2025年にリリースされた中でもっともすぐれたタイトルに贈られる“Game of the Year(ゲーム・オブ・ザ・イヤー)”に選ばれたのは『Clair Obscur: Expedition 33』(クレール・オブスキュール:エクスペディション33)。
“The Game Awards 2025”で本作は、このGame of the Yearを含む以下9部門を受賞。アワードが始まって以来最多の受賞という、前人未踏の快挙を成し遂げています。
- GAME OF THE YEAR(ゲーム・オブ・ザ・イヤー)
- BEST GAME DIRECTION(ベストゲームディレクション)
- BEST NARRATIVE(ベストナラティブ)
- BEST ART DIRECTION(ベストアートディレクション)
- BEST SCORE AND MUSIC(ベストスコア・アンド・ミュージック)
- BEST PERFORMANCE(ベストパフォーマンス)
- BEST INDEPENDENT GAME(ベストインディペンデントゲーム)
- BEST DEBUT INDIE GAME(ベストデビューインディーゲーム)
- BEST RPG(ベストRPG)
もちろん、本作をすでにプレイしていて、この評価に深く納得している人は日本にも多くいることでしょうし、筆者自身も間違いなく2025年屈指の名作だと思いました。一方で、エンディングまで見届けたうえで「ちょっと海外の評価は過剰すぎるのでは?」と感じている人も少なくないかもしれません。
本稿では「なぜ『Clair Obscur: Expedition 33』はこれほどまでに高く評価されているのか?」を考察していこうと思います。今回ポイントとしてまとめたのは、大きく分けて3つの要素。本作をプレイしている人も、今回の受賞で気になっている人も、ネタバレなしでお送りしますので、ご一読いただけたらうれしいです。
『Clair Obscur: Expedition 33』はこんなゲーム
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『Clair Obscur: Expedition 33』は、元UBIソフトの開発者などが在籍、フランスを拠点とするスタジオ・Sandfall Interactiveが開発したRPGです。作品世界のアートは19世紀末から始まるフランスのベル・エポック期をモチーフにしており、退廃的ながら華やかな唯一無二の表現が光ります。
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装備品の“ピクトス”と、これにより習得できる“ティント”の特性を組み合わせることによる自由度のあるビルド要素もあり、自分だけの戦いかたを模索する楽しさも味わえます。
高評価の理由その1:JRPGからの影響を独自に昇華
クリエイティブディレクターのGuillaume Broche氏によるTGA2025の受賞スピーチでも、『ファイナルファンタジー』シリーズなどに携わった坂口博信氏に感謝の言葉を述べたことが話題です。また、坂口氏が手掛けた『ロストオデッセイ』がGuillaume氏にとって「最後に泣いたゲーム」であることも海外メディアにて明かされています。
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日本は、マンガ、小説、アニメ、そしてゲームと、10代の少年少女を主役にした物語が非常に多く、大人になってもそれらに熱中している人は決して珍しくありません(筆者もそれはそう)。そんな日本と比べると、欧米では“自身の年齢相応の登場人物にスポットを当てた創作”が好まれる傾向が強いのは、確かなことのように思います。
近年海外で高く評価されたJRPGを思い浮かべてみても、『ペルソナ5』に『メタファー:リファンタジオ』、『ファイナルファンタジーVII リバース』、『ゼノブレイド3』などなど、いま挙げた4タイトルの主人公は、21歳のクラウド以外は10代、あるいは実年齢はそれより下です。
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“JRPG”という言葉は、ゲームデザイン面での独自性のみならず、そうした“お決まり”に対する欧米視点での“不可解さ”のニュアンスも含んだ言葉だったと筆者は感じてきました。
『Clair Obscur: Expedition 33』の主要キャラクターのひとりには16歳のマエルもいますが、本作の基本設定を踏まえたとき、“大きな喪失を経験してきた大人”を中心に紡がれる物語であり、プレイヤーもまたいろいろな人生経験を積んだ大人ならばより感情移入できる悩みや葛藤が描かれているのは確か。加えて、フランスの文化に根ざしつつも、ほかのゲームでは見たこともないようなアートで彩られた美しい光景がつぎつぎに現れる作品世界もまた、“JRPGのお決まり”みたいなものとは一線を画すものです。
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そしてもちろん、日本のゲームファンが全員“日本っぽいお約束”に適正があるわけではありません。そのあたりは日本国内での絶賛評にも少なからず影響があるのかもしれない、と思ったり。
ちょっと乱暴な喩えになりますが、これって“『スプラトゥーン』の日本と海外での評価の相違”をちょうど反転したような構図と言えるのかもしれません。10年前、『スプラトゥーン』の1作目が発売され、海外ではいくつかの名作が生まれていた対戦TPSをそれまで熱心にプレイしたことがないようなユーザーをもたくさん虜にしました。
『スプラトゥーン』は日本ゲーム大賞でも最高位の“大賞”を受賞し、間違いなく2015年の国内ゲーム業界の“顔”になったタイトルです。一方で、“The Game Awards 2015”ではふたつの部門賞を受賞しているものの、そこまで大きな存在感を示したわけではありません。現在の『Clair Obscur: Expedition 33』を取り巻く海外の熱狂との温度差に似たものを感じませんか?
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古くはコンピューターRPGを日本で広く受け入れられるようにアレンジして生まれたのが『ドラゴンクエスト』でした。その後、『ファイナルファンタジー』も生まれ、さまざまなシリーズが日本独自の進化を遂げている様子が海外からは“異端”のように扱われてきましたが、そうした異端なゲームたちを「クールだ」と感じてくれたゲームクリエイターが、今度はJRPGを“自分たち向け”にアレンジしはじめた、その最大の成功例が『Clair Obscur: Expedition 33』だと言えるのかもしれません。
高評価の理由その2:“ソウルライクの流行以後”のアクション性をコマンドバトルと融合
こうした“目押し”の要素を取り入れたターンベースのRPGは、『スーパーマリオRPG』などがすでに存在していますが、本作はフロム・ソフトウェアが手掛けた『ダークソウル』シリーズなどに端を発する、いわゆるソウルライク系アクションの世界的な流行を経て登場したことに意味があったのだと感じます。
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本作もまた、ダメージの無効化のみならず、スキルの発動に必要なAPの獲得、さらに敵の連撃をすべてパリィすれば強力なカウンター攻撃の発動と、いくつかのアクションの中でもとくにパリィを成功させたときの恩恵は非常に高く設計されています。
成功時/失敗時の大きな落差が、「今度こそ成功させたい」というモチベーションになっていることを、プレイしていて感じた人は多かったことでしょう。また、同じ敵と何度も戦うのは純粋なターンベースのRPGでは作業感を覚えやすいですが、「同種の敵のモーションなら、戦闘回数を重ねるほどパリィのタイミングが読みやすくなる」という形で、“上達の楽しさ”でジャンルの弱点をカバーしている面もあります。
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“アクションゲーム好き”のユーザーはパリィなどでこれまで培ったアクションスキルを活かし楽しんでいるうちに、育成やスキルの使用順といった戦術の部分の奥深さに気付いて、こちらにも夢中になれる。“JRPG好き、コマンドバトル好き”のユーザーは、パリィ成功時の大きな恩恵を体感すれば、これを成功させるためにタイミングを読むというアクション要素のおもしろさ・熱中度を知ることになる。
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(もちろん、さまざまなジャンルをプレイするユーザーも多いはずなので、いささか単純化しすぎかもしれません。けれど、「幅広いユーザーが手に取り、その多くが新鮮に楽しいと思えるゲームデザインである」という点の分析として、そこまで外してはいないはず……)
そうして魅力的なバトルを続けながら進行していくストーリーも、先の展開が読めないうえに強く心を揺さぶられるすばらしいものだったのですから、大多数のプレイヤーの心を鷲掴みにしたのも納得できますよね。
高評価の理由その3:ゲーム業界への“祈り”
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日本で暮らしていると実感が薄くなりがちな近年における海外ゲーム業界の状況として、度重なるゲーム開発スタジオの閉鎖や所属スタッフのレイオフ(業績悪化にともなう従業員の解雇)があります。
日本企業は法律が抑止力になり、“いきなりの有無を言わさぬ解雇”といったことはほぼ起きません。けれど、もし「いつ首を斬られるかわからない」という状況だったなら、“確実に売れるであろうゲーム”以外を作ろうとする冒険は、なかなかできないはずです。
“The Game Awards 2025”のノミネート作品を見渡すと、インディーゲーム関連の部門賞を除けば、“有名シリーズの正当続編”がかなり目立ちます。すべての続編タイトルが“利益のために手堅く作ったゲーム”だとは言いませんが、そうしたタイトル以外が生まれづらい状況になりつつあるのは事実ではないでしょうか。
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作り手がクリエイティブを自由に発揮したゲームが評価され、ヒットすることで、業界に漂いつつある閉塞感をぶち壊してほしい――。『Clair Obscur: Expedition 33』の快進撃を支える熱狂的な支持には、そんな切実な“祈り”も込められているように思えてならないのです。















