『バルダーズ・ゲート3』(以下、『BG3』)は、日本では2023年12月21日にスパイク・チュンソフトより発売されたファンタジーRPG。
テーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下、『D&D』)の『第5版』の世界観やルールをテレビゲームとして実装しているのが特徴で、そのゲーム性やストーリーが世界中で高く評価され、The Game Awardsなど世界の名だたるゲームアワードを総なめにした、歴史に残るタイトルだ(※)。
※ファミ通・電撃ゲームアワード2023でも特別賞を受賞。 先に開催されたCEDEC AWARDS 2024でもゲームデザイン部門で優秀賞を得るなどますます注目されている本作だが、今回、開発元であるLarian StudiosのCEO、スウェン・ヴィンケ氏にメールインタビューをする機会を得られたので、氏の回答を紹介しよう。
数々のGame of The Yearを総なめに
──『BG3』が、世界の主要なゲームアワードにおける“Game of The Year”5冠をはじめ、さまざまな賞を受賞しました。この快挙を受けての、いま現在の感想を教えていただけますか。
ヴィンケ
『BG3』がリリースされてから1年が経ちましたが、世間ではまだ鮮度が落ちていないように感じます。私たちはつぎのゲームに進もうとしていますが、みんなはまだ『BG3』のことを話し続けています。
でも長く愛されるということは、人々がゲームを作る理由はそこにあると思いますし、私たちもそこにやりがいを感じます。このようなことになるとは誰も想像していませんでした。すごくすごく感謝しています。
──ここまで世界的に人気を博した理由について、改めてどう考えているか教えてください。
ヴィンケ
AAAのプロダクション・バリュー(制作の質)でディープなターン制RPGを制作すれば、多くの支持が集まるだろうとずっと思っていました。これほどの規模になるとは予想していませんでしたが、『ディヴィニティ:オリジナル・シン 2』を開発した時点で、その支持層がすでにかなり多いことはわかっていました。人々がこの作品を気に入ったのは、私たちがターン制RPGを作ることに長けていたからだと思います。
私たちは失敗から学びました。いまでも多くのミスを犯しますが、ゲームごとに明らかに改善されているのがわかると思います。そして、それが実現可能なプロダクション・バリューと融合することで、人々が試してみたくなるようなゲームになったのだと思います。
一度試してみると、おそらくはこれまで見たことのないような奥深さがあることを発見する。それが、人々がこのゲームを話題にし始めた理由だと思います。そして、いったん話題になり始めると、多くの人々が試し始め、友人たちにも伝え始めた。だから、このゲームが人気になったのでしょう。間違っているかもしれませんが(笑)。
ただタイミングがよかっただけかもしれないし、『D&D』が復活し始めたからかもしれません。真実はわかりませんが、これが私の個人的な分析です。そして、スタジオとしてはRPGを作るのがうまくなり、以前には見られなかったようなシェイプやフォームを世に打ち出したのです。
──世界に向けてRPGをリリースするにあたり、『BG3』のように世界的なヒットを達成するために必要な要素は何だと思われますか。
ヴィンケ
本当にいいゲームを作ろうと努力すること。『BG3』の場合、明らかにユーザーを長時間拘束するゲームなので、その点も踏まえて人々がこのゲームを発見しやすくするために適切なタイミングでリリースすること。多くのゲームが同時期にリリースされれば、発見することが難しくなります。
いいコミュニティを持つことも本当に重要だと思います。このゲームはアーリーアクセスを2年ほど続けていて、それが私たちの経験値を高めてくれたので、ゲームの成功に大きく貢献したと思います。
──日本の人気RPGの数々と『BG3』とのあいだで、共通する魅力はあると思われますか。
ヴィンケ
どんなRPGでも、プレイヤーにキャラクターに投資してもらい、ゲーム全体を通してしっかりとしたキャラクターの成長を提供する必要があると思います。『BG3』もその点では非常に優れていたと思います。それがもっとも重要な特徴だと思います。
また、日本のRPGの多くはすばらしいプロダクション・バリューを持っていますが、私たちも同じように心がけていました。ですから、そこが共通点であると言えると思います。
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『BG3』は「完了したプロジェクト」
──本作発売後に、Larian Studiosの社内では何か大きな変化はありましたか。
ヴィンケ
大きな変化はないと思います。発売した直後はみんな、つぎはすべての面でもっとうまくやらなくてはと意気込んでいたので、少し麻痺していました。だからある時点で、「みんな、一度ふつうのゲームを作ることに立ち返ろう」と言う必要がありました。これはこれでとてもよかったけど、「ベストを尽くしてつぎを作ろう」と。そして現時点でふつうの状態に戻って、つぎのゲームに集中しようとしているところです。
──非常に膨大かつ果てしない開発だったかと思いますが、プロジェクトが立ち上がった当時の社内、社外の反応はいかがでしたか。
ヴィンケ
社内には3種類の人間がいました。「『バルダーズ・ゲート』だ!」と大興奮する人たちと、「いいね、かっこいいじゃん。最終的にどういう形になるのか気になるね。」というそこまで『バルダーズ・ゲート』に傾倒していない人たち、そして「『バルダーズ・ゲート』なんて聞いたことがない」と言う人たち。彼らには丁寧に説明する必要がありました。
でも、この分類はユーザーさんも同様だったのだと思います。私たちは、自分たちがプレイしたくなるようなゲームを作ろうとしている会社です。だから、社内にそういう人たちが混在していたのは結果的にとてもいいことだったと思います。
──大成功したいまなら笑って話せそうな、開発当時の裏話や、苦労したお話などはありますか。
ヴィンケ
ハハ、思い当たることが何もないです(笑)。そうですね……。私たちは必要なときには、しっかりと自己批判できる能力を持っていると思います。だから、自分たちがやってしまったことや、これは大失敗だったというような、本当に大きな後悔はないと思います。答えられなくて申し訳ありません。
──開発中には数多くの課題を乗り越えてきたかと思いますが、開発中には最後まで乗り越えられなかった課題はありましたか。
ヴィンケ
RPGは多くのレイヤー、多くのシステムで構成されており、それらを連動させなければなりません。だから、あるものについては、それがうまくいくかどうかを実際に確認できるまで、本当に最後までかかりました。そのため、微調整が非常に複雑になることもありました。
プレイヤーの選択がゲームプレイを左右するような、映画的な体験全体として見ることが大切でしたが、それは開発の最後の9ヵ月ほどでようやく見えてきたものでした。だから、それが実際にうまくいったときには大きな安堵感を覚えました。
──開発中にはファンから「これは『ディヴィニティ:オリジナル・シン 2』であって『バルダーズ・ゲート』ではない」ときびしい言葉もあったと“GDC 2024”講演でうかがいました。ファンが求める『バルダーズ・ゲート』を形成する要素とは、どんなものだったのでしょうか。
ヴィンケ
開発の初期から、じつはオリジナルの『バルダーズ・ゲート』とかなり多くの接点があることはわかっていました。ですが“ダークアージ”のネタバレのプロット全体に関わることだったので話すことができなかったんです。だから“ダークアージ”の存在に気を使う必要がありましたし、他にもベハルの子やオーリンとのイベント、ミンスクやジャヘイラなどもいます。
これらのキャラクターは物語の中盤以降に登場するように調整したのは、旧作をプレイしていたプレイヤーにも、旧作を知らないプレイヤーにも楽しんでもらいたかったからです。そのため、それについて話すことができませんでした。私たちはオリジナルの『バルダーズ・ゲート』に対する愛情も深かっただけに、この点については悔しい思いをしました。
──続編やダウンロードコンテンツは制作せず、アップデートは続けるとの発表がありました。その理由について改めて教えてください。
ヴィンケ
私たちはDLCに実際に取り組み始め、『バルダーズ・ゲート4』についても考え始めていました。でも、ある時点で、このゲームは完成したと感じたんです。『バルダーズ・ゲート3』は完成したゲームであり、私たちの心はもうそこにありません。
私たちには新しくやりたいことがたくさんあります。『バルダーズ・ゲート』には本当にすべてを捧げました。ですから、私たちにとっては完了したプロジェクトであり、新しいことを始めたかったのです。それに気づいてからは、決断はまったく難しいものではありませんでした。
──今後、アップデートでとくに優先して進めていく部分を教えていただけますか。また、可能なら具体的に、間もなくアップデートが実施できそうな項目についても教えていただけますか。
ヴィンケ
まずMODの対応があり、これは非常に大きなものです。それにはかなり力を入れています。発表されたクロスプレイやフォトモードなどもあります。まだまだサプライズがたくさんありますが、それについてネタバレはしないつもりです。だから、今後もまだまだアップデートは続きますよ。
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Larian Studiosの今後の展望
──今後Larian Studiosとしてはどのようなジャンルのゲーム開発に着手する予定でしょうか。
ヴィンケ
これはつぎのゲームの話になってしまうので答えられません。
──Larian Studiosでは今後も『BG3』のように、プレイヤーの主体性を重視し、さらにシネマティック要素を多く盛り込んだRPGを開発する予定はあるのでしょうか。
ヴィンケ
プレイヤーの主体性を重視し、映画的要素を取り入れるのは間違いないですね。これらは文字通り、私たちがスタジオでやろうとしていることの核となる柱です。それが『バルダーズ・ゲート3』のようなものになるかどうかは、今後の発表をお待ちください。
──『BG3』の膨大な開発工程を経て、シネマティックな要素やナラティブの要素などについて高度なノウハウが得られたかと思います。これらの要素は、RPG以外ではどのようなゲームジャンルに活用できると思われますか。
ヴィンケ
プレイヤーに主体性を持たせ、それをシネマティックに取り入れたいと思うところでは、どんなものにもこれを活用できると思います。正直なところ、少し考え始めるとほぼすべてのジャンルに応用できるのではないかと想像できますし、他の開発者たちもそれを取り入れ始めるだろうと確信しています。また、シネマティックな要素がゲームにどのように取り入れられるかについても、まだかなりの進化が見られると思います。
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