2024年8月1日(木)から、シティコネクションが新プロジェクト『ジャレコレ ファミコン編』を始動。Nintendo Switchにて、まずは以下の3タイトルのダウンロード版を発売する。
◆第1弾 ピンボールクエスト
発売日:2024年8月1日発売(木)
価格:990円[税込]
◆第2弾 妖怪倶楽部
発売日:2024年8月8日発売(木)
価格:990円[税込]
◆第3弾 バイオ戦士DAN インクリーザーとの闘い
発売日:2024年発売予定
価格:990円[税込]
この3タイトルを見て、「なんで?」と思った人も多いと思う、レトロゲームに慣れ親しんだ筆者も、ちゃんと「なんで?」と思った。
その疑問を覆せるくらいの選考意図と、この3タイトルを本気で世に知らしめ、楽しんでもらおうという試みが、本プロジェクトには込められている。今回は『ジャレコレ』のプロデューサーとディレクターの両名から、実際のデモプレイなども交えつつさまざまなお話を伺ってみた。
『ジャレコレ』プロデューサーの吉川延宏氏(写真左)と、ディレクターの上田祐美氏(写真右)。
吉川延宏氏(よしかわのぶひろ)
シティコネクション社長。『ジャレコレ』ではプロデューサーを務める。数奇な経緯からジャレコのIPを自社で獲得しており、全ジャレコタイトル復刻のカギを握る人物。文中では吉川。
上田祐美氏(うえだゆみ)
シティコネクション所属、ゲーム開発ディレクター/デザイナー。みずから各タイトルをプレイし、おもしろさを確かめて復刻タイトルを選んでいるとのこと。文中では上田。
『ジャレコレ』はB級アイドル育成企画?
――まずは『ジャレコレ』企画発足の経緯を伺えますか。
吉川
もともと弊社は古いゲームのIPをたくさん保有していて、それを復刻していくという事業をしています。入手困難となってしまった名作タイトルを、遊びやすくする便利機能や新たなチャレンジモードなどを搭載して現代のハードで復刻させてきたのが『Memory Clip』プロジェクトです。
――『星をみるひと』(1987年/ホット・ビィ)、『暴れん坊天狗』(1990年/メルダック)&『Zombie Nation』(1991年/『暴れん坊天狗』の海外版)、『Gimmick!』(1992年/サンソフト)、『へべれけ』(1991年/サンソフト」)とリリースされていますね。
※『Memory Clip』公式サイト
吉川
これはこれで展開しつつも、弊社がIPを保有しているジャレコというメーカーにフィーチャーしてタイトルを出していこう、というプロジェクトが『ジャレコレ』です。ただ、Nintendo Switchではすでにオンラインで定額料金のサービスがありますよね。
――Nintendo Switch Onlineですね。ファミコンやスーパーファミコンなどの懐かしのタイトルがいろいろと遊べます。
吉川
あちらには弊社で言うところのA級タイトルである『シティコネクション』(1985年/ジャレコ)や『忍者じゃじゃ丸くん』(1985年/ジャレコ)などがすでに入っています。そこで上田のほうで考えてくれたのが、この『ジャレコレ』という企画でした。
上田
ジャレコのタイトル復刻をやろうという話になって、最初はどうしようとなったんですね。
正直、難解だしB級だしとっつきにくいよね……というところで悩んだ挙げ句、とりあえずアクションゲームのスクリーンショットだけを並べてみたんです。そうしたら見た目はすごくおもしろそうに見えまして。
――見た目はすごく華やかですね。
上田
そういう印象ですよね。そこで難しすぎて当時あきらめた人が、とっつきやすいと思えるように印象を変えていけば、いけるのではないかと思ったんです。ファミコン40周年のブームもありましたし。
――正直、今回発表された3タイトルは40年間一度も復刻の日の目を見ていませんね。
吉川
過去のバーチャルコンソールでも出ていませんよね。Nintendo Switch Onlineの選定でも、声がかからなかったわけでして。
上田
そうして10タイトルほど候補を見つけまして、これをナンバリングし直していこうと企画を進めました。自分の中では、『じゃじゃ丸』や『シティコネクション』がいないジャレコのB級アイドルをどうやって育てるか、どうすれば光るのかという心持ちで担当させていただいています。
――まさかのアイドルプロデュースですか。
吉川
“B級アイドルを育てるプロジェクト”というキャッチーな側面もありますが、ちゃんと上田のほうで全タイトルをプレイして、おもしろさを感じて“こうすればもっと楽しんでもらえる”と厳選したタイトルがラインアップされています。
――今後のリリース予定も含めて、シリーズで復刻されうる対象タイトルはどのあたりになるのでしょうか。
吉川
さすがにもう一度いまの世で楽しんでもらうのが難しそうなタイトルは、候補の時点で省かせてもらいました。
上田
まずは“伸び要素”があるものを中心にしています。このシリーズは連続で10タイトルほどリリースしていく予定なのですが、そこで最初からインパクトや取っかかりがないタイトルを出すと、皆さんの印象に残らないと考えました。
3タイトル選出の理由は、市場調査結果と季節感
――そこで最初に出そうと思ったのが『ピンボールクエスト』(1989年/ジャレコ)というわけですね。その理由を教えていただけますか。
上田
いまとなってはジャレコ自体がマイナーで、ジャレコ=『ピンボールクエスト』と直結してつながる人は少ないと思います。ただ、このゲームを実際にプレイさせていただくと「ピンボールなのにRPGってなんだろう?」と、自分でもまだ見ぬ世界を発見させてもらえたんです。
――その発想自体がおもしろいところですよね。
上田
それに海外版ソフトも、注目すべきものだったんです。
吉川
7年前くらいに、北米の皆さんを対象にマーケティングリサーチで「ジャレコで好きなタイトルは?」と訊いてもらったところ、『ピンボールクエスト』が1位だったんですよ。『Antstream』というクラウドゲームサービスでも、ジャレコタイトルのプレイタイム実績で1位となっていました。
――海外ではピンボールが、我々が考える以上に人気なんですね。
吉川
こうして裏付けがふたつあるとなれば、出すしかないという話に自然とまとまりました。
上田
そうして取っかかりとして海外版も入れることにした『ピンボールクエスト』ですが、残りのジャレコタイトルはすべて海外版が出ているというわけでもないので、同じ取っかかりを続けることは難しかったんです。でも、せっかくなら引き続き海外のユーザーさんにも遊んでもらいたいと思いまして。
吉川
たとえば第2弾の『妖怪倶楽部』(1987年/ジャレコ)は、日本版しか発売されていないんです。
上田
こちらはエンディング以外はほとんどテキストがなく進行するので、海外の人も問題なく遊んでもらえると思うのですが、第3弾の『バイオ戦士DAN』(1987年/ジャレコ)は会話シーンがが多くて、日本語がわからないと楽しめません。そこで『ジャレコレ』で用意したのが、新機能の“字幕ガイド”です。
――ゲーム内のテキストをローカライズしていじるのではなく、字幕を置いたわけですね。
上田
日本語のセリフが流れるシーンの下に英語の字幕を置くことで、海外の人でも会話の意味がわかるようになったりと、こちらで設定した字幕をゲーム画面に重ねて設置できるようにしました。
――映画の字幕みたいなイメージですね。
上田
ほかにも『ピンボールクエスト』では、お店のアイテム名が英語で、しかも効果が書かれていないんですよ。
吉川
買って使ってもわからないですよね、あれ。
上田
その点、『ジャレコレ』版ではアイテムにカーソルを合わせると、そのアイテムの名前の読みかたや効果が字幕で表示されるようにしました。説明書などを見なくても、ゲームの中で情報が完結しているわけです。
吉川
そのうえで、もともとこのゲームにあった機能なのではないかと思えるくらい自然になっています。
上田
たとえば『妖怪倶楽部』でも、「このフラッシュってどんな効果なんだろう」とか、「このバクダンってなんだったっけ?」など、わからなかったり忘れていたりしても、説明字幕が出ます。選択言語を英語の設定にすれば、説明字幕も英語で表示されます。
『ピンボールクエスト』の、ショップでの一幕。見てのとおり、アイテムの効果が字幕で詳しく表示されている。
『妖怪倶楽部』の、アイテムの説明が表示された一幕。追加字幕で説明するという形式は、ゲームそのものに手を加える必要がなく、言語の変更にも対応しやすい。
――ありそうでなかった、とても助かるシステムだと思います。導入のきっかけについても教えていただけますか。
上田
弊社のエミュレーション開発エンジンが、『Memory Clip』シリーズの『へべれけ えんじょいえでそん』のタイミングから自社製の“亜空エンジン”というものになっていろいろとできることが増えました。そのときに、日本版と海外版のストーリーをそれぞれ英語と日本語で表示し比較できる“スペシャルスナップ”という新機能を入れたんです。それが好評だったため『ジャレコレ ファミコン編』でも活かそうと思いました。
――あと少し話は戻りますが、『ピンボールクエスト』については海外の実績などもあって第1弾に選ばれたのも納得なのですが、『妖怪倶楽部』と『バイオ戦士DAN』の選考理由についても伺えますか。
上田
まず、2タイトルとも探索要素があるゲームなので、難しいけれどプレイしがいがあり、そこに面白味を感じました。あとは季節が夏で連続リリースが7月から8月、9月あたりになるということで、夏と言えば妖怪じゃないですか。あと『バイオ戦士DAN』では夏の縁側で、浴衣姿で風鈴と団扇で涼むシーンがありますので、季節と絡めたプロモーションもしやすいなと。夏はとくにゲーム冒険心を掻き立てられる時期だと思っておりますので。
――ありましたね、あの宿屋での謎のカットシーン。
※画面は開発中のものです。
上田
あとは音楽ですね。『ピンボールクエスト』もオシャレな音楽になっていますが、この2タイトルは音楽がどちらもとてもよくて。とくに『バイオ戦士DAN』は増子司さん(※)が作曲担当ですよね。
※増子司:テクモやアトラスのゲーム作品で数々の楽曲を手掛け、現在はフリーで活動しているゲームミュージックコンポーザー。とくにアトラスでは『女神転生』シリーズの楽曲が有名。――まさかのアトラス開発タイトルですからね。同年に同社開発で増子さんが楽曲を制作した『デジタル・デビル物語 女神転生』(1987年/ナムコ)も発売されましたね。
上田
ゲームには音楽が重要と考えていまして、最初のラインアップで音楽面からもインパクトを出したかったのも選考理由のひとつです。あとは、やってみるとすごく難解なのですが、遊びやすい機能を追加したことで、自力でクリアーできるようになったときの感動が、その分すごく大きいと思えたんです。
吉川
そのあたりは、我々のほうが少し麻痺している可能性もありますよね。『妖怪倶楽部』と『バイオ戦士DAN』をなぜ入れたのかと訊かれて、逆にすごく新鮮に感じました。この2タイトルを入れなかったら、むしろシリーズとして成り立たないのではないかと判断しました。
上田
B級を集めた中でも、トップクラスですよね。
吉川
言ってみればグループのセンターです。『女神転生』と『バイオ戦士DAN』は、1987年ファミコンゲームの二大巨頭でしょう。
――すごい、語る目に迷いがない。
吉川
『女神転生』と『バイオ戦士DAN』は、どちらもアトラスからジャレコに持ち込まれたタイトルでしたからね。当時のジャレコが買ったのは『バイオ戦士DAN』だけだったんです。
――結局はあとでナムコが買ったと。なぜ『バイオ戦士DAN』だけ買ったんでしょうね。
吉川
当時の社長・金沢義秋氏が「ゲームはアクションだろう」という方針で、RPGを出そうとは思っていなかったんでしょうね。
上田
もし、そのとき『女神転生』のほうを選んでいたらと考えると、いろいろ想像も膨らみますね。
――派生作品の『ペルソナ』シリーズが、ジャレコから出ていた可能性もあるということですか。こうした歴史も含め、たしかにインパクト大ですね。
字幕以外にもある、原作のよさを損なわない工夫
ここからはインタビューの場で、『ピンボールクエスト』と『妖怪倶楽部』のプレイ画面を実際に見せてもらいながら、さらにシリーズの詳細を伺ってみた。
――おや、タイトル画面の曲は新曲なのですね。
上田
こちらの新規タイトル画面の楽曲は、弊社で数々のゲームサウンドを手掛けている松本大輔が担当しています。
新規タイトル画面に、ノリノリの新規アレンジ楽曲。ここだけ令和の空気が漂う。
――画面左右のスペースにも、新しいUIを追加していますね。
上田
そうですね。ピンボールクエストでは、画面左下の“00”と書いてあるUIの意味などが、説明書にも書かれていないんです。改めてこれが敵の体力値だと説明しないといけませんし、わりとスペースに余裕があったので、簡単なヒントなどといっしょに左に解説を入れています。
――右下に所持金の表示がわざわざあるのも気になりますが。
上田
これは、ピンボールクエスト専用の特別機能“ボール君のお財布事情”です。所持金(ゴールド)はボタンを押してメニューを出さないとわからなくて、それがすごく不便に感じたんです。このゲームは道中で買い物ができるのですが、所持金が見えないとゴールドを貯めにくいですよね。この機能によって、何を狙えば所持金がどれだけ増えるのかなど、いろいろとわかりやすくなっていると思います。
左右の追加UIのおかげで、説明書などを見る手間が省ける。所持金がメニューを開かないと表示されなかった点を改良しているあたりは、じつにかゆいところに手が届いている。
上田
こちらがその“闇ショップ”というお店なのですが、アイテムを購入しようとすると英語で書かれたアイテム名が出てくるだけで、効果がわからないんですよ。これだと買う気もそがれますよね、買い物はRPGの醍醐味なのに。そこで字幕で効果説明を入れ、買い物をしやすくしています。
吉川
テキストを無理やり日本語にしているハックROMなども出回っているのですが、弊社としてはオリジナルを大事にしたいので、このように字幕テロップでサポートするのが自然な形でいいのではと思っています。
――たしかに、中身をいじってしまうと当時の姿から損なわれるものも多いでしょうしね。字幕表示や左右のUIをオフにすれば、完全に当時の姿に戻せるのも利点に感じます。
上田
あとはショップで“盗む”というコマンドがあって、成功すればアイテムを奪えるんですよ。店に入る前にクイックセーブしておいて、高いアイテムが盗めるまでクイックロードをくり返せばステージが有利に進められたりします。
――発売当時では不可能だった遊びかたですね。
吉川
盗みの判定成功がどの時点で確定しているのか、店に入った時点で決まってしまっているのかなど、いろいろな部分を検証してみるのもおもしろいかと思います。
上田
ほかにも自己ベスト記録を自動記録するタイマー機能があります。『Memory Clip』シリーズに入れていたスピードランモードでは巻き戻しなどは使用不可でしたが、今回はゆるいタイムアタックを楽しんでもらいたいので、ガンガン機能を使うことができます。
アチーブメントもしっかり用意されているので、各種機能を駆使してやりこみを楽しむのもアリ。
吉川
B級アイドルですからね。あまりもったいぶってもよくない、基本手が届くアイドルであってほしいということで。
――手を伸ばすところがマニアックすぎる気がしますが。
上田
個人的にはいくら巻き戻しを使っても、タイム自体はそれほど早くなるわけでもないかなと。セーブ&ロードのほうは細かく活用すると、自分の理論値へ挑戦!などのTAS(※)プレイヤーみたいなプレイに納得いくまで挑戦できると思います。
※TAS:Tool-Assisted Speedrunの略。プログラムなどでの自動、あるいはプレイヤーによる手動で、ゲームを理論上もっとも効率的にプレイし、クリアーまでのタイム短縮を競うプレイシーンのこと。――広くTAS競技シーンで扱われているタイトルではないですから、自己ベストを極めるほうがタイムアタックでも大事でしょうね。
上田
そうですね。自己ベストならSNSにも気兼ねなく上げられるかと思います。
インタビューの場では、ここからは『妖怪倶楽部』のプレイ画面を見せていただいた。
上田
こちらの『妖怪倶楽部』の場合、主人公の“あきら”が成長すると変化する攻撃などもわかりやすく表示されています。ほかに、アイテムについても、選択すると字幕でその名前と効果、効果時間などがしっかり表示されます。
――なるほど。フラッシュって15秒間も効果が続くものだったんですねぇ。
上田
フラッシュについては画面の点滅がめちゃくちゃまぶしかったので、光の点滅を抑えました。かなり入手機会が多くて15秒間も敵の動きを止められるのに、説明のなさと点滅の激しさで誰も使っていないフシがあったので、なんとかして使ってほしいなと考えた結果です。
――経験値の表示も、本来の画面のゲージのほかに追加UIで用意されていますね。
上田
一定の数値が溜まらないとゲージが伸びないようになっているので、改めて数値で可視化したんです。赤い経験値アイテムひとつで経験値が1溜まる、というわけではなくて、敵次第で幅があるんです。
――なるほど。これならつぎの段階まであと経験値がいくつ必要か、わかりやすくなりますね。
上田
それと内部に連射機能を導入しましたので、攻撃のために連射をするのがたいへんだった部分も改善しました。
――しかしあくまで、ゲームの中身自体はそのままだということですね。天井に頭を擦り付けても止まらない、ふわっとしたジャンプも健在ですね。
上田
扉に入ろうとしても上下にずれて入りづらかったりするのも、操作感の特徴ですよね。
吉川
それこそ、そのあたりを触ってしまうと『妖怪倶楽部』ではなくなってしまいますからね。
上田
あとはボスの名前や体力についても、画面右下にゲージを表示しています。
――たしかに、もとのゲームではなかったですね。ただでさえ固いから、いつ倒せるのかまったくわからなかった印象があります。
上田
そこで当時あきらめてしまった人も多かったと思うんですよ。しかも主人公の攻撃はまとめて弾を連射しているように見えて、じつは1発目が当たると一定時間ボスが無敵状態になっているみたいなんです。
――え、そうだったんですか。3発まとめて当たっているように見えていましたが、あれ1発しか当たっていなかったのか……。
上田
こうして敵体力の目安があれば、あと何発で倒せるという点がモチベーションになるのではないかと思います。
ボスの体力が見える状態だと、難易度の印象ががらりと変わる。
上田
そうしてプレイモチベーションが上がることで、いままで公表されていなかった裏技も見つけてくれる人が出てくるのではとも考えています。
――まさかの、37年越しの新発見があり得ると。
上田
今回の開発中にも、ある条件が揃うと効果音が流れて、経験値やパワーが最大になるという現象が確認できたのですが、その条件についても、いろいろな機能を追加したおかげで調べることができました。マスターアップ直前に、フラッシュの点滅についてチェックしていたときだったんですけどね。
――軽く見た感じ、ネットにも条件の詳細は出回っていませんね。すごい発見じゃないですか。
上田
機能追加で遊びやすくしていくことで、ネットでも知られていないまた見ぬ裏技をユーザーさんが見つけていってくれるのではないかという証拠になりましたね。いつかこの現象の条件についても、紹介できればと思います。
――ほかにも注目してほしい部分はありますか。
上田
タイトル画面で聴ける新規アレンジ曲がかなりノリノリなので、開発チームのエネルギーが追加された新しいタイトルになったことが曲を聴くだけでも体感してもらえるかと思います。ちなみにゲーム起動時にタイトルロゴといっしょに流れる「ジャレコレ」というボイスも、私たち開発チームから「このタイトルならもっとこんな感じで」と指示を受けながら、松本さんが毎作収録していますよ。
――そんなところにも、隠れたこだわりが。
上田
スーパーファミコンのジャレコ作品の起動時には、ロゴのところにボイスが入っていましたからね。『ジャレコレ』でもぜひ入れたかったんです。それから、ゲーム本編をクリアするとちょっとしたおまけ要素がありますので、お楽しみに。
『ジャレコレ』の今後、気になる展望について訊く
――『ジャレコレ』の今後の展望を教えてください。
吉川
『ジャレコレ』は今後、ライフワークの一環にしたいと考えています。これからずっと続くのではないかと。
――すると、今回の10本+αで終わるものではないと。
吉川
そもそも『ファミコン編』と銘打っていますからね。今後、別の編もあり得ると思います。
――まさかのゲームボーイ編や、モバイルゲーム編なども期待していいのでしょうか。
上田
ジャレコのモバイルゲームは、ジー・モードさんから出ていますね。アーケードゲームについては、ハムスターさんが復刻してくれています。
吉川
『ジャレコレ』で扱うB級タイトルは、どちらかと言えばそれら以外のハードのものが中心になっていくと思います。ファミコンやゲームボーイ、ディスクシステムあたりだけでも、1年間は過ぎていきそうですね。
――ペース的には、今後どれくらいの間隔でシリーズタイトルをリリースしていく予定でしょうか。
上田
タイトル次第ですが、目標はだいたい月イチくらいのペースでリリースしていければと考えています。今回の第1弾と第2弾のように、同じ月に2タイトルが発売されることもあるかもしれません。
――あと、英語字幕なども用意されているあたりから、海外市場も強く意識されているように見受けられますが。
吉川
そうですね、海外でも弊社パブリッシングで発売となります。
上田
『へべれけ えんじょいえでそん』では、日本語版のゲーム本編を進めていくと海外版では同じイベントシーンでどんな会話をしていたのかを見ることができる“スペシャルスナップ”機能を追加しまして、それが海外でもかなり好評だったんですよ。そこも本シリーズでは踏まえています。
吉川
イベントシーンのセリフの内容もですけど、グラフィックも日本版と海外版でかなり違ったんですよね。
上田
それを冒険しながら比較して見ることができたら、かなりおもしろいのではないかというのが追加のきっかけでした。『ジャレコレ』でも同じように、日本語や英語の字幕で両方のバージョンを楽しめると思います。
吉川
最近は海外のパブリッシャーさんも含めて復刻タイトルを出しているところは多いですが、1000円以下のゲームでここまでいろいろと追加しているのは弊社だけだと思っています。
――将来、RPGなどを出すことになると、字幕のテキスト量がえらいことになりそうですね。
上田
ジャレコタイトルですと、あまりRPGはないので引き続きアクション主体になっていくとは思います。もしやることになるとなったらテキスト量でいちばん怖いのは、『エスパ冒険隊 魔王の砦』(1987年/ジャレコ)でしょうか。
――バリバリのアクションRPGですからね。そのあたりも含め今後のラインアップが気になるところなのですが、夏をイメージしたという話があったということは……。
上田
今後ももちろん、そのあたりはあると思います。マジックの日とか、ピザの日とかありますからね。
吉川
サルの日とかもね。いや、これは季節的にズレてしまうかな。
――めちゃくちゃ特定しやすい日が出てきましたが、それも季節感を感じさせる今後の候補の一環ということですね。そうして続いていって、最終的にはジャレコレ48が結成されるかもしれないと。
上田
大量にシリーズ化していくことで、ひとつひとつでは目立てないタイトルでも、どれかひとつでも興味を惹かれるタイトルがあれば、そこからジャレコ作品全体に興味を持ってもらえるようにも意識しています。ナンバリングや、楽曲がアレンジされた新規タイトル画面がそれに当たりますね。
――いろいろと施策もありますし、海外の反応も今後気になるところですね。
上田
これで海外の人がどれくらい遊んでくれるかという、試行の側面もありますね。海外のレトロゲームユーザー層がどれくらいいるのかなど、新しいデータが浮き彫りになるかもしれません。
――そういった意味でも、第1弾が『ピンボールクエスト』というのはベストチョイスなわけですね。
上田
最初は「なんで?」と思うラインアップかもしれませんが、その「なんで?」がこちらとしてはもう、「やった!」と思う部分でもあります。そこで興味を持って、サイトなどを見に来てくださるとうれしいですね。
吉川
うちって出すものすべて「なんで?」って言われますけどね。
上田
それはもう、『星をみるひと』のころから言われ続けていますね。
――あと、販売金額は990円で統一とのことですが、こちらにもこだわりなどはあるのでしょうか。
吉川
2in1のタイトルと1タイトルのみのものがあり、最初は価格差をつけようかとも思いましたが、わかりやすさ重視で統一することにしました。古いタイトルですし、高価格もつけづらいという、ラーメン屋みたいな悩みからいきついた価格となります。
――いろいろと機能も付いているところからちょっと強気になりつつも、1000円は超えないといった塩梅ですかね。本当にラーメン屋じゃないですか。
上田
ゲームだと、1000円以下ならいったん買っておくか、みたいな感覚はありますよね。
――なるほど、いろいろと納得させていただきました。ではそろそろ最後に、読者の皆さんへ今後の抱負ヤメッセージなどをいただけますか。
上田
『ジャレコレ』では難易度が高い、とっつきにくいなどの理由で過去にジャレコ作品をクリアーできなかった人でも、道中どうやったら作品を楽しんでもらいつつエンディングまで行ってもらえるかを研究して作っております。救済機能もあるので、たとえば『ピンボールクエスト』なら、店での“盗む”を成功させてみたかったらクイックセーブ機能を駆使してとことん研究できます。『バイオ戦士DAN』で押し相撲で負けた場合どうなるかを確かめる、といったことも巻き戻しもあるので気軽に試せます。
――ほぼ一度きりの機会でやり直しが面倒ですから、いままでは冒険しづらかった部分ですね。
上田
そうした脇道に逸れたことを試してみるのも楽しみのひとつになりますし、敵が固くて倒せないなど、昔のタイトルならではの部分に寄り添った機能も今後のタイトルでご用意していきます。ぜひ、いままでプレイしたことがある方にも、これからプレイする方にも、『ジャレコレ』の先駆者となって楽しんでいただければと思います。
――裏技やスーパープレイの動画などがアップされるのが楽しみですね。
吉川
別のところでもお話ししたことがありますが、ジャレコのIPを預かったからには持っているだけでは何の価値もありませんし、保存するだけなら保存協会さんに任せればいいと思っています。これらのIPタイトルを“遊べる”ゲームとして、世にどんどん出していくのは商業的な側面だけでなく、自分のテーマという側面も持っている事業と考えております。ぜひ『ジャレコレ』で、ジャレコ作品を多くの皆さんに遊んでみていただきたいです。
上田
“頭を科学する”ジャレコという、当時のキャッチコピーが令和に蘇るときが来たわけですね。
吉川
そうですね。いま一度、頭を科学してみるのもいいのではないでしょうか。とくに40代50代の皆さん!
――そういうタイトルがラインアップされていくのだろうなあと、重ねて確信が持てました。
吉川
ほかの会社さんにも、ぜひ続いてほしいです。相乗効果で、ほかのメーカーの知られざる名作がどんどん世に出てほしいところです。各社でやらないようでしたら、ぜひうちに権利を貸してやらせてください。