2026年5月、“卑屈な奈良県民bot”の中の人である、あをにまる氏にインタビューを行った。聖徳太子や中臣鎌足ら、奈良ゆかりの偉人を教科書で見たままの姿で攻略する乙女ゲーム『なら☆こい』。その開発が止まっているとして、同氏は記事の中でゲーム会社に企画の買い取りを呼びかけていた。 その声に、サイバーステップ社が名乗りを上げたという。シナリオはあをにまる氏が続投し、イラストとプログラムは同社が担う。本作は現在、年内のリリースを目指して共同開発が進んでいる。
そんな本作の詳細や開発状況について、、あをにまる氏と、サイバーステップの高田氏と制作スタッフに話を聞いた(以下文中ではあをにまる、高田)。
鎌足が生徒会選挙で蘇我入鹿を倒す?

――前回の記事で、企画を買い取ってほしいと呼びかけていました。どのくらい本気だったのでしょうか?
あをにまる
呼びかけは本気ではありましたが、実際にお声がけをくださる会社様がいらっしゃる可能性は、正直かなり低いと思っておりました。本当に手を挙げてくださるとは思っていなかったので、たいへん助かったというのが本音でございます。
そもそも私がイラストをまったく描けないので、完全に頓挫している企画になっていました。それがシナリオ以外を全部サイバーステップ様にご用意いただけるということで、逆に丸ごとお任せする形になっているのがたいへん申し訳なく思っております。
――サイバーステップさんは、どのような経緯で声をかけたのですか?
髙田
ファミ通さんの記事をうちのスタッフが読んで、すぐ僕や僕の上まで持ってきてくれたんですね。見た目と内容のギャップも含めて、「おもしろいことできそうだね」って満場一致でした。当然企業なんで、開発費をペイできるかの試算は多少しましたけど、「とにかくまず話を聞こうよ」って。記事が出てから2週間以内くらいでしたね。
うちは社長が「誰もやらないことをやる」と言っていて、「おもしろそうならまずやってみようよ」という社風なので、決め手も本当にただ「おもしろそう」。
――最終的な攻略偉人を教えてください。
あをにまる
聖徳太子と中臣鎌足と大伴家持の3名になりました。構想では行基も考えていたんですけど、わかりやすいものは銅像しかなくて、みんながイメージする肖像がないんですよ。文字数の関係もあって、3人に絞りました。
全ルートほぼ勢いだけで書いているんですけど、個人的には鎌足編が楽しかったですね。大化の改新がテーマで、生徒会選挙で蘇我入鹿を倒すという大枠だけ考えていたんです。書いているうちに、探索要素を入れてみようかとか思いついて、めちゃめちゃ難易度低いですけど入れてもらったりしました。
――生みの苦しみはありましたか?
あをにまる
書いているときは「これおもしろいのか?」と思いながら、ひたすら自問自答ですよ。「本当に大丈夫かな?」みたいな苦しみは、全ルートで終始一貫してあります。まあ、テキーラ3杯ぐらい飲んでからやったら楽しいかもしれません。
髙田
うちで読んだ人間は全員おもしろいと言っているので、大丈夫ですよ。
――ファンが気になっている蘇我入鹿の首は、予定通り飛ぶのでしょうか?
あをにまる
シナリオ原案では、鎌足ルートで入鹿の首が物理的に飛ぶエンディングも作成いたしました。教科書によく載っていて、皆さんがなんとなく覚えがある“乙巳(いっし)の変”の絵巻物のシーンを、学園の背景でパロディしてみたようなものもお送りしたんですけど、はたしてそれをサイバーステップ様がOKしてくださるかどうかは、現時点で私もわかっておりません。「無理です」となったらシナリオを直しますので。
髙田
いちおう飛ぶ予定でCGは作成しているんです。生首を飛ばしたノベルゲームを出したこともあるので、大丈夫だと思いますね。ただ、プラットフォームの審査でレーティングが少し上がるかもしれないです。最悪の場合は、黒いもやか何かで隠れているかもしれないです。
あをにまる
そもそも縁起絵巻がもう首が飛んでいますからね。
――ルートの分岐はどうなっていますか?
あをにまる
すごいわかりやすい分岐があります。卑弥呼が「セーブしとけ」って突然メタなことを言い出したら、そこが分岐です。共通ルートの後に、図書室でひたすら勉強する聖徳太子ルートか、ネオ蹴鞠部のマネージャーになるか、軽音和歌部に入ってみるかで攻略対象が決まります。で、後半になると、選んだら死ぬ選択肢がゴロゴロあったりします。

――死ぬ選択肢ですか!
あをにまる
早かったら開始20秒でもう死ぬ人が出てきます。この世界の鹿は時速100キロぐらいで走っているので、鹿に轢かれて死ぬ人がいるんですよ。あと、バッドエンドを選ぶと、たまに大仏が出てくる“大仏反省会”というコーナーもあります。うちのスタッフが「これ入れたらおもしろくない?」と言ってくれて、じゃあ全ルートに入れてみようと。大仏が「ちゃんとセーブしていただきたい」みたいなことを口にしつつ、しょうもない奈良豆知識とくだらねえダジャレを言って「じゃあ帰るわ」と去っていく。おもしろいかどうかは知りませんが。
プレイ時間は短く、課金要素はなし

――プレイ時間を1.5〜2時間とした理由を教えてください。
髙田
もともとシュールなギャグコメディなんで、長すぎてもダレますし、昨今の配信文化を考えても、それくらいがちょうどいいのかなと。ただ、おもしろいことを追求していったらたぶん伸びるなと思っていて、すでに若干伸びつつあります。
あをにまる
総文字数が4万字ぐらいかなと思っていたら、ふつうに6万字時代に突入してしまって申し訳ない。大した話をしていないのに、文字数だけ伸びている。僕が悪いんですけど。
髙田
おもしろいことを削るよりは突き詰めたいので、それでいいかなと思っています。
――前回お話のあった好感度システムやボイスはどうなりましたか?
髙田
好感度システムは、明示的なものは入れないことにしました。ただ、選択肢の選びかたで内部的に溜まっていって、トゥルーエンドが解放される要素はあります。ボイスは、いまの時点では入れない想定です。
――課金すると聖徳太子がイケメンになる、という案もありました。
髙田
めっちゃおもしろいんですけど、入れないことにしようかなと。価格はワンコインを目指していて、買いやすい値段で買って最大限楽しめる状態にしたいんです。
――多言語対応するとのことですが、日本ならではの文化のニュアンスをどう伝えますか?
髙田
リリース時は英語と中国語(簡体字 / 繁体字)も対応を予定しています。翻訳作業は本当にこれからなので、苦労はするんじゃないかなと思っています。ただ、うちの海外子会社には、アニメも含めて日本の文化に詳しいネイティブの翻訳者がいます。和風MMORPGの『鬼斬』を自社開発・自社運営してきた経験も活きるでしょう。英語と繁体字は、少なくとも人が翻訳します。
――海外のプレイヤーには、どんなところを楽しんでほしいですか?
スタッフ
あまり海外の方にはなじみはないと思うんですけど、とりあえずゲームとして個性的なキャラクターがたくさん出てくるので、楽しんでもらえたらなと。その中で、「この人物はどんな人だったんだろう?」って調べてもらえるような作品になればいいなと思っています。
あをにまる
海外観光客の方って、奈良公園の鹿だけを見に来て、奈良公園と東大寺だけ見て帰る方がとにかく多いんです。奈良にもこういう偉人たちがいたという、最初のとっかかりになってほしいなと。ただ、日本の方だったら冗談だとわかるんですけど、海外の方にこれがガチだと思われてしまうとちょっと怖い。最近ビビり始めているところがあって、風評被害にならないか心配なんですけど。
フィクション奈良から、リアル奈良へ
――プレイヤーに足を運んでほしい奈良のスポットはありますか?
あをにまる
実際のスポットをいろいろ出したかったんですけど、お寺とか神社とか、権利的な部分もあるので、完全なファンタジー奈良みたいになっております。
なので、逆にフィクション奈良からリアル奈良に興味を持ってもらえたらいいなと思います。たとえば乙巳の変の縁起絵巻が公開されている談山神社や、登場人物ゆかりの土地にも来ていただけたらうれしいですね。
――中高生など、歴史になじみがないプレイヤーには、何を感じてほしいですか?
あをにまる
本当の歴史はどんなものだったんだろうと気になっていただけたら、とてもうれしいですね。逆に、ゲームと歴史がぜんぜん違うところもあるんです。小野妹子は女子になっていますが、もとはおっさんですから。鎌足と妹子が幼なじみという設定も、実際そんなの絶対ないですからね。大化の改新も生徒会選挙で決めたわけではなくて、物理的なクーデターです。
家持がギター持って歌っているけど、和歌っていうのはそういうものではない。みんなわかっていると思うんですけどね。「これが正しい歴史です」とは、僕たち言っていないですから。この作品はフィクションだと頭に入れたうえで、やってもらえたらと思います。

髙田
ほら、いまの話を聞いているだけでもおもしろいじゃないですか! あらすじを聞かされるだけでも絶対おもしろい。そのままテストに使えるものではないですけど、勉強しているときに『なら☆こい』のシーンを思い出したら、たぶんその範囲はもう一生忘れないと思うんですよね。
おすすめは「日本酒2合飲んでから」プレイ

――友だちとワイワイ遊ぶのと、ひとりで遊ぶのと、どちらが向いていそうですか?
あをにまる
日本酒2合ぐらい飲んでからやるぐらいがちょうどいいかもしれないです。
髙田
ひとりで黙々とよりは、みんなでワイワイのほうが楽しいんじゃないですか。配信映えもすると思います。
――最後に、心待ちにしているファンへメッセージをお願いします。
あをにまる
クオリティの高い乙女ゲーでは断じてございません。手軽に楽しめるバカゲー、バカゲーなのかクソゲーなのかわかりませんが、それを目指しておりますので、生暖かい目でどうぞよろしくお願いします。
髙田
自分でプレイするでも、誰かの配信を見るでも、どんな形でもいいので、『なら☆こい』で楽しんでもらえたらそれがいちばんうれしいです。けっこうXでエゴサしているので、僕も感想がたくさんほしいですね。もうあをにまるさんのシナリオがとにかくおもしろいので、僕たちはそれを崩さないように作るだけです。期待していてください。