フィギュアスケーター・宇野昌磨さんがプロeスポーツチーム“VARREL”に加入。その衝撃は瞬く間に界隈を席巻した。
以前、彼は「将来の夢はプロゲームチームに加入する事」と、冗談とも本気ともつかない発言をしており、このたび念願の夢がかなった形となる。おめでとうございます。
VARREL運営会社CELLORBの鈴木会長はかつて『リーグ・オブ・レジェンド』日本プロリーグ“LJL”の創立に尽力した人物。日本のeスポーツを支えた功労者たちとともに、フィギュアスケートでオリンピック2大会連続メダリスト&世界選手権2連覇に輝いた男は、新たな一歩を踏み出す。
2026年5月1日、VARRELは格闘ゲームの祭典“EVO Japan 2026”で記者会見を実施。同じくチームに加入するときど選手と連れ立って、宇野昌磨さんはファンの前に姿を現した。
会見で発表されたのは、大きなくくりで言えばVARRELのリブランディング(戦略の刷新)だ。ふたりの世界王者を迎え、チームは世界に打って出る。


【左】右側がVARRELの新ロゴ。/【右】VARREL運営会社CELLORBの代表取締役CEO 佐久間衡氏。
この記事は宇野昌磨さんの話題を中心に書くつもりだが、ときど選手の加入も非常に大きな意味を持つ。
彼は“東大卒プロゲーマー”として知られ(専攻はマテリアル工学)、2017年7月にラスベガスで開催されたEVO2017『ストリートファイターV』部門で世界一に。2025年は『ストリートファイター6』公式大会“SFL:WC2025”でREJECTの一員として優勝に貢献するなど、実績は多彩だ。
VARRELのマゴ選手とは旧知の仲。このふたりが肩を並べて戦うのだから、往年のファンの胸はアツくなるばかりである(フィギュアスケートファンの皆さんは、町田樹さんが継承プロジェクトで田中刑事さんが組んだときのことを思い出してください)。
ちなみに、VARRELとTOPANGAの経営統合によって2024年4月にCELLORBが誕生したときから、ときど選手は同社の取締役に名を連ねている。REJECTからの移籍により、選手としてもVARRELに所属することになった。
VARREL宇野昌磨事変
記者会見はYouTubeでも生配信され、冒頭のイメージ動画でときど選手とマゴ選手がガシッと握手。コメント欄がわいた。およそ20秒後、今度は大混乱に陥ることとなる。映像の中で宇野昌磨さんがふわりと舞ったから。これが世に言う“VARREL宇野昌磨事変”である。

マゴ選手(左)とときど選手(右)。これだけでグッとくる。

eスポーツチーム新メンバー発表の動きではない。

どーん!
会見は一般来場者も観覧できる場所で行われたのだが、宇野昌磨さんが現地の壇上に上がったとき、周囲が一瞬だけ疑問に包まれたように思う。理解が追いつかなかったのだろう。人は突然の謎にぶつかると脳内の回路がつながるまで言葉を失う。
だって、ゲームのイベントに参加したらオリンピックのメダリストがほんの数メートル先にいるなんて、意味がわからないもんな。

ふたりの世界王者がこの距離で。


【左】世界に挑戦するチームということでグローバルな企業がパートナーに。/【右】「……and more!」かー(伏線)。
新たなスポンサーとしてAMEX(アメリカン・エキスプレス)とASUSのROG(Republic of Gamers)を迎えるなど、新体制の解説があった後はフリップトークへ。
最初のお題“VARRELへの加入を決めた理由”に対して、宇野昌磨さんの回答は「熱」。自分が世界で戦ってこれたのはスケートに対する熱があるからであり、スケートで結果を出したからこそ日々の発言を笑ってもらえる。
ゲームは趣味の範疇を越えて本気でやっていて、きっとスケート熱にも近いゲーム愛みたいなものがあるのだと思う。VARREL側と対話を続ける中で同等の熱を感じ取り、加入を決めたそうだ。



また、「著名人としての宇野昌磨という名前は有限。いつまでも無限に語り継がれるものではない」と真剣な目をする。手を打たないとなくなってしまうから、いまの地位や名声で満足せずに活動の場を広げていく。
そこで選んだのが大好きなゲームだった。スケートでもゲームでも、上位に立つには俯瞰視点が大切。宇野昌磨さんはとても冷静に自分を見ている。

お互いの印象について聞かれ、宇野昌磨→ときどは“漢”、ときど→宇野昌磨は“しっかりもの”。ときど選手によると宇野昌磨さんは「エンターテイナーとしての側面を出しているけど、話してみるとしっかりもの」だそうです。ほほー。
宇野昌磨さんのエンターテイナーとしての側面が見られたのは、“VARREL所属選手として挑戦したいこと”。ときど選手は「ファンの方々と一緒になにかやる」。プロの選手が活動できるのはファンのおかげ。ファンの熱量は巡り巡って運営会社の利益につながり、そこから選手の活動費などが捻出されるからだ。強い人ほどファンへの感謝を忘れない印象がある。さすが。

宇野昌磨さんの回答は、

スケート。
「みんな知らないと思うんですけど、けっこううまくて」とのこと。この人は真顔でこういうことを言うタイプである。ときどさんの意見と合わせて、VARRELはスケート場でファン感謝イベントを開いたらいいと思う。
あるいはアイスショー“VARREL on Ice”。それは観たい。アリーナ席2万円くらいなら払う。
最後の質問は“VARREL所属選手として挑む、今年の目標”。これは僕が説明するより記者会見のアーカイブを見てほしいので、ときど選手のこの写真だけ。

ですよね。
また、これはすでに広まっている発言なのだけど、せっかくなのでこの記事でも書いておこう。記者から「今後の肩書きは?」という質問が上がった。プロチームに所属したので、これからはプロゲーマーかな? と考える人はたしかに多いと思う。宇野昌磨さんの回答は胸を突いた。
「プロゲーマーは最前線で戦う人。僕は(ゲームの)最前線で戦うわけではないので、できればプロゲーマーとは呼ばないでほしいです。僕にとって“プロゲーマー”はそれだけ価値のある名前なので」

宇野昌磨さんは昔からゲーム好きを公言している。僕がそれを知ったのは2016年頃で、そのときはたしか対戦カードゲーム『ハースストーン』にお熱。当時から、フィギュアスケート関連のインタビューで「ゲームでも世界一を目指しますか?」などの質問をされることもあったようだ。
自分の過去のポストをあさったら、こんなことを書いていた。
おそらくアイスブレイク的な話題なので「そうですね」と軽く流してもいいと思う。それでも「そんなに甘い世界じゃない」としっかり伝える姿をテレビで見て、この人は競技としてのゲームに理解があるのだなと強く記憶に残った。

待ち時間に談笑するふたり。
本気でゲームに取り組む人へのリスペクトはずっと変わらず、2020年頃の興味は『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』が中心。個人でオンライン対戦会に参加し、大会や強豪プレイヤーの配信もチェックする。その中で「“keptの定時退社”に出たい」と申し出たことが現在のムーブメントのスタート地点。最初は宇野昌磨さん側からのアプローチだったのだ。
keptさんはVARREL所属の『スマブラ』プレイヤーで(当時は個人で活動)、keptの定時退社はトーク+対戦をメインとした番組。ここで『スマブラ』勢は気付いた。気付いてしまった。
このフィギュアスケーター、ちょっとおかしいかもしれない。
視聴者の想像を5段階くらい越える知識量。ゲームの実力は世界でも上位に食い込むkeptさんが舌をまくほど。ころころと笑いながらトークに花を咲かせる姿に、多くのゲーマーが「おれたちの仲間じゃん」と心の壁を取っ払うことになる。

シニアに移行してすぐに4回転フリップを世界で初めて成功させたときのように、想像を越えてきたフィギュアスケーター。
※宇野昌磨さんがフィギュアスケートの競技選手として活躍していたころの記事です。 年上のお兄さんのようなkeptさんの語り口は宇野昌磨ファンにも受け入れられ、ここから宇野昌磨×ゲームのクロスオーバーが加速していく。keptの定時退社がきっかけでゲームに興味がわいたフィギュアスケートファンも少なくないようだ。
宇野昌磨さんと『スマブラ』勢との交流もさかんになり、keptさん、Shogunさん、ぱせりまんさん、オムナオトさんらによる番組“and more”の準レギュラー的な立ち位置に(前半の写真の伏線回収)。大カプコン展にゲストとして招待されるなど、ゲーム関連の場に姿を見せることも増えた。そこで、ふつふつとわいてくる疑問がひとつ。
具体的に何をやっていきたいのだろう。僕はそれを知りたい。
単独インタビュー「ただ楽しいからやり続けるだけじゃなくて、もう1歩先」
記者会見後、数分だけインタビューの機会をご用意いただいた。さすがに細かいところまで深掘りする余裕はなかったが、それでも宇野昌磨さんの人柄が見えてきたように思う。

以下、インタビュー中は“宇野”と表記。
――単刀直入にお聞きします。ゲームの世界でどんなことをやっていこうと考えていますか?
宇野
僕はゲームをやるうえでも、前までは好きで、やりたいことがあるだけでよかったんですけど、先ほども(記者発表で)言ったように、自分という存在は有限だと思うんです。時間も有限なので、しっかり有効活用して、自分にとっても楽しい+コンテンツとしても成立するものをどんどん作っていきたい。ただ楽しいからやり続けるだけじゃなくて、もう1歩先。何かを生み出すためにやっていければと思っています。
――勝手な印象なのですが、これまでの活動を拝見していると、個人で実現できているのでは? とも思えます。
宇野
そんなことないですよ。個人の活動に見えて、数ヵ月前からVARRELさんのお世話になってるんです。これまで僕はスケートという舞台でしかやってきませんでした。“宇野昌磨”というものをうまく使えば、なんだろう、起爆剤ではないですけど、注目される瞬間は作れます。ですけど、その状態を続けるのが難しい。皆さんが思っているより、宇野昌磨というものに、そこまで社会を動かすほどの力はないんです。
宇野
それはいつも僕が感じていることです。謙遜とかではなくて、僕は全然大きい存在ではない。何をやっても成功するようなレベルには達していなくて、ちゃんと練って練って練って、そこに気持ちを込めて、やっと成立するくらいの存在です。それでも冷静に考えて、「可能性は秘めているけど」という思いはあります。それをうまく活用しつつ、自分にとってもVARRELというチームにとってもゲーム界にとっても、プラスであるようにやっていきたい。

ときど選手と言えば、EVO2017で優勝したときの瞬獄殺ポーズが有名なのでリクエストしてみた。ふたりでいっしょに。
宇野
VARRELさんと僕に共通点として、「ここからどんどん大きくなるぞ」という強い思いがあるんです。今後もお互いの思いを詰めて、みんながおもしろいと思うコンテンツを広げて、自分とチームの価値を高めていければと思っています。
――記者会見の中で「自分がプロチームに所属する人生は考えていなかった」と仰っていましたよね。どこかで、「チームに所属しよう」と思ったタイミングがあったのでしょうか。
宇野
うーん、何て言えばいいんだろう……。お話をいただいたんです。
――VARRELさん側から?
宇野
いくつかのチームから、ですね。これは僕にとってはすごくありがたいお話で。それで、悩んでいるときに山田涼介さんの発表(※)があったんです。
※山田涼介さんの発表:2025年8月20日、Crazy Raccoonに所属すると発表があった。宇野
僕もちょうどお話を進めてる中だったんですけど、何だろう、最初は……チームに所属するということは、やっぱり“プロゲーマー”のイメージを持たれますよね。
――そうですね。ゲーミングチームの知識がある人は“プロの競技選手じゃない形で所属する人もいる”ことを知っていますが、世間的には「宇野昌磨はゲームでも世界一を目指すのか」みたいなイメージになると思います。
宇野
ですよね。でも、自分は100%をゲームに費やせる立場ではない。もちろん力を入れたいんですけど、現実的には難しい。そういう事情を理解していただいたうえで、お互いのプラスになりたいっていう思いをすごく感じられました。VARRELさんもそうですけど、お声がけいただいた皆さんの気持ちは全部ありがたくて。引退してすぐは、自分でも驚くぐらいやることがなかったんですよ。
――うそ!? 全然そうとは思えませんでしたけど。
宇野
いや、じつはけっこう……。ちゃんと“需要”がある状態に自分で持っていけたのはがんばったなと思います。そこに価値があると判断してくださったゲーム界隈の人たちに感謝しています。


――勝手ながら、仮にチームに入るんだったらVARRELさんかなと想像していました。keptさんの存在は大きいのではと。
宇野
まあまあまあ。間違いなく、keptさん、Shogunさん、ぱせりまんさんたちがいなかったら、この縁自体がなかったと思います。

宇野
ほんとの裏話をすると、keptさんに最後の一押しをされたんです。僕のいまの立ち位置は有限だし、失敗があまり許されない。1回舵を切ったらそっちで全力を尽くしたいし、何かあったときに別の選択をしておけばよかったなんて後悔もしたくない。そういうときにkeptさんからひと言いただいたんですね。
宇野
あの人、そこまでアツいタイプじゃないと思うんですよ。僕のことも楽しくやれるゲーム友だちぐらいに考えてるんじゃないかな。でも、すごいアツいメッセージをいただいて。Shogunさんからもですね。共通しているのは「VARRELに入ってくれ」とかそういうことではなくて、僕のことを真剣に考えてくれたうえで「自分の選択をしてほしい」って。
――たしかに、アツい。
宇野
違うチームを選んでも協力はするけど、ただ、いっしょに(同じチームで)仕事をやるとなったら最大限の力を発揮して、いいものを作りたいという思いを感じました。同じ熱量で大きくなりたいと思ってる人たちの中に飛び込むのが、僕の正しい選択なんだと思います。

ゲームを軸に何かを生み出したい。だけど個人では限界がある。だから同じような熱を持つ人たちとやっていきたい。とてもシンプルだ。きっとどこでも十全の力を発揮するのだろうけど、昔のeスポーツの苦難を知る人が関わるVARRELに収まったのは、ちょっと安心。
2020年のkeptの定時退社出演時、多くの『スマブラ』プレイヤーは宇野昌磨さんを仲間として受け入れた。少なくとも僕にはそう感じられたので、視聴リポート記事のタイトルに“「おれたちの宇野昌磨」になった”と入れた次第である。
最前線で戦うプロゲーマーをリスペクトする姿勢とゲームへの向き合い方は当時より広まっていて、もちろん実力もある。最近の活動によって、もう一段階深く「おれたちの宇野昌磨」になったように思う。

オリンピックでメダルを獲るような人がゲーマー界隈になじんでいるのはシンプルにうれしい。
今回の件をきっかけに宇野昌磨という人間やスケートに興味を持ったゲーマーは、彼が座長を務めるアイスショー“Ice Brave”に足を運んでみるといい。楽しいよ。
フィギュアスケートをベースに、スケートリンクで実施される演劇のようなもの。それをアイスショーという。何らかのテーマや物語に沿う形でスケーターたちは氷上を華麗に舞う。集団による群舞も魅力で、2023年には宇野昌磨さんがルフィ役を演じる『ワンピース・オン・アイス』が話題になった。
テレビなどでは高難度ジャンプの成功/失敗が取りざたされるが、フィギュアスケートは跳ぶだけの競技ではなく、美しいスケーティングも非常に大切。アイスショーではその美しさと力強さがより際立ち、観客をぐいぐいと引き込んでいく。
観覧に難しい知識は不要。わーすごい、わーきれいで大丈夫。僕はそれなりに長くフィギュアスケートファンを続けているが、いつもそれくらいの気持ちでショーを楽しんでいる。
ただし、服装には注意が必要だ。スケートリンクには年間を通して氷を張る“常設型”と一定期間に絞った“特設型”があり、前者は全体的に寒い。夏でも薄手のダウンジャケットくらいは用意した方がいい。
ところで、チーム用の宣材写真を見たとき、とてもいいなと思った。


【左】ときど選手は腕組み。ゲーミング腕組み。/【右】宇野昌磨さんの右腕はフリーハンド。
プロゲーマーの写真は腕組みポーズが多い。きちんとポーズを取るのは意外と難しく、慣れないと腕の置き場所に困ってしまう。腕組みをすると適度に力が入って姿勢が引き締まるから、ゲーミング腕組みが多いのだと僕は考えている。ときどさんの場合はトレーニングをしているから筋肉がグッと盛り上がって絵になる。
一方、宇野昌磨さんの宣材写真はフリーハンド。長いフィジカルスポーツの経験があるから体幹がしっかりしていて、腕が変にぶらぶらしない。こういう所作にもアスリートの美しさは表れる。
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