そしてこのメディアツアーでは、新ジョブ・既存ジョブでの試遊や、新たな街やフィールド、ダンジョンなどを体験できたほか、『FFXIV』のプロデューサー兼ディレクターである吉田直樹氏へのインタビューも行うことができた。発売直前となったいま、改めて『黄金のレガシー』のコンセプトや見どころ、ジョブの調整方針などをうかがったので、ぜひジョブやフィールドのリポートとあわせてチェックしてほしい。
吉田直樹(よしだなおき)
スクウェア・エニックス 取締役/執行役員 クリエイティブスタジオ3 スタジオヘッド。2010年12月に『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターに就任。現在、『ファイナルファンタジーXVI』のプロデューサーも兼任している。文中は吉田。
吉田氏が語る“『黄金のレガシー』の最大の挑戦”とは
現実では一般的な道徳観として、「己の行為はいつか自分に返ってくるものだから、友人だけでなく知らない人にも優しくしましょう」といった内容の格言をよく耳にします。ですが、それをMMORPGという電子世界の中で実践することは意外と難しいのです。それでも、『FFXIV』で遊ぶ世界中のベテラン冒険者たちは、“自分も『FFXIV』の世界の住人である”という自覚を持ってくださっていて、とにかく皆さんは優しいと感じます。
先ほどのような初心者の声が届くたび、「プレイヤーのみなさんは、自分たちのコミュニティを誇りに思っているんだな」と強く感じ、僕も本当に嬉しくなります。さすがにいまはその頃までの熱狂的な状況ではなく、少し落ち着いていますが。
――それでも拡張パッケージの発売直前の時期としては、過去と比較してもかなりの数のプレイヤーが遊んでいる印象です。
――そこまで躍進した要因は何だと思いますか?
また、後者のサブスクリプションモデルの変更は現実的に不可能ですが、今ではフリートライアルで『紅蓮のリベレーター』部分までプレイ可能になっていますし、そのうえで“MMORPGでありながらひとりでも壮大な物語を楽しめる”という部分が刺さってくれれば、おのずと乗り越えていただけるラインまでこられたかなと感じています。スタンドアローンで物語を楽しめる、少人数やスモールコミュニティで遊べるコンテンツを増やす……いったんこれらにフォーカスして間口を最大限に広げたことが、プレイヤー人口の増加につながったのだと思います。
MMORPGというジャンルが持つイメージのハードルの高さは、もっともっと下げないといけない、そう思ってきたので、ようやく少しはそこに近づけたかなと。もちろん、ここからは、今度はMMORPGが持つ本来のおもしろさ、「みんなで遊ぶ」をより拡充していきたいと思っています。
加えて、近年の『FFXIV』はさまざまなジャンルの企業様と手を組んで、多くの施策を断続的に行ってきましたから、その影響もとても大きいと思います。その際はパートナー企業で働く光の戦士の方が、会社と『FFXIV』チームとの橋渡しをしてくれたことも少なくなく、これらの施策もそういった方々の協力があってこそ実現できたのだと感じています。
もちろん、『FFXIV』の宣伝チームが先陣を切ってくれたことが大きいです。代理店にただ任せるだけではなく、自分たちで粘り強くパートナー企業とやり取りを繰り返してきました。 新たな顧客創出の場合、ターゲットも新たな切り口が必要で、既存プレイヤーの方に「それって『FFXIV』らしくないんじゃ?」と言われたとしても、間口を広げるためには、やはり目線や広告クリエイティブを大胆に変えることが大切です。同じ路線の広告を続けては、その路線にピンとこなかったお客様の眼には、永遠に留まらないからです。
こうして生まれた“光の戦士たちと『FFXIV』チームによる熱”が、全『FFXIV』プレイヤーの間で広がり、数々の施策の成功につながったのだと思います。こういった流れは、皆さんとともに『FFXIV』というコンテンツを長く続けてこられたからこそ生まれたものだと強く感じます。
――その内容を詳しくお聞かせ願えますか?
しかし、この方向性は正解だったと思っていますが、遊びの実装スピードに対して得られるリワードが追い付いていなかったことは大きな反省点だと思っています。そこで現在の開発チームでは、ゲーム内の報酬のためのグラフィックリソース開発に割くライン数を、かなり増やしている最中です。皆さんが「欲しい!」と目指したくなる報酬をたくさん作ることで、さまざまなコンテンツを長く楽しんでもらえるようにできればと考えています。
――報酬の幅が広がれば、単純にモチベーションが高まりますね。
――そういった施策も含め、『黄金のレガシー』は新たなステージに向かう第一歩になるかと思います。そのなかでも、吉田さんがとくに“挑戦した”と感じている要素は何でしょうか?
そして、それを踏まえて新章開幕のストーリーを考えたときに、これまでの集大成である『暁月のフィナーレ』の規模感と比べてしまうと、“拡張の物語単体”では、絶対に越えられない壁があることもわかっていました。だからこそ、『暁月のフィナーレ』というピークに続く新章では、あえて“世界観や敵の強さのインフレ”を起こさないように注意しています。どちらかといえば、冒険世界を広げることに重きを置こうと考えました。
『黄金のレガシー』のストーリーでは、プレイした皆さんに、「ああ、世界は広くて、別の惑星まで足を伸ばさなくても、さまざまな価値観を見て、聞いて、感じることがまだまだたくさんあるんだ。そして、その先には見たこともない新しい冒険もあるんだろうなあ」と感じていただけたら嬉しいです。パッチ7.0は、その一歩目というイメージで物語を作っています。
もちろん、手法としては別宇宙やマルチバースを持ち出すこともできたと思うのですが、急にやるとそれはそれで醒めてしまいます。そういったところへつながっていくにせよ、説得力は必要です。まずは、ワールドワイドな挑戦に挑めるだけの広い世界を、どっしりと腰を据えて作っていくことが大事だと判断しました。……と、ここまで長くなってしまいましたが、“『FFXIV』の世界を広げていくその第一歩を踏み出したこと”。これが『黄金のレガシー』の最大の挑戦で、今後につながるスタートだと思っています。
――第一歩にして、“ソリューション・ナイン”のような「これはどこなんだ!?」という謎の場所も発表されていますが……(笑)。
7.Xシリーズではジョブを大きく変えず、コンテンツの歯応えをアップ
そのうえで先ほどのお話ともつながりますが、ソロ~少人数へのシステム的なサポートが目標水準に達したことで、昨今は「以前は苦手だったけれど、ダンジョンくらいならパーティを組める」という人も増えてきました。これからは、その「ダンジョンぐらいなら」の意識を集合させることで、“多くの人たちがひとつのコンテンツで盛り上がる”という形につなげていくなど、MMORPGらしい本来の遊び方を、いろいろな角度で広げていきたいと考えています。
――『暁月のフィナーレ』のころとは、また違った印象のコンテンツが増えていくということでしょうか?
――ぜひその先を聞きたかったです(笑)。
それに加えて遊び応えの強化としては、コンテンツ全体がカジュアルなバランスに寄っていたことの見直しも行っていきます。ただし、カジュアルに遊べること自体はよいことですから、その部分を失くすのではなく、“もう少しだけプレイヤーの皆さんが工夫する余地を作る”、“上級者がより高みを目指せるようにする”といった要素を段階的に増やしていくイメージです。これはコンテンツそのもの、というよりは、コンテンツを作る際のニュアンスのようなものです。
――カジュアルな部分は残しつつ、上級者が歯応えを感じられるようコンテンツを作っていくと。
例えば、新人の企画担当者がコンテンツのアイデアを出したときに、「過去に同じようなギミックを実装したけれど、プレイヤーの評判がすごく悪かったから止めよう」という“止め”がかかることがありました。これは、新人の担当者が悪い評判を受けて傷つくのを防ぐ、という善意からくるものでしょうし、僕もその気持ちはわかります。ですが、「止める」という判断の手前があってもよかったのかもしれないな、と。あまりに保守的になりすぎると進化も見込めないからです。
――なるほど。
結果、その後の会議ではより活発に意見交換が行われるようになったと感じます。例えば“特定の対象を誘導するギミック”については、僕のように「“誘導中にも誘導をうまく行って、攻撃と両立させる”という要素は、プレイヤースキルの見せどころだから好き」という人もいれば、「ジョブの貢献度やターゲットサークルの大きさによる影響など、派生する問題が多いから好きじゃない」という人もいて、本当にいろいろな意見が飛び交いました。さらに「あれもやってみたい、これもやってみたい」という声が出ているのを見て、こっちのほうが絶対に健全だなと感じたのを覚えています。
コンテンツ攻略も、同じパターンの繰り返しでは達成感が得られません。それよりは「このギミックおもしろいと思うんだけど、どうだろうか?」と、プレイヤーに対して新しい体験を提供していったほうが、はるかによいものが生まれると思うのです。たしかに、ときには不評を買ってしまうギミックがあるかもしれません。ですが、それも含めて“バラエティに富んでいるからこその『FFXIV』”だと思っています。
――その方向性は7.0の時点でも反映されているのでしょうか?
ですので、パッチ7.0でのバトルコンテンツの変化については、エキスパートダンジョンでやっと片鱗が見え始めるぐらいだと思います。僕的にも「一発目のエキスパだしな、うむむ?」と悩む程度のバランスになっているので、「よし、やるか!」、「そういえばエキスパートダンジョンという名前だったっけ」くらいの気持ちで挑んでもらえればと思います。
――それを聞くと、昔のHARDダンジョンが思い出されますね。
またレベル100になってからのレイドについても、単純に難しいものではなく“歯応えのある”ように設計し直しました。数値の設定を難しくするのではなく、手応えや新鮮さがメイン。とくに今回の8人レイドは、いままでにないテイストのストーリーでもありますので、「へぇ、こういうのもアリなのね」と感じていただけると嬉しいです。そのうえでパッチ7.1以降は、もっと多くの新しいアイデアが盛り込まれていくと思いますので、今後にもご期待ください。
――それは楽しみです!
――たしかに、ジョブもガラリと変わってしまうと、急勾配の変化に戸惑いそうです。
――既存ジョブについては、黒魔道士のサンダー系魔法のProcがなくなる、占星術師のカードが固定化するなど、ランダム性が薄くなっている印象です。これにはどのような狙いがあるのでしょうか?
黒魔道士は『ファイナルファンタジー』シリーズを代表するジョブのひとつですし、本来は始めたばかりの人が遊んでみたくなるジョブだと思うのです。ですが、いざ触って見るとスキルローテーションは煩雑かつパターンも多くてわかりにくい。開幕ローテーションだけでも何種類もあり、しかもコンテンツによって最適解が変わる場合もある。このわかりにくさは、個人の工夫の域を逸脱していると感じました。今回、その部分を改修し、一段階わかりやすさを上げたというイメージです。
ただし、サンダー系魔法を固定ローテーションで撃つだけだと、ファイジャの使用回数が減ってしまうように設計しています。これにより、サンダー系魔法の効果時間とコンテンツのタイムラインを見比べながら、行動を取捨選択することが重要になりました。また、アンブラルブリザードによるMP回復も氷系魔法の使用で回復するようになったので、マナフォントの適切な使用タイミングもコンテンツによって変化します。これらの調整により、“黒魔道士としての練度”を感じられるシステムにできたかと思います。
と、ここでは例として黒魔道士をあげましたが、ほかのジョブの調整についても、“基本をマスターしたうえで、そこから自分なりの工夫をどう加えていくか”というところに帰結させました。占星術師のケースでは、“どのカードをいつ、誰に使うのか”という部分がパーティやコンテンツによって左右されるので、ランダム性が完全にゼロになったわけではありません。60秒ごとにカードを4枚セットで引けるので、回復効果のカードを使うことで攻撃のチャンスを作るなど、どのタイミングでどのカードを選ぶか。
その判断こそが占星術師としての腕の見せどころになります。このように乱数によるランダム性は減らしつつも、プレイヤースキルが生きる部分については意図的に幅広くなるよう調整しています。
ダメージ軽減アクションの効果時間を長くしたのも同じような理由からです。敵の技に対してかなり前倒しして使えるようになったので、操作が忙しくなる前に使っておくことでギミックとじっくり向き合う時間が生まれると思っています。
――リプライザルや牽制、アドルの効果時間延長には、そういった意図があったのですね。
ふたつの新ジョブそれぞれのコンセプト
――同じ二刀流でも、忍者とは明確に違う攻撃モーションですよね。
触り心地に関しては、開発チームが本当にうまく調整してくれていて、ヴァイパーを操作しているときの没入感はハンパないものになっています。僕自身もヴァイパーのテストプレイのとき、楽しくなりすぎてギミックの対処を忘れてしまったことがあったくらい(苦笑)。
――実際に触らせてもらいましたが、その感覚はすごくわかります。
とはいえ、オリジナルのピクトマンサーは“目前のモンスターの能力をコピーして放つ”というシンプルな遊びのジョブですので、そのままを実装しても『FFXIV』としては苦しいなと……。
そこで、まず“絵を描いて戦う”という要素を飛躍させて、“自分の想像力で描いたものを具現化し、そこから力を引き出す。あるいはさらに具現化したものを組み合わせて新たな想像力を絵として表現する”というジョブコンセプトを作り出しました。せっかくパレットを持っているので、広げた3色の絵の具を混ぜて新しい色の効果を生み出したり、サブトラクティブパレットによって色をひっくり返したりといった遊びも取り入れました。
また、遠隔魔法DPSをやってみようと思ったときに、“ギミック対処による移動で詠唱が中断してしまうこと”をわずらわしく感じる人がいることは理解しています。ピクトマンサーにもその要素はあるものの、一方でハンマースタンプなどの魔法はキャストなしで発動できます。さらに、この魔法は発動条件を満たした状態でしばらく保持しておけるので、黒魔道士の三連魔のような使い方もできます。
ほかにも、ストックしておける無詠唱魔法が5つもあるので、コンテンツに対してはかなりフレキシブルに対応できるのではないでしょうか。しかも、決まったスキルローテーションで動かすのではなく、各魔法をバラバラに組み合わせることもできるところが、ピクトマンサーの強みであり、おもしろさだと思います。
――筆を止めてはならないと(笑)。
――試遊でも、迅速魔のありがたみをすごく感じました。
グラフィックスアップデートの成果、そして新たな方向性のサウンドコンセプトとは
ですが、今回は床のテクスチャー解像度が上がったことで、その苦労がなくなっています。そしてそのぶんのテクスチャーを、遠景の解像度を高めるために使えるようになったというわけです。さらに終盤のフィールドは技術的挑戦も多かったので、プレイ時はそのあたりも驚きとともに見ていただけると嬉しいです。
――キャラクターやフィールドだけでなく、ジョブのアクションのエフェクトもすごく綺麗になっていて、グループポーズがかなり映えました。
これは宣伝チームから伝え聞いた話ですが、いつものメディアツアーなら皆さんまずジョブを触りだすのに対し、今回は最初にフィールドを見て回る方もかなり多かったようです。拡張パッケージで最初に世界の景観に注目が集まることは少ないので、その話をBG班に伝えたらすごく喜んでいました。
――果物ひとつについても、トラル大陸の設定が細部まで練られている証左ですね。
――そういったことの積み重ねが、ゲームの没入感を生み出していくと。
ちなみにその修正とあわせて本編開発の追い込みのなか、開発チームにも「現実装段階でよい点、気になる点などあれば、僕にメールをください」と伝えたのですが、それからすぐに膨大な数のメールが送られてきまして……。しかも、全員が『FFXIV』開発者ですので、現公開環境、前回のベンチ環境、新環境それぞれのスクリーンショットを貼り、図解で解説するなど、とにかく届く資料の精度がものすごかったのが印象的でした。プレイヤーの皆さんや開発者の実体験からのフィードバックは本当に助かっています。
ベンチマークソフトの修正版リリースは、どうしても『黄金のレガシー』本編よりも先になるため、修正版でもカバーしきれなかった部分や、それでも漏れてしまった不具合やミスは、引き続き本編に向けて修正と調整、クオリティーアップをしていきます。
――グラフィックについての話題が多くなってしまいましたが、試遊では音楽も印象的で、とくに街で流れる曲がジャズ調だったのが新鮮でした。
――なるほど! そのようなコンセプトがあったのですね。
その冒険の中では「こういう考えもあるのか」と感じるような世界の広さや、価値観の多様性を描きつつ、とくに“善悪”という、立場によって変化するあやふやな境界に焦点を当てました。そして、その道にはきっと英雄でなければ越えられないような壁も出てくるでしょうし、それを乗り越えた先にはまた新しい発見が待っています。とはいえ、まずは英雄ではなくひとりの冒険者として肩の力を抜きつつ、「トラル大陸でバカンスだ!」といったノリでトラル大陸を観光していただければ幸いです。
また、グラフィックスアップデートをはじめとして、これから先の10年を見据えて、今後も開発と運営に邁進していきます。それらを肌で感じながら、改めて「『FFXIV』の世界はずいぶん広がったな、まだまだいろいろな描きかたがあるな」と感じてもらえると嬉しいです。そして、続く20周年を迎えるためにも、これから先の『FFXIV』をワクワクしながら遊んでいただければ幸いです!