●あの日、報われなかった想いをKinectで実現する
悪夢の世界が待っている――Xbox 360 Kinect専用ホラーとして注目を集める『RISE OF NIGHTMARES(ライズ オブ ナイトメア)』。同作のインプレッションを、ライターの戸塚伎一がお届けする。
ゲームに不慣れな人が旧来のスタイルの横スクロールアクションゲームをプレイすると、往々にしてあること。プレイヤーキャラをジャンプさせるとき、両手で握り締めたコントローラーを持ち上げたり、あるいは身体全体がピョンと跳ねたりする、例のアレです。
コントローラーのジャンプボタンを押すだけでいいのに、必要のない動きをしてしまうのは、プレイヤーの「ジャンプしたい(させたい)」という意思をゲーム世界に反映させる経路が、あまりにも限定的だからに他なりません。
いわゆるゲーマーは、ボタンを押す指先に自分の意思を集中することができますが、そうでない人は、およそ直径10〜30ミリメートルのボタンでは処理しきれない、“ジャンプしたい気持ち”を全身レベルで放出します。ゲームに不慣れな人の、傍目に見たら滑稽極まりない動きは、ゲーム世界に届かなかった想いが不完全燃焼するさまなのです。
『RISE OF NIGHTMARES(ライズ オブ ナイトメア)』は、そういった不完全燃焼しがちな想いが報われるよう調整された……というか、むしろ全身から想いを発散してこそのアクションゲームです。“全身をコントローラーとして使う”という機能面だけをみれば、これまでにリリースされたすべてのKinect専用(対応)ゲームがそれに該当するのでは? と思われるかもしれませんが、本作には従来タイトルと一線を画する要素があるのです
●自分の足で探索するからこその解放感と違和感
ゲームをスタートしてすぐ実感できるのは、仮想空間を自分の足で動き回れるおもしろさ。前進/後退/停止は両足のシンボリックなジェスチャー、左右の旋廻(進行方向変更)は、両肩のひねりによって行います。
旋廻するときも顔はつねに正面方向……など、視界(ゲーム画面の位置)が固定されているがゆえの不自然さは否めませんが、全身の感覚を維持したまま異世界に入り込んでいる臨場感は、かなりのもの。コントロールパッド操作のFPSが、自分の肉体から遊離した思念体を遠隔操作する快楽に溢れているとしたら、『RISE OF NIGHTMARES(ライズ オブ ナイトメア)』は、思念に振り回される肉体が異世界と接触したときの“ざらついた感触”を存分に愉しめる作品、といえるかもしれません。
プレイ中のざらついた感じが持ち味とはいえ、テレビゲームとしてスマートに処理してほしい部分への配慮はバッチリ行き届いています。地形物を調べたり武器を拾ったりするときは、対応するアイコンに触れる(手のひらを前方に出したときに表示されるカーソルアイコンを重ねる)ことで、その場まで自動的に移動し、武器ならそのまま拾い上げて装備します。また、特定の場面では、ある決まったポーズをとり続けることで、ゲーム進行上つぎに移動すべき場所まで自動的に歩いてくれるオート移動機能も利用できます。「いい感じの舞台は用意したんで、あとはご自由に」と突き放していないあたり、本作には“セガのKinect専用ゲーム第一弾”として、コアゲーマー層に訴求する以上の意味合いがあります。
●ホラー+バトルの“二部構成”によって揺さぶられるエモーション
前半ステージは、不吉なムードが充満する謎の建造物内を恐る恐る探索するゴシックホラーアドベンチャー風味。ゾンビっぽいクリーチャーとの戦闘は、 場数を踏めばある程度慣れますが(血飛沫や部位欠損表現が凄まじいので、スプラッターが苦手な人はとことんダメかも)、通路の曲がり角で急にッ!! みたいな驚かし要素は、最後まで引っかかりまくりでした。勝手に進む乗り物で体験するホラーアトラクションより、自力で進むお化け屋敷の方がより怖い……という感覚に通じるものがあるかもしれません。
後半ステージは、激しいバトルがメイン。あまり詳しくは説明しませんが、プレイヤーキャラがとても強力な攻撃方法を獲得することで、恐怖心が後退して痛快さがクローズアップされます。また、ボスとの一騎打ちではかなり激しい動きが要求され、気がつけば全身がクタクタ、なんてことも。
個人的には、前半のドキドキヒヤヒヤなホラー路線で通してもらっても大歓迎だったのですが、トータルで振り返ってみると、場面に連動したアクションが盛り込まれた、バラエティー性豊かなアクションアドベンチャーでした。単に従来のゲームの操作をKinect用に置き換えたというよりは、プレイヤーの「○○したい」という想いを全身から引き出す演出に優れた、極めてエモーション重視の作品と思います。
とくに際立っているのが、ゲームの最終局面。巨大かつ圧倒的な攻撃力を持つボスの弱点にダメージを与える際のアクションには、自然と力がこもりました。ゼスチャー自体は道中でさんざんやってきたものと同じなのに、それを行うシチュエーションが違うことで、まったく別の気持ちが呼び起こされることに感心しました。
そして、ボス戦後に待ち受ける、本編の“ファイル・アクション”。激しい戦いをくり広げてきたゲームの締めくくりとしてはあまりに予想外で(ストーリー面での伏線こそありましたが)、このシチュエーションに慣れていない人は、大いに戸惑うでしょう。しかし、ぎこちないながらもそれをこなすことで、何ともいえない温かい気持ちが湧き上がってくるはずです。
本編クリアー後は、より高難度で遊べるモードと、クリーチャーの群れとひたすら戦えるチャレンジモードがアンロックされ、やり込み派のプレイヤーの欲求にも十分応える作りに(あのエンディングを迎えてすぐ“終わらない悪夢”に飛び込める精神的タフさは、私は持ち合わせていませんでした……)。「全身を使って遊ぶからおもしろい」以上のゲーム体験が、本作には詰まっています。
■戸塚伎一 ファミ通Xbox 360誌でクロスレビューを担当する文章&漫画かき。本文では言及していませんが、狂気の科学者にさらわれた妻を救うストーリーや、怪人エルンストとの攻防、巨大な刃物タイプのトラップの緊張感も、大きな見どころでした。本作の世界があまりに気に入ったので、これから始めようと思っている人に先導のガイド役を買ってでたいほどです。 |
『RISE OF NIGHTMARES(ライズ オブ ナイトメア)』
対応機種 Xbox 360
メーカー セガ
発売日 2011年9月8日
価格 7329円[税込]
ジャンル アドベンチャー
対象年齢 18歳以上(CERO:Z)
※『RISE OF NIGHTMARES(ライズ オブ ナイトメア)』はCEROにより18歳以上のみ対象の指定を受けておりますが、掲載にあたっては、本誌掲載基準に従い配慮しています。