『VALORANT』のアジア最強を決定する“Red Bull Home Ground 2024 APAC Qualifier”が、両国国技館で2024年10月19日(土)~20日(日)に開催された。
海外チームも出場する中、準決勝では日本トップチームであるZETA DIVISIONとDetonatioN FocusMeが対決。会場を揺らす熱狂や負けたチームの涙など、これぞ“eスポーツ”という体験をしたのでぜひ紹介したい。
世界3位から一転、苦戦する日本『VALORANT』
2022年4月、筆者は日本を代表するeスポーツチームのひとつZETA DIVISIONが『VALORANT』世界大会で3位となった快挙と、日本eスポーツの成長・今後の期待について報告した。
その後、残念ながら日本勢は国際シーンでの成績において苦戦が続いている状況だ。2023年6月11日に日本で開催された初の国際大会“VALORANT Champions Tour 2023 Masters Tokyo”に、日本代表の姿はなかった。アジアパシフィックリーグの強豪たちと競い合った国際リーグで出場権を得られなかったためだ。その後の国際大会における日本チームの成績は世界3位には遠く及ばず、芳しいものではない。
公式リーグや国際大会で苦しい状況が続いている日本チーム。/(C) 2024 Riot Games, Inc. All Rights Reserved
そのような状況が続くうちに、絶賛していたファンから手厳しい声も聞こえてくるようになった。『VALORANT』公式リーグにはZETA DIVISIONとDetonatioN FocusMeの2チームが日本から参戦している。両チームとも成績は芳しくなく、大会配信・動画やSNSには、勝てない状況についてファンからは辛辣なコメントが飛び交う。メンバーの補強に対しても「勝つ気があるのか」など手厳しい書き込みを目にした。日本チームは、世界3位から世界一に飛躍するどころか、どん底にたたき落とされたような状況が続いている。
苦境の打破を誓うかのように、両チームは2025年シーズンに向けて現状のドリームチームと言える新体制を発表した。期待が高まる中で迎えたのが、今回の“Red Bull Home Ground 2024 APAC Qualifier”だ。
準決勝で日本チームが激突、会場を揺らすファンの応援合戦
大会には、日本からZETA DIVISION、DetonatioN FocusMe、Crest Gaming Zstの3チームが参戦。海外勢として、公式パシフィックリーグに出場しているT1(韓国)、Rex Regum Qeon(インドネシア)、Talon Esports(タイ)が来日した。
相撲の聖地での開催ということで、のぼり旗風に表現された出場チーム名。
ZETA DIVISIONはグループステージを1位通過、DetonatioN FocusMeは2位通過。順調にプレーオフ準決勝進出を決めてアジアの強豪たちを相手に勝てる強さを見せつけた。「今年は行ける!」と日本ファンからの応援にも熱が入る。
準決勝はZETA DIVISIONとDetonatioN FocusMeという日本の頂上対決。最高のカードに、観客はもう一度夢を見る。こんなに強いプレイヤーたちがぶつかり合って切磋琢磨すれば、日本は世界の頂点に手が届く、と。あちこちから声援が上がり、会場内はすさまじい盛り上がりを見せた。
日本の2大人気チームが激突。入場シーンでは、ファンがスマートフォンライトで応援のパワーを送った。
本大会では、限定グッズ付き日本チーム応援席が販売され、これが観客の熱狂に拍車を掛けた。中でも目を引いたのはZETA DIVISIONDetonatioN FocusMeの法被だ。ファンたち喜んで袖を通し、応援席につく。周囲は同じチームを愛する仲間同士のため、誰かが声を発すると同調するように周りからも声があがるなど、応援する姿勢に一体感が見られた。
チームごとにデザインされた特典グッズ(左)。/レポーター平岩康佑さんの煽りで歓声を上げるDetonatioN FocusMeファンのみなさん(右)。
試合は最終ゲームの延長戦までもつれ込む激戦となり、試合を決する状況が近づくと、応援にはさらに熱が入る。DetonatioN FocusMeファンが「DFM」コールを始めると、ZETA DIVISIONファンは負けじと「ZETA」コールを開始。会場は大熱狂に包まれた。
筆者は身震いしてしまった20年以上もeスポーツを追いかけているが、これほどの応援合戦を日本では見たことがなかったから。
真剣な眼差しに涙。本気だからeスポーツはおもしろい
すごかったのは観客の応援だけではない。チームや選手も本気だ。
筆者はZETA DIVISIONオーナーの西原大輔氏、DetonatioN FocusMe代表の梅崎伸幸氏がチームを応援する姿を偶然目にした。eスポーツシーン初期は会場も小さく、チーム関係者が応援する光景はよくあることだったが、近年は会場が大型化されたりチーム専用の控え室が用意されるため、チームオーナーが応援する姿を見る機会はほとんどなくなった。貴重な光景だ。
忙しそうに会場を移動していたDetonatioN FocusMe梅崎氏に声を掛けた。立ち話の最中でも「目が離せないんです」とスマートフォン片手に配信で試合をチェック。画面を真剣に見つめながら拳を握りしめてチームを応援する姿が記憶に残っている。
ZETA DIVISION西原氏は会場内の座席で観戦しているところをお見かけした。CLZ選手が1vs4という劣勢を覆したスーパープレーを目にして、絶叫しながら喜びを爆発させる姿を見ると、何だかこちらもうれしくなる。
叫びながら真剣にチームを応援していたZETA DIVISION代表 西原氏。
結果として、ZETA DIVISIONがギリギリの戦いを制して歓喜する結果となった。一方、勝利を渇望していたDetonatioN FocusMeのMeiy選手は、敗北の悔しさで席から立ち上がることができなかった。ひとつの勝利、ひとつの敗北にはこれだけの重みがある。
試合中、気迫溢れるプレーを魅せていたDetonatioN FocusMeのAkame選手も悔しさを抑え切れないようだった。控え室に戻る際に号泣する様子が筆者の目に焼き付いている。プロゲーマーの多くは負けず嫌いな気質を持っており、どんな戦いでも勝利を目指して真剣にプレイするからこそ、敗戦時は声を掛けることもはばかられる。
敗北後、立ち上がることが出来なかったDFM Meiy選手(左画像は公式配信よりキャプチャーしたもの)。
試合中、絶叫してチームを鼓舞していたAkame選手。
これらの姿を見て、勝負の世界の厳しさを感じるとともに、選手・観客・チーム関係者、すべてが本気で取り組んでいるからこそ、eスポーツはおもしろいのだと改めて実感した。
エナジードリンクの“Red Bull”が主催する本大会は、韓国T1の優勝で幕を閉じた。だが、きっと日本勢はこのままで終わらない。悔しさを糧に躍進していくのだろう。それこそレッドブルに翼をさずけられるように。
優勝した韓国の名門eスポーツチーム・T1。