Dynamis Oneが開発中の新伝奇魔法RPG『アストラエ・オラティオ』。正式タイトルが2026年4月30日に発表されたばかりの新作だ。 その新作が、クローズドβテストより先に、8月15日~16日に開催された“コミックマーケット108”(コミケ)へ出展した。準備が早い! ここからすでに本気度が伝わってくる。




コミケ108ではアートブックなどグッズ販売やノベルティ配布施策が行われた。
本作の舞台は、魔法が当たり前のように存在する“'89年”の東京。現実とは違う方向に加速した世界において、魔法使いたちの土地は“領地”と呼ばれ、行政の仕組みで管理されている。プレイヤーは特区庁に配属された“主任”として、少女たちの揉めごとに立ち会っていく。
今回、コミケ出展にあわせてアートディレクターを務めるキム・イン氏(ペンネーム:hwansang)が来日するということで、キャラクターをはじめ、イラストがどういう考えで作られているのかを根掘り葉掘り聞いてみた。
……あ、そうだ。みんなの思い出のニチアサってなんですか? 自分は『おジャ魔女どれみ』です。理由は、本文を読めばわかります。

『アストラエ・オラティオ』アートディレクターのキム・イン氏(ペンネーム:hwansang)。文中はキム。
東京タワーは写真で見るよりずっとデカい
――世界設定のベースは“違う方向に進んだ東京”かと思います。アート全体のコンセプトを教えてください。
キム
アートコンセプトは、“魔法”と“新伝奇”のふたつのテーマに決めました。新伝奇を描くなら、ある程度大きな都市でないとビジュアルが成立しない。その都市の中で、魔法使いをどう現代的に描くかを設計していきました。
いちばん重要だったのは、ノスタルジーをそのよさのまま、どう表現するかという部分です。
――新しい伝奇……新伝奇(※)というコンセプトを選んだ理由はなんだったのでしょうか。
キム
まず“魔法”というテーマで決めており、その魔法を新しいビジュアルとして届けるにはどうしたらいいか、ひたすら考えていました。
当時すでに、西洋ファンタジーやJRPG、HoYoverseさんの『原神』のような世界など、魔法を扱うゲームは溢れるほどありました。だからこそ、それとは違う方法で魔法を扱いたかったんです。その延長線で出てきたのが“新伝奇”というテーマで、これを『アストラエ・オラティオ』の世界観の前提に据えました。
※新伝奇:怪異や妖術といった超常的な要素を扱う“伝奇”の流れをくむジャンル名。現代を舞台にしたものを指して使われることが多く、1990年代後半から2000年代にかけて、小説やゲームで広まった。本作のジャンル名も“新伝奇魔法RPG”となっている。
――日本だと、伝奇ものと呼ばれるジャンルは数十年前に流行って定着したものかと思います。綺麗なファンタジーというより、少しおどろおどろしい雰囲気のものとして小説などで広まり、昨今はもう少しライトな雰囲気も好まれている。韓国でも、こうした表現は受け入れられているのでしょうか。
キム
そうですね。日本で新伝奇が流行っていた当時、韓国でもファンタジーのひとつの種類として定着していて、ファンも大勢いました。韓国オリジナルの新伝奇もありますし、日本から入ってくるライトノベルや、TYPE-MOONさんのようなゲームも同じくらい流行っていました。
――この時代を描くと決まったとき、どんな心境でしたか。舞台を東京にした流れも教えてください。
キム
“新伝奇”と“魔法”というふたつのキーワードが決まったとき、いっしょに働いているクリエイターたちが共通して思い出したものがありました。東京という都市と、東京タワーです。
たとえばCLAMPさんの作品にも『X-エックス-』や『東京BABYLON』がありますし、魔法少女マンガなら『美少女戦士セーラームーン』もそうですよね。そういう作品の背景は、やはり東京なんです。
だから、魔法と新伝奇を描くのに、あえて違う都市を選ぶ理由がなかった。いまの時代に東京を舞台にしても、トレンディーな感じで描けるだろう、という考えになったんです。
いま現場でメインをやっている人たちが、当時そうした作品を直接リアルタイムで見ていたかというと、そうではない。ただ、そういった作品の影響を受ける範囲にいた人たちが、いま最前線で働いています。

――なるほど。東京タワーはメインビジュアルにも出てきますが、どういった取材をしましたか? モデルにした街があれば教えてください。
キム
東京といえば、やはり東京タワー。ランドマークになる場所ですので、そこから範囲を広げていきました。
物語の中心となる港区には何度も足を運んで、徒歩で街を巡っています。作品に登場する実在の地域やレインボーブリッジをモチーフにしたビジュアルも、すべて現地取材を行って描いています。シナリオチームや背景原画チームにも尽力してもらいました。

――実際に歩いてみて新しい発見はありましたか?
キム
港区は最先端の街だと思われがちですが、実際に歩き回ると、昔からあるものや、アナログなものがいまだに残っている。歩道の幅の狭さ、たくさん並んでいる電柱。最近はあまり見かけない公衆電話とか。
そして東京タワー。写真で見るより、実際に下から見上げたときに本当に大きいと感じました。象徴的なものとして知られてはいても、実際のサイズ感は写真ではなかなか伝わらない。見て感じたことを、ゲームの中でも表現したいですね。
もしかしたら、聖地巡礼ができるかも……? ゲームをプレイしていたら「おっ、ここだ」と思うかもしれないので、楽しみにしておいてください。
――聖地巡礼企画、やろうかな! ちなみに時代設定について、舞台は'89年とありますが、東京タワーは現実だと1958年に竣工しています。作品と現実との間にギャップがあるなと思いまして……。
キム
年代やその設計に関しては、自分よりシナリオディレクターが手がけた部分なので、細かく答えられませんが、アート的な考えでいうと世界観の年代と実在した歴史に差があるのは、逆にすごくいいところなんです。

キム
歴史に沿ったものしか描けないのではなく、その時代のいいところをピックアップして、組み合わせて使える。プレイヤーの分身である主任の机には小物がいろいろ置いてあります。あれは特定の時期のものだけではなく、時代的にかなり幅があるんです。
そういうことにこだわらず、いいものを選んで使う。アートディレクションの立場としてこの設定はけっこう便利ですね。
“ニチアサ”だけでは世界から浮く
――キャラクターデザイン全体を通して、どこで『アストラエ・オラティオ』らしさを表現していますか。
キム
ビジュアル面では、“記憶の中にある“よさ”のエッセンスを、現代のトレンドに合わせて再構築する”という考えかたを大切にしています。
そのうえでデザインが目指しているのは、どれだけシンプルにしても、そのキャラクターの特徴が維持されていること。ピクトグラムにしても、全部真っ黒に塗ってシルエットにしても、このキャラクターだとわかる。そこが『アストラエ・オラティオ』らしさだと思っています。
――各キャラクターについて、デザインのこだわりを教えてください。
キム
全員分話すと長くなっちゃうので、少しだけ。“港区少女たちのまほ活(※)”は、誰が見ても主人公だと感じる形にしています。ひと目でわかる、なじみ深い感じにしようとしました。
※港区少女たちのまほ活:公式サイトのキャラクター紹介では、所属ごとに分類されている。“港区少女たちのまほ活”はグループ名のひとつ。
“港区少女たちのまほ活”の3人。
キム
一方で“清蘭同友会”は、主人公のライバル的なグループです。ライバルになるキャラクターならこんな感じだろう、という特徴を出しています。そのキャラクターがどのグループで、何を持っているのか。デザインの“わかりやすさ”にはこだわりましたね。

“清蘭同友会”の3人。
――最初にデザインが決まったのはどのキャラクターですか?
キム
キャラクターデザインを固めていく過程では“まほ活”の田中えりん、アンナ・M・バッテンベルク、藤晴璃々愛を先行して制作しました。
彼女たちは作品世界の中で自然に息づいているのかどうか。イメージボードを通して探りながら、作品全体のビジュアルを固めていったんです。3人の中では、えりんが最初にデザインとしてまとまったキャラクターだったと記憶しています。

右側のピンク髪の女の子がえりん。
キム
基本的な制作フローとしては、まずシナリオ側から「こういうキャラクターを登場させたい」というオーダーを受けて、それに合わせてデザインを固めていきます。ただし、必ずしもすべてがその流れではありません。逆に、まほ活の3人のようにアート側が先行してビジュアルを提示し、それをもとにシナリオ側で設定や物語を組み立てていくケースもあります。
キャラクター名は、現時点ではシナリオ担当者が決めています。舞台が日本の東京ですので、日本の方が見ても違和感のない名前にしようと努めていますが、特定のキャラクターについては何らかの意図があって、特徴的な名前を使っています。
――まほ活を最初に見たとき、ザ・平成の魔法少女という感じがしました。目の描きかたですとか、日曜の朝にやっているアニメの雰囲気に近いといいますか。
キム
本当にこちらで狙っていたとおりに感じていただけて、ありがとうございます! 開発の中でも“ニチアサ”をイメージしていて、日曜日の朝のアニメーションの主人公という感じを出そうと思って描いたものなんです。
※ニチアサ:日曜日の朝に放映される子ども向けのテレビアニメや特撮ドラマのこと。――一方で、旗振りやデスマスクのような、絵の方向がまったく違うキャラクターもいます。この振れ幅を作品として成立させるために共通で守っているルールはありますか?


旗振り(左)とデスマスク(右)。公式サイトより引用。
キム
まほ活のように軽快さのあるキャラクターだけにしてしまうと、地面から体が浮いているような、嘘の世界に感じてしまうんですよね。
新伝奇は明るいだけではありません。もう少し重く、暗く、ドロドロしている。それをちゃんと地面につなぐための重りとして、旗振りやデスマスクといったキャラクターを用意しました。

キム
ただ、あまりにも方向性が違うと、逆に違和感が出てしまう。それを統一するために、色味や等身、プロポーションでバランスを取っています。異なるキャラクターが並んでも、そこに違和感が出ないように。
色味について“新伝奇”というジャンルに個人的に抱いているイメージが、夏よりも冬の空気感、昼と夜のコントラストなんです。なので、冬の冷たく澄んだ空気を感じてもらえるよう、ブルーを基調にカラートーンを組み立てています。合わせて、全体が暗くなりすぎないように、春を思わせるピンクやグリーンを取り入れてバランスを整えています。昼と夜のコントラストは、グラフィックデザインやレイアウトにも、白と黒を使って取り入れています。

『らんま1/2』も『コナン』も。90年代後半の“よさ”を全部合体
――作画の面では、どんなことを目指しているのでしょうか。
キム
アナログやレトロの時代を扱っている作品ですので、作画も現在のデジタルで流行っている描きかたではなく、90年代末くらいに流行っていた作画の特徴を取り入れています。たとえばストロークの太さ。手描きのような太さを残していますね。
瞳の中の表現もそうです。最近のデジタル作画ではあまり見られない、昔のセル画で描いたような表現をしていて、瞳のハイライトなどもそういうところにこだわっています。

――90年代末というと、当時のアニメ作品の描きかたがすごく特徴的でした。参考にした作品やイラストレーターはいらっしゃいますか。
キム
特定の作家さんやアニメーターを参考にしているというよりは、当時を代表するいろいろなクリエイターたちを全部合体させたイメージに近いです。たとえば、このキャラの頭を見てください。

“アキナ怪談研究所”の朝倉真衣を指さすキム氏。
――どことなく『らんま1/2』っぽいというか……?
キム
まさにそのとおりです。直接的に参考にしたわけではないんですけど、こういう丸みを帯びたシルエットには当時のアニメキャラっぽさがあると思います。デザインについては自分がアートディレクターとして「このようにしてください」と明確に指定しているわけではなく、担当するキャラクターデザイナーに任せています。
そんな中で、『らんま1/2』や『名探偵コナン』みたいに描く人もいれば、また違う特徴を出す人もいる。当時の何を「いいな」と感じたかが、人によって違うんです。

――確かに。アキナ怪談研究所の朝倉真衣は言われたらちょっとらんまっぽい。おもしろいなぁ……。ついでに完全に趣味の質問なんですが、キムさんが影響を受けた日本のアニメ作品はありますか?
キム
『鋼の錬金術師』ですね。2009年の『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』ではなく、2003年放送のほうです。
――なかなかエグいものをご覧になっていたようですね。
キム
(笑)。韓国で公式に日本のメディアを受け入れたのが2000年代に入ってから。その時期にテレビ放送していた作品には影響を受けていますね。あと、業界に入ってからすごく影響を受けたのが『アルプスの少女ハイジ』や『かぐや姫の物語』を手掛けた高畑勲監督です。

キム
とくに『かぐや姫の物語』は、自分が何か評価すること自体がとても申し訳ないくらい、これこそマスターピースと言うべき作品です。とくに演出面は、いまでもすごく勉強になりますね。
――アニメ演出も参考にされているのですね。そんなキムさん自身が「こういうものを描きたい」、「こういう情景をどうしても描きたい」と思う、溢れ出るパッションのようなものはありますか。
キム
新しいプロジェクトを作るときは、まずシナリオ担当と密にやり取りします。最初にシナリオディレクターが「自分はこういう物語を作りたい」と簡単にプレゼンしたり、語ったりするんですね。
その話を聞いているうちに、頭の中に「こういうシーンを入れたい、描きたい」というものがバンバン浮かんで、ユーザーに届けたいという気持ちが強くなります。それが、自分にとってのエネルギーの原動力になっています。開発しているみんなが共通して持っているところです。
ゲームだけではなく“原作”を作る
――今回、なぜコミケへの出展を決めたのでしょうか。
キム
『アストラエ・オラティオ』はゲームのみならず、ひとつのオリジナルIPとして“原作”になることを目指しています。リリース後、ゲームとして楽しんでもらいたい。二次創作、コミック、アニメといった創作物も増えてほしい。そのためには、まずは自分たちがその姿勢を示さなきゃなと思い、出展を決めました。
ただ、最初からコミケに出すという計画を立てていたわけではないんです。何かしら公開できるような機会があったら、そのときにお披露目したいという気持ちをずっと持ち続けていました。
事業的な理由もありますが、自分は日本のカルチャーに影響を受けてきましたし、本作の舞台は東京。自分が描いたこの作品が本格的にお披露目される場所は、やはり日本にしたいなと思っていたので、アートブックをはじめグッズを販売することができてよかったです。




アートブックの一部を抜粋。
キム
じつはこのアートブックは、最初からコミケや外部で売るために作ったものではないんです。開発メンバーと同じ方向に向かって、認識を合わせるためのマニュアルとして作っていました。
でも、これを開発の人たちしか見られないというのはもったいない……。そう思って今回販売を決めました。映画でたとえるとパンフレットのような感じです。キャラクターの性格やどう戦うのかといった裏話も書いてあります。
――グッズ化するにあたって、加筆修正されたりしたのでしょうか?
キム
いえ、逆にページ数に合わせて削ったものがあるくらいです。それくらいボリュームたっぷりなので、実際にゲームを遊ぶときには、合わせて読んでほしいですね。
――せっかくなので「このキャラのこの部分がすごく好きで」みたいな話も聞きたいのですが、いかがでしょうか。
キム
(笑)。いま考えていますが、頭の中にたくさんのキャラクターたちの顔が浮かんでいて……。みんなに怒られそうな気がするので、ごめんなさい! 強いて言えば、私たちは自分が正解を決めて「これが正解です」と伝えるよりも、受け取った方たちの解釈に期待しています。
たとえば、“人形”というキャラクター。頭の上に花が乗っているんです。

――この子、人形なんですよね。主任の臨時ボディーガードで、体が木でできているということ以外は何もわからない。謎が多い。
キム
という反応を狙っていました。
――してやられたな。悔しいな(笑)。
キム
キャラデザインの定番なら、アホ毛が1本あってもいいところなのに、なぜ花なのか、自由に想像してもらえたらうれしいです。衣装デザインにもこだわっています。スカートが少し透けているんですよ。

なんてことを!
――そう! 公式サイトで見てからというもの、どうしてもこんなことになっているのか気になって仕方ないんです。これは何なんですか! キムさん!
キム
それも自由に想像してください。
――……こういったキャラクターに関するディープな話はリリース後にじっくり語り合いましょう。最後に、8月19日からはクローズドβテストの参加者募集が始まります。CBTでは、どういった部分に注目してほしいですか?
キム
コミックマーケットもそうなんですが、これまで公開してきたものは、基本的にはアートが中心、ビジュアルがメインでした。CBTでは実際にゲームがプレイできるようになります。ビジュアルだけではなく、ゲームと合わさったときにどういうよさが生まれるのか。それを皆さんに感じていただきたいですね。
また『アストラエ・オラティオ』は、パッケージゲームのように完結する内容ではありません。これから連載を始める長編シリーズのようなもので、CBTはまだ第1話が始まる前のプロローグみたいなものです。
皆さんはこのゲームの魅力をどう感じているのか。自分たちが考えている魅力と、ユーザーの感性が本当に一致するのか。そういったところをテストするためのものですので、ストーリーを楽しんでもらって、実際にプレイして感じたものを、たくさん聞きたいと思っています。
――本日はありがとうございました!

『アストラエ・オラティオ』のクローズドβテスト参加者募集は、2026年9月21日12時まで。ぜひ、この機会に応募してみてほしい。


キム氏(左)と同席スタッフ(右)のTシャツには決意のひと言が記されていた。