伊津野英昭氏インタビュー。『ジャス学』『DMC』『ドラゴンズドグマ』で培った“伊津野節”の集大成。新規タイトルを"ライトスピード・ジャパン"で開発中「触っているだけで気持ちいいのはもう当たり前」
 2024年8月にカプコンを退社し、同年11月にはライトスピード・スタジオによって設立されたライトスピード・ジャパンの代表就任が発表された伊津野英昭氏。加えて、完全新作のAAAアクションゲームを開発中だという。そこで伊津野氏に、カプコンを退社した経緯や新スタジオで開発中の新規タイトルの開発状況など、さまざまなお話をうかがった(聞き手:林 克彦[ファミ通グループ代表])。
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ライトスピード・ジャパン 公式サイト

伊津野英昭氏(ライトスピード・ジャパン代表)(いつのひであき)

1994年に入社したカプコンで『私立ジャスティス学園』や『ドラゴンズドグマ』、『デビル メイ クライ』シリーズなど多くのタイトルに携わる。2024年8月にカプコンを退社。現在はライトスピード・ジャパンで完全新作タイトルを開発中(文中は伊津野)。

環境を変えて新しいゲーム作りに挑戦したかった

――伊津野さんが長年勤めてきたカプコンを退社し、新スタジオを立ち上げるにいたった経緯からお聞かせください。

伊津野 
私もいい年齢になり、定年が見えてきました。ジャンルは違いますが、はるか歳上の宮崎駿監督が現役でいるうちは自分も続けていきたいし、新しいゲームを作っていきたいと考えています。しかし新しいゲームを作りたいと考えたときに、以前(カプコン)の環境だと続編やスピンオフ作品など、現在も続いているIPを守っていく必要が当然あります。

 そのような環境の中で新しいことに挑戦するのは、不可能ではないもののやっぱり簡単ではないんですよね。そんなときに「新しいコンシューマーゲームのオリジナルIPを作ってもらえませんか」という話をいくつかいただいたんです。いろいろな条件が重なった結果、新たな環境でゲームを作っていくことにしました。

――カプコンさんでも新しいチャレンジができなくはないとおっしゃいましたが、やはり『ドラゴンズドグマ』や『デビル メイ クライ』といった人気IPを多く抱えていると、そちらの優先度が高くなってしまうんですね。

伊津野 
カプコンさんには30年以上勤めていましたが、やはり新しいものに挑戦するには環境の変化が必要かなと。それとじつは、完全に私が立ち上げた新規タイトルは『ジャスティス学園』と『ドラゴンズドグマ』だけなんですよ。このふたつ以外のIPに関しては、シリーズ作品のディレクターが決まっていないときに「じゃあ俺がやりますよ」という形で引き継いだりしたケースが多いんです。

――なるほど。それで心機一転、新しいチャレンジをしようと思ったのですね。30年以上勤めていたカプコンを退社すると決めたときのお気持ちは率直にいかがでしたか?

伊津野 
もちろん名残惜しさはありました。カプコンさんはそれこそ大手のゲーム会社じゃないですか。そこで長年仕事をしてきたがゆえに、ふつうにできていたことができなくなるかもしれません。それに、1を言えば10まで理解してくれるスタッフとずっと仕事をしてきたので、環境が変わることでそれらがなくなる、ということに不安はありました。でも残り少ないクリエイター人生ですし、できることはやっておきたいなと。

――カプコンさんを辞められたのはいつごろだったのですか?

伊津野 
日付的には2024年の8月末ですが、その前に有給を消化していたので、出社していたのは6月までです。

――なるほど、そして同年の11月にライトスピード・ジャパンが設立されて、伊津野さんが代表に就任することが発表されたんですね。多くの人が驚いたと思いますけど、先ほどのお話だといくつかのところから声がけがあったと。その中からライトスピード・スタジオさんを選んだ理由はなんだったのでしょう?

伊津野 
最初に、自分で会社は立ち上げたくなかったんですよ。自分が社長になると、どうしてもクリエイティブに割ける時間が大きく減ってしまいますから。あと、ライトスピード・スタジオの技術力が非常に高いところですね。もちろん規模的にも大きな会社で、「内部のリソース技術も使い放題ですよ」と言われました(笑)。開発環境も整っていて、技術面のサポートが豊富というところは非常に魅力的に映りました。

――伊津野さんがゲームをクリエイティブしやすい環境であるというのが大きな決め手だったんですね。ちなみにライトスピード・ジャパンでの伊津野さんの立ち位置はどのようなものでしょうか? 先ほどの話では、「自分で会社を経営したくない」ということだと思いますが……。

伊津野 
代表ですけど、実態としてはスタジオの責任者という立ち位置ですかね。社長ではないんですよ。

――スタジオヘッドとしてゲーム開発のための予算管理等はするけど、経営そのものではない、ということでしょうか?

伊津野 
そうですね、予算以外にも、なんやかんやいろいろ管理はしています。

――基本的にはスタジオを充実させて、ゲーム開発に集中できる環境を整えるといったことに軸足が置かれているということですね。

伊津野 
はい。その辺りの権限をいただけたっていうのも非常に大きな理由です。

――わかりました。昨年の11月に設立されて8ヵ月くらい経過して、大阪のオフィスが開設されたばかりとお聞きしました。
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ライトスピード・ジャパンのオフィス
伊津野 
実際に移籍したのは2024年9月1日です。同年11月に発表された時点で、スタジオ自体にはすでに入っていました。そのときは大阪に所属しているのが私ひとりだったので、東京スタジオから何人か助っ人にきてもらい、体制作りと採用活動、それから企画作りに着手しました。

 東京は虎ノ門のほうにスタジオがあって、そちらにも頻繁に行っていたので、そこでメンバーといっしょに企画の原案などを考える……という時期がしばらく続きました。採用活動も並行して進めて、人が入りだしたのが11月くらい、増え始めたのが年明けからですね。4月ころには現在の人数に近くなっていました。企画自体は少人数のメンバーやChatGPTに相談しながら原案を固めていった感じです。

――社内の人員はどのくらいいらっしゃるんですか?

伊津野 
大阪、東京それぞれ20人くらいですね。トータルで40人ちょっとです。

――大阪と東京で役割の違いはあるのですか?

伊津野 
採用活動は即戦力となるシニアメンバーから集めたんです。シニアメンバーは家族やお子さんのいる方が多くて、自由に引っ越しができません。そういう理由もあり、東京と大阪のどちらか働きやすいほうで働けるようにしましょうという形になりました。そのため大阪、東京での役割というのは、現在とくにないんです。

――では、この後お聞きする大きいプロジェクトに対しては、オンラインで開発しているのでしょうか?

伊津野 
はい。それぞれにリーダーを置いて回せていければいいなと。

――東京には、開発初期から人数はけっこういたのですか?

伊津野 
もともとジャパンスタジオという形で、他のプロジェクトのメンバーがいただけでした。なので、うち専属の人は大阪に助っ人にきてくれていた数名だけです。

――お話だけお聞きすると順調に人が集まっているように思えますけど、感覚としてはいかがですか?

伊津野 
私は開発のゴール目標を定めて、それに向けて人員の採用含め計画通りに進めていきたいタイプなのですが、いまのところはほぼほぼ予定通りに集まっています。
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――最近は、人が足りない、なかなか採用が進まないという話を聞くことも多いです。そういったなかで予定通りに人が集まっているというのはすばらしいですね。

伊津野 
もちろん100%予定通りではありませんが、だいたい予定通りという感じですね。ここの部署は人が足りないな、などちょこちょこありますが、トータルで考えて何とかなるかなと。

――なるほど。伊津野さんにとっては環境がまったく変わった状況で企画を考えたり採用活動を行ったりの約10ヵ月だったと思います。振り返ってみていかがですか?

伊津野 
私は大学を卒業してからずっとカプコンに勤めていたため、転職自体が初めてでした。もちろん外資系も。当然社風や文化も違うなかでスタジオを立ち上げることになり、まずはリードできる人を中心に集めようということでシニアメンバーから採用したのですが、まぁまぁ個性的なメンバーが最初に集まるというスタートになりました。あと日本人だけでなく国外出身の方も多いので、そのあたりの戸惑いはありましたね。

――ゲーム作りとひと口に言っても、開発スタジオやメーカーさんによって全然違うと思います。共通言語すら違うということも聞きますし。

伊津野 
そうですね。だから最初に決めたのは、仕事中は日本語だけしゃべってね、と(笑)。

――では海外の方も全員日本語がしゃべれるんですか?

伊津野 
はい。基本的にはチームに入る採用条件のひとつとして、日本語を話せることを入れています。そのためコミュニケーションは全員日本語です。

――ちなみに、大阪や東京にいらっしゃるメンバーは、どういった方が多いんですか。たとえば元カプコンの方とか……?

伊津野 
前職がカプコンだったスタッフと、以前にカプコンに在籍したことがあるスタッフを合わせて全体の半分くらいでしょうか。これまでいっしょに仕事をしたことがないスタッフも多いです。

――では顔なじみというか、かつて仕事をいっしょにした方もいれば、初めていっしょに仕事をする方もけっこういると。

伊津野 
そうですね。やはり少し温度差は出ますが、そんなものだろうなと思いながら進めています。でもたいへんというよりは楽しいという感じですかね。そのせいか日々時間が過ぎるのが早く感じます。
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伊津野氏が作るAAAアクションは“これまでの集大成的なもの”

――人材の話はこのくらいにして、いちばん気になっている「伊津野さんは何を作るんだろう」という質問をさせてください。2024年11月の発表では“グローバルをターゲットにしたオリジナルのAAAアクションを作る”とのことでした。ライトスピード・ジャパンはそのためのスタジオなのですか?

伊津野 
そうですね。アクションという指定まではありませんでしたが、これまでの私の実績からアクションのほうが会社側も安心するだろうなと。直近まで仕事をいっしょにしていた方や、私の名前でスタジオにきてくれる方も、やはりそれを期待している方が多いと思うので、アクションというのは早々に公言しました。

――「こういうものを作っています」というところもお聞かせください。

伊津野 
細かいことはまだお話できませんが、これまでに私が作ってきたもののいいところを集約した、集大成的なゲームを作ろうとしています。具体的に言えば対戦格闘ゲームの『ジャスティス学園』や、私が「天井の見えにくいアクション」と言っている『デビル メイ クライ』シリーズ、そしてAIを活用した『ドラゴンズドグマ』シリーズなどです。

――対戦格闘! 意外なワードが出てきましたが……。

伊津野 
もちろん、そのまま対戦格闘ゲームということではありません。その要素は『デビル メイ クライ』でだいぶ出しているので、作っているうちに自然に入っていくかな、という意味です。

――今度の新作でも、アクションの中にコンボや多彩な技といった対戦格闘的な要素が入っているということでしょうか。それとも『ジャス学』で強烈なイメージが強かったキャラクターの個性とか?

伊津野 
どちらもですね。私はキャラクターでずっと稼いできたところもあるので、キャラクター作りには力を入れるつもりです。やっぱりゲームの中でキャラクターの占める割合は大きいと思うんですね。あと、開発期間はあまり長くしないようにするつもりです。コンパクトというと語弊があるかもしれませんが、1作目はあまり広げ過ぎず、なるべく早く完成させたいなと。

――5年、6年かけて開発するようなスケジュール感ではない、ということですか?

伊津野 
作ってみないとわからなところはありますが、そのつもりでいます。あまりお待たせせずに発売したいとは思っています。

――開発期間や規模の大きさなど、基本的にはしっかりとした目標やゴールがあり、そこに向けてもう走り出している状況なのですね。

伊津野 
そうです。今年の春ぐらいから世界設定などを進めながら、プロトタイプを作り始めたところですね。

――もうそんな段階ですか。早いですね。

伊津野 
自分でも早いと思いながらやっています(笑)。

――伊津野さんは、その新作の開発にはどのように関わられているのでしょうか?

伊津野 
総合ディレクターの立ち位置ですね。ただ、スタジオ的にはプロデューサー的な肩書きもつきます。そのあたりの立ち位置は、前職でやっていたときとあまり変わらないです。
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左から森橋ビンゴ氏(ナラティブリード)、伊津野氏、池野大悟氏(アートディレクター)。
――それを聞いて安心しました。開発の皆さんとコミュニケーションを日々取りながら進めている、と。

伊津野 
東京スタジオと大阪スタジオはモニターでつながっていて、お互いの状況がずっと映っています。マイクもオンラインになっているので、私の手が空いていることを察して「伊津野さーん、いま時間取れますか?」みたいな。開発環境としては、すごくやりやすくていいですね。

――ゲーム開発における基礎固めの時期って、楽しそうですね。

伊津野 
はい。いまから1年間くらいは間違いなく楽しいですし、プロトタイプもバババッと進む時期だと思います。

――現在開発中のプロジェクトは、当初に近い形でゴーサインが出たのでしょうか?

伊津野 
はい、とくに何も変更せずそのまま企画が通りました。

――伊津野さんが言う“通る企画書”というのは、どういったものなのでしょうか。

伊津野 
私の場合は、それこそ自信を持って「おもしろいですよ」と言えるものであるってことがひとつ。もうひとつは、この計画通り進めば作り切れますよ、というところです。いろいろな段階を踏んでスケジュールが成り立つような計画を提案します。あと、「売れそうでしょ?」って言えることですかね。もちろん実際に発売しないとわかりませんが、売れそうだよねっていうことを説得力あるように提案しています。それと絶対にブレないことです。

――ゲームによって違うのかもしれませんが、たとえば新しいシステムやアクションの特徴的なところをどうやって理解、納得させるのでしょうか?

伊津野 
前職での話になりますけど、たとえば『ドラゴンズドグマ』の場合、

・ポーンの貸し借りができる
・モンスターの身体によじ登って戦える

 というふたつの軸があります。これらが新しく、おもしろいものだから大丈夫というか。説明は難しいですが、脳味噌の違うところを使わせるというか、ふだんとは異なる感情や体験を盛り込んで提供することは絶対に必要だと思っています。

――先ほど、これまでの集大成のようなゲームとおっしゃっていました。その中でもちゃんと新しい、これまでのゲームファンが体験したことのない、新しい“何か”はあるということですか?

伊津野 
はい、もちろんそのつもりで開発を進めています。

――伊津野さんが考えるアクションにおいて、いちばん重要視している部分というか、最終的にユーザーを満足させるために大事にしていることって何でしょう?

伊津野 
カプコンさんに就職してからずっと学んできたことですが、言葉にするのは難しいですね。ふつうに気持ちいい、触っているだけで気持ちいいというのは、もう当たり前なんですよ。

 もちろん、その当たり前に到達するまでもたいへんなのですが。これにプラスして別のゲームでは味わえない、新しいものが重要だと思っています。『
ストリートファイターZERO』を開発したときにメチャメチャ教えられましたね。「ナンバリングが変わるときは、変わるだけの新しい遊びがないとダメだ」って。それがないとナンバリングの新作にはさせてもらえなかったですね。

――そこはもう徹底されていたのですね。

伊津野 
いま開発しているゲームも新規なので、「〇〇といえばコレだよね」と言われるようなものを用意しようというのが、大切にしているところです。

――ちなみにいま開発しているゲームはやはり、伊津野さんが昔からやりたかったものなんですか?

伊津野 
厳密には違いますね。たぶん私がいちばん作りたいゲームは売れないんですよ。マニアック過ぎて、売れるという判断にはならないと思うんですね。それは自分でもわかっているので、その中からおもしろいと思っている要素を抜き出して、私の経験の中で「これは大丈夫」という要素と組み合わせて開発しているのが、いまの新規タイトルです。

――まだ詳細はおうかがいできないタイミングですが、とても興味深いです。ちなみに開発期間はあまりかけずに……というお話でしたが、そうするとシングルプレイのゲームになるのですか?

伊津野 
シングルプレイをベースに作りますけど、マルチプレイもフォローできるようなことを考えています。

――伊津野さんと言えば『ドラゴンズドグマ』や『デビル メイ クライ』を思い出してしまいますが、見た目やテイスト、雰囲気などは新しいものにチャレンジしているのでしょうか?

伊津野 
そこはまだあまり言えないのですが、グローバルで勝負できると自信を持って言えるタイトルにしよう、というところから開発はスタートしています。

――もちろん国内だけでなく世界で?

伊津野 
はい、世界で評価軸が変わらないように均等に売れるようにはしたいなと思っています。

――伊津野さんのスケジュールプランの中で、いちばんたいへんなのはどの部分なのでしょうか?

伊津野 
やはり「ここがおもしろい」と思っているオリジナリティーの高い部分を実際に触れるようになるまでがいちばん苦労します。

――そこで自信を持って「これで行くぞ」とならないと進めないという……。

伊津野 
そうですね。ただ私の中では自信はあるので、チーム内はもちろん、社内やメディアの方たちにオリジナリティーの部分がおもしろいと感じていただけるように具現化するというか、その作業がここ1、2年だと思っています。

――『ドラゴンズドグマ』では、AIをかなり研究されていたじゃないですか。いまの時代は、AIをいかにゲームの中に取り込むかというのがテーマのひとつだとは思うのですが、そこはどのようにお考えですか?

伊津野 
それこそ人工知能としてのAIはもちろん、仕事効率のためのAIなども含め、AIに関してはライトスピード・ジャパン全体で力を入れているところですね。

――では、いま開発中のゲームにもなにかしら反映されるのでしょうか?

伊津野 
そうですね。そのつもりです。

――タイトルコールやトレーラームービーのようなお披露目の時期は、どのくらいに?

伊津野 
いまはまだ開発スタッフを集めているところでもあるので、もう少し先にはなってしまいます。
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――スタッフは現在40人ほどとさきほどうかがいました。最終的には何人規模を考えているのでしょう?

伊津野 
あまり具体的には言えないですが、現状はまだ3分の1くらいかなと。

――100人以上ですか。かなり規模が大きいですね。

伊津野 
大きいですね。新しいIPの開発で、その体制を整えられるというのは、とても幸せで恵まれていると思っています。

――新しいチャレンジをしつつ、しっかりと世界で大ヒットするゲームを開発する。そしてそれがつぎにつながるように……と考えると、どのような人材が欲しいとなるのでしょうか?

伊津野 
リード系の人は集まってはきているのですが、プログラマーやTA系(※)が足りないというところでは少し苦しんでいる状況です。あとは、私がやっていたようなアクションを作れるようなアニメーター、エンジニアの方もなかなか集まりませんね。
※Technical Artist(テクニカルアーティスト)。デザイナーとプログラマーをつなぐための役割を担い、幅広い知識が求められる。ゲーム業界では近年に生まれた比較的新しい職種。
――では、そのような方には、ぜひ来てほしいと。

伊津野 
そうですね。大阪でも東京でも、働きやすいほうで大丈夫ですよという募集はしているところです。

――スタッフの募集期間はいつまでを想定しているのですか?

伊津野 
これから1年くらいかけて増やしていくつもりです。その後も継続して募集はしていくと思いますが。

――そうすると新しい人が毎月参加する、みたいな状況に?

伊津野 
はい、毎月歓迎会をやっています(笑)。

――ちなみに採用するときの決め手というか、重視している部分はどこなのでしょうか?

伊津野 
フィーリングと言えばそれまでなんですけど、新しいものを作りたいという優先順位を持っている人とかですかね。ゲームを作るだけなら誰でも作れると思いますが、ユーザーの心に残るというか、思い出に残るような作り込みをしたいというモチベーションを持っている人は優先的に採用していこうと。

――そういう人がチームの中にいるだけで、ぜんぜん違いますよね。

伊津野 
そうですよね、スタジオ全体が、そういう雰囲気になってくれるのがいいなと。

――我々メディアで言うところの「いかにおもしろい記事にするか」を全員が考えてほしい、というのに近いですね。

伊津野 
我々の職場ってブラックのイメージが強いじゃないですか。でも近年はそんな環境じゃなくてもゲーム開発はやっていけるんですよね。そのためなるべくホワイトな職場にしていこうと思います。徹夜は、もうしんどいので(笑)。

――最近、なかなか徹夜はないですよね(笑)。ちなみに、皆さん出社されているんですか?

伊津野 
基本的には出社ですね。これにはひとつポリシーがありまして。ひとりで仕事が完結できていいものが作れる人はリモートでもいいのですが、出社してほかの人と協力することで、ひとり以上の力を発揮できるようになるという考えです。弱いところを助けてもらうというか。逆に自分も相手の弱いところを助けてあげるとか。総合的にいいものができるようになるので、出社を推奨しています。

――出社といえば、大阪のオフィスに初めておじゃまさせていただきましたけど、すごくいい場所ですね。

伊津野 
大阪駅に直結なので、傘も必要ないですね。このビル(JPタワー大阪)が1年前の7月にオープンしたばかりで空き物件もあったので、ちょうどいいなと。

――なるほど。でもこういう仕事環境も強みですよね。

伊津野 
なるべくいい環境で開発できればと。働く喜びもいっしょに感じてもらえればとは思っています。

――改めてライトスピード・ジャパンで1作目の開発をスタートしましたが、どのような開発スタジオにしていきたいですか?

伊津野 
現時点で、10年単位で計画は考えています。「こうやってプロジェクトを展開していこう」というのは考えていますし、いまは最初の1本を開発中ですけど、将来的には何本も同時に開発して、と具体的な流れは描いています。

――何本も同時に開発となると、さきほど言っていた100人規模ではスタッフが足りなくなりますね。

伊津野 
そうですね。もちろんそうなればスタッフは増やしていくつもりです。1本だけの開発に縛られていると、仕事上のポジションが固定になっちゃいます。何本が走らせると働く人のキャリアプランも組めるので、将来的にはそうしたいなと。

――そうなれば、新しいディレクターやプロデューサーの方たちが成長してくると思います。将来そうなったとき、伊津野さんご自身の目標はどうなるのでしょう?

伊津野 
ずっと現役でクリエイティブの仕事を続けたいですが、もうすぐ55歳ですからね。クリエイターの先輩たちがたくさんいますが、その人たちががんばっている年齢くらいまでは私もがんばりたいなと思っています。ユーザーの方々に「あの人が関わっているゲームなら興味があるな」と思ってもらえる時間を、1年でも、1作でも長く続けていきたいというのが目標ではあります。

――生涯ディレクター、と。

伊津野 
いつまで第一線で働けるかというのは体力との相談になるとは思いますけどね。私が若いころは55歳なんて事務職をやっているようなイメージしかなかったけど、いまはバリバリ最前線で活躍している人が多いじゃないですか。

――30年後に「85歳でも最前線で~」と言っている可能性だってありますもんね。

伊津野 
宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』を観て感動しちゃったんですよね。まだまだ現役でクリエイティブな仕事をしている、人生の大先輩がいるじゃん! って。

――将来、ライトスピード・ジャパンで10ライン走っている中で、その1ラインを伊津野さんがずっと作り続けている、みたいなことも?

伊津野 
それいいですね。もう体力もなくなって小さなプロジェクトかもしれないけど、それでも現役で続けていられるとうれしいです。

――そうなると、先ほどおっしゃっていた“伊津野さんが本当に作りたいゲーム”を作る可能性も?

伊津野 
いや、売れないですから(笑)。新しいプロジェクトを提案してよって言われたとき5、6個出して、その中に本当にやりたいものを2個くらい混ぜるんですが、選ばれることはないです。

――逆に気になってきますね……。いつかその企画内容を教えてください(笑)。ちなみに伊津野さんは最初に企画やスケジュールをすべて決めてスタートするとおっしゃっていました。途中で大幅に変わる、ということもあるんでしょうか?

伊津野 
絶対にやりたいという部分は変えませんけど、その一方である程度は自由と言いますか、「この範囲内なら好きにやっていいよ」という流れで進めていますね。ゲームの本質から外れず、その中でおもしろくなるような提案なら大歓迎です。今回のタイトルでできるかわからないですけど、これまでは「ゲームの中に1個だけ、君のやりたいもの入れていいよ」というやり方もしてきました。

――なるほど。だから採用で「新しいものをやりたい」という人を優先するんですね。

伊津野 
そうですね。そのほうが開発スタッフのモチベーションが上がりますし。たとえばキャラクターで、自分はぜんぜん好きなタイプじゃないけど、君が好きならいいよ、というのはよくある話です。

――ライトスピード・スタジオ本社の皆さんと、開発での連携はしているのでしょうか?

伊津野 
まだ募集で集まっていない、たとえばデザイン面での協力など、ライトスピード・スタジオに協力してもらっている部分はあります。別に孤立しているわけではなくて、協力しながら足りないところは助けてもらっています。心強いことです。

――まだ開発は始まったばかりですが、お話を聞いていてとても興味深かったですし、何より伊津野さんがスタジオヘッドとして、そしてディレクターとしてゲーム開発に専念されることがわかってとてもうれしく思いました。最後に、この記事はゲームファンだけでなく、ゲーム業界の方々も興味深く読んでいると思います。それぞれにメッセージをお願いします。

伊津野 
まず業界の皆さんへのメッセージとしては、AAAの新規タイトルを作れるという機会は、なかなかないと思います。いまならそこに加わっていっしょにお仕事ができますので、新規のAAAグローバル展開に興味のある方は、ぜひご連絡ください。ゲームファンの皆さんへは、おもしろいと自信を持って言えるゲームを開発中で、それほど遠くない時期にお届けしたいと思います。忘れずにお待ちいただけるとうれしいです。