ストーリーやキャラクター、“フリーシナリオ”や“皇帝継承”といった『ロマサガ2』らしい特徴はそのままに、3Dグラフィックでフルリメイクした本作。バトルや育成要素に関しては、現行ハード向けに、さまざまな追加・変更点が盛り込まれている。
本記事では、『ロマサガ2R』のプロデューサーである田付信一氏のインタビューをお届け。リメイク版の開発にいたった経緯から、システムの具体的な特徴などを詳しくお聞きした。
田付 信一氏(たつけ しんいち)
スクウェア・エニックスのプロデューサー。これまでに『ガーディアン・クルス』や『デッドマンズ・クルス』、『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』のプロデューサーを担当。『サガ』シリーズに関わるのは今回が初。
いま見ても新鮮な『ロマサガ2』の魅力を現代に
市川とは以前同じ部署に所属していて、そのときは席もすごく近かったので、付き合いはとても長いです。コロナ禍では顔を合わせることがなかったのですが、あるとき「そろそろ『ロマサガ2』のリメイクとかやりたいなぁ」みたいなメッセージが急に届いて、初めはやんわりとしたお誘いでしたね(笑)。
――「田付さん、引き受けてくれるかな? どうかな?」という逡巡が見えますね(笑)。『ロマサガ2R』の開発は『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』を手掛けていたジーンさんが担当していますが、引き続きジーンさんとタッグを組むことにした理由は?
――ジーンさんに依頼する時点で、田付さんの中ではリメイク版のイメージは浮かんでいたのでしょうか?
ただ、グラフィックはともかく、『サガ』シリーズではこういったタイプのリメイクをするのは珍しいので、コンセプトには少し悩みましたね。
――悩んだ末に、現在の方向性に決めた理由は?
――“メトロイドヴァニア”などは、まさにそうしたオマージュで生まれたジャンルですね。
『ロマサガ2』は、オリジナル版が持つ要素が、いまの世でも新鮮に感じられる要素だったので、ある意味リメイクしやすいだろうと考えました。その新鮮な部分を、現行ハードで遊びやすくすることで、新たなプレイヤー層にも新作感を持って遊んでもらえるだろうと、方針を固めました。
――開発が決まったときの、ジーンさんの反応はいかがでしたか?
――具体的には、どのような部分でぶつかったのでしょうか?
“これが『サガ』だ”といった議論になったときに、最終的に河津さんに聞くと「いや、そんなものは『サガ』じゃないです(笑)」と答えてくれるわけです。方針を決める際に揺れ動いたら、最終的には河津に聞きに行っていましたね。
――困ったら生みの親の判断を仰ぐわけですね……! 河津さんとのやり取りは、どのようなものがありましたか?
――オリジナル版から約30年経って、パイロヒドラの正式サイズが判明したんですね(笑)。
ですがそうなると、パイロヒドラのような巨大な敵がどの場所に出現してもおかしくないよう、すべてのフィールドをパイロヒドラ対応サイズで作らないといけません。当初はパイロヒドラを8メートルで想定していたので、もう、クジンシーの館が体育館みたいなサイズになっちゃう(笑)。それはよくないと思い、本作では出現するモンスターの種類を変えるのはやめて、プレイヤーの強さに合わせてモンスターの強さが変動するようにしようと提案しました。
ですが、スタッフからは「敵が入れ替わることこそが『サガ』である!」という意見が出ました。僕も「それは一理あるな」と悩んだので、河津に相談をしました。「(入れ替えはせず)敵が強くなるだけでいいです」と言ってくださり、落ち着きました。といった感じで、河津がいたので、スムーズに進められた部分がありました。
――体育館みたいなマップも見てみたかったですが、落ち着いてよかったです(笑)。河津さんや市川さんから、何かリメイク版への要望はありましたか?
ただ、『ロマサガ2』をリメイクすると決まったとき、なぜか『サガ』チームの中で「『ロマサガ2』リメイクは、アクションゲームになるらしいぞ」みたいな噂が広まってしまって。僕はアクションにするなんて、ひと言も言っていないのですが(笑)、なぜか噂が生まれて、それが河津の耳にも入ってしまって。
それで、『ロマサガ2R』の話を初めて河津とする際に、河津が「アクションにするんですか……?」と、恐る恐る聞いてきて(笑)。「いやいや、ありえません!」と答えたら、ホッとしている様子でした。ということで、要望ではないですが、さすがにアクションゲームになることを河津は望んでいないようでした(笑)。
ボイス付きで動き回るキャラクターたちに愛着が湧く
どうしようかと考えていたときに、『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』で、イラストレーターのあんべよしろうさんがクラスチェンジ衣装を担当してくださっていたことを思い出しました。あんべさんは『ロマサガ2』が大好きで、作品についてもとても詳しく、これまでにどんな『ロマサガ2』イラストが描かれてきたのかも把握しています。
そこであんべさんにお願いしたところ、自分の中ではとてもしっくりくるデザインになりました。ちなみに、本作では統一感を出したくて、サブキャラクターを含めてすべて、あんべさんがデザインしています。
――え! 仲間にならないキャラクターも含めて、すべてですか?
じつは当初は『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』のキャラクターモデルを踏襲した頭身だったのですが、いざ作ってみると、少し子どもっぽさが際立ってしまうなと感じ、いまの頭身に変更しました。『聖剣伝説』シリーズはキュートな世界観が特徴なので、『トライアルズ オブ マナ』の頭身がフィットしたと思いますが、『ロマサガ2』は王道ファンタジー的な世界観でありつつ、物語はかなりシリアスですから。
またキャラクターの衣装は、小林さんのイラストの特徴を押さえつつも、現行機のグラフィックで表現した際に、プレイヤーに受け入れてもらいやすいデザインに落とし込んでいます。たとえば宮廷魔術士のエメラルドは、小林さんのイラストでは衣装がすべてオレンジ色で、とても素敵なのですが、3Dモデルにすると単色が目立ちすぎてしまうので、アレンジを加えています。
髪型や装飾を変えることで、違和感が生まれてしまうかもという危惧もありましたが、実装してみると、そんなことはなく。今回のデザインで「このクラスの〇〇がカッコイイ!」と、好きなキャラクターが新たに生まれることもあるのではないでしょうか。
――各クラスのキャラクターへの思い入れが強まると、皇帝継承をする際の印象も変わりそうです。
ここまでやるとなったら、“いつでも任意で、好きな仲間を皇帝にできるほうがいい”といった意見もあると思いますが、「自分の好みじゃないクラスが候補になったけれども、使ってみたらなんだか好きになってきた」みたいなところも『ロマサガ2』の魅力だと思うので、ある程度のランダム性を残しています。
ただ、本作はボイスがついているので、LPが0になったときには最期の言葉を残したりもします。3Dモデルもそれぞれ異なるので、キャラクターに愛着が湧くと罪悪感が生まれて、気軽にそういうプレイはできないかと思います。
バトルにタイムラインを採用した理由
開発当初は、オリジナル版と同じく、最初に全部コマンドを選ぶ仕組みでした。ですが、3Dグラフィックになってキャラクターの頭身が上がると、それではなんだか違和感が出てきてしまって。コマンドを選んだ後に、順番が来るまでじっと待っている味方を見ると、不自然だと感じてしまいます。どうしてすぐに行動しないのか? と。
本作は物語にのめり込みながら、探索とバトルをくり返すシンプルなRPGですから、敵とエンカウントしたらすぐに、行動順の早い者から攻撃したほうがいいだろうと、タイムラインを採用しました。また、バトルのテンポも重視していて、コマンドを選んだら即座にドンドン攻撃していくような、ハイスピードバトルにしています。
――テンポ重視とのことですが、技・術によっては演出が長いものもありますか?
また、技の“閃き”ですが、どの技を使えば新たな技を閃けるのかをアイコンで確認できるようになりました。そして閃きやすさも、アイコンの輝きの強さで判別できます。それと、オリジナル版ではキャラクターごとに習得可能技が異なりますが、それを確認する方法がありませんでしたよね。閃くことが不可能なのに、プレイヤーはそれをわからないので、閃かない攻撃をくり返してしまう……ということもありましたが、本作ではキャラクターごとに閃く技を確認できます。
さらに、キャラクターの育成につながる“技術点”も、要素ごとに技術点ゲージが表示されるため、いつ能力がアップするのかわかりやすくなりました。ですので、装備選択や育成の部分はガラリと遊びやすくなっています。
一方で、本作には難易度設定がありまして、いわゆるハードモードに近い“オリジナル”難度を選べば、シリーズファンが求めるような歯応えのある戦いも楽しめます。
レベリングができると「そんなの『ロマサガ2』じゃない!」と言われてしまうかもしれませんが、戦闘勝利回数が増えるというデメリットは残っていますから、遊びやすくなっただけであって、決してヌルくなったわけではないです。逆に「『サガ』シリーズに興味は持っているけど、難しい」と思って触ったことのない方は“カジュアル”を、通常のRPGをよく遊ぶ方には“ノーマル”で遊んでいただければと思います。難易度についてはゲーム内のオプションからいつでも変更できますので、自分のプレイスタイルにあったものを選んでいただければと思います。また、先ほど触れた“閃きの可視化”や“タイムライン表示”などといったものもオプションでオフにすることが可能なので、よりオリジナル版に近い感覚でも楽しんでいただけるようになっています。
――確かに、画面の切り換えこそ挟みますが、自由に進めて、どのボスから攻略していくか、イベントをどんな手順でこなしていくかを考えるというのは、オープンワールドが持つ魅力に近いです。それを1993年に実現していたというのは、改めて驚きですね。
――本作ではバトルで敵の弱点を突くことで、“オーバードライブ”ゲージが溜まり、連携技を放てる新要素があります。アビリティの要素も相まって、弱点が突けることを重視したパーティーメンバー選びが重要になるのでは? という印象を受けました。
ボスも弱点が少ないことはないですし、連携技はあくまで攻略の鍵のひとつで、使わなくても攻略できます。『オクトパストラベラー』は、弱点を突いて敵をブレイクすることが基本にあるシステマチックな戦闘ですが、『ロマサガ2R』はそうではなく、バトルの中心となるのはあくまで、通常の攻撃や防御、回復になっています。
――今日、お話を聞いていて、とにかく『ロマサガ2』の見どころを幅広い層に伝えるために、わかりやすさや遊びやすさを重視していることがわかりました。ほかに、オリジナル版と比べて、遊びやすくなっている要素はありますか?
それと、どこでもセーブできる機能は削除しました。後戻りできないところでセーブをして、詰んでしまうのを避けるためです。ですが、セーブポイントは豊富に用意してありますし、セーブデータは20個、 オートセーブ機能ももちろんありますので、困ることはないと思います。ボス戦前にはセーブポイントといっしょにBP回復ポイントもありますので、その点も便利になっていると思いますね。
――『ロマサガ2』は魅力的なゲームですが、詰んでしまうポイントがあるために、ゲームに不慣れな人はクリアーできないのが難点でした。そこが『サガ』らしい魅力でもあったのですが、今回は非常に幅広い層のプレイヤーが楽しめそうです。
プレイ時間は40~50時間程度を想定
――ああ、コムルーン火山ですとか、カンバーランドとかはそうなりそうですね……。ちなみに“アリ”はどうなるんでしょうか?
――3Dグラフィックのアリ……! ところで、今回は“リベンジオブザセブン”というサブタイトルがついていますが、これはどういう意図から付けたものなのでしょうか。名前から見て七英雄絡みの何か、追加要素があるようにも見えますが……。また、本作ならではの追加要素や、または過去に移植・リマスター作品が出た際に追加されていた要素の登場などは……?
――原作経験者としては、河津さんが書き下ろした新テキストはあるのか? というところも気になりますが……。
なお、本作のテキストは、すべてがオリジナル通りというわけではありません。もとのままだと、3Dグラフィックのイベントと合わないところがあります。物語を補間する意味でも、そしてボイスをしっかり立たせるためにも、テキストを調整しました。もちろん、物語の内容は変えていませんし、もとの味わいも残しています。
――プレイボリュームはどのくらいになりますか?
『ロマサガ2』のオリジナル版は、簡素で短いダンジョンもありますが、本作ではやり応えをアップさせるためにダンジョンを拡張しています。3Dだからこその探索の楽しさもあり、それらの影響もあって、プレイボリュームが増えていると思います。
――体験版や試遊会など、発売前にプレイヤーが触れられる機会は予定していますか?