本特集では、週刊ファミ通2024年10月17日号(10月3日発売)の『サイレントヒル 2』発売記念特集のために寄せられた、ホラー小説やモキュメンタリーホラー、ARG(代替現実ゲーム)、そしてホラーゲームの実況配信など多方面のホラージャンルで活躍する魅惑的な作家・クリエイター陣から『サイレントヒル 2』への寄稿文をご紹介していきます。
乙一氏が語る『サイレントヒル 2』
美しさに感動しました。サイレントヒルの世界が本当に存在しているかのようです。世界の実在感が増すとともに、恐怖がより際立つような気がします。
――乙一さんは、ホラーゲームはどのようなところが魅力だと思われますか?
死を疑似体験する行為が、他では得られない快楽だと思います。日常世界に身を置きながら、非日常的な恐怖にアクセスできるところが魅力です。
――ちなみに、ホラーゲームをプレイしていてとくに怖いと感じる瞬間はどこでしょうか。
扉の向こう側に移動する時です。場面のつなぎ目があり、こちら側から、あちら側へ移行する時、より死の気配が濃厚になります。その先に行きたくないのに、行かないとゲームが進まないので、「行きたくねー!」と言いながら一歩を踏み出します。
――『サイレントヒル 2』の映像でどんな部分に惹かれますか?
ミステリー性に興味がひかれました。はたして白い霧の向こうに、どんな物語が待っているのか……。画面の精緻な描写が、謎めいた雰囲気を引き立てています。
――独特なアートや映像表現、音についてはいかがでしょうか。
濃い霧の奥へ、一人孤独に進んでいく体験は、精神の奥へ奥へと入っていく象徴のように思えます。寂れた田舎町の景色は、そこへ行ったこともないはずなのに、どこかしら懐かしいです。
他のホラーゲームと一線を画すのは、ただグロテスクなだけではない、美しく神秘的だと思える瞬間があるところだと思います。
――独特な部分といえば、ホラー作品におけるクリーチャー表現と、その存在についても本作は唯一無二です。『サイレントヒル 2』の怪物の表現について好きなものはありますか?
空想でデザインされた怪物よりも、人体の一部がそのままくっついて蠢いているようなものが好きです。ホラー作品ではありませんが、『ダークソウル2』に登場した、頭部が人間の手になっているカバみたいなクリーチャーがお気に入りでした。『サイレントヒル 2』のクリーチャーも、人体が蠢いているようなデザインで好みです。――ホラー作品を創作するうえで、クリーチャーとは、いったいどういった存在だと捉えられていらっしゃいますか?
主人公が乗り越えるべき障害の具現化したものだと思います。死の象徴であり、恐怖の象徴であり、これまで主人公の心の奥の暗闇にうずくまって息を潜めていた何かなのでしょう。また別の見方をするなら、ホラー作品における怪物は、物語上の論理を支配する神のような存在だと思っています。それを主人公が打ち倒すことにより、神殺し(=父殺し)の構造を獲得することになります。主人公が大人に成長するための通過儀礼の物語として、怪物は現れるのかもしれません。
――本作は表と裏の世界が描かれますが、ホラー作品を作る上で、現実を描く際と、非現実を描く際にはそれぞれどのようなことを重視されているのでしょうか。
現実を描く際は、日常の場面を大事にしています。特に食事のシーンをいれることで、この人物は私たちと同じで食べ物をエネルギーにして暮らしている存在なのだ、ということを明示します。お腹が空く生き物なのだ、と。非現実を描く際は、現実との境界線となるような瞬間を挟むようにしています。例えば濃い霧の中をくぐり抜けるとか、電球が明滅するとか。橋を渡るのでもいいですし、線路を飛びこえるのでもいいです。異界への境界を通過させて、非現実のシーンをはじめるようにしています。
――ありがとうございました。最後に、乙一さんは、なにか現実に怖い体験などをされたことは……!?
若い頃、安くてボロくて狭い部屋のホテルに宿泊したら、浴室にかかっていたタオルに、小さな血の染みがついていました。だれの血なのかわかりません。
照明が暗く、いかにも幽霊が出そうな雰囲気の寂れた部屋でした。突然、空気が重く強ばったようになり、息苦しくなりました。もしかしたらこの客室は、過去にだれかが自殺をした部屋なのかもしれないと想像しながら一晩を過ごしました。怖かったです。
とくに、プレイステーション5でのプレイでは、たとえばあなたがドアを開け閉めしたり、クリーチャーを武器で殴打するなどといった際のアクションに応じて、手もとのワイヤレスコントローラーのDualSenseによる振動機能で、本当にドアノブを握ったような、もしくは敵を叩く際のリアルな衝撃の伝達さえ感じるかのごとき感触が伝わります。
さらに、3Dオーディオ機能による立体的かつリアルなサウンドは、まるでいまあなたが本当にサイレントヒルの街を歩いていて、まさに“そこにいる“かのような臨場感をもたらすでしょう(3Dオーディオ機能はテレビのスピーカー、もしくはアナログ/USBヘッドホンで利用が可能です)。
かつてプレイステーション2で発売されたオリジナル版『サイレントヒル 2』の体験が、23年を経て“触感”さえもが一体となったホラー表現として、現代最新のプレイステーション5だからこそ実現できる体験として帰ってきます。
あの霧の街でお会いしましょう。