●Xbox 360ユーザーよ、礼儀正しき“居合の達人”となれ

 全世界で大ヒットを記録した『Fruit Ninja』がKinectで登場。果物を手で斬る体感アクションゲーム『Fruit Ninja Kinect(フルーツニンジャ キネクト)』のインプレッションをライターの戸塚伎一がお届けする。

 日本の伝統的な儀礼に“手刀を切る”というものがあります。進行方向を塞いでいる人混みや、目の前を横切った相手に対して、領域侵犯の非礼を詫びるゼスチャーですが、五指を揃えてまっすぐ伸ばした手のひらが意味するものは、やはり刀。それを前に突き出すことによって、人波なり視線なりを切り、自我を押し通していることには変わりありません。誰かが手刀を切った瞬間、当人が意識するしないに関わらず、その手先からは思念体としてのブレードが出現しているのです!

 そんな手刀の威力を目に見える形で、しかもゲーム形式で無邪気に楽しめるのが、『Fruit Ninja Kinect』なんです。ちなみに、開発者はそんなことまったく考えていなかったと思います!!

●言うは易し、行うは……気持ちヨシ!

 基本的には、放り投げられた果物を斬っていけばオーケー。複数の果物を一太刀でまとめ斬るなどテクニカルな斬りかたをすればボーナスが加算され、果物に混じって飛来する“斬ってはいけないもの”を斬ると、得点マイナスや一発ゲームオーバーなどのペナルティーが発生……と、ルールは極めて単純です。

 果物を斬るための道具“ブレード”となるのは、掌(てのひら)。ゲーム画面中央におぼろげに表示されるプレイヤーの上半身は、Kinectセンサー前のプレイヤーの動きをリアルタイムトレースし、腕を一定速度で動かすと、手先の軌道が閃光として表示されます。それを果物に重ね合わせれば、ジューシーな炸裂音とともに真っぷたつになる……というわけです。ブレードは左右どちらの掌でも認識され、同時使用も可能。一刀流でシブく決めるのもよし、二刀流で乱斬りを楽しむのもよしです。

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▲果物を両断した時の爽快感は、グラフィック、サウンド両面の演出によって極限まで高められる。掌はどんな状態でもブレードとして機能するが、斬る感触を味わうには、やはり手刀スタイルに勝るものはない。

●技・体が伴ってこそのニンジャ・スピリット

 まっさらの状態で本作をはじめた直後は訝しげに片手チョップをくり出していた私ですが、気がつけば妖しげな拳法使いのように両手を振り回し、痛快な一撃が決まったときなどは腰の入った決めポーズをとるほどのノリノリ状態に。……ペース配分を考えずに遊び続けた結果、後日、両肩の筋肉痛に悩まされることになりましたが、自分の身体の一部が鋭い切れ味を持った“刀”になった感覚は、これまでのゲームでは味わえない、エキサイティングなものでした。

 本作のオリジナル版(iPhone/iPod touch用アプリ)は、タッチスクリーン上で指を滑らせる直感的な操作が持ち味でしたが、『Fruit Ninja Kinect』の場合、ゲームプレイに、フィジカル面での制限をかなり受けます。わかっているのに間に合わない、イメージ通りの軌道が描けないといった不満が発生するのは、ある程度仕方がないでしょう。

 ただ、モーショントレースの精度自体は高いので、各関節の可動域を広げるストレッチをしたり、つぎの動作に移行しやすい、“より滑らかな腕の軌道”を研究することは、かなりの確率で報われます。このあたり、ゲーム攻略というよりは武道を究める心構えが必要かもしれません。

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▲闇雲に両腕をブンブン振り回してプレイしていると、思いのほか体力を消耗する。また、急に高速かつ複雑な軌道を描こうとすると関節を痛めやすいので、身体が悲鳴をあげる前に自制しよう。

●いまこそ、手刀切りの復権を!?

 ゲームモードはオリジナル版とほぼ同じ構成。フルーツを3回落とすか、ダイナマイトを1回でも斬ってしまったらゲームオーバーの“クラシック”、お助けアイテムが出現し、インフレなコンボボーナスが加算されまくる“アーケード”、制限時間内のスコアアタックをストイックに楽しめる“ゼン(禅)”が用意されています。いずれのモードも、いかにまとめ斬りボーナスを獲得し続けるかが、ハイスコアの必須条件。『ルパン三世』に登場する石川五ェ門よろしく、居合の達人を気取るのも乙なものです。

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▲『Fruit Ninja Kinect』の新規追加モードとして、3つのチャレンジを順番にこなしていく“チャレンジ”がある。周回を重ねるごとに達成ノルマが徐々に上がっていくため、フィジカル、メンタルともに高い水準が要求される。

 マルチプレイはオフラインのみ対応。ふたりのプレイヤーが左右に並んで、対戦または協力プレイを楽しめます。誰もが“とりあえず何をすればいいか”を瞬時に把握できるシンプルさ、そして要求される動きそのもののハデさは、パーティーゲーム向きともいえます。とりわけ、新規追加モードの協力プレイはペナルティーを気にせず無邪気に遊べるので、ふだんゲームをやらない人の意外な乱れっぷりを見ることができるかも……。

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▲対戦プレイは、それぞれのプレイヤー用の果物が同一画面上に乱舞する。相手プレイヤー用の果物を斬ってしまうと減点。協力プレイは、ぬるく遊んでも本気でスコアアタックしても楽しめる。

 ゲームとしての深みはタカが知れていますが(失礼)、手刀が生み出すファンタジックなひとときを満喫できる佳作であることは確か。オーストラリアのデベロッパーがKinectセンサーと“コラボレーション”した結果クローズアップされた日本の心、とくと味わってみてください。

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▲プレイ回数をこなすことで、背景やブレード軌道のグラフィックのカスタマイズ項目が徐々に増えていく。気分転換として利用しよう。

 ■戸塚伎一プロフィール
ファミ通Xbox 360でクロスレビューを担当する文章&漫画かき。儀礼としての手刀切りは、中学生時代、高齢の数学教師が、廊下でたむろしている生徒のあいだを通るとき にやっていたのを見て知りました。当時は動きのコミカルさだけが印象に残りましたが、いまにして思えば、学生にも一定の敬意を払っている先生だったんだ なぁ……。

Fruit Ninja Kinect
対応機種 Xbox 360(Xbox LIVE アーケード)
メーカー 日本マイクロソフト
開発元 Halfbrick
配信日 2011年8月10日
価格 800マイクロソフトポイント
ジャンル アクション
CERO A(全年齢対象)
備考 Kinect対応

[戸塚伎一の過去のレビュー記事]
※30秒で世界を救え! 『HALF-MINUTE HERO -Super Mega Neo Climax-』インプレッション
※Kinectならではの格闘ゲーム『ファイターズ アンケージ』インプレッション
※衝撃の展開に真実味が宿る『HOMEFRONT(ホームフロント)』インプレッション
※ハンドル操作をベースにしたアクションバラエティー、『Kinect ジョイライド』プレイインプレッション
※良質な舞台を観終わったあとの余韻を漂わせる良質な娯楽作『ゴースト トリック』インプレッション
※他作品とは一線を画するオリジナリティーが魅力『ジャストコーズ2』インプレッション
※操作しているだけで幸せな気持ちになれる会心の1作、『BAYONETTA(ベヨネッタ)』インプレッション
※ローカライズされてこそ増した楽しみ、『ギアーズ オブ ウォー 2』インプレッション
※ゲーマーにとってのまさに“故郷” 『イースI&IIクロニクルズ』インプレッション
※演出、シナリオ……ゲームファンの心をくすぐる『銃声とダイヤモンド』インプレッション
※30秒の戦いにすべてを注ぎ込んだ快作『勇者30』インプレッション
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※伝説的なシューティングがPSPで蘇る『零・超兄貴』インプレッション
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