DeNAとスパイク・チュンソフトがタッグを組んで制作中のスマートフォンアプリ『世紀末デイズ』。スパイク・チュンソフトからは『不思議のダンジョン』チームが開発に参加した、新世代のローグライクゲームだ。本記事では、2018年7月26日に配信が始まった『世紀末デイズ』について、開発陣へのインタビューをお届け。ローグライクゲームをスマートフォンで表現するうえでの苦労や工夫について、さまざまなお話をうかがった。

山口 誠氏(やまぐち まこと)

DeNA所属。本作では企画兼プロデューサーを担当。おもに世界観の構築や、開発チームの指揮などを行う。

後藤 真氏(ごとう まこと)

スパイク・チュンソフト所属。本作のディレクターを務める。DeNAとのやりとりを行いながら、開発チームを統括する。

渡辺孝夫氏(わたなべ たかお)

DeNA所属。ゲーム内の全般的なアートの制作を指揮し、山口氏とともに世界観を構築する。

小手川 進氏(こてがわ すすむ)

スパイク・チュンソフト所属。プランナーとして、アイデアを具体化するための仕様の作成や、全体の調整を行っている。

山本雅康氏(やまもと まさやす)

スパイク・チュンソフト所属。プログラマーとして、ダンジョンのシステムに深く関わる。

スマートフォンにローグライクゲームを落とし込むということ

――まず、DeNAとスパイク・チュンソフトの共同開発体制が実現した経緯をお聞かせください。

山口私自身、中学生のときに『不思議のダンジョン』シリーズを初めて遊んだのですが、そのときはローグライクゲームというものの存在を知らなかったので、システムに衝撃を受けてすごくおもしろいと感じたんです。でも、スマートフォンではローグライクゲームが少ないこともあり、スマートフォンユーザーの中には、この手のジャンルを遊んだことがない方も多いだろうと。そうした方たちに、私があのとき感じたおもしろさを届けたいと考えたのが『世紀末デイズ』の企画のきっかけです。

――企画の根底にあるのは、山口さんが『不思議のダンジョン』をプレイしたときの思い出なのですね。

山口はい。実際に企画が動き始めてからは、やはりその『不思議のダンジョン』を作った、ローグライクゲームの“本家”であるスパイク・チュンソフトさんと組みたいと考えるようになりました。私は以前、チュンソフトに勤めていて、後藤さんとも面識があったので、当時のCEDEC(※)で後藤さんとお会いしたときにその思いを伝えたところ、「いっしょにできるかも」という話が出てきて、本格的に開発が始まりました。それがいまから3年くらい前ですね。
※CEDEC……毎年開催される、コンピューターエンターテインメント開発者向けのカンファレンス

――スマートフォン用にローグライクゲームを作るということで、さまざまな苦労もあったのかなと思いますが……?

小手川そうですね。家庭用で開発してきた『不思議のダンジョン』のおもしろさをそのままスマートフォンで楽しめるように表現することは、かなりチャレンジングな目標でした。たとえば、スマートフォンだとパッドでのアナログ操作ではなく、タッチ操作になりますが、『不思議のダンジョン』のプレイ感を損なうことなく、快適に遊んでもらうにはどうしたらいいのかと、試行錯誤を重ねました。

山本タッチ操作自体は、これまでの『風来のシレン』シリーズで搭載していましたが、当時は開発チームとして満足がいかないこともあって……。改めてスマートフォン向けのタッチ操作や UI(ユーザーインターフェース) の完成度を高めるためのプロトタイプを作り、それを見ながら、どのように表現すればプレイヤーにとって快適なのかということを話し合ったんです。そこから、AI(人工知能)によるオート操作が盛り込まれたりと、スマートフォンへの最適化が進んでいきました。アイテムを使用する画面のUIなどは、8回くらい作り直しています。

――8回もですか! プレイヤーの遊びやすさにとことんこだわって開発されていたのですね。

後藤ローグライクゲームは、1歩の操作ミスが致命的だったりするのですが、スマートフォンでは指で操作しますから、誤操作も起こりやすくて。ですから、ダンジョンのマスの大きさはどのくらいにするのがいいのかといった、操作性に直結するところには、とくに気を遣っています。

――なるほど。そうして開発が進み、できあがったものについて、山口さんはどう思っていますか?

山口僕はローグライクゲームのおもしろさは、思考することにあると思っています。ただ、ローグライクゲームの操作をスマートフォンで表現すると難解なものになってしまい、プレイヤーがその思考のおもしろさにたどり着けないという問題がありました。今回は、AI(人工知能)によるオート操作を取り入れることによって、操作の難しさを感じることがほとんどなくなっているので、ローグライクゲームのおもしろさを味わえるものに仕上がっていると思います。

――オート操作の機能は『世紀末デイズ』の大きな特色のひとつですが、今回、オート操作を採用された理由は?

山口『不思議のダンジョン』シリーズで、プレイヤーが本腰を入れて考えるのは、窮地に陥ったときです。反対に、ダンジョンに入ってすぐのときは、とくに操作に気を遣っていないという方が多いと思います。そう考えると、その“気を遣っていない”部分をオート操作に委ねるという選択肢を、プレイヤーの方に持っていただくのもいいのかなという結論にたどり着きました。

後藤AIに関してはDeNAさんにお声掛けいただく前から研究していたので、今回はその成果を活かせるのではないかと考え、オート操作の実装に取り組みました。

山本オート操作を盛り込むうえで、指を動かす距離はとにかく短くしてほしいという注文があり、いまのボタン配置になっています。

小手川難しい注文でしたよね(笑)。

山本でも、プレイヤーが何も気にせずに遊んでいるところを、オート操作で任せることで短縮できるので、これまでの『不思議のダンジョン』シリーズと同じような感覚で遊べるのはいいですよね。

小手川もちろん、操作は手動とオートで切り換えられるので、しっかりと自分で考えて行動することもできます。

――その一方で、すべてをオートに任せることもできますよね。

山口はい。ボタンを押しているあいだだけオートにすることもできますし、完全に自動でオート操作に任せることもできます。また、キャラクターのレベルを上げたり、装備を強化するというRPG的な側面も強く打ち出しているので、オート操作だけで楽しむことも十分できるとできます。

小手川ただ、オート操作だけで遊べることを突き詰めていくと、AIが賢くなりすぎてしまうので、その調整は本当に難しかったです。

山本そうですね。AIがなぜその行動を取ったのかをプレイヤーが理解できないと、その結果もし死んでしまった場合、理不尽に思われてしまうんです。そうならないためにも、行動に対して、プレイヤーに疑問を抱かせないというところに注力しました。

――使い物にならないようではいけないし、優秀すぎてもいけない。その落としどころを見つけるのに苦労されたと。ちなみに手動で操作する場合、操作するキャラクターを切り換えることはできますか?

山口もちろんできます。さらに、全員操作というものも盛り込んでいるので、仲間たち全員の行動を選択することもできるようになっています。

山本全員を操作すると、ちょっと操作量は増えますが、そのぶん、ボス戦などの細心の注意が必要な戦闘ではかなり役立つと思います。

小手川本作では自分が編成したパーティーメンバー3人と、ほかのプレイヤーが設定したゲストキャラクターを合わせた4人でダンジョンに挑みますが、行動を選択できるのは、チームメンバーの3人のみとなっています。というのも、ゲストキャラクターの特性上、能力の差が出やすいため、強いゲストキャラクターが自分で操作できると、自分のパーティーが弱くてもクリアーできるようになってしまいますので。

――ゲームバランスの崩壊を防ぐためにも、オート操作はひと役買っているのですね。パーティー制のお話が出ましたが、『不思議のダンジョン』シリーズではひとりの主人公を操作してゲームを進める方式のものが多かったですよね? 今回パーティー制を採用した理由についてお聞かせください。

山口パーティー制にするのかどうかというところはかなり議論しました。キャラクターはおもにガチャで仲間にするのですが、ローグライクゲームのおもしろさがなくなるようであれば、ガチャはなくてもいいという話から始めていたので、当初の企画ではガチャの要素はなかったんですよ。ですが、スパイク・チュンソフトさんから「ガチャがあってもおもしろくできるから任せてくれ!」というお言葉をいただけたので、ガチャの実装が決まり、それに合わせてパーティー制ということになりました。

後藤そ、そんなに力強くはなかったですけどね(笑)。

山口(笑)。でも実際のところ、ガチャもゲーム性としておもしろい要素だと思うんです。だから、そのおもしろさをうまくゲームに取り入れられれば、ガチャもアリなのかなと判断して、ゲームに盛り込むことを決めました。

――ガチャがあるということは、キャラクターにもレアリティがあるんですよね?

山口はい。キャラクターは星1から星6までのレアリティが設定されていて、最終的にはすべてのキャラクターが星6になります。そのため、多少はキャラクターのレアリティによって攻略の難度は左右されますが、低レアリティのキャラクターしかいないから攻略できないということは起こりません。

――キャラクターの装備はどうやって入手するのですか?

山口『風来のシレン』シリーズのように時間をかけて強化するという要素を入れたかったので、装備はあえてガチャではなくて、自分でクラフトしたり、ダンジョンで入手するという仕組みにしています。

――なるほど。ところで、ローグライクゲームではダンジョンで力尽きた場合、装備を含めたアイテムはなくなり、キャラクターのレベルはリセットされますが、本作では……?

山口力尽きたときにダンジョン内で持っていたアイテムはなくなりますが、装備はなくなりません。また、キャラクターのレベルもそのままです。

後藤ただ、開発中はアイテムロストとレベルのリセットがつねに議題になっていました。

小手川死んだらすべてなくなるという前提で設計するのか、死んでもキャラクターが成長するという前提で設計するのかでは、まったく違う選択肢となるので、いろいろな意見があったんです。最終的に、今回は後者を前提に開発しています。

プレイヤーを第一に考えて構築された世界観

――荒廃した現代が舞台になっていますが、ゲームのコンセプトはどのように決められたのでしょうか?

山口新規のタイトルなので、できるだけ幅広い層をターゲットにすることを考えると、王道のファンタジーなどがわかりやすくていいのかなとも考えたのですが、よくも悪くもタイトルとして独自の色が出しにくいと思ったんです。そこで、あえて尖った世界観にすることで、ほかのタイトルにはない独自性を持たせたようと考えました。それから、若い年齢層にとくに好まれているジャンルである“サバイバル”をテーマとして据え、受け入れてもらいやすいようにしています。

――ゲ―ム性との合致性も高いですよね。

山口そうですね。ダンジョンの中でアイテムを探したり、そのアイテムから装備をクラフトしたりといった要素も伝わりやすいと思ったので、ゲーム性と合わせて構築しました。

――そうした山口さんの考えから世界観を形にしていく中で、渡辺さんがこだわったポイントは?

渡辺さらに間口を広げるために、世界観をよりわかりやすく、おもしろいと思えるような要素を追加するような役割をしました。山口さんと話しながら、“オモイカネ”という特殊な鉱物によってキャラクターが能力に目覚めるといった、一般的に受け入れてもらえそうな方向性を打ち出して、大事なところは残しながら、その大事なところがさらに際立つようにしました。

山口もともとは、いまのバージョンよりもリアルで、本格的なサバイバルだったんですよ。

小手川そうして世界観が変わっていったことで、当初あった仕様がなくなったりもしました(笑)。たとえばクラフトの要素は、いまでは素材を合成するだけでシンプルですが、当初は素材の形を組み合わせて装備を作り上げていくというものだったんです。サバイバルをテーマとしたクラフトとしてはおもしろかったものの、ゲームを全体的に見たときに、ボリュームが重くなりすぎてしまい、表現したい内容とはズレてしまうということで、どんどんシェイプアップされていきました。結果的には遊びやすいようになったかなと。

――世界観をスマートフォンに向けて構築していく中で、ゲームのシステムも最適化されていったのですね。舞台を東京にされたのには、どんな理由が?

山口実際に東京に行ったことはなくても、ハチ公像や、スクランブル交差点などの名所はご存知の方が多いと思うので、情報としての受け入れやすさを考えて東京にしました。ただ、東京が舞台になるのはメインストーリーの第1章で、第2章以降では、物語の舞台は日本各地に広がっていきます。いまのところ、第2章の舞台は関西を予定しています。

後藤当然、その物語の中で新しいキャラクターも出てきますよ。

――ちなみに、そうしたキャラクターなどのゲーム内のイラストに関しても、DeNAとスパイク・チュンソフトが共同して作業を進めたのですか?

渡辺ゲームのコンセプトを一回立て直したときがあって、そのとき長谷川さん(スパイク・チュンソフトの長谷川 薫氏。『風来のシレン』シリーズのキャラクターデザインを担当し、本作でもキャラクターデザインを務める)さんとお話しして、デザインの路線を相談したこともありましたが、実際にデザインの作業を進めているのは長谷川さんですね。僕はどちらかというと、根底となる世界観の絵のテイストなどを考えています。

――現在のキャラクターのデザインにたどり着くまでには、どのような苦労があったのでしょうか?

渡辺いまは明暗がはっきりしているような、コントラストの強いイラストになっていますが、当初はふつうのイラストだったんですよ。そこから現在の画風に行きついたのは、好まれるイラストのデザインについてユーザー調査を行ったからです。その調査で得られた意見をもとに、長谷川さんと話し合っていまの形になりました。

後藤ユーザー調査の意見をイラストに反映する作業には、かなり苦労していましたよね。

渡辺長谷川さんには、いろいろお願いしてしまいました(苦笑)。でも、長谷川さんが前向きに、いろいろとチャレンジしてくださったおかげで、かなりの数のパターンが生まれました。

――個性的なキャラクターたちのデザインの裏には、そんな苦労があったのですね。

山口すべてのキャラクターのイラストに、青い影のようなものが入っていますが、それは、ひと目見て『世紀末デイズ』のキャラクターだとわかるようにしたかったためです。サウンドでも同じで、ゲーム内ではダークなことが起きているんですけど、流れている音楽ではギャップがあることで、さらに内容が際立つようにしたいと考えました。

――オープニングでは、激しい戦闘がくり広げられている中でゆったりとしたジャズが流れていて、ギャップが際立っている印象を受けました。

山口まさに、それが狙いです。ホーム画面など、世界観に近いところではジャズが流れています。ただ、ダンジョンの深い階層になると、電子音楽に変わったりもして、曲調には幅を持たせています。

――かなり振り幅がありますね。

山口そうですね。サウンドに関しては、今年の4月に実施したクローズドβテストで反響もよかったので、手応えを感じています。サウンドやオープニングは外部の会社さんにお願いしたのですが、クリエイターの皆さんには「やりたいことをやってください」とお伝えしていました。それでうまくいったので、恐らく、楽しく作っていただけたのだと思います。

渡辺僕も開発にはいろいろと携わりましたが、音楽とオープニングでは、担当の方から「こんなに好きにやってもいいんですか?」と聞かれるくらい、自由に作ってもらいました。それでこちらの求めているものが出来上がったので、すごくよかったなと。

――ちなみに、いまはゲームのサービスが始まっていますが、今後の予定などは決まっていますでしょうか?

後藤そうですね。ローグライクゲームファンの方のために、現在さらにやり応えのあるダンジョンを開発しています。いまのところはバージョンアップのタイミングで実装することを考えています。

山口リリースからしばらくは、ひとりで遊ぶ要素を充実させていきたいと思っていますが、将来的にはマルチプレイやランキング機能の実装も考えています。本作は、『不思議のダンジョン』ファンの方にも、そうでない方にも楽しんでいただける内容になっています。スパイク・チュンソフトさんとDeNAが組む理由を出せた、唯一無二のタイトルなので、ぜひダウンロードして遊んでいただけるとうれしいです。