本作は、誰もが知っている定番テーブルゲーム『リバーシ』のルールを大胆アレンジ。これまで長きにわたって定着していたセオリーが通じない、新作ゲームとして生まれ変わっている。
さらに驚くべきは、キャラクターデザインにヴァニラウェアの神谷盛治氏、音楽に音楽にベイシスケイプの崎元仁氏という、豪華クリエイターが起用されていること。謎多き『デビルリバーシ』とはどのようなゲームなのか。生みの親である喜多山浪漫氏を直撃した。その前に、いったい『デビルリバーシ』はどのようなタイトルなのか、ご説明していこう。
定番ゲームの『リバーシ』を大胆にアレンジ
■常識破り1:X型に配された石でポイントを奪い合う
また、勝利条件も通常の『リバーシ』とは異なり、取った石の枚数ではなく、試合中に獲得したポイントで勝敗が決定する。石の初期配置と合わせて、本作ならではの試合展開を生み出す仕掛けのひとつとして機能している。
■常識破り2:石を重ねて奪い合う縦の攻防
加えて石を重ねるほど裏返した際に獲得できるポイントも増えていくため、石が高く積まれたマスをモノにできるかが、勝敗の行方を大きく左右することになる。
■常識破り3:チェインに生贄、応用テクニックで一発逆転
攻めではひっくり返す石を、パズルゲームの連鎖のようにつなげる“チェイン”、守りでは盤面に置いた石を“生贄”として捧げることで重ねた石を絶対にひっくり返されない“要塞化”など、研究のし甲斐がありそうなシステムが用意されている。いかに活用していくかを考えるのも、本作の楽しみどころだろう。
『デビルリバーシ』から始まる? 定番ゲームの常識破壊
『デビルリバーシ』の制作を手掛けるのは、元ゲーム会社社長の覆面小説家という異色の肩書を持つ、喜多山浪漫氏。インディーゲームシーンに参入した理由や、『デビルリバーシ』から始まる野望、“定番ゲーム常識破壊”シリーズの構想などを聞いた。
喜多山浪漫(きたやまろまん)
小説家。『デビルリバーシ』クリエイター。
小説家・喜多山浪漫の誕生とインディーゲーム制作に至った経緯
――そうですね。
社長になってからも、自分の会社で作ったゲームは自分で売りに行くというスタイルで働いていたのですが、「社長になったのだから、現場には出ないほうがいい。それよりも若手を育てるためにもそろそろ退いてくれ」みたいな声もあり、確かにその通りでもあるので、ただの社長になりました。
それで引き継ぎはうまくいったのですが、それまで自分がやってきた作る仕事と売る仕事を手放すと、社長としての仕事は経営だけなんですよね。でも、自分にどれだけ経営の能力があるのかと考えたときに、得意だとは思えなかったし、経営がやりたくてこの業界に飛び込んできたわけでもない。これでは自分の能力で会社を大きくするのは難しいと、限界が見えてしまったんです。
社長の限界が会社の限界という部分もあると思うので、それなら早いところで誰かに渡してしまったほうがいいなという判断がありました。それが前の会社を辞めるまでの経緯です。
――いろいろと考えるところがあったのですね。
組織を作ったり、社員を雇ってマネージメントをするのはもういいかなと思っていたので。いまならカクヨムさんとか小説家になろうさんに投稿すれば世に出せる。そこで小説を発信すれば、「自分のIP、コンテンツになる!」と思い、小説家を名乗らせてもらうことになりました。
――大胆な転身ですね。もともと小説は書いていたのですか?
――小説が書けるという手応えは、最初からあったのですか?
――ああ、たしかにそうかもしれませんね。
ここから小説を2本、3本と書いていけば、小説家という肩書きを軸にして、“喜多山浪漫”という道筋でやっていく態勢が整ったかなという感じです。
――極めてアグレッシブですね。喜多山浪漫というペンネームで活動しようと思った理由を教えてください。
それと、まだ小説ができあがっていない段階で本名を出して、「あの〇〇の元社長が手掛ける小説!」みたいな売り出しかたをするのもどうなのかなという思いもありました。ならばせっかくなので、まっさらなペンネームを使ってどこまでいけるのか挑戦してみようかな思ったんです。
とはいえ、ありがたいことに人とのつながり、人脈は残ったんです。退職したらみんなそっぽを向くのかなという心配がなきにしもあらずだったのですが、みなさんやさしくしてくださって。
このインタビュー自体もそうですよね、名もなき新人小説家の話を聞いてくれて(笑)。とてもありがたいです。そういう人脈は最大限に使わせてもらっている感じです。
――(笑)。『デビルリバーシ』のキャラクターデザインに神谷さん、音楽に崎元さんという座組は、前職でのつながりから生まれたわけですね。
ただ、神谷さんに描いてもらったキャラクターは、ゲーム用に描き下ろしてもらったわけではないんです。じつはゲーム会社を辞めた際、荷物をまとめて退社したその足で、ヴァニラウェアに行ったんです。そこで神谷さんに「会社を辞めてきた」という報告をしたら、そこからいろいろ話が転がって、「独立祝いに会社のロゴとか作ってくれない?」という流れになったんです。そうしたら即引き受けてくれました。
しかも「台座みたいなロゴをベースにして、その上にゲームを象徴するキャラクターの顔を乗せる。それで毎回タイトルロゴを変えていったらどう?」みたいなアイデアもいろいろいただきました。ヴァニラウェアのタイトルもゲームに合わせて自社のロゴを毎回変えていますよね。それを自分でもやれたらなかなかおもしろいなと。
で、その会社ロゴをいくつか作ってもらったときの最初のデザインがこれなんです。上に女の子、下に悪魔小僧みたいなのがいますよね。これが『デビルリバーシ』のキャラクターの原案になりました。
――いずれ日の目を見ることもあるかもしれないと、寝かせておいたのですね。
――確かに。ヴァニラウェアと言えばという組み合わせでユーザー側からでも思いつく当然の法則ですが、実現させられるかどうかは別の話ですよね。
――こちらも力技で……。
――崎元さんのムダ使い(笑)。
『デビルリバーシ』は“定番ゲーム常識破壊シリーズ”の第1弾⁉
ただ、たまにはそうではないルールとか遊びが入ってもいいのではないかとは考えていました。ずっと固定化していたら新しいものが生まれない。でも、意外と定番ゲームのルールをいじろうと考える人って少ないんだなと感じていたので、だったら自分で1回やってみようかなと。
大きいゲームを1本作ろうとすると、時間もコストもすごくかかりますよね。でも、定番ゲームをいろいろアレンジするという方向であれば実現可能だなと。ゲームでも少人数、低コスト、早くやるというのを試してみるいい機会だなと思い、定番ゲームの中でもいちばんやりやすそうなリバーシを選びました。
――確かに。多くの人がルールを知っているうえに、用意するものも2色の石だけでいいですものね。
『デビルリバーシ』をきっかけに、「なるほど、そういうのもアリだよね」って思ってくれる人たちが業界の中に増えてきて、常識だと思い込んでいたジャンルやゲームシステムなどをどんどん新しいものに変えていくようなウェーブが起きたら、それはすごくいいことだなと思っています。
独占的に何かをやりたいとはぜんぜん思っていなくて、何かのきっかけになったらおもしろいなと。
――トランプからいろいろなルールのゲームが生まれていったようにですか?
将来的には“定番ゲームの常識破りシリーズ”みたいな感じで、ポーカー、将棋、麻雀、囲碁をモチーフにしたゲームも作りたいです。このあたりはおもしろくできそうなアイデアがあるので。
――そうなのですね。ゲームのシステムに関してもお聞きしていきたいのですが、やはり石を重ねられるというルールが、リバーシとしては新しいポイントになるのですか?
リバーシはセオリーが固定化されてしまっていて、けっこう早い段階から勝負が見えてしまうのがもったいないと思っていたので、それを覆すには重ねればいいのではと発想したのです。重ねたら端だろうがひっくり返せるよね」という。
白側が端を取っていても、その端を取っている白の隣りに黒を重ねて挟めるのだったらひっくり返せる。「端を取ったからといって油断できない」ということがやれるのではないかなと。そこが『デビルリバーシ』が生まれた着想です。
ふつうに石を交互に置いていくとあまりゲームの展開が変わらないので、最初からX型に石を配置するとか、勝敗を石の枚数ではなくてポイント制にするといった要素は、実際のゲーム作りに入ってから、協力している人たちと相談しながら肉づけしていきました。
――ひっくり返したときに発生するチェインや、重なった石の中に相手のコマがあった場合、ひっくり返すと相手の点数に加算されてしまうみたいな要素もおもしろいと思いました。
基本的なルールはリバーシなので、カジュアルに遊べるのですが、遊び慣れてくると見えてくるものが変わってくるケースというのが出てきます。
――そうですよね。さっき遊ばせてもらったときも、「これ以上裏返ってしまうと相手に点が入ってしまう」、「ここはチェインを止めたほうがいいかな」といった状況がありました。確実にふつうのリバーシとは違う頭の使いかたになりますよね。テストプレイをされている方たちのあいだでは、もっと進んだ『デビルリバーシ』ならではの戦略が生まれていたりするのですか?
あと、ルールもいろいろ試行錯誤している段階です。たとえば石を重ねるというシステムにも、「無制限に重ね過ぎるのはどうなのか?」という意見もあったので、自分の石を生贄に捧げるとひっくり返されないようになる特殊技みたいなのものを作りました。盤面に石をひっくり返せない場所を作る、いわゆる“要塞化”ですね。これをどこでするかも、ひとつの戦術になると思います。
――なかなかに壮大ですね(笑)。
――世界観がつながる関連作が続々と生まれるという(笑)。
――プレイヤーどうしで遊べる機能、たとえばオンライン対戦などを実装する予定はありますか?
『デビルリバーシ』発売後も複数のゲーム企画を展開予定
――Steam以外でのリリースは考えていますか?
――『デビルリバーシ』のパブリッシャー表記はRoman Kitayamaとなっていますが、今後もゲームはこのブランドで発表していくのでしょうか?
また、私の書いた小説を原作にした商品展開を積極的に考えていますので、もしかしたら近いうち、東京ゲームショウ202あたりに『デビルリバーシ』とは違った流れのゲームもお見せできるかもしれません。
――そうなんですか⁉ ゲームの企画を複数走らせているうえに、小説も書いていらっしゃるというのは、すごいバイタリティですね。
もともとインディーゲームを作ろうと思ったのも、喜多山浪漫が活動するための資金稼ぎのためです。私は小説家という形で活動していますが、ウェブに無料で投稿しているので、基本的にそこで稼ぎを作ることはできないんです。
でも、『エトランジュ オーバーロード』では、大塚真一郎先生、『魔法捜査官』ではエナミカツミさんに、それぞれキャラクター原案&イラストを描いてもらったりと、けっこう豪華なことをやっているんです。小説に音楽をつけてもらったりもしています。
こういうのは基本、先行投資だと思って取り組んでいるのですが、最終的にゲームだったりマンガにならないと回収できない。コンテンツに触れてもらう機会を増やすため、目立つためには必要なコストなのですが、それなりのコストをかけていて、これをやり続けていこうとするには、資金源がほしくなります(笑)。
ですので、私の小説家としての活動の幅を広げるためにも、まずは『デビルリバーシ』というゲームを世に出して、その利益で活動の幅を広げたいです。
――喜多山浪漫をひとつのコンテンツとすると、『デビルリバーシ』自体がアーリーアクセスの役目を担っている部分もあると言えそうですね。
――BitSummit Driftに『デビルリバーシ』を出展するということですが、喜多山さん自体は会場にはいらっしゃるんですか? 基本正体は明らかにしないのですよね?
あと、東京ゲームショウ2024にも出るつもりでいまして、そのときは着ぐるみで会場を練り歩く予定です。いろいろな着ぐるみとコラボしたいです。要は顔がバレなければいいんです(笑)。
――ちなみに喜多山さんの小説のファン層ってどんな感じなのですか?
『エトランジュ オーバーロード』のときは執筆に集中したいのもあって、コメントもできないようにしていたんです。心ないコメントが来て、そこでヘコんでもいいことはないので……。とりあえず第1部が終わったときに、コメントできるようにはしたのですが、あとからコメントをつけるというのは誰もあまりやらないようですね。
書き始めたころには知り合いにLINEとかを送りまくって「読んでくれ!」みたいなこともやっていたのですが、いまはおそらく前職とはつながりのない、新規の読者層も開拓できたのではないかなとは思っています。
――おもしろいから読まれていると。
――着実に認知度が上がっているようですね。
その中で気に入った人が何人かいたので、すぐイラストを発注したんですよ。「1枚だけ喜多山浪漫の絵を描いてください」みたいなオーダーを出したのですが、そこからできあがったイラストを見ると、人それぞれの仕事のやりかたというものが見えてきてすごくおもしろいです。いま私の手もとには、いろいろな作風の“喜多山浪漫”の絵がありますよ。
私ひとりで運営している会社なので、こういうことをやるために稟議を通したり、経営会議で予算を通すために苦労する……みたいことがいまはないので、けっこう好き勝手に仕事をできることを楽しんでいます。暴走しつつ、人とのつながり、ご縁を大事にしています。
――けっきょくコンテンツって、人と人のつながりで作られていくものだったりしますものね。
――本日はありがとうございました。最後に読者へのメッセージとして、BitSummit Driftやその後に用意されている、“喜多山浪漫コンテンツ”の今後の展開を告知していただければと思います。
そして、小説家喜多山浪漫としても、いろいろな展開を用意しています。いま発表できるものとしては、『魔法捜査官』のボードゲーム化が決まっています。これはデジタルと紙、両方用意する予定で、ベータ版扱いではあるのですが、今年の東京ゲームショウにデジタル版を出展して、遊んでもらえるようにしたいと思っています。そのときには紙のほうでも体験キットを配布できればと考えています。
ほかにも、東京ゲームショウ2024ではもう少しいくつか仕掛けを考えていますので、『デビルリバーシ』とともに、ぜひ注目してもらえればと思います。