かつてスクウェア(現スクウェア・エニックス)に在籍し、『聖剣伝説』シリーズを手掛けたゲームクリエイター、亀岡慎一氏。2000年に独立して開発会社ブラウニー・ブラウン(現1-UPスタジオ)を立ち上げ、同社の代表取締役社長を約12年務めた後に退社し、2012年に新たな会社ブラウニーズを立ち上げた。
ブラウニーズのコンセプトは“オリジナルのタイトルを作る”ことで、代表作は2017年に誕生した『エグリア』シリーズ。また、『ファンタジーライフ LINK!』や『ドラえもん のび太の牧場物語』の開発も手掛けている。東京・吉祥寺に居を構えており、吉祥寺への愛は相当なもので、吉祥寺で限定コラボカフェを開催していたこともある。
![[IMAGE]](https://cimg.kgl-systems.io/camion/files/famitsu/41877/a4906b134e076c301a593aa121ac32c15.jpg?x=767)
スマートフォン向けに配信されていた『エグリア』を、Nintendo Switch向けにリマスターした『エグリア リバース』が配信中。
そんなブラウニーズが、2025年5月11日付で、MUTANの子会社となった。MUTANは『アトリエ』シリーズのキャラクターモデル制作や、『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2 REPLAY』の開発、オリジナルゲーム『グーニャモンスター』、『ソフィアは嘘と引き換えに』などを手掛けるゲーム会社だ。
約24年にわたり社長業に勤しんできた亀岡氏が、株式譲渡を決断した理由とは? 今後、ブラウニーズとMUTANはどのようなプロジェクトに取り組んでいくのか? 亀岡氏と、新たにブラウニーズの社長となった渡邊弘之氏にうかがった。
後継者問題に向き合い、株式譲渡という道を選択
――この度、ブラウニーズの株式をMUTANに譲渡されたとのことですが、株式譲渡という選択を考え始めたのはいつごろだったのですか?
亀岡
去年、いや、もっと前からですかね。
渡邊
「隠居したい」みたいな話は、1年くらい前からされていましたよね。
亀岡
隠居が目的というわけではないんだけど(笑)。僕もだいぶいい年齢になって、同級生が突然亡くなったりするようなこともあって。「そろそろ会社をどうにかしておかないと」と考えるようになったんですね。ブラウニーズって、僕が何から何まで……給料の振込なんかもやっているんですよ。
――人事や経理のような業務も担当されているんですね。
亀岡
そんな状態なので、「いま自分が倒れたら会社はどうなっちゃうんだろう」と考えて、後継者問題に向き合ったわけです。だいぶ前にも一度、社内のスタッフに後継にならないか打診してみたことがあったのですが、そのときは「社長なんて無理ですよ」と言われました。でも、いよいよ時間がなくなってきたので、2年くらい前に「引き継いでくれないなら、会社を売ることになるよ」と言ったら、数人のスタッフが手を挙げてくれたんですね。それである程度経営を任せてみたんですが、大きなプロジェクトの終わり際に、「やっぱり、社長業と開発の兼業は難しいです」とギブアップされました。
――どちらも手を抜けないお仕事ですからね……。
亀岡
うちはもともと開発者しかおらず、経営経験がある人はいないので、「やっぱり難しいよな、そうだよな」と思いました。それで、経営を引き継いでくれる人を探し始めまして、ブラウニー・ブラウンに在籍していたことがある渡邊に「社長にならないか」という話をしたんです。
――渡邊さんはブラウニー・ブラウン出身だったんですね。
亀岡
そうなんです。ただ、最初はあくまで社長として入ってもらうというだけで、株式譲渡までは考えていなかったんですが、「けっきょくそれだと、自分が死んだ後に面倒なことになるのかな」と思いまして。「だったらいっそ、うちの会社を買ってくれないか」と提案したんですね。正直なところ、「さすがに買わないかな……」と思ったんですが、渡邊が「そちらの方向で動いてみます!」と。
渡邊
「実際に買えるかわからないけど、その努力をしてみます」とお答えしました。
亀岡
そんな風に前向きに答えてくれたので、具体的に話を進め始めて、そこからは半年もかからなかったかな。5月11日をもって、株式を譲渡するにいたりました。
東京ゲームショウ2024が決断のきっかけを作った
――亀岡さんと渡邊さんは長いお付き合いのようですが、渡邊さんのこれまでの経歴を教えていただけますか?
渡邊
僕はとあるゲームデベロッパーに新卒で就職しまして、そこを退職した後、ブラウニー・ブラウンにプログラマーとして入りました。公式サイトに、スタッフみんなでサッカーや野球をしている様子がアップされていて、「楽しそうだな」と思って入社したんですね。その後、実家の都合もありまして、フリーランスとして活動した後、独立してMUTANを設立しました。
――ブラウニー・ブラウンにいたころは、どんなタイトルを担当していたんですか?
渡邊
そのころのブラウニー・ブラウンは、『マジカルバケーション 5つの星がならぶとき』が開発終盤、『MOTHER3』は開発中盤で、さらに『聖剣伝説 HEROES of MANA』を立ち上げたころでした。
亀岡
20人くらいしかいないのに、3ラインも抱えていたんですよ(笑)。そういう怒涛の時期に入ってきたんですが、けっきょく在籍していたのは、半年くらい?
渡邊
半年です。
――半年だけ在籍していた方に経営を委ねるというのは、なかなか思い切った決断のように思えます。
亀岡
正直なお話をすると、あのころの渡邊は仕事中に寝てばっかりいて(笑)。何度か説教もしたりしたけど、結局半年程で辞めてしまったんですよ。そこで一度縁が切れたんです。
それから1年くらい経ったころかな、「今度会社を作ることになったので、いろいろ相談したいです」って連絡がきたんですよ。すごいでしょ? そんな辞めかたをしておいて平気で連絡してくる根性が(笑)。
――それはすごいですね!
亀岡
当時はインターネットがいまほど便利なものでもなかったので、社長業について、簡単に調べられなかったんですよね。だから経験者に聞くしかない状況だった。渡邊は正直うちでは寝てばかりのダメ社員でしたけど、「これから俺と同じ苦労をする道を歩む決心をしたのか」と思ったら、協力してやらなきゃなと。それから何か問題が起こればアドバイスしてあげたり、「人が足りない」と相談されれば紹介してあげたりして、いまにいたるわけです。
――半年で辞めた会社の社長に教えを請うというのは、なかなか勇気のいることだったのでは?
渡邊
起業したとき、まだゲーム業界に入って2~3年くらいでしたので、挨拶する相手がそもそもいなくて。1社目の会社とブラウニー・ブラウン、それからフリーランス時代にお世話になった会社くらいしかお付き合いがなかったので、「せめてそこには挨拶をしないと」と思ったんですね。それで亀岡さんにメールを送ったら、送信して10秒後くらいに電話がかかってきました。
亀岡
えっ、そうだったっけ?
渡邊
「おい、調子に乗ってるな」みたいな感じでかかってきました(笑)。でも、「こっち側に来てしまったなら引き返せないから、困ったことがあれば相談してこいよ」と言ってくださって。
亀岡
いやー、いい人なんですよ、僕(笑)。
――一度懐に入れた人間の面倒は見るぞ、という気概を感じます。
亀岡
やっぱり社長にならないと、この苦労はわからないので。立場が下のときは、文句ばかり言われるじゃないですか。でも渡邊は、文句を言われるほうの側に立つというので、「ちょっとおもしろいな」と。
――そこで縁が復活した後、お仕事もいっしょにされたんですか?
渡邊
亀岡さんがブラウニーズを立ち上げた後に、『エグリア ~赤いぼうしの伝説~』や『ドラえもん のび太の牧場物語』の開発に参加しました。
――そうしてお付き合いが続いていって、今回の株式譲渡につながったわけですね。
亀岡
「(ブラウニーズを)買ってもいいかも」と言ってくれたところはほかにもあったんですけどね。ただその場合、会社を売った後も、僕が経営を続けないといけない契約になりそうで……自分としては、もうちょっとラクに、好きにゲームを作りたいなと思ってて。僕を自由にさせてくれそうな人に、新しい社長になってほしかったんですよね(笑)。
渡邊
亀岡さんがそういうつもりなのはわかっています(笑)。
亀岡
あと、MUTANに声をかけた決定的な理由が去年、久しぶりに東京ゲームショウに行ったんですよ。というのも、僕は渡邊みたいに「会社を立ち上げたい」と言っている人が大好きなんで、そういう人から連絡が来ると面倒見ちゃうんですね。で、そうやって相談に乗ったりしてあげていた小さい会社がみんな「出展する」というから見に行ったら、みんな小さなブースを出してて、自社のゲームブランドを立ち上げて、楽しそうにしているんです。それを見て、「俺は何やってるんだ?」って思っちゃったんですよね。
――自分もそのような場に立ちたいと思った、と?
亀岡
もともとブラウニーズはオリジナルのゲームを作るために立ち上げた会社で、請け負いですがオリジナルの作品を作らせてもらっています。とはいえ、やはりお金をいただいている以上、自分たちの都合だけでは物事を進められません。それでも「オリジナルのゲームを作れているからいいか」と思っていたんですが、東京ゲームショウ会場を見ていたら、「自分がやるべきこと、やりたかったことをやっているのは、俺よりもこいつらじゃねえか」と思っちゃったんです。で、MUTANは東京ゲームショウに一般出展していて、オリジナルゲームを出してたので。「MUTANとなら、うちのスタッフもやりたいことをやれるかな」と思ったんですよね。
――そうして打診を受けた渡邊さんにとって、今回の件は大きな決断だったと思いますが、「自分たちの事業を大きくしていきたい」というお気持ちがあったのでしょうか。
渡邊
そういう考えもありましたし、ブラウニーズといっしょのグループになることで、お互いの足りないところがハマりそうな気がしたんですね。MUTANはキャラクターデザインや世界観のデザイン実績は薄くて 、オリジナルIPを作る際も、そのあたりは外部の方にお願いしていたんです。でも、ブラウニーズはそこがすごく強いので。……でもやっぱり、(株式の取得を決めた)いちばんの理由は、MUTANを立ち上げたときにすぐに電話をくれて、「何かあったら相談しろ」と言ってくれたことへの恩返しかな、と思っています。
![[IMAGE]](https://cimg.kgl-systems.io/camion/files/famitsu/41877/a06153e193411ee8d8f78f97990679e99.jpg?x=767)
――MUTAN設立時の約18年前の出来事が、巡り巡って両社の未来をつなぐというのは、運命のようなものを感じますね。両社が合わさると、会社規模はどのくらいになるんでしょうか。
亀岡
ブラウニーズのスタッフ数は30人弱くらいですね。
渡邊
MUTANは80人くらいです。
――合わせて100人超えの規模になりますね。これからは、MUTANとブラウニーズが同じプロジェクトに取り組んでいくこともあるのでしょうか。
亀岡
ブラウニーズはちょうど、ひとつのプロジェクトに区切りがついたところなんです。つぎのプロジェクトのお話もあるんですけど、そのあたりから新社長と相談しながら進めていくつもりです。
渡邊
(譲渡の話がまとまって)最初にお願いしたのは、今年7月3日に発売となるオリジナルタイトル『ソフィアは嘘と引き換えに』に登場する、リンジーという案内役キャラクターのデザインでした。 それから、いまMUTANではアリステティアというVTuberのプロデュースをしていまして、MUTANの広告・宣伝を担う存在として活動を進めてもらっているんですけど、今後、アリスから始まったVtuber活動をユニット化したいと思っているんです。ということで、アリステティアといっしょにユニットを組むVTuberのデザインを、ブラウニーズにお願いしているところです。
![[IMAGE]](https://cimg.kgl-systems.io/camion/files/famitsu/41877/a3b922ab492df68407ed0bc2e2b15be44.jpg?x=767)
![[IMAGE]](https://cimg.kgl-systems.io/camion/files/famitsu/41877/abd41ed7fdee0d07ceb145a7194604ec7.jpg?x=767)
MUTANとストーリーノートが共同開発している推理アドベンチャーゲーム『ソフィアは嘘と引き換えに』。
――おお、すでに共同プロジェクトが動き始めているのですね。今後は両社の強みを活かしたゲーム作りも見てみたいです。
渡邊
MUTANはオリジナルゲームを作って販売するくらいには、開発をまるっとできるんですが、『アトリエ』シリーズのキャラクターモデル制作やAAAタイトルの開発協力が目立ってしまい、企画からまるっと担当するというイメージを持たれていないんです。だから、なかなかそういう話になりにくい。一方、ブラウニーズは真逆のイメージで、企画からまるっと手掛けるというお話しかないと思うんですね。ですので今後、ブラウニーズといっしょにやっていくことで、MUTANも開発の最初から最後までを担えるようになっていくといいなと思っています。MUTANはオペレーションの面ですぐれているスタッフが多くて、ブラウニーズはどちらかというとクリエイティビティが強いスタッフが多いと思うので、いい形で補い合って進められればと。
引退を考えるゲーム業界の人々に、ひとつの選択肢を
――これから渡邊さんはMUTANの社長であるとともに、ブラウニーズの社長にもなりますが、就任にあたっての抱負をお聞かせいただけますか。
渡邊
そうですね……創業というのは、たぶん誰でもできるんです。少しお金を貯めれば、誰でも創業はできて社長になれるんですけど、2代目の社長というのは、基本的には指名されないとなれない。そんな2代目をやらせてもらえるのは、やはりうれしいです。それと同時に、ブラウニーズの魅力はやはり亀岡さんのカリスマ性もあると思うので、亀岡さんのようなカリスマ性がない自分がこれからどうしていくかは課題ですね。もう、一生懸命やらないといけないなと思っています。
亀岡
いやいや、大丈夫だよ。
渡邊
ありがとうございます。あと、これは僕個人の考えですけど……亀岡さんのような、ファミコンやスーパーファミコンの時代からゲームを作っている方々は、そろそろ定年を迎える時期ですよね。そういった先輩方が、引き継ぎかたや終わりかたを模索している話を、近年はよく聞きます。自分も「20年後くらいに、自分はどうするのか」とうっすら考え始めていたので、いま、2代目というものに挑ませてもらえるのは、自分の人生にとってもすごく意味のあることだなと思っています。
――今回、ブラウニーズがMUTANグループに入る件は、引退を考えている世代の方や、そのつぎの世代の方々に、ひとつの選択肢を示すものになるかもしれませんね。
渡邊
世の中には、すごくいいクリエイター、デベロッパーがたくさんいると思うのですが、さまざまな理由から「もう事業を畳もう」と考えてしまうかもしれません。そんな方々に、“下の世代につなぐ”という新しい形をお見せできたらいいなと思っています。
亀岡
ブラウニーズの文化を引き継いでくれるような相手を探していたので、今回、本当にいい相手を見つけられたと思いますね。前から「MUTANに買ってもらいたい」と目をつけていたわけではないんですけどね。ほんと、ハッと気づかされたんですよ、東京ゲームショウで。自分も、年齢的にどこまでできるかはわかりませんが、もうちょっと好きなゲーム作りをがんばりたいと思います。
![[IMAGE]](https://cimg.kgl-systems.io/camion/files/famitsu/41877/ae59ed8e7ddb61ce6d54f65cb8f905a9f.jpg?x=767)