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『リミットゼロ ブレイカーズ』のマーケティング案を高校生が考えたら完成度が高すぎた。KADOKAWA夏野社長も感心させたカギは“自分に刺さる案”だからこその情熱

『リミットゼロ ブレイカーズ』のマーケティング案を高校生が考えたら完成度が高すぎた。KADOKAWA夏野社長も感心させたカギは“自分に刺さる案”だからこその情熱
 まずは以下の状況を想像してみてほしい。あなたは高校生で、発売前のゲーム『リミットゼロ ブレイカーズ』(ブレイカーズ)のマーケティング案をプレゼンすることになる。パワーポイントのスライドは約40枚、発表の時間はたったの5分。
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プレゼンする相手は、かつて携帯電話の常識を塗り替えた“iモード”を生み出すなど、時代の改変に携わってきた人物だ。
 自分が高校生のころ、こんな鮮烈な体験をしたことがあっただろうか。今回、学校法人角川ドワンゴ学園N高等学校・S高等学校・R高等学校(以下、N高グループ)の生徒の皆さんから選抜された代表6グループが、株式会社KADOKAWA代表取締役社長・夏野剛氏にこのような状況でのプレゼンを実際に行なった

 N高グループには“プロジェクトN”という学習プログラムがある。これは“毎回異なる「答えのない社会課題」への解決に向けて、社会で必要なスキル を駆使し、具体的な解決策企画とアウトプットを制作する”というもの。2025年10月~12月は『
ブレイカーズ』を題材として、その魅力を伝えるための授業が行われた。ひとつはキャラをアピールするイラスト課題、そしてもうひとつが今回の施策。ゲーム全体を広く伝えるにはどうすればいいか。

 こんな状況ではガチガチに緊張しても仕方ないし、高校生のマーケティング案だからそれなりだろうな、などと考えていた。彼らはそんな考えを一発で覆す、社会人も顔負けの、夏野社長を感心させるプレゼンを堂々と完遂してくれた。
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濃密な内容を分かりやすくまとめられたマーケティング案の数々。しかも発表時間を超過したグループはひとつもなかった。
 今回は生徒の皆さんのプレゼンの概要に加え、講評を担当した夏野社長へ授業後に実施したインタビューの内容をお届けしていく。彼らが授業で学んだゲームマーケティングの妙をぜひ感じ取っていただきたい。

3ヵ月の授業成果を夏野社長にお披露目

 授業参観のようなかたちでお邪魔したのは、N高グループの秋葉原キャンパス。N高は“ネットの高校”を掲げる広域通信制高校であり、時間や場所を気にせず自分のペースで学べる“ネットコース”や全国100ヵ所以上のキャンパスで学ぶ通学コースなど、自分のライフスタイルに合わせてスケジュールも自分用に調整可能だ。

 同校では職業体験や課外授業を含むさまざまなカリキュラムに加え、メンターのサポートなども充実している。
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キャラクター創造とマーケティング企画の2方面で特別授業を実施。今回はマーケティング企画に関するレポートとなる。
 題材の『ブレイカーズ』は、王道ファンタジーを謳うPC・スマホ向けアニメーションRPG。“世界は救わない。自らを救う物語。”と銘打つ独自の世界観とストーリー、感情表現を徹底してアニメの世界に入ったような感覚を生み出す各種演出、個性あふれるキャラクター(以前のインタビューでは「必ず推しが見つかる」と胸を張っていた)など、さまざまな魅力を打ち出しているタイトルだ。

 ほかにもコミックや小説などの多方面メディア展開、アニメーションパートをアニメスタジオMAPPAが担当するなど、セールスポイントは多岐に渡る。
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 マーケティング企画コンテストの授業で、生徒の皆さんはマーケティングのなんたるかを学んできた。その終盤の集大成となるのが、今回の夏野社長へのプレゼンだ。受講生は週4コマ、3ヵ月間に渡る授業を経てこの発表の場に臨んだ。
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発表後には、夏野社長からの質疑があると事前に伝えられている。各班とも、そんなプレッシャーを感じさせない見事なプレゼンだった。

体験と認知を重視した各案を紹介

 ここからは代表6グループのプレゼン概要を紹介していく。実際のプレゼンはスライド枚数が約20~40枚という濃密な内容になっていたが、発表時には言いよどむ場面もなく、制限時間の5分間で全内容をしっかりと発表してくれた。

 以下の概要内では紹介しきれていないが、各班ともにマーケティング案の根拠や、ターゲットとして想定する“ペルソナ”の設定、案の問題点や改善案までしっかりと想定していたのも印象的だった。

秋葉原 D班:サイネージ広告&タブレットガチャ設置

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 2026年配信開始となる競合タイトルと比較して、『ブレイカーズ』の強みをアニメーションと世界観であると設定。駅のサイネージによる広告効果の“視認性”と、併設したタブレットによる特典つきガチャという“体験性”というふたつを軸としたマーケティング案が提案された。

 夏野社長からは、ふたつの軸のどちらに主眼を置くのかという質問が投げかけられた。また、QRコードを用いれば、自分のスマホでも同じ体験ができるのではとも尋ねられたが、設置タブレットでガチャというワクワク感による体験性を重視したいのだという。

立川 A班:リアル謎解きゲーム

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 長期サービスを続けることで情報量が増えすぎて新規層を取り込みにくい競合タイトルに対して、『ブレイカーズ』は新規層に訴えかけることを主眼とし、そのためには世界観を体験型イベントでより深く理解してもらう必要があると想定。リアル謎解きという体験型イベントを“ニコニコ超会議”で実施した場合の、参加人数や広告効果のシミュレーションを行った。

 夏野社長は実際に何人に体験してもらえる想定かと質問。ニコニコ超会議の来場者は約15万人とはいえ、来場者全員が体験できるわけではないという点を懸念点として挙げた。

秋葉原 G班:駅内QRコード広告によるノベルゲーム

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 ターゲットを30代男性という、王道ストーリーを好む層に設定。駅の広告でQRコードを読み込むと4時間のタイマーがスタートし、時間になるとゲーム本編の内容に即したノベルゲームが遊べるようになるという企画を発表。30代男性の生活リズムや“カリギュラ効果”などの心理的作用も考慮しつつ、駅広告という媒体が持つ強みや、KADOKAWAが持つネットワークが使用できるという利点も併せて提案した。

 夏野社長は4時間待つという点について、「4時間待って、これ?」と思われる危うさもあるのではと指摘。これに対してG班は、キャラビジュアルや世界観などに強みがある『ブレイカーズ』なら期待に応えられると回答した。

西宮北口 A班:リアルガチャ設置

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 少年マンガ的な感覚を味わえる王道ストーリーと世界観に主眼を置き、対象として友だちとのつながりを重視する中高生を設定。“共体験”を通じて満足度や没入感を向上させる効果も狙った、大型スクリーンと舵輪型のハンドルを持つリアルガチャを大阪梅田駅に設置する独自性の高い案を提示した。ガチャのカプセルにはミニブックを封入し、Webサイトへの誘導や、口コミでの共体験の拡散を目指す。

 夏野社長からのおもな指摘は費用面。ミニブックの印刷費用がひとつあたり100円かかるとすると、最大想定人数の25万人に回してもらうとなると2500万にも及んでしまう。内容物がミニブックのみである点に関しては、A班はあくまで景品内容ではなく、ガチャを回す体験を重視していると回答した。

秋葉原 B班:通行人を巻き込む巨大アートプロジェクト

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 『ブレイカーズ』の強みをいままでにない世界観やマルチプレイの体験であると設定。巨大液晶画面のグラフィックを参加者ひとりずつがパネルを1枚ずつタッチし解放していくことで完成させるという、通行人巻き込み型のティザー企画を提案した。認知されていない情報ゼロの状態からでも、参加者に“謎の手紙”を渡してつぎの会場の情報などを与える手法で、さらにイベントへの興味や『ブレイカーズ』への認知を持たせられる。

 夏野社長は巨大パネルにタッチして解放するという形式について、絵の一部が出てくるだけではおもしろさを味わえないのではと質問。B班は触れたときに液晶パネルが変化したり、グラフィックが動いたりするところに独自の体験や面白さを感じてもらう想定であると回答した。

新宿代々木 A班:衣装デザインコンテスト

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 『ブレイカーズ』のキャラが衣装差分と相性がいいキャラデザインであり、二次創作との親和性も高いところに着目し、SNSでの衣装デザインコンテストの開催を提案。4ヵ月に1回の定期開催にすることで話題性、持続性を生み出していく。当案のメインターゲットはコンテスト参加者ではなく、むしろ閲覧者側。応募にハッシュタグ必須とすることで認知度を上げつつ、コンテストが定期開催コンテンツとなっていくことで「コンテストといえば『ブレイカーズ』」、「盛り上がっているアクションRPG」という認識を拡散する。

 夏野社長からはコンテスト内容について、あくまで衣装にしぼるのかどうかという質問が出された。まずは衣装コンテストにしぼって開催することで定期コンテンツ化を促し、その成果しだいでほかのコンテストもコンテンツ化できると想定しているとのこと。

夏野社長からの総評

 発表終了後の総評では夏野社長からは、まずは「よくここまで高校生がやってくれた」と感想を述べた。“自分に刺さる案”を“自分なり”に、しかも現代の強みとしてインターネットを最大限活用してまとめあげた点には、とくに感心したとのこと。

 勉強してきたであろうマーケティングの専門用語ひとつひとつについても「浮いている」と感じるものはなかったという。
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「あー」「うー」といった言いよどむ様子が一切なかった点については、「プレゼンがうますぎるからあえて入れたほうがいいかも」と冗談を挟んだ。
 プレゼンのうまさについては、資料に書かれている文字部分は口頭では重複説明しない点など、大学生はおろか社会人のプレゼンでもありがちなミスがなかった点も高く評価。ここまでがんばれる皆さんからすると、情熱をもって取り組める場やアウトプットの機会が少ない昨今の日本の大学がつまらなく感じるかも、と懸念も示した。

 また、スマホゲームのマーケティングが持つ拡張性やコンバージョン率(実際にWebサイトを訪問したり、成果に至るかという割合)に課題があり、ダウンロードやプレイをしてくれるようにするまでのハードルが高い点も指摘。より多くダウンロードしてもらうため、関心を持たない層にも訴えかける案を全班が考えてくれた点も称賛した。

夏野社長に訊く“自分ごと”の大切さ

 授業の終了後に、改めて夏野社長にインタビューを実施。今回の授業で受けた印象について、深掘りしていただいた。なぜ今回の6グループの発表をすごいと思ったのかなど、筆者が抱いていたいくつもの疑問点がするりと氷解するお話になっていたので、皆さまもぜひご一読あれ。
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夏野剛氏(以下、夏野。敬称略)
やっぱり最近の高校生、恐るべしですね。なにがすごいかというと、いまはインターネットの時代なので、マーケティングの知識やプライシング、たとえば駅広告を出すのにいくらかかるとか、こういうデータが高校生であっても全部手に入るようになっているんです。

 その前提に基づくと、ありきたりな提案を作るのは誰でもできるんです。そういう基礎データを全部得たうえでどういうことをやれば“自分たちに刺さるか”っていう提案をそれぞれのチームが作ってくれているのが、プロフェッショナルな広告代理店とはちょっと違う観点かなと。

――自分たちなりの案をしっかりと情報で裏付けた発表ばかりでしたね。

夏野
 こういうものにはなにが正解かっていうのはないわけで、その商品の特性に応じていちばんいいものが選ばれるわけですけど、今回の6チームの作品はそれぞれ評価すべきところがありましたよね。たまたま最優秀賞をひとつ選びましたけど、これは現段階の『ブレイカーズ』に関してはこの作品がいいってことで、じつは優劣があるものではないと思っています。

――そのなかでも、あえて最優秀賞を選ばれた理由はなんでしょう。

夏野
  そこは簡単な理由です。いままでにないゲームをひとつ出すわけですから、そうなるとスケーラビリティ(拡張性、拡張に耐えうる設計)がこの段階では重要なんです。これが1回ゲームが世に出た後のマーケティングなら、ほかの案を選んだかもしれませんね。

――マーケティングにおいては、タイミングも大事と。

夏野
 いまこの瞬間に広告代理店が提案するわけじゃないので、タイミングよりはオリジナリティを出していただいた今回のような案の方がよかったと思います。僕らみたいなビジネスマンから見ればタイミングが大事ですが、今回の場合はスケーラビリティのほうが大事だから。

 タイミングの面はもう無視して、自分たちに刺さるのはこうだ、という案を出してもらったのが、今回の場合は逆によかったんじゃないかなと。
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マーケティングにおいて重要な想定対象“ペルソナ”に対してだけでなく、自分たちもそこにいる主観性が全班から感じられた。
――各班に質問も投げられていましたが、そこで重視した点を教えていただけますか。

夏野
 必ずしも案による効果と、やってることが完全にかみ合っていないかもしれないようなポイントを中心に、そこはどう思ってますかと聞いていきました。目標達成のために、いま提案していることがちゃんと合っているかどうかということですね。

――KADOKAWA社内での企画案への指摘とは、やはり違ったわけでしょうか。

夏野
 あまりダメ出ししないようには心がけましたね。KADOKAWAではしますよ?

――そこは厳しいわけですね……(笑)。

夏野
 将来がある皆さんですし、みんな一生懸命考えてくれたわけですからね。なるべくいいところを汲み上げてあげたいと考えました。

――今回のように高校生ですとか、若い世代の方にアドバイスをされる機会も多いと思いますが、お話をされる際に注意されていること、心がけていることはありますか。

夏野
 受け取り方しだいなので、ちゃんと通じているかどうかは保証できないんですが、その後につながることが大事だなと思っています。ここをこうすればもっとよくなるかもとか、ここはもしかしたら抜けてたかもしれないと、気づいてくれたらいいなと考えて話しています。

――今回の発表でも、各班の生徒の皆さんにはそういうものが残ったのでしょうね。

夏野
 それはひとつのチャンスなんですよ。今回の6つのアイデアそれぞれが極まっていけば、どこかのタイミング、どこかのステージで必ず合う企画になると思うんです。ぜひ今後も、そういうふうに詰めてみてほしいですね。

――今回の発表では“体験”を重視した案が多かったのも印象的でしたが、そこはどのように受け取られましたか。

夏野
 (『ブレイカーズ』は)リリース前ですから、認知獲得を必要とする現段階ではスケーラビリティが欲しいところで、体験型は難しいかと考えます。しかし認知がある程度広がったタイミングでは、有効になるでしょう。

――では総じまして、今回の6グループの発表でとくに光っていたと感じた点は。

夏野
 そこはもう、自分に刺さるものをちゃんと提案してきてくれてる。ここがいちばんですよね。こういう風にやったらあの人に当たるんじゃないかなっていう仮説じゃなくて、自分だったらこれがハマるんだ、当たるんだっていうことをちゃんと想定しているのがいいなと思います。

――実際の広告代理店などでは、それができていない例も多いですよね。

夏野
 受注を狙ってしまうという点もありますし、ここの段階だとスケーラビリティだな、と言い出すとどうしてもありきたりになっちゃうんですよ。4時間待つみたいなアイデアっていうのは、自分だったらっていう自分ごととして捉えているから出るものですよね。

 課題はいっぱいあるんですよ。4時間後に忘れちゃうかもしれないし、通知機能もオフにしていれば気づかないでしょうし。でもこのタイムラグを使う案は、なにが自分には刺さるだろうなって思ってる人じゃないと出てこないアイデアですね。
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4時間のタイマーによるカリギュラ効果という発想は、たしかに客観的な視点からはまず出てこない。
――今回の授業を通じて、参加した生徒の皆さんにとくに大事にしていってほしい点などはありますか。

夏野
 生徒の皆さんには言いましたが、こういう自分で考えて、自分でゼロからのアイデアを作る体験が日本の教育現場では少なすぎるんですよ。これから大学に進学する人も多いと思うんですが、日本の大学がとくにダメなんですよね、こういうの。

――自分が高校生の時期にこんな発表ができたかな、と身につまされるところもありました。

夏野
 僕も高校時代は全然勉強しなかったし、遊んでましたね。お笑いコンビ・爆笑問題の田中さんと同じクラスだったので、よくいっしょに机を隠して麻雀打ってました。3年生になったらそろそろまずいと受験勉強を始めたら、裏切り者って言われたもんです。

――我々含め、同じような思い出の人も多いかと。あのころの記憶はなんであれ焼き付いていますよね。

夏野
 中、高、大の時代は多感な時期で、体力的にも無理が効きますからね。ここで熱中したものは、すごく大事な経験になりますよ。だからこそ日本の大学はもったいなく思えちゃって、むしろアメリカやカナダの大学のほうがN高の皆さんはおもしろく感じるんじゃないですかね。

 とある海外の大学で、たとえばChat GPTを使って何かについて調べたうえで、その回答に対して自分がどう思うかをまとめなさい、という授業をやっていると聞いたことがあります。AIやインターネットを活用したうえで、応用もする。そこまでしないといまの時代にはついていけないんです。

――聞いただけだと簡単なことに思えるんですが、実践は難しいような……。

夏野
 いえいえ、簡単なんですよ。僕も大学教員の立場も持っているので、しっかりやっていかないとと思っています。ワンウェイの授業はやらないですよ。
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――ゲームのマーケティングについても、この機会にぜひ伺えればと。まず『ブレイカーズ』について、現段階で夏野社長の視点からはどのようなタイトルとお考えですか。
夏野
 日本のスマホゲームはガラパゴス化しているところがあって、グローバルマーケットとなにが違うのかと考えると難しいんですよね。キャラの設定や動きが他国と比べて時代遅れというわけではないんですが、全体的な作りに違和感があるんです。

 『ブレイカーズ』では韓国のVIC GAME STUDIOSさんに開発してもらっていることで、我々にとってもすごく勉強になると考えています。日本がこれだけコンシューマーゲームで世界中に勢いを持っているのに、スマホゲームでは同じことができていないのはなぜか。この壁を破りたいという考えもあります。

――『ブレイカーズ』のどのあたりが、その役割を果たすとお考えでしょうか。

夏野
 世界観やMAPPAさんのアニメーションなどが印象的ですけど、そのなかでも日本のアニメとはちょっと違う雰囲気があるんですよね。韓国や中国のスマホゲームと比べるとぐっと日本寄りでありながら、日本のRPGと比べるとグローバル寄りでもある、ここに新しいチャンスがあるんじゃないかと思っています。

――では、日本のスマホタイトルが世界に進出するブレイクスルーポイントを挙げるとなると……。

夏野
 “協業”ですね。今回は日本のアニメスタジオMAPPAさんと日本の制作会社である我々KADOKAWAと、韓国の開発会社VIC GAME STUDIOSさん、さらに配給はNCSOFTさんという、日韓共同プロジェクトになっているわけで、各社が同じ方向を向いて協業できているこの状態が鍵だと思っています。とくにスマホはね。

――コンシューマーゲームは日本だけで作っても、世界に乗り出せている現状ですよね。

夏野
 そう。コンシューマーでできたりしているのに、スマホでできない理由がないじゃないですか。KADOKAWAでもやってみますよ。
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――お話をマーケティングに戻しまして、昨今ゲームPRの手法として有名人の起用やSNSでの拡散などさまざまな手法が取られていますが、これらのなかで夏野社長から見て有効と思われる手法などはありますか。
夏野
 いや、これがもうスマホゲームの世界ではやり尽くされた感があるんですよ。なので今回のN高生が出してくれたような企画に意味があるなと思いまして。今日出てきた企画は前例がほとんどなく、だからこそいいんですよ。本当にやり尽くされて、焼け野原な感じがするんです。

――同じ方法では限界があると。

夏野
 もう劇的には効かないと思いますね。スマホ内の広告もゲームのものであふれちゃって、無料コンテンツを見ているとゲームの広告が出てきてどこを押したら閉じられるんだ、みたいな体験、みんな嫌になってきてますよね。

――ありますね、閉じるボタンが狡猾な位置にあったりして。

夏野
 そこを工夫してもしょうがないだろ! といったところで、ますますやり尽くされた感がありますよね。だから今回のように新鮮なアイデアをもらって、新しいことにトライしたいっていう気持ちは強いですよ。

 たとえば、今回の最優秀案にあった“ストーリー展開の一部を見せる”というアイデアは、実際やっているところは現状ほとんどないですよね。1回ストーリーや世界観をぶつけてから興味を引くという手法が。

――たしかに。そう考えると、今回の6グループの発表は光る原石ばかりですね。

夏野
 体験型も含めて。それが高校生から出てきたっていうのが改めてすごいことだなと思いますよ。そういうアイデアは本当に大事だなと思います。
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具体的な実現のイメージが湧いてくる企画案だけでなく、「これはいったい?」と思わせる企画もあった。自由かつ練り込まれた発想に拍手を贈りたい。
――では改めまして、マーケティングやゲーム業界に興味を持ったり、いろいろな夢を追ったりしている高校生の皆さんにお言葉をいただけますか。

夏野
 マーケティングについては、ビジネスの現場の都合とか事情とか慣習とかそういうものから離れて、単純に自分がユーザーだったらこれが刺さるなというアイデアを、どうやったら現実に合わせられるか。最初の原点は自分にだったら刺さるはずだという、そこから始めてもらうのがいいんじゃないかと思っています。

 大人からは「そんなのできないよ」とかいろいろ言われると思うんですけど、諦めずに掘っていくことで、なにかチャンスがあると感じ取ってもらいたい。高校生のうちだからこそそういう発想ができるはずなので、どんどんチャレンジしてもらいたいですね。

――まずが自分なりの、自分ごとの発想を持つということですね。

夏野
 こういうコンテストの場じゃなくても、自分だったらこの商品はこういうふうには宣伝しないとか、いま実際にマーケティングがされているものに対して、自分だったらどうするっていうのをシミュレーションするのもいいんじゃないかなと。

 僕も学生時代、バスの運賃を入れる装置はなんでこんなふうに千円札を入れなきゃならないのかとか、なんで運転手が硬貨を目で数える必要があるのかとか、これは電子マネーにすべきだと本当に考えていたんです。それで実際に、大人になってから電子マネー形式を普及させることになったんですよ。自分だったらこうしないとなっていうのは、すごい大事だと思うんです。

――なるほど、確かに……(インタビュー用のクリップボードに挟んだ紙をめくりつつ)。

夏野
 たとえばそのボードは上にクリップがついていますけど、横についていた方がめくりやすくなるんじゃないか、とかね。そこ(卓上)にあるメモ帳も罫線が引かれているけど、そんな狭い線と線のあいだにメモ書きをするのは無理って思いませんか。

――そこも納得できますね。でも、言われるまで明確には疑問を持っていませんでした。

夏野
 あれ? と思ったら、それを直すのにどうすればいいのか。どんな技術が必要で、いくらかかるのか。そういう情報が、いまは調べればいくらでも出てくるんですよ。そこでさらに“自分だったら”と置き換える。

 若い社員にも言っていることですが、自分が部長だったらこういう判断するかなとか、自分が社長だったらいま社長がやってることをやるかなって、つねにシミュレートしていくと勉強になるんです。

――なるほど。返す返すも、あらゆる場面で“自分ごと”の捉えかたが大事なんですね。

夏野
 そう、批判とかしているだけで“他人ごと”なのはよくない。これはマーケティングだけでなく、いろいろなことに言えると思います。
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