買い付けから販売までワンストップソリューションで、日本のゲームを世界に展開する。セガやアトラスで活躍してきた鶴見尚也氏が“最後の仕事”として意気込むU&Iエンターテイメントの事業とは
 U&Iエンターテイメントという企業をご存知だろうか。2006年の設立以降、いまも創業者本人が経営しているゲームのディストリビューターで、北米や欧州において、数多くのパブリッシャーと契約を結び、パッケージゲームの流通を世界規模で担っている企業だ。ウォルマートやベスト・バイ、Amazonといった大手の販売業者とパートナー関係を構築していることが強みで、2022年と2023年の世界売上高は5億ドルを超えている。

 このU&Iエンターテイメントが、日本支社を設立し、本格的に日本での展開を開始することとなった。第1弾タイトルとして、パッケージ版『
アラン ウェイク II デラックスエディション』を、2024年10月22日に発売する。また、『トゥームレイダー I・II・III リマスター』のパッケージ版も展開する予定であるという。
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 U&Iエンターテイメントが日本に進出することで、国内市場と海外市場に、どのような影響があるのか? 同社のキーマンに、同社の戦略や展望をうかがった。

シェーン・ドッドソン氏

U&Iエンターテイメント ファウンダー(創業者)&プレジデント。U&Iエンターテイメントの創業者のひとり。U&I設立前から、ヨーロッパでのゲームパブリッシングに携わっており、業界経験は20年以上に及ぶ。

シャーロット・ナイト氏

U&Iエンターテイメント EMEA販売・流通担当 シニア バイス プレジデント。EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)での事業責任者。シェーン氏と同様に、20年以上の業界経験を持ち、長年のノウハウを活かして流通・販売に携わる。

鶴見尚也氏(つるみ なおや)

U&Iエンターテイメントジャパン代表取締役。1992年にセガ・エンタープライゼス(当時)に入社。以降、セガやアトラスの代表取締役を歴任。この度U&Iエンターテイメントジャパンの代表取締役に就任した。

パッケージゲーム販売の規模縮小が、新たなビジネスチャンスを生んだ


――まずは、U&Iエンターテイメントがどのような事業を行っているのかを教えてください。

鶴見
 まずは、ゲームの流通の現状についてお話しさせてください。近年、とくにアメリカやヨーロッパでは、コロナ禍もあってダウンロード版の普及が進み、ゲームのパッケージ販売に関しては、まさに地殻変動が起こったんです。具体的に何が起こったかというと、販売店にある、ゲームソフトの棚がどんどんどんどん狭くなっていった。そうして、販売店がゲーム販売用の担当者をつけることもなくなったのです。

――販売店にとって、専門の担当者を用意するほどのビジネス規模ではなくなった、と。

鶴見
 そして販売店がどうしたかというと、棚の管理をすべて、外の企業……U&Iに任せるようになったんです。たとえばウォルマートでは、ゲームの買い付けから棚に並べるまでの工程を、すべてU&Iが行っています。これをアグリゲーションと言いますが、U&Iはこの“一社で一連の工程を担う”という流れを、ヨーロッパにおいても導入していきました。

シェーン
 パッケージゲーム販売の規模が縮小したことが、U&Iにとっては新しいビジネスチャンスになったのです。大手のパブリッシャーは、デジタル販売に注力する一方で、パッケージ販売については我々に委ねてくれました。

シャーロット
 とくにNintendo Switchのユーザーはファミリー層が多いですが、ファミリー層はデジタル版よりもパッケージ版を好みます。それも私たちにはプラスの要因でした。

――ですが、市場が変化してチャンスが生まれたのは、ほかの企業にとっても同じだと思います。その中でも、ウォルマートのような大手チェーンがU&Iを選んだ理由は何でしょうか。

シェーン
 私たちには、長年蓄積してきたデータやノウハウがあります。それらの知見を最新ゲームの数々に活かせるのが強みです。また、我々は特定のゲームメーカーや団体によらない、独立した企業です。だからこそ、それぞれのゲームに合った提案ができるのです。

鶴見
 私がアメリカにいた20年前にも、ウォルマートのような大手販売店と直接取引ができるパブリッシャーは、大手に限られていました。それ以外の中小のメーカーは、ウォルマートが指定したディストリビューターを介する必要があったんですね。そして、先ほどお話しした地殻変動によって、大手パブリッシャーであっても、直接ソフトを卸すことが難しくなった。結果、ハードプラットフォーマーを除く数多くの企業のゲームが、U&Iを経由する仕組みに変わったんです。

――そんなU&Iエンターテイメントが、この度、日本市場への進出を決めた理由は?

シェーン
 私たちは欧米の著名タイトルの開発元と仕事をしているのですが、以前、彼らから「日本での展開もお願いできないか?」とリクエストがあったのです。それを受けて、日本でも流通を担当しようと試みたものの、うまくいかなかったという過去があります。それでも日本での展開を模索していたところ、鶴見さんと出会うことができました。

鶴見
 私はかつてセガにいましたが、そのころ、さまざまな海外パブリッシャーが日本にやってきては、思い通りにいかずに撤退していくのを見ていました。逆に、日本のパブリッシャーが欧米への進出を試みて、痛い目にあうのも見ています。コストがかかるのに、なかなかうまくいかない。それがパッケージゲームのディストリビューションなのです。そういった状況の中で、U&Iは、「流通における面倒なことは自分たちが引き受けるので、ゲーム開発やデジタル販売に注力してください」と各社に提案しています。最初にU&Iから話を聞いたとき、「なるほど、これはおもしろいビジネスだな」と思いました。

――長年、ゲーム業界を見てきたからこそ、U&Iの特徴や強みもわかったと。

鶴見
 そんなU&Iが、地球全体の中で、まだカバーできていない地域が日本なのです。これで、日本もカバーできれば、グローバルでのワンストップソリューションができあがる。それは欧米のパブリッシャーに限らず、日本のパブリッシャーや、インディーゲームの開発者にとってもプラスになると思いましたので、日本での代表を引き受けることを決めました。まだ他国で展開できていない日本のゲームを、ワンストップソリューションで世界に売っていく。それができれば、日本のゲーム業界にとって非常にいいことだと思っています。

日本のゲームが世界に打って出る。その足がかりとなるために


――今後、U&Iエンターテイメントジャパンが具体的にどんな取り組みをしていくのかをお聞かせください。

鶴見
 まず、2タイトルのパッケージ版を展開する予定です。『アラン ウェイク II デラックスエディション』『トゥームレイダー I・II・III リマスター』です。すでにダウンロード版は出ているタイトルですが、まだプレイしていない方も多いと思います。SNSなどでは「どうしてパッケージ版が出ていないんだ」という声もありましたので、きっと喜んでいただけると思います。本当は、この2タイトルのパッケージ版はグローバルで同時発売にしたかったのですが、残念ながら日本が少し遅れてしまうことになりました。今後はできるかぎり、同発を目指していきます。

――日本においては、これらのパッケージ版のパブリッシングもU&Iが担うのですか?

鶴見
 関係各所との契約上はパブリッシャーになっていますが、パブリッシャーとしてアピールしていくつもりはありません。共同パブリッシャーのようなものだと思っていただければ。たとえば今後、日本のゲームを海外で展開する際も、基本的には我々ではなく発売・開発元の皆さんの名前を表に出していきます。

――この日本を拠点に、日本以外のアジア地域に進出していく予定は?

鶴見
 近年、シンガポールやタイ、マレーシアといった東南アジアの市場は非常に大きくなっています。我々としても、「U&Iエンターテイメントジャパンは、日本の仕事しかしない」というのは、企業としてあまり魅力がないと思いますので、アジアへの進出は真剣に考えています。一歩ずつ着実に進めていければと。

――シェーンさんとシャーロットさんは、U&Iエンターテイメントジャパンの設立を機に、今後、事業にどのように取り組みたいですか?

シェーン
 第一に、海外で展開しているサービスと同じものを、日本でもしっかり提供することです。日本の市場は、ゲーム業界に対して大きな影響力をもっている市場です。日本市場への理解を深めて、より充実したサービスを展開できればと思います。

シャーロット
 日本市場での可能性にとてもワクワクしていますし、日本でビジネスができることを光栄に思います。日本において、豊富な経験を持っている鶴見さんといっしょに、事業を拡大していきたいですね。

――最後に、鶴見さんの展望や抱負をお聞かせください。

鶴見
 日本のゲームが、世界に対して持つ影響力はかなりのものです。私もセガの時代に、それを身をもって体験していました。しかし残念ながらいまは、世界のゲームに押されてしまっている。これを盛り返すことができれば、私を育ててくれたゲーム業界への恩返しになると思って、U&Iの事業に取り組むことにしたんです。U&Iが、日本のゲームが世界に出ていくための足がかりになる。この方針には、シェーンやシャーロットも合意しています。

――海外企業が日本に進出するとなると、“日本は受け入れる側である”かのようなイメージを持ってしまいますが、そうではなくて、世界に打って出るための日本支社ということですね。

鶴見
 日本のメーカーが世界で強くなる。その手助けをしたい。私ももう長く働いていますので、いよいよこれが最後の仕事になると思います。自分が経験したことを、ゲーム業界の若い人々に還元していきたいと思っています。
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