
前作『Ghost of Tsushima(ゴースト オブ ツシマ)』ではモンゴルによる侵攻を受けた対馬を舞台としていたが、今回は新たに1603年の蝦夷地(北海道)が舞台となり、主人公・篤の壮絶な復讐劇が展開されていく。
ストーリーやゲーム性の魅力もさることながら、本作では広大な蝦夷地の自然と当時の文化が織りなす世界観のすばらしさが圧巻で、なかでもフィールドにそびえ立つ羊蹄山は、タイトルを象徴するランドマークにもなっている。

ここで開始早々、いきなりの自分語りで申し訳ないが、筆者が大学生のころ『Ghost of Tsushima』をプレイした際、あまりのクオリティの高さにいたく感銘を受け、ハタチそこそこにして初めてゲームで夜を明かしたという思い出がある。
それほどのめり込んだタイトルの続編が発表された時点で筆者の中では『Ghost of Yōtei』をプレイする未来は確定していたのだが、せっかくプレイするなら主人公・篤に少しでもみずからを重ね、感情移入したうえでストーリーにのめり込みたい。しかし、ストーリーの詳細が徐々に明かされていく中で、ある懸念があった。
「自分と篤との共通点があまりにも少ないのでは……?」と。
筆者は基本的に争いごとが苦手なうえ、腕っぷしも篤とは比較にならないほど弱い。筆者と篤の共通点が“動物にやさしい”、“風呂好き”くらいしか思いつかないが、そんな筆者が、主人公にみずからを重ね、強く感情移入しながらプレイするということができるのであろうか。
そこで、ひとつの考えが筆者の脳裏をよぎった。「羊蹄山に登れば、“篤”へと近づけるのではないか?」と。
実際にモデルとなった地域へと足を踏み入れて主人公に寄せた体験をし、現地の空気を肌で感じることができれば、“感情移入”どころではない、とんでもない没入感をゲーム内でも味わえるかもしれない。あと単純に北海道に行きたい。涼しそうだし。
そんな思いを胸に秘め、筆者は9月中旬の北海道へ飛んだのであった。

羊蹄山についての注意点
筆者はもともとアウトドア経験が多少あったことに加え、今回は周辺に詳しいプロの登山ガイドにも同行してもらった。さらに、登山装備に関しては、富士山登山レベルで挑んでいることは念押しさせていただきたい。
【AM7:00】いよいよ登山口へ


登り始めはさすがに傾斜もそこまでではないが、決して登りやすい道とは言えず、前方に広がるのはギリギリ道だと言えそうなくらいの細い道。周囲はうっそうと草木が生い茂っていて、まさに“獣道”といった感じだ。



余談だが、筆者の人生で体力的にツラかった出来事に、学生時代の“20メートルシャトルラン”というものがあった。
走り始めとともに電子音が流れ、それが鳴り終わるまでに20メートルを走り切るというのをひたすらくり返すのだが、一定時間が経過するごとに音のテンポが速くなっていき、走るペースも合わせて上げ続ければならないという素敵(地獄)なイベントであった。
ところが、まだ序盤にして今回の登山がそのシャトルランをおおいに上回る可能性が出てきた。シャトルランは己のさじ加減でリタイアもできたため、足腰のキツさを自分でコントロールできる部分もある。
しかし、羊蹄山の険しい道のりは当然自分でコントロールできない。対処としては“気持ちゆっくりめに歩く”くらいしかできないのだが、それでもじわじわと足腰を攻めてくるタイプのキツさなのである。
今回、登山装備としてストック(登山用の杖)を持参したのだが、まさか序盤でいきなり杖に感謝するとは思わなかった。だが、篤に近づくためにはこれくらいで音を上げるわけにはいかない。


さすがに狼はいなかったが、風穴も発見!

筆者はようかんを食べていたのだが、冗談抜きで人生でようかんをいちばんおいしく感じた瞬間だった。疲れ果てた身体にようかんの甘さがじんわりと広がっていく。ようかんの持つポテンシャルをこれ以上に生かせる場面は人生でそうそう訪れないであろう。
ちなみに同行したもうひとりのメンバーはカロリーメイトも持参していたが、長時間の移動のせいか完全に粉末と化しており、とても食べにくそうであった。これから登る人は、なるべく型くずれしにくい食事をチョイスするといいかもしれない。

絶景と涼しい風に励まされる

また、山の斜面に沿って風も吹いており、まるでゲーム内での“誘い風”に導かれるような雰囲気も少しだけ味わえた。すべり落ちてしまうので、さすがに風向き通りに進むことはできなかったが。

羊蹄山、魔の6合目

登山ガイドさんいわく、羊蹄山で登山者がもっともしんどいと感じやすいのが6合目(標高1200メートル付近)からだそうだ。実際、この付近でリタイアする人も少なくないという。
それもそのはず、これまでの登山道を登ってきた率直な感想だが、歩きやすいと思った道がひとつもなかった。つねに斜面に沿って歩いているような感覚かつ、岩による不規則な段差がいくつも存在し、足腰にかかる負担も半端ではない。加えて足を踏み外してしまわないよう気を配る必要もあり、集中力がゴリゴリと削られていく。
さらに追い打ちをかけるように、登山ザック(約10キロ)が背中にのしかかる。一般的な日本刀の重さがだいたい1キロらしいので、およそ10本の日本刀を身に着けながら山道を歩いているといってもいいだろう。二刀流で有名な宮本武蔵もびっくりである。
このように、長時間身体に負荷がかかり続けることでかなりの疲労が蓄積していき、まるで幾度の戦いを経て酷使され続けた刀のごとく、心がポッキリと折れてしまいやすいのがこの6合目付近というわけだ。



6合目以降はいっそう標高差を感じさせる場面も

体力的にはぜんぜん辛いのだが、似たような木々に囲まれ、周囲の状況がほぼ同じだった序盤~中盤に比べると気分はだいぶ違う。精神的な疲労を少し回復させたところで、ひとまず避難小屋まで鉛のように重たい足を進めていく。
【PM12:30】ようやく9合目&避難小屋へと到着!

登山開始から約5時間半が経過し、9合目&避難小屋付近へと到達。ここまでの疲労が溜まり、足がガチガチの棒のようになりつつも、あと少しで避難小屋というオアシスにたどり着けることだけをモチベーションに歩き続けていく。



山頂までのラストスパート








【PM14:00】片道約7時間、そして山頂へ……



羊蹄山の山頂地点には写真のように目印が設置されており、すぐそばまで寄ることができた。正直なところ、あまりにハードすぎた道のりのおかげで、疲れているのか疲れていないのかもよくわからなくなっていたので、山頂の印を見つけた瞬間は、「登り切った!」という達成感というよりは、むしろここまで来られたのか……としみじみとした思いのほうが強かった。
ともあれ、ここまで大きなトラブルもなく無事に来ることができたが、その道程は容易ではなく、同行いただいたプロガイドさんの協力なしでは難しかったであろうと思える。また、これまでを振り返ると、道中での何気ない会話のやり取りにも精神的に救われていたのだとあらためて思う(道がキツすぎてしばらく無言だったときもあったが)。


【番外編】避難小屋であたたかい夕食&美しい夕日鑑賞も!




避難小屋から日没を拝む

この日は終日天候が良かったこともあり、とてもきれいな日没を拝むこともできた。太陽がゆっくりと沈んでいく様は壮観で美しく、感動のあまりしばらく無言になってしまった。

登山後に思うこと……
実際に汗をかきながら登山したことで、いかに篤が超人じみているのかも身をもって知ることもできたし、ノリと思いつきで始めた今回の企画だったが、わりと本当に、ゲームをプレイする楽しさを増幅させ、物語の味わいをさらに深めてくれたような気がする。
旅をする前には、あまりにも自分と違いすぎて遠い存在に感じていた主人公・篤。しかし彼女が羊蹄山に感じる心情を、登山を終えたいまなら少しは理解できるような気がする。これまでの思い出をひとつひとつ噛みしめながら『Ghost of Yōtei』をプレイし、その結末を見届けたいと思う。


















