『プロセカ』5周年楽曲『ペンタトニック』は“君”の背中を押す。syudou × バルーンの最大級ビッグラブ【インタビュー】
 VOCALOID(ボーカロイド)が生まれて、もう25年になる。

 かつて“ネットでの流行り”だったこのジャンルは、いまや日常的に聴かれるひとつの音楽として、さまざまな人に受け入れられ、大きく発展を続けてきた。

 2025年9月30日に5周年を迎えるリズムゲーム『
プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、『プロセカ』)は、ボカロ文化の発展形のひとつであり、つぎの世代へとつなげる架け橋だ。
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 5周年を迎えるにあたって書き下ろされた楽曲
『ペンタトニック』には、新たな世代へ向けた“自己決定”のメッセージが詰まっていると、楽曲を手掛けたsyudou氏とバルーン氏は語る。ふたりの共作によって作られた本楽曲で、若い世代に伝えたい思いとは。
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syudou

独自のダークな世界観を武器に楽曲を手掛けるクリエイター。『邪魔』、『ビターチョコデコレーション』、『コールボーイ』、『キュートなカノジョ』など多くのヒット作を発表。『プロセカ』では過去に楽曲『ジャックポットサッドガール』を提供している。文中ではsyudou。

バルーン

2013年より“バルーン”名義でニコニコ動画にてボカロPとしての活動を開始。代表曲『シャルル』は自身によるセルフカバーバージョンと合わせ、YouTube での再生数は現在までに約1億回を記録している。シンガーソングライターとしては“須田景凪(すだけいな)”名義で活動中。『プロセカ』では過去に楽曲『ノマド』を提供している。文中ではバルーン。

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歌詞の制作は会話のように。お互いに感じるリスペクトと、根底にあった共通点

――まずは簡単に自己紹介をお願いします。

syudou
 syudouと言います! VOCALOIDの楽曲を作ったり、自分で歌ったり、人に曲を書いたりしている感じです。『プロセカ』には初期のころから関わらせていただいているのですが、5周年を祝うお仕事をいただき、非常に光栄です。

バルーン
 バルーンです。ボカロPをしているほか、須田景凪(すだけいな)名義でシンガーソングライターとしても活動しています。僕も『プロセカ』には以前からいろいろな形で関わらせていただいています。
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syudouさん書き下ろし楽曲
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バルーンさんさん書き下ろし楽曲
――ありがとうございます。『ペンタトニック』は共作ですが、お互いをどういうクリエイターだと認識されていますか?

syudou
 僕はバルーンさんに比べて(大勢の人に)曲を聴いてもらうようになった時期が遅いんです。大学生のころ(バルーンさんの)『シャルル』が大ヒットして、学園祭で聞いたり、ゲームに入っているのを見ていました。“ボーマス”(※)にもCDを買いに行ってましたし……。だから何か、お会いさせていただくようになったいまも不思議な感じです。先輩だし、先輩以前にただのいちファンだったし(笑)。
※ボーマス:VOCALOID関連の即売会イベント。正式名称は“THE VOC@LOiD M@STER”。
バルーン
 じつはこっそり来てくれていたと、後から聞きました。よく先輩って言ってくれるけど、活動を始めたのはたぶん同じくらいの時期。(syudouさんの方を向いて)いつくらいだっけ?

syudou
 始めたのがどこからかにもよりますけど、ボカロ曲を投稿し始めたのは2011年か2012年くらいかな。恥ずかしくて消しちゃいましたけど、もともと音MADとかドラムの“演奏してみた”なんかを中学、高校時点でアップロードしていて、そこから曲を上げるようになったんですよ。

バルーン
 僕はsyudouの上げていた初期の曲をリアルタイムで聴いてたんですよ。だから、syudouのことは同期くらいに思っていて(笑)。

 クリエイターとして見ると、インターネットカルチャー出身としてはすごく珍しいタイプだと思います。つねに曲の中に“syudou”っていう人間がいる、肉体性を感じるんですよ。

――肉体性? どういうことでしょう?

バルーン
 要素は多くありますが、とくに言葉ですね。ちゃんとsyudouという人間がそこにいる。歌詞の端々からsyudouの存在を感じる気がしていて。僕も自分のことを書く曲はたくさんあるんですけど、syudouの歌詞はひとつ表に出てくる。

 そういう自我を出している人は、この界隈だとけっこう少ないんですよ。そのマインドがすごいと思いますし、時折うらやましくなります。

syudou
 うれしい……。
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――『ペンタトニック』のオファーはどういう形で来たのでしょうか。

syudou
 最初はけっこうふわっとしていて、「せっかく5周年だから、いままでにない形にできたらいいね」くらいでした。そこから話し合っていく中で、バルーンさんとやれたらいいなという話に。僕もバルーンさんとは仲よくさせてもらっているのでうれしかったですね。

バルーン
 知り合ってからは長いんですけど、いっしょに音楽を作るのは初めてだったよね。

――ちなみに、曲のオーダーとしてはどういうものだったのでしょう。

syudou
 「5周年おめでとう! わー!」よりは、『プロセカ』の物語が新たな転換点を迎えるので、変化を汲んだ楽曲にしてほしいと。

――たしかに、わかりやすくハッピーな楽曲とは少し違うように感じます。共作は初めてとのことですが、作業はスムーズに進みましたか?

バルーン
 最初はお互い簡単なラフみたいなのを投げて方向性を決めていって。その中でsyudouが書いた「独りではないが 1人で立てんだ」という歌詞がテーマとしてすごくすてきだねという話に。で、ここから広げていこうとなりました。

syudou
 そうですね。簡単なデモをやり取りしつつ。

バルーン
 核となる部分を最初に決めて、そこから膨らませていきました。

――先ほど“syudouさんの曲には肉体性がある”というお話がありましたが、今回もそういう、自分らしさを込められたのでしょうか。

syudou
 オーダーされた必要な要素は入れつつも、やっぱり声をかけられた以上は、自分に求められる……自分らしい色が出せないと意味がなくなっちゃうというか。

 これまでの周年楽曲も全部すばらしい方たちが担当されていますし、ふつうのものを出すなら、ほかの方のほうが絶対にクオリティが高くなると思うんです。なので、ちょっと違うタイプの歌詞だったり、先ほどバルーンさんが言ってくれた“自我”みたいなものは入れようと思いました。

――“syudouとしてのカラー”というか。

syudou
 ちょっとかっこつけたみたいになっちゃいますけど(笑)。ふつうに、自分の気持ちですよね。VOCALOIDだからこその視点とか、ミクがどうこうっていうよりかは、自分の気持ちを入れたかった。

バルーン
 けっこうリアルなことたくさん書いてるよね。“領収書”とか。生々しい響きの表現も多かった。

syudou
 ありましたありました。そういうのを入れたいんですよ。

バルーン
 結果として、きれいごとだけじゃない曲になったと思います。
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5周年を機に、新たな転換点を迎える『プロセカ』。
――曲名の『ペンタトニック』はどちらがつけたんですか?

バルーン
 これもお互い投げ合って話し合って、みたいな感じだったよね?

syudou
 そうそう。

バルーン
 5周年なので、“5”という数字は歌詞の中でもすごく大事にしていて。「タイトルも5にまつわる何かにしよう」というところから話し合っていったよね。

syudou
 5周年であること、『プロセカ』に登場するオリジナルキャラクターのユニットが5つであること、書き下ろし楽曲の歌唱メンバーも、基本的には4人+バーチャル・シンガーひとりで5人であることとか、いろいろな“5”が重なっていくイメージでした。

バルーン
 “ペンタトニック”は音楽用語、5つの音でできている音の名前なんですけど、ひとつでも音がなくなったら当然ながら成立しないんです。これもすごくすてきだと思うんですよ。
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syudou
 それに個人的な話にはなりますが、じつは僕自身、上京して5周年なんです。

――すごくパーソナルなアニバーサリーが。

syudou
 最初に『プロセカ』に関わらせていただいた『ジャックポットサッドガール』という曲があるんですけど、ちょうどその時期に仕事を辞めて、地元栃木から上京してきたんです。なので、けっこう人生が変わるタイミングに関わってるんですよね、『プロセカ』が。

――自身の節目としての意味も込められていたとは。

syudou
 こもっちゃいました(笑)。

――そう聞いてから歌詞を見ると、「ひとりで生きていくんだ」というメッセージ性が感じられます。

syudou
 たしかに、言われてみるとそうですね。

――奇妙な縁がつながっていくのはおもしろいですね。先ほどバルーンさんが「ひとつでも音がなくなったら成立しない」と仰っていましたが、この曲にも「ここが違えば大きく違うものになっていたかも」というポイントはあったのでしょうか。

バルーン
 やっぱり最初のきっかけになった「独りではないが 1人で立てんだ」でしょうか。『ペンタトニック』はこの言葉を中心に広がっていったので、このフレーズは“曲の心臓”。もし違う言い回しになっていたら、この曲は崩れてしまっていたと思います。

――「あなたには1人でも立ち上がるパワーがある」というメッセージが中心にあると。

バルーン
 僕が書いた歌詞もそこに引っ張られたので、僕にとってはそのポイントが大きいですね。

syudou
 僕は……そうですね、いっぱいあるんですけど、2番の「舞い上がれ」ですね。「何度も 何度も 舞い上がれ」。今回はお互いに意識を共有して、テーマを決めて書くという作り方をしたから、同じようなことを書いても変わってくるんです。(このフレーズから)情景描写というか「そういう描写をして歌詞にするんだ」っていう、バルーンさんの方法論が見えたような気がして。
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syudou
 バルーンさんが書くと同じテーマでも全然違うんですよ。僕は思ったことをそのまま、極力わかりやすい表現で書く。小学生の作文みたいなのが理想だと思っているんですけど、この歌詞を見て「これが比喩か」みたいな。

バルーン
 お互いの歌詞は全然色味が違うよね。

syudou
 バルーンさんの歌詞は絵が浮かぶんですよ。それがいいなって。

――それを踏まえて歌詞を読むとおもしろいですね。1番から2番で登場人物に変化があるように見える。

syudou
 1番サビが僕で、2番サビがバルーンさんなんですが、比較したときにまったく違うんです。「俺はこう書くけど、バルーンさんが書くとこうなるんだ!」と、すごく勉強になりました。

――最初は「何度も何度も 立ち上がる」で、そこからバルーンさんのパートでは「舞い上がれ」になる。

syudou
 僕は具体的なことを言いたがるから“領収書”みたいな表現になるんですけど、バルーンさんはそこから膨らませたようなモチーフがある。だから想像したときに、幅の広さを感じるのかなと思います。

バルーン
 ちなみに、1番サビがsyudou、2番サビが僕、3番サビがまたsyudouです。

syudou
 平歌も分けてます。2番Aメロが僕で、Bメロがバルーンさん。1番はもっと交互に細かく、Aメロ、Bメロともにふたりで分かれて担当したりしました。

――なるほど、たしかに直接的な言葉と比喩が交互に……。見比べるとどういうパート分けになるのか見えてきますね。

バルーン
 見えると思います。もうね、露骨に(笑)。

――お互いの歌詞やフレーズを聞いて微調整するようなことはありましたか? たとえば僕がやると遠慮して寄せようとする気がします。

バルーン
 うーん、寄せようとかはないですけど、syudouが書いた歌詞を見て「だったら僕はこう書いてつなげよう」みたいな感覚はあります。

――テニスのラリーみたいに、きれいに打ち返すというか。

バルーン
 そうですね。そういうイメージかもしれません。

syudou
 変に混ぜすぎなくていいとは思っています。曲のテーマとして“葛藤”もあって、自分は現実的なネガティブさを、バルーンさんが理想というか……。

バルーン
 “救い”かなあ。救いとなることを書こうと。

syudou
 曲の出だしはとくに顕著なんですよ、最初はバルーンさんの「思い返せば いつだって 始まりは 青に染まる 歌だけど」という歌詞から始まって、その後に僕の「僕ら 段々と 大人ってやつを 知らなくちゃ いけないんだぜ」。理想と現実が交互に来るんですよね。

バルーン
 会話みたいに作っていったよね。

syudou
 作っていておもしろかったです。勉強になりましたよ。

バルーン
 こちらこそ。お互いに音楽データを送り合うんですけど、もらったデータにsyudouらしさがあるのがおもしろくて。遊び心があって、熱と芯の部分に触れた瞬間も見えてくる。それはすごい覚えています。そこから刺激をもらいました。

syudou
 うれしいんですけど、めちゃくちゃよく言ってもらってるような(笑)。というのもですね、曲を制作してる最中にバルーンさんの家に行ったことがあるんですけど……そこで僕が送ったデータを聞いたらめっちゃ音割れしてて(笑)。再生した瞬間にバーン! って流れてきて「音でっか!」みたいな。

バルーン
 味わったことのない体験だったから、すげえ笑っちゃった(笑)。

syudou
 僕、「うぉぉぉぉぉぉ!」って気持ちで作っているので、メーターが振り切ってましたね。自分ひとりでやってると「全部メーターマックスでやっとけ」みたいな感じで勢い任せになっちゃうんです。

――まず外に出ない部分ですもんね。どういう作り方でやってるかなんて。

syudou
 そうか、(バルーンさんの)いい環境で聴いたらこうなるのか。ひとりだとそこに気づかないんですけど、人とやり取りすることでそういったクセが見えたというのはありますね。

 けっこう個人クリエイターあるあるだと思います。それぞれが勝手なやりかたをしてるから、他人の作りかたを見て「あ、そんな方法があるんだ!」って気づくときがある。

――このやり方、真似したいなとかありました?

syudou
 バルーンさんが入れてるプラグイン(アプリケーションの機能を拡張するソフト)を真似して買ったりしました。

バルーン
 お互いそういうのあったよね。やっぱり共作してデータを送り合うときって、かっこつけてらんないというか。いつもやってることをひけらかしながら送り合ったので、そういう意味でも飾らずに作れたんじゃないかと思います。
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syudou
 あと作っている最中は「バルーンさんのよさが立つといいよな」みたいな気持ちもありました。

バルーン
 僕もそうですね。syudouのよさが立つように。

syudou
 お互い相手を立たせ合う意識は、もしかしたらあったかもです。

バルーン
 たしかに、Bメロとかめちゃくちゃsyudou。

syudou
 音的に僕っぽいのは逆にバルーンさんがやって、逆にバルーンさんっぽいのは僕が作ってるというのはけっこうありました。相手になりきって(全体を俯瞰して)見るというか。

バルーン
 その時間あったねえ。

syudou
 1番のBメロとか2番Aメロの辺りはめっちゃバルーンさん。僕が歌詞を書いてバルーンさんに音を組んでもらって。メロディが“他人から見たその人”みたいなものになっていると思います。

バルーン
 結果論ですけど、歌詞のテーマ性とこの作り方も親和性があるような。

――お互いのリスペクトを感じます。ではお互いが作業した部分を聴いて、改めてすごさを感じた部分はありますか?

syudou
 いっぱいあります。バルーンさんは歌詞の比喩的な気持ちよさとか、きれいさとかもそうなんですけど……エンジニアリングの話になってもいいですか? 音まわりの処理がすごくちゃんとしているんですよ。

 DTM(デスクトップミュージック)を個人でやっている人は、あんま考えずにノリで組んじゃうことが多いと思います。でも、バルーンさんは全体が丁寧。プラグインとかソフトの知識も豊富で、たぶんそういうの好きですよね?

バルーン
 まあ、そうだね。好きでいろいろ凝る方だと思う。

syudou
 細かく楽器単位で聴いてもバランスが整えられていて、精度がすごく高いんです。だから歌とかもバランスよく伝わってくるんだろうなって思って、ソフトとかめっちゃ真似して買いました(笑)。

――制作のやり取りをしている段階から丁寧さが伝わってくると。

syudou
 そうなんですよ、デモの段階から。不思議なんですけど、音ってバランスがいいと本録り(本番のレコ-ディング)じゃなくてもかっこいいんですよ。ダメなデモほど完成形との差が激しいんですけど、その点バルーンさんはさすがでした。

バルーン
 (syudouのすごいところは)オケの部分はもちろんおもしろい要素が多いんですけど、やっぱり言葉ですかね。そこが何よりも強い。自分だったら歌詞にするのをためらうようなことを、あえて使っていくタイプなんです。それがすごい。自分にはないものを持ってる人だなと感じています。

 あと、「歌詞、どっちにするか迷ってるんですよ」みたいなタイミングあったじゃない?

syudou
 ありましたね。

バルーン
 そういうときも、ストレートで強い言葉のどちらを使うかで迷っているんですよね。柔らかいものと強いものとで迷うんじゃなく。そもそも言葉選びの大前提が自分とは違う、別のものを見てる人なんだなと。
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バルーン
 楽曲の中にも、syudouだからこそ作れるような空気感がたくさんあるんです。ときには残酷なようにすら見えてしまうほどの強い言葉や、現実と理想の鋭い対比、それらが彼の作ったトラックと相まってアンニュイな雰囲気になっている。

――大元からの違いを感じたというか。

バルーン
 そうですね。そういうのはもう、小手先で真似できるステージじゃないんだろうなと。

syudou
 僕はバルーンさんとの共作で、歌詞に関してはすごく考え直しました。いままでは具体的な言葉がつながるような、聴き手の耳の近くで鳴っているような表現がすごくいいと思ってたんですけど、それだけだとたぶん疲れちゃうんですよ。言葉が具体的すぎるとそっちに集中しちゃって、音楽的に楽しめなくなるときもある。

 音楽は何かふわっとした「よくわかんないけど楽しい!」という感覚も重要です。具体的に言葉が耳に入ってくる感覚と、音が気持ちよくて音楽的に楽しい感覚が、交互にほどよく混ざっているのがいちばんいいんじゃないかと最近は思ってます。

 音重視の言葉から、ぎゅっと近い具体的な言葉が来て、そう思ったら、また広い視野の比喩的な例えが来るみたいな。それが、今回ふたりでやったことでちょうどよく表現できた。

バルーン
 (発言を反芻しながら)……うん、そうだね。僕もそういう意見をもらいつつ言葉を選んでいったから、刺激をもらいました。

――具体性と比喩性による緩急みたいな。

syudou
 それでいて、シームレスにつながっているのが理想ですね。そうだ、去年くらいに聴いた中で、その緩急がすごい曲があって……!

(以下、しばらくsyudouさんとバルーンさんによる楽曲&歌詞分析が続く。ふたりとも感心しながらも楽しそうで、会話が弾んでいた)
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バルーン
 たしかに、あの曲がすごいのはわかる。

syudou
 ですよね。結果的にいまの理想に近いものが『ペンタトニック』ではできていると思います。

――いままではお互いの違いについてお答えいただきましたが、逆に似てる部分はあったりしましたか?

syudou
 それもすごくありました。そもそもお互い、初めての楽器がドラムなんですよ。だから音の気持ちよさを感じる部分がすごく近くて。

バルーン
 気持ちいいと思うビート感がすごく近いよね。

syudou
 一昨年かな、バルーンさんが出したアルバム(『Ghost Pop』)を聴いて気づいたんですよ。『ラブシック』とか。最後に気持ちいい音がカーンって1発鳴るみたいな、そういう音の性癖が近い。

バルーン
 性癖かー(笑)。ビートもそうだし、メロディのリズムも気持ちいいと思う部分が似てそうじゃない?

syudou
 あー……わかるな~。

バルーン
 サビのメロディを1回もらって、今度は僕なりに「このメロはこうしたらどうかな」って考えますよね。そのとき、「いや、やっぱりこれはこうだから気持ちいいんだ」ってわかるんですよ。メロディを作るときの最終着地点がすごい近いんだろうなって感じてます。それもきっと、ふたりともドラムをやってたから。

syudou
 メロディとかもリズムを重視しているのかなと。

バルーン
 だから、『ペンタトニック』を作るときはあんまり迷う瞬間がなかったですね。いろいろ構築したうえでの、最終的な完成図が近かったということなのかな。

syudou
 やろうとしていることも得意なことも違うんだけど、根本のズレがなかった。

バルーン
 新しいチャンネルとか、新しい引き出しを見せてくれることはたくさんあったんですけど、だからといって「どこに行けばいいのかわからない」と迷子にはなりませんでした。つねにこの曲の正解として同じものが見えていた気がします。

『ペンタトニック』の“君”の意味。『プロセカ』をプレイする若い世代へ伝えたいこと

――楽曲自体はかなり爽やかなものに仕上がってますよね。個人的な感覚としては、syudou × バルーンという組み合わせを聞いたときにイメージしたものとしては、意外な印象もありました。

syudou
 もっと我を出すようなパターンもあったとは思うんですけど、周年楽曲を担当する以上は第一に“『プロセカ』の5周年曲”っていう空気感にあってるかが大事じゃないですか。自分たちのリスナーやボカロファンだけじゃなく、“『プロセカ』のファン”もすごく多いので、やっぱりその人たちに喜んでほしい。

バルーン
 syudouと世間話しながら帰ったときがあったんですけど、そのときに「『プロセカ』ファンに喜んでもらうのは前提で、そのうえで自分たちができるいちばんかっこいいことをしよう」みたいな会話をした覚えがあります。

――シンプルな疑問なんですが、今回のように依頼を受けて作る曲と「俺はこうやりたいんだ!」と自我を出して作る曲って、やっぱり違うものなんですか?

バルーン
 そうですね、違います。

syudou
 僕はもともとすごい自我を出した曲ばかり作るタイプでした。でも、年々視野が広がっている気はしていて。最近はすごく人のことを考えるようになったんです。自分だけが楽しくてもあんまり楽しくない。やっぱり自分の身の回りとか、曲を聴いてくれる人がハッピーだから、自分が楽しい。

 全然きれいごとではなくて、「俺の“楽しい”のためにみんなも楽しくなってくれ!」みたいな方向性のエゴになっただけですね。

――究極的にハッピーなエゴですね。

syudou
 僕の身の回りの人は、僕が死ぬまでずっと健康でいっしょにいてくれないと困るんで、みたいな。

バルーン
 僕も我というか、だいぶ好き勝手作るタイプではあるんですけど……こうやってテーマをいただいたときは、自分が共感できるポイントを探す時間があるんです。

 僕もsyudouも、ひとりで音楽を作って舞台に立つタイプの人間。でも同時にそこに立つまでの出会いとか、思い出だったりとか、気持ちを原動力に進んでいくタイプでもあるんです。そういう意味では“我”を出して書いたものも、自分だけの話ではないんだろうなって。

 気づけば第三者のことを、もう自分のことのように考えていて。そういう意味ではさっきsyudouが言ったようなことと近いんだと思います。

syudou
 不思議ですよね。歌詞とかは我を貫くと逆に人に伝わったりする、逆転現象が起こるんですよ。

バルーン
 そうだね、あるね。

syudou
 中途半端に人のことを考えて作ったとしても何にもならないんです。そういうのもあるあるですね。
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――歌い分けにもこだわりを感じましたが、これもおふたりが指定されたものなんでしょうか。

syudou
 イメージは伝えましたが、具体的に「ここが誰か」というのは伝えていないですね。だからいい感じに聴こえていたら、それは『プロセカ』制作陣の方々がこちらの意図を汲み取ってきれいに組み上げてくれたんだと思います。

バルーン
 オンラインで制作の方々と打ち合わせする機会があったんですけど、実際に「ここの言葉はどういう意味で~」みたいに、すごく丁寧に聞いてくれたんです。

syudou
 うれしかったですよね。

バルーン
 うん、うれしかった。

syudou
 スタッフの方々から強いボカロ愛と『プロセカ』愛を感じました。

――なるほど。というのも、ミクからの歌い出しというのがちょっと意外に感じたものでして。もしかしたら何か意味を込めたのかなと。

syudou
 直接言ったりはしてないですね。でも、あの表現はすばらしいと思います。昔を懐かしむ部分を(バーチャル・シンガーである)ミクが歌って、その後の現実を見せつける部分は人が歌っている。この対比には引き込まれます。

 “VOCALOIDは夢を見せてくれる存在だけど、それだけじゃなくて、人が見る現実も大事だよね”という歌い分けになっていた。わかってくださっているなあ。

バルーン
 ちゃんと解釈してくれたんだなって思いましたね。
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――解釈一致ですね。この流れで歌詞についてもうひとつ。曲全体を通して“君”の背中を押すような印象を受けたんですが……。

syudou
 そうしてます!

――食い気味に。となると、気になるのは“君”が何を表しているかです。作詞時などの解釈を聞ければと思うのですが。

syudou
 『プロセカ』をプレイしている方、それも比較的若い年齢の方でプレイしている層に向けて作ったつもりです。

 『プロセカ』自体が次世代がVOCALOIDを知るきっかけになる大きいコンテンツのひとつなんですよ。なおかつVOCALOIDも変わってきています。いまは聴くだけじゃなくてすごく作る側に入りやすいんですね。どんどん音楽制作ソフトが身近になって、始めやすい環境になっている。

 だから、自分から興味を持ったら“君”も参加してほしい、入ってきてほしいと思っています。

――だからこそ“君”の背を押していると。

syudou
 僕も最初はそういう「VOCALOIDいいな、俺もやってみようかな」みたいなところから始めたので、みんなもそういうノリでやっちゃえばいいんじゃないの? って。……そういうのを、すごく言いたい年齢になってきたんですよ(笑)。

バルーン
 それはちょっとあるかも……。

syudou
 「これは5周年の曲だけど、6周年の曲はあなたが作ってるかもしんないですよ!」みたいなポジティブな気持ちはめちゃくちゃ伝えました。

バルーン
 他人事じゃないんだよっていうのはありましたね。

syudou
 そう! 他人事じゃないっていうのはすごくありました! 『プロセカ』に登場するキャラクター自体もクリエイターですし、“君”もね、と。

バルーン
 歌詞にもありますが、「つぎはあなたの番ですよ」。そういう意味合いも込めています。
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――5周年ってキリのいい数字じゃないですか。だからといって節目として振り返るのではなく、つぎの世代へつなげるような楽曲ということですね。

syudou
 あと、これは個人的な話なんですが……僕は甥っ子がいまして。その子が小学校に上がるときに姉と話していたんですが、子育てって、最終的には親は何もできないみたいで。究極、子どもがどうするかは子どもが決めるしかないと。それを聞いて「なるほどなー」と思ったんですよ。

 この曲でも「やってみてよ!」って訴えかけてはいるんですけど、じゃあ何を具体的にどうするかは伝えていません。教えるも何も、それはできないことだから。

バルーン
 けっきょく背中を押すことまでだよね。それだけのことなんだけど、でも何かしたい気持ちはある。

syudou
 歌詞の中に「暗く深い森の中を 何処に向かうか 何になるか それは君が決めなきゃね」というフレーズがあるんですけど、それは「自己決定は君でしてね」ということを伝えたくて。

 『プロセカ』をプレイする世代って、きっとその“自己決定”をすごく求められてるんですよ。高校や大学はどこに行くのかとか、中学の進路をどうするのかとか。そういう時期の人に「最後は自分で決めないとね」って言いたかったんです。

バルーン
 5周年って、すごく長い時間だと思うんですよ。それこそ小学生が高校生になるぐらいの。だから『プロセカ』が人生の原点になっている方も絶対にいらっしゃると思っていて。

 いろいろな仲間がいて、ときには疎遠になってしまう人がいたりして。そこからひとりで進んでいく“君”に、僕らはどうやって遠くから、最大級の愛を持って背中を押せるのか。それは意識した記憶があります。

――いちばん聴いてほしいポイントも、やはりそこでしょうか。

syudou
 そうですね。「“君”は他人事じゃないよ」っていうのはいちばん伝わってほしい部分です。もちろん強制したいわけではなくて、楽しいし、思ってるより身近な世界だよって。何だろう、歳なのかなあ。

――頻出ワードになってますね、歳。

syudou
 まだまだ若者だって抗い続けてはいるんですが(笑)。まあその、僕は不登校ではなかったんですが、別に学校が楽しいわけでもなかった。そういう厭世観の中で生きてたんです。
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syudou
 でもいまは、学生の頃に想像してた30歳前後とは比べものにならないぐらい人生が楽しいんですよ。のんきな考えではあるんですが、「いろいろやっちゃいなよ! やってみたら楽しいよ!」みたいなのはずっと思ってましたね。

――気づけば若者を導く立場になっていたというか。

syudou
 生意気ですみません(笑)。やっぱり楽しいんで、この気持ちは独り占めしてたらもったいない。みんなも楽しいと感じてほしいです。

バルーン
 些細な一歩で人生が変わるよっていうメッセージはあるよね。

syudou
 そうなんです。VOCALOIDは本当に自分だけで完結しますから。何かのオーディションに受かる必要もなくて……すごい、夢があるんですよ。

バルーン
 『プロセカ』をやる側から作る側になったクリエイターもいっぱいいますしね。

syudou
 僕はボカロという文化にずっと存在していてほしいんです。だから新しい世代は大歓迎。

バルーン
 僕らもいろんな先輩がいる中でつながれた側だしね。『プロセカ』自体、いまの若年層とボカロをつなぐ架け橋になっている。新しいプラットフォームのひとつなんだと思います。僕らが昔アニメを見ていろいろな曲に出会ったのと同じで、日常的に当たり前なひとつの音楽を知るツールなんだろうなと。
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バルーン
 僕はいわゆるロックとかJ-POPとか、そういうものを聴いて、その後にVOCALOIDが出てきたような世代です。いまはもう、まず最初に触れる音楽がボカロで、『プロセカ』で、みたいな世代がいるわけじゃないですか。そういう人は僕とは違う常識を持っているはず。そういった出会い方をした人にしか作れない芸術は絶対にあるはずなので、僕はそれを早く見たいんです。

syudou
 ボカロっていう概念を知らない人にも届いてるんですよ。『プロセカ』をプレイしている若い人とお話すると、そもそもボカロかどうかを意識せずに音楽を聴いている。単純にいい曲だから聴いているという感覚がすごく新鮮で。『プロセカ』には過去の名曲も入っていて、世代じゃなくても自然と聴ける。これもすごくいいことです。

 最近の流行りだけじゃなく、過去の歴史にもちゃんと触れられる。新しい世代を巻き込みながら広がっていくすごくいいコンテンツだと思います。そういう在り方を今後もしてくださっていると、いちボカロファンとしてもすごくうれしいですね。
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※「VOCALOID(ボーカロイド)」および「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。