『Unknown Tapes』はそんな映画『ジュラシック・パーク』のようなシーンが連続するゲームだ。都市型の研究施設に取り残された主人公の目的は、施設内を徘徊する恐竜たちから身を隠しながら脱出を図ること。単純明快なプロローグに惹かれてプレイしてみると、これが想像以上のおもしろさで止めどきを見失うほど引き込まれた。
登場する恐竜たちは図鑑や映画で見覚えのある有名なものばかり。視界の悪い草むらで甲高い咆哮と爪が地面を叩く硬質な足音を響かせるヴェロキラプトル。突如、水辺から姿を現すスピノサウルス。そして窓越しに室内を覗き込んでくるティラノサウルスなど、その顔ぶれはまさに恐竜版『アベンジャーズ』である。
とはいえ有名どころの恐竜たちの姿に喜んでいられるのも最初だけだ。凶暴で人間を“餌”と見做す大自然の狩人である彼らは、本作でも隙あらばプレイヤーを喰らおうと闇夜に潜んでそのチャンスを伺っている。プレイヤーが恐竜と戦うための武器は一切なし。唯一の持ち物であるライトひとつで研究施設を探索し、ヒントが記された文章やアイテムを集めて道を切り開いていく。
想像以上に恐怖を煽る役割を果たしているのが、ボディカメラによる記録映像を模したモキュメンタリー風味のグラフィック。ノイズで見通しが悪く、恐竜が目の前に現れて初めてその存在に気づくこともしばしば。そのため序盤は恐竜の咆哮が聞こえるたびにそちらを向き、何もいないことを確認してほっとする……なんてことを幾度もくり返してしまう。初めてサバイバルホラーをプレイしたときのような新鮮な恐怖が久々に味わえて思わず感動してしまった。
恐竜を相手にしたステルス要素もある。登場する恐竜たちには、たとえばヴェロキラプトルならば視覚や聴覚がそれほど優れていないなど、それぞれに固有の習性がある。室内のような狭い場所で遭遇した場合はその習性を逆手に取り、ライトを消して物陰に隠れてしまえば気づかれずに回避できるのだ。
このステルス要素にアクセントを加えているのが、マイク機能への対応だ。プレイヤーが驚いて声をあげてしまうと、マイクがそれを拾ってしまい恐竜に気づかれてしまうという仕組み。マイクがなくてもプレイは可能だが、緊張感を高めるためにもマイク搭載のヘッドセットはぜひとも用意したい。声だけでなく呼吸音も拾うくらいマイク感度を高めに設定すれば、文字通り息を殺して恐竜をやり過ごすスリリングな経験ができるのでおすすめだ。
大ボリュームというわけではなく、ゲームオーバー後のリスタートが早いことも相まって、2〜3時間ほどプレイすれば多くの人がエンディングまでたどり着けるだろう。とはいえ絶えず緊張感が続く濃密な時間が過ごせることもあり、物足りなさは感じないはず。ゲームクリアには必要のないアイテムもすべて集めたり、実績をコンプリートしたいなら周回プレイが必要になるかも。1500円[税込]の価格には十分見合ったボリュームと感じる。
一方で主人公が地形にハマって動けなくなるようなバグもあり、作りはやや粗めといった印象を受けた。もっとも実際にエンディングまで遊んでみても、ゲームが進行不能になるようなバグには遭遇しなかったので、ふつうにプレイするなら大きな問題はなさそうだ。細かなバグについても今後のアップデートで修正されると思われる。
近年では恐竜を題材にしたゲームは珍しい存在だけに、『Unknown Tapes』はサバイバルホラーファンや、恐竜好きにとっては貴重な1本だ。『ジュラシック・パーク』の登場人物になりきってプレイする“ごっこ遊び”にも最適。ちょっとでも興味があるのなら、いますぐ遊んでほしい快作である。
ゲーム概要
プラットフォーム:PC(Steam)
価格:1500円[税込]
発売日:2024年12月5日
メーカー:Traviteam Games