VTuberグループ“ホロライブ”を擁するカバーは、⼆次創作ゲーム支援施策“ホロインディー”を展開中だ。簡単に言うと、ホロライブというIPを活用したゲームを出していいというもの。
著作権保護の観点からふつうは許可しにくいはずなのだが、第1弾タイトルの『ホロパレード』から始まり、すでに何本ものゲームを世に送り出している。
ホロライブ所属のVTuberが登場するディフェンスゲーム『ホロパレード』。
2023年11月には運営会社のシー・シー・エム・シー(CCMC)を設立し、カバーでライセンス事業本部 本部長を務める加持太郎氏が社長に就任。これは本気だ。
ファミ通.comのミス・ユースケは加持氏の前職からの知人ということで「いま何やってんの?」と話を聞かせてもらうことにした。最初は軽い世間話のつもりだったのだが、想像以上におもしろかったので、きっちり取材することに。
思ったより深い話になってしまった。
ところで、二次創作(同人)活動というと、もともとはあまり公にしないことが暗黙のルール。昔と比べて変化は起きているものの、ファンも権利元もお互いに関与しないからこそ、ぎりぎりで成立している不文律があったのもまた事実だ。どうして一歩踏み出すのか、問題は起きないのか。
キーワードはこれ。
クリエイターの善性を信じているのだという。
加持太郎
カバー ライセンス事業本部 本部長。シー・シー・エム・シーの代表取締役を兼任。ミス・ユースケの知人1号。文中では加持。
金川宗義
カバー ライセンス事業本部 ゲームコミュニティ推進チーム チームリード。文中では金川。
畠野貴之
カバー 経営企画室所属。ミス・ユースケの知人2号。二次創作や同人業界の動きに詳しいということで取材に同席してもらった。文中では畠野。
大盛況の『ホロライブ』。インディーゲーム界隈に感謝と支援を
――そもそもホロインディー発足のきっかけはなんだったのでしょうか。
加持
いちばんのきっかけは『HoloCure - Save the Fans!』(ホロキュア)ですね。ファンの方が自主的に出されたインディーゲームです。
金川
『ホロキュア』のリリースが2022年6月。だいたい2年前ですね。
加持
もう2年かー。釣りが実装されたりして、ちょっとしたプラットフォームになってますね。すごいですよ。
いわゆる『Vampire Survivors』ライクなゲーム『ホロキュア』。迫りくるファンたちを救うのが目的(画像はSteamストアページより引用)。
加持
世に出る直前くらいにプロモーションを始められて、当社のPRチームもそこで知りました。フタを開けてみるとめちゃくちゃおもしろいタイトルなんですよね。(ホロライブのメンバーは)ほぼ全員が配信したんじゃないかと。
――それも1回だけじゃなく、複数回にわたっていました。
加持
それまでは、ホロライブの二次創作ゲームを作っていらっしゃる方が大勢いるとは知らなかったんです。いるだろうな、くらいには思っていましたけど。『ホロキュア』をきっかけに改めて調べてその事実を知って、この人たちに何かしないと申し訳ないなと考えたところが始まりでした。僕と(代表の)谷郷と金川の3人だったかな、雑談しているときに話したら弊社代表の谷郷も「それは、いいですね。」(谷郷社長のモノマネ)。
――いまどうしてモノマネしたんですか。
加持
当時は僕がセールス、ライセンス、MD(商品化計画)の全部を見ていたので企画を詰める時間がなかなかなかったんですが、年末年始の空いた時間に企画書でも作ってみるかと思い立ちまして。それが2022年の年末ですかね。どうやれば事業として回していけるかが重要なんですけど、当社に新規事業のチームはまだないんですよ。
――そもそも会社として若いですもんね。まだ整理はできていないだろうなという気はします。
当時の企画書。
加持
そのころにちょうど『ホロパレード』作者のろぼくろさんからゲームを出していいかとお問い合わせがあったのもきっかけのひとつですね。当社に来ていただいて、直接ご確認したのが当プロジェクトの始まりとも言えます。
金川
ホロインディーの始まりという意味で、ろぼくろさんにも立役者として(このインタビューに)同席してほしかったですね。
――配信のボイスをそのまま使用していたりもしましたし、たしかに確認したくなる部分も多いでしょう。
加持
公式からはまずできないことですね。ファンゆえにタレントの人となりを理解していて、だからこそファンとタレント本人の両方に喜んでもらえる発言をチョイスしていただけました。
戌神ころねさんを軸にしたアクションゲーム『WOWOWOW KORONE BOX』。ボスデザインは配信での発言に着想を得ているという。
――そもそもホロライブの同人活動をしている人たちってどれくらいの規模なんでしょう。多いイメージはあるのですが。
畠野
ここ2、3年で多くなりましたね。わかりやすいところで言えば、コミックマーケットではVTuberのジャンルだけで、1500~1600前後のサークルが参加しています。正確に数えたわけではないですが、2023年末の冬コミを見ると、VTuberエリアの半分近い800サークルがをホロライブをテーマにしています。
――コミケ界隈と相性がいいんですね。職業柄、同人ゲーム界隈もウォッチしていまして、いまは昔より“野良のゲームクリエイター(同人ゲーム作家)”みたいな人が増えている印象。そことうまくマッチしたのかもしれません。
金川
既存のアニメなどのIPと比べると、「実際に本人に遊んでもらえるのがモチベーションになる」という声を多く聞いています。
――あー! インディーゲームの展示会でときどきそういう人に会うんですよ! 「好きな配信者に遊んでほしいからゲームを作りました」みたいな人。それがゲーム制作のきっかけになる時代なのかと膝を打ちました。
仕事は二次創作の支援。さじ加減が難しい
――いったん再確認すると、ホロインディーの活動の根底には“ファン活動の支援”があるわけですね。
加持
根底はまさにそれです。会社として“クリエイターさんとともに成長しよう”という共創を掲げておりまして、実際ここまでいっしょに成長してこられたと感じています。VTuberはもともとは有名イラストレーターさんの力をお借りしながら成長させていく形でしたが、いまはクリエイターの皆さんに当社の力を利用していただけるような、相互関係が築けているのではないかと。
ただ、会社としてやる以上はビジネス的な視点も必要です。いまはSteam上にホロインディーという架空のパブリッシャーというかブランドを作っていますが、当初の狙いとしては自社のプラットフォームを持ちたかったんですよ。
法務担当と「名前はどうするんだ」って議論が盛り上がりましたね。「それはやっぱり……“ホロステーション”じゃないですか」と僕はずっと言ってたんですけど。その法務の人は「いや、“ホロスクエア”でしょ」って。
――人が集まる場をイメージしたネーミングですね。
加持
5人くらいにヒアリングした結果、僕の意見が負けました。
金川
ステーションだと駅のイメージが強すぎてちょっと。
――略すことを考えると、“ホロステ”のほうが語感はいい気がします。
加持
そうそうそう! そうですよね! 僕と同じ感性じゃないですか……!
畠野
めちゃくちゃ喜んでる。
――要するに人が集まるハブ的なものを考えていたと。
加持
最終的にはそういったところを狙いたいというテーマがありました。企画段階では、やる理由も重視してして、結論としては“ブルーオーシャンである”という点が大きいのかなと思っていて。
そもそも、二次創作を公式が収益化を認めて支援するのは大手のゲーム会社はできないわけです。著作権をしっかり守ろうとするとオープンにはできない。
――歴史が長いところほどそうなりますよね。ひとつ認めると、どこまで遡って同じ事案を認めていけばいいのかわからない。VTuberはここ数年の流れだから、まだ目が届く範囲にある。
加持
そういう点もあると思います。よそではできないことを我々が先陣を切ってやろうという気持ちもあります。収益については、IP(※)使用ということで一部を弊社がいただくことも許容されるでしょうし、ビジネスチャンスでもあるのではないかと。
実際にやってみるとクリエイターさんの認知度は上がりますし、タレントは実況配信のネタとして使える。タレント自身が登場しているゲームということでファンも盛り上がってくださいます。クリエイター、タレント、ファンの三者からポジティブな反応がいただけかと思います。
※IP:知的財産のこと。ここではホロライブ関連のキャラクターを差す。畠野
リリース直後は「令和の著作権管理だ」という声もありました。これには前向きな意味もあれば、心配だというニュアンスもあったのだと思います。
加持
当初は軽めの力でソフトローンチさせていきましょうかという話だったんですけど、反響がよすぎたので、会社としても注力すべきプロジェクトという立ち位置になっています。
ホロインディーも含めて、当社ではゲーム関連の事業を複数走らせています。たとえば、『あくありうむ。』のようなライセンスゲーム事業ですとか。ホロインディーはゲーム事業の取っ掛かりにもなりうるでしょうし、ここから海外のファンもより増やしていき、グローバルヒットするような公式的なゲームの発表につなげたい思いもあります。
エンターグラムより2022年10月27日に発売された恋愛アドベンチャー『あくありうむ。』。
ホラーゲーム『つぐのひ』とコラボして『邪神ころね』というタイトルが作られたことも。
――公式で二次創作を認める/認めないという話は昔からありますよね。新しい会社、新しいIPだからできるというのは、たしかに納得です。
金川
VTuberという存在が流動的な点も大きな理由になっていると思います。そもそも、僕らも所属タレントの配信すべてをすみずみまで指示したり台本を作ったりしているわけではないですからね。こうして僕らがインタビューを受けているあいだにも、裏で誰かが配信してミームを生み出している可能性があるわけです。VTuberという存在自体、そもそも変化に寛容なんですよ。
――変化に寛容か……。性善説にもとづいた運用ですね。というより、いまの時代はそうならざるを得ないのかもな、と思います。理論上、ガチガチに縛ることもできるだろうけど、それだと想定外の広がり方をしない。すごく綱渡りな危険性も感じます。
金川
そういった視点からだと、VTuberというもの自体、一次創作というより1.5次創作みたいなところもあるのかもしれません。
加持
タレントみずから設定を生み出してくれることもありますし。
加持
始まりは僕と金川、興味を持ってくれた法務担当者の3人で、片手間でやりつつプレスリリースを出した形だったんです。そしたら直後から50件くらいの申請をいただいて「……どうしよっか、体制を組むか」と。
――間口を用意して、クリエイターさんがそこに応募、確認してOKを出すという流れなんですか?
加持
基本はそうですね。将来的にはこちらからのスカウトも検討しています。
――どこまでチェックしているのでしょうか。
加持
バグなどに関しては基本的なチェックしかしていません。他者の権利を侵害していないか、ホロライブのIPを毀損していないか、問題のある表現が使われていないか、といったところを主に確認しています。
――ふつうのデバッカーやQA(Quality Assurance=品質管理)とは違うんですね。
加持
最初はQAチームを組んでやろうかなとも考えていたんですけどね。過去にそういう仕事をしたこともありますし、アルバイトを雇ったら何とかなるかなと。ただ、それだとクリエイターさんに還元できる額が減っちゃうじゃないですか。収益の大部分をクリエイターさんに還元したいので、コスト的に難しくて。
――そこもクリエイターさんとの信頼関係で成り立つところですね。「問題のあるゲームは作りませんよね?」っていう。
金川
我々が手を加えすぎると、二次創作という建前が薄れてしまうのも問題ですし。
加持
ホロインディーというプロジェクトは“二次創作”であることが重要なんです。審査もコンテンツチェックに近いですね。こういう風に直してほしいとか、内容に踏み込むことはしていません。
――グッズメーカーさんと組んで、デザインチェックをするのに近い感じでしょうか。
金川
近いですけど、それよりはもうちょっと緩いです。グッズの例で言うなら、チェックはあくまで問題があるデザインかどうか、としっかり確認する感じです。
加持
ネットから拾ってきた(著作権フリーじゃない)アセットを使うのはまずいわけですよ。あ、これ○○○○○○○○(他者のIP)じゃん。さすがに抜いてください、みたいな。
金川
直近は大作の応募が増えてきていて、確認にも時間をいただいています。
――近年は開発力がある個人クリエイターさんが増えてきていますからね。もはやインディーという視点で見ていいのかな、というゲームも出てきていますし。
金川
大作とはいえ、ゲームシステム面はふつうに触って問題がないなら大丈夫だろうと判断できます。でもシナリオが長大だったりすることも多くて、そこでかなり苦労していますね。
金川
肌感として、日本のクリエイターさんは大丈夫なことは多いのかなと思います。すごく気を使って書かれたシナリオが多いので。やっぱり海外のクリエイターさんは難しいですね。何と言うか、基本的な感覚が違うんですよ。日本人からすると過激じゃないこれ? みたいな。
――文化が違うから、ベースとなっている倫理観が違うんでしょうね。
金川
それはあると思います! 明らかにNGならそこは止めるべきなんですが、「これは意図的な表現ですか?」と確認していたら「これは○○さん本人が配信で言ってたんだよ」と返ってきたり。うちのタレントが配信で言ってたとすると、その部分を使った二次創作なわけですから、修正しろとは言いづらいですよね。とはいえ、オフィシャルなら全部OKというわけにもいかない。どこまで許可するべきか、模索中です。
――さじ加減が難しいですね。やりすぎると二次創作のよさが失われてしまう。
金川
厳しいとクリエイターさんがやりたいことができなくなっちゃいますし、NGを出さないなら出さないで、何かあったときにクリエイターさんご自身が批判されることもあると思うので。それも忍びないですから。
――やっぱりできる範囲でクリエイターさんを守りたいですよね。二次創作関連の問題を端から経験している感じがします。
金川
慎重にやりつつ、何かあったらその部分をリファインしていくしかないんだと思います。
――規約を作る法務の皆さんもたいへんだろうなと、心中お察しします。著作権も関わってくるとすごく複雑になってしまう。
畠野
著作権やコンテンツのありかたについては運用する人によって解釈が変わるので、いろいろな立場の人が意見しやすいのも難しいところですね。解釈がいろいろとできるのも二次創作のよさではあるのですが。
金川
規約できっちり決めれば運用は楽でしょうけど、そうすると自由度が減って二次創作の意味がなくなる。ホロインディーに応募せず個人でやったほうがいいと判断されますよね。チェックを緩くすると今度は「カバーはこの表現を容認している」という捉えかたをされる可能性がある。難しいなあ。
――諸刃の剣ですよね。“曖昧だから価値がある”という考え方はあると思うんですよ。ただ、曖昧だからいいと断言するのもよくないという難しさ。
海外比率は60%。内容チェックに悩む日々
――ちなみに、応募の比率は海外と日本ではどれくらいのものでしょうか。
加持
海外が60%、日本が40%くらいです。応募フォームは英語と日本語で、たまにほかの言語圏の方からも応募があります。本当はもっと海外が多いと思っているんですけど、日本のWebサイトでコンテンツ自体も日本発なのでこれくらいかなと。
金川
そのうえで6割と考えたら十分多いですよね。
加持
英語基準にする手もあるんでしょけど、英語のHPを見た時点で手を引いてしまう方も少なくはないと思うので、いまやるとマイナス効果になりそうな気も。どこかで切り替えるかもしれませんが。
――個人的に、「あくまでもベースは日本のコンテンツなんですよ」という表現の仕方は大切なんじゃないかと思います。日本人のファンからすると安心するでしょうし。
『Idol Showdown』は海外クリエイターによる格闘ゲーム。ホロライブの面々がバトルをくり広げる。
金川
ほかに海外からの応募の特徴としては、開発チームの人数が多いです。
加持
インディーの定義が人それぞれで、とくに日本と海外だと大きく異なりますね。海外のインディー開発チームは、日本から見たら中堅のゲーム開発会社くらいの規模に見えると思います。
――日本だとひとりかふたりでやっているところも多いですよね。僕が同人ゲームに注目し始めたのは20年以上前ですけど、その頃から傾向はあまり変わっていないような。
金川
海外にも個人で作っている方はいるにはいるんですけど、目を引くようなタイトルだとだいたいは5人以上のチームで制作されていますね。
加持
10人ですとか、20人以上の規模のところもけっこうあります。開発スタッフ20人と考えると、そこそこの規模ですよ。
金川
何ならホロインディーのスタッフより多いですから。
加持
うちもそれくらい人員がほしいですよ。
金川
文化の違いもあるのかもしれません。日本人より「チームでやろうよ」っていう心理的なハードルが低いとか。スカウトみたいな文化もありますよね。
――雇用制度の違いもありそうな気がします。日本は終身雇用の意識がまだ根強いですけど、短期的にいろいろなチームに所属して働くという国はけっこうありますよね。
加持
無料でリリースしたいと海外から申請してくれた方が、じつはメンバーには給料を払っていたりいたり。好きだからってそこまでやるんだと驚かされました。
――申請から確認を終えるまで、どれくらいの期間がかかるものなんですか。
加持
ゲームが完成している前提で、2~3ヵ月くらいですね。
金川
ゲームの内容によっても変わります。タワーディフェンスなどシナリオが発生しないものはチェックが早く進みます。システムとゲーム的な表現のチェックがメインですので。確認のために最後までプレイしなかったとしても、グラフィックアセットを全部提出してもらって確認したりもできますから。
シナリオがしっかりあるものはそうはいきません。シナリオを全部提出してくださいってお願いするわけですけど、海外クリエイターの場合は翻訳も必要。全員が英語ペラペラというわけではないので。私も読むくらいなら何とかなりますけど、ニュアンス表現やミームをくみ取るのはちょっと。
――スラング的な表現も難しそうですね。きれいにするとおもしろさが損なわれるかもしれない。
金川
文章として読むだけなら翻訳ツールでも何でも使えばいいんですけどね。でも、表現は正しければいいというわけじゃない。この表現は、伝えたいことはわかるけどよくないということもあると思います。
加持
難しい審査基準で言うと、楽曲もですね。うちで作った曲は基本的には社内で原盤権を持っていて、UGC(ユーザー生成コンテンツ)なら無償で利用できるような契約にしてしているんですが、ゲームでの利用はUGCに当たるのか、という問題が出てくるんです。
――二次創作ゲーム自体はUGCではありますけどね。
加持
ただ、利用される先はゲームなんですよね。アレンジを使用するクリエイターさんもいらっしゃって、社内では著作権の処理をしっかりやるべきという見解を出しています。そうなるとそんな処理は面倒だからしたくないという方もいらっしゃるかと思います。その場合は少額を支払っていただいて処理しています。
――権利の話か……。お互いいい感じにやっていこうという暗黙の了解で成り立ってきたのが同人であり二次創作じゃないですか。でも、どこかで明確にしないと二次創作を進められない、みたいなねじれが発生しそう。
金川
楽曲の権利も、音楽を管理している部署と法務を交えて話をして、「こういう建付けだったら誰もが納得するのでは? どうだろう?」と、頭を悩ませています。
加持
当社がパブリッシングするようなスキームなので、うちが代表して処理したほうがいいだろうなと。なるべくクリエイターさんをフォローしたいですし。
金川
ゲームだけでなく音楽を作っている方々もまたクリエイターさんですからね。ゲームのために、音楽を作ってくれた方に著作権使用料を払いません、というのは違うじゃないですか。だから、お金はいただいたほうがいいですよね、というのが会社としての見解です。
とはいえ法人基準の手続きや金額を求めると使いにくくなってしまうので、インディークリエイターさん向けにいろいろと調整しております。
――出てきた問題をひとつひとつ解決しているんだなあと苦労を感じますね。
加持
つねに何かが発生して、ルールを作りながら運用しているような状況です。無償リリースと有償販売の場合は著作権使用料を変えたり、臨機応変に対応して。課題はどんどん見つかるばかりです。
――社会の仕組みを知っている大人は「たしかにそうだよな。たいへんだよな」と納得しながらこの記事を読むことになりそう。
加持
でも、課題があったほうが楽しくないですか?
金川
審査してリリースするだけだと味気ないし、作業になっちゃう。整えていく楽しさはあります。
性善説がコンテンツを支える
――もしトラブルが起きた場合、責任の所在はどこに置かれるのでしょう。
加持
クリエイターさんによる二次創作という建前なので、クリエイターさん側になります。中身を作っているのはクリエイターさんなので、こちらで確認するとはいえ、他者の権利侵害などがないことは申告を信じるしかないんですよ。できる範囲でフォローはしたいですけど。
金川
たとえば、隠しコマンドを入力したら他社製品のロゴそのものが出てくるとか、僕らでは確認しようがないですからね。ソースコードから何から何までチェックするのは現実的じゃない。
――そこは本当に、ファンとIPの権利元の信頼関係ができあがっているからこそ成立するわけですよね。信頼できなかったらOKを出せないから。
加持
それはまあ、そうですよね。ご指摘の通り性善説に則っているところは大きいと思います。
――日本では信頼関係で成り立つものが多いと思うんですよ。野菜の無料販売所なんて勝手に持っていく人はいないという前提ですからね。日本だからできるのかもしれない。
畠野
日本ではと仰いましたが、国によって著作権の考えかたも異なりますし、アメリカならフェアユース(※)の考え方もありますよね。
※フェアユース:一定の条件を満たしていれば、著作権者に許可を取らなくても著作物を再利用できるとする法原理。ただしフェアユースはほかの法を覆すような絶対的な権利はなく、またフェアユースで著作物を使用した第三者は保護されないなど、無制限というわけではない。――悪用しなければいいけど、“どこからが悪用なのか”の基準も決めようがないですよね。ファンとIP権利元、お互いの信頼ありき。
金川
クリエイターさんに対しても、信頼関係を結ぶことは大切です。修正をお願いするときにオンライン打ち合わせをすることもあるんですけど、少なくとも1回はカメラをつけてやりたいと思っていて。一度も顔を見ずに出したタイトルはないですね。
加持
NDA(秘密保持契約)なども交わしたうえで、直接やり取りできるようにしている形ですね。
――作っているクリエイターさんもなんだかんだで大人が多いから、そこはちゃんとしてそうですが。
金川
そうですね。社会人経験のある方も多いように感じます。
先ほども話題に挙がった『Idol Showdown』ではEVO JAPAN 2024などでサイドイベントを実施。クリエイターと協力関係を構築できている。
――別の取材で「二次創作のプロジェクトを取りまとめるような人は、配慮の仕方や間合いの取り方がうまい」と聞いたことがあります。ここまでは聞かないほうがいい、ここから先はお金も動きそうだから早めに相談しよう、ですとか。もはや阿吽の呼吸。
金川
そういう方が増えている印象はありますね。お問い合わせをいただくときも、「こういう使いかたは大丈夫ですか?」とか、気を遣ってくれているんだなとわかることは多いです。
――二次創作のカオスな部分と「しっかりしよう」という大人な部分が、ちょうどよく混ざり合っている。
畠野
その通り、二次創作の世界はハイコンテクスト(※)な部分も多いですから。自分も界隈では長いですけど、長いからこそ逆に言葉で説明するのは難しい部分があるのを感じます。
※ハイコンテクスト:文化の共有性が高いことを前提に、文言以外の方法に頼るコミュニケーション方法。言葉がなくても共有知識によって意味や意図が伝わるという、いわゆる“察する”ことが求められる。――新しく入ってくる人たちに説明するべきか否か。ファンという時点で気を遣ってくれるという側面もあるでしょうし。
金川
そこはありがたいところですし、気遣いがあると進めやすいのは間違いないと思います。「こういう表現はよくないと思ったので使っていません」ですとか。これがホロライブとは関係なくインディーゲーム作品全般を募集するとなると変わってくるでしょうね。
――気を遣うのは大事なんだなと実感しますね。
加持
お互いに、ね。
金川
何だかんだで、日本人の気を遣い合う文化は大事だと思います。やりすぎはよくなくて、意味のある気遣いが大事。
――こういう感覚を理解してくれる海外の方が増えるとうれしいですね。ホロインディーに応募する人はやっぱりホロライブ好きでしょうし、単純に「儲かれば何でもいいや」って人は少ないのではと思います。
加持
実際、肌感としては少ないですよ。
金川
収益の条件なんかはリリースが確定した人にしかお伝えしていないんです。先に収益という大きなメリットが出過ぎちゃうと、主軸に“ファン”のない、儲けることが主目的の方が集まる可能性があります。管理コストも増えてしまうので、そういったことは避けるように動いています。
――お金は人を変えてしまうから……。
――ガイドラインを明文化してローコンテクストなコミュニケーションを取れるのが理想的なんでしょうけど、そのさじ加減自体がハイコンテクストなんですよね。
金川
ガイドラインがわかりにくいという声はいただくんですよ。ただ、リスクを抑えてきっちり作ろうとすると一律禁止にせざるを得ない。二次創作ってそういう存在なんですよね。
畠野
手間を省こうとしたり、ルールを明確にしようとすると、ホロインディーというプロジェクト自体がなくなっちゃう。
加持
ガイドラインがわかりにくいと言われる意味は僕らもわかっているんです。作り手側からすると困りますよねって同意もできる。
金川
時間も費用も、コストをかけてゲームを作ったのに、それがレギュレーションに合っているかどうかがわからない。たいへんですよね。いや、言いたいことはわかります。でも、下手に明文化すると”ここまではやっていい”という免罪符にもなってしまうので甘く設定することもできない。
――そこを言い出すとゲーム実況などにも波及していきます。“他者のコンテンツを使って収益を上げる”という曖昧なことからスタートしているわけで。お互いに「わかるよね?」で成り立っている文化が多いですから。
金川
ゲーム配信は、最近になって各社さんからガイドラインが出るようになりました。あれも業界全体の集合知が溜まってきたからこそだと思うんですよね。
――「ガイドラインを作ろう」という意識がゲームメーカーに広まったことも重要なのかなと思えます。
加持
配信されるメリットはゼロではないと感じてくださっていると思うんですよ。
ホロライブメンバーのデッキを構築するカードゲーム『デュエホロ』。登場するキャラが多ければそれだけ配信が盛り上がりそうだ。
――お金が関わる二次創作はルールを明言できないし、本来は「明言できない」とも言えないんですよね。
金川
そうなんですよね。明言できないと言った時点で「だめなんだな」ってなりますからね。「節度を持っていただきたく」とか「ガイドラインを見て解釈してください」とか、ふんわり回答しかできない。
加持
二次創作においては、ほかに引退したタレントの扱いの問題もありますね。ホロインディーでは、卒業タレントについてはそのままにしておく予定です。とはいえ、その都度確認しつつ、ケースバイケースになると思いますが。
コンテンツに関しても、ふつうは卒業以降は使用されないのが通例ですが、ホロインディーでは使っていいという判断にしています。ファンも喜んでくれる場合が多いですから。
――ホロインディーとファンの心のなかではまだ健在、と。
金川
公式では出せないからこそ二次創作で、という考えかたもありますね。
――節度のある方に思い出として作ってもらえるならファンはうれしいと思います。
加持
とはいえ、卒業した本人の思いもあるでしょうから、そこは決して邪険にはできないとも考えています。
――二次創作も気分がいいか悪いか、みたいなところのふんわり加減でも成り立っているところがありますから無視できませんね。うちのようなメディアもゲームメーカーとの信頼関係で成り立っているので、決して他人事ではないんです。
加持
クリエイターさんと当社、ファミ通さんも共創していきましょう。
[2024年9月20日18時17分修正]
一部証言を修正いたしました。