東京ゲームダンジョンは個人開発者に寄り添ったインディーゲームイベントでありたい。そのためにも集客力をさらにつけたいし、出展の応募が先着順であることにもこだわりたい

by古屋陽一

東京ゲームダンジョンは個人開発者に寄り添ったインディーゲームイベントでありたい。そのためにも集客力をさらにつけたいし、出展の応募が先着順であることにもこだわりたい
 インディーゲームの盛り上がりに歩調を合わせる形で、昨今数多くのインディーゲーム関連イベントが国内外で催されているのはご存じの通り。2022年に1回目が開催された東京ゲームダンジョンもそのうちのひとつ。いま、個性的なインディーゲームイベントとして注目を集めている東京ゲームダンジョンだが、どのような経緯で実施されるにいたったのか。主催者である東京ゲームダンジョン準備会の岩崎匠史氏に聞いた。

 東京ゲームダンジョンは、自身も個人ゲーム開発者である岩崎匠史氏が立ち上げたインディーゲームイベント。個人開発者に寄り添って、手ごろな出展料と充実した設備で、“コスパがよいイベント”をモットーとしている。出展にあたり作品の審査はなく、出展の申し込みは先着順というのも大きな特徴となっている。

 イベントは2022年8月の1回目以降、これまでに6回行われており、2023年には学校法人とコラボしての横浜ゲームダンジョンを開催。そして2月15日、16日には7回目が行われる。今回の出展者は2日間で280団体。会場はこれまでと同じく東京都立産業貿易センター 浜松町館となる。
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東京ゲームダンジョン7開催概要
  • 会期:2月15日(土)、16日(日)12時~17時
  • 会場:東京都立産業貿易センター 浜松町館 5階展示室
  • 入場料:1日前売券 750円[税込]
  • 2日間前売券 1500円[税込]、当日券:750円[税込]※当日券での入場は13時から
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岩崎匠史氏いわさき なるふみ

東京ゲームダンジョン準備会 主催

開発者が集う場所を作りたいとの思いに突き動かされて

――まずは、東京ゲームダンジョンを開催するにいたった経緯を教えてください。

岩崎
 私は、2014年にいきなりゲームを作り始めたんですね。それまでゲーム会社に所属したこともなければ、ゲーム開発に対する知識もまるでなかったのですが、当時スマートフォン向けアプリを作るといたトレンドがあって、知り合いが作ったものを見て、「自分もやってみよう」と思いまして。それまでゲーム開発歴は一切なかったのですが、ゲームは子どものころから大好きでした。

 当時は本当にシンプルなゲームが世界で何100万本もダウンロードされていて、「自分でもできるのでは?」と考えたんですね(笑)。で、ゲームを作っている友だちが欲しくなって、2016年に“もくもく会”(※)に参加したんです。
※もくもく会……参加者が各自の勉強や作業などを行う会。黙々と行うことから名付けられた。昨今ゲーム業界でも盛んに開かれている。
――ああ、開発者が集ってもくもくとゲームを作る場ですよね。

岩崎
 はい。ツールに詳しい方もいるので、わからなかったらその人に教えてもらいながら、各々がそれぞれの作業をもくもくとするという感じでした。すごく楽しいコミュニティの場でした。同じようにゲームを作っている人と定期的にお会いしてお話しをするというのは得るものが多かったですね。“もくもく会”は各地で頻繁に行われていて、KONAMIさんやMIXIさんも開いていましたね。

 そこでたくさんの仲間ができて、自分で“もくもく会”の主催もすることになったのですが、そんなときにコロナ禍に見舞われまして、それまで頻繁に開催されていたイベントが、軒並みオンラインに移行したり、なくなってしまったりしたんです。

 だったら、自分たちで展示会をやろうか!ということになって始めたのがきっかけです。最初はあくまで仲間うちでやるみたいなイメージでした。

――“もくもく会”が東京ゲームダンジョンのベースにあるとは言えそうですね。

岩崎
 そうですね。あと、イベント自体は、2019年、20年、21年と、私たちの主催する“もくもく会”でデジゲー博に参加させてもらったことがあったんですよ。それがとても楽しくて! それが東京ゲームダンジョンの立ち上げを決意するひとつのきっかけにはなっています。東京ゲームダンジョンを開始するにあたっては、デジゲー博の影響は正直すごく受けていますね。

――思い立って実現するパワーがすごいですね。

岩崎
 そのころ、コロナの感染者がいちばんたいへんな時期で、都内で1日30000人を越えたというニュースが連日にように報道されていて、お客さんがひとりも来なくて出展者の人に怒られるという夢を何度も見ました(笑)。

 会場で感染者が出たらどうしよう……という不安もあったのですが、いざ開いてみると、皆さん「やってくれてうれしい」、「オフラインイベントがあってよかった」という感謝の声ばかりだったんですね。それには勇気づけられました。

 来場者も、来てくれるのは“もくもく会”に参加してくれた知り合いの方くらいかなと思っていたのですが、蓋を開けてみたらまったく知らない人ばかりで、「ああ、こんなに参加してくれるんだ」とうれしかったです。イベントに対する手応えを強く感じました。

――それがイベントを継続する原動力になったのですね。

岩崎
 そうですね。やはり喜んでもらえてうれしいというのはありますよね。正直そんなにお金はぜんぜん儲かっていないでいまにいたっているのですが、「みんなに喜んでもらえるなら」という感じでいままで続いています。“もくもく会”のバージョン2みたいなところは東京ゲームダンジョンにはありますね。
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2022年8月7日に行われた1回目の東京ゲームダンジョン。コロナ禍のさなかで不安もあったとのことだが、80団体が出展し、800人以上が来場した。
――“もくもく会”のバージョン2ですか。東京ゲームダンジョンを開催するにあたって、とくに重視しているのは何ですか?

岩崎
 あまりビジネスっぽくなりたくないというのは、すごくあります。出展しているのは“ゲームを作っている仲間”みたいな感覚でいて、パブリッシャーと開発者のマッチングの場といったビジネスとしての空間という位置づけでは考えてないんです。

 BtoBとしての場ではなくて、イベントとしてのエンタメに寄せたいという思いはあります。それは、“東京ゲームダンジョン”というネーミングに象徴的で、ダンジョンなんて、ふだんの生活では絶対に出てこないですよね。ダンジョンという非日常というか、テーマパークに遊びにいくみたいな感覚ですね。

――ちなみに、1回目を開催して見つかった課題というか、「ここはこうしたほうがいいな」みたいなことはあったのですか? そしてそれが後々すごく生かされているというような。

岩崎
 1回目で「ちょっと狭いな」とは思いました。1回目は1フロアの半分で、つぎからは倍の広さにしたのですが、思ったのは「通路を広くしたほうがいいな」ということでした。通路が狭いと、なかなか試遊しづらいかなと。お客さんがゆっくり試遊できるように椅子を置いて、移動もしやすくする。細かいことなんですけどね。

――来場者の快適さを考えたのですね。

岩崎
 余裕を持ってレイアウトを組んだほうがいいというのは、1回目を実施してみて思いました。出展希望者がたくさんいらっしゃったということもあり、1回目はけっこうみっちり机を詰めていたのですが、会を重ねるごとに調整していって、最近だと休憩スペースのようなものも設けるようにしています。お客さんが休憩しながら半日ゲームを楽しめるように……ということは、念頭に置いていますね。

 あと、東京ゲームダンジョン5から、Steamにページを作るようになりました。以前、出展者の方が、「オフラインイベントなので、コスパが微妙によくないですよね」みたいなことをおっしゃっていたんですね。会場のみでプロモーションすることになるので、展示のためにすごく時間をかけて試遊版を作っても、Steamのウイッシュリストが増えるわけではないという。

 その通りではあるのですが、そこで「オフラインイベントとはそういうものなので……」と言ったらそれで終わりだと思っていて、何か自分でできることがないかしらと考えたときに、Steamにページを作れることに気づいて、申請ページが日本語で用意されていたので申し込んだところ、返事が返ってきて、「ページ作っていいよ」みたいな感じになったんですね。

――あら。

岩崎
 で、5、6、7と継続してきて、6のときはトップページにバナーまで載せてもらえました。すごく反響があってよかったです。
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こちらは東京ゲームダンジョン7のSteamページ。
――それまでイベント運営の経験もないということで、試行錯誤の連続だったのではないかと思うのですが、そのあたりはいかがですか?

岩崎
 いろいろなイベントを視察しまくりました。ゲーム以外のイベントも含めて、毎週のようにイベントに出かけていっては、「どういうふうに運営しているんだろう」というのを確認していました。そのときに気づいたことがあって、コミティアという同人誌のイベントに制服の警備員さんがいたんですね。それまでゲーム系のイベントで制服の警備員さんがいるのを見たことがなかったのですが、「絶対にいたほうがいいだろうな」と思ったんです。で、そのコミティアで警備員を派遣している会社に連絡して、当然コストはかかるのですが、東京ゲームダンジョンにも来てもらうようにしました。

 そんな感じで、いろいろなイベントを視察して、知識を蓄えていって東京ゲームダンジョンを整えていったというのはあります。

――そういえば、ゲーム系のイベントで警備員さんはあまり見ませんね。

岩崎
 東京ゲームダンジョンには女性の作者さんも多くて、「制服の警備員の方がいるとすごく安心します」とは言っていただいています。

――心理的にはものすごく安心ですよね。

岩崎
 あと、コミケとかではよくあるのですが、すごい行列ができてしまって、「列形成お願いします」と言われることがあるんですね。最初、何を言っているのかなと思ったのですが、ほかの出展ブースの邪魔にならないように、列をどこかで区切って、壁沿いなどに並んでもらうことだったんですね。東京ゲームダンジョンでお願いしている警備員の方は、けっこう慣れていらっしゃるので、列の誘導も柔軟に対応してくれるんです。本当に助かっています。

――警備で思い出したのですが、東京ゲームダンジョンには、協力に警視庁 愛宕警察署が参加していますね。

岩崎
 ああ(笑)。6のときからですね。警察の方にこちらから「何かできませんか」という相談をしたんですね。浜松町館の管轄が警視庁 愛宕警察署だったので、警察のチラシなどを配布しますので、“協力”という形で参画してくれませんかというお話をしたんです。そうしたら「ぜひ!」とのことになりました。「こんなこと言われたのは初めてです」とおっしゃっていましたね(笑)。

 先ほどもお話しましたが、東京ゲームダンジョンには女性の出展者の方も多いので、少しでも安心していただこうかと思いまして。
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2024年10月27日に行われた東京ダンジョン6の模様。170団体が出展。来場者は2300人を数えた。

出展の応募が先着順にであることに対するこだわり

――コロナも落ち着いてきて、オフラインのイベントも増えてきていますが、ほかと比べての東京ゲームダンジョンの持ち味はどんなところがあると思いますか?
岩崎
 ほかがなかなか追随してこないところは、やはり出展の応募が先着順というところですね(笑)。

――ああ。

岩崎
 それがいろいろとご迷惑をおかけしていることも多くて……。東京ゲームダンジョン6のときは、1日開催でワンフロアしか確保できなかったので、140枠しか用意できなかったんですね。それが8分で満席になってしまいまして……。2月の東京ゲームダンジョン7は、2日開催で280枠に増やしたのですが、それでも47分でいっぱいになってしまったんです。応募は深夜0時に始まるので、朝起きたら枠が埋まっていたという。

――抽選とか選考とかは考えていないのですか?

岩崎
 抽選だと申し込んでから当否がわかるまでにけっこう時間がかかりますよね。その遅延が開発者にとってはよくないかなと。選考にすると、選考者の趣味がどうしても出てしまう(笑)。先着順がいちばんフェアかなと。

――注目度の高さゆえの悩みとも言えそうですね。

岩崎
 「タイトルのクオリティーコントロール的にどうか?」ということはいろいろな形に言われます。たしかに、とてもクオリティーの高い人もいるし、最近作り始めたばかりの方もいます。でも、東京ゲームダンジョンは玉石混交でいいと思うんです。そこはなすがままというか、自分がそこで編集しなくてもいいといいのではないかというふうに思っています。それは続けたいですね。

 ただ、6、7とすぐに埋まってしまったので、今後それが続くようであれば何か対応しないといけないかなとは思っています。いま少し考えているのが、連続での申し込みができなくなるようにすることですね。7に出展した人は8では1日遅れで申し込めるようになるとか……。ちょっと検討中です。
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東京ゲームダンジョン6の模様から。
――東京ゲームダンジョン自体は、2025年は年4回の開催が決定しているそうですね。

岩崎
 はい。会場の浜松町館が確保できまして、2月、5月、8月、11月と、翌2026年2月は決定しています。年4回開催したいというのは、2022年のころから考えていました。

 この10年間でゲーム開発の現場って大きく変わったと思うんです。ゲーム開発がもっとカジュアルなものになったというか、UnityやUnreal Engineが普及してきて、年に何本もゲームを作ったりする方もいます。ゲームジャムとかで1週間でゲームを作って、そういう実験作の反応がよかったらSteamで出してしまおうといった流れもあります。ゲーム開発のサイクルが短くなっている気がするんですね。

 どんどん作ってあっという間に消えていってしまう……という、それは少し悲しい部分ではあるのですが、そういうサイクルの受け皿になるイベントということで言うと、春夏秋冬で開催したほうが、よりタイムリーに、「じゃあ、つぎの東京ゲームダンジョンで出そう!」みたいな感じでけっこうカジュアルに出してもらえるかなと思ったんです。

インディーゲームの裾野を広げていきたいという気持ちが強い

――これからは年4回開催がデフォルトになるのですね。

岩崎
 ただ、浜松町館は2020年にできた新しいホールで、当時は確保も余裕だったのですが、いまはぜんぜん取れなくて、抽選次第なのです。いま、2026年に年4回取れなかったら、関西のほうで開催しようかなというのは少し考えています。

 まあ、東京で年4回取れても、2026年はどこかでやりたいですね。「東京ゲームダンジョンを地方でもやってほしい」という要望もよくいただきますので、検討しています。あと、2日間開催は、7が最後になると思います。

――それはなぜですか?

岩崎
 やはり、一般の来場者の方にとって、土日2日間のインディーゲームイベントというのは、けっこう過酷だと思うんです。さらに7は完全に入れ替え制で、土曜日に行く方も、日曜日に見たかったゲームも絶対あるだろうなあ……と思いまして。だったら、ワンデイツーフロアにして、全部は回れないにしても1日行って見たいものだけを見る感じでいいかなと考えました。

 メディアの方とかには、2日間やってほしいという声をいただくんですけどね。そして今年目標にしているのが、入場者数を4000人くらいまでに増やしたいということです。

 あと、“文学フリマ”という文学作品の展示即売会がありまして、それは年9回くらい実施しているんですね。全国で開催していて、本屋さんには並ばないような書物が、“文学フリマ”ではけっこう売れていたりするらしいんです。“文学フリマ”を見て、東京ゲームダンジョンもゲームの分野でそういうような存在になれたらいいなというのは思っていました。

――クリエイティビティーに溢れる人たちはいまたくさんいて、そういった人たちの何かしらの受け皿になれれば……ということですか?

岩崎
 まさにそうです。

――お話をうかがっていると、東京ゲームダンジョンは、ほかのインディーゲームとも違う独特な空気感があるような気がしますね。

岩崎
 どうでしょうか。そうかもしれないですね。なんか、自分はもっとカジュアルにしたいというのはあるんですよね。インディーゲームをもっと普遍的なものにしていきたいというか……ソフトなゲーム好きの人たちにも広めていきたいという気持ちはものすごくあります。

 すごく見栄えもいいし、よくできているゲームで、「これは絶対に売れそうだ」というゲームを集めたら、それは展示会としてとてもいいものになるとは思うのですが、自分は上のほうだけではなくて、やはり裾野を広げていきたいという気持ちが強いんです。「東京ゲームダンジョンに来て、自分もゲームを作りたいと思って、その後出展側に回った」という話を聞くとすごくうれしいですし、そういういままでぜんぜんゲームを作ってこなかった方がすごくおもしろいゲームを作ったりすることも多いです。

 そう考えると、自分はアウトサイダーなんですよね。ちょっと変わっているのだと思います。玉石混交ですが、いろいろなゲームが出展されていて、同じ環境でゲームがプレイできる。2年半やってきてそれは伝わっていると思うので、自分たちの立ち位置は見つかったかなと思っています。

――それは、先着順だからだからこそできた文化と言えそうですね。

岩崎
 そうですね。それはあると思います。毎回最初からずっと参加している人もいるんですよ。おもしろいなと思います。ほとんど作品としてのアップデートもないけど、ゲームダンジョンに出展したいから出展しているという。
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らくがきスペースは1回目からおなじみ。写真は東京ゲームダンジョン6のもの。
――今後、どんなことに取り組んでいきたいですか?

岩崎
 実際のところ、いま日本のゲームを日本で売っていくだけなど、なかなかきびしい状況になってきているなとは思っています。だから、Steamなどで海外市場に売っていくことに対して、どうやって協力できるかというのはすごく考えています。たとえばリアルイベントには来られないけれど、“東京ゲームダンジョンでこういう作品が出展されていたよ”という話題を世界に発信していくとか。そのためにも、2025年は集客力をさらにつけたいというのはすごく思っています。

――それで、入場者数を増やしたいのですね。

岩崎
 どんなにポリシーを持っていても、来場者が少ないイベントは何の意味もないので……。「東京ゲームダンジョンってたくさん人が来ているよね」と思ってもらわないと成立しないと考えています。来てくださる人を増やすことが、出展者にいちばん貢献できることですし。そのための努力をしていきたいです。

 イベントって継続していくことが大事だと思いますので、10年とか、20年とか続けていきたいです。イベントとして、焦らずにじっくりと広げていきたいですね。

――最後に、東京ゲームダンジョン7に対する抱負を聞かせてください。

岩崎
 東京ゲームダンジョン7には、2日間で280以上の団体が出展します。そこまでの団体数が出るイベントはあまりないので、できれば2日間来ていただいて、朝から晩までゲームに浸ってほしいです。日本の開発者の創造性はすばらしいと思います。会場でしか遊べないタイトルもありますので、ぜひ足を運んでプレイしてみてくださったらうれしいです。




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