2024年7月19日~21日に京都で行われたインディーゲームのイベントBitSummit Driftにて、同イベントの主催者でもあるキュー・ゲームスが『オール・ユー・ニード・イズ・ヘルプ せーのでもふくるポン! 』を出展していた。 本作は、最大4人で楽しめる協力プレイゲーム。ふわふわしたキューブの不思議な生き物たちが、たがいに押し合いへし合いながら協力してゴールを目指す……という内容だ。 本作における4人のキャラクターはそれぞれ形が異なるのだが(不思議な生き物だけに)、本作のキモとなるのは、自分では自キャラの向きを変えられないということ。 会場で試遊できたデモでは、4人のキャラクターが地面に描かれた形の通りにそれぞれぴったり収まるとステージクリアーとなるのだが、みずからの向きを変えられないので、いかにほかプレイヤーに向きを変えてもらうかがカギとなる。ほかのキャラクターはばっちり収まったけど、自分だけ向きが違っていて困り果てることに……なんてことも(でっぱりがあれば、それに引っ掛けて少しずつ向きを変えるといったことはできる)。
そんなユニークな協力プレイゲームを作ったのは、キュー・ゲームスのクリエイティブディレクター、木村直博氏。今回、会場で木村氏にお話をうかがう機会を得た。 木村氏は、キュー・ゲームスに17年間在籍しているベテランクリエイターで、『PixelJunk 』シリーズにおもに関わってきたとのこと。最新作は、2022年にApple Arcadeで発売されたKONAMIのパズルアドベンチャー『Frogger and the Rumbling Ruins』 。 木村直博氏(きむらなおひろ)
キュー・ゲームス クリエイティブディレクター。文中は木村。
ビートルズの『All You Need Is Love』に由来するタイトルに込められた思い ――本作を開発するにいたった経緯を教えてください。
木村
もともとのきっかけは、社内のゲームジャムですね。キュー・ゲームスでは、適宜ゲームジャムを実施して、社内でアイデアを募っているのですが、そのときのアイデアがもとになっています。自分でテーマを決めて、メンバーも集めて……という趣旨のゲームジャムだったのですが、僕には子どもがふたりいて、子どもも交えていつもいっしょにゲームを遊んでいるのですが、対戦ゲームだとどうしてもケンカになってしまうんです。 ――子どもふたりでプレイするとそうなりがちですよね。
木村
そのケンカになるのをなくしたかったというのがあります。子どもたちは、『マインクラフト 』や『オーバークック 』といった協力プレイメインのゲームを遊んだりするのですが、それぞれキャラクターは同じだったりします。そこで、もし自分が作るんだったら、キャラクターがそれぞれ違う形をしていて、違う役割を持っているような協力プレイができないかなということを考えたりもしました。 ――お子さんのプレイを見ていて、アイデアが湧いてきたのですね。 木村
一方で、コロナ禍もひとつのきっかけになっています。ゲームジャムが実施されたのは2年くらい前のことで、ちょうどコロナ禍でリモートワークで働いていたんですよ。ずっとひとりで仕事をしていると、なかなか密なコミュニケーションは取れないですよね。それぞれが思っていることをそれぞれの中で補完して、助け合いながら作業していかないとうまくいかないという思いも同時にあって、それがいろいろと合わさって、がっちゃんこして、「テーマは協力で、ゲームジャムもメンバーがリモートで集まって作ろう」というところから企画がスタートしています。 ――コロナ禍がひとつの契機にもなっているのですね。アイデアはどのように具現化していったのですか?
木村
ゲームジャムの段階で、ある程度ベースの形はできていましたね。“キャラクターは非対称で、シンプルな操作でできて、みんなでちょっとしたパズルを解く”っていままでにあまりないかな、と考えていました。 ――アイデアはパッと閃いたのですか? それとも日々ゲームを開発していて徐々に熟成されていった感じだったのですか?
木村
ああ、そのへんは両方としか言いようがないですね。何かやらないといけない→ではテーマはどうしようと、順を追って考えていくのですが、ロジックで考えているときに、たまたまパッと閃いて、「なるほど、これっておもしろいじゃないか!」となります。ですので、ロジックもあり、閃きもあり……みたいな感じです。 ――2年前というと、2022年ですね。コロナが少しずつ収まっていった時期かしら。
木村
2022年の11月ですね。ゲームジャムを実施すると告知があって、2週間後に発表会ということで、仲間を集めて一気呵成に企画を練り上げました。 ――告知があって2週間で発表というのは、けっこうハードですね。
木村
いえいえ(笑)。みんなゲームを作りたい人ばかりが集まっているので、楽しみながら取り組みましたね。あと、僕はディレクションとかゲームデザインを担当しているのですが、自分でやりたいことは、つねに考えていたりします。 ――待ってました!という感じだったのかしら。メンバーを募るのに苦労はなかったのですか?
木村
2022年末というと、コロナも収まりかけていて、出社しているスタッフもけっこういたのですが、僕はリモート組だったんですね。声をかけるにも、チャットでグループ電話でやるのもどうかなと思ったのですが、それをちょっと逆転の発想で、「だったら、リモート組で集まってやろう!」と。
――開発作業は順調だったのですか?
木村
僕はかなり慎重派なので、実際にはみんなとプロトタイプを作る前に、自分で簡単なプレイの挙動テストバージョンを作っていたんです。そのときは自分で回転できる状態でした。それでもパズルとしてはいちおう成立するし、その回転がお互いの邪魔をするみたいな発想で考えていたんです。 で、実際に本格的に開発が始まったときに、僕はプログラムには一切タッチせずに、プログラム担当者に任せていたのですが、回転をどうするかということになって、「物理挙動でやったほうがおもしろいのでは?」という話になったんですね。たしかに物理的なフィジックスが入るほうがおもしろいなと思って。 そのときに、自分で回転するよりもいっしょに遊ぶプレイヤーにやってもらったほうがいいのではというアイデアが生まれて、そこでいまの形のベースができました。ゲームジャム用にデモ版を作り初めて1週間くらいのことですね。 ――濃密な1週間だったと言えそうですね。
木村
あとは、やはりパズルだけだとどうしても飽きが来てしまうところもあるので、どのようにしてアクション性を入れていくかといった部分での試行錯誤がありました。「どんなふうな協力プレイがおもしろいのか」というのをくり返し考えていきましたね。 ――それで、本作ではベースとなる協力プレイを楽しむステージや、アクション性のあるステージなどバラエティーに富んでいるのですね。ステージは全部でいくつくらい予定しているのですか?
木村
リリース時には100ステージ以上あって、アップデートを含めると150ステージくらい用意する予定です。それが、森と雪山、岩場という3つの世界に分かれていて、それぞれ特徴的なギミックを生かした遊びが盛り込まれています。 ――たとえば、どのような遊びなのですか?
木村
雪山だったら、たとえばカイロみたいなブロックがあって、それを使って雪を溶かすとか。雪山では、雪玉を転がすたびに少しずつ大きくなっていって、ときに通路が通れなくなってしまうのですが、カイロみたいなブロックを使って雪玉を溶かすことで移動できるようになるんです。そういう、物理挙動を含めた遊びが盛り込まれています。 ――それだけ、バラエティーに富んだ遊びが楽しめるということですね。
木村
そうですね。アクション性も豊富ですし、パズル寄りのギミックもあれば、アクション寄りのギミックもありますね。
――かわいいビジュアルもとても印象的ですね。
木村
企画の最初の段階から、4人で遊ぶローカルマルチのゲームというコンセプトがあったので、できるだけ幅広い年齢層に訴えかけたいという思いがあり、柔らかめな雰囲気にしたいとは考えていました。子どもや家族で遊ぶ……それこそ、孫とおじいちゃん、おばあちゃんが遊ぶゲームというビジョンを持っていたので、リードアーティストには相談しました。ビジュアルもゲームジャムの段階から、おおむね方向性は定まっていました。 世界観も、そこから徐々にブラッシュアップしていきました。たとえば、ローカルで4人集まるって少したいへんですよね。それでオンライン対応にするというのは、後から決めたことなのですが、そうするとオンラインでやり取りしようとすると、やはりボイスの仕組みが欲しくなります。ボイスチャットだとダイレクトにプレイヤーがやり取りできるので、だったらキャラクターがしゃべるようにしよう、というのを途中から入れました。 そうなると、やはりキャラクターに表情が欲しくなったり……。大玉も顔がついていてしゃべってくれるのですが、ああいったことも、マルチプレイでも場の雰囲気をちょっとずつよくしようと思って入れている仕掛けになります。 ――ほんわかとした独自の世界観を構築するために、いろいろなところに気を配っているということですね。ゲームがスタートする前の各自の部屋でうろうろできるのも楽しいですね。
木村
そうですね。あそこがオンラインではロビーになるのですが、ロビーで待ち合わせをしているときに、少しでも遊びを入れたいなと思ったんです。エリアの中にサッカーボールを置いて蹴れるようにしたり、自分の部屋に家具を置けるようにしたり。触ったら音がなるような、ドラムやギターを設置できたり。
――わいわい楽しそうですね。
木村
オンラインでつながったユーザーの部屋にいくと、アクセサリーのレンタルができるようになっています。せっかくマッチングしたユーザーの部屋に、行ってみたくなりますよね。そのときにそこに行って自分が持っていないものがあったら、ちょっと借りられるんです。 ――ちなみにストーリー要素はあるのですか?
木村
ステージをランダムで選択できるというゲームの性格上、明確なゴールやストーリーはないのですが、ゲームの冒頭では、舞台となる牧場でキャラクターたちが何を目的としているのかということは説明されます。 ――『オール・ユー・ニード・イズ・ヘルプ せーのでもふくるポン!』というタイトルが印象的ですね。
木村
『オール・ユー・ニード・イズ・ヘルプ』ですね(笑)。タイトル自体もゲームジャムのときにつけたもので、ビートルズの『All You Need Is Love』から来ています。『All You Need Is Love』の日本タイトルが『愛こそすべて』なのですが、このゲームは“助け合いがすべて”、“助け合っていこうよ”という意味を込めました。 ――元ネタはビートルズなのですね。
木村
だから、4人協力プレイというわけではありません(笑)。当初はキャラクターの性格もビートルズのメンバーに寄せようみたいなアイデアもあったのですが、いまの若い世代はビートルズのことを知らないのでは、との意見もあり、そこは断念しました。 ――そんなことが(笑)。
木村
ちなみに、 『オール・ユー・ニード・イズ・ヘルプ せーのでもふくるポン!』 の楽曲は、『ピクミン 』のCMソング 『愛のうた』 など手掛けたストロベリーフラワーのボーカルでもおなじみの渡辺智江さんにお願いしているのですが、渡辺さんが本作のサウンド制作のために結成したプロジェクトバンドの名前がヘルパー・スケルターズだったりします。 ――ああ、ビートルズの『ヘルター・スケルター』から取っているのですね(笑)。 木村
渡辺さんのソロプロジェクトはベートルズだったりします(笑)。渡辺さんはじつは、ディラン(※)の奥さんと10代のころからの友だちで、ピクミンに起用される前の、1990年代からの長い付き合いだそうです。「いつかゲームでコラボしたいですね」というお話をしていたようなんですね。
※ディラン・カスバート氏。キュー・ゲームス代表取締役。 BitSummit Driftのステージイベントでは、ヘルパー・スケルターズのライブも行われた。
――そんな縁があったのですか。
木村
このゲームの開発も終盤に差し掛かったときに、「音楽どうする?」という話になりまして。僕が関わっていた『PixelJunk 』シリーズは、けっこう外部のアーティストとコラボすることが多いブランドだったんです。『PixelJunk モンスターズ 』のOTOGRAPHや『PixelJunk Shooter 』のHigh Frequency Bandwidthなどとごいっしょしてきたのですが、「だったら今回もアーティストとごいっしょしたいね」という話になって、そんなときにディランのほうから渡辺さんの名前が挙がったんです。 渡辺さんは、すごく柔らかい特徴的な雰囲気の声で歌われる方で、声質がゲームに合うという思いはあったのですが、ゲーム内で歌を歌うと、なかなかそのゲームに集中できないところがあるのではないか……という心配もあったんです。でも、歌声はすばらしいから、なんとか取り入れたい……と悩みに悩んだすえに、歌詞ではないのですが、ハミングという形で、うまいこと落とし込んでいただきました。 ――それは必聴ですね。 木村
ボーカル曲もあります。渡辺さんには相当数の楽曲をお願いしたのですが、全部めちゃくちゃ耳に残りますよ。
VIDEO
アナウンストレーラーのPVも渡辺智江さんの歌声によるもの。
――本作の発売はいつごろに?
木村
発売は今年の秋を予定しています。対応プラットフォームは、Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PCで、Xbox Game Passにもラインアップされます。とにかく世界中の皆さんに遊んでいただきたいので、クロスプラットフォームでワールドワイドでの同時リリースを予定しています。17ヵ国言語に対応しております。 ――最後に本作に期待しているゲームファンに向けてメッセージをお願いします。
木村
本作は、シンプルでとてもわかりやすく、すぐ手にとって遊べるゲームになっていますので、ぜひ一度遊んでみてください!