Nintendo Switch 2専用のローンチタイトルとして2025年6月5日に発売を迎えたアイドル×経営シミュレーション『 シャインポスト Be Your アイドル! 』。これを記念したプロデューサー&ディレクターインタビューをお届けします。 本作はKONAMIとストレートエッジが手掛けるメディアミックスプロジェクトの集大成となるゲーム作品。2021年から小説版が刊行、2022年にはテレビアニメが放送され、ついに2025年、その“本丸”とも言うべきゲームが発売となりました。 とてつもなく長い構想期間を経て、テレビアニメの放送からも約3年という歳月を掛け、紆余曲折を超えてついに発売された本作への想いの丈を、23000文字以上にわたるボリュームで存分に語ってもらいました。 ぜひとも、最後までじっくりとお読みください。 石原明広 氏(いしはら あきひろ)
コナミデジタルエンタテインメント所属、メディアミックス作品『シャインポスト』プロジェクトプロデューサー。『Elebits』、『ラブプラス』、『ラブプラス+』などのタイトルではディレクターを担当。(文中は石原)
永島盛日人 氏(ながしま もりひと)
コナミデジタルエンタテインメント所属。モバイルゲーム『クローズ×WORST~喧嘩烈伝~』のプロデューサーや、複数のモバイルゲームのディレクターを経て、『シャインポスト Be Your アイドル!』のディレクターに。(文中は永島)
ゲームデザインも、シナリオも、ゼロから作り直し。“修羅道”を行くと腹を括った ――ついに『シャインポスト Be Your アイドル!』が発売を迎えました。
石原
ようやくここまで来ることができました。 ――長かったですね。
石原
はい。 ――小説版が2021年に出ていて、アニメは2022年に放送され、ゲームはいつ配信になるかと思っていたら、2025年1月にプラットフォームがスマートフォンから家庭用ゲーム機に変わるという話になり。
石原
ええ。
――現在のお気持ちはいかがですか。
石原
いろいろと感じますね。 まず、本作はNintendo Switch 2と同時に発売されるローンチソフトなのですけど、やっぱりローンチって特殊で、このゲームが世の中にどれくらい出回るのか、さっぱり予想が付かないんですよね。すでに普及しているハードならこのゲームを求めている人はすぐ手に取ってくれますけど、ローンチはまずハードを手に入れるところから始まりますから。 そういう意味ではずっと不安でドキドキしているんですけど、SNSなどではすごく盛り上がってくださっているので、「ようやくお届けできます」というホッとした気持ちと、「お待たせしてごめんなさい」という気持ちもあって、いろいろな感情が混在しています。
――永島ディレクターはいかがでしょう?
永島
「間に合った~~~!!!」、ですね。本当にホッとしています(笑)。 ――(笑)。
永島
Nintendo Switch 2のローンチタイトルですし、まずは4月のNintendo Direct(※)に向けて作りきる必要があったので、そこのプレッシャーがかなり大きかったです。あそこで「まだできていません」となって大々的に発表する場を逃したら目も当てられなかったので、「よかった~!」と。とにかく待ってくれている方に届けるために、できることはやりきれたかなと思っています。
※Nintendo Direct: Nintendo Switch 2 - 2025.4.2 ――考えてみれば、1月に「プラットフォームが家庭用ゲーム機に変わります」というアナウンスの後、「対応ハードはNintendo Switch 2です」という4月の発表まで3ヵ月ですもんね。
石原
「『 シャインポスト 』がモバイルから家庭用ゲーム機に変更になります」と聞いたとき、世の中の皆さんが真っ先に想像されたものって、ちょっとした移植版というか、“運営型のゲームをオフラインで遊べるようにしたもの”というイメージだったかと思うんです。 だけど、『シャインポスト Be Your アイドル!』はほとんどすべてをゼロから作り直しています。 ゲームデザインも、シナリオも作り直していて、モバイル版から引き続き使っているのは一部のデザインや楽曲のデータだけですね。 ――えっ、そうなんですか。シナリオを作り直すなら、当然ボイスも収録し直しになりますよね。しかも本作はフルボイスです。 石原
はい。だから本当に、しっかりとコストを掛けて作り直しているんです。 ローコストに作るならモバイル版で“ガチャ”だった要素をゲーム内通貨に置き換えたりして移植するのがいいんです。だけど、家庭用ゲーム機のタイトルとして価格ぶんのお金を先に払ってくださったお客さまがじっくりと遊ぶゲーム体験としてよりよいものを……と考えたら「作り直すのがいいよね」と。プラットフォーム変更の最初期のころに永島と話して決めました。 それは、ここから開発をし直して限られた期間で納得できるものを仕上げるという“修羅道”を行くんだと、腹をくくることを意味していました。案の定、スタートダッシュから開発終了までずっと全力ダッシュをし続けるみたいな開発になりましたね。楽なことは何ひとつなかったです。 ――スタートダッシュがラストスパートだったんですね。いや、その“作り直し”が、よく会社の稟議を通ったなと感じます。
石原
待ってくれているファンの方はもちろん、小説やアニメを作ってくれた社外の仲間たちに対しても、“僕らが『シャインポスト』のゲームを作る”という責任をまだ果たせていない、その状況に対して“やるしかないよね”というのは会社も理解してくれました。 「チャレンジさせてくれてありがとう」と感謝しています。お客さまにも、会社にも、仲間にも同じ想いです。
考えかたが真逆のP×D ――改めて、石原さんと永島さんの経歴と本作の開発における役割を教えてください。
石原
僕はアクションゲームのプランナーとしてKONAMIに入って25年くらいになります。『 ティーンエイジミュータントニンジャタートルズ 』シリーズなどに関わってから、これも任天堂さんのハードですが、Wii用タイトルの『 Elebits 』が初のローンチタイトルになりました。そのほかには恋愛シミュレーションゲームの『 ラブプラス 』のディレクターもしていました。 『ラブプラス』に3作関わってからアミューズメント部門に行くことになり、さまざまなシリーズに関わったのですが、芽が出なかったタイトルもいろいろとあり、苦しい経験となりました(苦笑)。家庭用ゲーム部門に戻ってきて、『シャインポスト』は企画の草案から数えるとかれこれ長いです。ほかの仕事もしながらではありますが、本当に長く向き合ってきたプロジェクトです。 ――『シャインポスト』ではメディアミックス全体を統括するプロデューサーでもありますよね。 石原
はい。プロジェクト全体を統括するとともに、ゲームでもプロデューサーです。ゲーム開発時の僕の仕事はプロモーションや関係者とのやり取りなど、本編開発以外の調整にかなり重きを置くことになりました。 プランナーやディレクターも経験してきた身としてはゲームの内容についても言いたいことはいろいろ出てくるんですけど、永島がゲームに対する考えかたや大事にしているものが僕と大きく異なるタイプなんですよね。今回は真逆だからこそ明確に役割分担ができたかなと思います。 ここまではプロデューサーである自分の役割、制作はディレクターである永島が判断。ただ、ゲームの仕様変更で中心にあるセールスポイントを変えられたりすると全体に影響があるので、大事なところは擦り合わせつつ、最終的な判断は僕が下してきました。 ――『シャインポスト』全体のプロデューサーとして、アニメの制作やリアルライブの手配などにも関わっているんですよね?
石原
ライブの台本を書いたり、セットリスト(曲順)を決めたり、映像編集もチェックしたりしているので、この会社の中でもよくわからない範囲の仕事をしている人だと思います。 ――(笑)。
石原
ゲーム制作業務そのもの以外はほぼ全部に関わっています。一方で、永島のキャリアもけっこう変わっていて、家庭用タイトルに関わるのは今回が初めてなんですよね。
――では、永島さんもお願いします。
永島
僕は入社してから10年くらいモバイルゲーム畑にいました。最初は他社ライセンスのIP(知的財産)を利用したゲームを含む、初期の携帯電話向けモバイルゲームでディレクターやプロデューサーなどの業務をしていました。そのあと僕も企画がうまく行かない苦しい時期を経まして……石原といっしょに仕事をすることになり、ひょんなことから「ディレクターやってみない?」と誘われたのが本作でした。 とはいえ家庭用タイトル開発の勝手はわからないし、触ったことがない新ハードだし、ローンチソフトとして発売を間に合わせなきゃいけない。でも、絶対におもしろいものを作りたかったので、守りに入りたくない、攻めの姿勢で作りたい、とかいろいろ考えました。 体力には自信があったんですけど、ずっと神経が張り詰めた状態での開発になったので、いまは冒頭の「間に合ってよかった!」という感想になりました(笑)。 ――なるほど(笑)。
石原
永島は家庭用タイトルの開発経験こそなかったんですけど、すごくコアなゲーマーで、インディーゲームも含めて多くのゲームを遊んでいるんです。それに加えて、モバイル向けゲームはさまざまな数値のバランスを取る設計思想が求められるので、シミュレーションゲームの『シャインポスト Be Your アイドル!』は、ゲームデザイン的にこれまで彼がやってきた経験もうまくハマると思ったんです。 我々としては、若い開発者にいきなり突拍子もない初チャレンジを強いたという感覚はなくて、「永島の強みを活かすのにこれ以上のものはない」くらいのプロジェクトだと思って声を掛けました。
「公式アカウントが誕生日お祝いbot化してしまった」 ――そんな永島さんが本作の開発においてもっとも実現したかった点はどこでしょう。
永島
どうしてもやりたかったのは“23人のアイドルを全員登場させること”でした。 全員を登場させるとなると、23人ぶんのシナリオを新しく書いてもらわなきゃいけない。もちろん予算の問題もあります。最初は「間に合わないです」と言われ続けたんですけど、何度も「でもこうしたら行けるんじゃないですか?」と現実的な方法を話し合って、最終的には各方面に折れてもらって実現できました。
石原
モバイル向けに用意したシナリオや収録した音声は、すでにすさまじい量があったんです。でも家庭用ゲーム機で出すと決めた時点で体験が大きく変わることになり、両者で共通するエピソードもありますが、全体の流れのなかで使えるデータは限られていました。 時間もないなかで「録り直すしかない」となったとき、“登場キャラクターの数を絞る”というのは現実的にありえる判断でした。けれど『シャインポスト』のゲームを待っている方がいて、そういった方々に向けて「ゲームには新キャラクターが登場します!」という発表もしていましたから、「出なくなりました」と言うわけには行きませんよね。 声優さんたちもがんばってくださっていたので、恩に報いなきゃいけない。やるしかないですよね。
永島
なかなかゲームの新情報をお届けする事ができない中で、X(旧Twitter)とかを見るわけですよ。そうするとファンの方がつぶやいているんですよね。「いつ出るんだ?」と。中には「『シャインポスト』公式アカウントが誕生日お祝いbot化してしまった……」といった嘆きの声もあったり。 ――出せる情報がないから、キャラクターの誕生日に「おめでとう!」としかつぶやけなかった時期があったわけですね。
永島
でも、そうやってイジってくださる方がいるのはありがたいですよね。期待の裏返しなんだと思ったら、ここまで待たせてしまったからには裏切るようなことはできないです。待ってくれている皆さんが望むアイドルは必ず全員登場させなきゃ、と思いましたね。
アイドル23人の総登場は、制作チームの意地とプライドを懸けて実現したものだった。
――ゲームで新たに登場するのは“ひまわりシンフォニー”と“LAUGH DiAMOND(ラフダイヤモンド)”の合わせて8人のアイドルですよね。
石原
ひまわりシンフォニーは2022年の東京ゲームショウで発表したユニットで、運営型ゲームのころは“初期から登場はしているけれど、数ヵ月後に育成可能キャラクターとして実装される”という立ち位置を想定していました。 LAUGH DiAMONDはサービス開始の1年後くらいに登場させようと思って、ずっと内緒にしていたユニットでした。なのでシナリオもほぼゼロの状態、プロットくらいしかない。音声も歌もダンスも用意できていない。ないない尽くしのなかで家庭用ゲーム機への移行が決まったんです。 ――そのまま登場しないことにすれば、当然そのぶんの制作費は抑えられるはずだとしても、未発表のユニットも登場させる決断をしたんですね。
石原
やっぱり演者さんたちは「いつか発表がある」と思って収録に臨んでくれていますし、僕らにも生み出した子たちへの愛情はありますからね。ただ、発表もまだしていないキャラクターなので、登場させるなら話題性を出したいというのがもうひとつの課題でした。 “歌もまだない”という状況も踏まえて考えたのが“AI歌声ライブラリ”として先にリリースすることだったんです。ボーカロイドのような展開を先にしてから「『シャインポスト』のキャラクターでした」と発表すれば“ゼロじゃない”状態からの加入にできるかもしれないと思って展開することにしました。
VIDEO
――『シャインポスト』ありきのプロジェクトだったんですね。
石原
AI歌声ライブラリとしてのLAUGH DiAMONDのストーリーがあるんです。 それは、芸能事務所に入ったはいいけれど、これが非常に杜撰な運営。「いつかデビューさせてあげるよ」とか甘いことを言っておきながら、突然倒産してしまう……というところから始まるんです。 事務所もなくなっちゃって、歌もない。けれど、せっかく出会った彼女たちは、「何かやりたい」という強い気持ちを持っている。それで「皆さんが作った歌を歌わせてください」と、彼女たちがいろいろな曲を歌ってくれます、というプロジェクトなんです。 ――おお、なんというかそれは……
石原
完全なメタなんですよね。現実そのまま。“私(石原P)が杜撰なせいで、彼女たちは本来進むべき道を閉ざされてしまった”という…… ――現実での開発の状況とリンクしているわけですね。
石原
結果的に『シャインポスト』のなかでも毛色の違う活動ができているので、やっておいてよかったなと思っています。
当事者になることで初めてわかる“アイドルが生み出す熱量”をゲームデザインに落とし込むということ ――Nintendo Switch 2用タイトルとして生まれ変わった『シャインポスト Be Your アイドル!』はどういったコンセプトのアイドルゲームになったのでしょう?
石原
企画初期のコンセプトは「夢か? お金か?」というものでした。 ――ああ、ゲームをプレイしていると共感できます。けっこうシビアなんですよね。
石原
そのままだと言葉が強すぎるので、いまは「夢と現実のあいだで葛藤する経営シミュレーションゲームです」みたいな伝えかたをすることが多いですね。でも本質は変わっていません。 『シャインポスト』は小説やアニメも含めてすべて、“アイドルたちが現実に立ち向かい、ときに挫折を味わいながら、それでも夢を叶えようとする姿を外側から応援する”といったものになっていますよね。とはいえ、これまで世に出てきた媒体では、“現実”と言える部分の多くは描かれていなかったわけです。 たとえば『シャインポスト』ではリアルライブを何度か開催していますけど、会場を押さえるのも、衣装制作も、楽曲制作にもお金が掛かっています。演者がダンスを覚える“振り入れ”にもお金が掛かるし、レッスンをするとなったらスタジオ代も必要です。 それらをうまいことやりくりしている裏方の人がいるからアイドルは輝いているという現実も含めてゲームデザインに落とし込んだら、ありそうでなかったものができるんじゃないか? と、そんなディスカッションをしつつ、永島からの提案もコンセプトに取り入れて形になっていったのが現在のゲームです。
永島
僕は石原と違って『シャインポスト』に携わるまで、ほとんどアイドルのことを知らなかったんです。なので最初のころは「なぜファンの人たちは彼女たちのことをこんなにも熱心に応援するんだろう?」という理由が、芯からはわかりませんでした。 もちろん表面的には、アイドルの子たちはかわいいし、歌って踊れるというすごいスキルを持っているけど、きらびやかなステージでライブをする子たちはその時点である意味“超勝ち組”みたいに見えたというか。わざわざ応援するのが最初は不思議だったんです。 でも、ゲームに携わることになってから『シャインポスト』のリアルライブや、それ以外にも結成したばかりのアイドルさんを追いかけてみたりしているうちに「あれ? アイドルグループって、解散しまくっているんだ」と気付きました。「僕が知っていた大きなステージで歌って踊るアイドルさんたちってほんのひと握りだったんだ」と、握手会に自分しか来ていないみたいな現場にも足を運んでいくうちに気付いたんです。 ――かなり深めの地下アイドルのライブにも行ったんですね。
永島
そんな中でがんばっている子たちが、「自分たちの応援次第で大きなステージでライブできるようになるかもしれない」と思うと、初めてファンの人たちの熱量の正体が少しわかったんです。ましてや武道館のステージに立つなんてことがあったら、言葉に言い表せない感動があるだろうと。 「現実にこういう体験・こういう世界があるのであれば、石原がずっと描こうとしていた“アイドルの熱量”をゲームとして表現できるんじゃないか?」と思い、それがこのゲームのコンセプトを考えるときに根っこになりました。
石原
アイドルってキラキラした部分は画面越しでも伝わってきますけど、“熱”みたいなものってライブ会場や現場に足を運ばないとなかなか伝わってこないんですよね。その熱が何から生まれているかといったら、ファンはアイドルをただ見ているだけじゃないんですよ。チケットを買って、足を運んで、グッズを買って、声を出して、サイリウムを振って、自らが参加することで熱量が生まれているんです。 その行動によって、傍観者ではなく当事者になっていくんですよね。この“当事者意識を持つことで生まれる熱量”みたいなものをゲームシステムに取り込んでいるのが『シャインポスト Be Your アイドル!』のポイントになります。 たとえば“目の前で泣いている女の子を無視する”のが最適解かもしれないとき、当事者から一歩引いた視点でいられたら、ドライな選択もしやすいんですよ。でも泣いているのがずっとその成長を見守ってきた子だったら、無視することはできないはずです。 でも、その後ろには“経営”というものがあるわけで、「どうしよう!」というジレンマ、葛藤は当事者意識を持つことで初めて生まれますよね。この葛藤が生まれるシステムというのが、テーマとの相性もよかったんじゃないかとゲームが完成したいま改めて思っています。
――構想期間が長かったということですが、その間にもゲームやアニメでさまざまな“アイドルモノ作品”のヒット作が登場しました。中には“地下アイドルモノ”というような作品もありますが、ある意味同じ土俵で戦うライバルが年々増えていくことに対して「やめてくれー!」みたいな気持ちはありませんでしたか?
石原
それはまったくなかったです。 現実のアイドル文化がメジャーなものになったこと自体が最近のことだと思うんです。僕たちがライブ現場に行っていたころはまだ一般の人からは「えっ?」みたいな、ちょっと引いた目で見られることも多かったですから。 かつては“日の目を見ていない文化”であること自体のエモさもあったと思うんですけど、それこそ“ももいろクローバー”が観客500人くらいのステージに立っていたころから、やがてももいろクローバーZになって国立競技場で2Daysのライブ(※)を開催する過程とか、どんどんメジャーな文化になっていくのを見てきているんです。
※……“ももクロ春の一大事2014 国立競技場大会~NEVER ENDING ADVENTURE 夢の向こうへ~”。2014年3月に開催されたももいろクローバーZのライブ。女性グループ初の国立競技場ライブとなった。 「朝の情報番組にももクロが出てる!?」とか、「布袋寅泰が曲を書く!?」とか。徐々に一般人気が高まっていく変遷をずっと見てきているので。 ――どんどん大きな存在になっていくダイナミズムみたいなものをリアルタイムで追いかけていたんですね。
石原
最初はふつうの女の子だったキャラクターが、トップアイドルに上り詰めるという過程を描いていったゲームって、ありそうでなかったと思うんです。
――世に出ているアイドルやアニメについて、永島さんも「これを見ろ!」と言われたりしたんでしょうか?
永島
すごかったですよ! “アイドル”というものを理解するための資料は非常に充実していました。このくらい(両手を広げながら)、ひとりぶんの作業デスクまるまる、アイドルに関する書籍やBlu-rayやCDが山のように置かれていましたから。 どこまでが資料用に購入したもので、どこからが石原の私物なのかわかりませんが(笑)。 ――“アイドルデスク”が。
永島
「ここにあるものくらいはすべて知っておくべきだ」という、言外の圧を感じました。存在感がありましたね。 ――(笑)。
永島
どんなゲームにするか議論していくなかで、アイドルにまつわるさまざまな用語が出てくるんですけど、やっぱり最低限の知識がないと、「なんで知らないの?」みたいな空気になるんですよ(苦笑)。
石原
池袋サンシャインシティでライブをするということが意味するエモさとか、すごさ、怖さとかがわかっていないと、観客は1階にしかいないのか、2階、3階まで埋まっているのかみたいなところから生じる温度感とかもわからないわけですよ。それは「ここまで埋まっていないとエモさが出ないよ」とか、ひとつひとつ図解して、説明していきました。 ――ああー。あの吹き抜けになっている1階にライブステージがあって、眼の前の1階には熱心なファンが詰めかけても、2階と3階はふつうのショッピングモールの通路のような状態ですから、そのお客さんまで足を止めて見てしまうのか、それともスルーされてしまうのか。または熱心なファンがライブ開始前から3階まで詰めかけているのか。「池袋サンシャインシティでライブをする」とひと口に言っても、それはそれぞれ違いますよね。
石原
そうです。あの環境で3階まで埋め尽くされて熱心に見てくれたら、それをデビュー数ヵ月で達成したらすごいよねとか。もちろん数年続けたことでそうなったというのもまたエモさがあるんですけど……みたいな話の“アイドルが駆け抜けていく時間”の感覚って僕のなかにしかないので、小説版、アニメ版、それからゲーム版と機会があるたびに、何人に説明したかわからないくらい説明してきました。 やっぱり目指す“スター”がいて、そこを目指していくという構図が素敵だと思っているんです。現実のアイドルでも、みんな子どものころから観てきたアイドルに憧れて、マネしてダンスを踊ったり、握手会にファンとして参加していたような子たちが、オーディションを受け、合格し、大好きだった本人といっしょにステージに立ったり。そしてその先輩は卒業しちゃうんだけど、想いを受け継いでいって……。 ――最初は初々しかった子がやがてエースになったり。
石原
それって、アイドルっていうコンテンツが特別なのではなく、人間そのものや人間関係の魅力で、それが愛すべき何かだと思っているから、「これは普遍的なテーマだ」って革新しているんですよ。 ――スポーツでも、光るものを持っている若い選手を二軍時代から注目していて、その選手が一軍入りして活躍すると、その過程を知っているとよりグッと来たりとか。
永島
僕は格闘技が好きで、選手を応援しているんですけど、スポーツ選手もアイドルもピークは短いとされているなか、それに懸ける、その生き様がカッコいいんですよね。 “初めて武道館に立った”というアイドルさんがライブ中のMCで言葉が詰まっちゃって、それをときどき声援を送りながら固唾をのんで見守るファンの人たち、といった光景を目の当たりにしたとき、人生の中で短い数年間にすべてを懸けるような、その生き様に惹かれる感覚がありました。
石原
まさに、僕は“アイドル讃歌”とよく言っているんですけど、それはアイドルに限らない普遍的なものだと思っています。努力はし続けないと芽は絶対に出ないんですけど、努力している人も才能がある人もたくさんいて、そのなかでどう輝くか? というのを見ている人が必ずいて、やがて晴れ舞台を目の当たりにできたらそこにはすごい熱量が生まれますよね。 このテーマは『シャインポスト』全体で持ち続けているものですけど、ゲームではよりシビアに踏み込んでいます。「当事者のあなた(プレイヤー)がいい加減なことをしてひどい結果になったのなら、その責任はすべてあなたが背負うしかないですよ」と。
このゲームバランスが本当にひどい(褒め言葉)。みんなに夢を叶えてほしいのに、1周目から全員を幸せにするのは絶望的な難度。けど挫けないでほしい ――小説では読者、アニメでは視聴者だったものが、ゲームではプレイヤーとなって“経営者兼マネージャー”ですからね。アイドルたちの未来を文字通り左右するような裁量権を持つことになります。
永島
アイドルたちの生き様を蔑ろにするようなことだってゲームシステムとしてできてしまうんですよね。経営、お金の問題や何か理由を付けて彼女たちの夢を大事にしない選択を取るのか、それともどんな理由があっても、経営が苦しくても自分はこの子を応援し続けるんだと貫くのか。 “プレイヤーの価値観を問う”ことができれば、数々の困難を乗り越えて夢を叶えたキャラクターに対して、僕が武道館で目の当たりにした、言葉にできない熱い一体感のようなものがゲーム体験として生み出せるんじゃないかと思ったんです。
石原
メインモードはマルチエンディングになっているのですが、これも同じ理由です。「あなたの責任で選択してきた結果がこの結末です」とわかりやすく提示する必要がありますから。 ――つらい!(笑) エンディングはアイドルたちが武道館ライブを達成できたかどうかで決まるのでしょうか?
永島
ゲーム全体としてのエンディングが6種類と、23人のアイドル全員それぞれに夢を叶えられたかどうかによって変化するエンディングが用意されています。
石原
プレイヤーの分身である主人公の台詞にも、ゲームの状況が反映されるようになっています。もともと主人公ってアイドルオタクなので、「俺がアイドルたちの夢を叶えるんだ!」みたいに台詞もキラキラしてるんですけど、よくないエンディングのほうだと冷たい口調になっているんですよね。 でも、それって本人には自覚がないんです。「だってこうしなきゃ事務所が倒産しちゃうんだ」と、よかれと思って選んできた選択ではあるので。悪人ではないんだけど、ただ当初のキラキラした理想はいつの間にか失ってしまったリアリストなんですよね。 ――あまりに悲惨だと心が折れそうですが、折れずに立ち上がってほかのパターンも観てほしいですよね。
石原
「こんなはずじゃなかった!」の気持ちをバネに再挑戦していただけることを願っています。このゲームって1回のプレイで学べることが多いので、何度かプレイしているうちに“自分なりの歩きかた”みたいなものが見付かるんじゃないかと思います。何回プレイしてもバッドエンドになってしまうのであれば、なにかにこだわりすぎてしまっているのかもしれません。愛が強すぎるのか、アイドルたちに意識が向いていないのか。どちらも大事なゲームですから。
――夢を叶えるために現実もしっかり見据えなければいけない、という点が表現されていますよね。プレイ2年目くらいからかなりその重圧に押し潰されそうになりました(苦笑)。
石原
2年目くらいからいろいろたいへんになるように設計しています。2期生が入ってきて、1期生も育って大きなハコでライブがしたいとなると、何をするにもお金が掛かる。ずっとヌルいペースで遊べるバランスだと葛藤が生まれないので、しっかり慌ててほしいなと(笑)。
永島
家庭用ゲーム機向けになってゲームの目的が変わったので、“プレイヤーの価値観を問い続ける”っていう体験を作るために“プレイヤーに与えられた期限は5年、アイドルたちは3年”とタイムリミットにギャップを付けて、“プレイヤーより先にアイドルたちが焦りはじめる”作りにしました。 ――ままならないというか皮肉に感じるのが、とくに気に入ったキャラクターをオーディションで真っ先に選ぶと、1期生になったアイドルが、弱小事務所の中でもっとも苦労することになるところですよね……。
永島
おっしゃるとおりで、それは狙ってやっています。 ――狙ってるんだ。
永島
最初に採用して「武道館を目指します!」と意気込んだ子たちの練習する場所が“ぬかるんだ公園”で、泥だらけになりながらがんばってくれている。そうすると“経営者はドライに判断しなくちゃ”とは言っていられませんよね。「アイドルたちのために自分がいまできることは何だろう?」と考えてほしいなと。 ――あと、そもそもシンプルに、けっこう難しいですよね? 本作。
石原
そうですね(笑)。ただ、バッドエンドもそれはそれで読みごたえのあるものになっていますし、失敗からも学べることが多いゲームです。ベストな結果は無理そうに感じても、まずは一度5年間を走りきってみてほしいですね。アイドルたちがどんなひどい目に遭っていくのかを目の当たりにしながら、自分の選択の責任を受け止めて2周目に挑んでみてください。確実に1周目とはだいぶ異なったゲームプレイになると思いますので。 いちばんいいエンディングを見るための難度はかなり高めだと思います。でも1期生を犠牲にするような選択をすれば2期生は武道館に行きやすくなりますし、2期生が切り拓いた道を3期生はさらに楽に進むことができます。 ――ぬかるんだ公園なんかじゃなく、最初からしっかりお金を掛けたスタジオで練習できる2期生、3期生はステータスも上がりやすくなりますからね……。
石原
不満を口にしている先輩たちを無視して3期生だけ優遇して武道館を目指してもらう、みたいなことをすれば3期生の武道館ライブ達成はそこまで難しくはありません。まずは“誰かしらを武道館に連れて行く”というのを目標にしていただければと思います。
永島
1回目のプレイでベストエンディングにたどり着けることを想定したゲームデザインではないので、何度も試行錯誤してゲームの仕組みを把握していってほしいです。
――ゲーム内にアイドルたちとの会話イベントが用意されていて、ここで彼女たちの人となりや夢への想いなどを知ってしまうと、“踏み台”みたいにしてしまうこともなかなかできないですよね。ひとりひとりの匿名性がもっと高ければ冷酷な判断もしやすいのですが、このあたりのバランスが……このゲームはひどいな……と。あっ、褒め言葉なんです!
石原
(笑)。わかります。そこも絶妙なものになるように調整しました。 会話をすることでそのアイドルのパラメーターが上がるんですよね。ひとりのアイドルとの会話イベントを5回見るとそのアイドルが覚醒して大幅なステータス向上にもつながるので、自ずとコミュニケーションを取りに行ったほうがいいゲームデザインになっているんです。 でも会話を重ねるほど思い入れが生まれます。「家族がみんなでいっしょに暮らすためにアイドルをやっている」と言われると、「叶えてあげなきゃ!」って思わされますよね。会話イベントはアイドルひとりひとりが記憶に残るようなラインを考えて、多すぎず少なすぎない絶妙な量になるよう心掛けました。多すぎるとテンポが悪くなる、でも少なすぎると思い入れが残らなくて後ろ髪を引かれない。ここのバランスはだいぶ調整しましたね。あとはステータスの上がり幅も。 シミュレーションゲームとしての経営に重きを置いている人のなかには、アイドルとの交流には興味がない人も一定数いるんですよね。そういったプレイヤーのことも踏まえて“会話もちゃんとしたほうがゲームとしてもメリットが大きい、そこでどうしても情が生まれてしまう”というバランスにしました。
攻略にちょっと役立つ話。“小夢さんの言葉はよく聞くべし”など ――攻略的な部分もお聞きします。ジレンマが生まれるゲームバランスのなかでも、「これは最初にやっておいたほうがいい」とか「忘れずにやっておくべき」みたいな鉄板要素があれば教えていただきたいです。
永島
先ほども少し話題に出ましたけど、ゲームの最序盤だと公園でダンスの練習をしていたり、カラオケルームで歌の練習をしていたり、休憩室がガレージの裏だったりするんですよね。当然、「まずは資金を充実させたい」といった方針もアリなんですけど、夢を叶えることを目指すならば、ダンスならダンス、歌なら歌と、どんなアイドルグループにしたいかによって早めに施設の強化を検討するのがいいかなと思います。
石原
とくに初めてプレイする方は小夢さん(※)の発言をよく聞いていただきたいですね。通常の会話でも重要なことをサラリと言っていたり、なにか選ぶときに画面上にポップアップして喋っていることとかもTIPSやヒントになっているので。たとえばライブを開催するときは、成功率の指針や課題になっていることをしゃべってくれているんですよね。
和泉野小夢(声:豊崎愛生)。ゲーム内で主人公が立ち上げたアイドル事務所でダンス講師を努めているキャラクター。
――プレイしていて、ユニットがしばらくクラスアップできない停滞感による“メンタル不調”が頻発してかなりきびしい状況になってしまったのですが、対処するにはどうしたらよいのでしょう?
永島
アイドルたちのメンタル不調の根っこはすべて「夢が叶わないかもしれない」ことによる“焦り”です。早めに最初の山となるクラスアップができたとき、その次のクラスアップまでに間隔が空いたりしてしまうと、“成長不安”みたいなものをアイドルたちが感じやすいシステムになっています。 そういうときに試してみていただきたいのですが、クラスアップに挑戦できる大きなハコでのライブを行うと、クラスアップの条件は満たせなくても大きなライブができたことで多少なり不安が解消されるんです。なので、失敗を恐れずにどんどんチャレンジしていただくのがいいのかなと思います。アグレッシブに挑戦したほうが有利になるゲームデザインにはなっていますので。 ――オーディションで最初に選ぶアイドルによってゲームの難易度は変わったりするんでしょうか?
永島
そこまで大きくは変わらないので、お好みで選んでいただいて大丈夫です。特定のキャラクターどうしの組み合わせでしか発生しない会話イベントなどもあるので、「この子とこの子のやりとりが見てみたい」みたいな視点で選んでいただいてもいいのかなと思います。
石原
あとは、たとえばダンスが得意なアイドルどうしでユニットを組むと、“ダンスの能力が上がる衣装で、ダンスを活かせる楽曲と組み合わせよう”みたいに自ずと選択の幅が絞られます。衣装を作るにも、楽曲を作るにもお金が掛かって、手広く投資することは難しいので、「このグループはこれを武器に勝負するんだ」みたいな攻略の足掛かりは作りやすいと思いますね。 とはいえ、永島が言った通りどんな組み合わせでもちゃんとクリアーできるので、ビジュアルで選ぶのも、「この子とこの子を同じユニットにしたい!」という発想で選ぶのも、自由です。
世界でKONAMIしかやっていない(かも)AI歌声ライブラリ開発 ――AI歌声ライブラリの技術について、改めて教えてください。
※AI歌声ライブラリ……本作のライブシーンで活用されている技術。各キャラクターを演じる声優さんにさまざまな歌を歌ってもらい収録しライブラリデータを制作。そこにAI技術を組み合わせることで、ヘタな歌いかたやそれなりの歌唱能力、じょうずな歌手の歌いかたなどさまざまな歌唱表現を可能としている。詳しくはファミ通.comの関連記事をチェック。 石原
AI歌声ライブラリは、『シャインポスト』の構想が始まった直後くらいから考えていたものでした。それによってアイドルたちの段階的な成長や、調子のいい・悪い、個性などの表現がしやすくなるのが利点です。もしこれをすべて生でやろうとするとすさまじい収録量になりますから。 AIに関する議論が広まってきたいま発表するにあたって、もっとネガティブな反応もありえると思っていました。そういったことも想定した上で“使う人も、関わる人も、演者さんも安心できる”状態で利用するために、権利まわりやギャランティーをクリアにすることをとても大事に進めてきたプロジェクトになります。 AIの学習って、破綻しないように何度か撮り直してうまく歌えたテイクを採用したり、なんなら人力でピッチを直したものを使ったりが一般的だと思うのですが、今回の手法は世界でKONAMIしかやっていないことをやっているのかも? と思います。AI歌声自体は他社さんからもいろいろ出ているんですけど、うちは“学習のさせかた”が独特なんですよね。 「歌がうまいのが最高のアイドルの条件なのか?」といったら、べつにそうじゃないと。歌がうまくなくても魅力的なアイドルはたくさんいて、そこに対する向き合いかたがカッコいいか、その人間としてのあり様がアイドルの魅力なんだ、みたいな話があると思うんですけど。 AIに学習させるための音声収録では「好きな曲を選んでください」と事前にお伝えしてそれらの曲を歌ってもらい、カラオケのように楽しんでもらいながら収録しました。
――へえぇ。興味深い作りかたですね。楽曲選択も指定せずに、完全に声優さんが自由に選んだんですか? あまりジャンルが偏ると支障があるので、多少の条件はありましたけど、基本は好きな曲で。だからキャストさんによっては自分の持ち歌を歌われるかたもいて、「イベントでもないのにこれをこんな間近で聴いちゃっていいのか? いや、お仕事として依頼してるんだからいいのか」みたいな気持ちになりました(笑)。――石原プロデューサーが思うアイドルらしい音声を突き詰めたものが『シャインポスト』のライブシーンで活かされているんですね。
石原
その通りです。AIの技術革新は『シャインポスト』が取り入れて以降も日進月歩で、いまや歌を学習させる必要すらないものがあったり、他人の歌を学習元にしても破綻なく学習させることもできるんですけど、我々が運用した時代ならではの独自性にはなっているんじゃないかと思います。
『パワプロ』、『ときメモ』のDNA。KONAMIシミュレーションの系譜 僕、私、俺、儂(わい)、妾(わらわ)、余(よ)、朕(ちん)、麿(まろ)の8種類から一人称を選択できる。
――プレイ冒頭、ちょっと笑ってしまったところについても追求させてください。主人公の一人称が変なものも含めて8種類も用意されているのはなぜなのでしょう? かつての『パワプロ』を思い出すという反応もありましたが。
永島
最初は“僕”、“俺”、“私”の3種類だったんですけど、それだと少ないのと、せっかくなのでふざけたくなっちゃって。 ――「ふざけたくなっちゃって」(笑)。
永島
チーム内で「思わず名乗ってみたくなる一人称って何?」と意見を募ってみたところいろいろ出たんですけど、システム的に1文字じゃないと入らないんですよ。1文字でクセが強い、おもしろそうな一人称の案を模索して、最終的にあの8種類になりました。 ――おお。それで言うと、『ときめきメモリアル』もまた女の子との恋愛という一見甘い見た目をしていながら、数字の上下に一喜一憂するシミュレーション部分が遊びの本質であるという点で、本作とも共通点がありますよね。KONAMIのシミュレーションゲームというところで『ときメモ』を意識した部分もあったのでしょうか?
永島
具体的に「本作のここが『 ときメモ 』の影響を受けている」ということはないですね。ただ、『ときメモ』は僕が子どものころに衝撃を受けたゲームなのは確かです。 ――とくに意中のキャラクターは? やっぱり藤崎詩織? 永島
藤崎先生は……好きだったんですけど、子どものころはいっさい詩織エンドにはたどり着けなかったんですよ。先日リマスター版が出て、「さすがに仕組みもわかっているし、イケるだろう!」と思って2回挑戦したんですけど、ぜんぜん駄目で! ――あははは(笑)。
永島
キレ散らかしそうになりましたね。“爆弾システム”って、なんてエグイものを入れてくれたんだみたいな(笑)。「これはさすがに藤崎詩織が来るだろ!」と思ったのに想像してなかった子が来て。 ――いまでも熱中してしまうほど大きな存在だということですね。
永島
まだ最新ハードが一家に1台あるような時代ではなかったので、友だちの弟が『ときメモ』を買ったと聞いて、彼の家に入り浸ってやいのやいの言いながらプレイしていましたね。「お前そこはそっちじゃないだろ!」とか言い合いながら。その弟さんとはそれまでそんなに交流があったわけでもないのに。 ――みんなで遊んでも楽しいゲームですよね。
石原
永島もそうですけど、現在のKONAMIという会社自体が『ときメモ』や『 パワプロ 』、『ラブプラス』などのシミュレーションゲームを過去に体験した人間が集まっている部分があるので、このジャンルに対して強い想いを持っているスタッフが絶対数として多いんだとは思いますね。『シャインポスト』のチームのなかにも何人かいますし、僕らの矜持として、過去に名作がたくさんあるなかで「しょうもないものを作ることは許されないな」という想いも強いです。 永島
絶対に許されないですね。
石原
お客さまの期待値が高いこともわかっていますし、シミュレーションゲームとしての品質はしっかりしたものを届けるのが大前提としてあります。 ――「ただ可愛い女の子たちが出てくるゲームなんでしょ?」みたいに思われるかもしれないけど、ガチガチに数字に悩むゲームなんですよと。
石原
“かわいい”だけではないですよね。
永島
油断してプレイするとシビアさにかなりビビるかもしれないです。
石原
プレイヤーにデレる、みたいなところを目的としたゲームではないですし。ただ、一応“デレ”の要素がまったくないわけではないです。いいエンディングになるとそういうシーンもちょろっとあります。 ただ、本来はアイドル文化自体がそういうところはダメじゃないですか、アイドルとマネージャーがお付き合いするというのは。 ――確かにそうですよね。
石原
私としても当初そこは踏み込むべきじゃないと考えていたんです。社内から「シナリオを書くにあたって、主人公とアイドルは恋愛オーケーですか?」と質問が出てきたときは、私自身にそういう発想がいっさいありませんでしたから、質問自体に驚きましたね。 ――そのときはどう答えたんですか?
石原
(ものすごい真顔で)「ハァ!?」って。 ――がははは!!(笑)
石原
「じゃあどこまでなら描いていいんですか?」と聞かれて空気がピリッとするみたいな。シナリオを統括する立場にあるスタッフ(リードプランナー)がいて、彼がいまは『シャインポスト』でアイドルもののシナリオを書いているんですけど。 「最後はそういう(恋愛)要素が絶対に欲しい」と言うんです。じゃあ、「恋愛関係ではまったくないという前提で、ここまでの描写だったらオーケーです」と伝えて上がってきたものを読んでみて、「うーん、伝えた通りではあるんだけど、現実で考えたらこのつぎの週くらいによくないことになっているから、ちょっと変えてほしい」という話をしたり。 ――ナントカ砲を食らっちゃいそうですよね。
石原
『シャインポスト』において、マネージャー(主人公)とアイドルが仲よくなる描写はどこまで許されるか。このあたりもやっぱり僕のなかにしか物差しがないんですよね。
永島
軽めの会議のはずが、キャラクターごとのエピローグの話になると、石原とそのリードプランナーで3時間くらいずっと言い合っているんですよ。 ――白熱した議論が。
永島
決まらない、まとまらない、どちらも譲らない(苦笑)。
石原
仕上がったシナリオでは、結果的に「この描きかたならいいだろう」という落としどころになったと思っているので、そこはぜひその目で確かめていただきたいです。そのリードプランナーも当初はアイドル文化に詳しい人間ではなかったのですけど、彼のようなシナリオライターはとにかく勉強するんですよね。インプットの量が凄まじいので、おそらくアイドルの芯の部分は理解していると思います。 ――結末として“デレ”は描きつつも、アイドルの芯は外さないシナリオを実現できたと。
永島
僕が合流したころには「インディーアイドルグループのこの子がいいんですよ」みたいにそのリードプランナーからドヤられたことがあるので、かなりのめり込んでいたみたいです。
――ちなみに、周回プレイにおける引き継ぎ要素はとくにないんですよね?
永島
そうですね、アイドルの能力や事務所の成長、所持金などの引き継ぎ要素はなく、純粋なニューゲームになります。
石原
付け加えるなら、ライブビューワーのモードで選択できるアイドルや衣装、曲などはメインモードでエンディングまで見届けたデータが反映されるので、このモードのアイドルたちの解禁がごほうびになっています。 ――あくまでメインモードはプレイヤー自身がゲームを深く理解することでプレイが楽になるというのを純粋に追求するゲームデザインなんですね。
永島
引き継ぎ要素によって少しずつゲームが楽になるような仕様の有無も含め、バランスはすごく悩みました。でも、いちばんの核にある“あなたはいついかなる状況でも彼女たちの夢を応援できるのか?”という問い掛けをしっかり受け取ってもらうには、難しいかもしれないけどこのバランスで行かせてほしい、という結論になりました。 ――『パワプロ』のサクセスモードにさえ“引き継ぎ選手”とかがいるのに、本作ではもっとハードコアなゲームデザインになっているという(笑)。
永島
けっこう仕様が決まってから各所から連絡が……それこそ『パワプロ』シリーズに関わっている知り合いからも「ここはこうすべきなんじゃないか?」みたいな話は直接あったんですけど、「いや、今回はこれで行かせてくれ!」と押し切りました。難度を緩くしたバージョンでもプレイしてみたのですが、「これは違うな」と感じたので。 ――藤崎詩織にキレた永島さんが、今度は『シャインポスト』のプレイヤーにキレられる番かもしれません。
永島
プレイしていくうちにコツがつかめてくるはずなので、諦めずがんばってください!
石原Pが水着をジャッジした理由 ――ところで、ステージ衣装がどれも非常にかわいいですよね。アニメ『シャインポスト』では、AKBグループなどの衣装を手掛けたオサレカンパニー(※)がデザインしているとお聞きしました。ゲームでも引き続き?
※オサレカンパニー……エンターテインメント業界に特化し、ハイクオリティな衣装・装飾品のデザイン、制作を行っている企業。AKB48グループ専属の衣装・スタイリングチームを前身としている。 石原
基本的にはすべてオサレカンパニーさんにお願いしています。 ――なるほど。とくに「おっ」と思ったのが水着衣装なんですけど、フリフリが多くてかわいいものや、程よいセクシーさのものなど、かなり意識的にあまり露出を強調しないデザインにしているのかなと感じました。
石原
水着のデザインだけはちょっと出自が違うんですけど、“アリかナシか”の判断は全部僕がしています。水着ってすごくモラルやリテラシーが出る部分で、とにかく“かわいいかどうか”よりも“アリかナシか”というのをアイドルファンの方にはきびしくジャッジされるものだと思うんです。 『ラブプラス』のときはネタ枠も含めてコスチュームでけっこう遊んだところがありました。でもアイドルというテーマにおいては、水着のデザインひとつで台無しになってしまう危険性もあるので、「これだとアイドルさんが身に着けるべき水着ではありません」とか、かなり口うるさく見させていただいています。 「ここはもっと隠してほしい」とか「ここにコサージュを入れてかわいさを出したいよね」とか。そのあたりはあくまで爽やかに行きたいアイドルコンテンツなので。 ――「水着として出てくるのがこういうデザインなら安心してプレイできる」という人もけっこう多いんじゃないかなと思えるデザインでした。ちなみに入手に掛かる金額がほかの衣装と比べて高額ですが、そのぶん特殊な能力があったりは?
石原
そういうことはありません。 ――ではそこは「着せたい人はがんばってね」ということで。
“ヒロインストーリーズ”は約8時間×4の大ボリューム。「1キャラだけでも」→ 4キャラぶんできていた ――話題を変えて、小説やアニメから応援してきた従来のファンに対してのアピールポイントを教えてください。
石原
これはもう、“ヒロインストーリーズ”です。 フルボイスのノベルゲームのような、読んで聴くだけのモードなんですけど、小説やアニメで描ききれていなかった『シャインポスト』の物語を描いています。小説・アニメと同じ世界設定なので主人公が“嘘を見破る能力”を持っていたり、優希社長や春の幼なじみの誉といったキャラクターが出てきたりします。 if設定ではありつつ、限りなく近い世界の物語が体験できて、かつアニメではフォーカスされなかった子たちの視点で描かれるので、きっと楽しんでいただけるんじゃないかと思います。 ――新規のシーンがかなりたくさんあると考えていいんでしょうか?
石原
皆さんがまったく見たことがない話ばかりだと思いますよ。だからファンであればあるほど読んでいておもしろいはずですし、ゲームで初めて『シャインポスト』に触れて「この子かわいいな」と思ったアイドルのまた別の世界でのエピソードとして読んでいただくと楽しいのではないでしょうか。 ――ボーナストラック的に楽しんでいただくと。
石原
ボーナストラックにしてはボリュームがエグいですけどね。まともにボイスを全部聞いたらキャラクターごとに8時間くらいあって、それが4人ぶんありますから。
永島
ライブシーンなどもちゃんとありますからね。
石原
このモードができたのはモバイル版の開発時に収録した膨大なデータをお蔵入りにしたくなかったというのがあります。声優さんも素晴らしい演技をしてくださって、シナリオも原作小説の駱駝さんが書き下ろしてくださっているものだったので、こちらのもともとお届けしようと思っていた物語もぜひ堪能していただきたいですね。 制作チームにも無理を言って入れてもらったものなので。「お願いだから1キャラクターだけでも入れてくれ!」と言って。 ――あれ?
石原
「もう発売日も決まっているんですから無理ですよ!」と言われたところを「でもひとりだけでも入っていたらぜんぜん違うから」と説き伏せて、結果、なぜか4キャラクターぶんが入っているんですけど。 ――石原さんの剛腕プロデューサーっぷりが垣間見えますね。
石原
でも僕はひとりぶんしかお願いしてないんですけどね。
永島
最初に実装した1キャラクターは石原からの要望で、アニメでも描いた子だから、ということだったんです。そこから「いやでも、ここを描くならこのキャラクターの物語もあったほうがいいんじゃないか?」みたいになってきて、さまざまなバランスを考えて、「4人はいないと届けたいものが届かない」という結論になりました。気付けば、開発サイドもパワープレイをすることに……。 ――けっきょく開発チームみんな剛腕なのでは……?
石原
みんなががんばってくれたおかげですごく読み応えのあるモードになりました。
生ライブの開催やゲームのDLCは? 新展開の可能性 ――最後になりますが、ライブの開催やゲームのダウンロードコンテンツ(DLC)など、今後の『シャインポスト』の展開について、何か予定はあるでしょうか。
石原
10月にTINGSの3Dバーチャルライブがあります。『シャインポスト』初の3Dバーチャルライブになりますが、ゲームのモデルや背景のデータを制作会社さんに提供していて、3Dバーチャルライブの会社さんならではの仕組みや演出がどんなものになるのか、僕らも楽しみにしているところです。 キャストさんのキャリアもどんどん上がっていて、生ライブはなかなか気軽には開催できないんですけど、そんななかでもMCパートなどすべて録り下ろしになっています。僕のほうで監修もしていて、演出やセトリも楽しんでいただける構成になっていると思いますので、ご期待いただければと。 このあいだ、ゆきもじ(※)とLAUGH DiAMONDでの対バンライブも開催したんですけど、ああいった小規模のイベントを反応を見ながらやっていくのもおもしろいものになったと思いましたので、また何かやれたらなぁと。いつか大きなイベントができる日がきたら最高ですね。
※ゆきもじ……伊藤紅葉と祇園寺雪音のユニット。 『シャインポスト』ってすばらしいキャスト陣が揃ってくれた幸運なコンテンツなんですよ。 鈴代(紗弓)さんのインタビュー(※)でも「『シャインポスト』のライブは求められるレベルが高くてすごくハードなんですよ!」とおっしゃっていましたけど、正しくはそんなに求めていないんですよ。ご本人たちが「やるからには手を抜けないぞ!」とすごくこだわってくれるところに、周囲のスタッフが甘えてしまっている面はあるかもしれないですね。
※鈴代紗弓さんインタビューは『週刊ファミ通』2025年6月19日号(6月5日発売)に掲載中。近日中にファミ通.comにも掲載予定。 でもそうだなぁ、そういう空気感になっているいちばんの原因は振り付けを担当しているCRE8BOY(クリエイトボーイ)さんなんじゃないかと思うんです。「君たちならもっともっと上を目指せるよ!」、「いいじゃん! もっともっとできるよ!!」みたいにキャストさんを乗せるのがすごくうまくて、結果的にすさまじいものができ上がってくるんですよね。 ――乗せじょうず!
石原
そうしてでき上がった中野サンプラザでのライブは、いまだにお客さんたちが語ってくれているようなすばらしいものになりました。生ライブは必然的にあのレベルが期待されるので、なかなか気軽にはできません。でも、またいつか何かができたらいいですよね。いつかやりたいという気持ちはありますので、きっとゲームがたくさん売れれば未来の可能性も広がるんじゃないかなぁ……と思います。 ゲームに関してもまだお届けできていない物語が山のようにあるので、DLCなのか、また違った形になるのかはわかりませんが、こちらもお届けできたらいいな、という気持ちはあります。 ――実際に届けられるかはゲームの売れ行きと応援次第ということになりますね。最後に、改めてファンの皆様にお伝えしたいことがあればお願いします。
石原
すごくたくさんしゃべらせていただいたのでだいたいお伝えできたと思いますが、とにかく「お待たせしました」というのは最後にもう一度申し上げておきたいです。
永島
本当にたいへんお待たせしました。
石原
いまの僕らにできることはがんばって詰め込みましたので、手に取って楽しんでいただけたらうれしいですね。
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