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【CEDEC 2010】世界的大学教授による突出のススメ「出過ぎた杭は誰も打てない！」

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CEDEC 2010の最終日にマサチューセッツ工科大学の石井裕教授による基調講演が行われた。氏が語ったのは未来へ向けての取り組み。

2010-09-02

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●突出するための燃料は飢餓感

　CEDEC（CESAデベロッパーズカンファレンス）2010が、2010年8月31日～9月2日の3日間にわたって、神奈川県のパシフィコ横浜・国際会議センターにて開催中だ。社団法人コンピュータエンタテインメント協会(CESA)主催によるCEDECは、ゲーム開発者の技術交流などを目的に開催されている講演会で、今年で12年目。ゲームの知が集結するCEDEC 2010の模様をリポートする。

　CEDEC 2010開催最終日にあたる2010年9月2日に行われた基調講演が、マサチューセッツ工科大学、石井裕教授による“Defying Gravity： The Art of Tangible Bits（重力に抗して：タンジブル・ビット）”。“タンジブル・ビット”とは、形のないデジタル情報に直接触れられるようにするという、石井氏が提唱する新しい形のユーザーインターフェースのこと。その一例を挙げると、“Ping Pong Plus”。こちらは石井氏が1998年に発表した研究成果で、卓球をしていて、ボールが卓球台にあたると、波紋が生じたり、音が鳴ったりするようになるというもの。人間とデジタル情報、そして物理世界をストレスなくつなぐインターフェースを実現することが“タンジブル・ビット”の目的だ。と書くと、テレビゲームこそ “タンジブル・ビット”を実現しているのでは……と思われるが、実際石井氏もWiiに関して「日本からでた独創的なもの。身体性を徹底的に埋め込み、インタラクションを盛り込んだ」と賞賛していた。さらに、講義名にある“重力に抗して”とは、人間は日常生活の中で何も考えることなしに重力を受け入れているが、「根本的な仮説を疑うことは必要」（石井）との石井氏の考えを表現したもので、噛み砕いて言えば「常識を疑え」といったところだろうか。石井氏が提唱する“タンジブル・ビット”も、“重力に抗する”ことで生まれた概念と言えるだろう。


▲石井氏の研究成果のひとつである“Ping Pong Plus”。	▲石井氏がNHKのテレビ番組『トップランナー』に出演したときの言葉。なかなか誰にでも言えることではない。

　講義そのものは、石井氏の研究成果を振り返りつつ、“表現”や“情報”といった単語をキーワードに、「どうやって未来を作り上げるか？」を問うもの。講義の話題は多岐にわたったが、とくに興味深かったのが創作活動において重要なのが“ビジョン”。テクノロジーの移り変わりは早いが、「本質的に変わらないのがビジョン。長期的な視野で見られるビジョンを作ることが大事」と石井氏は説明。テクノロジーが1年前後、アプリケーション（ソフト）が10年程度で移り変わるのに対し、ビジョンは100年以上の寿命を持つとした。「ビジョンのみが私たちの生命を超えて生き延びられます。クリエイティブな作品にとっては、消えずに生き残るストーリーを作ることが大切になります」との言葉には、共感するゲームクリエイターも多かったのではないか。


▲いまコンピューターの世界で主流のGUI（グラフィカル・ユーザー・インターフェース）に対して、TUI（タンジブル・ユーザー・インターフェース）の可能性を説明する石井氏。フィジカルな要素を重視した、より直接的なインターフェースに。		▲“協創”も石井氏のキーワードのひとつ。違った知見を持ち込めるコラボレーションは時代の流れだが、エキスパートひとりひとりがどのジャンルの情報についても知識を持っていることが望ましいとのこと。

　また、刺激的だったのが「出る杭は打たれるが、出過ぎた杭は誰も打てない」との石井氏の言葉。日本社会においてはとくに協調性が求められるが、独創的な作品を作るためには、ときには突出することを恐れないことも必要。そのためには、「徹底的に出過ぎるべき」（石井）であるというのだ。「金太郎飴的な均質を求める社会は難しい」と石井氏。もちろん、出過ぎるためにはエネルギー（燃料）が必要だ。では、何か燃料になるのか？　それは飢餓感であると石井氏は言う。「知的な飢餓感を持たない限り戦えない」と石井氏は断言する。「“なぜ？”という問いかけをつねに抱きながら日々を生活すべき」（石井）。「ときには“屈辱感”も必要。悔しさを貯金して、ポジティブな内燃機関を持つべき」と石井氏は続ける。その言葉には、1995年にマサチューセッツ工科大学に着任して以降、世界の第一線で活躍し続けてきた石井氏ならではの重みが感じられた。

　最後に石井氏は、マサチューセッツ工科大学に研究生が入ってきたときに、まず問いかけるという「2200年を生きる未来の人々に、あなたは何を残したいですか？　どのように思い出されたいですか？」という問いかけを持って講演の幕を閉じた。その言葉は、聴講したクリエイターにはどのように響いただろうか。


▲世界の第一線で活躍してきた石井氏だからこそ説得力を持つ言葉。とはいえ、どんな気概を持って人生に臨むか……というのは、我々すべてに突きつけられている問いかけなのかもしれない。