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ホラー作家・黒史郎氏が語る『サイレントヒル 2』“息を呑むようなデザインのクリーチャーと出会うと、嬉しさと敗北感を同時に味わいます。”

ホラー作家・黒史郎氏が語る『サイレントヒル 2』“息を呑むようなデザインのクリーチャーと出会うと、嬉しさと敗北感を同時に味わいます。”
 オリジナル版から23年を経て、PS5をはじめとする最新鋭のゲーム表現で蘇る、ホラーゲームの名作『サイレントヒル 2』。本作は生存を脅かす恐怖ではなく、心理や人間性の暗闇を描き出す、どこか怪談のごときサイコロジカルホラー作品として、現在のホラーゲームに多大なる影響を与えてきただけでなく、あらゆるホラーに関わるクリエイターにも深く愛されている作品でもあります。

 本特集では、週刊ファミ通2024年10月17日号(10月3日発売)の
『サイレントヒル 2』発売記念特集のために寄せられた、ホラー小説やモキュメンタリーホラー、ARG(代替現実ゲーム)、そしてホラーゲームの実況配信など多方面のホラージャンルで活躍する魅惑的な作家・クリエイター陣から『サイレントヒル 2』への寄稿文をご紹介していきます。
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黒史郎氏が語る『サイレントヒル 2』

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(撮影/川口宗道)
 1974年生まれ。神奈川県出身。2006年、『夜は一緒に散歩しよ』で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞。作品は、妖怪、怪談、クトゥルフ神話などをテーマにしており、リアルな恐怖と伝統的な怪談の要素を織り交ぜたもの。
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 『ボギー ─怪異考察士の憶測』。余命宣告を受けた主人公が、怪異サイト“ボギールーム”で怪異考察士として“祟り”の正体に迫る物語が描かれる。発売日2021年7月21日 価格825円[税込] 発売元 二見書房
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――『サイレントヒル 2』リメイク版の映像(プレイステーション5で撮影)をご覧になっていかがでしたか?

僕はゲームの中の街を歩いて見てまわるのが好きです。とくに、落ちているもの、錆びているもの、朽ちているもの、破壊されているもの、濡れた地面、壁の染み。そういった、街や建物の「汚れ」を見るのがたまらなく好きなのです。
その汚れを見て、「ここで何が起きたのか」を想像するのが楽しいのです。リメイク版の映像では、その「汚れ」が、さらに美しくなっており、とても嬉しいです。僕はきっと何度も立ち止まって、その汚れを見つめながら、あらゆる想像をふくらませるのだと思います。

――黒さんは、ホラーゲームはどのようなところが魅力だと思われますか?

入ってはいけない場所、見てはいけないもの、触れてはいけないもの、そういうものをリアルな感覚で体験できるところが魅力だと思います。本来なら体験したくない恐怖を、薄皮一枚の間隔と感覚で安全に味わうことができる。すごいことです。現実世界の僕は、高い場所や暗い場所は怖いので絶対に行きませんが、ゲームの中では積極的に行くようにしています。
「安全な場所から危険なものを覗き込みたい」、そんな誘惑に勝てないからです。

――ちなみに、ホラーゲームをプレイしていてとくに怖いと感じる瞬間はどこでしょうか。

何も起こらない時です。何も起こらないからこそ、いつ、何が起きるかわからないという緊張があります。怖い想像がふくらみます。ホラーゲームではとくに、トイレのドアを開ける時がドキドキします。ドアの奥に何があるのか、何がいるのか。開けた瞬間に何かが飛び出してくるのではないか。そんな想像と警戒をしながら慎重にドアを開けて、何も起こらなかった時。ここじゃないなら、どこに恐怖を仕込んだのかと、より一層、怖さが増してしまうのです。

――『サイレントヒル 2』の映像でどんな部分に惹かれますか?

まず、クリーチャーです。僕は、遊んだゲームの敵データをノートにビッシリ記録するくらい、ゲームのモンスターが大好きです。本当にたくさんのモンスターとゲームの中で出会ってきましたが、本シリーズに登場するクリーチャーは、その造形のカッコよさ、不気味さ、一度見たら忘れない存在感など、群を抜いていました。唯一無二の存在感を放っていたのです。今回のリメイク版では、その姿、動き、声、存在感が一層、磨かれており、この悪夢のような世界になじんでおります。闇の中から迫ってくるマネキンの姿には戦慄しました。怖いけれど、はやく会いたいです。
新たなマップも楽しみですね。探索場所が拡大され、入れる建物が増えたという情報を見て、「サイレントヒルが発展している!」と大興奮しました。映像の街並みを見ながら、「どの建物に入れるのかな」「どんな怖い目に遭わされるのかな」と、新マップへの期待と想像が止まりません。

――独特なアートや映像表現、音についてはいかがでしょうか。

悪夢を見ているような映像だと思いました。夢は目覚めると、そのほとんどを忘れており、不鮮明であることが大半ですが、「サイレントヒル」シリーズは、「鮮明な悪夢を見ている」感覚になれます。
霧がぼやかす街並みが夢の中の不鮮明さをイメージさせますが、その霧から現れるクリーチャーたちは生々しく、現実と悪夢を行き来しているような不思議な体験を味わえます。
 
「音」は緊張を高め、恐怖心を煽るうえで、とても重要な仕掛けだと思います。『サイレントヒル 2』リメイク版の音は、どれも良い緊張と心地よい不快感を与えてくれます。扉がゆっくりと開く音と遠吠えのようなサイレンには不安を掻き立てられ、クリーチャーの毒霧の噴出音や壁に群がる虫が散っていく音には、不快感をそそり立たせられます。武器で敵を殴打する音からは、肉を叩くような鈍い感覚が生々しく伝わってきます。ティザートレーラーのゴキブリのシーンの映像と音、鳥肌をたてながら感動しました!――独特な部分といえば、ホラー作品におけるクリーチャー表現と、その存在についても本作は唯一無二です。『サイレントヒル 2』の怪物の表現について好きなものはありますか?

二つあるのですが、一つは、想像もできないような造形のものです。なにを経験すれば、こんな異様な姿を想像できるのかと息を呑むようなデザインのクリーチャーと出会うと、嬉しさと敗北感を同時に味わいます。
もう一つは、カッコよいものです。サイレントヒルのクリーチャーの姿は、おぞましい異形であることは間違いありません。でも、ただ怖いのではなく、スタイリッシュです。醜いはずなのに醜くない。そんな、スタイリッシュに狂った造形が動いて襲ってくるのですから、とてもカッコいいのです。また、グロテスク、無残、嗜虐的、悪趣味ともいえる姿の中に、どこか色っぽさがあるのも好きです。

――ホラー作品を創作するうえで、クリーチャーとは、いったいどういった存在だと捉えられていらっしゃいますか?

その世界(物語)の犠牲者だと思っています。クリーチャーの姿や言動から、彼らの生きる世界がどういう所なのか、想像を巡らせることができます。地獄のような場所か。真っ暗な場所か。孤独で、何もない、無の場所か。そんな世界で生きているから、こんな姿になるしかなかった、こんな行動しかとれない身体になった。そういう、世界の理に縛られたものが、クリーチャーになるのではないのかと考えています。作品の負のテーマを一身に背負った彼らは、当然そんな姿になりたかったわけではなく、その世界に順応するしかなかった哀しい存在に思えるのです。

――本作は表と裏の世界が描かれますが、ホラー作品を作る上で、現実を描く際と、非現実を描く際にはそれぞれどのようなことを重視されているのでしょうか。

非現実を描く時は、できるかぎり、「現実らしさを混ぜて」表現しています。なにもかもを非現実的にしてしまうと、夢や幻のような印象になってしまいます。もちろん、夢や幻が悪いというのではなく、ホラーの演出としてはとても良いギミックなのですが(夢オチもアリです)、僕は現実と地続きの非現実が怖く感じます。
『サイレントヒル 2』の「現実と非現実が入り混じる」展開はまさにそれで、自分が「現実」と「非現実」、どちら側にいるのかがわからなくなるのは、とても怖いことだなと思います。
現実を描く際に重視することは、作品内容によって変えています。後に起こる非現実を効果的に見せるため、現実部分を淡々と描いたり、逆に濃密に書いたりしてバランスをとります。好きな書き方は、ちょっとベタかもしれませんが、現実と非現実が対照的になっている展開です。たとえば、現実が明るい場所なら、非現実のほうは暗い場所にする。現実では恋人がいるなら、非現実では孤独。突然、非現実になって、明るさや恋人を失えば、その喪失感は強く、これらを取り戻したいと主人公は行動するはずです。でも実は、暗くて孤独な世界のほうが現実だった、という展開も好きですね。

――印象深い『サイレントヒル 2』の思い出はありますか?

クリーチャーを感知するラジオのノイズが怖かった……。たしか、クリーチャーの「ライングフィギュア」と屋外でバトルになった時だったと思うのですが、ラジオの反応があるのに姿がまったく見えず、焦るわ、怖いわ、死にたくないわで、すっかり腰が引けてしまい、クリーチャーが現れると同時に「うわあ!」と叫んでしまった……ということが。ゲームということを忘れてしまうのです。情けない思い出です。

――最後に、黒さんは、なにか現実に怖い体験などをされたことは……!?

昭和の心霊写真ブームの頃の話です。当時、僕は小学生でした。ある日、父親が親戚から預かったという写真を持ち帰りました。それは、神奈川県の小田原で撮影されたもので、そこに「顔」らしきものが写っているというのです。
僕は虫メガネ片手に「顔」を探そうとしましたが、探すまでもなく、ひと目で「それ」がわかりました。草木の生い茂る山の中で、複数のご年配の方が並んでいる写真。その一人の足元に、頭蓋骨が転がっています。
昔の女性のような結い髪の頭で、顔は薄汚れた骸骨。霊のようなものではなく、本当にそういうものがそこに転がっていたとしか思えないほど、はっきりと撮れています。でも、本物の頭蓋骨だとしても、結い髪はおかしいですし、サイズ感も変でした。写っている人たちと比べると、かなり大きな頭蓋骨に見えたのです。
今まで、数々の心霊写真とされるものを見てきましたが、僕の中ではその一枚が最恐の写真でした。

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 『サイレントヒル 2』でも、現実と非現実を描き分ける際の表現は、精緻に表現されたサイレントヒルの街の日常風景が際立たせています。

 とくに、プレイステーション5でのプレイでは、たとえばあなたがドアを開け閉めしたり、クリーチャーを武器で殴打するなどといった際のアクションに応じて、手元のワイヤレスコントローラーのDualSenseによる振動機能で、本当にドアノブを握ったような、もしくは敵を叩く際のリアルな衝撃の伝達さえ感じるかのごとき感触が伝わります。

 さらに、3Dオーディオ機能による立体的かつリアルなサウンドは、まるでいまあなたが本当にサイレントヒルの街を歩いていて、まさに“そこにいる“かのような臨場感をもたらすでしょう(3Dオーディオ機能はテレビのスピーカー、もしくはアナログ/USBヘッドホンで利用が可能です)。

 かつてプレイステーション2で発売されたオリジナル版
『サイレントヒル 2』の体験が、23年を経て“触感”さえもが一体となったホラー表現として、現代最新のプレイステーション5だからこそ実現できる体験として帰ってきます。

 あの霧の街でお会いしましょう。

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