幾度もの発売延期と開発の母国ウクライナが戦火に見舞われる不運を乗り越え、ようやく2024年11月21日にXbox Series X|SとPCで発売される『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl 』(以下、S.T.A.L.K.E.R. 2)。本作を発売に先んじてプレイする機会に恵まれたので、レビューをお届けしよう。 なおプレイはPCのレビュー版で行った。レビュー版配布のスケジュールの関係上、残念ながら本作を遊び尽くすだけの十分なプレイ時間を確保することはできず、16時間ほどをプレイした段階でのインプレッションという形になるのをご了承いただきたい。しかし現状で、筆者がシリーズファンとして「これぐらいは仕上げてくるだろう」と予想していたレベルを確実に超えてきたと言っておきたい。 VIDEO
※この記事はセガの提供でお送りします。 危険地帯“ゾーン”へと侵入せよ さて 『S.T.A.L.K.E.R. 2』 は、ウクライナのチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所で生じた事故(※編注: ゲーム中世界での架空の事故も含む)により変貌したエリア“ゾーン”を舞台としたオープンワールドサバイバルFPS作品だ。 ゾーン内は、生物が近付くと空間ごと破裂する現象や球電現象などの“アノマリー”と呼ばれる不可思議な現象が多発する一方、ミュータントと化して人間を襲うようになった野生生物が生息するなど、外界とはかけ離れた世界へと変貌している。
透明の歪んだ空間もアノマリーのひとつ。その爆発をモロに食らったら難度によっては即死だ。PC版で設定を下げてプレイする際はフレームレートだけでなくアノマリーの視認性にも注意しよう。
そんな危険なエリアだが、そこに潜む未知の力の恩恵を受けようと企む連中もいれば、バンディット(ならず者)として活動したり傭兵になる奴もいる。そして、こんな危険な場所で困難な依頼を高額な報酬で請け負い、生活をしている連中を総じて“ストーカー”と呼ぶ。 本作の主人公スキフもまた、とある依頼を受けてゾーンへと侵入したストーカーのひとりだ。もともとこのエリアで活動していたという訳ではなく、どうもゾーンにやってきたのは単に依頼のためだけではなさそうな様子も垣間見えるのだが、そこはストーリーの核心に迫りそうな雰囲気もあるので、ぜひ本作をプレイして確かめてもらいたい。
ゲーム冒頭、スキフはハーマンと名乗る男の導きでゾーンへと潜入する。
しぶとい飲んだくれどもが生きる、カオスなオープンワールド廃墟世界 ゾーンは命の価値が“極限”まで安い場所だ。少し歩けばアノマリーやミュータントに出くわし、そこにストーカーの報酬を狙うバンディットまで立ちふさがる。 さらに前述したとおり原発事故による影響で放射線が飛び交っており、いたるところでガイガーカウンターが「ジジジジ」と警告音をがなり立てる。それを無視して線量の高いところに不用意に足を踏み入れると、一瞬で許容限界を超えてその場で死亡ということも珍しくない。
ジリジリ鳴り始めたガイガーカウンターに「みんなが住んでるボタ山の近くだし余裕だろ」と思っていたが、異常な上昇に気がついたときにはすでに遅く、引き返す間もなく死亡。面倒? いやコレがいいのだ。
ちなみに放射線に対しては防護レベルの高いアーマーを着るとか、被爆度を軽減する薬品を使用するといった対策が可能なのだが、もうひとつシリーズでの伝統的な“民間療法”がある。それがウォッカやビールなどのアルコール飲料だ。 アルコールはガブ飲みすることで(なぜか)被ばく量が下がっていく。しばらく酔いが回って視界が少しグンニャリするので、いつ戦闘に突入するかわからないような状況ではよくも悪くもといったところだが、まぁすごく手軽なんだよね。
こいつら、始終飲んでる気がするのだが、それもきっと“民間療法”による健康のためなのだろう。体の不調を飲んで忘れてるだけの気もするが。
ゾーンには各所に集落があり、ストーカー連中やその他の派閥がそんな感じに飲んだくれたりタバコを吸い散らかしながら生活をしている。ちょっとした村の残骸やかつての炭鉱のボタ山、座礁した船の残骸などにそれぞれの派閥が拠点を築いているのだ。そしてその中では、武器や医薬品や食料や酒などがやり取りされ、小さな経済がしっかりと回っている。 中でも重要度が高いのは装備品の改造をしてくれる技術屋のNPCだ。ゾーンで手に入る装備はボロいものが多く、損傷が激しいと銃が簡単にジャムったりする。技術屋はそれらを修理したり、状態がいい装備なら銃身のブレを軽減するストックの改良などの改造まで請け負ってくれる。まぁ万能というわけではなく、人によってはせっかく持ち込んだ銃を扱えなかったりもするんだけどね。
今日も生きて帰ってきた。焚き火を囲んでクソくだらねぇ話をしてる連中も愛おしく感じるぜ。
装備の修理や改造は技術屋の仕事。情報が集まってくる関係上、クエストをくれることも多い。
プレイヤーは各地域の非敵対的な拠点を根城にしながらオープンワールドを冒険していくことになるのだが、拠点外の遠征中にもそれらのNPCと遭遇する場合がある。ただ普通に哨戒しているだけのケースもあれば、ミュータント化した野生生物と戦っていたり、プレイヤーに助けを求めてくることも。 んで、平気で人をハメる血も涙もない連中もいる中で、妙に間抜けだったり素っ頓狂な連中もいたりするのがおもしろい。瀕死状態で助けを求めるNPC治療してみたらいきなりタバコに火を点けて落ち着こうとしたり、なんだか人間味があふれている。ってかコイツ、ヤニで歯が黄色く変色しているように見えるんだよね。オモロイ。 また、「ストーカーとしてアノマリーに対抗する手段を磨こう」と意気込んでみたものの、最終的にアノマリーだらけの場所にハマって動けなくなった奴なんかも登場する。お前、これまでよく生きてこれたね……。今度、空いた時間にNPCの観察でもしてみようかな?
辺り一面電撃ビリビリアノマリーだらけの超デンジャー地帯で身動き取れなくなっていたバカ。「全然ダメだったぜ!」じゃあないんだよ。
くたばったヤローの銃をかき集め、弾を抜いては売り飛ばすシビアなゾーン経済 ゾーンにおける経済では、硬貨や紙幣の代わりにクーポン(略号はK)という通貨代わりのものが使用されている。それはストーカーたちが所持しているタブレットタイプのPDAと呼ばれるデバイスで記録されており、アイテムの売買やミッションの報酬としてクーポンでの支払いが行われる仕組みだ。 ただゾーン内は物資が乏しいこともあり、まともな装備を商店で買おうとすると値が張る。店売りされている装備品は状態がいいレア品だからだ。ではそんな金がない駆け出しストーカーがどうやって武器や弾薬を集めていくのかというと、敵対したNPCを殺害してぶん取ったり、隠されたスタッシュ(収納箱)から拾っていくことになる。
各集落には“武器屋のオヤジ#的な存在がいる。まぁ彼らから買うより、売り手として買い取ってもらう事の方が多いのだが。
先にも少し触れたが、装備の状態は非常に重要な要素だ。武器が良好な状態だと特に何も表示されないのだが、消耗による劣化が進むと黄色→赤といった感じでアイコンが表示されるようになる。 赤い状態の装備はかなり状態が悪く、ショットガンなどが戦闘中にジャムってしまい、再度使えるようになるまで時間がかかったりする。「まぁ使用不可能ではないがパフォーマンスは地獄」という理解でいいだろう。 この赤いアイコンが表示された状態だと店に売ることもできないし、改造もできない。だからといって赤の状態から修理しようとするとかなりボラれてしまう。なので基本的には、赤い状態の武器は拾ってもあまり持ち運ばず、中に入っている弾薬だけを抜き出し捨ててしまうのが正解だ。
“抜き取る”を選べば、装填されている弾を抜き取って分けられる。ジャンクな銃なんか置いてけ。
では黄色い状態はというと、劣化が見受けられるがパフォーマンスに著しい影響はないうえに、お店に売り払うことが可能だ。なので、こまめに敵の武器を鹵獲して弾を抜き、マシなものを売るようにするとお金の貯まりがほどよい感じになる。で、そこそこお金が溜まったらいい感じな武器を修理・改造して、弾薬もゴッソリ買ったら再び旅に出るといった感じかな?
状態がいい武器を入手したら改造候補として取っておくのもいいだろう。まぁ、この銃はココの技術者では扱えなかったわけだが……。
でまぁゾーンを歩いていると、包帯とかパンとかソーセージに敵から鹵獲した武器とかウォッカとかいろいろな物を拾うわけね。でもそういったアイテムにはすべて重量が設定されていて、あまりあれもこれもと物を持ちすぎると移動速度に影響して、最終的には一歩も歩けなくなってしまう。 (マニュアルセーブもあるとはいえ)移動速度が遅い状態でミュータントにボコられてリスタートなんて状況は最悪なので、泣く泣くアイテムを捨てまくってそこそこ歩けるようになってから拠点へとぼとぼ移動……なんてことはザラにある。何を持ち歩くか、何を持って帰るかという見極めもストーカーに求められるスキルなのだ。
「弾はひと通りたっぷり持っておきたいよねー」なんてやってると、いずれ荷物を圧迫する。選べ。
環境全体がひとつの脅威として機能する、真のPvEサバイバル 筆者がこのシリーズで好きなのが、いわゆるPvE(対環境)のゲームとして、環境全体がしっかりと脅威として成立している部分だ。ちょっと歩けばアノマリーと遭遇するし、変なところに踏み入れば放射線の影響を受け、ちょっと洞窟でも覗いてみようと思い入ってみれば厄介なミュータントに襲われ……と、デスカウントがあっという間に増えていく。ハードな環境で生きていかねばならない厳しさとやりごたえをすぐに実感するだろう。
シリーズ定番の敵、ブラッドサッカー。身体を透明化して突っ込んでくるので早めに捕捉しよう。
そんな世界を支えているのが、本作の“A-Life 2.0”と呼ばれるシステムだ。NPCやミュータントなどの行動はこのシステムで制御されており、それぞれが目的に従って戦い移動し、プレイヤー抜きで勝手に戦い合ったり逃げ出すことさえある。 そのため、プレイヤーがなんとなく歩き回っていると遠くでけたたましく銃声が響き、様子を見に行くとミュータントの群れとNPCが撃ち合っているところに、別の勢力のNPCが介入……といった光景も珍しくはないだろう。まぁ確率的な部分はあるけどね。 で、このA-Life 2.0なんだけど、そういったおもしろいミラクルも起こす代わり、決して完璧とはいえず、理不尽さもあわせ持っている。たとえば、何の脈絡もなく近くにミュータントやバンディットをポップ(出現)させることが多々あるのだ。筆者はとあるミッションを終えた瞬間、周囲に突如として5名ほどのバンディットがポップして蜂の巣にされたり、何度か酷い目にあっている。まぁでも、「こういう、現実世界では起き得ない理で敵が出現するのもゾーンの謎パワーが原因なのだろう」と(思い込んで)諦めているが。
ヒーローを気取るな。戦闘もキツめだぜ! ゲームの難度はどうかというと、サバイバルを題材にしていることもあり、やや高めの難度設定となっている。敵の攻撃はけっこう痛いし、わりと簡単に出血する。 そのため、被弾しないように木や壁などの遮蔽物を盾にしながらリーン(体を傾ける動作)をして攻撃するのが基本なのだけど、敵の数が多かったりすると銃弾に加えてグレネードが投げ込まれたりもするし、ミュータントがこっちの都合を考えずに突っ込んできたりと防戦一方になりやすい。そうなると体力回復や止血をする余裕すら貰えずジワジワとなぶり殺しされていくわけで、本当に厳しい世界だわこれ。
木の裏でもいいのでとにかく可能な限り身を隠し、リーンして撃つのが基本。リーンは壁際などでは自動発動するし、任意に行う操作も用意されている。
それにプレイヤーに立ちふさがるボス格の敵はどれも強力。弾薬をいっぱい持ち込んで戦闘に臨むも弾切れしそうになって涙目になることなんてザラ。それでもどうにもならないと思ったら古いセーブデータで過去に遡って態勢を整え直すようにすることが大事だ。 唐突に訪れる光熱放射もキツイ。これは数日おきに生じる嵐で、ゾーン全体に高い放射性を発する嵐が吹き荒れた状態を指す。一応、直前に無線や放送で警告が出るのだが、それを無視して屋外で巻き込まれると即死してしまう。対応策としては早急に屋内や深い洞窟に逃げ込む必要があるのだが、壁や天井が薄い廃墟だと放射線を防げないことも。遠征やミッションの最中にコレが発生するとかなり地獄だ。
空が赤くなったらかなりヤバい。とにかく建物内やシェルターに逃げ込もう。
あと野生生物は舐めたらアカン。通常は遭遇しても数匹だったりするんだけど、とある下水のような場所を探索していたところネズミの鳴き声が聞こえ「どうせ数匹だろ」と余裕こいていたら、とんでもない数の群れで襲いかかられたこともある。しかも1匹ずつバラバラに動くのでサブマシンガンを連射しても追いつかず、リロードする間もなく食われてしまった。 まぁネズミの群体の例はグレネードやショットガンで対処すればよかったのだけど、重量を気にして持ってなかったわけでして。うん、備えてなかった筆者が悪いのだけどね。この「 ゾーンで生き延びるためのルールをわかってない奴、備えてない奴が悪い 」というのはこの独特な世界観とプレイ感を繋ぐ重要なキーだと思う。
唯一無二の世界がそこにある ところで本作、さきほど書いたようなキャラのポップなど、粗を探せばぶっちゃけ結構ヘンなところは多い。しかし、そもそも 『S.T.A.L.K.E.R.』 というシリーズ自体、もともと洗練性が売りというよりも、やや大雑把なところがありながらもゾーンという世界観とその雑さがうまくマッチしたことでカルト的な人気を誇った作品だと筆者は考えている。
VIDEO
本作もそういった性質をちゃんと継承しており、システム的に難も有るが、そういうのを補ってもなお余りある世界を楽しめる作品には仕上がっていると感じた。それに、さすがにアカン部分は今後のパッチで少しずつ改善されていくとは思う。というかそうであれ。(※編注: レビュー期間末期にもさっそく大規模パッチが当たっていた) そして、このカオスな終末世界を歩いてゆくのは唯一無二な楽しさがある。廃墟の美しい情景を見せてくれるポストアポカリプスものはいろいろあるけど、 『S.T.A.L.K.E.R.』 は全世界が終わってるんじゃなくて、このゾーンだけ独自の世界として外界から切り離されているという独特な物悲しい美しさがあるんだよね。 まぁガイドにクーポンを支払えば各拠点間のファストトラベルも可能なんだけど、ガイガーカウンターとアノマリーの警告音を断続的に聞きながら、「かつてこの辺は賑わってたんだろうなぁ」とか、汚染されて人がいなくなったからこそ見られる特殊な景色を眺めながら歩くのもオツなもんですよ。てか、ファストトラベルはちょっち高いので渋ってるだけなんだけどね俺は。
終わってる世界に、ときおりハッとするような美しさがやってくる。
ファストトラベルは各集落にいるガイドにそこそこのクーポンを支払うことで行える。価格は「ひんぱんには使えないが、いざという時には出せる額」という感じ。
形式的にはAAAタイトル(超大作)のカテゴリーに入っている本作だが、上記のようなユニークさと粗さをまとめて飲み込むつもりで遊べば本作を楽しめるはずだ。というかまぁ本国がたいへんなのによく発売まで漕ぎ着けたと称賛したい。(編注: 戦火の影響を受けながらの開発については、YouTubeで公開されているドキュメンタリー“War Game”で語られている。日本語字幕付き)
VIDEO
最後にTIPSというわけではないが、PC版をプレイするゲーマーはキー配置の設定変更を推奨したい。なぜかと言うと、一般的なFPSでリーンをする場合“Q”や“E”キーを利用することがほとんどだが、本作ではそこに消費アイテムのショートカットキーが割り当てられており、代わりにリーンには“Z”と“C”キーが割り当てられている。プレイしていて「慣れないなぁ」と思ったら、それぞれを入れ替えておくと違和感の解消につながるかもしれない。