では、実際にどのようなアクセシビリティ対応されたのか。どれくらい遊べるようになったのか。全盲でゲーム大好きの野澤幸男さんに、手に入れたSwitch2をセッティングからプレイまでを試してもらった。実際に初期設定をする際に役立ててほしい。
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つぎつぎと襲いかかる困難
まず購入権利である。抽選応募の条件は店舗やタイミングなどによって異なるが、発売前の任天堂の公式ストア"マイニンテンドー"の条件は"Switchのゲームソフトを50時間以上遊んでいること"だった
「Switchを持っているから、もちろん権利があると思っていたのに、まさか時間が足りなかったんです」
野澤さんはゲームを毎日のように遊んでおり、プレイステーション5版『The Last of Us Part II Remastered』では、ゲーム内に搭載されている音によるガイドによって、画面が見えない状態でもトロフィーをコンプリートをするほどだ。しかし、アクセシビリティ非対応のSwitchは、ほとんど遊べていなかったようだ。
Switch2にアクセシビリティが対応したという情報を聞いて試してみたいと思ったが、自分が手にするのは後になるだろうと覚悟したという。
さて、野澤さんに実際にSwitch2を触ってもらおう。まずはSwitch2の箱を取り出してみる。
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さて、つぎに問題が発生したのは初期設定だ。Switch2には、プレイヤーが選んでいる項目を音声で読み上げて教えてくれるというアクセシビリティの機能が搭載されている。しかし、初期設定ではその機能を使用することができない。
そこで、全盲のユーザーがひとりで初期設定をするためには、まずSwitch2の画面をスマホのカメラで写し、“Seeing AI”という視覚障害者支援ソフトに書いてあることを音声読み上げさせる。野澤さんはソフトウェアエンジニアでもあり、ゲームもかなりやりこんでいるため画面を見ずとも勘がいい。
「いまは利用規約が出てるっぽい。この手のやつは多分上が利用規約で、下がネット設定するかしないかかな、いや違うな、アイコンで表示されてるっぽくて読み込めないので、ボタンをおして試してみないとわかりませんね」
と言いつつ、スマホのサポートと勘を駆使してボタンを押下し設定を進めていく。
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インターネット設定で想定外の画面になり、かつ読み上げもうまくいかない。
そこで今度はChatGPTの登場だ。画面をカメラに写しつつ、
「設定を続けるには、どのボタンを押せばいいですか? インターネットの設定をするにはどのボタンを押せばいいですか?」
などと聞くと、
「インターネットの設定をするにはAボタンです」
などと教えてくれるのだ。
そのほか、ページは変わったか尋ねると「はい、変わっています」なども答えてくれる。
これはかなり画期的だ。
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「おそらく、このあと絶対無理なことがあると思っていて、キーボードがないのでネット(Wi-Fi)のパスワードが打てません」
キーボードがスクリーン上に表示されるため、ボタン操作が難しいのだ。タッチパネルが普及して、視覚障害者が使える機器が減ったというのはよく聞く。
Wi-Fi選択とパスワード入力は、野澤さんひとりでは難しく、傍から見ていた私が画面を確認し、指示をした。
さらにたいへんだったのは、アカウントへのログインだ。使用しているSwitchを並べればSwitch2と通信して設定できるようだが手元になかったため、自力で入力することになったのだが、ログインするのにまたパスワード入力が必要だったり、読み上げさせても、状況の把握ができないため指示の意味がわからなかったり。
初期設定が終わったのが55分。ようやくいつも見慣れたメインメニューにたどり着いた。
が、ここはまたお手上げだ。ご存じの通りメインメニューにはテキストがほとんどない。画像とアイコンがメインのため、スマホの読み上げ機能が使えないのだ。
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野澤さんや全盲のユーザーは、「なんのボタンを何回押す」かでメニューの遷移を覚えるという。自力でアクセシビリティ設定したいユーザーのために記しておくと、
HOMEメニューからアクセシビリティ設定までのボタン操作は、
下を2回、右を8回、Aボタン、下を8回、Aボタン、下を5回だ。
スタート時の選択コマンドはユーザーアイコンに当たっている。
下でゲームソフト一覧、下でメニューに移動する。メニューは全部で9つあり、設定は右から2番目。右を8回で移動。Aボタンで決定、各種設定メニューへ入る。下を8回でアクセシビリティを選択、Aボタンで決定。下を5回で音声読み上げ設定だ。ここでAボタンを押せば音声読み上げが始まる。
ネットのどこかにこうしたボタン回数を表示していたり、サポートがそのように説明してくれるだけで、自力で設定できる人が増えるだろう。
ようやく、自力で遊べるようになった。見えていれば初期設定は5〜10分だろうか。今回、アクセシビリティーの設定までにかかった時間は途中のサポートありで、1時間1分だった。
Switch2にしかないアクセシビリティ機能の配慮に感動
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見えにくい・見えない人向け設定は、“文字の大きさ・太さ”、“画面の色合い”、“画面のズーム”、“音声読み上げ”、“文字を音声変換してゲームチャット”。文字を拡大したり、色を変えたりすることで見やすくなる人は多い。
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野澤さんはこれまで、Switchでゲームを遊ぶには、PCに映像を出力し、PCの読み上げソフトで読み上げをしてもらっていた。しかし、それだと読んでくれるのは文字だけ。何が選択されているかはわからないし、記号は読まなかったり誤読したりで、“選択する”のがとても困難だったのだ。
しかし、読み上げ機能をいったん設定したら、この先はもはや見学者の我々はもう追いつかない。自在に自分好みにつぎつぎと設定を変えていった。
そして、野澤さんが感心していたことがある。
「画面を読み上げさせている最中、お知らせなどの連絡が入っても、これまでの機器だと、いま読み上げている文章を読み終えたあとに、途中で追加されたお知らせを読み上げる形式だったんです。それがSwitch2では、読み上げ音声が小さくなって、両方同時に読み上げるんで、お知らせが来たことがかりつつも、内容が同時に頭に入ってくるようになっているんです。これはたいへんな発明、作った人すごい!」
と大絶賛だ。
ニコニコしながらSwitchのいろいろなアイコンを選択し、何が書かれているのかを楽しそうに聞いていく野澤さん。
「えっ。Switch2ってプレイヤーがどのゲームを何時間遊んだかわかるような記録が搭載しているんですか!」
これは、Switchのときからある機能だが、野澤さんには初めて知ることができたようだ。
Switch2の購入条件にあったプレイ時間の件がふと頭をよぎったが、Swichの機能を新鮮に楽しむ野澤さんの姿が印象的だった。
一方で、まだまだ読み上げ対応しているメニューは少なく、ニンテンドーeショップに入ると、読み上げなくなってしまう。ここの内容が知りたければ、スマホやPCからログインする必要がある。
正解のキーワード選ぶと効果音が違う!?
たとえばPS5の場合、本体のアクセシビリティ対応に加え、『The Last of Us』シリーズ、『Marvel’s Spider-Man 2』などがゲーム個別にアクセシビリティ対応しており、全盲でも遊べるレベルだ。
Switch2ローンチソフトには対応ソフトが発売されていない。そのため野澤さんには「Switchのゲームの中でより遊べるタイトル」を選んでもらった。
それが『十三機兵防衛圏』だ。
「天然アクセシビリティがいっぱいあるんですよ、このゲーム」
と、野澤さんは言う。どんなところかは、「これから見せます」とのことだ。
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ゲームを遊ばなくなった理由は、アクセシビリティが不十分が70.8%ともっとも高い。そして「アクセシブルになったらプレイしたいか」という質問には、ゲームで遊んだことがない人でも83.3%、もとプレイヤーに至っては100%が、「遊びたい」と回答している。
ゲームがアクセシブルになることで、喜ぶ障害者は世界中にいるのだ。
現在、アクセシビリティ対応のタイトルはほんの一部しかないが、上記調査によると毎日プレイしている視覚障害者は22.3% たまにプレイしている人が22.9%で、45.2%もの人がゲームを楽しんでいる。数えるほどしかアクセシビリティ対応のタイトルがない中で、どうやってゲームをしているのだろうか。
「誰かが人身御供になって買ってみて、遊べるかを試すんです」
そのうえで、どうだったかを情報をシェアしているサイトがある。
ゲームのアクセシビリティが保障されていないいま、こうした善意の情報共有が視覚障害者のゲームプレイを支えているのだ。そんなタイトルのひとつが、『十三機兵防衛圏』なのだという。
「基本的に横移動していればいいし、移動できる範囲も広くないから、迷子になりにくいんです」
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また、各ステージの移動範囲が広くないのも、遊びやすい理由だ。。デジタル技術が進化して、視覚障害者がデジタルゲームを遊びにくくなったという話はよく聞く。たとえば昔のゲームは2Dで、プレイ中のプレイヤーの視点は変わらなかった。そのため、下に3歩、右に2歩行くと宝箱に辿り着くといったように、自分が地図上のどこにいるのかわかりやすかったのだ。
しかし、3Dになったことで、プレイヤーの視点が変わってしまうと、位置の把握が難しい。
タイトルでいうと、『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』はギリギリ遊べるが、『Pokemon LEGENDS アルセウス』は移動が3Dなので位置把握が不可能になったという。
『十三機兵防衛圏』は、各シーンに登場するキャラに話しかけることで情報を得ていくのだが、画面に表示される内容に効果音がついている。
「まず、人に話しかけられるところに来ると音が鳴るんです」
確かに、人のそばを通ると「ピョン」と音が鳴っている。
「セリフはすべて音声になっています。またゲームを進めるうえで、主人公が記憶した言葉などをキーワードをとして使用して物語を進める必要があるのですが、そのキーワード選択画面も音声で読みあげてくれるんです」
確かに、キーワードをカーソルが選択すると、ひそひそ声で「シバキュウタ……」「ダイモス……」などと言っている……。
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「それから、物語の進行に必要な言葉を選択しているときと、ほかの言葉を選んでいるときと音が違うんです」
これはとても微妙な違いだが、既存のキーワードを選択すると「シュリーン」、必要なキーワードを選択すると、「キラシュリーン」みたいな感じだ。
開発者が意図してこのようなゲーム設計にしたかはわからない。しかし、恐らくゲームの没入感や、クオリティーをあげたいと作り込んだ部分が、結果として画面を説明するアクセシビリティになっているようなのだ。なんとすごいゲームなのだろうか。
「『十三機兵防衛圏』には戦闘もありますが、ゲーム内の声でどの機体を操作しているか判断し、このボタンを押せば、攻撃と防御、移動、退却しかないので、コマンドも選べます。あとはタワーディフェンス的なゲームなので近づいてくる敵に自動照準してくれるのでなんとかなります」
と事前にUIや戦闘の仕組みなどを理解しているため苦なく進めるとのことだ。
文字表示だけのところはわからないところは、プレイ順番を公開してくれている人や画面認識機能などをつかって進める必要があるとのことなのだが、野澤さんはこのあとひとりでゲームクリアしたという。
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アクセシビリティ未対応の問題点
そのほか、文字やコマンドを選択する際に、上下や左右が無限にループするのではなくきちんと端で止まることや、ページが切り替わったら音のサインを出すなど、ほんの少しの調整で、人の手を借りずに格段に操作しやすくなることも、開発の皆さんには知っていてほしい。
あまり日本では取り上げられていないが、欧州アクセシビリティ法(EAA)が6月28日に施行された。かなり広範囲にアクセシビリティを条例で義務化したもので、違反すると罰則があり、さまざまな機器へのアクセシビリティ対応の後押しになっている。
ゲーム機やゲームソフトそのものは対象ではないが、パソコンやタブレットなどの機器、Eコマースや電子通信サービスは対象になっている。
ゲームのアクセシビリティ対応が必須になる未来は近い。法が先か、デザインの基本がアクセシブルになるのが先か。
だがその前に、現在、ゲームプレイをしたい人はたくさんいる。そして、大がかりな追加機能をつけずとも、『十三機兵防衛圏』のように遊べるようになる可能性があるのだ。
ゲーム開発時に、そんなことを思い出してもらえるとうれしい。そして、ゲームプレイを諦めた人たちが、1日も早く遊べるようになることを願う。



















