ホラーゲーム『Tenebris Somnia』レビュー。実写映像の恐怖と不穏なドット絵、ふたつの手法が融合したクラシカルで新しいホラー体験

ホラーゲーム『Tenebris Somnia』レビュー。実写映像の恐怖と不穏なドット絵、ふたつの手法が融合したクラシカルで新しいホラー体験
 いつの間にか開いていたドアから、異形がゆっくりと姿を現す実写映像。その異様な姿に息を呑む主人公。画面が切り替わるとドット絵の“そいつ”がぎこちなく迫っている。なんとかしなきゃ! 『Tenebris Somnia』は、レトロなドット絵とリアルな実写、ふたつの表現を自在に行き来するホラーゲームだ。
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 PC/XBOX Series X|S向けに日本語対応で配信開始された本作のレビューをお届けしよう。本作の価格はSteamのPC版が2550円で、XBOX版が2900円。現在は発売記念セールで20%オフとなっている。なおNintendo Switch/PS5版は国内ストアに出ていないが、年内にハピネットから発売されるようだ。

戦闘よりも謎解きに比重を置いたホラーADV

 本作の主人公は、元映画学校生のジュリア。音信不通となっているらしい元彼イヴァンの安否を確認するため、彼女がかつて同棲していた彼のアパートに向かうところから物語が始まる。

 ゲームとしては、探索してキーとなるアイテムを入手し、いくつものパズルを解いてより深部に迫っていくという、ホラーテイストのレトロなアクションアドベンチャーゲームの体裁だ。
ホラーゲーム『Tenebris Somnia』
アパートの部屋を探っていくと段々おかしなことになってきて……。
ホラーゲーム『Tenebris Somnia』
壁のレバーから伸びるワイヤーが大量に巻き付いた人型の何か。さてどうしよう……。
ホラーゲーム『Tenebris Somnia』
キーアイテムを近くのインタラクト可能なものに「使う」と仕掛けが作動したりする。
 戦闘要素もあるがその比重は昨今のサバイバルホラーほどには高くなく、敵と遭遇する機会が限られている上に、ボス戦以外の多くのクリーチャーはダッシュですり抜け可能。ただし頑張って倒すと以降そこを通りやすくなる……という作り。部屋をまたいで追ってきたりはしないし、勝手に復活したりもしない(話が進行した後に別の敵が出現することはある)。

 一方でサバイバルホラー的に回復や弾などのリソースが限られていたりもするのだが、近接攻撃だけでもなんとかなったり、動きを見極めればノーダメでボコれるシチュエーションも意外とある。思い切って戦うか避けてやり過ごすかの選択があるなかで、やるならやるできちんと取り組めば道がきりひらける。この作りのおかげで一戦一戦の重みを感じられた。
ホラーゲーム『Tenebris Somnia』
構えと攻撃が別ボタンだし、モーションも遅いので、相手の行動パターンの把握や間合い管理は欠かせない。リソースも限られているので、ボス戦やイベント戦以外は戦わずに逃げてしまうのも手。もちろん、倒してしまえば探索も楽になるわけだが……。

実写で心理的なイメージを焼き付け、ドット絵で具体的なアクションが起こる。ふたつでひとつのユニークなホラー体験

 そして、クリーチャーや物語のカギとなるNPCとの遭遇などの重要なシーンにさしかかると実写映像のカットシーンが入ってくるんだけども、もともと映画のVFX畑出身のアンドレス・ボルギ監督(ゲーム全体のディレクターでもある)による映像のクオリティもさることながら、その入れ方がめちゃくちゃいい。

 特に痺れるのは、一部の例外を除くと実写パートをほぼ完全にセリフのない演技だけで演出していること。セリフがあると字幕に意識が持ってかれたりもしそうだけど、そうではないことで不穏で鮮烈な映像イメージだけが迫ってくる。ジュリアを演じるアルゼンチンの女優クララ・コバチッチの迫真の演技も素晴らしい。
ホラーゲーム『Tenebris Somnia』
気がつくとエレベーターに中にいる、異様な空気をまとった謎の女。
ホラーゲーム『Tenebris Somnia』
自分たちをコピーしたかのように赤い蝋のような像がベッドインしてるという、いやーなイメージ。
 実写パートで新しい展開のトーンや相対する異界の存在の質感などを焼き付けて、続くドット絵パートで語ったり戦ったり謎を解いたりの具体的なアクションがくり広げられる。実写の生々しさがあることで、ぎくしゃくしたアニメーションや抽象的な絵柄や(レトロゲームっぽい)操作しにくさがかきたてる怖さも引き立つ。このコントラストのおかげで、実写パートが単なるギミックに終わらない、ふたつでひとつのユニークなホラー体験になっていると思う。
ホラーゲーム『Tenebris Somnia』
暗闇からゆっくりとクリーチャーの異様で醜悪な姿が見えてくる怖さ。
ホラーゲーム『Tenebris Somnia』
ぎくしゃくと迫ってくるクリーチャーに限りあるリソースとクセのある操作で対処しないといけない怖さ。

映像メディアやホラーゲームへの愛が感じられるヒネリもナイス

 その上で、映像メディア愛やホラーゲーム愛がビンビンに伝わってくるヒネったアイデアも各所にある。中心人物が映画学校の卒業生たちということで作品内フィクションとしての映画が登場したり、映像機器を使った思わぬ変則ギミックの戦闘や謎解きがあったり、ホラーゲームのあるあるを逆手に取ってたりして、「うわ、こんなんアリか!」と驚かされることもしばしば。
ホラーゲーム『Tenebris Somnia』
登場人物たちが過去に手掛けた短編映画『Devora』も観られる。“なんかイケてるっぽい学生映画”感がまたいいんですわ。
ホラーゲーム『Tenebris Somnia』
映像機器を使った謎解きも。バックと映ってるものが違うねぇ……。

コンパクトにまとまったインディーホラーの傑作

 「意図はわかるけどちょっとこれは分かりづらすぎない?」という狙いすぎな謎解きがあったりするし、ちょっとチープに見えてしまう実写シーンもあって決して完璧ではない作品だけども、アイデアが詰まった1本のインディーホラー映画を観たようなプレイ感を存分に味わえた。

 記者のクリアータイムはゲーム内表示で5時間16分だったが、死亡してのリトライ分などを含めると7時間ほど。本当に1本の映画を謎解きアドベンチャーに拡張したような感じで、あまりダレることもなかった。

 ちなみにレビュー版の初期は主人公のセリフの語尾がやたらと「だわ」で終わるような感じだったが、発売直前のアップデートで大幅にブラッシュアップされ、違和感のない形に。コンセプトにグッと来た人なら間違いないだろう作品に仕上がっているので、対応環境を持っている人は発売セールのうちに、Switch/PS5版待ちの人は国内発売の暁にぜひトライしてみて欲しい。