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『アークナイツ:エンドフィールド』インタビュー。非オープンワールドの濃密さ。工場システムで世界を改造。階段の上り方すらキャラごとに全部変える執念。レベルデザイナーが語る開発の極意

byあぶ~山崎

byキシ倭人伝

『アークナイツ:エンドフィールド』インタビュー。非オープンワールドの濃密さ。工場システムで世界を改造。階段の上り方すらキャラごとに全部変える執念。レベルデザイナーが語る開発の極意
 Hypergryphが贈る最新作『アークナイツ:エンドフィールド』。2025年11月10日には中国・上海にてベータテストIIの試遊を含めた発表会が行われた。

 そして発表会の後日、『
エンドフィールド』でレベルデザイナーを務めるRUA氏への単独インタビューも実施。

 『
アークナイツ』とのつながりについてや中国×水がテーマの新エリア“武陵”制作の経緯、工業&戦闘システムのバランス調整など、深堀りして訊いてみた。
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RUA

『アークナイツ:エンドフィールド』のレベルデザイナー。文中はRUA。

『エンドフィールド』はIFでもパラレルでもなく直接的な未来編

――よろしくお願いします。ではまず、RUA様の経歴やレベルデザイナーとしてどういった領域に関わっているのか教えてください。

RUA
 私はHypergryphの創設メンバーとして、最初期から『アークナイツ』のすべてのバトルシステムとステージ設計に携わっていました。現在『エンドフィールド』においても、同じく戦闘システムのレベルデザインを担当しています。

 工業システムについては、一部設計に参加していますが、おもにもうひとりのレベルデザイナーが専門的に担当しています。

――最初にいちファンとして聞いておきたいことがありまして……。本作は『アークナイツ』から遠い未来の話とのことですが、完全な続編なのでしょうか。それともIFストーリーや平行世界といった位置付けなのでしょうか。何かあった未来じゃないか不安で……。

RUA
 直接的な未来編と認識してもらってかまいません。『アークナイツ』への考察が捗るような資料もたくさん用意していますので、ぜひ期待してください。

 じつは開発初期、『アークナイツ』からおおよそ500年後の設定だったんですが、いまではおおよそ100年後くらいという位置付けにしました。これは海猫さん(同作のプロデューサー)の考えによるものです。

 『アークナイツ』の世界観には長命なキャラクターもいますので100年というギャップがあれば、物語としてもっとも可能性を広げられる展開が作れると考えました。100年以上生きるキャラクターもいますがそれも考えの範囲内です。
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重厚な世界観が魅力の『アークナイツ』。『アークナイツ:エンドフィールド』は『アークナイツ』未経験者にも楽しめるように設計されている。しかし原作を知っているとより深く世界観に没入できるのは確かだ。
――今回のベータテストIIで新エリア“武陵”が登場します。ふたつ目の舞台として中国と水をモチーフにした背景や制作経緯について教えてください。
RUA
 2024年1月に実施されたテクニカルテスト後、ふたつめの地域制作に取り掛かりました。最初は荒野のようなエリアを考えていましたが、ハードコアすぎるかなと……。風景的にもテーマ的にも、もう少し柔らかいものがほしいと考え、“水”にしようという結論にいたりました。

 そこから、中国にある水と緑豊かな江南地域がモチーフ候補に挙がり、竹林など中国特有の自然要素を多数取り込み、いまの武陵地域ができました。都市については、海猫さんがデザインした現代中国風と未来都市を融合した建築を採用しています。

 このスタイルは、古代中国風が多いほかの作品ではあまり見られず、新鮮さがあると考えました。彼自身がもともと建築方面の出身だったので、設計が得意なことも背景にあります。
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この世界での技術体系は電気やガスではなく、“源石”というある種の万能エネルギー物質によって支えられている。そういった部分が建築技術や都市の景観にも表れているのだろう。また、『アークナイツ』で問題となっていた源石のデメリットは概ね解消されているようだ。
――ゲームや映画といった創作の世界において、なかなか見られない建造物ですよね。
RUA
 そうなんです! ここにはかなり力を入れました。街を早く作るだけなら、参考になる街を模倣してコピーしていくのが、いちばん楽なんです。でも、風味として取り入れるくらいならわかりますが、私たちはそれをしたくありません。

 私たちが求めるのは「こんなもの見たことがない」という感動です。まったく新しいことに挑戦しているので、モデル制作の進捗をアーティストに聞いたときには「もっと時間をくれ!」なんて、よく言われます(笑)。

――武陵は水を使った工業が発展しているものの、舞台となるタロIIは、基本的には未開拓の星ですよね。すると、環境や文化の概念があまり発展していないのではと思います。今後実装されるエリアでは、どのような文化形成、工業の発展が為されるのでしょうか。

RUA
 いい質問ですね。『アークナイツ』では国や地域、文化はおもに2D(イラスト)と大量のテキストで表現しているため、コストを比較的抑えやすい。でも3Dになった途端に複数のアーティストを拘束してしまうのでたいへんなんです。限られたリソースのなかでどのように風景を描写し、それぞれの組織や国を表現していくのかが今後の課題ですね。

 今後実装の部分についてはあまり言えないですが、少しだけ。私たちがいまやろうとしているのは、たとえば将来的に実装する地域において”必ずしも特定の勢力に属さないエリアが存在し得る”ということです。タロIIは開拓地。ある地域が開拓される際は多くの国や組織の人が集まってコミュニティーが形成されていくのが自然だと思っています。

 ひとつの場所に多種多様な人たちが集まってもらうには、どうすればいいのか。今後のストーリーを作っていくうえでやらきゃいけないことですね。

集成工業システムには無限のポテンシャルが秘められている

――工業システムでは今後実現したいことはありますか?

RUA
 新しいアイデアは尽きなくて、まだまだいっぱいあります。いろいろな工業のゲームを遊んできた我々自身から見ても集成工業システムには無限のポテンシャルがあると感じています。さまざまな形での建設や自動化が実現できると思っています。

 ただ、プレイヤーが工業システムを長時間プレイした後も続けていきたいのか、それとももっとサンドボックスのように、どこにでもなんでも置ける形のやりかたを求めてくるのか、まだわかりません。

 プレイヤーの意見を参考にしながら細かく調整していくことになると思います。
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――キャラクターの育成素材が欲しい→探索する/敵を倒すといった探索意欲は、こういったゲームにとって大切な要素です。ですが、本作では工業システムで素材を生産できます。探索意欲が抑えめになってしまう気がするのですが、意欲をかき立てる工夫や構想はありますか。
RUA
 工業で作る素材以外でもフィールドでの採取・討伐素材も必要となってきます。また、本作の箱庭式のフィールドはほかのオープンワールドゲームよりも、自然と隅々まで探索したくなるものだと思っています。そういった隅々までチェックしたくなるような仕掛けを用意しています。

 探索意欲の低下についても心配は不要です。たとえばフィールドにあるのは宝箱などではなく資源(鉱脈など)。そこに工業地帯を構築し開拓するといった楽しみ方が待っています。

 プレイヤーに「この世界を改造できるからおもしろい」と感じさせる、工業を発展させるために自発的にいろいろな場所を探索したくなる、といった楽しみを提供したいと考えています。
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――箱庭式のフィールドを採用したことで、マップの拡充やコンテンツの更新頻度も上がっていくのでしょうか。
RUA
 私たちも、この形式ならコンテンツを更新しやすいんじゃないかと考えていました。でも、実際はそんなに簡単ではありませんでした。

 オープンワールドよりも狭いですが、逆に距離が近いことでお互いに影響し合っちゃうんですよ。あるコンテンツをマップに配置する際「ここに置いたの? 私もすぐ近くに配置したんだけど」みたいなことが起こってしまい、かえって効率が悪くなってしまったこともあります。作業スピードはちょっと上がったかもしれませんが、それ故の苦労もね……。

 また、箱庭式にしたことでマップとストーリーのつながりが強くなりました。オープンワールドでよくあるのは、町など特定のエリアで話が進み、つぎのエリアに行くとさらに進むという作りです。ですが『エンドフィールド』は箱庭式にしたことでエリア間の密度が高くなりました。道中において、なにが起こってなにが展開されるのか、シナリオライターとレベルデザイナーによる入念な擦り合わせも重要になってきます。
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ゲーム中で広いフィールドを歩き、マップを見る限りではオープンワールドと言われても違和感はない。しかし、コンテンツの密度を高くするため、オープンワールドとしては設計していないそうだ。

3Dモデルのキャラクターは約半年間にわたって制作

――リアルテイストとアニメ調をマッチさせる技術の高さを感じました。キャラクターの装飾品も多い印象を受けますが、デザインのバランスを追求をするのに工夫した点はありますか?

RUA
 モデリングの工夫でいうとキャラクターのリボンです。『エンドフィールド』では、装飾品としてリボンが非常に多いのですが、互いに干渉し合ってしまうと見た目がよくありません。

 リボンをどうやってうまく運動させるか、どこに置いていいか、どこに置いちゃいけないか、徹底的に研究しました。こういうことに関しては、2Dと3Dのアーティストが「もっと小物を増やしたい」、「それは干渉してしまう」とよく意見を衝突させていますね。

 もうひとつは体型です。大人や少年少女といったベースとなる体型を用意するのが一般的ですが、これでは物足りない。動作も同じようなものに見えてしまいますので、個性を出しにくい。

 そのため、専用の移動・攻撃モーションはもちろんですが、歩くや走るといった共通の動き、手の振りかたなどにも、気づきにくい微妙な違いをキャラクターごとに調整しました。階段を上るときの動作なんかも全然違うんですよ。
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『アークナイツ』のキャラクターは身体(獣耳や尻尾などの動物的部位)的にも服装(医療装備や儀式的な装身具)的にも特徴が多い。3Dグラフィックになると、単純に描き込めばいいというものではないのだ。
――ここまで手が込んでいるとなると、1キャラクターにおける制作期間はどれくらいなのでしょうか。
RUA
 キャラクター実装の提案からモデリング、スキルの実装・調整まですべて含めると半年以上になります。

 たいへんだったのはレーヴァテイン。ベータテストIからスキルも基本攻撃も全部作り直しました。私たちにとって、思い入れのあるキャラクターですからね。2025年5月から調整が始まり、完成したバージョンでも「このスキルが少し弱いかな」「ここの見た目があまりよくない」みたいな意見をずっとみんなで出し合いました。

 また、必殺技使用後に通常攻撃のモーションが変わる部分にも力を入れましたので、ぜひ使ってみてください。
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攻撃モーションだけではなく、職分や攻撃の間合いなどの戦闘デザインも含めて変更されている。性能的にはもはや別キャラである。
――レーヴァテインのアクションにもつながりますが、戦闘システムがベータテストIIからアップデートされました。ジャスト回避の追加によって、テンポ感と爽快感がさらに上がったように感じます。その調整にはどのような経緯があったのでしょうか?
RUA
 2~3年前からずっと考え続けています。

 最初は、アクション性よりもリアルタイムでありながら戦略性に比重を置いて、30~40くらいのデモを作りました。そして完成したのがテクニカルテストの戦闘です。テンポがゆっくりかつ、攻撃時にキャラクターが止まるような、ハーフターンベースに近い感じで調整しました。

 しかし、プレイヤーからは「スタイリッシュさや華麗な表現が足りない」というフィードバックが多く寄せられる結果となりました。敵を選択するためにカメラが固定されることでも迫力が損なわれてしまいます。

 そこで、操作感のベースをアクション寄りへと大きく方向転換。スキル(戦技)はクールタイムではなく、『
ファイナルファンタジー』シリーズに登場する“ATBゲージ”のようなシステムを採用しています。これなら、戦略性が成立するなと手応えを感じましたね。
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バトルではプレイヤーはリアルタイムで攻撃と回避を行う。そのうえで戦略的にゲージを管理し、最適なスキルと連携を駆使して戦いを有利に進めるのだ。
――3つあるゲージをコストとして、誰の戦技を使えばいいのかといったところに戦略性が生まれるんですね。
RUA
 そうですね、“いちばん強い戦技を連発すればいい”という問題をなくすためにバフや集敵、防御の戦技などを用意していきました。試行錯誤をくり返し、ようやく「これならいける!」と希望が見えてきたのが、今回のベータテストIIです。

 連携技は戦技の方針が決まった後に追加しました。基本攻撃と戦技、必殺技だけでは物足りませんからね。『エンドフィールド』はひとりだけの戦闘ではなく、4人同時戦闘ですから、チームメンバーと連携する遊びかたもあったほうがいいなと。さらに、連携の戦略性を深めるために状態異常の仕様変更もしました。

――ベータテストIIでは物理・灼熱・寒冷・電磁・自然といった属性があります。一方『アークナイツ』では精神系など特殊なアーツもあります。今後、そういった新しい属性や状態異常の実装など戦略の拡張は予定していますか?

RUA
 十分にあり得ます。むしろ、いま考えています。長くコンテンツが更新されるほどおもしろみが増していくようにしたいと思っています。でもそれはプレイヤーがいまの状態異常システムに慣れ、飽き始めてから実装するのがもっとも効果的かなと考えています。
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――『アークナイツ』では1編成13名で構成されていますが、本作では1パーティー4人までとなります。個人的にはいろいろなキャラクターを使ってみたいと思っているのですが、複数編成で挑むコンテンツは実装されますか?
RUA
 うっ、心に刺さる……! これは私が毎日考えているテーマで、本当に実現したい遊びかたですよ。

 こういったバトルコンテンツの実装は検討しているんですが、“一度使ったキャラクターはつぎのステージでは使えなくなる”といった、運営側がプレイヤーのパーティー編成を縛るシステムはやりたくありません。

 以前に『アークナイツ』で似たようなプレイスタイルを導入してみたんですが、反響はよくありませんでした。そこから得たのが、“プレイヤーへの押しつけはよくない”という教訓です。

 理想は、プレイヤーが「このキャラクターを使いたい、ここで使うのがベスト」と自発的に多くのキャラクターを楽しめること。いまは、その理想的なシステムを見つけるために模索中です。
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『アークナイツ』ではキャラクターの戦闘面の性能は単純な数値では決まらない。戦略によって個性を活かしやすく、差別化ができている。リリース6年目でも初期のキャラが現役なんてざらである。本作でもそういったバランス調整を目指しているようだ。

“直接的な交流はしないけど、人の温もりは感じる”システムが、いまのニーズに合っている

――プレイヤー間の交流もひとつのゲーム体験だと思います。本作ではあまり重要視されず、代わりにプレイヤーが残した足跡など非同期型のソーシャル要素が実装されています。どのような経緯でこの発想は生まれたのでしょうか?

RUA
 非同期の交流要素は『デス・ストランディング』を参考にしました。

 多くのプレイヤーは、直接的な交流をあまり好まない人が多いと考えています。私もそうですし、そういう人たちの心理はよくわかります。

 そこで“直接的な交流はしないけど、人の温もりは感じる”というシステムが、昨今のプレイヤー層のニーズに合っていると考え、導入にいたりました。

 将来的には『
モンスターハンター』のような、みんなでいっしょに討伐するようなマルチプレイも検討していますが、みんなが気軽に遊べるようにすることや、実装のタイミングについては、まだ検討中です。
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なんだかんだいってもRPGは基本的にソロプレイということだろうか。
――プレイヤーの拠点となる帝江号の応接室では勲章や武器を飾れるほか、他プレイヤーも訪れることができます。今後はさらにインテリアの配置など、個性が出るハウジングのような要素は実装されますか?
RUA
 これもじつは、最初のベータテストが終わった後に追加するべきことのリストに入っていました。私たちもハウジング要素は大好きなのですが、まぁ本当に時間がなくてですね……(笑)

 リリース後、もしくは今後のアップデートで時間があれば追加される可能性はあります。
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画像では見えていないが自室としてはかなりの広さ、かつシックなデザイン。
――『アークナイツ』は音楽も素晴らしく、ファンの人気もとても高いです。『エンドフィールド』ではタロIIという設定背景的にボーカル曲や民族的な音楽は使いづらいのではと思っていますが、どういった方向性の音楽を制作していくのでしょうか。
RUA
 確かに『アークナイツ』と比べると、『エンドフィールド』は“国”という存在感が弱くなっています。しかし、私たちのキャラクターは、それぞれ自分の組織や所属を持っています。これは“地域”に近い概念です。

 もし今後、特定のキャラクターの音楽を出すときには、その所属の背景にある地域のものを参考にして制作するので、そこは問題ないと思っています。

 地域によって音楽性は変えていきたいと思っています。たとえば、砂漠の地域を訪れたときには、アラビアンな雰囲気の音楽を作るということもあるでしょう。また、現実にあるモチーフを感じない『アークナイツ:エンドフィールド』独自の国もあったらいいなとは思っています。

――これまでのインタビューで『ファイナルファンタジー』や『デス・ストランディング』の名前が登場していますが、RUAさんはふだんどんなゲームをプレイされていますか? 制作上で影響を受けた作品も教えてください。

RUA
 『ファイナルファンタジー』や『デス・ストランディング』のほかに、戦闘システムでいえば、ほかに『ゼノブレイド』シリーズ。おもに日本のRPGが大好きです。

 最近リメイクされた『
空の軌跡 The 1st』もいいですね。クイックバトルと奥深いコマンドバトルを分けているところはとても参考になります。

 工業システムにおいては『
Factorio』、『Dyson Sphere Program』、『Satisfactory』といったゲームを開発チームみんなでプレイしました。とくに『Factorio』や『Satisfactory』の影響は大きいです。『マインクラフト』などのサンドボックス系のゲームもやりました。

――そういった名作の影響を受けつつも、『エンドフィールド』は新たな形として進んでいくのですね。

RUA
 ベータテストIIが11月28日から実施されます。ぜひ、日本のみなさんにもこのゲームを楽しんでいただけると、うれしいなと心から思っています。プレイした感想もお待ちしています。

――ありがとうございました。
※一部画像は『アークナイツ:エンドフィールド』ベータテストⅡ 予告特別番組をキャプチャーして使用しています。
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