
本記事では、長男氏の死闘を見守りながら筆者が感じた、『近畿霊務局』の豪快すぎるゲーム性と、その裏側にある妙にリアルな世界設定について紹介していく。
“怖くないホラゲー”のはずが開始5分でギブアップ。長男氏を1000円で買収
ホラーゲームなのに、幽霊から逃げるのではなく“やり返せる”。なんならボコボコにできるのだとか。しかも、見つけたときはタイミングよく20%オフのセール中。これはもう遊んでみるしかない! と、さっそくSwitch2で購入した。

とくにジャンプスケアがダメだ。突然デカい音が鳴るとか、いきなり何かが画面に現れるとか、それだけで震えあがる。自慢じゃないが、筋金入りのビビりなのだ(じゃあやるなよ)。
そんな筆者だからこそ、「1ミリも怖くない」という口コミまである『近畿霊務局』には心ひかれずにはいられなかった。でも、わずか数分で、ぽっきり心が折れた。冒頭、夜の山道を進んでいると、街灯が赤く光り、突然「パーン!」と弾けたのだ。
怖いじゃん!

やっぱ怖いじゃん!!!!

とはいえ、あまりにも不甲斐ない。幽霊をボコボコにするどころか、まともに戦ってすらいないというのに。せめて幽霊にちょっと攻撃する場面くらいは見たい……!
そこで、アイテムを投入することにした。ピンチをアイテムで切り抜けるのはホラーゲームの基本だから。
高校2年生の長男氏である。
長男氏はホラーゲーム好きで、これまでも筆者が「やりたい……でも怖い無理!」と投げ出してきた数々のホラーゲームを代わりにクリアしてきた実績を持つ。ホラー耐性に関しては、かなり頼れる男だ。

さっそくプレイを頼んでみたところ、「ええ~? 俺、勉強があって忙しいんだけど」と、つれない返事。くっ、それならば……!
「バイト代1000円!」
金で解決だ。長男氏の目が輝いたのがわかった。常時金欠の高校生には効果てきめんだろう。交渉成立。
なお、『近畿霊務局』はガンアクション要素も強いと聞いたため、『スプラトゥーン』シリーズを得意とする中学3年生の次男くんにも念のため声をかけていた。戦力としてはかなり期待できそうだったのだが、残念ながら筆者と同じ“ホラゲー苦手族”。こちらは1000円を提示する間もなく、あっさり断られた。
かくして、筆者の代わりに幽霊と戦う大役は高校生に託されることとなった。
セーラー服の公務員が幽霊を撃つ(物理)! 『近畿霊務局』とは
舞台は、孤独死や自殺などをきっかけに現世を逆恨みする“違法幽霊”が激増し、社会問題となっている日本。行政が国策として除霊を行っており、幽霊対策専門の国家機関“霊務省”まで存在する。主人公は、霊務省近畿霊務局に所属する公認除霊師・白石瑞希。幽霊退治を生業にする、れっきとした国家公務員である。
ただし、この白石、“ふつう”の主人公とはおおよそかけ離れている。
まず、服装がセーラー服なのだ。「おっ、女子高生公務員なの!?」と喜ぶ一部読者もいるかもしれないが、白石は27歳の元自衛官。タバコも吸えば酒も飲む。ドアをノックする場面では豪快に蹴りをぶち込み、幽霊から「親からどんな教育を……?」とツッコまれるなど、なかなかパンチが効いている。

白石のセーラー服については、ほかにも妙に具体的な事情が語られるシーンがおもしろいので、ぜひ本編で確かめてほしい。

幽霊が出たらお経を唱える――わけではない。拳銃やアサルトライフルなどの銃火器をぶっ放し、ときには武器や素手で殴る。物理で解決するのである。近くに使えそうなものがあれば、それも立派な武器になる。たとえ墓石であっても。
除霊シーンには痺れた。ゲーム序盤から痺れっぱなしだった。たとえば、どこかで見たことがある幽霊“サタコ”。墓場の井戸が映ったモニターを蹴破って元気よく登場するだけでもおもしろいのに、そのサタコがでかいのだ。なんでだよ。


仕方ないので、その脛を墓石で殴っては離れるヒット・アンド・アウェイで何とかしようじゃないか。除霊が新時代に突入した瞬間だ。

さらに、そこへブラックコメディーのノリが加わることで、独特な世界観が際立っている。「幽霊に思いっきりやり返せるホラーゲーム」という触れ込みに偽りはなかったわけだ。……怖いかどうかはさておき。

“行政による除霊”とかいうパワーワード。その世界設定が妙にリアル
そもそも本作の日本では、幽霊はオカルトの領域ではない。社会に実害を及ぼす存在として認識され、国が行政の一環として除霊を行っている。
“行政による除霊”……なかなか聞き慣れない言葉である。しかし、これが意外なほど違和感なく世界に溶け込んでいるのが興味深い。
幽霊には合法・違法の区分があり、違法幽霊を取り締まるための法律が存在する。除霊師も勝手に幽霊を撃ちまくっていいわけではなく、国から認められた資格や権限のもとで活動している。

その一方で、かつて霊的な問題への対応を担ってきた神社を管轄する“神務庁”という組織も存在する。そして、宗教組織の影響力を弱める目的で作られた霊務省とは、どうやらあまり仲がよろしくない。
こうした組織どうしの対立は物語が進むにつれて少しずつきな臭さを増し、やがて単なる“幽霊退治”では済まない展開へとつながっていく。詳しく触れるとネタバレになるので控えるが、筆者はプレイを見守っているうちに「幽霊より人間のほうがよっぽど怖いよな」とつくづく思ったものだ。
除霊と人間どうしの思惑がどう絡んでいくのかは、大きな見どころのひとつだ。ぜひ実際にプレイして自分の目で確かめてほしい(筆者も自分の目で見ました! 自分の手は使っていない)。

おそらく最初は警察や自治体などが対応し、それでも既存制度では手に負えなくなれば法律が整備され、専門部署が作られ、資格制度ができて……。そう考えていくと、案外“霊務省”のような組織に行き着く可能性だってあるのかもしれない。
公務員がアサルトライフルを担いで幽霊を撃ち始める世界線が現実に? ……嫌すぎる。
突拍子もない設定をこれでもかと盛り込みながら、その土台には日本の行政や制度を思わせる妙な現実味がある。そんなところも、『近畿霊務局』の魅力と言えるだろう。
ブッ飛んだ設定から透けて見える社会問題――過疎化と行政の限界、その先にあるもの
人員にも予算にも限りがある以上、発生した問題のすべてに同じだけのリソースを割くことはできない。そこで浮かび上がってくるのが、“行政が国民をどこまで守るのか”という問題である。
とくに物語の背景にあるのが、地方の過疎化だ。人口が減り、行政機能を維持することさえ難しくなった地域に対して、限られた人員や予算をどこまで投入するべきなのか。これは現代の日本にも通じる、非常に難しい問題だろう。

でも、その合理性の先で「少数だから」と切り捨てられる人がいたら? それは果たして、国家として“正しい”判断なのだろうか。
『近畿霊務局』には、こうした現代社会が抱える問題と向き合うための、ひとつの考え方が描かれているように思う。行政の合理性と目の前の命を見捨てない倫理とのぶつかり合いは非常にシニカル。同時に「国家とは何なのか」、「国が国民を守るとはどういうことなのか」を改めて考えさせられた。
笑って見ていたはずの“行政による除霊”という設定が、いつの間にか笑えなくなってくる。そのギャップもまた、本作の物語を最後まで見届けたくなった理由のひとつだ。
幽霊との銃撃戦で死闘を展開……長男氏、4日間で精鋭除霊師へ進化
しかも本作、敵の攻撃がなかなか容赦ない。
身体に爆弾をくくり付けて突っ込んでくる地縛霊ならぬ“自爆霊”をはじめ、銃火器で武装した幽霊があちこちからつぎつぎと襲いかかってくる。狭い通路で複数の敵に囲まれれば、あっという間にゲームオーバーだ。初心者向けの“リクルート”モードであっても、ガンアクション初心者には正直キツい。
そんな激戦の中、長男氏の発言(ゲーム実況)も徐々に物騒になっていった。
「ここの通路、狭くて撃ち殺しづらい」
「ここで待ち伏せすれば一網打尽」
「ヘッドショット! きもっちいいー!」
親として若干不安になるが、子どもの成長を信じて見守ることも大切である。

ところが、プレイを重ねるうちに「つぎはどう攻めるか」と攻略法を考え始め、銃撃や回避の腕も目に見えて上達していった。失敗するたびに動きを修正し、少しずつ突破口を見つけていく。若者の反射神経と適応力、恐るべし……!
結局、何度ゲームオーバーになっても諦めずにトライを続け、4日間かけて最後までクリアしてしまった。気づけば、すっかり精鋭除霊師である。

そして何より、何度失敗しても「じゃあつぎはこうしてみよう」と挑み続けるあの根気強さは、我が子ながらすばらしい。開始5分でトイレに逃げ込んだ自分が、ちょっとだけ恥ずかしくなった。
幽霊にもいろいろあるんだな……サタコも花子さんも時代に合わせてアップデート

隣の家のホラゲ実況、おそらく怪奇現象に釣られて引っ越してきた人なんだろうな……。それにしても昨今の幽霊、Slackまで使いこなすとは驚きである。闇バイトを疑う幽霊がいるあたり、情報リテラシーも養われているようだ。
こうした“昔ながらの怪談が、現代社会に合わせてアップデートされている”描写が、そこかしこに散りばめられている。なかでも強烈なのが、トイレの花子さんだ。

白石がそこを指摘すると、「最近の子は本当に3番目のドアから出ると反応が薄いから、いろいろバリエーションを増やそうと……」とのこと。どうやら花子さん側も、マンネリを避けるために試行錯誤しているらしい。
しかも花子さん、校舎内のスケバン幽霊たちとつるみ、なかなかしっかりした組織を形成している。校舎に幽霊が集まりすぎた結果、ポルターガイストどころか電気がつきっぱなしの常夜灯状態になっているというから、もはや怪奇現象の概念がおかしい。

このほかにも、白石が墓石を武器にしていると違法幽霊から「くたばれ!墓荒らし!」と罵倒されるなど、戦闘中でさえやり取りがいちいちおかしい。まあ、白石自身も界隈では「どっちが悪霊かわからん」、「たまに除霊するヒグマ」として有名だったらしいので、どっちもどっちなのかもしれないが……。
こうした幽霊たちは、ただ倒されるための敵ではない。それぞれに妙な生活感や人間関係があり、怪談としての“お約束”を知ったうえで、それを現代風にずらしてくる。『近畿霊務局』では、そんな愛すべき違法幽霊たちとの出会いも、大きな楽しみのひとつなのだ。
クリア後の長男氏「オレがやりたかったのはホラゲーなんだけど」
「ねえ、オレがやりたかったのはホラゲーなんだけど! ホラゲーはどこ!?」
至極ごもっともである。

少なくとも、開始5分でトイレへ逃げ込んだ筆者と、4日間かけて精鋭除霊師へ成長した長男氏とでは、ホラーの感じかたがだいぶ違ったようだ。
物語を最後まで追った筆者には、別の意味で「怖いゲームだった」という印象が残った。過疎化や行政の限界、その狭間で切り捨てられる人々――物語が進むにつれ、人間の思惑や社会の仕組みがじわじわと恐ろしくなってくる。
“幽霊をボコボコにできるホラーゲーム”を期待して始めた本作。筆者は開始5分で脱落したものの、セーラー服姿の公務員が幽霊に向かって銃をぶっ放す様子を笑って見ているうちに、いつの間にか幽霊よりも恐ろしいものに出会っていた。
長男氏に支払った1000円は、筆者にとって思いのほか重たい社会科見学の代金となった。














