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『Baby Steps』レビュー。足腰よわよわのニートおじを操作し、トラップだらけの山に登れ! “壺おじ”開発のBennet Foddy氏新作がついに登場

byミル☆吉村

『Baby Steps』レビュー。足腰よわよわのニートおじを操作し、トラップだらけの山に登れ! “壺おじ”開発のBennet Foddy氏新作がついに登場
 “壺おじ”ゲームこと『Getting Over It with Bennett Foddy』の開発、Bennet Foddy氏の新作『Baby Steps』がプレイステーション5とPCで9月24日より配信開始。日本語にもテキストで対応する。

 本誌ではPCレビュー版をプレイし、18時間半の苦闘の末に一応クリアー。連休が完全に消滅したけど、どんなゲームなのか解説しよう。
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足腰よわよわのニートおじ、異世界で山に登る

 本作の主人公ネイトは、実家の地下室で遊んで暮らす自宅警備員。しかし父親が家族会議に呼ぼうとしたその時、彼は忽然と姿を消し、謎の山の麓へとワープしてしまう。

 しかし、なまりきったネイトの肉体はまっすぐ歩くだけでもコケるほど。周囲のガイドやハイカーは「君も山を登りに来たの? 大丈夫?」と心配してくれるのだが、お気に入りのソファーの上で過ごすことで鍛えられた彼のめんどくさいプライドはその優しさを受け取らない。
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ガイドのジムは目がちょっと怖いけどいい人。いろいろと面倒をみてくれようとするんだけど、ネイトは「あ、僕ちょっと大丈夫です」と全拒絶する。お前が靴もらっていればどれだけ楽だったか……。
 彼が選んだのは、“靴や地図をくれるという申し出は無駄に断りつつ、おしっこする場所と家に帰る方法を探してなんとなく山に登る”というプレイヤーにとって最悪の選択。というわけで本作は、まっすぐ歩くのもひと苦労のネイトを操作してトラップだらけの過酷な環境を登り続けるというゲームなのだ。

 左足を上げるのはL2/左トリガー、右足を上げるのはR2/右トリガー。片足を上げて前入力でちょっと前傾して足を下ろせば第一歩。今度は逆の足を同じように一歩出すのを延々と繰り返していけば歩ける。

 最初のうちは足を下ろす前に前傾しすぎちゃってコケたりすると思うが、そのうち意外と慣れてテクテク歩けるようになるだろう。
なんせ、これから何万歩も歩くことになるんだから。
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慣れたら前入力しっぱなしでもコケずにスタスタ歩けるようになる。そんで注意力低下してコケて余計な落下とかするんだけどね。

実は精緻なキャラコンはそこまでいらない、クリアーされる事が前提のゲーム

 さて、歩くだけでもひと苦労なのにそんなチャレンジが待っているとなれば、ちょっとでもキャラコン(操作)をミスったら際限なく落下してすべてが無駄になるのが普通の『Getting Over It with Bennett Foddy』のような厳しさをイメージする人が多いかもしれない。
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“めんどくさい操作で登り続ける”という点は似ているが、『Baby Steps』は『Getting Over It with Bennett Foddy』よりもうちょっと万人向けの内容だ。
 また同作者の作品では、2008年の伝説的Flashゲーム『QWOP』を思い出す人もいるだろう。めんどくさい操作体系で両足を丁寧にコントロールしてまともに歩く(走る)ことそのものをゲームにしてるのは、確かに『Baby Steps』の原点だ。

 だが難しいキャラコンにフォーカスしたアクションゲームという点を除くと、実は本作はそれらの作品とは違う方向性になっているのだ。勘違いしている人もいるかと思うので、まずこの点から説明していこう。
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『QWOP』は両腿と膝先を4つのキーで操作してできるだけ遠くまで走るというゲーム。今でもBennet Foddy氏のサイト(https://www.foddy.net/Athletics.html )でWeb版がプレイ可能だ

チャプターで区切られた、あくまでストーリー重視のゲーム

 もっとも根本的な違いは、『Baby Steps』が豊富なカットシーンを通じて物語を語っていく、ストーリー重視のゲームであるという部分だろう。これはゲームの作りにも影響している。

 ゲーム全体はいくつかのチャプター(章)で区切られていて、各チャプターのプレイエリアは山岳地帯・砂漠地帯・雪山地帯といったようにテーマが決まっており、その回のゴール(大抵は焚き火がある)に到着すればチャプター終わりのカットシーンが流れて話が進み、次のチャプターに行くという感じだ。まぁ要は、クリアーしてストーリーを体験するのが前提の作りなのだ。
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焚き火に到達したら一旦ひと区切りなのでマジで喜んでいい。少ししたらまた新しい地獄が待ってるけど。

“最悪な失敗”はよく起こるが、どんな失敗でもオールリセットにはならない

 つまり何を意味しているかというと、オールリセットはないということだ。意図的に戻ろうと思えば戻れる場所もあるが、基本的には失敗したからといってはるか前のエリアに戻されたりはしない。

 
ただし、マジで十数分の努力をひとつのミスで皆無にされることはある。余裕である。「この長い川に落ちて入り口近くの池まで戻されたら最悪だなぁ」とか「この斜面で滑ったらさっきのあそこまで行きかねないなぁ」と思っていると、大体その通りのことがいずれ起きて、力なく笑ったり呆然とするしかなくなる。
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「この川落ちたらやべぇな」ってスクショ撮ったけど、このあと落ちたからね。まぁ全リセットじゃないからいいんだけどさ……。
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「この斜面でコケたらヤバいけど意外と登れるから大丈夫でしょ」って思ってたら、当然のごとく上の方が急になってて滑りやすくて流された。

やる気と運動性能はクソだが、プレイヤーの忍耐が続く限り耐久力は異常

 足腰がヘボくてよちよち歩き(Baby Steps)しかできないという設定のネイト。ジャンプとかしないし、コケた時に手で少しでも転落を防ごうとかしないで「あぁ~」と力ない悲鳴をあげて転がってくだけなのは正直ムカつくが、慣れてくるとそのショボさの限界とともに意外な強さまで見えてくる。

 何回ヤバい高さから落ちても立ち上がれるし、スタミナメーターとかなくてずっと歩けるし、道中で成長してパワーアップしたりしない代わりに“できること”に関しては弱くなったりしないのだ。

 あまり詳しく書くと攻略になってしまって読者の発見の楽しみを奪ってしまうので避けるが、たとえば重心がしっかりした状態なら片足を上げ続けられるので、どこに足を下ろすかを意外とじっくり調整できる。
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行けそうかどうか慎重に見極めれば、大股開きでよじ登るなんてこともできる。(もっと手を使えよ手を)

観察とテクの発見で意外と理に適った攻略のできるゲーム

 つまり、とんでもなく精緻なキャラコンを要求するゲームというより、“ネイトの限られた運動性能とプレイヤーが可能な操作を組み合わせることでどんな所ならどう通れそうか”を判断して着実に実行していくゲームなのだ。じっくりと取り組む気さえあれば、意外と理に適った攻略のできるフェアなゲームだと言えるだろう。

 当然何度も失敗はするし、「は? なんでコレ駄目なの」とか「は? なんでコレ今度は大丈夫なの」と叫んだことは何度もあったけど、コケて戻されて一度クリアーした箇所すら何度もやるうちに、必要なコツやミスった理由が大体あるのが見えてくる。それがわかってくると、
それまでどこも無理そうだったマップに新たなひと筋の“行けそうなルート”の光が見えてくる。コレが楽しい。
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最初は「あんなの見せかけだけの罠でしょ」と思ってたルートにだってまともに挑めるようになる。いやー俺うまいなー。
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上の画像の数分後。無事に転落。

オープンフィールドには可能性がいっぱい

 もちろん『Getting Over It with Bennett Foddy』でもそういう発見の楽しさの瞬間はあると思うけど、本作はじっくり取り組みやすいことでもっと間口が広いし、いろんなルートが用意されたオープンフィールドを探索しながら“自分なら行けそうなルート”を見出しやすいという特徴がある。

 糸口がつかめていないうちは、ひとつのルートを試して無理そうだったら次の行けそうな所を探す……というのを繰り返してどんどん迂回していくことになるんだけど、実はマップの右端と左端が繋がっているループ構造になっていたりする。

 なので「こっち方面をどんどん探索してるけど、逆の方面が“正解”(簡単なルート)だったらどうしよう」というのは割といらぬ心配なのだ。右方面に行って全部無理だったら大体左に出るのだから、探究心のおもむくがままにトライして、ひと通り体験したら「あそこならギリ行けるんじゃね?」という腹を決めて取り組むべき候補が出てるはずだ。
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すべりそうな泥の坂道を上がっていくか、それとも遠回りになっても階段を登っていくか、あるいはもっと別の道を探して迂回するか。探索と観察からルート候補を見出し、自分ができることと照らし合わせて挑戦を選択していく地道な作業が踏破のカギだ。
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こういう所も、見た目の印象ほどは難しくない。
 それに、フィールド上には各所に追加目標や変なオブジェクトが仕込まれていて、これまた見つけるのが結構楽しい。壺をゲットして割らないで届けろとか、超不安定な足場を登ってリンゴを食べるとか、達成はかなり大変だが成し遂げた時の達成感は確かにある。

 ベースとなる部分の間口が若干広がってるぶん、この手のゲームが得意な人はそういった追加目標まで気ままにトライしてみるといいだろう。ちなみに筆者は一応エンディングまで到達したが、それ自体についての実績はアンロックされず。ほとんどの実績はミニクエストに関するものとなっている。
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リンゴはゲットしたらネイトが食って「んまーい!」ってやってくれるのだが、大抵足場がヤバい。ちなみにコレ、崖のフチね。ブランコに足乗せて木の上に移るとか絶対やりたくない。
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上級者はフィールドにある小ネタやミニクエストを探してチャレンジしてみるとよし。

難度とバカバカしいテイストのバランスが取れたBennett Foddy作品のベスト

 というわけで本作、『Getting Over It with Bennett Foddy』のカオスとストイックな構成の方が好きという人もいるだろうと思う。でも、一定の難度を維持しつつ脱力したユーモアのあるストーリーがバランスよく両立している本作は、個人的なBennett Foddy作品のベストだ。

 ネイトと周囲の奇妙な人々とのしょうもないやり取りは楽しいし、最後には「そうだよ、それでいいんだよ!」と言いたくなるスゲーいい話になる。生活音や動物の鳴き声など素っ頓狂なサンプルで構成されたヘンテコなサウンドも最高だ。

 なおボリュームについては、18時間超というプレイタイムは初見かつあくまで個人的なものなので、人によって大きく変わってくるだろうと思う。物量という点では「思った以上にたっぷりあったし、仕掛けのバリエーションも十分にあった」と言っておこう。

 そして先ほど触れたように、この世界には1回では掘り尽くせないほどの未知のチャレンジや小ネタが隠されている。なので1周目が終わって割とすぐ2周目を始めて、初見では無理だったルートの開拓やチャレンジに挑みはじ……あだっ、ちくしょうもう俺はやらねぇから君らがやれ! コケろ!(いや、やるけどね)
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帽子とかもゲットできるよ。崖の上の鉄骨から足滑らせたらいろいろ台無しになるけど。
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チャプターが進行するとネイトの部屋がどんどん片付けられていく。ソファーの普段の定位置にしているだろう部分だけえらく凹んでるのがリアルすぎ。
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「登るな」って書かれてたら、まぁ登るよね。(で、滑って川に落ちる)
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集計期間: 2025年09月24日04時〜2025年09月24日05時