●イノセンスはあるか?

 児童が好きな3つのコと言えば、何といってもウ○コ、チ○コ、シ○コでしょう。大人が文章化する際、ついいろんなことを考えて伏せ字にしてしまうこの単語を、子どもたちはまぁ臆面もなく絶叫したりします。周囲の人間──とくにその子の親にとっては気まずいことこの上ない行為ですが、等身大の日常に身近なものの名前を連呼しているだけ……と思えば、その根本にあるのはイノセンスかもしれません。

 では、チェックポイントを通過するたびにウ○コがひり出される音が鳴り響いたり、目指す城の形がチ○コっぽかったり、人間の10倍はゆうにある巨大モンスターが悠然とシ○コするテレビゲームに、イノセンスはあるのでしょうか?

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●多彩な攻撃手段

 『シャドウ オブ ザ ダムド』は、悪魔ハンターの青年ガルシアが、とある理由でみずから地獄に乗り込み、つぎからつぎへと襲いくる悪魔を蹴散らしていくアクションゲームです。

 ガルシアの武器は、機関銃からバイクまであらゆるものに変形する、元悪魔のジョンソン。ふだんはたいまつの形状で、ガルシアの視界を照らしたり急場しのぎの打撃武器として活躍しますが、ひとたび敵に向けると、アサルトライフルやマシンガン、ショットガンといったおなじみの銃器に早変わり(見た目はいかにもデモニッシュですが)。並の悪魔であれば、ヘッドショット一発で始末できる破壊力を持っています。

 ダメージを直接与えることはできませんが、本作独自の武器、ライトショットを効果的に使えば、戦闘を有利に進めることができます。光が苦手な悪魔は、ライトショットが命中すると一定時間マヒ状態に。そのときに接近攻撃すると、見た目に派手でバリエーションも豊富なフィニッシュコンボをくり出せるのです。射撃の腕に自信がある人はヘッドショットでテンポよく進み、爽快感を味わいたい人はライトショット→フィニッシュコンボで活路を開く……といった具合に、複数のプレイスタイルにしっかり対応している作りは、アクションゲームとして良心的です。

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●光と闇の攻防

 戦いの舞台が魔界ということもあり、基本的には悪魔側に有利な条件が揃っています。その中の大きな要素のひとつが、フィールドの各所で展開する“闇”です。

 闇の中に入ったガルシアは、移動速度が落ち、一定時間が経過するとダメージを受け続けます。また、闇に入った悪魔は強化状態にあるため、通常攻撃では倒せません(闇の範囲外におびき出し、ライトショットで体にまとった闇を除去することで通常状態に戻ります)。

 できる限り避けて通りたいのが人情ですが、実際には、闇に積極的に関わることなしに突破できない場面が満載です。

 出口を目指し、ひたすら進むのはほんの序の口。闇の中から見ないと実体化しない攻撃ポイントを出現させるため、あえて敵に闇を展開させる……といったパズル的な攻略法も要求され、一筋縄ではいきません。スマートな回避策を設けず、リスク覚悟で闇に飛び込むことを唯一の突破法とした泥臭いゲームデザインは、背徳的なモチーフに溢れる本作に相応しい調整といえます。

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●地獄のラブストーリー

 今回私がプレイしたのは、ACT3の後半まで。ストーリーを総括する感想は書けませんが、プレイした範囲で気付いたこと、気になったことがいくつかあります。

 まず冒頭でも触れたように、決してお上品とはいえない事象が、直接的/間接的な表現でそこかしこに描かれていること。いわゆるエロ・グロ・ナンセンスに溢れたゲーム世界の居心地自体は、よいとも悪いとも言えませんが、頻繁に挿入されるガルシア(CV・浅野忠信)とジョンソン(CV・我修院達也)のとぼけたトークによって、受け止めかたにひとつの指針が提示されます。無粋な規制や外野からのノイズにとらわれない自由な心持ち、とでも言えばいいでしょうか。表層に覆われた部分に馳せるイマジネーションが逞しくなるのを実感しました。

 もうひとつは、ガルシアの恋人、ポーラの存在の大きさです。そもそもガルシアがアウェーの魔界に飛び込んだのは、彼女がさらわれたからであり、彼女の虚実入り混じった影を追い求める形で、場面が進行します。

 ゲーム開始時、ポーラに関する詳しい情報は、プレイヤーには与えられません。道中、ガルシアがジョンソンに語るノロケ話によって少しずつ明らかになりますが、それ以上に伝わってくるのは、ガルシアの彼女に対する真摯な想い。たとえワナだとわかっていても、ポーラの姿が見えたら近付かずにはいられない男の純情に、イノセンスを感じました。

 それが最終的に報われるか、はたまた踏みにじられるのか……途中経過から推測するに、ハッピーエンドへの道のりは相当きびしそうですが(笑)、ガルシアのイノセンスが魔界の景色をどう変えるのか、楽しみにしながら続きを進めたいと思います。

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■戸塚伎一プロフィール
ファミ通Xbox 360誌でクロスレビューを担当する文章&マンガかき。本作のちょっとしたお気に入りポイントは、自動販売機で回復用スープをまとめ買いしたときの、ガルシアのワシャワシャした動きです。