“シブサワ・コウ”、“ω-Force”、“Team NINJA”、“ガスト”、“ルビーパーティー”、“midas”というブランドのもと、さまざまなエンターテインメントコンテンツを開発しているコーエーテクモゲームス。ブランドにはそれぞれ個性があるが、なかでも“ルビーパーティー”は、おもに女性向けゲームを開発するブランドで、所属スタッフも女性が多く、ほかのブランドとは一線を画している。
ルビーパーティーは、これまでに『アンジェリーク』、『遙かなる時空の中で』、『金色のコルダ』といった女性向け恋愛ゲームを展開してきたが、これらのゲームは“ネオロマンス”というシリーズ名で呼ばれている。記念すべきネオロマンス第1作となった『アンジェリーク』が発売されたのは、1994年9月23日。個性豊かな男性キャラクターたちとの恋愛が楽しめるという新たなゲームジャンルを打ち出し、多くの女性ゲームユーザーから支持されることとなった。
それから30年。女性向けのゲームコンテンツは数多く作られ、女性プレイヤーのゲームの好みやゲームスタイルも変化してきたが、ルビーパーティーは現状をどう分析し、どんな新作を作っていくつもりなのか? ルビーパーティーの生みの親である襟川恵子さんと、現在ルビーパーティーを率いている襟川芽衣さんに話を聞く機会を得た。
さて、恵子さんと芽衣さんと言えば……ファミ通.comでは、約7年前におふたりのインタビュー記事を掲載したことがありました。聞き手は当時、ファミ通.comのいち編集者だった私、ロマンシング★嵯峨です。あれから時が経ち、私は週刊ファミ通の編集長になりましたが、相変わらず仕事と家庭のバランスに悩む日々を送っております。ということで、ゲーム業界で働く女性の代表格である恵子さんと芽衣さんに、改めて、働きかたについてもお話を聞きました。しかもなんと、7年前と同じ、お茶会形式インタビュー。読者の皆さんもぜひ、いい匂いのする紅茶やお菓子を手にリラックスしながら、本記事をお楽しみください。
襟川恵子氏(えりかわ けいこ)
コーエーテクモホールディングス 代表取締役会長。
多摩美術大学デザイン学部卒業後、夫・襟川陽一氏(シブサワ・コウ氏)とともに、光栄(現・コーエーテクモゲームス)を設立した。
襟川芽衣氏(えりかわ めい)
コーエーテクモゲームス 取締役常務執行役員 ルビーパーティーブランド長。襟川陽一氏、恵子氏の長女。
コーエーテクモホールディングスのチーフ・サステナビリティ・オフィサーとして、サステナビリティの推進にも取り組む。
襟川恵子会長が最近開発しているものは……財団!?
――本日はお忙しい中、お時間いただきありがとうございます。さっそくネオロマンス30周年のお話をうかがっていきたいのですが、その前に……おふたりの今日のお洋服、お揃いですよね?
芽衣さん
以前、このワンピースを着て会社に来たときに、会長が「すごく素敵ね、私も着たい」と言っていたので、私から会長に同じものを贈ったんです。今日は7年ぶりのお茶会形式インタビューということで、明るめの服がいいなと思って選びました。「もしかしたら、会長とかぶるかもしれないな。でも、親子だからかぶってもいいか」と思って着たら、本当にかぶってしまいました(笑)。
――事前に連絡を取って服を決めたわけではないんですね(笑)。
芽衣さん
いえ、まったく連絡は取っていませんでした(笑)。
恵子さん
偶然お揃いになっておもしろいですよね。ファミ通さんのために着てきました(笑)。
――私は母とお揃いの服は持っていないので、羨ましいです……! 今日のために素敵な服を選んでいただいて、ありがとうございます。先ほど芽衣さんがおっしゃっていた通り、おふたりとのお茶会インタビューは7年ぶりなのですが、前回のインタビュー記事は本当に反響が大きくて、いまでも「あの記事、読みました」という声をいただくほどなんですよ。
芽衣さん
母といっしょにインタビューに出たのは、後にも先にも、あのときだけでしたね。
――記念すべき2回目の機会をいただけて光栄です。今日はネオロマンスの30周年についてと、コーエーテクモゲームスにおける女性の働きかたがどう変わってきたかについてお聞きできればと思っています。ではまず、ネオロマンスについてですが……もう30周年なんですね。
恵子さん
時が立つのは早いですね。ゲームって、プレイするのも楽しいですけど、やっぱり作っているほうがとてもおもしろいものだなと思います。
――恵子さんは、いまはゲーム開発にはどのくらい参加されているのですか?
恵子さん
ゲーム開発はほとんどスタッフに任せていて、いまは違う開発をやっています。最近、神奈川県の母子家庭の方を支援する財団を立ち上げたんです。
――新しい財団、ですか?
恵子さん
女性のほうがね、男性よりも平均年収が低いですし、母子家庭となるとさらにたいへんです。これまで多くの方にご愛顧いただいたおかげで、会社も私も豊かになりましたから、恩返しのために社会貢献をしたいと思って立ち上げました。この財団では、母子家庭のお子様が塾で学ぶための費用を支援します。この学資金は返していただく必要はございません。
――返還不要なのは、とても助かりますね。
恵子さん
塾の費用って、すごく高いじゃないですか。いまは子どものほとんどが受験に向けて塾に行くので、塾に行ける子と、行けない子で差が出てしまうのはかわいそうですから。だったら塾に通うための資金を私が支援しようと。
――確かに学習の機会の差は、将来にかなり影響しますよね。私は秋田県の出身ですが、秋田は塾の数が多くはないので、ハイレベルな学校の受験を目指す子は、わざわざ仙台の塾に行ったりするほどでした(※20年くらい前の話です)。子どもの力ではどうしようもないところで、選択肢が狭まってしまうのは辛いところです。
芽衣さん
ですので、「大学に行きたいと思っているけれど、家庭環境によって諦めなくてはいけない」と悩んでいるお子さんに、夢をあきらめず将来輝いていただけるよう、塾の費用、学資金を支援します。会長は代表理事として、私は評議員として参加しています。
――学校の授業料ではなく、塾の費用というのは新しいですね。
芽衣さん
高校卒業までの学費を支援する奨学金の制度は、どの自治体にもあるようなのですが、塾の費用を支援しているところはあまりないんです。
恵子さん
本当は全国区のご家庭を支援したいのですが、残念ながらそこまで体制が整っていませんので、まずは神奈川県のご家庭を支援します。
芽衣さん
10月から一期生の募集が始まりますので、ぜひご応募ください。
時代とともに変化する女性の恋愛観と、ネオロマンス新作の行方
――ゲームのつぎは、財団を開発……という言いかたが適切なのかわかりませんが、継続的に、新しいものを生み出していらっしゃるのがすごいです。
芽衣さん
会長はいつも何かしらを作っていますね。……あの、ネオロマンスの30周年とまったく関係ない話になっているんですが、大丈夫でしょうか?(笑)
――すみません、財団のお話が興味深くてつい……!(笑) 恵子さんは新しい財団を立ち上げて、芽衣さんはそれを支えつつ、ネオロマンスの現場も切り盛りしているんですよね。
芽衣さん
そうですね。そういえば、前回のインタビューで、母は「白馬の王子様がいつか迎えに来てくれると思っていた」と言っていましたけど……。
恵子さん
私の母が、ずっとそう教えていたんです。「いつかね、白馬の王子様が迎えに来てくれるのよ」って。どんな王子かと思っていたら、とんでもない人が来て、働かされちゃってますけど(笑)。「ファイナンス、もうやめようかな」と言うと、「いや~、やるべきだ」って言うし。
芽衣さん
(笑)。そういう、“いつか王子様が”という恋愛観がふつうだったころにネオロマンスは立ち上がったのですが、あのころと比べると、恋愛の形はずいぶん変わってきたと思います。「女性は男性に守られるもの」じゃなくなったなと。
――初代のアンジェリークも仕事(惑星を育成する)をしている、自立しているタイプの主人公でしたが、その傾向はより顕著になってきていますね。
芽衣さん
昔は「女性は子どもを育てて、家庭を守ってなんぼだ」という考えが主流でしたが、そうではない生きかたも認められるようになって、結婚してもいいし、しなくてもいい、自由な世の中になったぶん女性は自立して強くなったかと。それに合わせて、求められる男性のタイプも幅広くなりましたよね。
恵子さん
でも女性はやっぱりたいへんですよ。お化粧して、靴やバッグを用意して、身なりを整えたりしないといけないですしね。
芽衣さん
現代女性の忙しさは本当にすごいと思います。ネットが普及して、SNSも身近にあって、毎日たくさんの情報が入ってきますよね。“好きになりそうなもの”がつねにいっぱいある状態。「このコンテンツ、おもしろくないかも」と思ったとき、ちょっとよそに目を向ければ、“好きになるかも予備軍”がいっぱいあるんです。コンテンツを推しつつ、おしゃれもして、友だちと遊んで、SNSもチェックして……。やることがいっぱいある。そんな中で、「遊んでみたいな」と思わせるゲームを作るのはかなりたいへんで、難しくなったなと感じます。昔に比べて、ゲームというものの価値が下がったというわけではなくて、ほかにもおもしろそうなものがいっぱいあって、それらの情報を簡単に取れるようになったというのが大きいと思います。
――確かに、娯楽の種類はかなり増えました。
恵子さん
スマートフォンを持っていれば、会いたいキャラクターにいつでも会えますからね。すぐに見られて、いっしょにいられる。
芽衣さん
好きなものがたくさんそばにあって、幸せいっぱいで忙しい。ですから、“短い時間で楽しめるもの”が求められる時代になっているというのを、日に日に感じます。
――好きなものが多くて忙しい、はとても実感します。スマホゲームを遊んで、家庭用ゲームを遊んで、XやYouTubeをチェックして……という生活をしていると、本当に時間が足りなくて。
恵子さん
お仕事ですとたいへんですよね。いろいろ知っておかないといけないし。
――この時代の変化に合わせて、ルビーパーティーブランドの皆さんが話し合うことも変わってきたのでしょうか?
芽衣さん
ゲームに関しては、“ゲームをいかにおもしろくするか”を話し合いますので、じつはそこまで変わっていません。変わったとすれば、いまの時代に合わせて変えていくことと、変わらずに大切にすることの見極めについて、でしょうか。それは、いままでの長い歴史があるからこその変化だと思います。
――近年の女性向けゲームの市場を見ると、純粋な恋愛ものは減ってきたのかな? という気がしています。
芽衣さん
恋愛というより、自分の推しているキャラクターを支えて育てるようなゲームが人気になっていると思います。リアルのアイドルの“推し活”は昔からありましたが、それがゲームでも当たり前にできるようになったんですよね。恋愛で誰かとじっくり相思相愛になるより、推しの彼に惜しみなく愛情を注ぐことに喜びを感じる方が多いのかもしれません。恋愛って一対一の関係性ですけど、推し活って一対多なので恋愛ほど重くない……というと語弊があるかもしれませんが、得られるときめきや癒しの形は違うと思います。
――恋愛は癒やしだけではなくて苦しみも多い一方、推し活は、喜びのほうが比較的多いのかもしれませんね。
芽衣さん
一時期はみんな恋愛に対して、昔ほど興味がなくなってしまったのかな……と思ったこともありましたが、マンガやライトノベルや映画の恋愛ものは、相変わらず人気があります。ですので、恋愛もの自体の人気がなくなったというわけではなくて、ゲームにおいては、推し活がトレンドなのかもしれません。ただ、そんな中で『恋と深空』が大人気になり、かなりの収益を上げています。それを見ると、まだまだ恋愛ゲームに可能性はあるなと思いますね。
恵子さん
すごくあるわよ、作り手によっていくらでも。
――『恋と深空』はバトル要素があり、装備などもちゃんと考えないといけません。女性向けゲームのプレイヤーは、システムが複雑なゲームは苦手だと思われていましたが、『恋と深空』は、想像以上に多くの女性プレイヤーがハマっているようです。
芽衣さん
日本の女性プレイヤーも、攻略要素がちょっと多くても、推しのためにがんばってプレイできるくらいゲームに慣れたのかなと思います。
――スマートフォンの普及だったり、コロナ禍でゲームを見たり遊んだりする人が増えたり、いろいろな要因が重なって、その状況が生まれたのかもしれません。
芽衣さん
そうですね。ただ先ほどお話ししたように、好きなものがたくさんそばにあるぶん、いまの時代は“短い時間の中で、引きを作る”ことが大事で、“じっくり読むと、おもしろい”コンテンツはなかなか受け入れてもらえません。ここ数年で、ルビーパーティーでも“短いサイクルで感情を揺さぶる”ノウハウが溜まってきたと思いますので、つぎの新作では皆さんにその成果をお見せできると思います。
――それは“ネオロマンス”の新作ということでしょうか?
芽衣さん
はい。いま、まさに新作を作っているところです。お待ちいだだいている皆さんには申し訳ないのですが、開発にすごく時間がかかってしまっていて。じっくり、丁寧に作っていますので、発表までもうしばらくお待ちください。いまの段階でお話しできることがあまりないのですが、新しい驚きを感じていただけるものになっていると思います。
――近年のルビーパーティーは『刀剣乱舞無双』や『バディミッションBOND』を手掛けられていましたが、ネオロマンスにも引き続き取り組んでいるということで、安心しました。
芽衣さん
昔であれば、1年あれば新作を1本作れたんですけどね。いまはどうしても、2~3年はかかってしまいます。毎年新作をお届けするのは難しくなってしまいますが、楽しみにしていていただければと。
――ところで、新作というわけではありませんが、初代『アンジェリーク』がNintendo Switch Onlineで遊べるようになりましたね。
恵子さん
懐かしいですね。当時は女性向けゲームがありませんでしたから、参考になるものもなくて、『アンジェリーク』の開発途中の画面は全然おもしろくなさそうだったんです。だから全部作り直しました。椅子のデザインを変えたり、フリルをつけてみたり、色合いを変えたり。ちょっとした工夫だけでおしゃれにできますから。
芽衣さん
当時、ビジュアルやシナリオ、世界設定は女性スタッフが行いましたが、育成シミュレーションの部分がおもしろくならなくて、男性スタッフに助っ人に入ってもらったそうです。
恵子さん
プログラミングやシステム作りは、襟川(陽一氏)に手伝ってもらいましたね。懐かしい。
芽衣さん
いま見ると、「守護聖様って、こんなに冷たかったっけ……」と思うんですよね。親密度が低い状態だとけっこうな塩対応で。「こんな些細なことで、こんなに怒るの!?」って思います(笑)。そのぶん仲よくなったときの喜びもひとしおなんですが。Nintendo Switch Onlineに加入している方は誰でも遊べますので、ぜひプレイしてください。
選択肢次第で守護聖様にお叱りを受けることも……。ちなみに“スーパーファミコン Nintendo Switch Online”には巻き戻し機能があるので、時を戻して別の選択肢を選ぶこともできますよ!
※『アンジェリーク』の開発秘話は、ネオロマンス20周年の際のインタビューでも語られているので、ぜひ併せて読んでみてください。
恵子さん
そういえば私は昔、“ルビーパーティー”のつぎは“サファイアダンディーズ”を作ろうと思っていたんです。男性中心のチームで、女の子と恋愛するようなゲームを作ろうと思っていたのですけど、なかなか難しいところがあって、断念したままなんですよ。
芽衣さん
ありましたね。幻の“サファイアダンディーズ” (笑)。社内でもいまだに話題に上がることがあります。
――ルビーパーティーと対になるブランドが生まれる可能性があったんですね……! 男性向けネオロマンスのゲームも見てみたかった気がします。
ルビーパーティーが得意とする、心の移り変わりを描くシナリオ
――ところで、ルビーパーティーでシナリオ執筆を経験したスタッフが、ほかのブランドで活躍していることも多いと聞きます。『Rise of the Ronin』で、ロマンス要素のあるイベントのシナリオを書いたのは、ルビーパーティー出身の方だと聞きました。
芽衣さん
人の心の移り変わりを丁寧に描いてきた経験が、女性向けゲームだけでなく、別のゲームでも発揮されるケースがいくつかありますね。
恵子さん
ルビーパーティーのスタッフがほかのチームに行くことで、いい循環ができていますね。ルビーパーティーでのシナリオの経験は、確実にいろいろな場所で活きています。どこに行っても潰しが効くといいますか。チームが変わることで、新しい作風も生まれますし。
――シナリオライターの皆さんが、定期的に部署移動をすることはあるのですか?
芽衣さん
コーエーテクモゲームスには“シナリオ制作部”というものがありまして、シナリオを書くスタッフは基本的にはそこに集まっています。ルビーパーティーブランドには、そのシナリオ制作部とは別で、ストーリーを担当するスタッフがいるんです。また、各プロジェクトの状況に応じて、ルビーパーティーのスタッフが部署移動することもあります。
――そうだったんですね。『Rise of the Ronin』の“比翼の契り”関連のシナリオは、とてもよかったです!
芽衣さん
ありがとうございます。『Rise of the Ronin』は、Team NINJAの作品の中でも、人と人とのつながりにかなり力を入れて描いていると思います。ハードなアクションゲームなのに、人間ドラマもしっかり描かれているところが好評なんです。
男性はわりと、かわいい女の子と出会って、その子がすぐに自分のことを好きになっても受け入れられるようなのですが、女性の場合は、いきなり好きになられると、「えっ、私のどこをいつ好きになったの?」と思いますよね。もちろん、全員が全員、そうだというわけではありませんけど。女性は自分を好きになる、恋愛の過程をすごく大事にするので、ルビーパーティーはそこを丁寧に描いてきました。プレイヤーが置いてきぼりにされないようなストーリー作りを心がけてきた経験が、活きているんだと思います。
恵子さん
でもねえ、それを丁寧にやるばかりで、自分で恋愛しないんですもの。芽衣がお相手を紹介してくれたことってあったかしら。
芽衣さん
私の話はいいんですよ! それに一度くらいはあったはずです(笑)。そもそも、現実の恋愛と、ゲームで描く恋愛は少し違いますから。生々しくなりすぎず、少しのファンタジーを加えたうえで、喜びや切なさ甘さなどを詰め込みたい。それはゲームだからこそ得られるときめきだと思いますので。ゲームの中にいる自分は、現実の自分とはちょっと違いますし、キャラクターによっては、リアルとは違うからこそ好きになれるところがある。たまに、リアルにいたら、「は?」っとなりそうなキャラもいますからね(笑)。
女性の管理職就任も、男性の育休取得も、先輩から後輩へ受け継いでいくことが大切
――先ほど男性と女性の収入差に関するお話がありましたが、コーエーテクモゲームスでは、それこそ恵子さんがルビーパーティーを作るために女性スタッフを採用し始めたころから、男性と女性の待遇は平等なのですよね。
恵子さん
うちは昔からまったく同じ(待遇)です。だって私が女性ですから。
――7年前のインタビューでは、コーエーテクモゲームスの男女比は7対3ということでしたが、その比率に変化はありましたか?
芽衣さん
女性スタッフの人数自体は増えたのですが、比率でいうと、約30%であることは変わっていません。
恵子さん
社員は全部で2500人くらいですから、人数は増えたんですけどね。
芽衣さん
もっとゲーム業界に女性を呼び込めるようにがんばります。とはいえ、女性の管理職に関しては、7年前は「全体の4%くらい」とお伝えしましたが、マネジメントの講習会を行ったり、いろいろな制度を改善したりしていくことで、約8%まで増えました。
――おお、それは増えましたね!
恵子さん
男性はね、部下を出世させようとすると、どうしても男性を選びがちなんです。でもそれはダメだと。ただ女性は女性で、なかなか上に行きたがらない。そういう子たちを「もったいない、優秀なんだから」、「家事はたいへんだけど、料理なんかはまとめて作って冷凍しておけばいいのよ」といった感じで説得していったら、何人か管理職になりました。このあいだも、私が以前説得した子が部長になりましたし。でもね、昔と違ってびっくりしたのは、いまは男性も家事をかなり手伝ってくれるらしいっていうことね。
芽衣さん
いまは男性も家事にしっかり参加するんですよ。
恵子さん
襟川なんか、私が風邪を引いて寝ていたときにね、炒飯を作ってきたんですよ! 風邪を引いて辛いときに、油の多い炒飯は食べられないですよ。それに、後で台所に行ってみたら、あっちこっちに汚れが飛んでて、もうひどい有りさまで(笑)。
芽衣さん
でも、何かを作ってあげようと思ってくれた気持ちはありがたいじゃないですか(笑)。父は、私が子どものころ風邪を引いて寝込んでいるときに、砂糖入りのミルクをあっためて持ってきてくれたことがありました。「わあ、やさしい」と思って飲んだら、その牛乳の賞味期限が切れていて(笑)。もうその後はお腹を壊してしまってたいへんだったんですけど、ふだんほとんど台所に立たない父がわざわざミルクを持ってきてくれただけでうれしくて。いまでも鮮明に覚えていますね。
恵子さん
ほら、ふだん何も家事をやってないからそうなるのよ(笑)。
芽衣さん
おそらくですね、会長がなんでも自分でやってしまうから、父がそうなってしまうんだと思いますよ(笑)。家でもそうですし、会社でもそうなんですけど。
恵子さん
襟川が「利益を伸ばしたい」とか言うから、「しょうがない、ファイナンスで稼ぐわ」って言っちゃうのよね。だから、「コーエーテクモゲームスは証券会社のくせに道楽でゲームを作ってる」なんて言われちゃう。
芽衣さん
ですから、「ゲームの売上をどんどん上げていかないと」と、社員一同でがんばっているところなんです。
恵子さん
私はね、たまたま高校時代から株をやっていたんです。祖母に何から何まで教えてもらって。その経験が活きていますね。
――(株について)参考にしたいですが、参考にできる自信がないです……! でもやっぱり、ゲーム業界の中で、恵子さんが女性でありながらバリバリと働き続けて、いまも現役であるというのは、多くの人にとってのロールモデルになっていると思います。
芽衣さん
会社の創設者が、働く女性管理職として存在しているというのは大きいですよね。まあ、本当にいろいろなことをやっている人なので、一般的なロールモデルになっているかはわかりませんが、「働きながら子育てもして、こんなにパワフルにやっていけるんだ」ということは社員に示せていると思います。会長に後押しされて管理職になった女性が、また別の管理職候補を後押ししていく……といった連鎖を生み出さないと、なかなか女性管理職が増えないのも事実です。講習会を開催して、「責任を持つことは怖いことではないです!」と言っても、なかなか信じてもらえません。ロールモデルとなる女性が、実体験をもって、「あなたならできるよ」と後輩の背を押してあげることが大切です。
恵子さん
女性は、絶対にできますよ。子どもを育てることだって、管理職だってできる。
――私も編集長になって4年半ほどが経ちますが、なんとか管理職をやれているかなと思います。
恵子さん
女性の編集長もたいへんですよね。でも、「どうってことない」って思っちゃえば、なんとかなるものですよ。
――悩ましいのは、管理職になりたがる編集者が、男性も女性もあまりいないというところですが……ゲームクリエイターもそうだと思うのですが、マネジメントをするより、自分で手を動かして作るほうを好む人が多いですよね。
芽衣さん
ですねえ。ただ、そんな中にも、「将来、管理職になりたい」、「チャレンジしてみたい」という若いスタッフが少しいたりするんですよ。そういう意欲を持つ人は、丁寧に育成してぜひどんどん活躍してもらいたいですね。一方で、クリエイターとして活躍し続けたい人が、その道でもっと上を目指せるように、より専門的な技術・スキルを探求するエキスパート職を設置したりしています。スタッフそれぞれが、自分のキャリアプランを立てやすくなっていると思いますね。
――コーエーテクモゲームスの公式サイトで拝見しましたが、女性の育休取得率は100%だとか。
恵子さん
女性は100%ですし、男性も64.9%なんです(2023年度実績)。もちろん男性も100%を目指していて、「育休を取ることを申し訳ないと思わなくていい」、「育休をとったら、ほかの男性スタッフにもぜひ勧めてくれ」と伝えています。子供が産まれたばかりのたいへんな時期に、男性も育児を経験するのは大切なことですからね。
芽衣さん
当社の中には、“ペンギンの会”という、働くパパさんママさんのコミュニケーションの場があるんです。これはスタッフが自発的に作った会で、定期的に子育てに関する情報交換をしているんですよ。その会の中で、「会社にこういうことをしてほしい」という意見が出てきたら、それを提案してきてくれたりもします。そういったコミュニティが、自発的に生まれたというのはすばらしいことだと思います。
――みんなで悩みを分かち合うことができると、心強いですよね。
芽衣さん
女性も男性も、前向きに明るく仕事ができる会社環境を作っていきたいですし、そうすることで、ユーザーの皆さんの心が豊かになるようなゲームが作れると思っています。
恵子さん
私は、社員寮、社宅を作ることを大事にしているんです。たいへんですけど、毎年作ったりリフォームしています。間取りも見て、たとえばキッチンの上に空きスペースがあったら食器棚を付けたりしますし、壁紙は柄のあるものを選びます。「そんなオプションをつけたら費用が上がります」と言われるんですけど、社員の皆さんの充実した暮らしには必要なことです。そうした施策のおかげか、コーエーテクモゲームスは離職率が低いんですよね。そうやって、いい環境の中でゲームを作って、今後もファミ通さんにいろいろ記事を書いてもらって、ユーザーの皆さんに喜んでもらえたらと思っています。
7年ぶりのインタビューでしたが、変わらずパワフルで元気をいただきました!
[2024年9月23日10時30分修正]
一部の文章に追記いたしました。