
本作はどのように作られたのか? 今回ゲーム開発者向けのカンファレンス“CEDEC”に合わせて来日した、開発元Sandfall Interactiveのコアメンバーたちに話を聞いた。(取材協力: エピックゲームズジャパン)
プロトタイプ編: 少人数で将来像をイメージできる所まで作り込む
そこで行ったのが、いわゆる“バーティカルスライス”という手法。シネマティック演出・背景・キャラ・ゲームプレイ・音楽などを組み合わせたゲームの小さなひとつのループを構成し、製品版での一連の流れをイメージできる所まで持っていくのに集中したという。
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ネットで見つけたアートディレクターと「クレールオブスキュール」の由来
デモ用の仮ボイスを入れてくれる人を見つけるために作られたプロトタイプ版の映像がYouTube等にアップされているので気になる人はぜひそちらを見てみて欲しいのだが、プロトタイプということで素材やモーションは仮のものだったりするものの、初期からそのセンスの片鱗が感じられる。
Broche氏は同氏をアーティスト向けのポートフォリオサイトであるArtStationで見つけてきて、DMで意気投合したらしい。ふたりともコントラストが強いグラフィックが好きという共通点があったことが、美術用語に由来するクレール・オブスキュール(陰影/明暗)というタイトルにも繋がっていく。
プロトタイプ版ではヴィクトリア様式やSFテイストのミックスを土台にしていたが、本開発に入る前にふたりで見直しを行い、最終的にフランスのベル・エポック調(ゲームのテーマである19世紀末から第一次世界大戦前の時期のフランス文化)とファンタジー、そしてシュルレアリスムなどを組み合わせて現在のスタイルに至っている。
同じく楽曲を手掛けたコンポーザーのLorien Testard氏はSoundCloudから……といった感じに、「ネットで見つけた」人とセンスがマッチしたらゲーム開発経験と関係なく採用していくのが、なんというか今っぽいところだ。
初期の開発資金はEpic MegaGrantsや地方の助成金などを活用
調べてみたところオクシタニー地域圏では、なんとゲームのプロトタイプ開発に対する助成金があるらしい。最大4万5000ユーロ程度、日本円で言ったら750万円ぐらいなのだが、羨ましい限り。
プロデューサーのFrancois Meurisse氏いわく、資金面の援助だけでなく、こうした機関へのアピールも後のパブリッシャーへの提案に向けたいい準備になったという。また「自分たちの作っているものはどうやら間違っていない」と確認できたことで自信を深めることができたそう。
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ユニークなパブリッシャー、Keplerとの出会い
契約に至るまでには、最初のピッチ(提案)では決まらなかったものの、フィードバックをもとに修整して挑んだ再トライで見事契約。開発スタジオが運営するパブリッシャーということもあり、「開発のニーズや悩みをすごくよく理解しているので話しやすく、アドバイスも的確でとても助かった」そう。
出資する側とされる側ということで変に警戒して苦労している部分を隠そうとすることもなく、Kepler側のミーティングにもSandfallから自由に参加可能で、オープンにやり取りできたという。
なお、アンディ・サーキス(ルノワール役)、チャーリー・コックス(ギュスターヴ役)、ベン・スター(ヴェルソ役)、ジェニファー・イングリッシュ(マエル役)など、映画や海外ドラマでも活躍する俳優陣を起用したのもKepler側のアイデア。その目論見通りに海外で話題になったのだが、ボイス面にそれだけ投資していく発想は開発側にはなかったと語っていた。
本開発編: JRPGへのオマージュを込めつつ、自分たちをターゲットに作りきる
たとえばターンベースRPGでありつつ敵の攻撃のパリィ(弾き)を多用するという作りは本作の特徴だが、正直60時間とか100時間のゲームでずっとパリィするのはあまりやりたくない。このサイズだからうまくハマっているのだと思う。
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その一環としてプレイのテンポについても気を配っており、本開発の終盤にはプレイテストをひたすら繰り返して敵と遭遇しうる数などをチェックしていって、場合によってはルートを長くするためにレベルデザインを変更するといったこともやって詰めていったという。
クソいミニゲームもJRPGオマージュ
しかも、それらのミニゲームでは水着が手に入ったりするのだが、ゲットできるのは男キャラのものも含めたクラシカルなデザイン。「やっとクリアーしたかと思ったらお前のかよ!」となった人もいるだろう。
そのアレっぷりに爆笑したことを伝えると、「まさに狙った通りです」と満面の笑み。そういった“クソいミニゲーム”もまた、往年のJRPGのあるあるとしてオマージュを捧げた部分なんだとか。『ファイナルファンタジーX』のチョコボレースを例に、「当時は本当にイライラしましたけど、今から振り返るといい思い出になっています。そこを再現したかったんです」と語っていた。
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サイドコンテンツをやってくとラスダンが楽になるのも狙い通り
「直せるなら調整したいか?」と尋ねたところ、「バランスの問題はあるとは思いますが」としつつ、ラスダンが楽になってしまうのもまた当時のJRPGのあるあるの狙い通りで、変えようとは考えていないとのこと。
一番に考えていたのは終盤のサイドクエストの質を高くすることで、スルーしてメインクエストだけを進めたい人はそのままスムーズに挑めるようにするのが目標だったのだという。
自分たちをちょっと皮肉るのもフランスらしさ
これはアート的に自分たちの文化を押し出したい狙いがあったのだろうか、それとも自分たちの得意な表現をやっていったらたまたまそうなったのだろうか? 個人的に、中国開発で中国文化がふんだんに描写される『黒神話:悟空』とのシンクロニシティも感じて非常に興味深かった部分だ。
一方でフルに意図的だったのではなかったにせよ、“フランスらしさ”が評価の一部となったことについては誇りを持っていて嬉しく思っているそう。
できるだけ少人数で作るという明確なビジョン
これは、AAA(超大作)では数百人規模になることもある現代のゲーム開発ではかなりの少数精鋭方針だ。しかも最初からそれぐらいを想定していたわけですらなく、Broche氏は初期から「とにかく少人数をキープして作りたい」というビジョンを明確に持っていて、あくまで必要にかられて最終的にそうなった、ということらしい。
開発費の高騰やレイオフ(人員整理)などが業界的なトピックとなる昨今、“クリエイティブ面の意図を共有できるサイズのチームで効率的に作る”というのはインディースタイルを拡張したひとつの理想で、本作はまさにそれを完遂したものと言えるのではないだろうか。
「でもUbisoftは好きですよ」ユービーアイで学んだこと
Broche氏いわく、海外での取材などでユービーアイソフトを辞めた経緯について話す時には毎回、「でもUbisoftは好きですよ」と言っているそうなのだが、その部分は結構カットされてしまうらしい(うーん、ありがち)。
あくまでプロジェクト管理業務で関わっていたようなタイトルがゲーマーとしての好みと違っていただけで、勤務先としては「すごく楽しかったし、全員すごく才能がある人の集まり」だと語っていた。
またGuillermin氏によると、開発の進め方の点では大いに影響を受けているそう。2週間をひとつの単位にして開発サイクルを回していく“スプリント”型の開発スタイルはそのまま取り入れていたり、バージョン管理、IT、インフラなどの面ではユービーアイソフトで学んだことを活かして運営しているとのこと。
今後はまだ明かせないものの、エスキエのぬいぐるみは準備中
さて、物語に時折出てきた“作家たち”のことが次回作のゲームなりバンド・デシネ(フランス語圏のコミック)などで語られるのかと一応聞いてみたのだが、残念ながら「今はまだ何も言えません」との回答。
一方で世界中で待っている人が多いだろうエスキエのプラッシー(ぬいぐるみ)については準備中だという。Broche氏いわく「自分も早く欲しいので、そろそろ出したいですね」ということなので、日本で発売されるかどうかはともかく期待して待とう。(※2025年7月24日時点では怪しい非公式販売サイトが存在するので注意)
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CD Projekt REDが開発中のRPG『ウィッチャー4』が先月公開したUnreal Engine5.6のテックデモ映像にはやはり大きく刺激を受けているようで、それ以外に製品版(UE5.4.4を採用)以降に発表された新機能では、Broche氏とFrancombe氏がライティングに凝ることから、動的な光源をたくさん扱えるMegaLightsに期待しているそう。