そこは止めました。あくまで、サムの家はマゼラン号であると。

 ただ言ってしまうと、親密度を最大まで上げると奥の扉が開いて、中で休憩できます。なかなか最大まで上げるのはたいへんですが。

――忽那汐里さん(レイニー役)とのお仕事はいかがでしたか? 今後、日本の俳優さんとタッグを組むことはありますか?

小島
 技術的な問題として、アジア人の方ってスキャンして3D化しても、なかなか似ないんです。顔が平たいというのもありますし、とくに若い人や女性は肌が綺麗すぎて、ツルンとしたモデルになってしまいます。アジアの女性の方々は、きめ細かい美しい肌なので、CGみたいになってしまうんです。逆に、年を重ねている人ほどシワがあったり、そばかすがあったりしたほうがディテールが出て、似せることができます。

 いままでも日本やアジア人の方の3Dモデル化をやろうとしていましたが、似せることができないので、どうしようかと思っていましたが、以前と違うテクノロジーが出てきて、実験を兼ねて忽那さんにお願いし、今回はチャレンジしました。結果、まぁまぁ満足できるものになりました。つぎはもっとレベルが上がると思います。

 日本人の俳優さんに出てほしいのですが、ロサンゼルスでノーマンやレアさん(レア・セドゥ。フラジャイル役)といっしょにスタジオで収録するので、ネイティブくらい英語が喋れないと困ります。撮影が終わったらご飯だっていっしょに行きたいですし。

 日本語ができて、ネイティブな英語ができる人をすごく探しました。そのとき、オーストラリアで生まれ育った忽那さんを見つけまして。ただ、忽那さんに連絡する方法がわからなかったんですよ。女優の菊地凛子さんと友だちなのですが、菊地さんが忽那さんと友だちだと聞いて、連絡先を教えてもらいました。まあそのとき菊池さんから「私は出ないの?」と言われましたが(笑)。

 そして忽那さんがレイニー役となりました。レイニーのモデルはうまくできたと思います。黒髪の表現もじつは難しいんですよ。つぎやるとなったらまたもう一段階上げられると思うので、もっと日本の俳優さんを表現できると思います。まあ、作品の舞台が日本でもいいのですが。
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――忽那汐里さんやエル・ファニングさん(トゥモロウ役)さんなど、新たに起用された俳優の決め手となったポイントはありますか?

小島
 エルさんは子役のころから見ていて、ファンです。いつかいっしょに仕事がしたいなと思っていました。フランケンシュタインの作者になる映画(『メアリーの総て』)を見て「ああいう演技もするんだ」と驚きましたし、ずっと気に留めていました。

 あるとき友だちのニコラス・ウィンディング・レフン監督(本作のハートマンのモデル)が、エルさんを起用した映画を撮影しまして、レフン監督に「彼女どう?」って聞いたら「最高だよ!」と言うので、紹介していただいて、採用となりました。

 本作のサウンドはWoodkidが手掛けていて、
『TO THE WILDER』という、彼がソロで歌う曲があります。いい曲ですし、エルさんが歌を歌えることは前から知っていたので、デュエットしてくれないかなと考えていました。それをWoodkidに伝えたところ、じつはエルさんとWoodkidは友だちで、いっしょにライブをやったこともあったんです。知らなかったことでした。

 それはいいねと、これも“つながり”だなと思って、
『TO THE WILDER』のデュエット版があります。いまデジタルで配信されているサウンドトラックに収録されています。

 忽那さんはポッキーのCMから知っていますし、英語もできるし、お会いしたら素敵な方で、いっしょにやろうとなりました。僕は完璧主義者に見られがちですが、現場では俳優さんの意見をよく聞くほうで、お互いに意見を出し合いながら収録しました。忽那さんは立派ですよね、あの中(ノーマン・リーダス氏などが並ぶ中)に混じっても物怖じせず、すごく自然にやってくれて、みんなとも仲よくなってくれてすごく助かりました。
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――本作はキャラクターたちが歌う演出が多いですが、どのような意図やビジョンを込めていますか?

小島
 僕のなかでは、ミュージカルなんですよ。ほぼみんな歌います。あまり言えませんが、プレイすればわかると思います。レアさんも歌ってもらおうと思っていて、レアさんもその気だったのですが、結果的にナシになりました。歌がテーマのひとつでもあるので、本来であれば全員が歌うべきだったのですが。

――ドールマンとサムが旅をする形にした理由を教えてください。

小島
 僕はバディものが好きというのもありますが、たったひとりで配達に挑むという形から変えたかったんです。マゼラン号はついてきますが、マゼラン号が呼べない状況もあります。そこでドールマンです。彼と喋りながら旅をします。

 こういったゲームシステムは、まあよくありますよね。プレイヤーがわからないことを後ろにいるロボットが教えてくれるような。『
ポートピア連続殺人事件』でいうヤスみたいな。あれって、すごく都合がいいんですよ。『スナッチャー』でもメタルギアがそうでした。

 プレイヤーがわからないものに遭遇したときに、誰かが教えてくれる。これがドールマンです。教えてくれるのと同時に空気を変えてくれます。緊張したプレイヤーを和ませてくれる役割でもあります。

 これがけっこう難しかったです。最初、実験でAIでボイスを作り、テキストを作って、あらゆる状況に反応するバージョンを作りました。川を見つけたら「サム、川があるぞ! この川は深いぞ!」と全部、先に言ってしまうんですよ。全然自分でできへんと、あまりにもうるさくて(笑)。

 じゃあどれくらい喋ればいいのか、と量を調節していきました。途中のバージョンでは、ドールマンのセリフ量をグッと抑えました。ただ、1時間くらい喋らないシーンが続くと、人ってドールマンと旅していることを忘れてしまうんですよ。ドールマンはサムの前方にぶら下がっていますし。

 結果、ひとりで旅して、マゼラン号に帰って、ドールマンを壁に掛けるシーンで「あ、ドールマンと旅していたんだ」と気づく。これもヘンなんですよね。悩んだあげく、いまのバージョンになりました。もうちょっとがんばれたかなと思いつつ、遊んでみてください。
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――マゼランマンや、ニールのカットシーンなど、過去作品を彷彿とさせる演出が取り入れられていますが、その意図を教えてください。
小島
 あまり意図はしていないです。ニールはバンダナを巻いたら(スネークに)似てると言われますが、あれはニールがバンダナを巻いているだけです。もともとルカさん(ニール役のルカ・マリネッリ氏)を映画で発見したとき、たまたま「スネークみたいにバンダナ似合うな」とどこかで呟いたら、それがニュースになって。

 ちょっとイタズラっぽい演出は取り入れています。ルカさんは子どものころから『メタルギア』シリーズを遊んで育ったそうで、あのシーンを依頼したときはメチャクチャ喜んでいました。
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小島
 マゼランマンもそうです。最初、マゼラン号は僕のなかにあるプロットしか設定がなく、あまり細かいテキストはありませんでした。そこで新ちゃんがデザインとして挙げてくれたのが、原子力潜水艦みたいな長い形のものでした。

 僕としてはそうではなく、もっと小さい潜水艇だと。
『ミクロの決死圏』(映画。作中に登場するプロテウス号のこと)みたいな。で、Blu-rayを新ちゃんに持ってって。そこからいくつか挙げてもらって、そのなかにいまのマゼラン号がありました。

 すごく気に入ったのですが、前から見た絵だったんですよ。どこかで見たことがあるようなノーズで。意図的にそうしたわけではないのですが、それを見たら「巨人の頭に付けたらええんちゃうか?」と。付けてもらったら、何かに似ていたんです。ですので、狙ってデザインしたわけではないです。
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――プレッパーズの面々は、どのようなつながりで出演することになったのでしょうか?
小島
 プレッパーズはカメオといいますか、モブキャラクターです。だいたいメタヒューマンで作っている会社が多いと思いますが、なかなか人間味が出せなくて。10年後にはどうなっているのかわかりませんが。

 うちのスタジオに遊びに来てくれる人がたくさんいまして、「出る?」と聞くと「出たい!」と言うので、スキャンして、どんな役でもいいと出てもらっています。ものすごい人数が来てスキャンしたので、全員を出すことは無理でした。

 ここが難しいところで、どの人を出すのかはモメるので、けっこうたいへんです。スキャンして出てない人もたくさんいます。申し訳ないのですが。まあ、皆さん知り合いの方です。

――作中で最もシンパシーを感じる人物はいますか?

小島
 うーん……誰だろう? あまり誰にも感じないかも。まあ自分が作ったキャラクターですからね。うーん、ヒッグスですかね。なんか自由に生きていていいですよね。ヒッグスはドラマのなかでも、ゲーム寄りのキャラクターなので、ちょっとデフォルメしています。今回のはすごいですよ。
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――以前インタビューで「つながりすぎてはダメなのではと思うようになった」とお答えしていましたが、小島監督にとってどういつたことが“つながりすぎ”になるのでしょうか?
小島
 たとえば、ネットはネットの社会です。スマホでAIがいろいろなものを紹介してきますよね。ああいうの、ちょっと嫌です。人間の生活は、偶然が必要だと思うんです。

 朝起きて、学校へ行く、会社へ行く、誰かに会う。その間に誰かとぶつかった、何かを見た、コーヒー屋に行ったら知らない人と出会ったですとか。そういうことの連続があって、自分の選択が加わって、自分の人生が作られると思います。

 それが全部ネットでつながって、デジタルな誘導があって、それで決めなくてはならない生活になってしまうのではというのが、ちょっと怖かったんです。それが“つながりすぎ”なのではと。

 カイラル通信は前作からありますが(設定としては)「自分の24時間のデータをUCAに全部あげます。その代わりに、UCAが持っているほかの人の24時間の生活データを全部あげます」というものです。その人の過去から先祖まで、全部わかってしまうシステムです。自分の24時間を提供する代わりに安全は保障されるわけですが、それは果たしていいのかなと。

――つながりすぎている人々に向けて、本作はどのようなメッセージが込められていますか?

小島
 テクノロジーを否定しているわけではありません。いまさらネットをなしにしろとは言っていません。すごく便利で、コロナ禍のときもなかったら僕は死んでいると思います。助かった人もたくさんいると思います。ただ、そこに依存するのは危険なのかなと思いました。

 AIと同じですね。使いかた次第です。世界中とつながるテクノロジーを、自分がどう使うのか。本作のソーシャル・ストランド・システムでほかの人とのゆるいつながりを感じながら、ゲームを遊びつつ考えてほしいです。

 僕のなかでのひとつの答えは、最後のほうに登場するキャラクターに言わせています。それで、皆さんがどう感じるかですね。いろいろな意見があっていいと思います。結局、つながりを断つべくかというとそうではないので、そこを考えてほしいです。このテクノロジーを使って、今後どういう生き方をするのか、という選択です。すべてをなしにするのはないと思います。

――小島監督は対面や肉体的な感覚といった、デジタルではないリアルなつながりを重要に捉えていると思います。“つながりすぎてしまった”世界において、人間の身体性がもつ意味を、監督はどのように考えていますか?

小島
 難しい質問ですね(苦笑)。あまり言うとネタバレになってしまいますが、人間は肉体と心をふたつ持っていて、死んでしまうと魂になるのですが、肉体がある以上、肉体というか個としての移動は必要になります。

 たとえば今日、皆さん(メディア関係者)がここに来られたじゃないですか。ネットで参加していたら、家から出ないですよね。今日は皆さん、家から出て、車や電車などで会場に来られて、その間にいろいろな人や風景を見たと思います。そのあたりで、お茶もしたかもしれませんね。

 その偶然が、自分の人生を彩ると思います。メタバースがあって、メタバース内でハワイの風景を見てもいいですけど、実際にハワイに行くのとは感じるものが全然違うと思います。それは、匂いがあるとか温度が違うだけじゃなく、その過程ですよね。

 飛行機に乗ったり、いろいろなことがあるなかでの冒険と言いますか。そういう刺激がないと、ダメだと思います。そこを感じてほしいです。

――制作中に“孤独”を感じることはありましたか? あるとしたら、どう乗り越えていましたか?

小島
 乗り越えていません(笑)。ずっと孤独です。とくに、コロナ禍のときは会社に誰もいなくて、ひとりでシナリオを考えたりしていました。最後のほうはスタッフも会社に出てきていっしょに作業しましたが、僕は原作者・ゲームデザイナーであり、監督です。スタッフとは違う立場です。

 スタッフといっしょに仕事をしていて楽しいのですが、やはり立場が違うので、非常に孤独です。たとえば本作が「これは売れへんな」、「おもんないな」と思ったとしても、そんなこと言えません。ウソをつかないといけません。そんなこと誰にも言えず、家族にも言えないです。

 そういうことをずっと閉じ込めて、日々過ごしています。それがストレスとして溜まることがあります。僕がデル・トロ監督(ギレルモ・デル・トロ氏。本作のデッドマンのモデル)や、レフン監督と合うのは、そこなんですよね。皆さん同じです。

 映画も、何百人何千人とスタッフがいても、責任者はひとりです。ひとりでどうしようか、ああしようかと、ずっとひとりで悩んでいるわけです。共通言語がないので、同じ立場の人としかしゃべれないこともあって。たまに集まってそういう話をして、少し孤独を癒しています。

 これも『デス・ストランディング』と同じなんですよ。自分だけ孤独やなと思っていたら「あ、デル・トロ監督もそうなんや。あ、レフンちゃんもそうなんや」と。

――インフラを整える快感が好きで、本作でも国道再建に勤しみました。本作ではさらにモノレールもありますが、本作のソーシャル・ストランド・システムはプレイヤーへどのように楽しんでもらいたいか、お聞かせください。

小島
 よく言っていますが、僕はあまり国道建設はしません。カイラル結晶を入れておくぐらいで、ほかの人が作ったものを使います。『デス・ストランディング』を出したときに、データを見ると意外や意外、国道再建ばかりやっている人がたくさんいました。

 どこがおもしろいのか僕にはわかりませんが、ということであれば、そういった人たちにもうちょっと楽しんでもらいたいと、モノレールを作りました。モノレールができれば大量輸送ができて、自分(サム)も、車もバイクも乗れます。国道好きの方たちのための、新たな施設です。
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小島
 続編なので、ソーシャル・ストランド・システムは同じです。自分ひとりだけではなく、世界中に自分みたいな人たちがいっぱいいて、見えないですがお互いに“いいね”を与えあって、間接的なつながりを楽しんでください。

 ただ、今回は車両の印象が少し違います。前作のシステムは、人が使った車両を使うという使い捨ての感覚でした。最近街中にある、レンタル自転車みたいな感覚ですね。どこで乗って、どこで降りても愛着はないですよね。

 今回、僕がプレイしたとき、車やバイクのカスタマイズをたくさんしたんですよ。そういう意図はなかったのですが、ずっと長く遊んでいると、やはり自分のバイクが動けなくなったり、水没すると無性に腹が立って(笑)。雪山でも、落下したりするとイヤです。ですので、自分の車やバイクを、なるべく修理しながら使っていました。

 最初から最後まで自分のバイクに乗るという人がとても多かったのもあり、ちょっとそこを強化しました。といった部分で、車両については前作と感覚が違うわけです。一応車両に対する“いいね”も残っていますが、前作の使い捨てシステムとは違いますし、そういうトーンで制作しました。
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――PS5用ソフトとして開発するにあたり、PS5ならではの技術はどう生かされていますか?

小島
 テクノロジーは右肩上がりで上がっていますが、作りかたにはそんなに影響はなく、変わっていません。60フレームで動く、美しい描画の実現などはありますが、初代PSからPS2になったくらいの劇的な進化はありません。オンライン機能もそのままですし、ロードが早いなどいろいろありますが、これまでの延長線上の最新テクノロジーといった感じです。裏方的には進化していますが、体感的にはわからないかもしれません。

 振動に関しては新しいテクノロジーが取り入れられていて、特殊な装置でサウンドを録音して、それを振動に変換するような仕組みを全部に使っているので、いままでと違うと思います。

――夜空に浮かぶ監督の星座など、随所に散りばめられた遊びや小ネタは小島監督のタイトルらしい要素だと思いました。これらは、小島監督のディレクションによって生まれたのでしょうか? スタッフたちの発案もありますか?

小島
 こういうのは全部僕が入れています。スタッフが言ってくれるわけではありません。スタッフは僕が言っても、知らん顔していますよ(笑)。「えっ!?」って(笑)。

 星座は温泉で夜空を見上げると見れるもので、まあいろいろな星座があります。ルーちゃんですとか。あとちょっとドン引きする人とかもいますが(笑)。
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――クリエイターとして第一線を走り続けてこられましたが、「なぜ作り続けるのか?」という問いに、いまのご自身ならどうお答えしますか?
小島
 トム・クルーズといっしょです。僕の人生は、モノづくりに捧げています。それが最優先で、喜びです。身体が動く、脳みそが動き続ける限りは、作り続けたいなと思っています。周りに迷惑かけるようになったら考えますが、いまのところは死ぬまで作りたいです。

――監督は映画好きで知られ、映画的な表現がゲームにも取り入れられていますが、ゲームでしか提供できない娯楽性はどう考えていますか?

小島
 カットシーンはありますが、映画を作っているつもりはありません。ゲームなんです、僕のなかでは。変な帽子を被って遊んでみたり、さっきの星座の話もそうですね。ゲームでしかできないことが基本です。

 ライティングやキャラクター造形、演出や音入れなどは映画を見て育ったので、そういった部分は映画の影響を受けていますが、映画を作っているわけではないことは意識しています。
 
 たまに「小島は映画が作りたいんやろ!」と言われたりもしますが、決してそんなことはありません。ゲームを作っています。

――ストーリーの語り口がとてもわかりやすくなっていると感じました。もちろん複雑な部分はありますが、意図的にわかりやすさを重視されたのでしょうか?

小島
 前作は、いままでにないゲームでした。『メタルギア』もそうなのですが、隠れるゲームがなかったので、隠れないと死んじゃうようなゲームデザインになっています。そのために、隠れないといけないストーリーを作ります。そのゲーム性が定着したので、もうちょっと広いところに届けたいと。

 ですので物語は簡単にしたつもりはないですが、シンプルにはしています。ゲームシステムとしてもテンポが上がって、アクションも早くしました。そこも含めて、複雑にはせず、配達をしながらでもわかる程度のストーリーラインにしています。本当は複雑にしたいんですけど。
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――ファンの方々に、配達するべきメッセージをお聞かせください。
小島
 配達するゲームなんですが、あまりそういうことを考えずに、ゲームとして、エンターテインメントとして遊んでいただきたいです。

 自由度もかなりあります。戦闘が苦手な人は遠回りすればいいですし、やりたい人はまっすぐ行ってください。武器も装備もたくさんあります。配達だけしたい人、道路を作り続けたい人は、それだけやってもいいです。いろいろな遊びかたを試してみてください。

 その向こう側に、ある程度ストーリーラインがあります。“つながり”を持つことが何なのか、というドラマが展開していきますので、それを持って帰ってもらえればと思います。
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