【FF14】メディアツアー『黄金のレガシー』吉田直樹P/Dインタビュー。新たなレイドはこれまでにないテイストの物語に。ストーリーから新ジョブまで『黄金のレガシー』の魅力を訊く

byコウ

byおしょう

【FF14】メディアツアー『黄金のレガシー』吉田直樹P/Dインタビュー。新たなレイドはこれまでにないテイストの物語に。ストーリーから新ジョブまで『黄金のレガシー』の魅力を訊く
 2024年7月2日に発売を控えた『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)の5つ目の拡張パッケージ『黄金のレガシー』。その発売に先駆け、日本・海外のメディア向けに“『ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー』メディアツアー”が開催された。

 そしてこのメディアツアーでは、新ジョブ・既存ジョブでの試遊や、新たな街やフィールド、ダンジョンなどを体験できたほか、
『FFXIV』のプロデューサー兼ディレクターである吉田直樹氏へのインタビューも行うことができた。発売直前となったいま、改めて『黄金のレガシー』のコンセプトや見どころ、ジョブの調整方針などをうかがったので、ぜひジョブやフィールドのリポートとあわせてチェックしてほしい。

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※インタビューにあたって試遊したバージョンは最終調整前のものであり、リリース時には大きく変更される可能性があります。

吉田直樹よしだなおき

スクウェア・エニックス 取締役/執行役員 クリエイティブスタジオ3 スタジオヘッド。2010年12月に『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターに就任。現在、『ファイナルファンタジーXVI』のプロデューサーも兼任している。文中は吉田。

吉田氏が語る“『黄金のレガシー』の最大の挑戦”とは

――今回のメディアツアーの冒頭では吉田さんのプレゼンテーションがあり、そこでは「『FFXIV』が運営10年目にして過去最高の月額課金会員数を記録している」ことのほか、「いまの『FFXIV』プレイヤーは、とても情熱的で世界一健全なプレイヤーコミュニティを築いている」とお話されていました。こちらについて具体的にお聞かせください。

吉田
 『漆黒のヴィランズ』以降のとある時期に、世界的なコンテンツクリエイター、いわゆるインフルエンサーたちの間で“『FFXIV』を遊んでみよう”というムーブメントが起こり、それと呼応する形で多くの新たな光の戦士がハイデリンに降り立ったことで、『FFXIV』にすさまじい熱狂が生まれました。もちろん、これは我々が狙ったものではなく、新型ウイルス感染症の流行によるゲーム需要拡大などの外的要因が絡み合うことで起きた、完全に予想外のブームでした。そのときのことを思い出すと、当時始めた人たちから「先輩冒険者たちに歓迎ムードがあり、礼儀正しく導いてくれた」といった感想が多く寄せられたことが強く印象に残っています。

 
現実では一般的な道徳観として、「己の行為はいつか自分に返ってくるものだから、友人だけでなく知らない人にも優しくしましょう」といった内容の格言をよく耳にします。ですが、それをMMORPGという電子世界の中で実践することは意外と難しいのです。それでも、『FFXIV』で遊ぶ世界中のベテラン冒険者たちは、“自分も『FFXIV』の世界の住人である”という自覚を持ってくださっていて、とにかく皆さんは優しいと感じます。

 先ほどのような初心者の声が届くたび、「プレイヤーのみなさんは、自分たちのコミュニティを誇りに思っているんだな」と強く感じ、僕も本当に嬉しくなります。さすがにいまはその頃までの熱狂的な状況ではなく、少し落ち着いていますが。

――それでも拡張パッケージの発売直前の時期としては、過去と比較してもかなりの数のプレイヤーが遊んでいる印象です。

吉田
 はい、たいへんありがたいですし、プレイヤー人口の変動については、とくに日本では『暁月のフィナーレ』リリース時期よりも、その後の時期のほうが人口は多くなっています。新規で冒険を始めた方が非常に多くいらしてくださいます。

――そこまで躍進した要因は何だと思いますか?

吉田
 前提として、MMORPGを遊ばないゲーマーに「なぜ遊ばないのか」という理由を尋ねると、「他人とパーティを組むのがわずらわしい、他人に迷惑をかけたくない」「パッケージ以外にお金を払いたくない」という2つの答えが大部分を占めます。それに対して『FFXIV』では、プレイヤーの皆さんのご協力や“コンテンツサポーター”などのシステム的サポートによって、前者のハードルを大きく下げることができました。

 
また、後者のサブスクリプションモデルの変更は現実的に不可能ですが、今ではフリートライアルで『紅蓮のリベレーター』部分までプレイ可能になっていますし、そのうえで“MMORPGでありながらひとりでも壮大な物語を楽しめる”という部分が刺さってくれれば、おのずと乗り越えていただけるラインまでこられたかなと感じています。スタンドアローンで物語を楽しめる、少人数やスモールコミュニティで遊べるコンテンツを増やす……いったんこれらにフォーカスして間口を最大限に広げたことが、プレイヤー人口の増加につながったのだと思います。

 MMORPGというジャンルが持つイメージのハードルの高さは、もっともっと下げないといけない、そう思ってきたので、ようやく少しはそこに近づけたかなと。もちろん、ここからは、今度はMMORPGが持つ本来のおもしろさ、「みんなで遊ぶ」をより拡充していきたいと思っています。

 
加えて、近年の『FFXIV』はさまざまなジャンルの企業様と手を組んで、多くの施策を断続的に行ってきましたから、その影響もとても大きいと思います。その際はパートナー企業で働く光の戦士の方が、会社と『FFXIV』チームとの橋渡しをしてくれたことも少なくなく、これらの施策もそういった方々の協力があってこそ実現できたのだと感じています。

 
もちろん、『FFXIV』の宣伝チームが先陣を切ってくれたことが大きいです。代理店にただ任せるだけではなく、自分たちで粘り強くパートナー企業とやり取りを繰り返してきました。 新たな顧客創出の場合、ターゲットも新たな切り口が必要で、既存プレイヤーの方に「それって『FFXIV』らしくないんじゃ?」と言われたとしても、間口を広げるためには、やはり目線や広告クリエイティブを大胆に変えることが大切です。同じ路線の広告を続けては、その路線にピンとこなかったお客様の眼には、永遠に留まらないからです。

 
こうして生まれた“光の戦士たちと『FFXIV』チームによる熱”が、全『FFXIV』プレイヤーの間で広がり、数々の施策の成功につながったのだと思います。こういった流れは、皆さんとともに『FFXIV』というコンテンツを長く続けてこられたからこそ生まれたものだと強く感じます。

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――『FFXIV』というコンテンツが持つ10年以上の歴史が、いまの盛り上がりや温かいコミュニティを築いているというわけですね。
吉田
 『FFXIV』を我が事のように考えてくださる方が世界中にたくさんいるのだと、いま改めて強く感じています。だからこそ新生10周年を超えたいまでも、お客様への感謝として、最高の物語とゲーム体験をお届けすることを第一に考えています。“信頼していただけるかどうかが先で、ビジネスはあとからついてくる”……これは『新生エオルゼア』のころから変わらない、『FFXIV』の普遍的なスタンスです。『黄金のレガシー』以降からは、これまで以上に皆さんへの感謝をお届けしていきたいと思っています。

――その内容を詳しくお聞かせ願えますか?

吉田
 『暁月のフィナーレ』に至るまで、コンテンツ数を増やすことが皆さんへの還元につながるだろうと、縦にも横にも遊びを広げていきました。もちろん、コンテンツ数が増えるというのが一番よいことですので、これはこれまで以上に継続していきます。

 しかし、この方向性は正解だったと思っていますが、遊びの実装スピードに対して得られるリワードが追い付いていなかったことは大きな反省点だと思っています。そこで現在の開発チームでは、ゲーム内の報酬のためのグラフィックリソース開発に割くライン数を、かなり増やしている最中です。皆さんが「欲しい!」と目指したくなる報酬をたくさん作ることで、さまざまなコンテンツを長く楽しんでもらえるようにできればと考えています。

――報酬の幅が広がれば、単純にモチベーションが高まりますね。

吉田
 引き続きゲームをしっかり開発/運営して、プレイヤーの皆さんに遊んでいただく。そこで得た利益をさらに『FFXIV』の新コンテンツ開発へと還元していく……今後は、このサイクルをよりよくしていこうと考えています。ゲーム開発の予算調整には会社の承認が必要ですが、会社としても『FFXIV』の展開に期待しているので、この方針に対する承認を得ることができました。サービスが10年を超えたMMORPGで、このようなお話をさせていただけるのも、本当に『FFXIV』を遊んでくれている光の戦士の皆さんのおかげです。そのご恩に報いるためにも、こうした利益の還元は意識して行っていきたいと思います。

――そういった施策も含め、『黄金のレガシー』は新たなステージに向かう第一歩になるかと思います。そのなかでも、吉田さんがとくに“挑戦した”と感じている要素は何でしょうか?

吉田
 一番の挑戦はストーリーなのですが、この挑戦は『暁月のフィナーレ』のころから続けていることでもあります。『暁月のフィナーレ』のストーリー展開は、3つぐらいの拡張パッケージに分割して出すこともできましたが、それは意図的にやりませんでした。それをしてしまうと、物語を体験するという意味でのインパクトが減ってしまいますし、なにより遊んでいて、「ああ、引き延ばしに入ったな」という感覚が芽生えてしまう危険性があると思っていました。そのため、『暁月のフィナーレ』でいったんすべてを出し切るという判断をしました。

 
そして、それを踏まえて新章開幕のストーリーを考えたときに、これまでの集大成である『暁月のフィナーレ』の規模感と比べてしまうと、“拡張の物語単体”では、絶対に越えられない壁があることもわかっていました。だからこそ、『暁月のフィナーレ』というピークに続く新章では、あえて“世界観や敵の強さのインフレ”を起こさないように注意しています。どちらかといえば、冒険世界を広げることに重きを置こうと考えました。

 『黄金のレガシー』のストーリーでは、プレイした皆さんに、「ああ、世界は広くて、別の惑星まで足を伸ばさなくても、さまざまな価値観を見て、聞いて、感じることがまだまだたくさんあるんだ。そして、その先には見たこともない新しい冒険もあるんだろうなあ」と感じていただけたら嬉しいです。パッチ7.0は、その一歩目というイメージで物語を作っています。

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――エメトセルクの「私は、見たぞ」の言葉が思い出されます。
吉田
 『黄金のレガシー』のストーリーは、『暁月のフィナーレ』のようにサーガのクライマックスへ向けて急角度でテンションが上がっていくものではなく、むしろ「前よりテンションが下がった」と感じる方がいるかもしれません。しかし、いつか来る次なるクライマックスで、“ハイデリン・ゾディアーク編”を超えるジェットコースターのような躍動を生み出すためには、まずは地道にレールを登っていくことが大切だと考えています。

 
もちろん、手法としては別宇宙やマルチバースを持ち出すこともできたと思うのですが、急にやるとそれはそれで醒めてしまいます。そういったところへつながっていくにせよ、説得力は必要です。まずは、ワールドワイドな挑戦に挑めるだけの広い世界を、どっしりと腰を据えて作っていくことが大事だと判断しました。……と、ここまで長くなってしまいましたが、“『FFXIV』の世界を広げていくその第一歩を踏み出したこと”。これが『黄金のレガシー』の最大の挑戦で、今後につながるスタートだと思っています。

――第一歩にして、“ソリューション・ナイン”のような「これはどこなんだ!?」という謎の場所も発表されていますが……(笑)。

吉田
 そうは言っても驚きは必要ですので……(笑)。拡張パッケージの新シナリオとしての驚きの展開はもちろんありますし、さらにその先も広がっていきます。発売前のトレーラーなどでも、その一端が見えてくるかもしれませんので、楽しみにしていただければと思います。

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7.Xシリーズではジョブを大きく変えず、コンテンツの歯応えをアップ

――つぎにパッチ7.Xシリーズのコンセプトについてですが、すでに“マルチプレイの強化”、“多人数コンテンツの拡充”、“遊び応えの強化”、そして“報酬の強化”という4つが掲げられています。改めて、これらのコンセプトの詳細を教えてください。

吉田
 これらのコンセプトは、『FFXIV』の既存プレイヤーと、潜在的にプレイヤーになる可能性がある方の、両者に向けた施策として掲げたものです。また、パッチ7.Xシリーズだけに留まらず、これからの10年間で目指すべき指針として、この先の拡張パッケージを跨ぐことも想定した長期的な計画としています。

 そのうえで先ほどのお話ともつながりますが、ソロ~少人数へのシステム的なサポートが目標水準に達したことで、昨今は「以前は苦手だったけれど、ダンジョンくらいならパーティを組める」という人も増えてきました。これからは、その「ダンジョンぐらいなら」の意識を集合させることで、“多くの人たちがひとつのコンテンツで盛り上がる”という形につなげていくなど、MMORPGらしい本来の遊び方を、いろいろな角度で広げていきたいと考えています。

――『暁月のフィナーレ』のころとは、また違った印象のコンテンツが増えていくということでしょうか?

吉田
 具体的には、多人数で挑むコンテンツのおもしろさを、より追求していこうと考えています。例えば“禁断の地 エウレカ”やその中のバルデシオンアーセナル、 “南方ボズヤ戦線”のような「広大なフィールドで遊んでいる人たちが協力し合う」という方向性の新企画も、開発が始動しています。フィールド探索型コンテンツはこれで3度目なので、これまでのノウハウを活かしつつ、より新鮮なゲーム体験を提供できると思っています。ほかにも皆さんの力で惑星を開拓していく“コスモエクスプローラー”や、これまでにないタイプのやや難度の高いコンテンツなど……と、これ以上話していると言ってはいけないことが口からこぼれそうなので、ここまでにしておきます(笑)。

――ぜひその先を聞きたかったです(笑)。

吉田
 こういった新しい試みを取り入れていくことも、さきほどの“利益の還元”につながると考えています。現役で遊んでくださっている方々に楽しんでいただくのはもちろん、『FFXIV』を休止している人たちが「帰ってみようかな」と思うきっかけになってくれると嬉しいです。人が増えたことでプレイヤーコミュニティもより活発になってきているので、友だち同士で声を掛け合ってワイワイと遊んでもらえれば幸いです。

 それに加えて遊び応えの強化としては、コンテンツ全体がカジュアルなバランスに寄っていたことの見直しも行っていきます。ただし、カジュアルに遊べること自体はよいことですから、その部分を失くすのではなく、“もう少しだけプレイヤーの皆さんが工夫する余地を作る”、“上級者がより高みを目指せるようにする”といった要素を段階的に増やしていくイメージです。これはコンテンツそのもの、というよりは、コンテンツを作る際のニュアンスのようなものです。

――カジュアルな部分は残しつつ、上級者が歯応えを感じられるようコンテンツを作っていくと。

吉田
 そこを目指すにあたって、7.Xシリーズからはコンテンツの作り方そのものを少し見直しました。というのも、近年のコンテンツ制作現場では、とにかく“ポジティブな印象で遊んでもらうため、ストレスが増える要素を極力排除していこう”という考えが強く働くようになっていました。これ自体はまったく悪いことではないのですが、客観的に見ると開発のやりかたとして、やり過ぎた場合マイナスな部分もあると感じたのです。

 例えば、新人の企画担当者がコンテンツのアイデアを出したときに、「過去に同じようなギミックを実装したけれど、プレイヤーの評判がすごく悪かったから止めよう」という“止め”がかかることがありました。これは、新人の担当者が悪い評判を受けて傷つくのを防ぐ、という善意からくるものでしょうし、僕もその気持ちはわかります。ですが、「止める」という判断の手前があってもよかったのかもしれないな、と。あまりに保守的になりすぎると進化も見込めないからです。

――なるほど。

吉田
 せっかく出たいいアイデアが形にならないのはもったいないですし、実装後の評判が悪かった例があるのなら、それを経験として消化して新しい企画に活かすほうが肝要です。おもしろそうなアイデアを、リスクがあるからと言って形にしないという選択は、開発者としてはよくないとも感じますので、“アイデアを予想で放棄しないようにしましょう”という意識共有を行いました。これは、長年開発を全力で続けている『FFXIV』だからこそ起こる問題かもしれません。

 結果、その後の会議ではより活発に意見交換が行われるようになったと感じます。例えば“特定の対象を誘導するギミック”については、僕のように「“誘導中にも誘導をうまく行って、攻撃と両立させる”という要素は、プレイヤースキルの見せどころだから好き」という人もいれば、「ジョブの貢献度やターゲットサークルの大きさによる影響など、派生する問題が多いから好きじゃない」という人もいて、本当にいろいろな意見が飛び交いました。さらに「あれもやってみたい、これもやってみたい」という声が出ているのを見て、こっちのほうが絶対に健全だなと感じたのを覚えています。

 
コンテンツ攻略も、同じパターンの繰り返しでは達成感が得られません。それよりは「このギミックおもしろいと思うんだけど、どうだろうか?」と、プレイヤーに対して新しい体験を提供していったほうが、はるかによいものが生まれると思うのです。たしかに、ときには不評を買ってしまうギミックがあるかもしれません。ですが、それも含めて“バラエティに富んでいるからこその『FFXIV』”だと思っています。

――その方向性は7.0の時点でも反映されているのでしょうか?

吉田
 メインクエストをクリアーするうえでのダンジョンには、そこまで大きな変化は感じないように数値バランスは維持しています。被ダメージアップのデバフを受けた状態で2つの攻撃を同時に受けたら戦闘不能になる……ぐらいの数値バランスです。ただ、新しいギミックや新鮮な体験が待っているので、以前のようにギリギリまで攻撃しようと粘っていると、慣れないうちは少し危険かもしれません(笑)。

 ですので、パッチ7.0でのバトルコンテンツの変化については、エキスパートダンジョンでやっと片鱗が見え始めるぐらいだと思います。僕的にも「一発目のエキスパだしな、うむむ?」と悩む程度のバランスになっているので、「よし、やるか!」、「そういえばエキスパートダンジョンという名前だったっけ」くらいの気持ちで挑んでもらえればと思います。

――それを聞くと、昔のHARDダンジョンが思い出されますね。

吉田
 ただし、高難度というカテゴリではありませんので、見たことがないギミックに戸惑いながらも、「安地はあっちだったか~!」といった発見が楽しくなるものにしています。最近のダンジョンは、そういった手ごたえも少々薄れてきてしまっていたかなと。

 またレベル100になってからのレイドについても、単純に難しいものではなく“歯応えのある”ように設計し直しました。数値の設定を難しくするのではなく、手応えや新鮮さがメイン。とくに今回の8人レイドは、いままでにないテイストのストーリーでもありますので、「へぇ、こういうのもアリなのね」と感じていただけると嬉しいです。そのうえでパッチ7.1以降は、もっと多くの新しいアイデアが盛り込まれていくと思いますので、今後にもご期待ください。

――それは楽しみです!

吉田
 一方でジョブについては、7.X中のあいだは遊び応えを大きく変えることや、より個性を際立たせることを控えました。これは、コンテンツ側の制作意識をある程度変更したので、同時にジョブにも変更を加えると変化が大きくなりすぎて、コンテンツの体感的な難易度が上がりすぎてしまう可能性があったためです。

――たしかに、ジョブもガラリと変わってしまうと、急勾配の変化に戸惑いそうです。

吉田
 レベル100というせっかくの節目ですので、これまでの操作感を尊重しつつブラッシュアップしたジョブで、新しいコンテンツを遊んでいただければ、と。その後、タイミングを見てジョブの個性をもう少し突き詰めるフェーズに入ろうと考えています。

――既存ジョブについては、黒魔道士のサンダー系魔法のProcがなくなる、占星術師のカードが固定化するなど、ランダム性が薄くなっている印象です。これにはどのような狙いがあるのでしょうか?

吉田
 工夫の余地を残しつつ、戦術をより安定させることを重視した結果です。例えば、パッチ6.Xまでのサンダー系魔法のProc効果は、もとのデバフ効果時間ギリギリを狙って使わないとダメージ効率が落ちてしまうのですが、そもそもその仕様が初心者には非常に難解でした。

 
黒魔道士は『ファイナルファンタジー』シリーズを代表するジョブのひとつですし、本来は始めたばかりの人が遊んでみたくなるジョブだと思うのです。ですが、いざ触って見るとスキルローテーションは煩雑かつパターンも多くてわかりにくい。開幕ローテーションだけでも何種類もあり、しかもコンテンツによって最適解が変わる場合もある。このわかりにくさは、個人の工夫の域を逸脱していると感じました。今回、その部分を改修し、一段階わかりやすさを上げたというイメージです。

 ただし、サンダー系魔法を固定ローテーションで撃つだけだと、ファイジャの使用回数が減ってしまうように設計しています。これにより、サンダー系魔法の効果時間とコンテンツのタイムラインを見比べながら、行動を取捨選択することが重要になりました。また、アンブラルブリザードによるMP回復も氷系魔法の使用で回復するようになったので、マナフォントの適切な使用タイミングもコンテンツによって変化します。これらの調整により、“黒魔道士としての練度”を感じられるシステムにできたかと思います。

 と、ここでは例として黒魔道士をあげましたが、ほかのジョブの調整についても、“基本をマスターしたうえで、そこから自分なりの工夫をどう加えていくか”というところに帰結させました。占星術師のケースでは、“どのカードをいつ、誰に使うのか”という部分がパーティやコンテンツによって左右されるので、ランダム性が完全にゼロになったわけではありません。60秒ごとにカードを4枚セットで引けるので、回復効果のカードを使うことで攻撃のチャンスを作るなど、どのタイミングでどのカードを選ぶか。

 その判断こそが占星術師としての腕の見せどころになります。このように乱数によるランダム性は減らしつつも、プレイヤースキルが生きる部分については意図的に幅広くなるよう調整しています。

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――プレイヤーの動きの幅という意味では、バフ系のアクションをトリガーとする攻撃アクションが増えたことで、スキルローテーションに柔軟性が生まれたように感じました。
吉田
 そこは、バトルにおけるいわゆる“シナジー合わせ”の比重を減らしたいという狙いがあります。シナジー合わせをタイムラインの中心に据えてしまうと、誰もが似たようなスキルローテーションになってしまいますし、なによりジョブの個性が薄れてしまいます。プレイヤーの方々からのフィードバックでも、これ以上のジョブ性能の平均化を望まない声を多くいただいていますし、僕自身もそれぞれで違ったゲーム体験があったほうが楽しいと感じるタイプです。そういった意図から、“ジョブごとにベースとなる動きを用意したうえでコンテンツに合わせて個人が工夫をしていく”という形を重視しました。

 ダメージ軽減アクションの効果時間を長くしたのも同じような理由からです。敵の技に対してかなり前倒しして使えるようになったので、操作が忙しくなる前に使っておくことでギミックとじっくり向き合う時間が生まれると思っています。

――リプライザルや牽制、アドルの効果時間延長には、そういった意図があったのですね。

吉田
 この方針は開発チームにもメリットがあり、プレイヤー側の操作に余裕を持たせることで、我々もあの手この手で斬新なアイデアを出していけることになります。ですので、お互いがWin-Winになるいい落としどころを見つけられたらと思っています。

ふたつの新ジョブそれぞれのコンセプト

――つぎに、新ジョブであるヴァイパーとピクトマンサーのコンセプトを改めて教えてください。

吉田
 ヴァイパーのコンセプトは、ストレートに“正統派の二刀流剣士”です。じつは、世界中の光の戦士から「『ソードアート・オンライン』のキリトのようなジョブがほしい」といったメッセージが多く寄せられていて……。その熱い想いに応えるためにも、“二刀流による手数が多い攻撃を得意とし、攻めるほどに加速していく”というスタイリッシュな気持ちよさを目指しました。

――同じ二刀流でも、忍者とは明確に違う攻撃モーションですよね。

吉田
 こういうモーションのカッコよさは、本来、必殺技の直後にある“キメ”に集約されると思います。ただ、この“キメ”アクションを単にスキルローテーションの中に組み込んでも、ローテーションである以上キメが作れずに、求められるインパクトは得られないので、そこは祖霊降ろしからの専用コンボで表現されています。

 触り心地に関しては、開発チームが本当にうまく調整してくれていて、ヴァイパーを操作しているときの没入感はハンパないものになっています。僕自身もヴァイパーのテストプレイのとき、楽しくなりすぎてギミックの対処を忘れてしまったことがあったくらい(苦笑)。

――実際に触らせてもらいましたが、その感覚はすごくわかります。

吉田
 この没入感のために、ヴァイパーはホットバーに収まるアクション数を少なめにしつつ、アクションの置き換えを更に進化させた仕組みを実装し、多数のコンボルートを作ることができました。コンボルートも“光ったアクションを使えばOK”というようにシンプルに明示されます。そしてそれと同時に、“自分の状態とコンボルートのラストにある方向指定を瞬時に判断する”という、プレイヤー自身の熟練度が反映される部分も用意しています。

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――もうひとつの新ジョブであるピクトマンサーについてはいかがでしょう。
吉田
 ピクトマンサーは、もともと『ファイナルファンタジーVI』のキャラクターであるリルムのジョブで、バトル中に敵を写生するという戦いかたが印象的でした。じつは、けっこう前から「つぎに遠隔魔法DPSを追加するならピクトマンサーかな」と、開発内でアイデアが出ていたものでもあります。

 
とはいえ、オリジナルのピクトマンサーは“目前のモンスターの能力をコピーして放つ”というシンプルな遊びのジョブですので、そのままを実装しても『FFXIV』としては苦しいなと……。

 そこで、まず“絵を描いて戦う”という要素を飛躍させて、“自分の想像力で描いたものを具現化し、そこから力を引き出す。あるいはさらに具現化したものを組み合わせて新たな想像力を絵として表現する”というジョブコンセプトを作り出しました。せっかくパレットを持っているので、広げた3色の絵の具を混ぜて新しい色の効果を生み出したり、サブトラクティブパレットによって色をひっくり返したりといった遊びも取り入れました。

 また、遠隔魔法DPSをやってみようと思ったときに、“ギミック対処による移動で詠唱が中断してしまうこと”をわずらわしく感じる人がいることは理解しています。ピクトマンサーにもその要素はあるものの、一方でハンマースタンプなどの魔法はキャストなしで発動できます。さらに、この魔法は発動条件を満たした状態でしばらく保持しておけるので、黒魔道士の三連魔のような使い方もできます。

 ほかにも、ストックしておける無詠唱魔法が5つもあるので、コンテンツに対してはかなりフレキシブルに対応できるのではないでしょうか。しかも、決まったスキルローテーションで動かすのではなく、各魔法をバラバラに組み合わせることもできるところが、ピクトマンサーの強みであり、おもしろさだと思います。

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――絵を描くアクションは、非戦闘時であれば一瞬ですが、戦闘中は長い詠唱時間が必要です。また、絵を描くこと自体にダメージが伴わないので、隙を突いて絵画を描き続けてリキャストを無駄にしないことが重要になりそうです。
吉田
 その通りです。ピクトマンサーは、絵を描く際のアクションにダメージがないかわりに、その後に発動できる魔法の威力が高くなっています。そのため、同じ時間帯で見た場合のダメージは、ほかのジョブと同等になっているので安心してください。ただし、そのぶん絵を描くアクションのリキャストを無駄にするとダメージが大きく落ちるので、きちんと絵を描いていただければ……。

――筆を止めてはならないと(笑)。

吉田
 それぐらい、ピクトマンサーにとって絵を描くタイミングはとても重要なのです。リキャストを無駄にしないように、迅速魔を活用したり、攻撃できない一瞬を見極めてイレギュラー的に絵を描いたりと、いかに適切なタイミングで筆を走らせるかが腕の見せどころというジョブになっています。

――試遊でも、迅速魔のありがたみをすごく感じました。

吉田
 8人で挑むバトルコンテンツなどでは、「思ったより描けるな」と思えるバランスにはなっていると思います。

グラフィックスアップデートの成果、そして新たな方向性のサウンドコンセプトとは

――続いて、グラフィック全般についてお聞きします。メディアツアーでは、ひとつの街とふたつのフィールドを探索できましたが、そのどれもが本当に美しく、グラフィックスアップデートの効果を強く感じました。とくに遠くの景色の見え方がこれまでと大きく違っていて印象的でした。

吉田
 遠景については、間接的に使えるメモリサイズが増えたことが大きいです。というのも、これまでは少ないメモリサイズで大きなエリアをローディングなしで動けるようにするため、少ないテクスチャーを細かく描き分けて多重に貼ったり、引き伸ばしたりして誤魔化していた部分がありました。

 ですが、今回は床のテクスチャー解像度が上がったことで、その苦労がなくなっています。そしてそのぶんのテクスチャーを、遠景の解像度を高めるために使えるようになったというわけです。さらに終盤のフィールドは技術的挑戦も多かったので、プレイ時はそのあたりも驚きとともに見ていただけると嬉しいです。

――キャラクターやフィールドだけでなく、ジョブのアクションのエフェクトもすごく綺麗になっていて、グループポーズがかなり映えました。

吉田
 担当者たちは、表現できることが増えた喜びが半分、制作のたいへんさによる悲しみが半分という心境だったでしょうが、最終的には喜びが勝ってくれたかなと……。「高解像度になるなら一気に差し替えちゃおう」と、進んで手を入れてくれました。

 これは宣伝チームから伝え聞いた話ですが、いつものメディアツアーなら皆さんまずジョブを触りだすのに対し、今回は最初にフィールドを見て回る方もかなり多かったようです。拡張パッケージで最初に世界の景観に注目が集まることは少ないので、その話をBG班に伝えたらすごく喜んでいました。

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――それだけ風景の印象は鮮烈だったと思います。なお、今回のグラフィック全般のコンセプトはどのようなものでしょうか。
吉田
 『黄金のレガシー』では、種族、価値観、食生活、文化、宗教観、死生観などについて、これまでとは大きく異なる風土を徹底して設定し、描きました。そういったものは、さまざまなオブジェクトの生活感にも表れています。例えば、とある集落のテーブルのチェックをしていたとき、その画面を見ていた別エリアの担当者が「そこにメロンがあるのはおかしいです。この時代・この地域にメロンは育ちません」と指摘を入れてくれたことがありました。

――果物ひとつについても、トラル大陸の設定が細部まで練られている証左ですね。

吉田
 ちょっと手前味噌ですが、「担当じゃないから黙っておこう」とか「担当者が面倒くさくなるだろうから言わないでおこう」ではなく、このようにしっかりと問題点を指摘できるのも『FFXIV』チームのいいところだと思っています。開発メンバーが全員光の戦士だからこそかもしれません。

――そういったことの積み重ねが、ゲームの没入感を生み出していくと。

吉田
 また、グラフィックアップデート関連でお話しておきたいのですが、改めて『黄金のレガシー』のベンチマークではキャラクタークリエイトの部分で大きなミスを犯してしまい、誠に申し訳ありませんでした。

 ち
なみにその修正とあわせて本編開発の追い込みのなか、開発チームにも「現実装段階でよい点、気になる点などあれば、僕にメールをください」と伝えたのですが、それからすぐに膨大な数のメールが送られてきまして……。しかも、全員が『FFXIV』開発者ですので、現公開環境、前回のベンチ環境、新環境それぞれのスクリーンショットを貼り、図解で解説するなど、とにかく届く資料の精度がものすごかったのが印象的でした。プレイヤーの皆さんや開発者の実体験からのフィードバックは本当に助かっています。

 
ベンチマークソフトの修正版リリースは、どうしても『黄金のレガシー』本編よりも先になるため、修正版でもカバーしきれなかった部分や、それでも漏れてしまった不具合やミスは、引き続き本編に向けて修正と調整、クオリティーアップをしていきます。

――グラフィックについての話題が多くなってしまいましたが、試遊では音楽も印象的で、とくに街で流れる曲がジャズ調だったのが新鮮でした。

吉田
 今回の街のBGMは、さまざまな民族がひとつの国で生活しているという一体感を表現することを目指しました。その結果、多くの楽器がセッションしてひとつの作品を奏でるジャズというジャンルがよいのではないかということで、石川(シニアストーリーデザイナーの石川夏子氏)が祖堅(サウンドディレクターの祖堅正慶氏)に発注して生まれたものです。

――なるほど! そのようなコンセプトがあったのですね。

吉田
 ちゃんと音楽に耳を傾ければしっかりしたメロディーとセッションが聴こえてきますが、意識せずにいると街の喧騒やざわめきにも聴こえるという、いいバランスになっていると思います。意識すればリズムにノれて、意識しなくても邪魔にならない塩梅は、僕もすごく気に入っている部分です。もちろん音楽については、ほかにも祖堅の新しい挑戦によってたくさんの楽曲が用意されていますので、ぜひご期待ください。

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――最後に、『黄金のレガシー』を心待ちにしている光の戦士たちに向けて、メッセージをお願いします。
吉田
 現実の世界にはさまざまな英雄譚があり、“英雄のその後”を描かずに終わる物語も数多くあります。僕としては、それはそれで潔くて好きなのですが、『FFXIV』の光の戦士の冒険はまだまだ続いていきます。そして今回は『漆黒のヴィランズ』や『暁月のフィナーレ』のような、“世界を救う”という大目標に向かって一致団結するような物語とは違った冒険が展開していきます。

 その冒険の中では「こういう考えもあるのか」と感じるような世界の広さや、価値観の多様性を描きつつ、とくに“善悪”という、立場によって変化するあやふやな境界に焦点を当てました。そして、その道にはきっと英雄でなければ越えられないような壁も出てくるでしょうし、それを乗り越えた先にはまた新しい発見が待っています。とはいえ、まずは英雄ではなくひとりの冒険者として肩の力を抜きつつ、「トラル大陸でバカンスだ!」といったノリでトラル大陸を観光していただければ幸いです。

 
また、グラフィックスアップデートをはじめとして、これから先の10年を見据えて、今後も開発と運営に邁進していきます。それらを肌で感じながら、改めて「『FFXIV』の世界はずいぶん広がったな、まだまだいろいろな描きかたがあるな」と感じてもらえると嬉しいです。そして、続く20周年を迎えるためにも、これから先の『FFXIV』をワクワクしながら遊んでいただければ幸いです!
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