『VA-11 Hall-A』クリエイターがエイプリルフールに公開した謎のビジュアルノベル『Worms』は、一見不気味。でも中身は心に火を灯す情熱の物語だった【レビュー】

『VA-11 Hall-A』クリエイターがエイプリルフールに公開した謎のビジュアルノベル『Worms』は、一見不気味。でも中身は心に火を灯す情熱の物語だった【レビュー】
 『Worms』は奇妙なビジュアルノベルだ。

 『
VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action(以下、VA-11 Hall-A)』で知られるSukeban Gamesが、2026年4月1日に『Worms』と題する作品をitch.io上に公開した。
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 発表に際し、公式Xアカウントのポストには、真夜中に撮られたらしき鉄塔の写真と、ゲームのダウンロードページへのリンク、そして#wormsというハッシュタグしか付けられていない。

 Sukeban Gamesはこれ以前にも、エイプリルフールに合わせてitch.ioで無料ゲームを公開したことはあった。有名なところだと、2018年に公開された『
VA-11 Hall-A』の学園パロディゲーム『VA-11 Hall-A KIDS!』が挙げられる。

 過去の例を見れば、今年の作品もパロディ色のある作品かと思われたが、告知にはリンク先がゲームの配布ページだということすら書かれていない。そしてストアページにも、これがどういった内容なのか一切説明がない。わかるのはただ、『Worms』……つまり、“虫”というタイトルだけだ。これも、どことなく怪奇もののような不気味さを感じさせる。

 本作には現在、日本語翻訳が存在しない。そのためゲームをダウンロードした私は、何もかもわからないまま、辞書を片手に少しずつ読み解くことになった。そして作品を読み終えて得たものは、不気味な印象とは程遠い、ひとりのクリエイターが込めた熱い感情と共感を呼ぶメッセージだった。

 なお、この先には本作のネタバレと、制作者が本作を最後までプレイした読者に向けて公開した解説記事の内容が含まれる。その点に留意して読み進めていただきたい。

『VA-11 Hall-A』のクリエイターによる、大阪を舞台にした奇妙な物語

 本作は短編作品で、プレイ時間はそれほど長くない。初めてプレイした際は、わからない単語を調べながら英文を読み進める必要があったため、それなりに時間がかかった。英語をすらすら読めるのであれば、20分ほどで最後までいけるだろう。感覚的には短編小説に近い。

 また、ゲームの作りとしては非常にシンプル。実写の背景の上に流れていく文章を、ボタンを押して読み進めていくだけのビジュアルノベルだ。いくつかの演出はあるが、キャラクターの立ち絵や選択肢も存在しない。制作者自身が後に「余計な装飾を削ぎ落とし、このデザインが機能していた理由を見つめ直す」と語っている通り、初期のサウンドノベルに回帰したかのような作風だ。
『VA-11 Hall-A』クリエイターがエイプリルフールに公開した謎のビジュアルノベル『Worms』は、一見不気味。でも中身は心に火を灯す情熱の物語だった【レビュー】

 ストーリーは、主人公が大阪旅行に来たところから始まる。そしてある夜、飲み歩いていたところで道に迷い、見知らぬ公園にたどり着く。その公園では夜遅くであるにもかかわらず、SNSで見かけるような着飾った少女が猛烈な勢いでブランコを漕いでいた。彼女の奇妙な情熱に惹かれ、その姿を見ているうちに目が合ってしまった主人公は、彼女と少しだけ言葉を交わす。すると彼女は、ブランコを漕いでいたのは「虫を寄せ付けないため」だと、奇妙なことを口にする。

 翌日の夜も、主人公はべつの公園の遊具で熱心に遊んでいる彼女を見つけ、不審者と思われないか不安がりながらも、“虫”とは何かを彼女に聞く。彼女が言うには「人はみんな自分の体の中にいる“虫”に食べられるのを待つ餌であり、“虫”は通常であれば人が死んだときに現れるものだが、ときおり死を待たずに出てくることもある」という。彼女はそうならないよう、“火”に薪をくべ続け、“虫”を寄せ付けないようにしているのだと語る。

 3日目、今度は公園の砂場で彼女を見つける。

 酔いつぶれていた主人公に、彼女は「そうして“火”を消していると、いずれ“虫”にやられる」と言い、哀れみの目を向ける。そして、主人公はこの日初めて、彼女の片足が義足であることに気付く。彼女は以前、肉体的にも精神的にも“ひどい場所”で暮らしており、そこで負った怪我が化膿。いくら“火”で追い払っても“虫”が湧いてくるため、彼女は足を切断しなければならなかったのだ。
『VA-11 Hall-A』クリエイターがエイプリルフールに公開した謎のビジュアルノベル『Worms』は、一見不気味。でも中身は心に火を灯す情熱の物語だった【レビュー】

 大切な足を奪われ、二度と“虫”にはやられないと誓った彼女は、それ以来近づいてくる“虫”を燃やしつくすため、自分の“火”に薪をくべ続けているのだと言う。いずれ“火”が消えるかもしれないし、薪が見つからない日が来るかもしれない。それでも、自分の心が冷えてしまうのを待っている“虫”たちに向けた「抵抗しないままやられてなるものか」という彼女の言葉には、奇妙な勢いがある。彼女は主人公にも同じようにするよう忠告すると、また自分の遊びの世界へと戻っていってしまう。

 つぎの日、東京に帰った主人公は、彼女の不可解な振る舞いを振り返り、その言葉には本当に炎のような熱気があったことを思い返す。そして、彼女との交流を通して、自分の中から失われてしまったものがあると自覚した主人公が、自分にもまだ“火”が残っているのか、いずれ“虫”が自分を捕えるのかという疑問を抱えたところで、物語は終わる。

“戦闘記録”から感じるクリエイターの“火”

 少し抽象的だが、この物語が示そうとしているものはつかめるのではないだろうか。

 誰しも、自分の中に“火”が残っているのか不安になることがある。どれだけ熱意を傾けたものであっても、いつの間にかそこに昔ほどの情熱を傾けられなくなること、あるいはその情熱がまったく消えてしまうことは、多くの人が経験しているのではないだろうか。だが、火に薪をくべずにいれば、やがてその火は完全に消え、虫が湧いてしまう。

 だから、自分の“火”を絶やさないためには動き続けるしかない。連日連夜、公園の遊具で遊ぶことに情熱を注ぐ姿は、意味がないように見えるかもしれない。だが、自分の中の火が失われた際には、それが無意味に見えるものだとしても、情熱を燃やし続ける人間に羨望を覚えるだろう。自分にもあれくらいの情熱を傾けられるものがあったはずだったのにと、不意に恐ろしくなるのだ。

 また、この物語を深掘りするうえでは、制作者の言葉も踏まえる必要があるだろう。本作の制作者であり『VA-11 Hall-A』のライターでもあるFernando Damas氏(以下、Fernando氏)は、本作発表後にSukeban Games公式サイトに
“戦闘記録”という記事を投稿している。

 Fernando氏は、『VA-11 Hall-A』とその後の新作開発に係る作業で疲弊し、2021年から休息期間を取っていた。この期間、短編小説を公開するなどの活動はあったが、彼が制作したゲームとしては約8年ぶり。ゲーム関連のコードを書くのは少なくとも6年ぶりになるという。

 驚くべきことに、Fernando氏が本作の草稿を書き上げたのは3月23日、ゲームが投稿された4月1日からわずか1週間ほど前のことだ。動き始めてからは、“日常生活を送り、大人としての責任を怠ることなく”ゲームを完成させたという。

 しかし『VA-11 Hall-A』開発の燃え尽きから立ち直ってなお、“静電気を受けた後に感じるような警戒心”を抱えて生きていた制作者にとって、今回のように日常を保ちながらゲームを完成させることは、彼自身でさえ“できるとは思っていなかったこと”だという。

 なお本作には生成AIをまったく使用していないという。短編作品とはいえ、驚異的なスピードでの完成だ。しかもリソース不足を理由にAIに頼ることなく、制約の中で最大限の効果を狙うよう作られている。ゲーム制作から長らく離れていたクリエイターとは思えないほど、創作への情熱の“火”を感じられる作品だ。

この作品自体が、“虫”に屈しない“火”の存在証明だ

 『Worms』は、前述した通り失われた熱意をテーマにした物語だ。そしてそこには、Fernando氏がゲーム開発から休養するに至った“燃え尽き”が投影されていることは想像に難くない。自分の中にまだ“火”が残っているのか、いずれ“虫”が自分を捕えるのではないかという疑念は、Fernando氏の状況と重なる。もう自分の“火”を点けることはできないのではないかという恐怖は、長らくゲーム制作から遠ざかり、自身が感じていた恐怖でもあったはずだ。

 自分には火が残っているのかという、この作品の最後に提示される疑問はこれを踏まえると切実である。だが一方で、その終わりかたに反し、本作は希望を与える作品でもある。長く休養していたFernando氏がこのゲームを短期間で完成させたこと自体が、消えてしまったかのように思えた火であっても、再び勢いを取り戻せる証明でもあるのだ。

 『Worms』は、言うなれば長く筆を置いていた作家がリハビリとして手掛けた一作。それゆえ、クリエイターの最高傑作や代表作として記憶されるものではないかもしれない。

 しかし、その制作過程があるがゆえに、作品のメッセージはより強く響く。抗うことをやめれば、いずれ“虫”が自分を捕えるという焦燥。そして“火”を失わない人への羨望。みずからも陥りそうになった状態を描きつつ、本作が完成したこと自体が、無力感に抗い、打ち克ったという証明なのだ。
『VA-11 Hall-A』クリエイターがエイプリルフールに公開した謎のビジュアルノベル『Worms』は、一見不気味。でも中身は心に火を灯す情熱の物語だった【レビュー】
 この作品と、Fernando氏の“戦闘記録”を読み通した後、自分にもまだ“火”が残っているのかと、妙に落ち着かない気分になった。

 
自分の“火”もまだ消えずに残っているのか?

 
自分は“火”を絶やさない努力をしてきただろうか?

 
そもそも、自分にとっての“火”とは何なのか?

 だが結局のところ、その不安を消すには動き続けるしかない。『Worms』はまさにそれを教えてくれる物語なのだ。それに、このゲームの開発者自身が、消えかかった“火”を再び燃やせることを示してくれた。

 これが自分にとって“火”を保つ方法なのかはわからない。だが、とにかく私が最初にすべきだと感じたことは、『Worms』について語ることだった。そうして今、『Worms』のレビューを書いている。自分にとっての火はきっとこれなのだと言い聞かせながら。

 
あなたの“火”は、まだ“虫”を寄せ付けないほどに燃えているだろうか?

 
あなたにとっての“火”とは何だろうか?

 自分の“火”が消えそうになっていると気付いたとしても、遅すぎることはない。消えかけた火であっても、もう一度燃やせることを『Worms』が教えてくれているのだから。一見不気味な雰囲気とともに突然現れたこの作品は、ひとりのクリエイターの情熱の火が再び燃えることを教えてくれると同時に、もしかするとプレイヤーの火をよみがえらせるきっかけとなる火種でもあるのかもしれない。

担当者プロフィール

  • 金崎とおる

    金崎とおる

    ファミ通.com ゲームレビューコンテスト大賞を経てレビューライターに。年に数回、“このゲームはすごい”以外の話をしなくなる時期がある。

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