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演出、シナリオ……ゲームファンの心をくすぐる『銃声とダイヤモンド』インプレッション
【プレイ・インプレッション】

2009/6/19

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●“交渉人”鬼塚陽一の事件を描く、本格的アドベンチャーノベル

 『弟切草』や『かまいたちの夜』などの開発を手掛けた麻野一哉氏が監修や演出を担当する、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンによるPSP(プレイステーション・ポータブル)用ソフト『銃声とダイヤモンド』。この本格派アドベンチャーノベルを、アドベンチャーゲームが大好きなライター、戸塚伎一が語る。

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▲本編の主人公である鬼塚陽一。フリーランスの交渉人として事件に関わる。


●私の願いはただひとつ。それは……

 警察の雇われ交渉人となって、つぎからつぎへと起こる難事件を解決に導く──『銃声とダイヤモンド』がどんなゲームかを一文で説明するなら、こんな感じでしょうか。これだけで「面白そう! やってみたい!」と思う人がいたら、それこそインプレッション記事そのものの存在意義が問われます。

 そうした一方で、“(現代の)犯罪事件を題材にしたアドベンチャーゲーム”という題材だけで、本作を迷わず購入するユーザー層がいることも確か。じゃあ私は誰に向けてこの記事を書けばいいのだろうと考えた結果、「タイトルやキャラクターデザインに惹かれてどんな内容か調べてみたものの、何だか地味そうで……」と、もうひとつ煮え切らないユーザーを想定することにしました。

 私自身、懐疑的な印象のままゲームを始めて、気がつけばすっかり夢中になっていたクチなので、今回の記事で、躊躇している方の背中をひと押しできれば、幸いです。

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▲鬼塚をはじめとする(左)魅力的なキャラクターが物語を彩る。


●テレビゲームならではの“テンポ”にこだわったシナリオテキスト

 本作の主人公・鬼塚陽一は、ニューヨーク帰りのフリーランスの交渉人。警視庁の新設部署、通称“ゼロ課”のキーマンとして、本場仕込みの交渉術を発揮します。

 といっても、人質篭城事件や身代金誘拐事件といった凶悪犯罪が発生するまで、手をこまねいているわけではありません。部署自体が出来たてというか準備室扱いなので、比較的軽いフットワークで大小さまざまな事件に首を突っ込みます。

 そうやって関わっていった事件がじつは背後でつながっていて……という展開はもはや定番ですが、だからといってその過程も月並みというわけではありません。

 プレイを始めてまず感心したのが、シナリオテキストの“美しさ”。場面転換時の大雑把な状況説明や、初登場キャラクターの簡易プロフィールがテロップ風に表示される以外は、ほぼ登場人物のセリフのみで状況が語られ、場面が進行します。

 一度に表示されるセリフは、口語の自然さを残した極力短いセンテンスでまとめられているので、やや込み入った状況説明も比較的すんなり頭に入ってきます。しかも、そうした会話の流れの絶妙なタイミングで、洒落た言い回しや、含みのあるひと言がさらっと出てくるから、たまりません。曲がりなりにも文章を生業にしている者として、本作のシナリオテキストは、嫉妬モノのクオリティーです。

 各セリフに“表情”を宿らせる手法として本作がフル活用しているのが、テキスト表示のバリエーション。大雑把に言えば、文字サイズの大小が“声の大きさ”を、字送り速度の緩急が“精神の安定度”を表しています。これらと、その場に居合わせる人々の佇まいを描写するグラフィックとの組み合わせで、対人コミュニケーションにおけるさまざまなムードが演出されます。

 とくに引き立つのが、会話がかみ合っていない者どうしのビミョーな空気だとか、面白キャラクターがかもし出す、トボけた“間”。小説ほど読者に委ねられているわけでもなく、アニメなどの映像作品ほど断定的でもない、程よくルーズな描写のテンポならでは……といえばそれまでですが、テレビゲームが本質的に抱えている“間の抜けた感じ”を虚飾や付加価値でごまかそうとせず、演出手段として悪びれずに用いている点において、本作はじつにゲーマー心をくすぐります。

●ある意味で難しく、ある意味でシンプルな“交渉モード”

 そうした“テレビゲームとして悪びれていない感じ”を存分に味わえるのが、本作の見せ場となっている“交渉モード”です。

 犯人や聞き込み相手から、特定の条件や情報を引き出す必要があるシーンで強制的に始まるこのモード。相手の性格や会話の流れに応じて、適切な内容(感想、質問etc.)を適切なタイミングで発言することが求められます。進行は正真正銘のリアルタイム。口をはさむのをためらっているあいだも会話はどんどん進み、発言内容候補が容赦なく更新されていきます。

 会話がどちらの思惑通りに進行しているかは、鬼塚と交渉相手のグラフィックの表示面積によって知ることができます。相手を威圧したり納得させるごとに、双方のグラフィック表示領域が変化する……という、“押し問答”のストレートなビジュアル化なわけですが、刺激的な効果音と、グラフィックパターンの絶妙な切り替えによって、独特の一進一退の緊張感を味わえます。

 いざ交渉に臨む際に重要な指針となるのが、ゼロ課所属のプロファイラー・中村啓介による、交渉相手の行動心理分析。交渉前の“プロファイリングモード”で中村に適切な情報(事件調査中に入手したキーワード)を提示することで、交渉モードで表示される発言内容候補に“Positive=発言するべき”または“Negative=発言を見送るべき”といったヒント表示が加わります。交渉を有利に進めるには、事前の準備も大事、というわけです。

 交渉によって導き出せる結果はひとつとは限りません。エピソード(章)は無事クリアーできたけど、どうも結末の後味が悪い、事件の根本的な解決には至っていないと感じた場合は、エピソード内の重要な交渉シーンで最良の結果を引き出せなかった可能性が大です。その“分岐点”がどこにあり、具体的にどのように会話を進めればいいかを推理するのが、交渉モードの楽しさであり、難しさでもあります。

 エピソードを気持ちよく終えるための秘訣は、「推理アドベンチャーゲーム風の雰囲気に浸りきらないこと」。プレイヤーはおもに鬼塚の視点で物語を進めてはいますが、情報は必ずしも共有しているわけではありません。時には、特定の発言を選択して初めて判明する事実もあったりするので、プレイヤーが知っている情報だけで理詰めに考えていると、発言内容候補に“盲点”が生じます。

 そもそも本作のゲームジャンルは、交渉アドベンチャー“ノベル”。非リアルタイム進行のアドベンチャーゲームよりも手間はかかるものの、基本的にコマンドの総当たりで道が拓けるようになっています(攻略要素が個々の交渉シーンで完結しているのも潔い仕様です)。

 とりあえず初回プレイは、物語が進むままを素直に楽しむのがいいでしょう。本格的に攻略に乗り出すのは、プロローグを除く4つのエピソードをクリアーしてからでも遅くありません。

 私は途中で断念しましたが、ひとつの交渉シーンに複数パターン仕込まれている、膨大な数のバッドエンド(ゲームオーバー)のコンプリートを目指してみるのもいいでしょう。鬼塚の、とても有能な交渉人とは思えないぶざまな末路が満載です(笑)。

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▲本作の特徴のひとつである“交渉モード”。


●芯の通った犯罪サスペンスを楽しみたい貴方に……

 ストーリーの具体的な記述は避けますが、淡々としていながらもつねに適度な緊張感がキープされた、読み応えのある内容になっています。警視庁内部の事情描写で「無理を通せば道理が引っ込む」的な場面がやたらとあって、いいのかよそれで!? とツッコみたくなることしばしばでしたか、案外、現実もそんなものかもしれないと思いました。良い意味でも悪い意味でも。

 ともあれ、各エピソードごとのグッドエンド、ノーマルエンドを含めて決定的なストーリー矛盾がなく、思わせぶりな伏線もひと通り回収されているので、かっちりとまとまった犯罪サスペンスを楽しみたい人にもオススメできます。

 それでもなお残る謎は、続編への伏線……ということにしておきましょう。少なくとも私は、この登場人物、このシステムの新作ストーリーを楽しみたくて仕方がありません。

 以下、余談。本作を“最後”までプレイして感じたのは、「交渉事ってのはどこまでも独善的で我田引水的なんだな」ということ。それが悪いのではなく、自分本来の望みを叶えるにはそれくらいの気概がないとダメなんだろうなーという教訓として、とても印象的でした。命の危険と隣り合わせな状況にあってもなお、大胆なハッタリをかませる鬼塚の図々しさ、見習いたいものです。

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▲緊迫感溢れるストーリーが展開される。


Text by 戸塚伎一 

 

筆者紹介 戸塚伎一

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ファミ通Xbox 360誌でクロスレビューを担当するフリーライター&漫画かき。本作のささやかなお気に入りは、鬼塚と元マル暴所属の相棒・神埼ひろみとの関係。ここまで恋愛に発展する可能性を感じさせない美男美女コンビもすがすがしいです。その交渉術を色恋沙汰に使う気はないのか、鬼塚。

 

『銃声とダイヤモンド』

対応機種

PSP

メーカー

ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン

発売日

発売中(2009年6月18日)

価格

4980円[税込]

テイスト/ジャンル

推理/サスペンスアドベンチャー

CERO

12歳以上対象

備考

ダウンロード版は3800円[税込]/監修・演出:麻野一哉


※『銃声とダイヤモンド』の公式サイトはこちら
※ファミ通.Comの特設サイトはこちら

[戸塚伎一の過去のレビュー記事]
※30秒の戦いにすべてを注ぎ込んだ快作『勇者30』インプレッション
※まさに硬派! 骨太のSFワールドを満喫せよ『Mass Effect(マスエフェクト)』インプレッション
※人間の“表と裏”を描く『Another Time Another Leaf(アナザータイムアナザーリーフ)〜鏡の中の探偵〜』インプレッション
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