『サイレントヒルf』花と内臓が同居するJホラー作品誕生秘話。「美とおぞましさのコントラストを体感して」ネタバレありのインタビュー。岡本基シリーズPに訊く
 シリーズ最新作にして、新たな挑戦でもある『SILENT HILL f』(サイレントヒルf)。

 暗く艶やかな本作の唯一無二の世界をまとめ上げて現出させた岡本基シリーズプロデューサーに、ネタバレ的な内容まで含め、そのコンセプトをじっくり訊いた。

 なお、本インタビューにはゲームに関するのネタバレが含まれていますのでご注意ください。
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岡本基(おかもと もとい)

KONAMI所属、『サイレントヒル』シリーズプロデューサー。現在は、“和”の世界観の『SILENT HILL f』をはじめとする新作群や、映画化など幅広い展開でシリーズをリブート。

リブートと回帰

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――ジャパニーズホラー(Jホラー)のエッセンスが詰まった『サイレントヒル』が遊べるとは思いもよりませんでした。

岡本
 まさに『サイレントヒル』シリーズは、日本で生まれたサイコロジカルなホラーゲームなので、Jホラーと西洋ホラー、両方のエッセンスが入っているシリーズだったんですよね。舞台や外見は西洋ホラーだけれど、中身の部分にはJホラー的なものが存在していた。

 でも、それがシリーズ化を続けていく中で、気付くとかなりJホラー的エッセンスが失われていったというか……。

――それを『サイレントヒルf』で、もう一度Jホラーへと戻したと。

岡本
 ええ。このままでは懐かしいだけのマンネリになってしまうので、リブートするうえで、「いっそJホラーに振り切って作ってみたらどうだろう」というような発想が始まりだったんですよね。だからこそ、新しい和の血を入れることへ挑戦したという。

――日本が舞台だと発表されたときは衝撃でした。

岡本
 やはり、外伝的な位置づけとしてスタートしたところがあるので、外伝であればそれぐらい“やんちゃなこと”をしたほうがいいかなと。それに『f』には、自分たちで作ったもので、プレイヤーを新しく広げたいという想いも強くありました。だからこそ、舞台を思い切って変更しようと。

――新しさを感じたといえば、『f』に先行して2024年にプレイステーション5向けに無料配信された『SILENT HILL: The Short Message』のときから、ドイツの団地を舞台に若者の心のヘビーなテーマを扱っていて、そういう矜持のようなものを感じていました。

岡本
 ありがたいです。ふつうに販売してもよかったのですが、社内で『2』、『f』、『Silent Hill: Townfall』といった一連のリブート施策の一環として無料配信する計画を立てたんですよね。こういったプランをちゃんと理解してもらえたのでよかったです……じつのところ、海外よりも本社のほうにこそ「サイレントヒルの街を舞台にしなくて大丈夫?」という声は意外にも多くて。

 やはりみんなシリーズへの思い入れが強いんですよね。なので、ある程度できあがるまでは、『f』が日本の架空の町である戎ヶ丘が舞台で、しかも1960年代の昭和なんだという点は、かなり不安視されていた気がします(笑)。

――そうだったんですね。その一方で、再び傑作としてよみがえったリメイク版『2』に続き、新たに初代作『SILENT HILL』のリメイクも始動させるという、ファンにとって驚きと喜びの展開です。

岡本
 よかったです。いま動かしているリメイク版は、もちろん『サイレントヒル』の伝統に敬意を払いながらリブートを目指していますが、それ以外の外伝的な新作群に関しては、積極的にサイレントヒル以外の土地を舞台にしようとしています。当社の海外支社からも、「今度は自分のところの街を舞台にしてほしい」といったリクエストがあったりするくらいで(笑)。

 アジアンホラーってエグ味の強い残酷表現も特徴かなと思うのですが、『f』にはそういった部分の演出でも、日本のスタッフと開発会社のNeoBardsさんたちとでかなり土着色の濃いディスカッションができたように思います。彼らはすばらしくて、相当日本の昭和について調べて資料を作ってくれて、時代背景や当時の様子の表現にはかなりの力を入れているんですよ。

 そしてじつはCGをお願いした白組さんも、日本の昭和レトロな時代に関する資料や知識量がとても深くて。白組さんのおかげで当時の洗濯機はこうだったとか、自動車はこんなだった、などの解像度はさらに高まりましたね。逆に参考にさせてもらいました。

――白組といえば、山崎貴監督の映画作品なども手掛けられていますよね。プレイした際、1960年代という時代が想像以上に古めかしい光景だったのかと気付かされました。

岡本
 意外に思うほどですよね。ほかにも白組さんの影響は大きくて、町に咲き誇る花の分量などのイメージにいたる部分まで、白組さんの作られるCGカットシーンに影響を受けてゲーム中の演出やアートを調整した点も多いくらいです。

――なるほど。そして新たなスタッフといえば竜騎士07さんやイラストレーターのkeraさん、闇の社殿など裏世界のサウンドを担当された稲毛謙介さんのご参加も驚きました。

岡本
 『戦国無双』などを手掛けられた稲毛さんには、和の楽曲として新しい風を吹き込んでもらおうと、ご依頼させていただきましたが、社殿で雅楽の音が鳴るのが怖く感じられるようなすばらしい音を作ってくださって。

――そうですよね。だんだんと雅楽が聞こえてくるのが、こんなにもプレッシャーになるとは(笑)。そして表世界の山岡晃さんのサウンドも、名状しがたい気配が濃密になるノイズのような楽曲や、歌が忘れられません。

岡本
 山岡さんはもはや、『サイレントヒル』の音そのものですよね。そんな中、じつは私はかなり頻繁に『サイレントヒル』がお好きなクリエイターさんをSNSなどでチェックしていまして(笑)。keraさんはその中のおひとりで、『サイレントヒルf』にぴったりじゃないかと感じてオファーさせていただいたんです。ちなみにコンセプトアーティストの伊藤暢達さんにも相談した際に、何か来るものがあったのか「keraさんがいちばんいいんではないか」とアドバイスもいただけて、もうこの方しかいないと。

――伊藤さんからも推薦があったなんて。しかし魅力的かつサイレントヒルらしさと新しさがあり、シリーズファンだというのも納得です。

岡本
 ありがたいですよ。keraさんもかなり入れ込んでくださって、今回のために3Dのキャラクターデザインを始められたそうです。3面図を描くのが、なかなかたいへんだったみたいなんですよね。

――キャラクターの存在感はもとより、バケモノも立体的な造形やポーズの異形さも際立っていました。本作独自のバケモノとの戦いも注目を集めていますが、今回はまるで雛子の抑圧された怒りや暴力がシステム面からも表現されているかのようですよね。

岡本
 シリーズの主役の装備と言えば鉄パイプなので(笑)。

 時代背景も考えると近接武器が主体になりますし、おっしゃる通り雛子の内面の激しい攻撃性を描かなくてはいけない。ちょうどこのあたりについても、NeoBardsのディレクターさんがアクション好きで、現代のアクション性にもマッチするコンバットシステムを構築してくださったんです。3Dモデリングも優秀でkeraさんのイラストの雰囲気を高い精度で再現されたと思います。そんなコンバットは、従来のシリーズ作品の感覚が好みという方は、難易度設定を“物語重視”でプレイしていただくとちょうどいいかもしれません。

花と内臓

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岡本
 バケモノのデザインに関しても、僕とkeraさんと竜騎士07先生とNeoBardsさんで隔週のミーティングをして、デザインの方向性や世界観を形にしていきました。でもシリーズ作品においては、とくにクリーチャーは独特じゃないですか。

――そうですよね。精神面を表現した“怪物”であるかのような佇まいです。

岡本
 そうなんです。人形が登場すると、そこには人形であることの意味があります。なので、そういったことを山のように注文されるわけですよ(笑)。

 それに応えていただけると同時に、keraさんは世界観の部分にまで、提案をしてくださって。あの花と内臓が並ぶ光景は、プロデューサーとしても押し出したかった“美しいがゆえに、おぞましい。”というテーマをビジュアルで表している、『f』の強烈なひとつのアイコンなんですよね。さきほどのアジアンホラーには残酷なエグさがあるという部分にもつながりますが、“おぞましさ”をどう表現するのかという点でも、この美とむごさの対比が重要でした。keraさんからはほかにも“顔が削げる”というアイデアが出てきて。これはすばらしいインパクトかつおぞましさがある、ということで採用させていただきました。そういうセンスがkeraさんはとても鋭い方で。

――あのシーンは衝撃的でしたが、“顔=面”というモチーフも、さまざまな見立てやメタファーになりえますよね。美しい顔も削がれるとおぞましい断面図が覗くような。

岡本
 まさにそうなんです。ビジュアルからも世界観やテーマがにじむからこそ、目にするプレイヤーはきっとさまざまなことを感じて、自分なりの解釈も組み立てられる。

美しさとおぞましさ、虚と実

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――美しさとおぞましさといえば、鏡像のように対照的な虚実が混濁した世界観も『f』の魅力でした。とくに『f』についてはサイコロジカルホラー分と、オカルトホラー的な要素が半々だという感覚だそうですね。

岡本
 ええ。ちょうど山岡さんもおっしゃっていましたが、海外の人からすると『f』で苦心して再現した昭和初期の舞台は、ある種のファンタジーそのものに見えてしまうかもしれないと。だけれど、それこそがシリーズにとっては新しい異界として描けて受け入れられているのではないかと。

――なるほど。リアルを追求した果てに、異界が現出すると。

岡本
 『2』はサイコロジカルホラー100%なので、ジェイムスの心理や認知が重要になりますが、『f』を遊んでいただくとわかるように、本作は雛子のトラウマのような精神の反映なのか、それとも何か超常的な存在の影響なのか? といったことが不鮮明にちょうど半々で混ざっているかのような。そのあたりをはっきり言ってしまうのではなく、あえてそこは“言わない”。竜騎士07先生のストーリーのこうした塩梅が、まさしくサイレントヒル的ですばらしいのですが、きっとご自身の従来の作品だったなら、もう少し明かしていたかもしれないんですけど……今回はプレイヤーに委ねるような書きかたをされているように思いました。

――1周目のエンディングがかなりの衝撃と勢いなので、その興奮を抱えたまま、2周目で真相を解き明かしたい気持ちになります。

岡本
 よかったです。1周目クリアー後には、残るエンディングを見るための条件をすべて公開することにしたんですよね。ここはかなり議論したのですが、最終的にそうしようと。あのアイテムを使わなかったらどうなるんだろう? といったプレイヤーの疑問を2周目で確かめたくなってほしいんです。さすがは竜騎士07先生のストーリーといった吸引力だと思います。それをサイレントヒルに落とし込むべく工夫したので。

――周回での変化や、シナリオの解釈も変わる情報などもあり、好奇心がうずきます。とくに正反対の概念が交じり合った中から、プレイヤーが虚実を見極めていくかのような体験が印象的でしたので、すごく腑に落ちて。

岡本
 『f』はかなりチャレンジングなタイトルだったものの、コンセプトに沿った提案というのでしょうか……きれいなんだけれど、グロい。内臓と花が同居する感覚を、すばらしいスタッフのおかげで、ゲーム全編を貫いてブレずに描き切れたのかなと思います。内臓と花をいっしょに見ることなんてまずないですよね(笑)。非常に挑戦的な作品ですが、ぜひこのコントラストを体感していただきたいです。
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