『サガフロ2』発売当時から“あのシナリオ”の構想はあった。リマスター版追加シナリオの制作過程を河津氏、ベニー松山氏、上野Dに聞く
 2025年3月28日、スクウェア・エニックスより『サガ フロンティア2 リマスター』(※)が発売された。同作は1999年に発売されたRPG『サガ フロンティア2』のリマスター版で、グラフィックが高解像度化されるとともにさまざまな追加要素が実装されている。その中でも注目度が高いのが、追加シナリオの数々だ。
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※対応ハードはNintendo Switch、PS5、PS4、Steam、iOS、Android。

 術の才能が皆無という逆境から立ち上がり、歴史を動かすにいたった英雄ギュスターヴ13世にまつわる“ギュスターヴ編”と、類まれな術の才能を持つディガー(遺物の発掘屋)ウィルと、謎の存在エッグの戦いを描く“ウィル・ナイツ編”。本作ではこのふたつのシナリオ群が、ときに絡み合いながら時を重ねて進行していくが、追加されたシナリオによって、より歴史の深みを味わえるようになった。

 本記事では、この追加シナリオに焦点を当てた、開発スタッフ陣へのインタビューをお届け。オリジナル版プロデューサー兼シナリオディレクターである河津秋敏氏、追加シナリオを手掛けた作家のベニー松山氏、リマスター版のディレクターを務めた上野真史氏にお話をうかがった。

 なお、本インタビューにはネタバレが含まれている。決定的なネタバレは避けているものの、エーデルリッターやウィル・ナイツ編最終メンバーの追加シナリオの内容を一部紹介しているので、気になる人はクリアー後に読むことをおすすめする。
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河津秋敏氏(かわづ あきとし)

スクウェア・エニックス 『サガ』シリーズ総合ディレクター

ベニー松山氏(べにーまつやま)

シナリオライター

上野真史氏(うえの なおふみ)

スクウェア・エニックス 『サガフロ2 リマスター』ディレクター

人々の関係性が深堀りされ、歴史の味わいがさらに増す追加シナリオ

――ニンテンドーダイレクトでのサプライズ発表の後、即リリースされた本作ですが、開発はいつごろからスタートしていたのでしょうか?

上野
 開発は『ロマンシング サガ -ミンストレルソング- リマスター』の発売前から動き出していて、2022年の夏ごろにスタートしました。ベニーさんにお話をしたのは、追加シナリオの方向性を河津さんと揉んでからでしたので、少し後になります。

ベニー
 僕が追加シナリオについてのお話をうかがったのは2022年の年末でした。

河津
 『ミンサガ リマスター』の後は『サガフロ2』をリマスターするというのはほぼほぼ決まっていたんですけど、まずは『ミンサガ リマスター』がマスターアップしないと、上野さんを始めスタッフの手が空かないので。(マスターアップの)目処がだいたい立ってから話を始めましたね。

――リマスター版には多数の追加シナリオが収録されていますが、これらの新シナリオはどのように生まれたのですか?

上野
 僕はもともと『サガフロ2』のコアなファンでしたので、追加シナリオを考えるにあたってはもうプレイをやり直すまでもなく、どういったシーンが欲しいかはすぐに浮かびました。とはいえ、僕以上にコアなファンも数多くいらっしゃいますので、そういった方がどんなシナリオを望んでいるかをSNSなどでチェックしながら、最初に30個以上の追加シナリオ候補を提出し、河津さんに相談しながら数を絞っていきました。

河津
 ベニーさんには、ナイツ編の冒険者たちの深堀りをお願いしたいと思いました。『インペリアル サガ』で、ベニーさんがいろいろと膨らませて描いたキャラクターもいますので……パトリックとか……そのあたりをきっとベニーさんももっと書きたいだろうと思いましたし。

ベニー
 ギュスターヴ編の追加シナリオについては、河津さんの中に大きな構想がすでにありましたので、そのアイデアを聞きながら追加シナリオに落とし込んでいきました。

河津
 ギュスターヴ編のグラン・ヴァレの追加シナリオ(ラウプホルツ制圧作戦)は、オリジナル版のころにほぼできあがっていたんですよね。ですので、あれはほとんど自分のテキストです。

――ベニーさんは、最初に本作のお話があったとき、どう思われましたか?

ベニー
 まず、リマスター版が発売されること自体がとてもうれしかったです。そして「本当にいいんですか!?」と、追加シナリオを書ける驚きと喜びのつぎに、大きな緊張が来ました。『サガフロ2』はシナリオが好評なタイトルですし、しかも長いテキストを読ませるのではなく、短いテキストで行間を読ませるような描きかたをしています。僕はシナリオを饒舌気味に書くタイプなので、「『サガフロ2』のテイストを損なってはいけない」と緊張して、息を詰めるように集中して書いていたと思います。

――追加シナリオの書きかたに関して、河津さんからリクエストしたことはありますか?

河津
 いえ、とくになかったと思います。『サガ フロンティア リマスター』のときも強いリクエストはしなかったんですが、せっかく書いていただいたのに、後から自分が手を加えたものもあったりして。だから(『サガフロ リマスター』では)「すごく申し訳ないな」という気持ちが強かったですね。今回も最終的には調整をさせてもらう前提ではありましたが、まずはベニーさんに好きなように書いていただこうと思いました。

ベニー
 自由にやらせていただけるのは本当にありがたくて。『サガ フロンティア2 アルティマニア』でオリジナル小説(『Beender~終末をもたらす者』)を書かせてもらったときもそうだったんですが、河津さんと仕事をしていると本当に楽しいです。

――『アルティマニア』の小説は、オリジナルキャラクターのべエンダー視点で物語が描かれるのが新鮮でした。

ベニー
 プロットを出したとき、「こんなのダメだよ」って言われるかと思ったんですが、自由に書かせてもらいましたね。もちろん、通るとうれしいなという際どいラインを狙って、塩梅を調整しながら組んではいたのですが、ひと言のお叱りもなく(笑)。
※『サガフロ2 リマスター』の発売に合わせ、攻略本『サガ フロンティア2 アルティマニア』の電子版も発売。当時、ベニー松山氏が書き下ろしたオリジナル小説も収録されている。ゲーム本編とはまた違ったテイストで紡がれる、サンダイルの歴史を堪能できる。
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――追加シナリオには、バトルや探索も用意されているものもありますよね。これは上野さんからシチュエーションをリクエストしたのですか?

上野
 ギュスターヴ編は、先ほどもお話がありましたが、河津さんによる「このあたりにお話を追加したい」という構想があったんです。そのうちのひとつである“ラウプホルツ制圧作戦”にはバトルの展開もあり、「ギュスターヴ編のバトルはもうこれで十分だから、あとはシナリオ重視でいいかな」と考えました。逆にナイツ編は、河津さんから「やっぱりナイツ編は冒険だよね」という話があったので、探索やバトルが何かしら入るシナリオにしました。

――“ラウプホルツ制圧作戦”は、オリジナル版当時、テキストはすべて出来ていたと先ほど語られていましたね。

河津
 ほぼほぼ出来ていたんですけど、時間が足りなくて実装を断念した感じだったと思います。ボス戦が足りないとか、そういう理由だったかと。
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――追加シナリオの中には、サンダイルの歴史の理解をより促すものもありますよね。たとえば、“マリーがケルヴィンと再婚した”という出来事は、オリジナル版においても史実だったものの、当時は具体的には描かれていませんでした。今回、ふたりの動きや感情がわかりやすくなったと思います。

上野
 より物語をわかりやすく伝える狙いはありました。ただ、『サガフロ2』と言いますか、歴史全般に言えることですが、書物に書かれていることが“本当かどうかはわからない”ですよね。ですので、必ずしも物語すべてを補完する必要はないと考えていました。ですが、キャラクターどうしの血のつながりや関係性がわからないと、シナリオのカタルシスが足りないかもしれないという懸念はあったので、そこは今回描くことにしました。

――“ケルヴィンとマリーの婚礼”のシナリオは、その点で重要だと判断したんですね。

上野
 僕はそう思ったのですが、河津さんは「ギュスターヴが覇権を握るまでとは関係ないし、別に要らないよね」と言っていました(笑)。

河津
 (笑)。オリジナル版当時から、マリーとカンタールにああいった出来事があって、マリーがギュスターヴ側に帰ってくるという設定はありました。ただ、なかなかエグい物語なので、当時は表現するのは難しいだろうと、深く描かないことにしました。現代においても、表現するうえで難しい部分が多いお話でしたが、その後の歴史につながるためのきっかけになるということで、今回は入れました。
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――当時、ケルヴィンとマリーが結婚したということを、ゲーム本編だけでは理解しきれていなかったような記憶があります。攻略本を読み込んで理解したような。

ベニー
 じつは当時、『アルティマニア』で小説を書いた動機はそこにありました。というのも、『アルティマニア』を作っているスタッフたちも、お話の全貌をちゃんと把握できていない気配があったんですね。それぞれの認識を集めて、集合知にすると「ああ、このお話はこういうことだったのか」とわかるんですけど。そこで、小説の形で補完すれば、サンダイルの歴史をより楽しんでもらえるんじゃないかと思ったんです。

――そういう背景があったんですね。確かに、ケルヴィンの家系やグスタフの立ち位置をちゃんと理解できると、このお話の味わいが変わりますよね。

河津
 まあ、グスタフに関しては、あえて語っていないところもあるので。

――ケルヴィンの関係者といえば、チャールズのエピソードも今回新たに描かれました。

ベニー
 チャールズに関するシナリオはなかなか書くのが難しく、「これでどうでしょう」、「いやー、もうちょっと」という議論がありました。チャールズが何を思っていたのかを、プレイヤーの想像にある程度委ねるように、いい具合の力加減で書く必要がありました。

河津
 チャールズはゲームの中であんまりよく描かれていなくて、歴史の流れを見ても「こいつ、ダメなやつだな」と読み取られてしまうキャラクターです。そういう認識が前提としてある中で、ひどい描かれかたをしてしまうと、本当にダメな感じになってしまうので、「もうちょっと抑えてもらえませんか」とお願いしました。チャールズに悪意があったとか、精神がねじ曲がっていたとか、そういう風に受け取られないように。彼は、どちらかというと、お兄ちゃんだったというだけなので。

――ギュスターヴ陣営の人々は、基本的に善性がフィーチャーされているので、チャールズはちょっと特殊な立ち位置のキャラクターですよね。でも、そこが歴史のリアルさを演出しているかなとも思うのですが。

ベニー
 ケルヴィンとマリーの婚礼のイベントを見たりすると、「まあ、チャールズもこうなるかな」と思ったりしますよね。オリジナル版から26年経って、プレイヤーもチャールズを受け止められるような成熟度になったところで、今回の追加シナリオが生まれたのかなと。
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追加シナリオによって存在感が強まったエーデルリッターたち

※ここから物語のネタバレに関わる記述が増えますので、未クリアーの方はご注意ください。
――ほかに深堀りされたキャラクターというと、やはりエーデルリッターの面々かと思います。

河津
 エーデルリッターは絶対に「ベニーさんがおもしろくしてくれるだろう」と期待していました。

ベニー
 ギュスターヴ編は追加シナリオの依頼書に河津さんの構想が入っていましたが、エーデルリッターの欄はもう、空白だったので(笑)。サルゴン以外は設定がないので、どんな人物かをイチから考える必要がありました。ただ、当時から妄想はしていたんです。たとえば“サウスマウンドトップの戦い”で、敵を深追いして敗因を作ったボルスは、きっと人の言うことを聞かないやつなんだろうと。そういうやつをラベールと絡めたらおもしろいかもな……と考えていきました。

――エーデルリッターたちの名前は『アルティマニア』にも書かれていましたが、名前以外の設定やデザインはなかったんですか?

河津
 そもそも発注すらしていませんでした(笑)。出す予定もありませんでした。
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――そ、そんな……(笑)。そもそもエーデルリッターって、どのような狙いで登場させた集団なのでしょうか?

河津
 ゲーム的に、ラストダンジョンに登場するボスたちが必要だったのですが、じゃあそのボスたちは何なのかを考えると、偽ギュスターヴの配下になるな、と。彼らが将魔になっていくというのは、小泉くん(小泉今日治氏。オリジナル版のバトルディレクターを担当)がバトルを作るうえで考えました。

 彼らがどういう風に生きてきたかというのは、当時本当に考えていなくて。サルゴンだけは、“ウィル側で出てきたキャラクターが、ギュスターヴ側のボスになっていく”というのをどうしても入れたかったので、最初から設定を考えたんですけども、そういうのはひとりいれば十分なんで(笑)。エーデルリッターの人数分、そういうエピソードがあるとくどいだろうと。豚骨ラーメンを6杯食わされるような感じになっちゃうので、それは1杯で十分ということで当時は端折りました。

 最後のコンバット(サウスマウンドトップの戦い)で深追いしちゃうヤツ(ボルス)がいるのは、歴史的な味付けですね。あれはもちろん、ナポレオンが負けたワーテルローの戦いにおけるグルーシー(※)から来ています。
※エマニュエル・ド・グルーシー。フランスの軍人。1815年のワーテルローの戦いにおいて、ナポレオンからプロイセン軍の追撃を命じられ、その命令に固執するあまりに戦況に応じた行動ができなかった。そのためグルーシーが率いる軍は主戦場での戦いに合流できず、これがナポレオンの敗因のひとつになったと言われる。

――そんなボルス以外は、性格を着想できそうなエピソードもありませんが、どのようにキャラクターを作っていったのですか?

ベニー
 “石”や“音”など、それぞれのアニマの属性から着想を得て、「そのアニマに関する才能を持った人間なんだろうな」と逆算して考えていきました。

上野
 デザインに関しては、アートディレクターの堀木といっしょに考えていきました。ミカに関しては、オリジナル版でひとりだけグラフィックが用意されていたので、それを活かしつつアレンジしています。そのほかのエーデルリッターは、ベニーさんから上がってきたプロットを見て、たとえばイシスなら「歌姫ならこういう要素が必要だけど、現代の歌姫とは違うデザインになるよね。サンダイルにおける歌姫はどうだろう」と詰めていきました。エーデルリッターのデザインは、河津さんにはだいたい一発でオーケーをいただけましたね。
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シナリオ“ギュスターヴの陣営へ”で、古戦場でジニーたちを追いかけてくる女性がミカ。オリジナル版では固有グラフィックではなく、汎用の女性グラフィックが使用されていた。
河津
 『サガフロ2』のキャラクターはもともと、ふつうの人とあんまり変わらない格好をしているんですよね。そういう世界なので、とんがったデザインを作るつもりがなかった。今回のエーデルリッターはどれも、ちゃんと世界にハマった形でデザインされてきたので、オーケーって形でした。

――エーデルリッターの追加シナリオには、ラベール以外にも既存のキャラクターが登場します。レイモンとパトリックの活躍の場が増えたりしていますが、登場キャラクターはどのように決めたのですか?

ベニー
 河津さんから「ナイツ編のこのあたりのキャラクターを追加シナリオに登場させてほしい」というリクエストもあったんです。それと、当初はエレノアとエーデルリッターを絡ませる案があったのですが、エレノアはすでにサルゴンと縁がありますので、「レイモンとパトリックを登場させましょう」とこちらから提案したりしましたね。

 エーデルリッターが歴史上の出来事にどう関わったかについては、「こういう影響があったのかもしれない」と、ギリギリのところを狙うようにして組み込んでいます。「すべてにエーデルリッターが関わっていた」となってしまうと、なんだか世間が狭いような感じになってしまうので。

――たとえばモイはフィリップ3世の死に大きく関わったかもしれないし、そんなに影響を与えてもいないかもしれない、と。

ベニー
 彼については、もうモイですらなかったですからね、本当は。追い詰められたときに石のアニマの才能が開花して、あとは逃げながら生きてきて、エーデルリッターに取り込まれる……という彼なりの人生を想像して、ああいう形に落とし込みました。

ウィル編最終メンバーの前日譚と、追加アイテムに関するエピソード

――今回、ウィル・ナイツ編の最終メンバーが深堀りされたのも印象的でした。たとえばミーティアは生い立ちが明らかになりましたし。

ベニー
 ミーティアは「ぜひ深堀りしたい」、「特別な斧を持たせたい」という話になって、あのようなシナリオになりました。過去にシルマールと出会っていた経験があることを描くことで、彼女の存在感や解像度が上がるんじゃないかと。

河津
 ウィル・ナイツ編の最終メンバーはエピソードが少ないので、「思い入れが少なくなってしまうから、そこを強化したい」というのは、上野さんからの提案でしたね。

上野
 ミーティアが大きな石斧を持っているというイメージは、河津さんからいただいたものです。それをベニーさんが肉付けして、親の形見となりました。ゲーム的に、斧としての性能を考えたのは僕です。斧はクヴェルがなく、少し使いにくい印象がありましたから。

――そうなんですよね。斧はクヴェルがなかったから、プルミエールにはビーストランスを持たせるのが定石になっちゃって。

上野
 そういうご意見があるのは把握していましたので、ビーストランスよりちょっとだけ性能が高い斧(ツール“雪花の斧”)をボルスに持たせたりしています。

 やっぱりクヴェルは特別なものだと思ったので、安易にクヴェルを追加することはしていません。“形見の石斧”については、もともとオリジナル版に“ハードロック”という耐久度無限の石のツールがあったので、それに習ったものであれば追加しても大丈夫だろうと考えました。

――新たに追加されたクヴェルは、ケルヴィンの槍(ウィザードトゥイグ)ですね。

上野
 ウィザードトゥイグは、「デーヴィドに槍を持たせたい」と河津さんにご相談したところ、「それをケルヴィンにも持たせたい、ヤーデの家に伝わっているものにしよう」というお話があって、あのような形で追加しました。
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――追加されたアイテムでいうと、かなり細かい話になってしまいますが、即死耐性を持つ“くすんだ指輪”は、ラスボス戦を少しラクにするための救済措置でしょうか?

上野
 あれはですね、結果的にはそうなったんですけど、もとは違う意図があって……くすんだ指輪が手に入るシナリオは、もともと分岐がある内容にしたかったんです。話の進めかたによってはアイテムが手に入らないという仕様を考えていたので、「もう一度シナリオを見ることになっても、入手したい!」と思わせる性能にしたいなと。ただ、結局はその仕様を実装できなかったので、結果的には救済措置になったという形です。ちなみに“くすんだ指輪”という名前になったのはベニーさんがシナリオを書き終えた後でして、あのアイテムにとくに設定はありません。

ベニー
 プルミエールのシナリオに、分岐要素を入れたらおもしろいんじゃないかと思ったんです。手に入れたアイテムが、グスタフと再会したときに記憶を呼び覚ますきっかけになったらおもしろいかも……と提案したのですが、分岐が発生すると開発もたいへんになってしまうので、残念ながら断念となりました。

――そのほかの最終メンバーの追加シナリオに関して言うと、ロベルトが本当に“ふつうの人”だったというのも、ロベルトらしくていいなと思います。

ベニー
 偽ギュスターヴの営業力がもうちょっと強ければエーデルリッターになっていたかもしれないんですけどね。ロベルトのシナリオは楽しく書けました。それと先ほどの、プルミエールとグスタフの過去の話もですね。『インペリアル サガ』を書いていたころから、あのふたりについては構想していたんです。過去に会っているはずだけど、どういうシチュエーションだったんだろうと。そうやって温めていたものをようやく出せました。

――オリジナル版のころから、プルミエールは「どこかでお会いしなかった?」とグスタフに言っていますが、河津さんとしても、あのふたりは過去に会ったことがあるという設定だったのですか?

河津
 いやー、どうでしょう。プルミエールは放置されていた子ですし、グスタフに関して言うと、小さいころにどう過ごしていたかは本当に考えていませんでした。考え出すと、いろいろ都合の悪いことが出てきちゃうから、意識的に考えないようにしていたのかなと思いますけど。チャールズとフィリップ3世については、チャールズはヤーデを継がなきゃいけないからヤーデで育ってて、フィリップ3世は父親について回っている、という設定までは考えていました。でも、そのつぎの世代についてはあんまり考えていませんでしたね。グスタフとプルミエールはふたりとも宮廷人だったので、会ってた可能性はあるなと思って、プルミエールにひと言セリフを言わせていたくらいです。

――そんなグスタフですが、デーヴィドとの追加シナリオで、苦悩のようなものが見えたのが新鮮でした。

河津
 デーヴィドはグスタフよりも年上で、ちょっとデキがよすぎる人です。でもグスタフも、負わされている期待があるという点ではデーヴィドと同じで、そんな自分と彼を比べて「(期待を)受け止めきれない」と考えるところを描きたいと思っていましたし、うまく伝わるといいかなと思ってますね。
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――それにしてもサウスマウンドトップの戦いは相変わらず難しかったです。リマスター版で、ついにグスタフが来てくれるのかな、それなら楽勝だぞ! と期待したのに……。

河津
 それはないです(笑)。ひとり加わったくらいでは戦場に変わりはないので。

――単騎でもいいから来てくれよ! と思いました(笑)。

河津
 粘り切るか、(偽ギュスターヴを)挟み撃ちにして退却失敗させるか、どっちかしかないので。自分は退却失敗させるほうにいつも賭けてるんですけど、デーヴィドに突っ込まれて負けることも多いですね。

――ところで、最終メンバーではありませんが、シルマールの出番も増えましたよね。

河津
 まあ、あの人は便利な人なんで(笑)。あの世界においても超能力者で、空海みたいな感じですから。水の上を走っても全然驚かない。

――ミーティアの追加シナリオに登場したとき、相当な年齢のはず……。
※98歳でした
ベニー
 あのシナリオでは、もうちょっと若いころのシルマールを登場させる案もあったのですが、そうするとミーティアが5歳とかになっちゃうので……。

河津
 たぶんアニマを操って長生きしてます。困ったときにはシルマール先生を出しておけば、超能力でなんとかしてくれます。

じつはたくさん増えてる! キャラクターの新規アニメーション

――シナリオを追加するにあたって、新規キャラクターだけではなく、既存キャラクターのアニメーションも増えていますよね。

上野
 ドットアーティストの西村将由さんにオリジナル版のデータをお渡しして、いろいろな方法を検討していただき、新しいドットアニメを制作していただきました。ヴァンアーブルがギュスターヴに耳打ちするところとか、マリーがカンタールのもとから逃げ出してくるところなどがそうですね。
 あと、イシスの追加シナリオでグスタフが膝をつくシーンがあるんですが、じつはオリジナル版にはあのようなモーションはなかったんですよ。ということで、膝をつくモーションも追加しています。
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河津
 基本的に、『サガフロ2』のカットシーンって、汎用的なモーションだけで作られているんですよ。構図的に特殊なイベント、たとえばファイアブランドの儀式とか、フィリップ2世の暗殺とか、ああいうところだけは専用モーションがありますが。

 『サガフロ2』ってもともと、プリレンダの3Dモデルでベースとなるモーションをすべて作ってあって、そのモーションにキャラクターの絵をかぶせて、ドッターがドットを打っていったんです。ということで、「ちょっと変わった動きだな」と思うところはもう全部、いちから作ったものです。

――モーション制作の裏には、そんな事情があったのですね。ところで、新要素の“成長能力継承”はとても便利でしたし、物語性を感じることもできる新システムでした。あれはどのように取り入れたのでしょうか?

上野
 あのシステムは、いまの形ではなく、たとえば成長した能力がドーピング的にキャラクターたちに重なっていく形にもできたと思うんです。でも、キャラクターたちがリンクしているような見せかたにしたかった。僕はとくに、リッチとジニーが、何の絡みもないまま別れてしまっているのが悲しかったので、企画書に「リッチの魂をジニーちゃんが引き継ぐんです」みたいなことを書きました。成長能力継承は、僕の想いから追加した機能とも言えますね。
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オリジナル版のころから、“あのシナリオ”の構想はあった

――これから本作をプレイする方のために、詳細は書けませんが、クリアー後に出現するシナリオは、河津さんが「これを入れたい」と思っていた物語なのでしょうか。

河津
 オリジナル版当時、「あれは語らないエピソードだろうな」と思っていましたけど、「もし作るのであれば、こう作るな」というのは当時から決めていたことです。

――あのシナリオを書くのは、ベニーさんにとって相当なプレッシャーだったのでは……。

ベニー
 緊張して、書きすぎてしまったんですよ(笑)。それで、河津さんから「饒舌すぎる」とチェックが入りまして、もう、五七五くらいに研ぎ澄ませないと、と書き直して、いまの形になっています。

上野
 開発初期に、「追加シナリオを入れるなら、何を入れましょうか」と最初に河津さんに相談したときに出てきたのが、この2周目で出現するシナリオの案だったんです。それを聞いて、「これは一生に一度の仕事だな、これを成し遂げるために自分はこの会社にいるんだ」という使命感を勝手ながら持ちまして、ディレクターをやりました。本当に、もともと『サガフロ2』のファンだった自分にとってありがたい仕事でしたし、自信を持っておすすめできる作品に仕上がったと思っていますので、ぜひ遊んでいただきたいです。

――素敵なコメントをありがとうございます。では、ベニーさんと河津さんからもひと言お願いします。

ベニー
 いままで『サガフロ2』を遊んできた方や、今回初めてプレイしたという方が、キャラクターについて想像していく手助けになれば、そこを楽しんでもらえれば……という思いで追加シナリオを執筆しました。ぜひ遊び尽くしてください。

河津
 これまで『ロマンシング サガ リ・ユニバース』だったり、『インペリアル サガ』だったりで『サガフロ2』のキャラクターたちが活躍して、新たな設定が生まれたりもして、だんだん自分の中でキャラクターに対する理解度が上がっていったところがあります。そうしたキャラクターの活躍は、「『サガフロ2』のキャラクターに出てきてほしい」というファンの声を受けて実現してきたものなんですね。今回、追加シナリオを作れたのも、ファンの皆さんのおかげなんです。もちろん、オリジナル版の時点で考えていたエピソードもありますけども、それ以上に、ファンの皆さんの愛情を反映した結果が大きく表れています。ですので、『サガフロ2』ファンの方にはもう一度プレイしていただきたいですし、初めてプレイする方には、「作り手とプレイヤーがいっしょに作ったものなんだ」というところを見ていただけると、より楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。

――つぎの『サガ』作品のリマスターやリメイクも楽しみにしています。

河津
 リマスターやリメイクをしないと、二度と遊ぶことができないタイトルもでてきちゃいますからね。やりたいことはいくらでもまだまだあるので、なんとかやれないかなと考えています。
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上野氏はスクウェア・エニックスの大阪オフィス勤務のため、今回の取材はオンラインでの参加でした。いつか大阪にもお伺いしたいです!
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