『The Star Named EOS』レビュー。手描きアートグラフィックの没入感マシマシなパズルアドベンチャー。写真とカメラをカギに、忘れられない記憶の旅へ

byありみち

『The Star Named EOS』レビュー。手描きアートグラフィックの没入感マシマシなパズルアドベンチャー。写真とカメラをカギに、忘れられない記憶の旅へ
 2024年7月23日にNintendo Switch、プレイステーション5(PS5)、Xbox Series X|S、PC(Steam)にて発売となった『The Star Named EOS ~未明の軌跡へ~』。本作は、『Behind the Frame 〜とっておきの景色を〜』を制作した、アカツキ台湾のインディーゲームスタジオSilver Lining Studioによる最新作です。

 Silver Lining Studioの持ち味でもある、手描きアート風のグラフィックの美しさは健在。さらに360度パノラマ技術によって、立体的で没入感のあるパズルアドベンチャーに仕上がりました。

 本稿では、『The Star Named EOS ~未明の軌跡へ~』のレビューと、本作のゲームディレクターを務めたWeichen Lin(ウェイチェン リン)氏のインタビューをお届けします。
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※本稿の画像はすべてPC版の画面を撮影したもの。※本稿はPLAYISMの提供でお送りします。

美しいグラフィックと歯応えありのパズルに裏打ちされたストーリー

 『The Star Named EOS ~未明の軌跡へ~』のゲームとしてのジャンルは、パズルアドベンチャー。このジャンルはパズルの部分にもストーリーを持たせないと構造として破綻してしまいがちですが、本作はパズルにもきちんと“物語”が感じられるようになっています。パズル要素とストーリーをつなぐ重要なカギが、主人公・デイの持つカメラです。
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母親から贈られたデイのカメラ。

 プレイヤーは若き写真家・デイとして、行方不明となっている母親の足跡を辿ります。母親も写真家であり、デイにとって写真やカメラは母親を象徴するものでもありました。

 旅行中の母親は、いつもデイに旅先で撮った写真と手紙を送ってくれていたのですが、その写真に“奇妙な違和感”を覚えたデイ。母親が送ってきた写真を辿り、その先に待つ真相を明らかにしていく、というのが本作のストーリーラインです。
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母親から送られてくる手紙はいつも写真つき。

360度、視点をぐりぐり動かせるのが楽しい

 前作『Behind the Frame 〜とっておきの景色を〜』がスタジオジブリ風のアニメ調グラフィックだとすれば、本作のグラフィックは同じ手描きアート風でも写実的だという印象を受けました。優しくノスタルジックでありながら、パキッとしている感じ。
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 そんな素敵な背景を、パノラマ技術によって360度ぐりぐりと動かせるのがめちゃくちゃ楽しい。システム的な“切れ目”がないので、ぐっと没入感が高まるんですよね。本作はVRゲームとしても楽しめそうなので、開発元に「出しませんか、VR版」と伝えたいところ。

ヒントなしの歯応え抜群なパズル

 なんと、本作にはいわゆるパズルの“ヒント機能”が搭載されておりません。

 これに気づいた筆者は、「大丈夫か、ちゃんとレビューできるところまでパズルを解いてゲーム進行できるのか」と内心冷や汗をかいていました。(『レイトン教授』シリーズではヒントメダルやひらめきコインに頼りっぱなしなタイプだったので……)。

 途中、くじけそうになりそうな場面はありましたが、なんとかゲームをクリアー。そう。クリアーできるんです。

 と言っても、パズル自体は簡単なわけではありません。公式的にも“中級者向け”を謳っておりますし、ひらめきが必要な部分も多々あります。難しいけどなんとかクリアーできる、この塩梅が絶妙です。
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 親切なゲームって、金庫の暗証番号を何回か間違えると「ヒントあるよ~」とシステムメッセージが出る、なんて設計になっていることもありますが、本作のシステムくんは静観を決め込んでいます。

 しかし、それが逆に没入感を生み出しているのも事実。ヒント表示があると強制的に“ゲームの世界”になりますからね。プレイ画面のUIを限界までそぎ落とした、という男気を感じます。カメラのファインダーを覗いて見る、というのも没入感をを高めるのにひと役買ってくれていると思います。
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謎解きにも使うカメラだが、もちろん風景を自由に撮影してもいい。

アドベンチャーの部分もおろそかにしない

 パズルアドベンチャーの“アドベンチャー”をおろそかにしない……というより、がっつりそこを重点的に描いているのが『The Star Named EOS ~未明の軌跡へ~』

 最初はパズルを解くことに夢中になるのですが、ある一点でガラリと雰囲気が変わります。起承転結の“転”がめちゃくちゃキレイに描かれている……筆者はかなり興奮しました。あの驚き、プレイする皆さまにもぜひ味わっていただきたいです。
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デイのスクラップ帳

開発者インタビュー:没入感を高め、ストーリー重視のパズル設計を心がけた

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Weichen Linウェイチェン リン

Silver Lining Studio所属。本作ではゲームディレクターを務める。(文中はウェイチェン)。

――本作の開発経緯をお教えください。

ウェイチェン
 Silver Lining Studioの前作『Behind the Frame 〜とっておきの景色を〜』は幸いにも皆様に愛されましたので、新作の『The Star Named EOS ~未明の軌跡へ~』はコンセプト立案から完成まで、2年以上の歳月をかけて磨き上げてきました。

 本作のストーリーは、写真を使ったパズルにもとづいたものです。このコンセプトはメンバーの幼少期の思い出から生まれました。 まだスマートフォンが普及していなかった当時、思い出はカメラのシャッターを切り、またプリントなどの工程を経て初めて手もとに届くものでした。そのような大切な感動をゲームの中でプレイヤーにも伝えられればと考えています。
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――本作でとくに注力したポイントを教えてください。

ウェイチェン
 本作で注力したポイントは、シャッターを切る体験です。ストーリーの主軸に呼応するように、より多様でパズル的なデザインを加えることで、プレイヤーがよりストーリーに入り込み、ストーリーにまつわる謎を解明することを期待しています。

 また、前作の360度パノラマビューを継承しつつ、よりドラマチックな光と影のエフェクトを試みました! これにより、光と影をとらえる“写真”というゲームプレイに、よりのめり込んでいただければ幸いです。
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――前作『Behind the Frame 〜とっておきの景色を〜』に引き続き、本作では手描きアートのグラフィックですが、進化した部分やこだわりポイントを教えてください。

ウェイチェン
 先ほどお話しした通り、本作では写真をテーマに、光と影の表現に重点を置いた作品制作を行っています。 そのため、各シーンには必ずと言っていいほど、窓の光、ランプの光、火の光など、強い主光源を配置し、光源によって周囲のオブジェクトの光や投影が変化するようにしています。 グローバルイルミネーションを採用した『Behind the Frame 〜とっておきの景色を〜』に比べ、本作は全手描きをベースにして、より大胆な試みも行われました。
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――360度パノラマ技術を取り入れようと思った経緯や、技術面で苦労した点があれば教えてください。

ウェイチェン
 プレイヤーに3Dの視角でゲームを体験すると同時に、2Dアニメのような繊細な演出を体験してもらいたいという思いがありました。そのため、キャラクターをステージの中央に固定し、360度パノラマ技術を採用することにしました。

 より多くのディテール、より多くの光線や構図をステージに導入する必要がありました。これによって、プレイヤーはゲームに没入し、自由に探索できるようになると同時に、脱出ゲーム的な体験に集中でき、シーン内のインタラクティブなオブジェクトの位置をより把握できるようになると考えています。
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――パズル、謎解きは難しめかなという印象を受けたのですが、ヒント表示をなくして中級者向けの難易度に設定した理由があれば教えてください。

ウェイチェン
 私たちは完全なる物語体験を最優先にして、どのようなゲームプレイ(たとえば、ヒントを与えるかどうかなど)にするかを決めます。作品全体の理念に合うように、インタラクションとカットシーンをゲームの主体として、やや難しいパズルを使用してプレイヤーを物語に引き込み、これにより皆さんが物語に没入し、そこから謎を解き明かすことを望んでいます。そして、無意味で単にプレイ時間を増やすだけのパズルを避けるために、できるだけすべてのパズルが物語と密接に関連するように多くの工夫を凝らしました。
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――カメラや写真を用いたパズルギミックが何度か登場しますが、このシステムを構築するまでにどこから着想を得たのでしょうか。また、パズルや謎を作るときに苦労した点、こだわったポイントがあれば教えてください。

ウェイチェン
 私たちのゲーム開発はつねに“よい物語を語る”ことを目標としてきました。そのため、プレイヤーの没入感を損なうようなパズル設計を避けることが非常に重要です。シナリオの概要が完成した後、プロトタイピングの段階で、パズルの種類や難易度の基準を大まかに計画し、おもな製作過程での設計の参考にします。

 また、“プレイヤーを困らせる”システムを提供することは、私たちが目指す体験のポイントではないことをつねに心に留めています。反省や達成感を提供し、単にゲームのプレイ時間を増やすだけのパズルを避けることが、パズル設計における重要な課題です。
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――没入感を高めるにあたり、BGMやSEにもこだわったと思います。ヒーリング、ノスタルジーなど、楽曲を制作する際にこだわったポイントがあれば教えてください。

ウェイチェン
 私たちが音楽を制作する際にもっとも重要視しているのは、“実録”を主とすることです。“人間味と感情”を作品に最大限に取り入れたいと思っています。また、幸運なことに、私たちが協力している作曲家やチームは非常にプロフェッショナルであり、双方が品質に妥協しないことが、作品を完璧にする鍵となっています。
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楽曲収録場面
――前作にも猫が登場していました。スタジオに猫好きの方がいらっしゃるのでしょうか。

ウェイチェン
 おもしろい質問ですね! 私たちのチームメンバーは皆、猫が大好きです。ゲームプロデューサーやイラストレーターなど、猫を飼っているメンバーもおり、猫に対して特別な愛情を抱いています。お互いに家の猫の日常のかわいらしい様子をよく共有するため、前後のふたつの作品に猫の要素を取り入れました。
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ウェイチェン家の猫2匹(写真左)とイラストレーター・リンダの猫(写真右)
――本作を楽しみにしている日本のゲームユーザーにメッセージをお願いします。

ウェイチェン
 2021年末に『The Star Named EOS ~未明の軌跡へ~』の制作情報が公開してから、本作を待ち遠しく思ってくださっていた皆様に感謝いたします。前作をプレイして本作を楽しみにしているプレイヤーも、新作で私たちを知ってくれた新プレイヤーも、『The Star Named EOS ~未明の軌跡へ~』を通じて何かを感じ取っていただければと思います。今回はとくに、有名な声優の悠木碧さんの協力を得て、日本語版の声を担当していただきました。日本のプレイヤーがより一層作品の魅力に浸れることを期待しています! 皆様の応援がチームの最大の原動力です。改めて皆様のご支援とご声援に感謝いたします。

『The Star Named EOS ~未明の軌跡へ~』

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  • 対応プラットフォーム:Nintendo Switch、PS5、Xbox Series X|S、PC
  • 発売元:PLAYISM
  • 開発元:Silver Lining Studio
  • 発売日:2024年7月23日発売
  • 価格:各1700円[税込]
  • ジャンル:パズルアドベンチャー
  • 対象年齢:IARC 3歳以上対象
  • 対応言語:日本語、英語、中国語(簡体字/繁体字)、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、韓国語、ロシア語、ウクライナ語
  • 備考:ダウンロード専売
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      集計期間: 2025年03月16日23時〜2025年03月17日00時