Dynamis Oneが開発中の新伝奇魔法RPG『アストラエ・オラティオ』。“東京ゲームショウ2026”(TGS2026)では、初めて一般に向けて試遊版が公開された。実際に遊んでみると開発陣に聞きたいことが浮かんでくる。なぜパーティーを組むのに1対1なのか。なぜ名乗りを上げる“領地宣言”があるのか。そもそも、なぜ魔法使いの物語に“行政”なのか。 そこで今回、ゲームディレクターのLim Jonggyu(イム・ジョンギュ)氏にインタビューを実施。2000年代のライトノベルに親しんだ開発陣が作る“新しい新伝奇”とは。キャラクターの話で盛り上がりながら、リリース後の展開まで伺ってみた。
※画面・内容は開発中のものです。キャラクターのギャップで驚かせたい。TGSで初めて試遊を公開した『アスオラ』
――現在のユーザーの反応を見てどう感じていますか。
イム
たくさんの関心を寄せていただき、本当にありがたいかぎりです! 見る楽しさだけでなく、プレイを通してそれ以上に楽しいゲームだと思っていただけるようにしていきたいと考えています。
――前回のコミケインタビューを掲載した前後に、財部千景と花盛百杏が発表されましたよね。それまでの魔法使いらしい印象から、ガラっと雰囲気が変わって。とくに百杏の反響はすごい、いろいろすごい。
イム
狙ったとおりの反応でした(笑)。オーソドックスなキャラクターを先に公開して、「こういうキャラクターが出るゲームなんだ」とみんなが思ったタイミングで、あえてあのキャラクターを出したんです。
――僕もまんまと釣られました。こうしたキャラクターを出したのは、どういった狙いがあったのでしょうか。
イム
ギャップを作りたかったんです。話題になってメディアにも注目していただけるような、大きなインパクトを与えたかった。もちろん、私たちが用意しているキャラクターにはこれだけの幅がありますよ、と伝える意味もあります。百杏ちゃん(※)もただあんな格好をするような一面だけではなくて、ギャップがあります。楽しみにしていただければ。
※百杏ちゃん=花盛百杏:“文京の薔薇”に所属する、自称怪盗の女子大生。発表当時、過激すぎる怪盗衣装で話題を呼んだ。――花盛百杏のホクロは青少年によくないと思います。
イム
やっぱり、よくないですよね(笑)。でも、彼女を担当したイラストレーターのMx2Jさんは、青少年に悪いことをする……と言いますか、むずむずさせるのが得意な方なので(笑)。

花盛百杏のアルティメットスキル(必殺技)。バラをくわえる姿も印象的だ。

本当によくない。
――ちなみに、僕は財部千景が大好きです。
イム
ニットもいいですよね……。

手前が財部千景。ニットのノースリーブ。

ちなみに、こういう環境で話を聞いています。奥に花盛百杏。
――そんな中、クローズドβテスト(CBT)を控えたタイミングでTGSに出展した意図を教えてください。情報公開の節目として、当初から考えていたのでしょうか。
イム
とても重要な節目のひとつとして考えていました。これまではアートワークやキャラクターを紹介してきましたが、初めてプレイを公開する場としてTGSを選びました。『アストラエ・オラティオ』は仮想の’89年の東京が舞台ですから、TGS以上にふさわしい場所はありません。これが初めての“聖地巡礼”の場になればと考えたんです。

TGS試遊版では“まほトレ”で戦闘の基礎を体験できた。

魔法使いの“対決”から生まれた行政と東京の物語
――本作には昔の東京らしい雰囲気がありますよね。そこに行政や政治、自治体といったテーマを組み合わせたのはなぜでしょう。
イム
『アストラエ・オラティオ』の核は“対決”なんです。シナリオディレクターがそこから世界観を考えて、地域ごとに勢力を作り、その勢力のあいだで事件やさまざまな出来事が起こる形にしようと。それらをまとめるキーワードが“行政”でした。
小さく見れば地域対抗のスポーツ大会のようでもあり、大きく見れば戦国時代の武将たちのぶつかり合い。そこに市民も関わり、全体をまとめたり管理したりする必要がある。そこから行政という考えかたが生まれました。
――なるほど。町単位ならコミュニティのつながりをイメージしやすくて、それを管理するなら行政が的確ですね。そもそもの話としてゲームのテーマに“対決”を選んだ理由は?
イム
私たちがいちばん得意としているのは、キャラクターが魅力的なゲームです。キャラクターをさらに際立たせられるジャンルは何だろうと考えて、行き着いたのが“対決”でした。

キャラクターが1対1で向き合う戦闘画面。
――物語はどのように広がっていくのでしょうか。試遊版で触れた際には魔法少女もののアニメの第1話みたいな印象を受けました。
イム
開発の中でも、まったく同じ話をしていました。この作品は長期連載を考えていて、最初は小さな話から始まり、どんどん広がっていきます。その過程をリアルタイムで追いかけるように楽しんでいただきたいんですね。
最初に登場するキャラクターたちは、プレイを始めるユーザーと同じように、この世界がどういうものなのか、まだわかっていない状態です。話が進むにつれて、彼女たちも世界を理解していきます。
――最近のゲームを見ていると、いきなり深くて重い話を持ち出すことが多いように思います。それらとは異なる展開ですね。ミニマムな世界を見せてから徐々に広げていく。

“港区少女たちのまほ活”の3人。
――主人公は公務員として働いていて、突然、魔法使いたちの戦いに駆り出される。主人公を通して、プレイヤーにどんな体験を届けたいですか。
イム
それはCBTで体験できるプロローグを通してわかってくると思うので、ぜひ楽しんでいただければなと! メディアの方はとても鋭くて、少し話すだけで全部見抜かれてしまいそうなので、ここでは控えておきます(笑)。
『空の境界』や『灼眼のシャナ』のよさを再解釈。穏やかな日常の裏には……?
――改めて、本作が掲げる“新伝奇”とは、どういうものだと考えていますか。
イム
これはシナリオディレクターがいちばんよく知っていることではあるのですが、根底にあるのは、私たちが2000年代に楽しんでいた『空の境界』や『灼眼のシャナ』のようなライトノベルで感じたよさ。ビジュアルも世界観も含めて、私たちなりに再解釈して、もう一度皆さんに楽しんでいただきたいと考えています。
※新伝奇:現代を舞台に怪異などの超常的な出来事を描く作品で使われるジャンル名。本作は“新伝奇魔法RPG”を掲げている。イム
韓国では、日本のライトノベルが1990年代末から2000年代初めごろに正式に入ってきました。当時、学生としてそれを読んでいた人たちが、いまの開発のコアメンバーに多いんです。

イム
多くのクリエイターは、自分がよかったと感じた経験をまた誰かに伝えたくて作品を作っていると思います。私たちもこのゲームを楽しんだ人たちが、やがて「あのころ遊んだ『アスオラ』、よかったね。ああいうゲームを作りたいね」と言ってくれる。そんなゲームを目指しています。
――TGS試遊バージョンは、一枚絵と音楽を使った演出が印象に残りました。少し前の美少女アニメや美少女ゲームを思い出したのですが、そこは狙っているのでしょうか。
イム
そうですね。当時の感情や温もり、どきどきを伝えたいんです。日常が淡々と流れていたかと思うと、一瞬でがらりと変わる。そういう演出も取り入れています。
――日常アニメをワンクール見てみたくなるような雰囲気があって、そこから戦いに入る落差も大きいですよね。厳しい世界の中でキャラクターが成長していく話が根底にあるのでしょうか。
イム
成長を描く話はもちろん、それ以外にもいろいろな物語を用意しています。新伝奇や魔法少女ものの魅力を描くうえで、日常生活も魅力的に描きたいんですね。その裏側には、日常とはまったく違う神秘的な世界が広がっていてバトルもある。その両方を表現することに力を入れています。
アートディレクターとシナリオディレクターが大切にしているのは、日常の空気感です。1980年代の東京の暮らしにあった幸せな雰囲気や、「明日はもっとよくなる」という希望を感じられるようにしたいんです。

TGS試遊版で見られたプールでのひと幕。
――そこを強く出すということは……おそらくなのですがキャラクターたちは最終的にめちゃくちゃ不幸になりませんか?
イム
うちのシナリオディレクターとアートディレクターがいちばん好きなのが、美少女がとても苦しい状況で涙を流しながら、それを乗り越える……という物語なんです。
――不穏だ……。
イム
いえ、大丈夫ですから! ……きっと。実際にゲームでそうなるかどうかは、今後の楽しみにしていただければなと……。ゲームとは関係なく個人の好みでいうと、困難を乗り越える話も好きですが、つらい状況が続く話もけっこう好きなんですよ。それはそれで味わえるおもしろさがあるので。
――やっぱり不穏じゃないですか!
イム
でも、いちばんは友情、努力、勝利、そして青春。少年マンガの熱い話が好きなんです。信じてください!
――少年マンガの熱い展開がお好きなら安心ですね。ホッとしました。
――ここまで伺って、物語をかなり大切にしていることが伝わってくるようです。アートやゲームシステムとはどうバランスを取っているのでしょうか。
イム
もちろんストーリーはとても重要です。ただ、私たちの強みは、10年以上いっしょにやってきたメンバーがストーリー、アート、ゲームシステムの各分野から提案し合って作っていること。
たとえばゲーム(ディレクターやプランナー)側が「対戦のシステムを入れたい」と言えば、シナリオ側が「では“決闘裁判”というコンセプトを入れましょう」と物語を考える。アート側から領地宣言のビジュアルが提案されれば、それをゲームシステムに落とし込む。逆に、ストーリー側の要望に合わせてアートワークを作ることもあります。こうして互いに提案し合いながら作っていくことが、うちのスタジオでいちばん大事にしているところです。
自分の手でかっこよさを作る。1対1の戦闘と領地宣言に込めた狙い
――ゲームシステムの話が出たところで、戦闘についても聞かせてください。いちばん大切にしたのは、どんなおもしろさですか。
イム
コンボとキャラクター交代が作る連携の楽しさです。ひとりひとりの魅力も重要ですが、複数のキャラクターが入れ換わりながら、ひとつの流れを完成させたときの爽快感を重視しています。

キャラクターを交代させながら攻撃をつないでいく。
イム
すばらしいクリエイターが作った映像を見るのもいいですが、対戦格闘ゲームには、自分で行動を選び、成功させる楽しさがあります。プレイを通して、自分の手でかっこよさを作る。そこをとても大切にして開発しました。自分で完成させたという感覚は、アニメや映画とはまた違う楽しさだと思います。
――パーティーを組んでいるのに、画面では1対1ですよね。キャラクターを交代させながら、自分でコンボを組み立てる感覚を出すためでしょうか。
イム
その通りです。もうひとつ、スマホは画面が小さいので、複数のキャラクターを同時に出すとそれぞれの魅力が伝わりにくくなってしまうんですよ。より魅力的に見せるためにも、1対1にしました。

相手は秘密結社“灰の夜明け団”の東京支部代表、ビタ・ネリ。フィレンツェ出身であること以外、そのすべてが謎に包まれている。
――試遊では、名乗りを上げる領地宣言(※)がすごく好きでした。あの仕組みを入れた意図を教えてください。
※領地宣言:戦闘の主導権を握るシステム。キャラクターが自分の名前を名乗って宣言する演出が特徴で、発動条件はキャラクターごとに異なる。イム
まず行政というテーマがあり、“決闘裁判”があって、魔法使いたちが領地を争う、という世界観の設定があります。その設定をゲームシステムに落とし込む中で生まれたのが、領地宣言です。
……というのが表向きの説明です。本音は、かっこいいから。……かっこいいから! 『機動武闘伝Gガンダム』みたいに叫ぶセリフが大好きなんです。
――……わかります。
(そっと握手をしました)



三声瑠奈の領地宣言。名乗りとともに入るカットインがかっこいい。
――かっこいい演出はテンションが上がりますよね。戦闘では、敵の攻撃が迫る中でAP(アクションポイント)を割り振る緊張感もありました。戦略とアクションのバランスはどのように考えていますか?
イム
開発初期は、もっとアクションに比重を置いていました。ただ、本作はキャラクターを集めるゲームでもあるので、そこに戦略性を加えたくてAPを導入したんです。いまは戦略が7割、アクションの感覚が3割くらいのバランスだと考えています。
PCや家庭用ゲーム機向けなら、もっとアクションを作り込むこともできると思います。ただ、本作はモバイルゲーム。それを前提にバランスを考えています。

敵の攻撃に合わせてカウンターを狙う場面。考える楽しさの中に、タイミングを合わせる緊張感もある。
――そもそも、スマホを中心に作ることにしたのはどうしてですか? PCとの同時展開は考えなかったのでしょうか。
イム
最近はPCや家庭用ゲーム機の魅力的なゲームが多いと思いませんか? でも、仕事が忙しくて、家に帰ると育児もあって、PCの前に座ってじっくり遊ぶ時間がなかなか取れない。ゲームをしたいのに時間がないから、スマホでしっかり楽しめるゲームが欲しい。その気持ちから作ることにしました。
いまはスマホをメインに開発していますが、マルチプラットフォームへの対応も必要だと考えています。配信者のことを考えるとPC版も必要だと思っているので、近いうちに対応できるようにしたいですね。
――昔のラノベに親しんだ、いまの30代、40代に向けたゲームでもあるんですね。ちょうど仕事と子育てで忙しい人も多いと思います。
イム
30代、40代の方には私と同じ理由で楽しんでほしいですし、若い世代には「こういう楽しさもあるんだ」と感じてほしい。30代、40代には懐かしさを、10代、20代には知らなかった楽しさを届けられたらと思います。
リリース時に使えるキャラクターは約30体。毎月のストーリー更新で“続きが気になる”ゲームに
――リリースの段階で、何キャラクターくらい実装されている想定ですか。
イム
リリース時には、プレイできるキャラクターを30体ほど準備しています。その後も毎月アップデートをして、1年間でおそらく30体ほど公開する予定です。プレイできないキャラクターも含めると、リリース時期に向けて50~60体を準備しています。
――かなり多いですね。今回の試遊では同じクラン(グループ)のメンバーで戦う場面が中心でしたが、異なるクランのキャラクターどうしでも掛け合いが描かれていくのでしょうか。
イム
協力し合うクランもあれば、ライバル関係のクランもあります。そこで葛藤が生まれ、また対決することもある。いろいろな関係や物語を準備しているので、楽しみにしていてください。

TGS試遊版で使用した清蘭同友会の編成。リリース後に描かれるクラン間の関係にも注目したい。
――ちなみに、男性キャラクターは登場しますか?
イム
世界の中にはもちろんいます。主人公も男性です。ただ、いまのところプレイアブルキャラクターとしての登場は予定していません。
――CBT参加者募集PVでは、メニュー画面のようなものも気になりました。どんなコンテンツがあるのか、教えてもらえますか。
イム
PVに映っていたのはロビーの画面ですね。“自由時間”というコンテンツでは、仕事を終えた主任がいろいろな地域を回り、キャラクターと出会って交流できます。ほかにもショップやストーリーの一覧がありまして、もうひとつは……実際に公開されたときのお楽しみで。これ以上はいま言うとネタバレになってしまいますからね。そんなに遠くないうちに公開されると思います。

CBT参加者募集PVに登場したロビー画面。画面下部には各メニューが並ぶ。


雑誌の表紙のような一覧やレトロなパソコンを背景にした画面も。
――今後、アップデートやストーリーの追加はどのくらいのペースで考えていますか。
イム
好きな連載作品の次回が気になるような感覚を出したいんです。時期や進行状況によって差はあると思いますが、おおよそ1ヵ月にひとつのストーリーは提供したいですね。
もちろん、月1回だけのアップデートではなく、毎週新しく遊べるものを用意して、つぎつぎに展開していく楽しさを感じていただけるようにしたいと思っています。
――課金システムについてはいかがですか。
イム
一般的なゲームから大きくかけ離れた課金システムは考えていません。ただ、まだ定まっていない部分があるので、詳しいことはまだお話しできないんです。すみません!
――最後に、ゲームを運営していくうえで、プレイヤーに約束したいポリシーがあれば教えてください。
イム
いちばん大切にしているのは“価値”です。プレイヤーの皆さんは時間やお金を使って、このゲームを楽しんでくださる。その時間やお金に見合う楽しさ、おもしろさ、コンテンツを提供することを、つねに心がけています。
――本日はありがとうございました。

Tシャツには「立ち向かいます。それだけです」という信念が書かれている。

財部千景と花盛百杏のデザイン、そして必殺技の名前を叫ぶくだりで意気投合したので、がっちり握手をした。