リーマンの苦悩
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一般的なサラリーマンの場合、『フロンティア』をプレイする時間は自ずと夜から深夜になることが多い。俺の友だちのCさんも、そんな(勝手に命名するが)”夜な夜なプレイヤー”のひとりだ。夜な夜なプレイヤーの最強の敵は、レウスでもクシャルダオラでもラオシャンロンでもない。それはほとんどの場合、同居人(奥さん、夫、恋人など)であることが多い。仕事から帰り、疲れていても唯一の楽しみのモンハンを睡眠時間を削ってプレイする。同居人に罵倒されても我慢する。涙ぐましい努力がそこにある。ある意味、ホタル族と同じ境遇かもしれない。
最初に俺のケースを紹介しておくと、自宅にはへっぽこノートPCしかないので、メインは会社となる。よって敵となるのは、「早く仕事しろよ」的なオーラをまとった角満番長の視線か、刻一刻と迫る終電の時間くらい。同居人の圧力に比べれば、ちょろいもんである。しかも、俺は好都合なことにファミ通編集者。自宅でプレイすることになっても、職業柄、「仕事だから仕方がないだろ!」と逆切れで対抗できる可能性がある(※注意:可能性があるだけ。試したことはない)。
稀にだが、同居人がいても最強の敵が現れない場合もある。お友だちのYちゃんは子持ちの奥様なのに、昼間にプレイし、夜から夜中にかけてもドンドルマに顔を出す。お子さんが幼稚園に行ってるとき、寝静まったときを見計らって集中的にプレイしている様子。余計なお世話ながら家事、子育てはきちんとしているみたいだけど……ある時「旦那さんは理解あるねぇ〜」と尋ねてみた。答えは簡単だった。旦那さんも『モンハン』フリークだったのだ。夫婦、もしくは恋人どうしで、『モンハン』が趣味化している場合は、家庭に平穏な空気が広がっていることが多い。
話を戻してCさんの場合。午前1時くらいになると、かなりの確率で最強のクエストが発生する。「うわ! 嫁が起きた模様……やばいかも」。この言葉がクエストの合図だ。
みんなで「早く麻酔玉投げて〜〜!」と絶叫するも、本人は至ってマジモード。「ちょっと、(夜泣きする)子供の面倒を見て、ポイント稼いできます(涙)」と一旦離脱するが、たいていの場合、30分くらい経つと、「ふふふ、撃退成功しましたよ!」と本当にうれしそうに戻ってくる。僕たちも手放しで喜ぶ。
でも、これは序の口だ。最悪の場合、Cさんの口から恐ろしい言葉がでる。
「嫁から逆鱗がでました……」
このキーワードが出てしまっては、僕たちの声もまったく届かない。唯一出るのは、「どん><」といういたわりの言葉のみ。そんな夜は、Cさんはおずおずとベースキャンプとなる寝室の布団に戻り、リタイアすることになる。
我らが角満番長も土日にプレイするとプレッシャーが強いらしく、休日はログインしていてももっぱら猟団ポイント稼ぎになっている。女尻笠井に至っては、奥様に『モンハン』をプレイしていることも言っていない始末だ。
いま午後10時だが、最強の敵と戦っている人たちが全国で何人いるんだろう。毎夜毎夜、モンスターたちの雄たけびよりも強烈な口喧嘩がどこかで起こっているのかもしれない。世のサラリーマンのために、夜な夜なプレイヤーのために、”同居人の怒らせないうまい言い訳”を募集したくなった。本当に麻酔玉があれば世界は平和になのに……今日は何だか切ない夜だ。