ロゴジャック広告

板垣伴信氏×原田勝弘氏による奇跡の対談・再録。なぜ板垣氏は『鉄拳』嫌いを公言したのか。お互いの因縁や格ゲーに対するこだわりを本音で語り合う

板垣伴信氏×原田勝弘氏による奇跡の対談・再録。なぜ板垣氏は『鉄拳』嫌いを公言したのか。お互いの因縁や格ゲーに対するこだわりを本音で語り合う
 ゲームクリエイターの板垣伴信氏が2025年10月に逝去した。享年58。

 板垣伴信氏は、1992年にテクモ(現コーエーテクモゲームス)に入社し、『
デッドオアアライブ』シリーズや『NINJA GAIDEN』シリーズなどの開発を指揮。在籍中には社内ブランドとして、Team NINJAを立ち上げた。2008年にテクモ退社後はヴァルハラゲームスタジオを立ち上げ、2015年にWii U向けソフト『Devil's Third』(発売元:任天堂)をリリース。その後、2015年に板垣プロダクションを設立(2024年に板垣ゲームズへと商号変更)。2017年からソフトギアの“メタル顧問”に就任していた。

 ファミ通.comでは、板垣伴信氏の追悼企画として、“ファミ通Xbox 360”2012年1月号から3月号の3号にわたって掲載された板垣伴信氏とバンダイナムコエンターテインメント原田勝弘氏との対談記事を再掲載する。
広告

 再掲載の前に、本記事の状況をお伝えしよう。前述の通り、本記事は2012年に掲載されたもの。板垣氏はヴァルハラゲームスタジオの立ち上げから4年が経過し『Devil's Third』を開発中で、原田氏は『
鉄拳タッグトーナメント2』アーケード版の稼動から数ヵ月。板垣氏は以前から海外インタビューなどで“『鉄拳』嫌い”を公言しており、原田氏とは犬猿の仲と見られていた中での対談実現ということで、当時の記事でも“究極の対談”という表現が使われているという状況だ。

 なお、当時の板垣氏と原田氏の関係性については、原田氏がX(Twitter)でも綴っており、こちらも合わせて読むと状況の理解が進むはずだ。
※こちらの記事は“ファミ通Xbox 360”2012年1月号から3月号にかけて掲載されたものです。 ※当時のエピソードなどは実際にはすでに互いに知り得ていたものも含め、読者にわかりやすくするため、ふたりの会話上で当時の出来事を思い返し、あえて再現していただくインタビュー記事となっています。[IMAGE]
 歴史が動いた!! 先月号で『鉄拳」シリーズの原田勝弘氏について触れたことがきっかけとなり、板垣氏と原田氏による“究極の対談”が実現! 格闘ゲームを手掛ける者としてライバル関係にあったふたりが何を語るのか!? そして、“犬猿の仲”になったきっかけもついに明かされる!?

板垣氏×原田氏 因縁のきっかけとは?

――前号(編注:“ファミ通Xbox 360”2011年12月号)のインタビューで板垣さんが原田さんについて触れていましたが、まさかそこからおふたりの対談が実現するとは……。

原田
 (遮って)とりあえず酒ないの?

――え?

板垣
 自分から言うか(笑)。用意してあるよ(笑)。ちょっと持ってきて。

―ビールやらワインやらが運ばれる―

板垣
 (バンダイナムコゲームスの宣伝担当に向かって)飲みながらの取材でも、問題ないですよね?

――あ、えーと……。

原田
 飲まないとやってらんないでしょ。

板垣
 だよね(笑)。じゃあ、乾杯!
[IMAGE]
――で、では対談を始めましょうか。そもそも先月の話だと板垣さんが飲んでいるときに、原田さんに電話をしたということでしたが……。

板垣
 飲んでいるときというか、僕はいつでも飲んでいますからね(笑)。けっこう遅い時間だったよね。

原田
 21時30分ぐらいだったかな。会社にいたら携帯電話が鳴って、ディスプレイを見たら“板垣”って名前が出たんですよ。思わずまわりの人間に「おい、これ見ろよ!」って知らせて、「これ、俺が出るの?」って(笑)。電話に出たら、いきなり「どう?」って言われて、どうも何も、仕事してるんだよと(笑)。ここのところずっと忙しくて、スケジュールとか20分刻みぐらいで動いているときだったんですよ。だから、板垣さんがいったいどういう仕事のスタイルをしているのかが気になりますよね。

板垣
 そのへんの話は後で話そうか。で、今日はどうしたの?

原田
 アンタが呼んだんじゃないか!(笑)電話で「遊びに来い」って。

板垣
 ああ、そうだったそうだった!

原田
 ちゃんと仕事してるんですか?

板垣
 してますよ(笑)。もう独立してから3~4年経ったけどね。

原田
 3~4年経っているのにまだトレーラーしか見ていないので、本当に仕事しているのかなと思って(笑)。

板垣
 そういう疑惑はあるよね(笑)。

原田
 随分と長いなって、みんな思っていると思いますよ。

板垣
 『NINJA GAIDEN』っていうアクションゲームがあったけど、あれは4年かけたんだよ。

原田
 ああ、そうだ。あれもけっこうかかっていた気がする。

板垣
 あれと同じくらいでできればいいかなと思っているんですけどね。でも、ぜんぜん違うジャンルじゃないですか。まあ、苦労しながらやっていますよ。

原田
 まずは、板垣さんの1日っていうのを簡単に教えてくださいよ。朝は何時に起きてるの?

板垣
 まあ……フレキシブルだよね。

原田
 それ、聞こえがいいからそう言っているだけでしょ(笑)。要は適当なんですよね?

板垣
 柔軟と言ってほしいな(笑)。でも、やっぱり来てもらってよかったよ。そんなことを、こうやっておおっぴらに僕に言えるのは、地球上でたぶんキミだけだから(笑)。僕は来たい時間に会社に来て、仕事をやりたいときにやって、夜中でも部下を家に呼んで、家で酒盛りして、企画会議やったり、ゲームしてみたり。僕は人がゲームで遊んでいるのを見るのが好きだからね。

原田
 なるほどね。それは、そんなことをやっているから4年もかかるのか、それとも、そういったことも込みで4年かけるからいいんだっていう判断なのか、どっちなんですか?

板垣
 無論、後者だよね。酒でしょ? マージャンでしょ? 仕事でしょ? 遊びでしょ? まあ、仕事も遊びみたいなものだけど。あとは社員と、家族と、お客さん。そしてメディア。応援してくれる人はいっぱいいるからね。だから柔軟に。さっき20分刻みって言ってたじゃない? それは何かに書いてあるの?

原田
 ネットシステム上の予定表に書かれています。僕が詰めなくとも、自然と予定が詰まってくるんですよ。

板垣
 なんかテレビ番組みたいじゃない。もっとガラっぱちな生きかたをしてるかと思ってたけど、すごいね。

原田
 意外にも最近キツキツなんですよ。でも、さすがに酒を飲んで人の職場に電話したりはしない(笑)。

一同 (爆笑)

原田
 でも酒はかなり飲むかな。日本の職場ではないけど。

板垣
 僕はアメリカンだからさ。

原田
 ヨーロッパなんかに行くと、僕も昼間から酒飲んだりしますけどね。

板垣
 そうなんだ。Twitterとかすごくやっているよね。

原田
 やってますね。でも、お酒飲んでやるとダメですね。

板垣
 先月、バカ発見器って書いたんだけど、そうだよね。

原田
 その側面はありますね。何でかというと、ふだんは挑発に乗るまいと思っているんだけど、僕はテキーラが大好きで、テキーラ飲んで深夜2時くらいになると、何かちょっと誤解されただけでカチンときちゃったり(笑)。

板垣
 テキーラはまずいだろう(笑)。僕も原田君にちょっと言われると、カチンとくるんだよね(笑)。それでまた原田君がカチンときてさ。こんなケンカを何年やっているんだろう?

原田
 14~15年くらい続いているかな。そもそもキッカケは何ですかね? 諸説あるんですよ。僕が見て、「これはないわ」と思ったのは、板垣さんが『鉄拳』のラジオCMか何かを聴いて、それが『DEAD OR ALIVE』か何かに対して挑発的な内容で、それに怒った板垣氏は『鉄拳』を嫌うようになったってネットでいっぱい書かれているんですよね。僕はそんなんじゃないと思っているんだけど、実際はどうなんですか? そんな理由で『鉄拳』を嫌うとかじゃないと思うんだけど。

板垣
 あれは……1997年だったかな。その年に生まれた子どもはもう高校生とかになっているのかな?

原田
 物心ついていた人は、もう成人していますからね。僕らが犬猿の仲だっていうのは、みんな知って育っている人たちなので。

板垣
 そういうことになるか(笑)。せっかく話が盛り上がってきたときに、急に核心をついた話題だね(笑)。まあ、もう時効だから話してもいいか。

原田
 ぜひぜひ。これ、けっこう話題になると思うんだよなぁ。というか俺がいちばん聞きたいわ(笑)。

板垣
 わかった。それは後でちゃんと話す。約束する。その前に、なんで格闘ゲームを作ることになったの?

原田
 僕の場合は、ナムコに入社する直前が『ストリートファイターII』だった世代なんですよ。もともとヨットレースやら柔道やらをやっていたり、人と競ったり争ったりするのが大好きだったんですよね。ゲームは子どものころから大好きでゲームセンターに通っていたんですけど、100円玉を入れるだけで他人と公的にぶつかり合えるゲームがすばらしいと。

板垣
 リアルにも行っちゃう?

原田
 いや直接はやりませんよ。

板垣
 台蹴りくらいはやるでしょ(笑)。

原田
 それくらいはね(笑)。

板垣
 それは『ストII』?

原田
 『ストII』もそうだけど、対戦ゲームだと何でもよかった。ただ、格闘っていうのが“競う・争う”とい感覚に直結していたんですよね。

板垣
 大学のころとかも?

原田
原田
 ずっと『ストII』かヨットレースをやっていましたね。

板垣
 ちゃんと4年で卒業したの?

原田
 もちろん。板垣さんは?

板垣
 僕は7年(笑)。

原田
 長いですよ(笑)。

板垣
 僕も勝負にのめりこんでいたからね(笑)。

原田
 それってマージャンとか?(笑)

板垣
 もちろん、ほかにも花札とかね。

原田
 まあ、それで、何かしら人と対戦するっていうことをやりたいなと思って。

板垣
 じゃあ原田君は格闘ゲーム強いんだ。

原田
 けっこうやりますよ。いまだにカチンときて練習することがあるぐらい。僕は少なくとも、28歳までは毎日、たとえば昇龍拳とか風神拳みたいな技を寝る前に、「1P側と2P側でそれぞれ失敗なしで100回通しでやる」とか練習していましたね。

板垣
 それ俺が会社入ったときのメインプログラマーの人が、俺たちに課した特訓といっしょだ(笑)。しかも作っているゲームが『キャプテン翼』だから関係ないのに(笑)。で、何で格闘ゲーム作ることになっちゃったの?

原田
 僕が会社というか周囲に対して、「格闘ゲームは、僕が言う通りに作ったほうがいい」って言ったんですよ

板垣
 言ったねぇ。

原田
 そう言った6年後に知ったんですけど、みんなに「すごくイカれた変なやつが来た」って陰口を言われていたらしいんですよね(笑)。「わけがわからないことをえらそうに」とか、「あいつまだ何もできないのに」って言われていたんですけど、僕は当時、ぜんぜん気づかなくて。でも、僕の言う通りに作ったほうがいいって言いまくっていたら、みんな聞いてくれるようになりましたね。

板垣
 それは、包容力のある石川さんとかのおかげじゃないの? 当時ナムコの開発のトップだったけど、いまは社長をやってらっしゃるよね。

原田
 いろいろな方がずいぶん守ってくれていたそうです。石川さんもそうだし、当時の部長、課長あたりが「あいつはやる気があるやつだから」ってずいぶんかばってくれていた。僕はそれにずっと気づかずに、ひたすら自分が正解だって思っていたんですよ。6年後にその話を聞いたときは、マジでヘコみましたね(笑)。

板垣
 それはね、みんなの堪忍袋の緒が切れたから言ったというよりも、原田君が、それを言っても理解できる年になったと思ったから言われたんだと思うよ。

原田
 だと思います。そのときにいろいろな人に申し訳なかったって謝って回ったほどです。
[IMAGE]

執念と戦う気持ちを持って格闘ゲームを作っている

板垣
 当時、TeamNINJAからナムコさんに行った人もけっこう多いんだけど、板垣という暴君が嫌でナムコに行ったのに、また別の暴君がいたっていうね(笑)。まあ、そうでないと、いいものは作れないよね。

原田
 最後は本当に執念ですからね。

板垣
 それじゃないと恥ずかしくてお客さんに出せないよ。これだけやったんだっていう自負というか、思いがないとマスターとか出せないよね。

原田
 格闘ゲームとか、いままで作ってきた人もそうだし、いま作っている人がそうですよ。半分くらい執念みたいなところがあるんじゃないですか。いつも格闘ゲームって、第何次ブームがどうこうとか、波があるように言われているけど、データを見てみるとそうでもないんですよ。

 これはよく社内で言うんですけど、こだわっているというより、戦っているんですよ。マーケットとも戦っているし、商売とかビジネス以外のところでも、会社の中でもそうです。とにかく戦うことが大好きなので、それを形にしているだけですっていう話をよくしているんですけど、本当に執念と戦う気持ちのあるやつだけが残っていますからね。いまのチームは。16年間で半分くらいは入れ替わりましたけど。

板垣
 それでもガッと動くのは10人くらいでしょ?

原田
 15人はいるかな。

板垣
 でも、そんなもんだよな。うちのボスが白だって言ってるから「白だ」って動くやつらだろ? 熱いねぇ。

原田
 僕の部下の人がほかの部署の人に言われることは、スタッフの言うことが白黒はっきりしていて、やることがハッキリ見えている人が多いから逆らえないっていう話をよく聞きます。

板垣
 なるほどねぇ。『鉄拳』の強さを垣間見た気がするね。

原田
 ヴァルハラはどうなんですか?

板垣
 仕事しているよ。

原田
 そういうことじゃなくて(笑)。

板垣
 まあ、ヴァルハラの前に、僕が格闘ゲームを作ることになった話をしようか。テクモに入社したときに、研修というのがあってね。

原田
 それは実習?

板垣
 いや、座学とテスト。僕はテストとか得意なんだよ。だって答えがあるじゃん。クイズみたいなものだから、だから毎回ほぼ100点。当時はプログラマーのほうが重要視されている時代だったけど、僕は企画になりたかったんだけど、やっているうちにプログラムが書けるのがバレちゃって、『キャプテン翼』に配属されて。当時は赤字がひどくてね、いまでこそ会社を経営しているからわかるけど、3期連続赤字ってまずいんですよ。

 それで、亡くなった先代会長が僕を呼んで、「板垣君。3期連続赤字という意味がわかるかね」とおっしゃるんで、「はあ」と答えたら、「死だよ」と(苦笑)。それが会社に入ったつぎの年の出来ごとですよ。で、「ドラゲー(ドライビングレース)か格ゲーを作ってセガに勝ちなさい」って。

 ただ、ドラゲーは在庫残したらたいへんでしょ。格闘ゲームだったら基板だからね。ROMの載せ替えで売り直しも利く。だから自動一択。それで格闘ゲームを作ることになって、セガに基板をお借りしたんだけど、MODEL3を貸してもらえるかと思ったら、MODEL2だと。まあ、それはそうだよなって。アメリカと日本みたいなもんだし。F22はそう簡単には売らないでしょ。

 で、帰りの電車で当時の社長に「何年で勝てる」って聞かれたんだけど、「いきなり一発目で超えようと思ったら頭おかしいですよ。『2』までやりましょう」って。まあ、実際のところ、僕の基準だと、Aクラス格闘ゲームの仲間入りをしたのが
『DOA4』と思っているんだけどね。

原田
 意外と謙虚な。これこそ記事にしていいのかと(笑)。

板垣
 まあ『DOA2』でもいろいろなブレイクスルーは為したけど、ほかは持っていない排他的な強さを持ったのは『DOA4』だからね。『鉄拳』には歴史と販売数、プレイヤーの数があるよね。『バーチャファイター』には創始者という強み。『DEAD OR ALIVE』には“おっぱい”があったけど。

原田
 ああっ! 僕がいま言おうと思ったことを先に言われてしまった(笑)。

板垣
 僕、意外とフランクなんだわ(笑)。で、『DEAD OR ALIVE』にしかないものというのは、あのときの通信であったわけだけど、初めて僕が家庭用に舵を切った意味というのをお客さんも感じてくれたと思うし。

原田
 あのときの要素って、4年か5年くらい先通しでやってしまいしたよね。いまの格闘ゲームのスタンダード機能がすべて入っていたし。

板垣
 やっぱりそうなんだよ。白か黒なんて関係ねーという突撃部隊がいてこそローンチでできたからね。だから僕は原田君とは違って、格ゲーを作ることになっちゃったんだよな。『DOA2』で『バーチャファイター』を超えるっていう計画を練っていたけども、『DOA1』で到達しようと思っていたところまではできなかった。

 それがセガサターン版を秋に発売したときであって、翌年にPSで
『DOA1』を出したとき。たしかPSの『鉄拳3』のタイミングだよね。あれだけは克明に覚えている。それがさっきの、「僕がなぜ『鉄拳』を嫌いになったか」という話につながるんだけどね。

板垣氏の『鉄拳』嫌いはラジオCMがきっかけ!?

[IMAGE]
原田
 いよいよ核心に迫ってきましたね。なぜ板垣さんが『鉄拳』を嫌いなのか、教えてくださいよ。

板垣
 『DEAD OR ALIVE』は、もともとセガさんの基板で出したというのもあるし、セガさんに懇意にしていただいていたっていうのがあるかもしれないけど、鈴木裕さんに時間を割いていただいて、雑誌で対談記事をしてもらったときに、……あれはセガサターンマガジンだったかな?「このジークンドーのキャラ、技がいいねぇ」って言ってくれたわけですよ。そんなことを憧れの人に言ってもらえたら、「兄貴、ありがとうございます!」って気持ちになりますわな。

原田
 それはすごいなあ! 僕は裕さんと何度かお会いしていますが、褒められたことは1回もない(笑)。

板垣
 いまもお付き合いさせていただいていて、たまに飲んだりしてるんだけどね。まあ、『DOA』は会社の方針もあって、先にセガサターン版を出した。で、僕からしたら、『バーチャファイター』と『鉄拳』というものは、片や創始者、キングですよね。そして片やファンベースが広い。その証拠に、『鉄拳2』までは家内といっしょに喜んでやっていたからね。

原田
 そうですか。

板垣
 クルクル忍者とか。

原田
 ああ、はいはい。吉光ね。

板垣
 あと、ポンケン野郎とか。すみませんね、名前が出なくて(笑)。

原田
 ポールね。いや、もうそのまま載せたほうがおもしろいや(笑)。

板垣
 セガさんはそういう王者の風格を見せていて、ナムコさんはずっとPSで『鉄拳』を大きく展開していたわけですよ。だから、『DOA』をPSで出すと決まった以上は、これはかなりしんどいぞ、と。いつでも切腹するぐらいの気持ちで臨んでいたんです。そのときに、たまたまホームページにいった、と。

原田
 ウチの?

板垣
 そうそう。ナムコさんのホームページにね。『鉄拳3』はどんな感じになるんだろうと思って。そうしたら、いまでも覚えているけど、音声ファイルにリンクが張ってあって、「今度流すラジオCMで〜す」みたいな軽いノリでね。

原田
 ああ、それがラジオCMという噂につながるんだ。

板垣
 そうそう。話すといったからキチンと話すけど、「でもこれってちょっと他社さんをディスっちゃってるし、載せると私クビになっちゃうかもしれないけど載せちゃいまーす」みたいな、言ってしまえばちょっと嫌なノリだったんですよ。まあ、今風な言葉になってしまったけど言いたいことは伝わるかと(笑)。

原田
 そういうノリでリンクがあったと。

板垣
 そう。で、そのときは『鉄拳3』の開発が遅れていたんだよね。SCEさんもピリピリしていたし、大丈夫かねと、俺も思っていた。

原田
 遅れましたね。けっこう時間をかけていましたから。

板垣
 (1998年の)3月末に出せるかどうかっていうタイミングだったので、業界全体が、「3月には出せないんじゃないか?」と思っていたわけですよ。そういう状況で、そのラジオCMが張られていたと。だから、俺はラジオCMで聴いたわけじゃないんだ。

原田
 ネットで?

板垣
 そうそう。

原田
 どういう内容でした?

板垣
 「あるゲーム会社の密談……」っていう感じで始まるんだけど、

A「あのさ、『鉄拳3』、出るのかな?」
B「いや、あれ出ると迷惑なんだよね。ウチのゲームの売上が下がっちゃうから」
A「でも、間に合わないだろ?」
C「つーか出たらどうするの?」
B「いや、出ないだろ」
C「出たらどうすんのって」
A、B「えー? そりゃ買っちゃうよね!!」

 最後にナレーションで“『鉄拳3』、3月XX日、ホントーに発売! ナムコォ!!”と(笑)。

原田
 へー、俺そのころCMとかいっさいタッチしてないから、ぜんぜん知らなかったですよ。

板垣
 でも、やられたらちょっとイラッとくるよね?

原田
 確かにやられたらカチンときますね。でも俺、それ知らなかったわ。たぶん忙しくてそれどころじゃなかったんだろうけど。なるほど、それかー!

板垣
 まあ、べつに僕のところを名指しにしたわけじゃないけど、誰でもイラッとくると思うんですよ。ナムコって言ったら、“遊びをクリエイトする”なわけじゃない。しかも俺はナムコットの時代からいっぱいお世話になっているから、それはないだろと。あと、この話はワンツージャブで、さらに続きがあるんですけどね。3月末に発売されるってことで、商談会にナムコさんが出てきたわけ。

原田
 商談会ってことは……販売の誰かだな。

板垣
 で、当時テクモの販売マンがね、俺より若い奴だったんだが、当時のナムコの担当者に挨拶したんですよ。「やっとPSで『DOA』を出せることになりましたので、ひとつよろしくお願いします」と。そうしたらその方が、「○○君、ひとつのプラットフォームに格闘ゲームはひとつしかいらないんだよ。知ってる?」って言われたらしくてね。

原田
 おおー、言いますねぇ! 当時そんなことを言うのはあの人だろうな……。

板垣
 それで、○○が俺のところに来て、泣きながら「こんなこと言われました! 絶対に勝ってください!!」ってね。

原田
 それがワンツーのツーの部分ですか。そうだったんだぁ!

板垣
 まあ、それだけ。ナムコさんはナムコさんでPSの王者なんだから、もっと器が大きいのかと思ったら、攻撃してきたんでね。売られたケンカは買うしかないなと(笑)。

原田
 僕の認識とはぜんぜん違う(笑)。僕は『鉄拳3』あたりから板垣さんがインタビューで答えているのを見て、僕もけっこう単細胞だから、「何を言ってるんだコイツは!」と思ったんですよ。だから、「これはアカン!」と思って、真っ向から反撃するインタビューがやりたいと、当時の雑誌の担当者にも言っていたんですよ。でも社内のいろいろな人に、「それはよくない」って止められまして……。

板垣
 もとはと言えば御社のスタッフの発言が戦争の発端なんだけどね(笑)。

原田
 (笑)。でも、それは露知らずでしたよ。本当に。僕も当時、ディレクターの立場ではありましたけど、会社としての係長とか課長ではないので力もなく、反論はまずいって上から言われて我慢していたんですよ。で、確か『鉄拳5』のときに、1UP.comで、板垣さんが嫌いなゲームベスト5として、『鉄拳』シリーズを全部並べたんですよ。

板垣
 それ、わりと最近だよね?

原田
 最近といっても、けっこう前ですよ。もう5、6年くらい経つんじゃないかな。で、ちょっと前から思い始めていたんですけど、僕の中で「この構図はおいしいかもしれないな」と。

板垣
 (笑)。

原田
 なんでかと言うと、この人、勝手にいろいろなところで『鉄拳』って言ってるけど、この構図って、むしろ格闘ゲームとして引き立つんじゃないのか?と。

 ちょうどあのころって、『
ストリートファイター』が10年くらい沈黙していた時期だったし、『バーチャファイター』はもちろんあったけど、欧米という戦場では、『DOA』か『鉄拳』っていう2者状態だったんですよ。だから、欧米のほうの記事で、板垣さんの「『鉄拳』が嫌い」という記事が載りまくるというのは、露出もアップして逆においしいかもしれないと気づき始めて。

 極めつけとして、嫌いなゲームで『鉄拳』シリーズが全部載ったときに、むしろすごいプロモーションだなって(笑)。

板垣
 1億くらいの価値はあるね(笑)。

原田
 かも(笑)。で、この人これに気づいているのかな?と。「『鉄拳』が嫌い」と言われているたびにウチのBest版が売れるんだけどって(笑)。

板垣
 (大爆笑)

原田
 それで、『鉄拳5』がBest版込みで600万をちょうど超したときに、「これは絶対にひと役買っているよね」って話になって、チームの中にも「そろそろ乗っていったほうがいいんじゃないか」という空気がすごくあったんですよね。でも、当時から思っていましたけど、なんでこの人こんなに書くのかなって。ひょっとしたら板垣さんの戦いかたなのか、それともガチで嫌いなのか、もしかしたら勝手に宣伝してくれるつもりのか(笑)。この3つで悩んでいたんですよ。

板垣
 4番目だよ。やっぱり、身内をコケにされたら許せないよね。

原田
 それは知らなかったですね。さすがにそれは俺のせいじゃないわ(笑)。

板垣
 (笑)。そのときのナムコの販売部長もすでに会社にいないから、ぜんぜん問題ないですよ。

原田
 でも、それは怒りますよね。

板垣
 感じてくれた?

原田
 そりゃ感じますよ! 自分も逆の立場だったら、きっと怒ります。

板垣
 だから何度か言ったんですよ。「『鉄拳』チームが悪いわけじゃない。ただ俺は『鉄拳』が嫌いなんだ」と。この意味が、いまなら伝わるでしょ?

原田
 伝わりますよ。ちゃんとその話の背景を聞くとね(笑)。
[IMAGE]

オフレコ話のつもりがなぜか記事の見出しに!

――完全に誤解が解けたようですね。

板垣
 いや、もともと誤解していたわけじゃないんですよ。キチンと伝わっていなかっただけで。

――それにしても、かなり歴史的な1日になりましたね。

原田
 読者の方は、楽しく読めるでしょうね。でも、『鉄拳』に対する攻めかたがいやらしくなかったですし、個人攻撃ではなかったので、「俺が嫌われているわけではないな」と思っていたんですよ。ただ、海外の取材を受けるたびに、「取材はこれで終わりです」と言った後に、記者の方が「板垣さんがこんなことを言っていましたよ」って毎回必ず言ってくるんですよね(笑)。

板垣
 (大爆笑)

原田
 十数年間毎回聞かれて、それに対してノーコメントってわけにもいかないし、そもそも人づてに聞くことってむかつくじゃないですか(笑)。だったら俺も言ってやるよってなるわけです。

 で、「取材は終わりです」って言われたからオフレコ話で話したことが、なぜか記事の見出しになっている(笑)。なんでそれがメイントピックになってるんだよ!と。海外のメディアは、おもしろおかしく持ち上げるのが大好きですよね。明かに誇張して書き上げてるし(笑)。そこはメディアの悪いところですよ。

――その原田さんの発言に対して、さらに板垣さんも同じように返しているわけですよね。

原田
 だから、一部の人は、「これはプロレスなんじゃないか」って言っている人がいたんですけど、いやいやとんでもないですよ! メディアをはさんで、ターン制の『大戦略』をやっているようなもんですよ(笑)。

板垣
 確かにね(笑)。でもマジメな話、『鉄拳』と『DOA』ではゲーム性がぜんぜん違うからね。どういう風に殴り合う快感を得てもらうか、どういう読みあいをするかというゲーム設計がまったく違うから、放っておいてもケンカにはなるし、バッティングはする。だから両方売れていいゲームなんだけど。

原田
 客層はけっこう違いますよね。そうそう、じつは『DOA2』を開発中に、テクモに呼ばれたことがあるんですよ。

板垣
 来たよね。

原田
 あのときも、板垣さんに「来いよ」って言われて(笑)。

板垣
 あのときは、酒はなかったよね。

原田
 酒がなくて、(取材をしている)この部屋より狭くて、そこに『DOA2』の筐体があって、板垣さんとふたりきり。けっこう地獄でしたね(笑)。

――原田さんが板垣さんに呼ばれたのは、実際に『DOA2』で遊んでみなよっていう感じだったんですか?

原田
 まだ開発中だったんですけど、「ちょっとやってみてよ」と言われて。

板垣
 あ、そういう理解だった? 実際は、ナムコさんが何枚買うかっていう判定だったんだよね。業務用の販売の人も同席してたはずだけど。

原田
 本当はそうだったんですよね。でも、僕は純粋にゲームを見ようと思いました。あれはいまでも鮮烈に覚えているんですよ。キャラ選択で、けっこう選べるんだと思って、でも板垣さんもいるし、かすみを選ばないと板垣さんが「かすみやってよ」って言うだろうなと思って(笑)、かすみを選んだんですよ。それで、「ラウンド1、ファイト!」って始まって、ベシベシベシッと3秒くらい動かしたら板垣さんが「どう?」って(笑)。

板垣
 (大爆笑)

原田
 「早いわ!!!」って(笑)。それでパニックになっちゃって。最初は操作感を見よう、レスポンスは入力から何フレームかな?とか、そんなところばっかり気になるじゃないですか。だから、3ゲームくらいは連続でやって、合計20ステージくらいはやらせてもらうつもりで、できるだけ長くプレイしようと思ってキャラを選んだのに、始まって3秒後ぐらいで「どう?」って(笑)。もうね、頭が真っ白になりましたよ。これはすごい作戦だなと。「答えられるわけないだろ!」(笑)。あれは本当に驚きましたよ。板垣さんは覚えてないかもしれないけど。

板垣
 「どう?」は覚えてないけど、そのときのことは覚えているよ。じつは、『DOA2』の隣りにカバーがかかってた筐体があったじゃない? あれ『鉄拳』なんだよね。

原田
 え、そうだったんだ! そんなのわかるわけないし!(笑)

板垣
 3台並んでいたでしょ? 左右の筺体にカバーがかかっていたんだけど、左が『ソウルキャリバー』で、右が『鉄拳』だったんだよね。

原田
 よく覚えていますね。

板垣
 いざとなったら3つ並べてガチで見比べてもらおうと思っていたから。ナムコさんってゲームセンターいっぱい持っているから、ナムコさんにも『DOA』をいっぱい入れてもらったんだけど、何枚買うべきかっていうのは格闘ゲームをいちばん知っている開発者に聞いたほうがよかろうってことになって、原田君もいらっしゃったんですよ。

原田
 販売セールスから、「これぐらい買おうと思っているんですけど、原田さんどう思いましたか?」って聞かれたんだけど、どうもこうも(笑)。開始3秒くらいで「どう?」ですからね。

板垣
 (笑)。

原田
 それがいちばん強烈でした。でも、実際に触って、すごく研究しているなというのは感じましたよ。『DOA』って、『バーチャ』っぽいところもあり、吹っ飛んでいったりとかアクションの気持ちよさっていうのは『鉄拳』みたいなところもあって、さらにスピード感は、相当やられているなと。持ち帰ってチームのみんなに「やばいよ」って話はしましたね。

板垣
 僕はテクモを辞めてから格闘ゲームって触ってないんだけど、いまは当たったときに予測してすっ飛ばしているんでしょ?

原田
 全部ではないですけど、ものによってはそうですね。ある程度は。

板垣
 あの検索に処理がかかるんだよね。でも、あれは気持ちいいよね。

原田
 壁にビターンとかは本当に気持ちいいですよね。

板垣
 僕は格ゲーというリングを降りて新しいものを作っているけど。

原田
 そう、だから僕は、せっかくいい宣伝してくれる人がいなくなっちゃった、って思いましたよ(笑)。

板垣
 『鉄拳』に鉄砲を持たせたら?

原田
 銃を持たせるんですか? それでまた同じ戦場と土俵に引きずりこもうと(笑)。またそんなメチャメチャな話を!

板垣
 (大爆笑)

原田
 こんな状態から始めたら、今度こそ「プロレスだ」って言われますよ(笑)。そういう意味では、僕的にはもったいない人がいなくなったって感じでしたね。あんなに記事ネタにしてくれる人はいなかったですから。「『鉄拳』が嫌い」って発言がトップの記事になる人なんていないでしょ。あれ、「俺が宣伝したいゲームは『鉄拳』!」って言っているのと、ほぼ変わらないですからね(笑)。いまはそれだけの発言力を持っていて、『鉄拳』を攻撃してくれる人っていないですから。

板垣氏から原田氏に独立のススメ!?

[IMAGE]
原田
 板垣さんが独立してから、もう4年経ちますよね。

板垣
 4年か。早いね。

原田
 早いんですけど、『Devil's Third』の情報はあまりないですよね。もっとないんですか? ヴァルハラのホームページは充実しているんですけど(笑)。

板垣
 端的に言えば、THQというアメリカの会社とやっているんだけど、いい意味で僕が入ったときのテクモ的な感じの会社で、儲けることは儲けるし、けっこうスイングしているんだよね。プロモーションの計画とかもけっこうスイングする。自分でやっているだけなら責任の取りようもあるんだけど、出てくるキャラクターの情報とかも、僕が言っちゃったら、そのままアメリカにも流れちゃったりするじゃない。

原田
 パブリッシャーを無視して、勝手に話をするわけにはいかないですもんね。

板垣
 そうは言っても、「言いたいことは何でも言っていいよ」って感じでやらせてはくれているんだけどね。でも、なかなかそういうわけにはいかないし。

原田
 なるほどね。でも、最初のトレーラーを公開してから、だいぶ経っちゃいましたよね。

板垣
 ああ、あれからだいぶ変わっちゃったんだよね。

原田
 変わったんですか!?

板垣
 だって3年ちょいぐらい作っているからね。『DEAD OR ALIVE』を作っていたときは、もちろん『バーチャ』も『鉄拳』もすごく研究したけど、今回もほかのシューティングを全部研究して、当然入れなきゃいけないところは全部入れて、シューターとしてはほぼ完成した。あとは、アクションやコンバットのほうだね。それと剣のアクション。

原田
 剣、好きですよね。剣道やっていたからですか?

板垣
 もちろんそれもあるし、『NINJA GAIDEN』を作ったからね。あのゲームって格闘ゲーム的な剣アクションだったでしょ? それと同じような感じで、自分の得意なところは生かそうっていう素直な気持ちで。ファンが期待しているところは応えてあげたいし、そこら辺の要素の有機的な絡み合いのところを作っているところですね。

原田
 へえ。ぜんぜん関係ないですけど、スタッフはお酒を飲まずに仕事しているんですか?

板垣
 飲んでるなぁ。

原田
 そこはわりと自由なんだ(笑)。

板垣
 ウチはかなり自由です。和を乱さなければ、ね。

原田
 和を重視されているんですか?

板垣
 殴り合いになることもたまにあるけどね。でも、どっちが悪いってハッキリするから。殴り合いとかない?

原田
 最近はありませんね。でも昔はやっていましたよ。

板垣
 だよね。

原田
 仕事はいちばんカッときますよね。僕の場合、路上でツバを吐きかけられても怒らないですけど、仕事はムキになっちゃいますよ。メール見ただけでもカーッとくるときがありますね(笑)。

板垣
 原田君も、そろそろ独立してもいい年なんじゃないか?

原田
 そうくるか(笑)。独立……うーん。

板垣
 やっぱりナムコ愛が強いんだ。

原田
 いろいろ複雑です。そういう意味では、ヴァルハラはこの時期にあって、すごいことをやってるなと思いますよ。『DOA』にしろ『NINJA GAIDEN』にしろ、あの規模のゲームを作ろうとすると開発の人材的な部分もそうですし、機材資材ってところも大きくて、体力がないとできないじゃないですか。

 ヴァルハラはそれぐらいの規模で4年もかけている、というのがいまどきすごいなと思うんですよ。仕事ができる人間も揃えて、何年もかけて開発できるのかって考えると不安ですよね。しかも10年ぐらい前ならいざしらず、すごい時期に独立されたなと。いま、いろいろな意味できびしいですよ。

板垣
 僕らが社会に出たときが、ちょうどバブルが弾けた後ぐらいでしょ?

原田
 全部割り食っている部分ありますよね、僕らの世代(笑)。受験は戦争だったわ、就職は氷河期だったわってみたいな感じで。独立してソーシャルゲームを作りますってわけにはいかないですからね。体質的にも無理ですけど。

板垣
 『鉄拳』から原田君がいなくなるわけにはいかないからね。

原田
 格闘ゲームに関しては、僕自身がいまだにこだわっているので。板垣さんが言っていた『鉄拳』や『DOA』にとっての『バーチャ』や『ストリートファイター』という存在って、売上の数とかマーケットの広さとかデータで見れば『鉄拳』のほうが大きかったりするんですよね。でもね、つくづく数やデータだけじゃないんだと痛感していますよ……。

 今回、『ストリートファイター』と組んでいますけど、元祖の力ってやはりすごくて、たとえば12~13歳の子が、僕に『ストリートファイター』や『バーチャ』のことを「お前知ってるか?」と言わんばかりにとうとうと語るんですよ。こんなのって、『鉄拳』や『DOA』では聞いたことがないでしょ。追い求めてもしょうがないと思うんですけど、聞いたら火がついちゃうんですよね。こんなにがんばってきても、それ以上売ってもまだダメなのかって思いますよ。元祖に対するコンプレックスと、勝ちたいって気持ちに支えられている部分は少なからずありますね。

板垣
 僕は『鉄拳』を完膚なきまでに叩きのめすには、本当に儲けてナムコの株を全部買い占めて、ソースコードを自分の島に植えて、『鉄拳』の墓にしてやると、みんなに言っていたよ(笑)。それが究極だと。ソースコードを掘り出そうとするやつが出てくると思うけど。それぐらい『鉄拳』にしろ『ストリートファイター』もね、もしかしたら『DOA』もそういう風に見てくれている人もいるかもしれないし、ずっと作り続けて磨き続けているってことはたいへんだけど、大事なことなんですよ。それでファンが育つ。

 だから今日、原田君から「俺はまだやることがあるんだ」という話を聞いて、「そうだぞ原田!」と言ってくれる人はいっぱいいると思うんだ。

原田
 だといいなあ!(笑)この立場を理解できる人って、社内でも少ない気がしてしょうがなくてね。社内では僕は研鑽型ゲームと呼んでいますけど、研鑽していかなきゃいけないタイトルであり、もう一方では会社を支えるっていう使命もあるわけです。でも、人間って慣れてしまうと、その利益を互いに享受しているのに、「あいつ、いつまでこだわってやっているんだ」って言うやつが現れてきたりするんですよね。

板垣
 やっぱり、そろそろ独立のタイミングなんじゃないか?

原田
 そうきますか(笑)。まぁたぶん、板垣さんもそういうものと戦ってきたはずだし。"ユーザーの要望"と"会社の使命"と、その全部を両立させないといけないわけでしょ?

板垣
 いいこと言った。それを"ハッピースリー"って言ってるんだ。わかる?

原田
 わかります。

板垣
 社員でしょ、ユーザーでしょ、あと売り手。これでハッピースリー。これに株主を加えると4つだね。これを全部幸せにするのは難しいよ。3つを幸せにしたことは何回かあるけど、なかなか揃わないよね。だから僕は独立したんだもん。株は自分らで全部持っているし、どこの資本も入れていない。ふつうはありえないけどね。でも、原田君はチャンスあるんじゃない? 名前も売れているし、信頼もあるし、ファンベースもあるし。

原田
 いやいや、そんなことない!(笑)でもたとえばですけど、新しいゲーム会社の名前って何になるんでしょうね。ヴァルハラゲームスみたいな名前は思いつかないので……(笑)。
[IMAGE][IMAGE]

『鉄拳7』で世界を震撼させて格闘ゲーム界を盛り上げてほしい

原田
 このあいだ開発をチラっと見せてもらったんですけど、よくあれだけの人材を最初から揃えているなと思いましたね。人数もけっこういるし、顔見たことある人もいるし。だから余計に、『Devil's Third』がどんなゲームになっているのか、みんな気にしていると思いますよ。

板垣
 そうだね。4年間何も売らないで。……まあ、すごいことだね(笑)。

原田
 体験版は出さないでほしいですよね。いきなりドーンと出してほしいです。

板垣
 ちょろっとしたモノは出すかもしれないよ。いずれにせよ、次世代機の噂も近いからね。その前に400万本くらい売りたいなと。シューターは2000万本近く売れちゃうジャンルですから、それぐらいは売らないとね。

原田
 僕らもそれぐらい売ってますから。

――2013年に発売という話を、以前板垣さんがおっしゃっていましたね。

原田
 2013年か……。遠いですね。でもとんでもないことになりそうです。

板垣
 新ジャンルだもん。3つ目だもん。そうそう、人生でお世話になった人というのはたくさんいるんだけど、お世話になったのか焚きつけられたのかがよくわからない人がひとりいまして。

原田
 ほう。

板垣
 セガ時代の鈴木裕さんの上司で、開発の統括だった鈴木久司さんという方がいるんですけど、『DOA2』が完成したときに、彼が部下といっしょにテクモブースにきて、「誰だってやればできるんだよ。お前らもやれ」って部下に言っていたんですよ。

 で、そのあと僕のところにきて、「板垣、がんばったな。MODEL2をお前に貸したときは、じつはできるとは思っていなかった。でもお前もできるようになったじゃないか。お前は一生格闘ゲームを作り続けろ。人間には2種類いて、1個しか作れない奴とたくさん作れる奴だ。お前は格闘ゲームを作れ」と言うわけですよ。僕としては、「なんだこの野郎」って感じですよね(笑)。

原田
 確かに、褒められているんだかディスられてるんだか若干わかりませんね(笑)。それ悪意はないと思いますけど、言いかたに問題あると思いますよ(笑)。

――「作り続けてほしいと」いう意味で言ったんだと思いますけどね(笑)。

板垣
 だと思いますけど。で、久司さんが『NINJA GAIDEN』のときに、「お前、アクションゲームも作ったか。こうなるとお前は会社の顔だから辞められないよな。しがらみもあるだろうが、テクモに骨を埋めるつもりでがんばれ」って言われて、また「なんだこの野郎」って(笑)。

原田
 その人が何か言うたびに事が起きているってことじゃないですか(笑)。なんですかそれは。いやー、やっぱ板垣さんはおもしろいわ。

板垣
 僕のまわりがおもしろいんだよ。

原田
 板垣さん自身、筋が一本通っていて、いろいろなキャラを持っているんですよね。強面かと思ったら、ヴァルハラのホームページで松本零士さんとの対談を拝見しましたけど、子どもみたいな顔した写真が載っていて、「なんじゃこりゃ!?」って思いましたよ(笑)。この人松本零士さんのことが本当に好きなんだなっていうのがわかる、人間味溢れるインタビューでしたけど、いままでの"板垣キャラ"的にこんなの載せて大丈夫なのかって思いました(笑)。板垣さんはいろいろな側面を持っているから、そういう意味でおもしろいなって思いますよ。

板垣
 ありがとう。原田君とはいつかいっしょに仕事できたらいいね。

原田
 まあ、それができたらおもしろいでしょうね。

板垣
 センスが同心円になっていなくて、でも重なっているところがあるからね。

原田
 今後は格闘ゲームを作らないんですか? 降りちゃうんですか?

板垣
 降りるときたか(笑)。

原田
 格闘ゲームから、ですよ。

板垣
 僕の中では、勝負を降りたのかって意味に聞こえたよ(笑)。これは前のラジオ事件に次ぐ、受け止めかたの問題だけどね。読者の皆さんもわかってもらえると思うけど、僕は1回も『鉄拳』のスタッフが悪いなんて言ったことはない。『鉄拳』が気に入らないと言ってきただけであって、原田君もファイティングゲームをずっと作ってきたけど、原田君にとってはまだ戦争が続いているわけだ。今日は戦争相手の国に行って、「お互いあのときは空中戦やったよね」という気持ちで話しているんだよね。

原田
 まさに空中戦でしたよね。

板垣
 だから今日は、本当に楽しかった。また、僕のファンに格闘ゲームを作ってほしいという人もいるから、いつかは作ろうと思う。でも、いま僕が相手にしているのはシューターなので、二足のわらじを履いて勝てる相手じゃないんだよね。

原田
 それは言いかたを変えると、アメリカンデベロッパーが3D格闘ゲームに殴りこんでくるみたいなことですもんね。そりゃ、相当な覚悟がいりますよ。

板垣
 『DOA』のころも、『鉄拳』と『バーチャ』に殴りこむような覚悟でやっていたよ。二足のわらじを履いてできるような仕事じゃないので、それが一定の戦果を得た後だろうな。

 あと、今日原田君を呼んだのはもうひとつ理由があるんだよ。原田君には、とにかく格闘ゲーム界を盛り上げてもらいたい。冗談みたいに独立しないのかって聞いているけど、僕の気持ちとは逆だから。なぜならば、僕は『DOA1』から『4』まで、原田君はもうシリーズ17年目でしょ? 歴史の全部を見ているわけだから、そういう人って地球上にふたりしかいないんだよね。

原田
 17年も3D格闘ゲーム界でやってきてる人って、なかなかいませんもんね。

板垣
 いないね。しかもケンカばっかりしてな(笑)。楽しかったけどね。そんなこと言われるのはつまらないだろうけど。

原田
 正直つまらないですね。

板垣
 きれいごとを言おうと思っているわけじゃなくて、『鉄拳』で世界を震わせてほしいね。惰性で『7』を作らずに、すごいブレイクスルーを持ってきてほしい。

原田
 おっと! ある意味、いままでの板垣さんからの攻撃のほうがマシでしたね(笑)。板垣さんがそういうこと言ったらハードルが上がるわけですよ。もちろん自分で上げなきゃいけないハードルなんですけど、この人が勝手に上げるので、いま超えなきゃいけないハードルが勝手に上がっちゃった状態ですよ。でも、本当にそうですね。惰性はいけないっていうのはすごくわかります。

板垣
 もう一度言うけど、こんなに長くやっているやつはもういないんだよ。だから、原田君が言っている惰性というのは、ほかの人が言っている惰性のレベルよりもぜんぜん違う。「うわ、こうなったか!」と言われるものじゃないと。

原田
 『DOA5』はそれを目指しているらしいですけどね。

板垣
 いいじゃない。まあ、あれは嫁に出したようなものだから、僕は気にしていないんだけどね。でも、いま気持ちとしては、星一徹みたいなんだよね。格闘ゲームを支えていくために、俺はいまあえて中日ドラゴンズに移籍して飛雄馬の前に立ちはだかる、みたいな(笑)。といっても、酒を飲むだけなんだけどさ(笑)。

原田
 3D格闘ゲームは、いまは作っているところも多くないけど、もっと盛り上げたいなと思っていますよ。

板垣
 それがいちばん伝えたかったことなんだよ。あと1個だけ、僕がとってきたリングの上での戦略を話そうと思う。聞きたい?

原田
 ぜひ聞きたいですね。

板垣
 これはメディアに掲載されるから、原田君だけじゃなくて、格闘ゲームに携わる人全員に伝わる話になるわけだけど。

 僕は、シリーズを作るときに、研鑽するようにしたんだけど、もう1個別の視点を持つようにしたんだ。XY座標を思い浮かべてほしいんだけど、最初は0.0だよね。つぎに落とすときに、センターは0.0に置かない。最初に0.0に置いた爆発の半径が4だったとしよう。で、つぎはあえて2.0くらいに置くんだよ。起爆力が6ぐらい出れば、全部取り込めるよ、と。でも、起爆力は5ぐらいに落ちてしまうわけだ。そうすると、半径が1足りないから、はみ出すところが出てくるじゃない。「俺たちはいままで支持してきたのに、見捨てられたのかよ」っていう思いが生じるリスクがある。それでもそういう風に置いたほうが新しさっていうものを出せるし、全体的に抑える面積が広くなる。さらにつぎは、4.0ぐらいに置いてみる。そうするといろいろなところから怒られる。怒られるんだけど、新しい可能性を模索するためにこそあえて爆心地をずらす。僕はそういう風にやってきたの。

 そうすると
『DOA3』のラスボスみたいにやりすぎてしまうときもあって、「これはアクションゲームの範疇じゃない」ってことで、『NINJA GAIDEN』ができる。『鉄拳』も、8作品も作っているわけでしょ? だからファンの気持ちと、新しいものを作ったときにどういう風に受け止められるかをいつも考えると思うけど、あえてシフトして置いてみる。もしかして、『タッグトーナメント』がその役割を果たしているのかもしれないけど。

原田
 じつはそうなんですよ。『タッグトーナメント』は、毎回爆心地をずらしているシリーズなんですよね。

板垣
 そこを伝えたかったんだ。シリーズっていうと前作を踏襲したり、前作とはぜんぜん違う方向にいっちゃったりするけど、うまく爆心地をずらしながらやっていってほしいなと思ったわけ。

原田
 そこは逆に聞けて安心しました。僕もそう思ったんですけど、なかなかずらすのって勇気がいるんですよね。意図的にずらせたのって、唯一『タッグトーナメント』だけだったんですよ。

板垣
 今日、原田君が来る前に、『タッグトーナメント2』を遊んでおこうと思ったんだよ。でも、ずっといい夢を見ていたので……。<br />
原田
 それって、寝てたんですよね(笑)。

板垣
 睡眠って大事だよ(笑)。

原田
 睡眠とかいい夢とかフレキシブルとか、全部いい言いかたをしていますけど、ようは前の晩に酒を飲みすぎたっていう、そういうことですよね?(笑)

板垣
 飲みすぎてはいないよ。でも悪い。寝てた(笑)。

原田
 ははははは(笑)。
[IMAGE][IMAGE]
この記事を共有

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

週刊ファミ通最新刊
週刊ファミ通表紙
購入する
ebtenamazon
電子版を購入
bookWalker