ホラー・アイコンとしてのゾンビは、もう結構

 ゾンビが跋扈する南国のリゾート島を舞台にしたオープンワールドアクション『DEAD ISLAND(デッドアイランド)』。スパイクよりプレイステーション3とXbox 360向けに発売された、話題のゾンビアクションの尽きせぬ魅力をライターの戸塚伎一に語ってもらった。


 以前から、ゾンビまたはそれに類するミュータントと戦うアクションゲームが大好きな私ですが、ここ最近は心境に微妙な変化が出てきました。ただ闇雲にスプラッターなのはもういいかな……という一段落感。コアなジャンルファンには“日和った”と思われるかもしれませんが、もともと私がゾンビに惹かれたのは、一部のゾンビ映画で丁寧に描かれる、圧倒的な絶望に覆われた世界で何とか正気を保ちながら生き延びようとする人間たちのドラマ性にガツンとやられたから。ゾンビたちはあくまで、“世界の絶望”をダイレクトに表現するアイコンとして秀逸な存在であって、それをどうしてやりたいかといった願望はもともと持っていませんでした。

 そんな自分の原点に立ち戻るきっかけになったのが、『DEAD ISLAND(デッドアイランド)』です。いかにも近年のCERO Zゲームらしく、ゾンビの首や四肢が血飛沫をあげながら豪快にすっ飛ぶスプラッター描写が満載ですが、決してそれだけにとどまらない内容が、本作には詰まっています。

ゾンビものというジャンル枠の安心感を吹き飛ばす傑作『DEAD ISLAND(デッドアイランド)』インプレッション_10
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ゲームのお約束では克服できない脅威が、そこにある

 観光客で賑わう南国のリゾート島が、原因不明の感染症によって“ゾンビ楽園”に。高い戦闘能力とウイルスの抗体を持つ4人の男女は、外界から隔絶された孤島から脱出する方法を求め、島内を探索する……というのが大まかなストーリー。ゲーム開始時に選ぶプレイヤーキャラはそれぞれ格闘&投擲、打撃武器、刃物、銃器による戦いに優れたキャラクターで、冒険を進めてレベルアップするごとに、独自の戦闘スタイルに特化したスキルを身につけられるようになります。

 舞台となるバノイ島は、ゲームの進行によって移動できるエリアが増えていくオープンワールド。スタート時に移動できるのは砂浜に面したリゾートエリアのみで、登場するゾンビの服装も、水着やいかにも観光客的なラフなスタイルが中心です。一見、本当に楽園かと錯覚しそうになりますが、行く先々で目にするのは損傷著しい死体の数々。耳をすませば聞こえてくるのは、恐ろしげなゾンビの絶叫。それが徐々に大きくなってきたかと思えば、猛ダッシュしてきたゾンビにボコボコにされ死亡、なんてのはごく当たり前です。

 視界を埋め尽くすほどの数のゾンビがドドドッと押し寄せてくるパニックホラー的な展開はさほどなく、よほど狭い一本道でもなければ全力ダッシュで追っ手を振り切ることも可能ですが、ゾンビ一体一体の攻撃力が高く行動パターンも多彩なので、ちょっとした油断や気の迷いで、あっさりダウンしてしまう緊張感が常にあります。

 じゃあ地道に経験値稼ぎして敵よりも強くなればいいじゃないかと思いきや、敵もプレイヤーキャラの成長に比例して攻撃力や耐久度が上昇するので、「ここまでレベルアップしたら、このエリアのゾンビはもう恐くない」なんてことはありません。

 ちなみに、私が選択したキャラクターは、女性捜査官のシアン。素早い身のこなしと刃物全般の扱いに長けたアサシンタイプです。レベルアップすると、ゾンビの頭を一瞬で踏み潰す技や強力なジャンプアタックを覚え、すでに見えている2~3体程度のゾンビなら、より華麗に倒せるようになりました。

 とはいえ、大群のど真ん中を突っ切るような強行策は通用せず、猛ダッシュゾンビにビビりながらおっかなびっくり探索するプレイスタイルは相変わらず……。RPG要素のあるアクションゲームとしてはやや特殊なバランス調整ですが、本作のゾンビ観は、まさにこの点に集約されていると言っていいでしょう。目の前にいるゾンビと、いつ襲い掛かってくるかわからないゾンビへの恐怖。そして、どこにいてもどんなに強くなっても一向に安心できないゲーム世界そのものの絶望感が、『DEAD ISLAND(デッドアイランド)』のバックグラウンドです。

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ゾンビものというジャンル枠の安心感を吹き飛ばす傑作『DEAD ISLAND(デッドアイランド)』インプレッション_03

生存者たちによって深まる絶望ムード

 バノイ島の探索は、リゾートエリアから貧民街、島の原住民が暮らすジャングルへと展開。最終的には、一度行ったら引き返すことができない超危険地帯に踏み込みます。行く先々に禍々しいゾンビが待ち構えているのはもちろんですが、危険な状況下にある個人、または一定の自衛設備を整えている生存者コミュニティーと遭遇することも珍しくありません。むしろ彼らと積極的に関わり、彼らの要求に応えることで、さまざまな恩恵を受けられます。

 おもに各コミュニティーのリーダーから依頼されるメインクエストは、多くの生存者の命運に関わる、公共性の高い内容。依頼をこなすことでコミュニティーが持つ情報やネットワークを利用できる……という、サバイバル環境におけるギブアンドテイクの関係を体験できます。

 一方サブクエストは、依頼者のプライベートな望みを叶える、小間使い的な内容がほとんど。難易度や報酬はピンキリで、正直、ゲーム進行上の重要度は高くありません。しかし、気がつくと彼らの要求をせっせと満たそうと、せっせとマップを駆け回っている自分がそこにいます。

 ゾンビ化した家族がそのままでいるのはしのびないから始末してきてほしいと頼まれたり、「夫の安否を調べてきてほしい」と言われ指定の建物に行ってみると、ぐったりしたふたりの女性とともにベッドにいた夫に「俺はもう死んでいたと伝えてくれ」と頼まれたり。はたまた、プールサイドバーの厨房に籠城している男にアルコールを何本か届けたら、たいした礼もなく閉め切られたり──。

 ゾンビとの戦いが絶望の動的な側面とするならば、サブクエストで出会う人々が醸し出すダウナーな空気は、絶望の静的な側面。常態化した極限環境下であらわになる人間性と、それが織りなす小さなドラマをここまで執拗かつ説得力十分に描いているゾンビゲームは、過去にはなかったと思います(※個人的感想です)。

 余談ですが、前者と後者の中間に位置するのが、武装篭城して近づくゾンビやプレイヤーキャラを攻撃してくるギャング一味。世界の絶望に飲まれ、刹那的にしか生きられなくなった彼らの姿はあまりにも哀れで、移動中に出くわすと、つい全滅させてやりたくなります。……貴重な銃火器の弾薬を補充できる、絶好のカモだったりもするので。

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心理的にもゲーム攻略的にもありがたい協力プレイ

 本作のシングルプレイは、プレイヤーが操作するキャラクターひとりですべての戦闘、クエストをこなすことに。マイペースで気楽にできるのが利点ですが、ストーリーデモでは4人パーティーで行動していることになっているだけに、一抹の寂しさは否定できません。

 せっかくなら多人数で遊んでみたい……そんなときに活用したいのが、Xbox LIVEによる協力プレイです。フレンドの招待はもちろんのこと、ゲームの進行状況が近いオンラインユーザーを自動的にマッチングしたり、同じエリアでプレイ中の“すれ違いユーザー”のゲームに途中参加し、最大4人同時で遊ぶことができます。

 各種クエストの進行状況や敵の強さはホストプレイヤーのステータスに準拠するなど、注意点はいくつかありますが、獲得した経験値やアイテムはシングルプレイに引き継がれるし、何より、ひとりではきびしい難所を突破できる可能性が飛躍的に高まるのは大きなメリット。かくいう私も、1週目は都合3回ほど、協力プレイのお世話になりました。印象的だったのはクライマックス。凶悪なゾンビの群れを前に、これはひとりでは無理だと早々に諦め(笑)、近くにいるプレイヤーに合流すると、あれよあれよという間に全メンバーが揃い、最終ボスは予想外のフルボッコ勝利で倒しました。ラストはひとりよりもみんなで迎えたい……という気持ちが一致したかのような、不思議な連帯感を味わうことができました。協力プレイの対象が国内ユーザー限定という点は少し残念ですが、ゲームの性質を考えると、まあしょうがないかなとも思います。

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絶望の果てにあるのは無限の闇か、それとも……

 現在は、初回とは異なるキャラクターで2周目をプレイ中。初回プレイで放置していたサブイベントを消化しつつ、マップの隅から隅まで歩き尽くしてやろうと、じっくり取り組んでいます。大抵のゲームは「未踏破の場所やイベントも含めて、それが自分の軌跡」と割り切れる私ですが、本作に限っては、まだ経験していない大事なことがあるんじゃないだろうか……とあてどなくさ迷い続ける“亡者”と化しています。

 自身のゾンビゲーム贔屓を差し置いて手前勝手に解釈するならば、「この絶望的世界を克服しなければ一歩も先に進めない」という心理が、どこかで働いているのかもしれません。本作のやりこみ経験が、単に時間の浪費で終わるか、そこから何か先に繋がるのか、我ながら楽しみです。

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■戸塚伎一プロフィール
ファミ通Xbox 360誌でクロスレビューを担当する文章&漫画かき。『DEAD ISLAND(デッドアイランド)』の世界を探索する秘かな楽しみのひとつは、ゾンビ化した元人間の日常やプライベートを覗けること。ベッドには両手を縛られた女性ゾンビ。その周囲には、ビデオカメラと男性ゾンビ2体……みたいなブラックなシチュエーションもあり、こりゃどう転んでもCERO Zだわーと納得します。

『DEAD ISLAND(デッドアイランド)』
発売元:スパイク
対応機種:プレイステーション3、Xbox 360
発売日:2011年10月20日
価格:8190円[税込]
対象年齢:CREO Z(18歳以上のみ)
備考:開発元/TECHLAND

[戸塚伎一の過去のレビュー記事]
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