任天堂より発売中のNintendo Switch 2ソフト『スプラトゥーン レイダース』。シリーズ初のスピンオフとなる本作について、舞台となる世界や開発過程の苦労、こだわりを聞いたインタビューを約20000字超でお届けする。 主人公・メカニックの設定や、キワモノシャケと幻のシャケで名前の雰囲気が違う理由など、気になることをたっぷりと聞いてきた。
なお今回は、これまでの『スプラトゥーン』シリーズのインタビューとは異なり、読者の皆さんから寄せられた質問も交えてお話をうかがった。たくさんの質問をお寄せいただき、ありがとうございました。
本文中の★印がついたものが、読者の皆さんからの質問だ。インタビューの流れに合わせて質問文を一部変更しているほか、時間の都合により、すべての質問を取り上げることはできなかった。あらかじめご了承いただきたい。
質問を投稿してくださった皆さんのお名前は、感謝を込めて記事の末尾に掲載しているので、チェックしていただきたい。
それでは、スピンオフ『スプラトゥーン レイダース』のこだわり、深淵を存分に堪能してほしい。
本インタビューはネタバレを多分に含むため、未プレイの方はご注意ください。
井上精太氏(いのうえ せいた)
『スプラトゥーン レイダース』プロデューサー。初代『スプラトゥーン』の立ち上げから開発に携わっており、『スプラトゥーン3』ではディレクター兼アートディレクターを担当。
伊藤慈彦氏(いとう よしひこ)
『スプラトゥーン レイダース』ディレクター。シリーズではおもにサーモンランを担当しており、『スプラトゥーン2』ではプランナー、『スプラトゥーン3』ではリードプランナーを務めた。
園山耕司氏(そのやま こうじ)
『スプラトゥーン レイダース』アートディレクター。『スプラトゥーン3』ではUI(ユーザーインターフェース)リーダーを担当。
田村集氏(たむら しゅう)
『スプラトゥーン レイダース』サウンドディレクター。『スプラトゥーン3』では、対戦の効果音制作と全体の音のバランスを調整するサウンドデザインリードを担当。
『スプラトゥーン』らしさを残しながら新たな遊びに挑戦
――『スプラトゥーン レイダース』(以下、『レイダース』)は、シリーズ初のスピンオフ作品となります。これまでディレクター/アートディレクターだった井上さんがプロデューサーになっていますが、体制が変わった部分はあるのでしょうか?
井上
役職名などは変わっていますが、たとえば私は『スプラトゥーン3』(以下、『3』)のころから宣伝や広報に関する領域を担当していたりと、以前からプロデューサーが担う役割の一部の業務を担当していました。これまでプロデューサーとして前面に出ていたのは野上(※)で、今回はその役職が私になっています。
※野上 恒 氏。『スプラトゥーン』シリーズのプロデューサー。本作ではゼネラルプロデューサーと、ミニゲームのドット絵を担当(詳しくは後述)。 伊藤くんも、『3』でサーモンラン担当で、ディレクターに近い業務をしていたんですね。そういった形で、これまでもやっていたことについて、役職名がついたというイメージです。
伊藤
そうですね。自分も『3』のサーモンランでリードプランナーを担当していて、『レイダース』の開発初期にひとりで遊べるサーモンランのようなテストをしていたんですが、その流れで自然と本作でも役割として担うことになりました。
――なるほど。世代交代を感じますね。これまで『スプラトゥーン』シリーズの代表的なイラストは井上さんがほとんど描かれていましたが、今回は、アートよりもプロデューサーとしての業務がメインになっているということでしょうか?
井上
もちろん自分も描いてはいますが、新しいフェーズに入った感じですね。現在はいろいろとノウハウを引き継ぎながらやっています。
ーー発売日近辺の週刊ファミ通で表紙に使用させていただいたイラストはどなたが担当されたんですか?
井上
ファミ通さんの表紙に使われたイラストや、発売日にXで投稿した絵は、プレイヤーキャラクターを担当しているスタッフが描いてくれています。


ーー「これから冒険が始まる!」というイメージがかき立てられるイラストでした。
園山
担当したスタッフからいろいろな案をもらったんですが、その中で発売前にご覧いただくことになるイラストだったので、「行くぞ!」という雰囲気やすりみ連合の関係性を感じられる構図のものにしました。
ーーぎゅうぎゅうに詰まっているマンタローがかわいかったです。
園山
自分のよさを理解してますよね(笑)。
ーーマンタローあざとい……! でもこうして、井上さんだけでなく、いろいろな方が『スプラトゥーン』のイラストを描く体制になってきたんですね。


園山
そうですね。発売前に展開したX(Twitter)カウントダウンのイラストは僕が担当しましたし。
井上
スマートフォンアプリ“NintendoToday!”で連載していた4コマも、マンガが得意なデザイナーが担当しています。

――え! マンガも任天堂のスタッフの方が描いているんですか?
井上
はい。もともとアートのイラストは属人的な部分が多かったんですが、『スプラトゥーン』をよく知っているスタッフが入ってくるようになって、徐々に今回のような体制ができるようになってきました。まだ若手IPヅラをしておきたいんですけど(笑)。
――任天堂のIPはベテランが多いので、その中ではまだ新しいIPという感覚がありますが、初代から数えると10年以上経っていますからね(笑)。
伊藤
自分も初代のころはまだ学生でした。『スプラトゥーン』がおもしろいと思って入社して、いま11年目です。
井上
こういったもともとプレイヤーだった人たちがだんだん開発に入ってくるという状況ですね。
――時の流れ……! 改めて、コンセプトからお聞きしていきます。任天堂公式サイトの“開発者に訊きました”でお話しされていましたが、『レイダース』は“究極のワンオペ”というキーワードをもとに、サーモンランをベースに作られたわけですよね?
伊藤
そうですね。サーモンランを活かしたものにしたいというところと、「『スプラトゥーン』に興味はあるけど、通信プレイにちょっと抵抗がある」という方の入り口となるようなゲームを作れないかと考えたのが出発点です。
――『3』ではブキのバランス調整アップデートが続いているだけでなく、2026年1月のVer.11.0.0でイカフローの要素が加わったりと、「まだ『3』のアップデートもするんだ!」という驚きもありました。そういった『3』のアップデートと並行して作られていたと?
井上
はい。グランドフェスティバルを制作していたころに『レイダース』のプランニングが並行して動き出しまして。そして、グランドフェスティバルが落ち着いたころに、サウンドとデザイナーが合流して……という流れです。
『スプラトゥーン』シリーズは昔からそうなんですが、つねに走り続けていますね。

――初代『スプラトゥーン』(以下、『1』)の発売から『スプラトゥーン2』(以下、『2』までが2年でしたし、『2』もDLCの“オクト・エキスパンション”を制作しつつアップデートもして、そして『3』を作ってと、ずっと動いていたというお話でしたよね。
井上
そうですね(笑)。
伊藤
ずっと走り続けています(笑)。
井上
ですので、感覚として単純なゲーム開発ではなく、開発とイベントを両方同時にやってきたようなシリーズなのかなと思っています。
――『レイダース』は、過去のシリーズDLCの“オクト・エキスパンション”や“サイド・オーダー”の要素も入っていると感じました。どういうイメージで作られていたのでしょうか?
井上
もともとDLCでは、実験的なことや挑戦的なことをしていまして。その中で、『スプラトゥーン』らしい手触りがしっかりと維持されていれば、外側のルールが変わっても「これが『スプラトゥーン』だ」と感じられるという手応えがありました。
それをさらに大きくすれば、DLCではなくひとつのタイトルとして成立するという感触があって、『レイダース』になっていったというイメージです。その過程があるので、『レイダース』は確実に“オクト・エキスパンション”や“サイド・オーダー”の系譜を受け継いだものになっていると思います。
――本編ではできないことをやろう、というチャレンジ精神があったと。
伊藤
そうですね。スピンオフだからこそできることがあるという想いと、同時に『スプラトゥーン』を初めて遊ぶ人の入り口になってほしいという想いもあります。
――だからこそ「ちょっとマルチプレイに抵抗がある方も遊べるように」というわけですね。
伊藤
はい。僕はひとりで黙々と遊ぶゲームが好きなタイプなので、同じような思いを持っている方もいるだろうなと。
――なるほど。今回、『スプラトゥーン』シリーズとしては初めてのNintendo Switch 2 での開発になったかと思いますが、開発はいかがでしたか? 個人的に初めて触れた瞬間の感想は「インクがヌルヌルしてる!」でした(笑)。
井上
ありがとうございます(笑)。純粋に性能が上がっている部分の恩恵はかなり受けていますね。グラフィックの向上はもちろんですが、処理できるシャケの数など、遊びに直結する部分もわかりやすく恩恵を受けています。

伊藤
一度に出現するシャケの数も『3』に比べてかなり多いですし、プレイヤーがガジェットでできることも多く、従来よりも並行して処理する要素が多いんです。それらを複数同時に動かして、さらにマルチプレイの場合、それが4人分という状況になるのですが、それでも耐えられるゲームになったのは、Nintendo Switch 2 のスペックのおかげだと思っています。
――先ほどお伝えしたようにインクの質感の変化が顕著に感じますが、具体的にはどのように変わったのでしょうか?
園山
開発チームでは、“インク表現研究会”という取り組みを行っています。これはグラフィックスプログラマーやデザイナーが集合して、表現を追求する集まりです。
――インク表現研究会……!
園山
はい(笑)。本作では、インクに表面張力を感じるような丸みをつけるような処理を疑似的に行っています。そうすることで、上から見たときに「なんかポコっとしてるな」と感じられるような表現を目指しています。
――Nintendo Switch 2 だからこそできた表現なんですね。サウンド面ではいかがでしたか?
田村
全体的に細かい部分の処理に余裕が出ているので、発音数がよりリッチに使えています。一方で、性能が上がってシャケの数が増えたことで、いままで音を頼りに動いていた部分が、どこで何が起こっているかわかりにくくなってしまうという状況も発生してしまって。
本作の開発では、そういった点について、正面から課題解決を探っていくことになりました。
――音の出どころの位置関係をわかりやすくしていったということでしょうか?
田村
もちろんそういった調整もしているんですが、それ以上にひとつひとつの音について、大事な音をどうやってしっかり届けるかを意識しています。
ヒット音がこれまで以上にちゃんと聞こえるようにするにはどうするべきか、状態異常になる音をどのように耳に届けるか、そういった細かい部分のサウンドデザインに注力しています。
――目立つようにしつつも、目立ちすぎないバランスを重視していたと。
田村
そうですね。まさにそのイメージですね。
ーー“冷凍”で凍ったときの音が気持ちいいですし、モグラが浮上してくるときの音で存在に気付くこともあって助けられました。
田村
ありがとうございます。そういった部分に力を入れて取り組んでいたので、伝わってうれしいです(笑)。
サーモンランの遊びをひとりでも遊べるゲームに落とし込むために
――本作では、すりみ連合がパートナーとして出てきますが、調査メカに乗って戦うことになった経緯を教えてください。
伊藤
「すりみ連合にもっと愛着を持ってもらいたい」というのを本作の使命にしていまして、あらゆる面ですりみ連合を絡めることをテーマにしていました。
ただ、どうやってゲーム内で活躍させるかは紆余曲折がありました。最終的に3人の中からひとりを選んで連れていく形になりましたが、すりみ連合は3人でひとつのグループなので、ひとりを選ぶ形にしていいものか、開発チーム内でもかなり意見が分かれました。

――では、ひとりを選ぶ形になったのはどういう理由なのですか?
伊藤
じつは、最初はすりみ連合が3人揃ってメカの中にぎゅうぎゅう詰めになっていたんですが、さすがに狭すぎるという話になって(笑)。
――3人であの調査メカの中に!?
伊藤
いまよりは少し大きかったです。でも、ギリギリを狙ったサイズにはしていましたね。
――それもちょっと見てみたかったです(笑)。
伊藤
調査メカの機能も、最初はドリルしかなかったんです。地面に刺さりながらピョンピョンと跳ねてついてくる仕様で、止まった状態で遠くからインクを撃ってくれるだけでした。ただ、それではあまり共闘している感覚がなくて。
ひとりを選ぶ形にすれば調査メカのサイズを小さくできるので、歩いてついてくるようにできて、協力感も出せるだろうと。
――ということは、最初から調査メカありきで制作されていたのですか?
伊藤
企画の出発点としては、サーモンランが金イクラを納品する遊びなので、調査メカのドリルに金イクラを納品することでドリルが動いて地面を掘り、オタカラをゲットしていく形でした。その流れで、すりみ連合を活躍させるために、ドリルに乗せることにしました。
――メカジャンプなど、従来のシリーズになかった縦の動きも増えていますよね。あれは『レイダース』のアクションに合わせて作ったのでしょうか?
伊藤
はい。対戦を考慮しなくてよかったり、変な場所に行けてしまったりしても許容できるので、自由なアクションを本作の売りにしようと、縦方向の動きは多めに取り入れました。

――空中から狙ったり、逆に空中に逃げたりと、割と重要なアクションだと感じました。
伊藤
ひとりで大量のシャケを相手にしないといけないので、空という逃げ道があったほうが遊びやすいだろうと考えて、調査メカにも"メカジャンプ”という機能をつけることにしました。
――新たな要素といえば、サブウェポンの代わりにガジェットが加わりました。どういう経緯でガジェットを採用するにいたったのでしょうか?(★)
伊藤
まず、サーモンランの遊びをひとり用にするということで、4人でやっていたことをひとりでできるようにする必要がありました。
そのためには、仲間の代わりになる何かが必要だろうと。当初は“仕掛け”と呼んでいたものがあって、実装しているガジェットで挙げるとスケットポットがイメージに近いですが、設置系のガジェットに味方の代わりをやってもらうコンセプトでした。
ただ、装置を置くだけよりプレイヤー自身がダイナミックにアクションするほうが気持ちいい、『スプラトゥーン』らしいということで、アクション要素が強いガジェットも増えていきました。

――お話を聞いていると、現在のテクニカルタンクのガジェットは当時の名残りのように見えますね。
伊藤
そうですね。テクニカルタンクのガジェットのほうがプレイヤーがあまり動かなくていいから、パワータンクのほうがテクニカルなんじゃないかって声もありますけど(笑)。
――たしかに(笑)。ガジェットのバリエーションを増やすなかで、タンクという系統分けも生まれたのでしょうか?
伊藤
ガジェットをたくさん作るうえで、ほかのゲームで言う“ジョブ”や“クラス”のようなものを作らないと、「15個あるガジェットの中から選んでください」と言われても、少し難しいものになってしまいます。選択肢を絞って選びやすくするために、プレイスタイルで分ける形にしました。
――プレイヤーによって、いろいろなガジェット、ブキの組み合わせが生まれています。突き詰める段階にいたるまでは、人それぞれの組み合わせで楽しめているように思いますが、バランスを取るのは難しくなかったですか?
伊藤
ひたすらプレイしまくっていましたね。開発の序盤からゲーム全体を遊べるように骨組みを作って、全員でそれを遊ぶという流れをハイペースでくり返していたので、そこでかなりバランスは磨かれたとは思います。
――ちなみに、「じつはこういう使いかたをするとおもしろい」といった、ガジェットの組み合わせはありますか?
伊藤
イカがまんなどを使ってダメージを軽減しつつ、ガジェットや奥義の待ち時間を短縮するといった戦いかたもできるのですが、プレイヤーの皆さんはすぐに気づかれたようで。本当にすごい勢いで遊んでくださっているという印象です。
――情報が回るスピードが早かったですよね。“冷凍カチワリ”ビルドが人気のカスタマイズのひとつだと思うんですが、想定通りといった感じですか?
伊藤
開発チームが想定していたよりも、かなり深くまで遊び込んでいただいている印象ではあります。プレイヤーの皆さんどうしで活発に情報交換された集合知というのは、すごいんだなと実感しました。
井上
メインストーリークリアー後に挑戦できる無限食堂の100階くらいまでは、幅広くいろいろなブキやガジェットの組み合わせでクリアーできるように調整しています。

伊藤
じつは、無限食堂の101階以降を用意すべきかどうかは、かなり悩んでいた部分ですね。100階が終わったところで、気持ちよく終わってもらっていいんじゃないかという意見もありました。
ただ、自分自身が遊んでいて、ついつい触りたくなる中毒性みたいなものを感じていて、ふと遊びたくなったときに戻って来られる場所が欲しいと思ったことが、101階以降を用意することにしたいちばんの理由です。
――101階以降は強くなったブキを試せる場所でもありますよね。新アクションでいうと、サーフィンのようにボードに乗っての移動があります。あれは、島をつなぐものとして用意されたのでしょうか?
伊藤
基本的には、ある場所でバトルが起きて、つぎの場所に移動してまたバトルが起こるという流れなので、そのあいだの地形を楽しんでもらうために、サーフィンのボード、火山のガス、氷のリフトといったものを用意してあります。
――ボード上でイカ状態になると丸くなるのが、かわいくて好きです。
園山
ボードのインクに潜っていた時代もあるんですが、どこにいるのかわかりづらかったので、現在の形になりました。
――サルモン王との戦いでもサーフィンが活躍していましたよね。
伊藤
じつは初期段階ではボードの左右移動がなくて、ほぼライドレールと同じだったので、新しい仕組みを考える必要があると思っていました。
同じころに終盤のボスを作る必要があって、並行して考えていたときに左右移動できるようにして、ボスでも使える遊びにまとめるために調整していきました。

――ゲームサイクルとして1回のプレイ時間が短く、とても遊びやすく作られていると思いますが、このあたりはナワバリバトルなどの1試合の時間感覚を意識されているのでしょうか?
伊藤
はい。『スプラトゥーン』シリーズは、アクションがすごく活発で、短時間で集中して遊ぶ“熱中度合い”が高いと思っています。ですので、“ゆっくり準備するアジト船”と“集中して遊ぶダンジョン”のメリハリがつくように意識しました。
――シリーズ本編のナワバリバトルもそうですが、もう1戦、もう1戦と続けて遊びたくなって、時間が溶けるんですよね……(笑)。
伊藤
プログラマーがすごくがんばってくれました。ロード時間や装備画面のレスポンスの速さは、かなりこだわって作っています。
井上
Nintendo Switch 2 の処理速度の向上はもちろんあるんですが、レスポンスについては、読み込めるところは先に読み込んだり、処理を削減するなど、すごく基本的なことをしっかりやっている感じですね。
伊藤
プログラマーの中には、じっくり成長させるゲームが好きな人もたくさんいて、そういう人たちは“レスポンスが命”という意識があるので、かなりこだわってくれました。
――今回、通信プレイがサーモンランのように自動でマッチングするのではなく、“あいことば”で部屋を作る形になったのはなぜでしょうか?
伊藤
本作はオタカラをゲットするという目的があって、ダンジョンにあるオタカラを目当てにプレイするのが基本になるので、どこでもいいから合流してマッチするというのは、発想になかったですね。

――同じ目的の人たちが事前に集まるというイメージなんですね。
井上
本作の主軸はひとりプレイです。ひとりで100パーセント楽しめることを、このゲームの軸として考えていました。ひとりプレイとマルチプレイ、どちらか一方が損をしたり、得をしたりすることがないように調整しているつもりです。
――通信プレイで遊ぶときにレベルが違っても、それぞれがちゃんと歯ごたえがあるようになっているのは、どういう仕組みなんでしょうか?
伊藤
ちょっと複雑な仕組みではあるんですけど、プレイヤーのレベルに応じて対峙するシャケの強さが変化するようにしています。レベル10の人の目線ではレベル10のシャケと戦っていて、レベル50の人の目線ではレベル50のシャケと戦っているんです。
そのシャケがどのくらいダメージを受けたかを、ダメージ数ではなく、シャケの体力の割合で同期される仕組みになっています。
――なるほど! そういう仕様だったんですね。レベルが高くなってヘルプにいったら、逆に自分がやられちゃうみたいなケースがありました(笑)。
井上
あるあるですね(笑)。
渦がたくさん出てくるのは“スピン”オフだから
――世界についてお聞きします。今回の主人公であるメカニックというのは、どういった人物なんでしょうか?
園山
メカニックはプレイヤーの皆さんの分身であることをすごく大事にしているので、強い個性を持たせたり、発言に志向を出すといったことはしていません。
ただ、ブキやガジェットを作ったり、アジト船を作り上げたりと、『スプラトゥーン』シリーズの主人公にはなかった特性はあると思います。
たとえるなら、学校のクラスでわいわい盛り上がっている中心で目立つような人たちとはちょっと違う、教室の隅っこで自分の好きなことを黙々とやっている趣味人のようなキャラクターなのかなと思っています。

――気づいたら「なんかアイツすげぇの作ってんじゃん」とまわりに思われているようなキャラクターですね。
井上
マンガやアニメでニ番手三番手にいるようなキャラクターがフィーチャーされて、主人公になるスピンオフ作品ってありますよね。そういう展開がアツいなと感じるので、そこから発想していきました。
――たしかに、従来のシリーズではイカしたイカやタコが主人公でしたね。
井上
たとえば、Nintendo Switchのホーム画面の『3』のアイコンで言うと、下側にいる3人目のキャラクターが主人公になったら……みたいなイメージです。あの人そのものではなく、メカニックはバンカラ街のどこかにいたワカモノ、という感じではありますが。

――なるほど。メカニックはもともとギマ航空という会社のパイロットでしたが、そのことについて気になっているという読者も多かったです。(★)
園山
パイロットに関しても、たぶん正規の雇用ではない感じですね。クマサン商会の雰囲気に近いというか(笑)。「手先が器用だからできるっしょ」くらいのノリで無茶振りされてやっていると思います。
――それでできるんだからメカニックは天才肌なんでしょうね。ちなみに、サーモンランではクマサンが「改造ブキは秘密にしてほしい」と言っていたかと思いますが、ウズシオ諸島でメカニックが行っているブキ改造も違法なんでしょうか?(★)
井上
そもそも、ナワバリバトルで使うにはレギュレーションがあるので改造しないという部分はありますが、ウズシオ諸島は法が及ばない場所なので、自由に作っている感じですね。
――無法地帯というわけですか。そんなウズシオ諸島で集めるオタカラである秘宝ですが、パーツが徐々に集まって組み上がっていくのがおもしろかったです。あのオタカラは完成形からバラして作っていくのか、分解された状態から組み上げていくのか、どのように作っていったんでしょうか?
園山
秘宝については、集める総数が決まっていて、ゲットすることをプレイのモチベーションにしていただきたかったので、それを叶えるためにひとつひとつ磨き込んで作っていきました。
バラバラに入手して徐々に完成していくという仕様は決まっていて、どこをバラすのかという“バラしどころ”はデザイナーと相談しながらでしたね。
完成品は1枚の皿だけど割っていたり、3つを連想できるモチーフをバラしておいて合体させるなど、いろいろな方法を考えました。
ーーオタカラの説明文もおもしろかったです。3つ組み合わさるとしっかりした説明になっていますが、ひとつやふたつのころはもはや大喜利だなと。
園山
まさにそうですね(笑)。
――ゲーム内では誰が解説文を書いているのでしょうか?(★)
園山
特定の人物がいるわけではないですが、専門家がじっくり観察して想像を膨らませながら書いているイメージです。
想像で1個目を書いたけど、2個目が見つかって合体したら「あ、ぜんぜん違ったわ」みたいな感じで、解釈が二転三転していくのをこだわって書いたつもりです。


井上
現実世界でも、発見された恐竜のイグアノドンの化石が角なのか爪なのか、時代によって解釈が変わったりするので、そういったイメージですね。
――調査メカだけでなく、全編を通してドリルなど渦を巻いたものが非常に大きく関わっている気がするんですが、何か理由があるのでしょうか?
伊藤
さきほども話に出ましたけど、企画の最初のキッカケとして、金イクラをドリルに納品して掘っていくという遊びを構想していたからですね。
あとは、スピンオフ作品なので“スピン”……ということで、これは渦でいくしかないと。
――……あぁぁぁ! 気づかなかった!(笑)
園山
じつは、渦の回転方向も統一してあります。“右ねじの法則”で、右手を握って親指を立てて、指先方向に回転させると、親指の方向に進むという。ウズシオ諸島全体の配置も、時計回りなので地下に向かって進んでいくわけです。

――言われてみればたしかに……!
井上
『スプラトゥーン』シリーズは昔からダジャレが多いですから(笑)。ウズシオなので“塩”が出て、じゃあシャケは塩でパワーアップするよねと。
――『3』もすりみ連合など、いろんなダジャレというか“3”がキーワードになっていましたが、ここでも……。ちなみに、シャケは″おいしく食べられる”という思想があるというお話でしたが、まとう塩がどんどん増えていくのは、シャケたちの中ではおいしくなれているという実感はあるんですか?
井上
あると思います。調味料が染みているので。
園山
調理法も少しずつ変わっていっています。最初はちょっと塩を振っている程度なんですけど、最終的に塩釜焼きになるという。デザインを考えているときも、調理法でアイデアを決定していました。
おかげで、開発中に出たシャケのアイデアに対するフィードバックは「これは何の調理をしてるの?」という感じで、あまりデザインの話をしてなかったですね。調理法が決まったら進んでいいよと(笑)。

――そんな判断基準が!(笑)
井上
シャケに与える状態異常も、炙りと冷凍と発酵という調理法から連想できるので、このままでいきましょうという決まりかたでした。
――シリーズ本編ではストリートカルチャーがテーマとしてあったと思いますが、『レイダース』では古代の壁画など、民族的なものを感じます。どういったモチーフで作られたのか教えてください。(★)
園山
今回の舞台はウズシオ諸島という絶海の孤島なので、そこに生息していたシャケの文化が色濃く残っています。そのため、土着のシャケが描いたであろう絵には民族っぽい感じがあると思います。
ひとつひとつがオオモノシャケを表した紋様になっていて、そのシャケの近くに描かれていたりします。

――かなり種類も多いですよね?
園山
すべてのオオモノシャケに対して3種類くらい用意していて、いろいろと組み合わせて見せるようにしています。
――土着のシャケがオオモノシャケの紋様を描いてるのは、信仰の対象といった部分もあるのでしょうか?
園山
きっと縄張り意識があるんだと思います。
――ああ、オオモノシャケどうしの縄張り意識なんですね。アートとしては従来のシリーズとガラっと変わりましたが、これまでストリートカルチャーから必要な知識もだいぶ変わったのではないでしょうか?
園山
ハイカラな街から無人島に舞台が移って人工物の割合がかなり変わったので、植生にはかなりこだわって、そのあたりの知識も増えたと思います。とくに、どういう経緯で植物が育ったのか、想像を膨らませながら作りました。
たとえば、ウズシオ諸島は地殻変動で、何百年ぶりに海から出てきているので、ヤシの木のように見える植物も、葉っぱはワカメのような感じになっています。
サンゴに関しても陸生に適応した姿になっていたりします。1回海に沈んでから、地上に上がってきたことを取っかかりにして、「やべぇところに来た」という、あまり歓迎されていない感じを出すために、すべてオリジナルで描き起こしました。
――ストリートカルチャーから、180度変わっているイメージでした。
園山
そうですね。ただ、グラフィティや人工物の知識は活かされています。
海流に乗っていろいろな漂着物がやって来るわけですが、よく見てみるとハイカラ地方やバンカラ地方とは違う言語体系っぽい文字が使われているんですよ。現実世界で言うと、ひらがなでもアルファベットでもない雰囲気を放つ文字で構成しています。

ウズシオ諸島のシャケたちは天の川を目指している
――新種のシャケが登場したり、既存のシャケでもサーモンランとは異なる特徴になっていますが、どういった基準で変化を加えたのか、またとくに難産だったシャケがいれば教えてください。
伊藤
ほとんどのシャケで苦労しましたね(笑)。もともとサーモンランは、カタパッドの両肩にふたりで協力してボムを入れると簡単に倒せるといった具合に、“協力感”を出発点として設計されています。
ですが、本作は基本的にひとりですべて楽しめるものにするために、協力は軸ではなくなりました。プレイヤーが成長して強くなっていくのが大きな軸なので、成長すると倒しやすくなる手応えを生むために、いろいろと試行錯誤しました。
カタパッドやモグラに関しては、ボムが使えなくなったので新しいコンセプトで作る必要がありましたし……。
井上
テッパンやコウモリなど装甲があるシャケでも、強くなればなるべく楽に倒せるように装甲にもダメージを与えられるようにする調整をしています。
完全に無敵の部位を作ってしまうと、倒す手順が固定化されがちなので、いろいろなガジェットの組み合わせで楽しめるように、ダメージが通るようにしました。
伊藤
あとは、サーモンランでは4人で倒していたシャケをひとりで倒す必要があるので、情報が多すぎると処理しづらいんです。ひとりでもなるべく遊びやすくするために、シャケのスピードを調整したり、ヘビの体のシャワー部分がインクを通すようにしたりと、かなり細かく調整しています。
――テッキュウが自分から跳ね始めるとは思いませんでした(笑)。
伊藤
コンテナに寄せて倒すという概念がなくなったので、どうしようかと悩んだ結果ですね(笑)。

――キワモノシャケは、ボスという立ち位置の印象ですが、どういった経緯で生まれたのでしょうか?
伊藤
単純にオオモノシャケの数を増やしていく方向性だと、もうすでに十分な種類がいるので、どんどん薄まっていきますし、単純にネタとして出し尽くしてる感じもありました。
より上位の“シンプルに強いシャケ”を増やしていくために、こういった形にしました。
――名前がどれもおいしそうなのも印象的でした。
伊藤
名前を考える会議は楽しかったですね(笑)。
園山
だいたい夕方ごろに会議があるんで、お腹が減ってくるんですよ。いちばんおいしそうな名前が言えたら決まりという感じでした(笑)。
伊藤
『レイダース』ではルビが使えるようになって、少し難しい漢字も採用しやすくなったので、漢字を使ったインパクトは意識しました。

――とくに焼き肉やラーメンといったガッツリした食べ物系の名前が多い印象です。
伊藤
やっぱり強いとなると、カロリーが高い名前になっちゃうんです(笑)。
――対して、ハバタキノヌシなど幻のシャケはかなり雰囲気が異なる名前になっています。これは、すりみ連合が見た印象として名付けていたりするのでしょうか?(★)
伊藤
特定の誰かがこう呼んだというのはないんですが、昔にたまたま目撃した人が言い伝えたものが残っているというイメージです。

井上
当初はサーモンランのノリで名前をつけていたんですけど、巨大なボスに“フグ”って表示されてもボスらしくないなと思って(笑)。シンプルすぎるといまいち締まらなかったんですよね。
――見た目とのギャップがすごそうです。見た目といえば、本作でいちばんインパクトがあるのはウデジマンだと思いますが、どういった経緯で生まれたのでしょうか? というかシャケですか……?(★)
伊藤
シャケです(笑)。何が起きるかわからない島で冒険をするゲームなので、予想外の敵が出てきてほしいと思って作りました。見た目のインパクトは強いですが、よく見るとシャケなんですよ。
園山
腕が4本あるように見えますが、よく見るとシャケの体の構造としては正しくて、胸びれと腹びれがすごく発達しているんです。

ーーあれ、ヒレなんですか……!
伊藤
「大きな敵の部位を個別に壊していく」というのをやりたくて、4つの腕にそれぞれ違うブキを持たせることにしました。
――それぞれの腕が異なる攻撃方法を持っていて、油断ならない戦いかたをしてくるのも印象的でした。
伊藤
「そいつが出るだけで場が荒れる」という状況を作りたかったんです。プレイヤーがどの場所にいようと影響するように、腕によって短距離、中距離、長距離の攻撃ができるようにブキを持たせてあります。
――シャケ界では上位の存在なんでしょうか?
伊藤
そうでしょうね。デカイクラも5個持っていますし。
――なるほど(笑)。急にジャンプして登場してくるのは好戦的なシャケだからですか?
伊藤
そうだと思います。戦いを求めているんでしょうね。
井上
ゲームセンターで向かい合わせの対戦台にチャレンジャーが来て、「腕自慢が現れた!」みたいな感じで、急に強いヤツが来るイメージでしょうか。
――乱入のイメージですね。初登場時にかなりビックリしたのを覚えています。少し細かくなりますが、プリム巣窟に強いコジャケがいますが、あのコジャケは“鮭児”(※)のような特別な個体なんでしょうか?(★)
※鮭児(けいじ)……産卵期を迎える前の未成熟なシロザケ。北海道近海で秋にまれに漁獲され、脂ののりがいいことで知られる。漁獲量は一般的なサケの10000匹に1匹ほどとも言われ、“幻の鮭”として珍重される高級魚。園山
鮭児ではなく、コジャケのまま鍛えすぎてレベル100になっちゃったみたいな感じですね。姿を変えなくても鍛錬すればこんなに強くなる、みたいなイメージです。

――通常はコジャケからシャケになり、ドスコイになるという流れなんでしょうか?
園山
そういうケースもあります。コジャケ時代に肺活量を買われてハシラになったり、そこで辞めたくなったから今度はヌリコプターになってみたり、進路はいろいろあるようです。
――そんな就職して転職するみたいなスタイルだったんですね(笑)。サルモン王についても聞かせてください。シャケ調査レポートに「天を目指す」とありますが、なぜ天を目指していたのですか?(★)
園山
ウズシオ諸島のシャケたちは、ウズシオのおいしさに憑りつかれて、遡上する“帰るべき川”を忘れてしまっています。
そして、長い年月をウズシオ諸島で過ごしているうちに、夜空に輝く天の川を母なる川だと見立て始めました。
最終目的として、そこに遡上したいという願いを持っており、巨大な竜巻のような大嵐を起こせるサルモン王に導いてもらおうと、信仰の対象にしているわけです。
――なるほど! そういった力を持ったシャケが代々受け継がれて7代目であると。
園山
そうですね。初代のサルモン王と呼ばれたシャケは、ウズシオに漬けたイクラから特別なシャケが生み出せることを発見したシャケです。
2代目以降はその技術で生み出された特別なシャケで、たまにバンカラ街まで被害をもたらしたという記述もあるんですけど、それらの歴代サルモン王と比べても、7代目は卵の状態でめちゃくちゃ巨大なところまで育ってしまった異常個体です。

――本作にはフナモリア祈祷堂やイシガマド祭礼堂、レイトコル遥拝堂、無限食堂など、ダンジョン名に宗教的なモチーフが散りばめられているものもありますが、それらはサルモン王への信仰ということでしょうか?
園山
シャケはサルモン王を自分を天へと導いてくれるありがたい存在として崇めています。じつはウズシオ諸島は、サルモン王が眠る中心に向かって信仰の巡礼地のような配置になっています。
仕込みから始まり、焼き場で焼かれて、冷凍で保存されて、最後に食堂に向かっていくわけです。コース料理の最初から最後までを再現していて、おいしく食べられたいというシャケの本能に沿った巡礼になっています。

伊藤
玉座の間の扉も、ちゃんと巡礼していないと扉が開かない仕組みになっています。おいしく食べられる準備ができると扉が開くという(笑)。
――すべてはおいしくなるために……! シャケ界恐ろしい。7代目という数字にはこだわりがあるんでしょうか?
園山
もともとサーモンランは「7」という数字を大事にしています。空に出てくる輪も7つですしね。
井上
じつはこれもダジャレになっていて、七輪だから7個の輪なんです。鮭とばは七輪で焼くとおいしいですから。
――これもダジャレだったとは!
井上
調理器具をかっこよく登場させたくて、五徳(コンロなどにある鍋を支えるための金具)もそういったところから引っ張ってきています。
園山
本作の3つのタンクすべてに五徳がついているのも、「シャケを調理してやるぞ」という意気込みのあらわれですね。

――聞けば聞くほど設定が練られていて驚きです。アドベンチャーファイルの中に、レトロな衣装を着ているエンジニアらしき人物の姿がありましたが、時系列はどのような感じなんでしょうか? イカとタコの大ナワバリバトルがあった時代のようにも見えますが。(★)
園山
“アドベンチャーファイル21”に写っているエンジニアらしき人物が生きた時代は、大ナワバリバトルの少し前になります。海面上昇によってイカとタコの仲が険悪になってくる少し前ですね。
――エンジニアはタコだからこそ、ハイクオリティーなメカが作れるということなんでしょうか?(★)
園山
メモを残したエンジニアは、高度な技術を身につけていて、当時のバンカラ街でいちばんのスゴウデでした。趣味でいろいろなものを作るだけでなく、その技術を故郷のバンカラ街のために活かせないかをつねに考えているような人物です。
ただ、実家が厳格だったため、反りが合わなくて若いころはヤンチャしていたようです。
――テンタクルズのイイダもタコ界のエリートでしたが、エンジニアも技術が優れた人だったわけですね。
園山
そうですね。趣味が高じて。
田村
ダンジョンに関しても、当時のエンジニアが残したであろう“つまみぐいダンジョン”で流れる音楽は、じつはタコのニュアンスが含まれています。
――ヒーローモードなどで流れるいつもの曲のフレーズが入っていますよね。
田村
はい、じつはステージクリアーの曲におなじみのフレーズを潜ませています。
シャケとすりみ連合、それぞれの音楽でメリハリをつける
――BGMでは、従来のシリーズと比べて「やばいところに来た」感じを演出するBGMが多いですが、作曲の際に意識されたことを教えてください。(★)
田村
サーモンランで流れる曲は、シャケが自分たちを鼓舞する曲になっています。一方で、イカ、タコたちや画面越しの我々がその曲を聴くと、「なんかちょっと気持ち悪いな」と感じる拍子や音色を使っていました。
そういったシャケ音楽の大事な部分は残しつつも、“ω-3”以外のシャケのバンドがいてもいいだろうと考えていました。
本作では、3階層になっている遺跡ダンジョンの曲は“DHA(デー・ハー・アー)”というバンドが演奏しています。彼らは独自の方向性を狙ってはいますが、意気を高揚させるリズムは“ω-3”と共通しています。


――本編シリーズでは、『1』の音楽に対してのカウンターミュージックとして『2』のバンドが登場しました。そういったものがシャケ界の音楽にもあるのでしょうか?(★)
田村
ウズシオ諸島は地理的に距離があるため、バンカラ地方のシャケとは直接的な影響はありません。ただ、遠い昔に別れた親戚のような関係なので、音楽性には共通するものがあると思います。
――シャケたちの心に響くリズムは共通しているんですね。
田村
また、砂浜や火山のように先へと進んでいく地上のステージでは、バンドが存在しているわけではなく、現地のシャケたちが自由にセッションしているのを、フィールドレコーディングしているイメージです。
「やばいところに迷い込んだ」というキーワードで開発していましたので、「楽しくやっているけどちょっと不安」といったニュアンスを意識しています。
もうひとつ、巣窟ダンジョンでは“purines(プリンズ)”というバンドが演奏しています。このバンドは、若いシャケたちが集まり、DHAに対するカウンターとして、さらに尖った音楽性を出しているようです。

――シャケ界でも異彩を放つタイプなんでしょうか。
田村
そうです。実際の収録でも独特な雰囲気を出したくて、いろいろと試行錯誤しました。扱っている楽器はチェロなんですが、通常は1本の弓で弾くところを2本の弓で表と裏から挟み込むようにして同時に演奏する特殊奏法がありまして。その特殊奏法の奏者さんと密に連携を取りながら収録していきました。
ほかにも、バッハ弓という弦に触れる部分が面状になっている弓があるんですけど、これで弾くことで音に圧を出す奏法で独自性を生み出したりもしています。
――初めて聞く奏法ばかりです(笑)。ほかの曲ですが、ガムラン(※)も使われていますよね? 印象的な音楽の雰囲気が出ていました。
※インドネシアなどに伝わる伝統的な青銅製の打楽器田村
はい。ただ、あまり既存の楽器だと思われないようにしたいというのはあります。あくまでも漂流物で出せそうな音で構成していて、丸い鍋はスティールパンみたいな音が出せそうだよね、といったニュアンスです。
――なるほど。ウズシオ諸島に流れ着いた漂流物で作られた楽器であると。
田村
そうですね。ところで、ここまではシャケ界の音楽という視点でお話しましたが、ゲームとの付き合いかたという視点においては、何度もくり返しダンジョンに挑戦するというゲームサイクルを意識して作曲しています。
拠点側とダンジョン側で同じような感触の曲だと、聴き疲れたり飽きてしまうと考えて、アジト船とダンジョンでしっかりとメリハリをつけています。
アジト船はすりみ連合とメカニックの楽しそうな感じや、「オタカラを取りにいくぞ!」という活気が出る音楽にしています。対して、ダンジョンの音楽はしっかりとヤバさを出したつもりです。
音楽に明暗を出すことで、飽きずに長く楽しんでもらえるゲームサイクルになるように意識しています。

――たしかに、アジト船と各島や遺跡に挑むときでだいぶ曲のイメージが違いましたね。
田村
もうひとつ、サルモン王との戦いで、すりみ連合の新曲が流れるんですが、割と早い段階でそこですりみ連合を前面に出したいという話になっていました。
ですので、そこにしっかりと山場を持っていくために、それまでのゲーム体験全般がシャケの曲で大半を占めるようにしておいて、最後にすりみ連合の新曲を出すことで、大局としてのメリハリもつけています。
――これまでの『スプラトゥーン』シリーズだと、ヒーローモードのイベントシーンなどは、井上さんが絵コンテをマンガっぽく描かれることが多かったと思いますが(詳しくは、過去のインタビュー記事にて)、本作でも同様ですか?
井上
マンガというより、動画を作っていましたね。ダイジェストでわかる4分くらいの動画を作っていました。
――今回もそういうものを作られているんですね! あとは各ボスを倒した後などで、すりみ連合が歌うシーンが出てきますが、これはどういうモチーフで作曲されたのでしょうか?

田村
フウカは神秘的で、ウツホは燃え盛る火の印象もあって少しおどろおどろしい感じ。マンタローはちょっと抜けたような、コミカルな感じ、というキャラクターごとのイメージを参考に、作曲者に構想を練ってもらいました。
――キャラクターのイメージから発想を膨らませてそれぞれ曲を作っていったと。ちなみに、無限食堂100階クリアー後のマーチっぽい曲もすりみ連合の曲ですか?
田村
あの裏エンディング曲は、オタカラハントを終えたすりみ連合が、子どものころに見ていたアニメの主題歌を歌って気分よくバンカラ街へ凱旋しているイメージで作りました。すりみ連合にしては珍しいマーチ曲なんですが、途中から三線やプーンギなどの民族楽器が入ってきて、彼らなりに自由にアレンジして楽しんでいるようです。
ミニゲームのドット絵は“背景含め”すべて野上さんが担当
――今回、アジト船でミニゲームが遊べますが、ああいったドットのミニゲームは初代『スプラトゥーン』以来かと思います。ミニゲームを実装した意図についてお聞かせください。
伊藤
『スプラトゥーン』シリーズでは、『1』のイカジャンプから始まり、『2』のイカラジオ、『3』のナワバトラーと、ミニゲームを盛り込んできました。
今回は「何かミニゲームもやりたいよね」という話はありつつも、最初は想定していなかったんですが、熱意のある若手スタッフの3人が試作を作って提案してくれたので、実装することになりました。
クレーンで木箱をつかむミニゲームも、スタッフの熱意で追加された要素になります。
井上
メインの要素が激しい冒険なので、ミニゲーム的な息抜きが欲しいと感じてはいました。でもあくまで息抜きですので、レアな素材が手に入ったり、冒険の役に立つものにはならないように作ってあります。

――ミニゲームのドット絵は、野上さんが描かれているんですよね?
井上
そうです。まだ絵が入ってない状態の試作ミニゲームができたときに、チームのみんなが忙しくて「誰がやる?」という状態でした。
そのときに、「そういえば野上さんがドット絵を描きたいって言ってたなぁ」と思い出して、本人に「前に言いましたよね?」とお願いしました(笑)。
園山
野上が担当するという発表を聞いたときは、ちょっとザワつきましたよ(笑)。
伊藤
若手のスタッフに交じって作業していたんですが、若手の子が堂々と野上に大量の発注をしていましたね(笑)。
――ゼネラルプロデューサー相手に(笑)。
伊藤
「このシャケのドットも欲しい」、「回転している差分も欲しい」みたいな感じで注文していたようなんですが、野上は嬉々としてやってくれていたと聞いています。

――(笑)。野上さんはどのくらいの分量を担当されたんですか?
伊藤
100パーセントです。背景を含め何から何まですべてです。
――えええ!
井上
仕様書も全部、ファミコン時代の書きかたで「これをこう並べて……」といった感じで作ってくれて。
園山
エンディングのクレジットも、野上さんをアーティストのところに入れようかみたいな話もありました(笑)。
井上
じつは、すべてのミニゲームでSランクを取ると、ミニゲーム内でクレジット表示が出るんですが、そこに名前が登場します。
――そうなんですか!? でも、すべてSランクはなかなか厳しい……!
伊藤
おそらく見た人はほとんどいないと思いますね。
井上
“HISASHI”と出てきます(笑)。
――ああ、ファミコン時代のフルネームにはしない感じですね(笑)。皆さんはすべてSランクでクリアーされているんですか?
伊藤
“HOPPING”でSが取れなくて……(笑)。でも、担当者はできています。開発者で何人かはオールSも取っていますね。
井上
こういったノリもファミコン感がありますよね。「オレは行けたけど?」みたいな。

ちなみに、ミニゲーム中に-ボタンを押しながら“X→X→Y→B→A”とボタンを押すと、よりレトロ感の強い白黒モードで遊べるように。画面にブラウン管のようなエフェクトが入るほか、サウンドもノイズ感やひずみのあるレトロな雰囲気。
――できる人がいるなら、やるしかないか……となりますからね。
伊藤
レベル上げとかはないので、努力するしかないですからね。
――読者の声で多かったDLCやアップデートについて、何かお聞きできることはありますか?(★)
井上
『レイダース』は、バランス調整やコンテンツ追加を行いながら遊びかたを変化させていく本編シリーズとは違って、お届けした内容そのもので完結した体験を楽しんでいただくことを目的に開発しています。
ですので、DLCやゲームバランスに関わるアップデートは考えていません。ただ、致命的な不具合が見つかった場合には、必要に応じて対応しようと考えてはいます。
――それでは、最後にいま遊んでる読者にメッセージをいただければと思います!
田村
ゲームを楽しく、手応えよくという部分に注力しました。サウンド面で推進力を強く生むことを意識して作っているので、存分にハマって、長く遊んでいただければ幸いです。
園山
今回はパートナーであるすりみ連合を前面に押し出しています。3人の表情や、かっこいいところ、抜けてるところをしっかりと入れたつもりなので、ぜひいっしょに冒険していただければと思います。
アドベンチャーファイルなどの読み物もがんばって数を揃えています。『スプラトゥーン』の世界観が好きな方にも堪能してもらえると思うので、ぜひ楽しんでください。

伊藤
本作では、プレイヤーがどんどん成長して、シャケをどんどんシバいていくというサイクルをおもしろくしたいと考えていました。
かなり入念にテストプレイを重ねて、丁寧に作ったつもりなんですが、プレイヤーの皆さんの反応を見ていると、丁寧に作った部分をわかってくださっていて、とてもうれしく感じています。ありがとうございます!
井上
本作は、スプラトゥーンならではの手触りを残しつつも、新しい遊びの形に挑戦できたと思っています。
初めてのスピンオフ作品ですが、多くの方に楽しんでいただけたことは、本当に励みになっています。
あと、『レイダース』の発表が1年くらい前でしたが、そこから『3』をプレイされる方が増えていまして。
――そうなんですか?
井上
はい。2025年よりも2026年のほうがプレイヤー数が増えていますので、双方にいい影響が出ているのかなと思います。これからもシリーズとして大切にしている部分を守りながら、新しい挑戦も続けていきたいと考えています。
本作からシリーズに初めて触れる方にも楽しんでいただける内容になってますので、ぜひ遊んでいただけたらと思います。
――ありがとうございました!
※以下、質問を投稿してくださった読者の皆さん(敬称略)
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