『OW2』×『スト6』開発者インタビュー。ゼニヤッタはダルシムだった。波動拳エモートや車破壊ハイライトイントロなど小ネタも満載

byあぶ~山崎

『OW2』×『スト6』開発者インタビュー。ゼニヤッタはダルシムだった。波動拳エモートや車破壊ハイライトイントロなど小ネタも満載
 『オーバーウォッチ2』(OW2)にて『ストリートファイター6』(スト6)とのコラボが2025年5月21日より開始。ジュノが春麗、ウィドウメイカーがキャミィ、ハンゾーがリュウ、キリコがジュリ、ゼニヤッタがダルシム、ソルジャー76がガイル、ウィンストンがブランカ、シグマがベガに扮した計8種のスキンが実装される。

 本コラボの開催に合わせて『
OW2』のアソシエイトゲームディレクターを務めるアレック・ドーソン氏への単独インタビューも実施。『スト6』コラボのきっかけやコラボ頻度、スキンとキャラクターの選定理由などについて訊いてみた。
広告

Alec Dawsonアレック・ドーソン

『オーバーウォッチ2』のアソシエイトゲームディレクター。文中はアレック。

長年の夢だった『ストリートファイター』コラボ

――はじめに、先日まで『新機動戦記ガンダムW』とのコラボが開催されていましたが、反響はいかがだったでしょうか。

アレック
 『ガンダムW』とのコラボはとても反響があってよかったです。YouTubeのトレーラーのコメント欄にもファンからのポジティブな声が多く寄せられて好評でした。私たちが制作したスキンも『ガンダムW』への愛情や“らしさ”を存分に表現できたんじゃないかなと思います。

――今回『ストリートファイター6』とのコラボということで、決定までの経緯を教えてください。

アレック
 『OW』におけるコラボは、まず開発チームが“なにを愛しているか”から始まります。幼いころから見ていたり、ずっと情熱を注いできたりなどそういった作品への思いが根底にあるんですね。チーム内のチャットスペースには“どのIPとコラボしたいか”を聞く専用のチャンネルもあって、中でも『ストリートファイター』は私たちが長年コラボしたかった作品なんです。
[IMAGE]
 じつのところ、『OW』のアートスタイルは『ストリートファイター』に影響されており、原点といっても過言ではないでしょう。キャラクターのシルエットやアニメーションだけで個性を出す表現方法をこの作品から取り入れたので、コラボするとなったらチーム全体の熱気がすごかったです(笑)。

 コンセプトアーティストが作業しているときには、みんなでモニターをチラチラ覗き込みに行ったり、スキンを制作しているときも同じように様子を伺っていて、つねにワクワクした気持ちでしたね。
[IMAGE]
 内部プレイテストでは、開発メンバーがこぞって『ストリートファイター』スキンを装備して、シグマはほぼ全員ベガ化。私もウィンストンをプレイしているときは、ブランカのスキンで遊んでいます。ブランカは自分のお気に入りキャラクターなので。大好きなふたつのゲームがコラボするなんていまだに信じられません。
[IMAGE]
――コラボへの第一歩は作品愛なのですね。ではそこから実際に動き出す場合、どのような流れで進んでいくのでしょうか。

アレック
 ここからが本番で、いくつかの要素や条件が関わってきます。たとえば“何体分のスキンが現実的に作れるのか”、そして“そのIPのキャラを『OW』の世界に自然に落とし込めるか”などです。

 そのため、コラボに向けて動き出す前から、美術チームがラフを描いてスキンとキャラクターがフィットするかどうか相性を確認しています。その後、プロダクトマネジメントチームが各IPと交渉を行うので、プロセスとしては長い時間かかっていますね。

――『OW2』になってからコラボ頻度が増えたと感じています。何か理由や狙いがあるのでしょうか。

アレック
 一番大きな理由は、私たちが“コラボをするのがうまくなった”ということですね。ヒーローたちの表現できる幅が広がり、自分たちも納得できるスキンを作れるようになったことで、『OW』にマッチするIPをより深く理解できるようになったんです。

 また、プレイヤーの反応も大きな原動力になっています。「今回のスキン最高!」と言ってくれる声が「よし! つぎはもっと驚かせよう」というモチベーションアップに繋がっています。

――ちなみに、コラボスキンのほかにもシーズンごとに多くのスキンを用意してますが、どのようなスケジュールで進行されてますか? 同じ美術チームでもシーズンとコラボで担当が分かれているのでしょうか。

アレック
 スキン制作は、内容にもよりますがだいたい一年ほどかかります。とくに、コラボスキンになると作品の雰囲気に近づけて完璧に仕上げたいと思っているので、より長い時間をかけて作業を進めています。
[IMAGE]
 制作スケジュールに関して、美術チームがシーズンとコラボスキンほぼ同時並行で取り掛かっているので、もうつぎからつぎへと作業してもらってますね。

 また、コラボタイミングはファンが一番湧いてくれる瞬間を毎回模索しています。今回は“EVO Japan”という日本の格ゲー文化の中心地で、格闘ゲームファンの前で無事に発表できたのがうれしかったですね。その“感動の瞬間”を実現するために、裏で何ヵ月も準備と調整を重ねていたということも、ぜひ知っていただければと思います。

浮遊と飛び蹴りを持つゼニヤッタはダルシム度100%

――今回スキンが8種類と非常に多いですが、なぜこの数になったのでしょうか。キャラクターの選定理由も教えて下さい。

アレック
 これは本当に“攻めに攻めた結果”ですね(笑)。通常のコラボではスキン数の最低限を探るところから始まるのですが、今回は逆で“この世界観なら最大何人までできるか”という考えかたで進めました。

 その結果、8人という『OW』史上最大規模のコラボスキン数になりました。もっと作りたい気持ちもありましたが、最終的に納得のいく数に落ち着いたと思っています。ただ美術チームには頭が上がりません……。

 実際にどうやってヒーローを選んでいったかというと、シルエットやプレイヤーが読み取れる情報量、ゲームプレイにおける親和性などを重視しています。たとえば、キャミィとウィドウメーカーはシルエットや雰囲気が見事にマッチしてますし、ブランカとウィンストンはどちらも電気を使うキャラクターなので、もちろんマッチするよねと。また、最初からこの組み合わせしかないだろうっていうパターンもあり、ダルシムとゼニヤッタ、ベガとシグマがそれに当てはまります。
[IMAGE]
 とくにダルシムとゼニヤッタは、おそらくいちばん最初に思いついた組み合わせのひとつです。シーズン15では、パーク実装により浮遊能力を持つようになりました。そして、シーズン17でゼニヤッタがスタジアムに追加され、飛び蹴りをくり出せるようになるんです。足が少し伸びたような感じになるので、まさにダルシム。100%しっくりきますよね。
[IMAGE]
 ゲームプレイの視点では、春麗とジュノの組み合わせがマッチするなと思い選びました。ジュノの浮遊感でスピニングバードキックを自然と再現できそうだなと。
[IMAGE]
――スピニングバードキックですか! では、ほかキャラクターの必殺技も見られるのでしょうか。

アレック
 もちろんです! 波動拳やスピニングバードキックなど、ヒーロー8人全員勝利ポーズを用意しています。波動拳は最初、“自分の手から波動拳を撃つ”感覚を味わってもらうため、一人称エモートでの実装を検討していました。が、開発段階で実現が難しいということが分かり、泣く泣く断念。いつもと同様の三人称エモートとして登場します。
[IMAGE]
 また、過去の『ストリートファイター』シリーズで、非常に低いダメージを与えられるエモートへのオマージュとして、1ダメージを与えられるようにしようとも考えてましたね。

 結果的にふたつの案は実装までいたらなかったものの、ほかにもできるだけ要素を取り入れたいという思いがあったので、スキンを装備させたヒーローが近接攻撃すると『ストリートファイター』らしい効果音が鳴り、ヒーロー選択画面ではキャミィのスキンを装備させたウィドウメーカーを選ぶと名前が“キャミィ”に変化する仕様になっています。このように細かい仕掛けをたくさん用意することで、コラボへの没入感を深めています。

――今回のコラボスキン制作における、こだわりポイントと苦労したポイントを教えてください。

アレック
 開発チーム全体としては、できるだけ本物らしくリアリティを追求してきました。実際にシグマのスキンでは、ベガのシルエットに近づけるために新しい肩パッドを用意しているんです。これはスキンとしては異例の対応で、少しでもベガらしく、そして『ストリートファイター』らしくするために調整しました。
[IMAGE]
 また、スキン以外ではブランカちゃんも入れたいなと思い模索した結果、武器のチャームとして実装することにしました。スキンだけでなく、勝利ポーズやハイライトイントロでボーナスステージの“車破壊”を彷彿とさせる演出もあったりと、“『OW2』というゲーム全体で『ストリートファイター』のお祭りをやってる”みたいな雰囲気で作り込んでいます。

――ちなみに個人的な質問なんですが、ドゥームフィストが選ばれなかったのはなぜでしょうか。パンチで戦うので格闘ゲームのキャラクターと相性がよさそうに感じました。

アレック
 やはりドゥームフィストのことも考えますよね。最初、マイク・バイソンのスキンでいけるかなと考えていたのですが、ドゥームフィストって片腕が大きいキャラクターなので、バイソンの“均整の取れたシルエット”に落とし込めなかったんです。

 コラボをやるからには、“ちゃんと『ストリートファイター』に見える”という最低ラインを絶対に守りたかったので、今回は見送りました。もし『ストリートファイター』コラボラウンド2があれば、再挑戦してなんとか入れられないか模索したいと思っています(笑)。

日本コミュニティとは相思相愛でサポートし続けたい

――開発チーム内のみなさんは『スト6』をけっこうプレイされているのでしょうか。世代としては『スト2』が多いのでしょうか。

アレック
 世代は幅広いですね。開発チームには『スト2』をリアルタイムで遊んでいた人もいれば、『スト3』から格ゲーにハマった人もいます。自分は『スト4』から入りました。発売された当時は大学生だったので、コミュニケーションツールの一環で友だちとよく対戦してましたね。とくに自分のキャラクターの理解度だけでなく、相手プレイスタイルへの対応力も求められるのは刺激的でした。

 『スト6』が発売されると、開発チーム全体の『ストリートファイター』愛が再燃しました(笑)。遅い時間までオフィスに残って対戦会を開いたり、EVOに向けて真剣にトレーニングすることもありました。その結果、何人かは大会に出場できるようになったんです。“EVO Japan 2025”では、私も大好きなブランカで出場することができ、最高の時間を過ごせました。

――難しい話だとは思うのですが、『ストリートファイター』に『OW』のキャラクターが登場する可能性ってありますかね。

アレック
 それがもし実現したら、本当に夢が叶ったと言えるレベルの話ですよ(笑)。しかし、我々の作業量を考えると、その実現の難しさも理解しています。

 ただ、今回のコラボを通してカプコンさんのサポートが手厚く、素晴らしい経験になったのでどんな形であれ将来またいっしょにお仕事できたらいいなと思っています。

――最後にファミ通読者に向けてメッセージをお願いします。

アレック
 正直な話、驚いてます。ヤバいです。というのも、中学生のころの私は“ファミ通の翻訳版がネットに載るのを待っていた”少年だったんですよ。当時は、海外から日本のゲーム情報を得る手段が限られていたので……。そんな自分がいまこうしてファミ通.comでインタビューされて、コメントが載るというのはたいへんうれしく思います。

 また、日本のコミュニティに心から感謝しています。コンテンツを作ってくれるクリエイターのみなさんや、イベントやトーナメントを開催してくれる運営の方などポテンシャルしか感じません。開発チームとしても、コミュニティに対して相思相愛といいますか、今後もサポートし続けてお互い支え合えるような関係を続けていきたいと思っています。本当にありがとうございました。

――ありがとうございました。
[IMAGE]※一部画像はBlizzard公式サイト及びオーバーウォッチ 2 x STREET FIGHTER 6|コラボレーション・トレーラーをキャプチャーして引用。
      この記事を共有

      本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります