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『北斗の拳』なぜ“バスケ”は生まれたのか。バグがあるから愛され続ける世紀末格ゲー、約21年越しの開発者インタビューで新事実続出

『北斗の拳』なぜ“バスケ”は生まれたのか。バグがあるから愛され続ける世紀末格ゲー、約21年越しの開発者インタビューで新事実続出
2005年、格闘ゲームは、バスケの炎に包まれた
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『北斗の拳』世紀末格ゲー“バスケ”の謎がついに明らかに。強すぎるトキ、ヤバい性能の“ナギ”、バスケはなぜ生まれてしまった? など21年後しの開発インタビューで新事実続出

補正は枯れ、体力ゲージは裂け、あらゆるプレイヤーが絶滅したかにみえた……
『北斗の拳』世紀末格ゲー“バスケ”の謎がついに明らかに。強すぎるトキ、ヤバい性能の“ナギ”、バスケはなぜ生まれてしまった? など21年後しの開発インタビューで新事実続出

だが……

北斗の拳』を愛するゲーマーは、死滅していなかった!!
『北斗の拳』世紀末格ゲー“バスケ”の謎がついに明らかに。強すぎるトキ、ヤバい性能の“ナギ”、バスケはなぜ生まれてしまった? など21年後しの開発インタビューで新事実続出
↑『北斗の拳』プレイヤーたち。
 2005年にアーケードで稼働を開始し、2026年のいまになっても大規模大会が開催されるほどの人気を博している対戦格闘ゲームがある。アークシステムワークスが開発した対戦格闘ゲーム『北斗の拳』(販売:セガ)だ。
『北斗の拳』世紀末格ゲー“バスケ”の謎がついに明らかに。強すぎるトキ、ヤバい性能の“ナギ”、バスケはなぜ生まれてしまった? など21年後しの開発インタビューで新事実続出

 『北斗の拳』はゲームバランスの奇妙さで話題になった。即死コンボ、永久コンボは当たり前で、“世紀末格ゲー”と称されることもしばしば。ゲームファンなら、“キャラクターがバスケットボールのようにバウンドする格闘ゲーム”ということを、どこかで聞いたことがあるのではないだろうか。

 コンボ中、しばらくするとキャラクターがビターンビターンと地面に叩きつけられ、そのままK.O.されてしまう。一度でも攻撃を食らったらそのまま負けるゲームなんて、とてもプレイできたものではないはずだ。

 しかし、『北斗の拳』はそうではなかった。プレイヤーたちの愛溢れるやり込みによって、一周回って“神ゲー”と呼ばれるようになってしまった。著名プレイヤー主催による大規模大会が実施され、コミュニティーが活発なゲームとしても有名だ。

 古今東西、さまざまな対戦格闘ゲームがリリースされてきたが、“ゲームバランスが崩壊していたからこそ愛された唯一無二のゲーム”だと、筆者は考えている。

 そんな『北斗の拳』を見ていて、ふと頭をよぎった疑問がある。

 なんでこんなゲームになってしまったんだろう、と。

 筆者は長年にわたる『北斗の拳』のファン。いつかは関係者に話を聞いてみたいと思っていた。

 時は流れて2026年。世界規模のゲーム大会の日本版“EVO Japan 2026”で、『北斗の拳』はタイトルのひとつとして採用された。最新格闘ゲームと並び、熱いバトルが展開されたことも記憶に新しい。最近では、『北斗の拳』の話題をSNSで見かけることも多くなった。

 「『北斗の拳』の話をするなら、いましかない!」。

 そう考えた筆者は、販売元のセガ、『北斗の拳』の版権を管理するコアミックス、そして開発のアークシステムワークスの3社に連絡を取り、オフィシャルなインタビューを実施する機会を得ることができた。

 インタビューでは、当時開発を手掛けたアークシステムワークスの安部秀之氏と、EVO Japan 2026『北斗の拳』の覇者であり、「優勝賞金で『北斗の拳』の基板を購入してゲームセンターに寄付したい」と尋常ではない愛を注ぐK.I氏に参加いただき、開発者とプレイヤー両視点から、本作の秘密と魅力に迫っていく。

 稼働からおよそ21年。

 世紀末格ゲーの誕生秘話が、いま明かされる! セッカッコー!! テーレッテー。
『北斗の拳』世紀末格ゲー“バスケ”の謎がついに明らかに。強すぎるトキ、ヤバい性能の“ナギ”、バスケはなぜ生まれてしまった? など21年後しの開発インタビューで新事実続出※この記事で『北斗の拳』と書く場合、原作マンガでもアニメでもなく、基本的には対戦格闘ゲーム版のことを指しています。

安部秀之あんべひでゆき

アークシステムワークス 取締役/商品開発本部本部長。『北斗の拳』では、開発責任者としてディレクター、リードプランナー、リードプログラマーなど、幅広い役割で携わる。つまりこのゲームを作った人(文中は安部)。

K.I

アーケード格ゲー『北斗の拳』プレイヤー。EVO JAPAN 2026では『北斗の拳』トーナメントで優勝を収める。ユーザーコミュニティー主導の大会“世紀末武闘会”の主催も務める。恐らく、『北斗の拳』がこの世でいちばんうまい人。

世紀末格闘ゲームは……意図したものではなかった!

――本日は、インタビュー企画にご協力いただき、誠にありがとうございます。まさか実現できるとは。感無量です。

安部
 開発者としても、これだけ長いあいだ遊んでいただいていることに本当に感謝しかありません。ユーザーの皆さんに楽しんでいただけるインタビューになれば幸いです。

――本日は、『北斗の拳』のプレイヤーであるK.Iさんにも同席いただいています。

K.I
 K.Iです。よろしくお願いいたします。

――さっそくではあるのですが……なんで『北斗の拳』はこんなにぶっ壊れてしまったんでしょうか。

安部
 ふつうはもっとアイスブレイク的な話題から入るものなのでは?

――もう気になりすぎて……。では、順を追ってお聞かせください。安部さんは当時『北斗の拳』の開発にはどのように携わっていたのでしょうか。

安部
 開発チームの責任者をしていました。ディレクターとしての取りまとめと、バトルやキャラクターの仕様を担当するリードプランナー、さらにリードプログラマーも兼任。最初にケンシロウから作成したのですが、ベースが完成するまではプログラマーは私ひとりだけでした。プロトタイプ的なものが完成した後から、ようやくいろいろなメンバーが合流していくという感じでしたね。
『北斗の拳』世紀末格ゲー“バスケ”の謎がついに明らかに。強すぎるトキ、ヤバい性能の“ナギ”、バスケはなぜ生まれてしまった? など21年後しの開発インタビューで新事実続出
――開発期間はどのくらいだったのでしょうか。

安部
 開発がスタートしてから完成したのは、だいたい2~3年だったと記憶しています。ただ、スタッフロールを見れば一目瞭然なのですが、開発チームのメンバーは、大手開発会社さんと比べるとかなり少ない人数でした。当時は土日もなく、ずっと家に帰れないという状況で。いまはスーパーホワイトな労働環境になっているんですけど(笑)。

――20年前ですし、ゲームの開発会社さんは気合でなんとかするという時代でしたから。かなりたいへんな開発現場だったのでしょうか。

安部
 『北斗の拳』はATOMISWAVE(アトミスウェイブ)というハードウェアで開発したのですが、『ギルティギア』シリーズのNAOMIというハードウェアと比べるとメモリが半分しかないという制限がありました。その半分のメモリ容量の中で『ギルティギア』に負けないキャラクターアニメーションを実現するために、特殊な圧縮技術を開発しました。これは、ATOMISWAVEのゲームとしては、おそらく誰も真似できないものだったと自負しています。

――開発をするにあたり、コンセプトやこだわった要素についても教えてください。

安部
 原作にはいろいろな名場面がありましたが、それをいかにゲームプレイの中に組み込むかというのが、ひとつのテーマでした。アイデア出しみたいな会議もかなりやって、シンが飛び降りるアクションとか、特定の対戦で一撃必殺奥義を当てると演出が変化するとか、そういったアイデアをたくさん出して、「出たアイデアは全部入れよう!」という勢いで開発していた記憶があります。最後の最後まで「あれを入れよう」と言って納期ギリギリまで開発していて、本当に熱量の高い開発現場でした。
『北斗の拳』世紀末格ゲー“バスケ”の謎がついに明らかに。強すぎるトキ、ヤバい性能の“ナギ”、バスケはなぜ生まれてしまった? など21年後しの開発インタビューで新事実続出『北斗の拳』世紀末格ゲー“バスケ”の謎がついに明らかに。強すぎるトキ、ヤバい性能の“ナギ”、バスケはなぜ生まれてしまった? など21年後しの開発インタビューで新事実続出
レイの一撃必殺奥義でユダを倒すと、原作を再現した特殊な演出が見られる。また、シンは原作を再現して自決する技を持っている。
――ゲームバランスに直結しない原作再現も、すごく豊富な点が魅力のひとつですよね。このほか、対戦格闘ゲームとして掲げた方向性についても、教えていただけますか?

安部
 当時の『ギルティギア ゼクス』、『ギルティギア イグゼクス』は競技性の高い格闘ゲームだったので、ノックバックでコンボが途切れてしまったり、一撃必殺技が実戦では効果的に使えなかったりと、爽快感などの面で個人的に物足りない部分があったんです。ゲームを開発しながらも、その不満を解消するゲームを作りたいと、ずっと思っていました。

K.I
 『ギルティギア イグゼクス』だと“サイクバースト(※)”がありますが、これを『北斗の拳』に実装しなかったのには理由が?
※サイクバースト:ダメージを食らっている最中でも使用して相手を吹き飛ばせる緊急回避技。
安部
 個人的にですが、あれ食らうとイラっとするんですよね(笑)。『北斗の拳』は防御システムについてはそれほど重きを置いておらず、とにかく攻めが楽しいゲームにしたかったんです。

――たしかに、『北斗の拳』はブーストだったり、一撃必殺奥義だったり、攻めが魅力のゲームになっていますよね。
『北斗の拳』世紀末格ゲー“バスケ”の謎がついに明らかに。強すぎるトキ、ヤバい性能の“ナギ”、バスケはなぜ生まれてしまった? など21年後しの開発インタビューで新事実続出
安部
 一撃必殺奥義は、コンボにつなげることができて、最終ラウンドあたりでコンボの締めに組み込めるようなバランスを考えていました。『北斗の拳』には死ぬ運命の人にしか見えない“死兆星”といったキーワードがあって、北斗七星は7つ星だからゲージを7本奪うと死兆星が見えて一撃必殺奥義が発動できるというのもバランスがいい。最終ラウンドに近づけば近づくほど一撃必殺で決着する可能性が増すような、盛り上がりを演出する要素として実装したものでした。
『北斗の拳』世紀末格ゲー“バスケ”の謎がついに明らかに。強すぎるトキ、ヤバい性能の“ナギ”、バスケはなぜ生まれてしまった? など21年後しの開発インタビューで新事実続出
K.I
 一撃必殺奥義も特徴的ですが、『北斗の拳』と言えばブーストシステムがいちばんの魅力だと思っています。コンボにも使えるし、攻めにも使えるし、守りにも使える。自分は格闘ゲームを30年ぐらい続けているのですが、ゲーム史上最高峰の発明だと思っています。

安部
 そう言っていただけるとうれしいです。ブーストについてはとくに初心者向けを意識したわけではなく、ノックバックを気にせずにコンボを継続させることを考えて取り入れたシステムでした。ただ、このシステムを実装したときに、「こんなにビュンビュン突進するのは『北斗の拳』らしくない。一発が重いほうがいいんじゃないか」という意見もけっこうありました。でも、プレイしてみるとすごく爽快感がある。これは残すべきだと思ってそのままにしたんです。

――ただ、このシステムがあったため、どんどんコンボが伸びて、最後にはキャラクターがバウンドするようになってしまいました……。バスケ(※)です。

安部
 まあこの話題は出ますよね(笑)。
※バスケ:本作を語るうえで外せないのが、“バスケ”と呼ばれる現象だ。コンボのヒット数が一定以上になると、相手キャラクターがまるでバスケットボールのようにバウンドし始め、楽にコンボがつながるようになる。明らかにバグなのだが、これを活用したコンボが『北斗の拳』の愛される一因となっており、対戦ではもはや日常となっている。『北斗の拳』世紀末格ゲー“バスケ”の謎がついに明らかに。強すぎるトキ、ヤバい性能の“ナギ”、バスケはなぜ生まれてしまった? など21年後しの開発インタビューで新事実続出
>バスケという現象を確認するなら、EVO Japan 2026『北斗の拳』決勝戦でのK.I氏のコンボがわかりやすい。動画での視聴はこちら。

――あのテクニック、というか現象は、意図したものだったのでしょうか。

安部
 意図して……いません! これは、我々もリリース後に確認したバグでした。もともと『北斗の拳』は、コンボに制約をあまりかけたくないという思想で設計をしていました。ブースト、グレイヴシュート、バニシングストライクなどのシステムを使って、『ギルティギア』と比べて自由度の高いコンボができたと思います。と言いつつも、どこかに制限をかけないと無限コンボが成立してしまうので、ヒット数が高くなるほど、キャラクターの重力が強くなってコンボがつなげにくくなるというプログラムにしていました。……していたんです。

――重力。嫌な予感が。

安部
 重力がどんどん強くなっていけば、いつかはコンボが途切れるだろうと考えていたんですが……しなかった。

――しなかった(笑)。

安部
 ここはプログラマーとしての私の未熟さがありました。たしか、リリースしてから2週間くらいが経過したころ、開発チームのメンバーが「なんかコンボ中にキャラクターがバウンドしているらしい」という情報をキャッチしたんです。まさか……と思ってゲームセンターに行ってみたところ……本当に……バウンドしていました……。

――『北斗の拳』ではコンボ数が増えると重力が重くなるというのは前述の通りなのですが、さらに本作には高いところから落ちてくるとバウンドが強くなるという仕様もあって、そのふたつが悪さをしていると考えていいでしょうか。

安部
 内部的な仕様はもっと複雑なのですが、ざっくりとその理解で問題ないと思います。もちろんデバッグはしているのですが、このあたりは重点的にチェックを入れるべきでした。

K.I
 当時まだコンボが研究されていなかったころは、ブーストゲージを3本消費すればだいたいのキャラクターはバスケにいけるような状態だったんです。ですので、「開発者は意図して作っているんじゃないか」って言われていたこともあったんですよ。

安部
 評価していただいてありがとうございます。意図していませんでした!

K.I
 ですが、『北斗の拳』がこれだけ遊ばれているのって、いまのゲームバランスありきなんですよね。もっと落ち着いたゲームだったら、ふつうのキャラゲーで終わっていたと思うんです。

安部
 ユーザーの皆さんには私のマイナスをプラスに変えていただいて、本当に感謝しているんです。

K.I
 『北斗の拳』が稼働した翌年に、さっそく闘劇(当時開催されていた格闘ゲームの全国大会)の種目に選ばれたのですが、終わった後に、全国的にガクンとプレイヤーが減ったんです。中野TRFというゲームセンターがあって、そこくらいでしか流行っていませんでした。でも、バスケを含むコンボが発見されて、その動画がニコニコ動画で配信されたら変わりました。攻撃を食らっているキャラクターがダムダム弾んでいる光景が衝撃的すぎて、そこから右肩上がりにプレイヤーが増えていったんですよね。まさに、バグがゲームを救ったんだと思います。

――闘劇'06ではまだギリギリ格闘ゲームの体裁を保っていましたが、闘劇'08では変わり果てた姿になって帰ってきました。

K.I
 闘劇'06のときはトキが尋常じゃなく強い格闘ゲームでしたが、闘劇'08では全キャラクター即死完備の、まさに世紀末ゲームでした。

――もう研究されすぎて、即死コンボでも“高い”、“安い”(※)があるのがおもしろいんですよね。
※高い/安い:一般的な格闘ゲームでは“ダメージが多い=高い”だが、『北斗の拳』においては即死コンボは当たり前。ゲージをたくさん残してつぎのラウンドを迎えられる即死コンボが“高い”とされている。
安部
 このレベルのバグは、本来なら開発としては残っていてはダメなものではあると思うのですが、プレイヤーの皆さんの研究のおかげで、結果オーライ的になっているのでよかったと思っているんです。

トキの「ナギ!」はそのままになった。理由は“楽しかったから”

――本作でバスケと並んで語られるのが、格闘ゲーム史上、トップクラスの強キャラとして挙げられることが多いトキの存在です。とくに、北斗無想流舞(通称ナギ)は「性能がやばすぎる」と言われていますが、単刀直入にお聞きします。調整はしたんですか!?

安部
 しました! 調整してこれです! トキは体が病魔に侵されているという設定がありまして、たとえば条件を満たすと吐血して隙をさらしてしまうとか、強いキャラクターなんだけど、何らかの制約やペナルティーがある性能にしようというアイデアがあったんです。さらに、並行してキャラクターの基本性能を考えるにあたり、ラオウの剛の拳に対する柔の拳という、水の流れのように相手を翻弄するというイメージもあって。そんなイメージから取り入れたのが、北斗無想流舞でした。
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――たしかにトキらしい必殺技ではあるのですが……硬直がないんですよね。

安部
 ありませんでした。

――ありませんでしたって言いました?

安部
 必殺技をテストで入れるときは、まだ詳細なパラメーターを設定しておらず、硬直もゼロでした。この状態でテストプレイして、いろいろな方向に素早く移動するようなアクションがすごく楽しいキャラクターになっていたんです。それだけに、前述の制約やペナルティーを入れてしまうと爽快感が消えてしまう。ですので、最終的にはとくに制限をかけることはしなかったんです。

K.I
 『北斗の拳』のロケテストがゲームセンターで開催されたときに、当時の中野TRFの店長が、「トキは絶対調整しないと危ないですよ」と現場にいた開発の人に言ったらしいんですよ。さすがに調整されるかな? と思ったら、そのままリリースされちゃってました(笑)。

安部
 北斗無想流舞は「もう少しマイルドにするか」みたいな意見もあったのですが、「楽しいからいいじゃん」という感じで、そのままに。結果、稼働初期や闘劇'06のときはトキばかりになってしまったのですが。
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K.I
 ただ、すごく使用率が高いキャラクターは対策もされやすいので、その後の大型大会ではトキはあんまり勝っていないんですよね。

安部
 これも皆さんの研究のおかげで結果的にバランスを取っていただいた、と思っています。

K.I
 つい最近のことなのですが、マミヤで20年越しに革命的なコンボテクニックが見つかったんです。本当にすごい発見で、過去(およそ)21年間のすべてが覆るような発見で。

安部
 すごいですね。まったくアップデートをしていないゲームにまだ発見があるなんて。ここまで遊んでいただけるということに本当に感謝しかないです。

K.I
 あと、もうひとつお聞きしたかったことがあるのですが、マミヤはなぜ通常投げを持っていないんでしょうか? これも意図して実装しなかったのでしょうか。

安部
 これは意図しています。マミヤがケンシロウやラオウたちを投げることは、拳法の練度的にも体格的にも「無理じゃないか」と。

――たしかに、殴ったりはできそうですが、投げるのは想像できないですね。

安部
 そもそもの話、「『北斗の拳』の格闘ゲームに女性キャラクターを入れるのはどうなんだ」というのは、キャラクターを選定するときにすごい議題になっていたんです。でも、「やっぱり格闘ゲームとしては女性キャラクターはほしいよね」となったので、原作でもまだ戦っているマミヤを選ぶことになりました。ただ、性能としては控えめにして、その代わりに専用のゲージや武器を使い、トリッキーな戦いができるようにしたんです。
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――マミヤと並び、ジャギも弱キャラと言われていますが、ジャギもあえて弱い性能にしたのでしょうか。ガードゲージがないのに、ガードが割られてしまうところとか。

安部
 いや、ジャギはそこまで弱くしたいという考えはなかったです。石像でガードするモーションにすることが決まった後で、「ラオウに殴られまくってたら石像なんか壊れちゃうよね」という話になったので、ある程度ガードをすると壊れるようなモーションを取り入れたんです。そのほかの性能も、マミヤとは別方向にトリッキーなものにしていますが、あえて弱くするつもりはありませんでした。

K.I
 ジャギは設置技が複数あって、コンボが研究されたらすごい伸びるんだろうなとは当時から言われていました。結果、伸びたは伸びたんですけど、ほかのキャラクターのほうがさらに伸びてしまった(笑)。
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――まだ家庭用版が発売されていない状況なのに、ゲームセンターでコンボ研究をするような熱心な人も多かったですよね。

K.I
 当時いちばん『北斗の拳』が流行っていたのが、中野TRFという聖地のゲームセンターでした。ニコニコ動画がサービスを開始したてのころだったと思うのですが、『北斗の拳』の大会を配信したら、派手なコンボの見た目と僕たちプレイヤーの口プレイ(※)がものすごくウケて、話題になったことがありました。以降も、『北斗の拳』といえば中野TRFみたいに言われていました。
※口プレイ:相手を煽るような発言をあえて行うこと。お互いに了承している場合は盛り上がりにひと役買うことも。
――中野TRFだけプレイヤーの練度が異常に高くて、“修羅の国”みたいに言われていましたよね。

K.I
 言われていましたね(笑)。そこから動画を観た人たちがゲームセンターに来るようになって、全国的にブームが広がっていったような気がしています。稼働後の最初の数ヵ月は全国的にはシンが最強キャラみたいな扱いでしたが、研究が進んだ中野TRFだとトキかラオウだと言われていました。ほかのゲームセンターとは違った空気感がありましたね。

――2026年には、EVO Japan 2026の種目としても選ばれ、話題となりました。

K.I
 私は“世紀末武闘会”という『北斗の拳』の大会を、ゲームニュートン(東京都板橋区にあるゲームセンター)の松田さんという方とともに10年前ぐらいから定期的に開催しているのですが、まさかEVOの種目になるとは。驚きましたね。

安部
 私も本当にびっくりでした。発売後にアップデートもないのに、これだけプレイしていただいたから実現したのだと思っています。

――K.Iさんとしては、念願が叶った気持ちだったでしょうか。

K.I
 「まさか」という気持ちと、長年大会の主催をしてきた立場から、ここまでやってきてよかったという感情が同時に押し寄せてきましたね。

――大会では、最後にレイを使って優勝されました。

K.I
 レイは昔からラオウに有利と言われていて、ものすごく悩みました。自分が20年以上も使ってきたメインキャラですし、会場の空気感にも後押しされて、最後はレイを信じて選択して優勝できました。Xでエゴサーチしたら、「レイを使ってくれてうれしかった」という声が多くて、そういった意味でも選んでよかったと思いました。

――優勝時のコメントも、プレイヤーのあいだで話題になりましたね。

K.I
 EVO Japan 2026の種目になると決まった時点から、優勝したときのインタビューでこれだけは言おうと決めていたことがあって。それが「現行機でコンシューマー版を出してください」でした。これは言わないといけない。

――家庭用版としてはプレイステーション2版がありますが、パッケージはすでに流通しておらず、現在はプレミア価格で取引されるほどの希少価値があります。アーケード版のゲーム基板も同様ですよね。

K.I
 EVO Japan 2026の優勝賞金で基板を買おうとヤフオクやメルカリをチェックしているんですが、毎回同じ人が落札していくんです。

――『ハンター×ハンター』のグリードアイランド編みたいですね。

K.I
 落札しようとしているのですがその人に取られちゃうんで、毎回「ぐぬぬ」ってなっています。

――プレイステーション2とアーケード基板などのハードウェア自体も古いものですから、いつかプレイできなくなってしまいますよね……。家庭用版を現行機でプレイしたいという人も多いと思うのですが(チラッ)。

安部
 あまり無責任なことは言えないのですが、個人的には移植ができればいいな、とは思っています。ただ、『北斗の拳』はアークシステムワークスが開発を行っており、販売はセガさんです。さらに、『北斗の拳』の権利者も別にいらっしゃいますし、参加されている声優さんだったりとか、楽曲についても権利元があります。アークシステムワークスだけで済むゲームならいいのですが、関わっている人や会社がものすごく多いので、移植のハードルは高いのでは、と考えています。

K.I
 21年待っているので、ぜひお願いします。

安部
 ただ、本作は絶妙なバランスとプログラムで成り立っている砂の城みたいなゲームなので、移植が実現しても「アーケード版と違う!」みたいになってしまうとマズいですよね。だから、現行機で完全再現できるのか否かも、かなり検証しないといけないと思います。

――バグではあるのですが、バスケができない『北斗の拳』は『北斗の拳』じゃなくなってしまいますし。

K.I
 そこは自分が全力でチェックします! ぜひ呼んでください。

――K.Iさん監修は売りになりそうですね。ちなみにこのインタビューはセガさんにも事前に見ていただいています。

K.I
 セガさん、ぜひ移植をお願いします!

――ちなみに、候補には挙がったけど、実装にはいたらなかったキャラクターはいたのでしょうか。

安部
 個人的に参戦させたいキャラクターとしてはアミバがいました。ですが、本作で実装できるキャラクター数を考えると、当然ですけどトキとシルエットというか、雰囲気や属性的なものが似てきちゃいますよね。なので、色物枠としてはハート様とかジャギにお任せして、泣く泣くボツとなりました。
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――たとえば、続編を作れるとなった場合、どういったキャラクターを追加したいですか?

安部
 アミバと、デビルリバース、ウイグル獄長あたりでしょうか。意見としては、シュウとかジュウザの参戦希望の声も多いですよね。『北斗の拳』は脇役にも魅力的なキャラクターがたくさんいるので、参戦キャラクターを考えるだけでも楽しいです。デビルリバースはボーナスステージの敵キャラクターみたいな扱いで登場しても、おもしろかった気がしますね。

――巨大ボスの攻撃を回避しながら倒すような(笑)。改めてK.Iさんにお聞きしたいのですが、なぜこんなに『北斗の拳』に惹かれているのでしょうか。

K.I
 ほかのゲームにない爽快感と緊張感、この2点ですね。バスケや即死コンボがあるが故の緊張感がとにかくすごいです。また、派手なコンボが目立ちますが、そこにいたるまでの立ち回りや切り返すための防御手段もキッチリ覚えないと上級者とまともに戦えないというのがあります。あと、プレイしたことがない人でも、「すごいことが起きているぞ」というのが伝わりやすいゲームなのも魅力ですね。

――キャラクターがビターンビターンってなるゲームはそうないですよね。安部さんは、こういったK.Iさんのようにプレイヤーがいまも『北斗の拳』をプレイしてくれていることに対して、どういった感想を持たれていますか?

安部
 自分としても、もともと『北斗の拳』という作品がすごく好きだったので、その対戦格闘ゲームを開発させていただけるということが、本当にうれしかったんです。原作をしっかりリスペクトして愛を注いで開発したつもりです。そのゲームをこれだけプレイヤーの方に愛していただけるというのは、意図したものではありましたけど、結果としてよかったのかなと思っています。がんばってゲームを作れば、これだけのプレイヤーに広がるんだよということを、弊社の開発メンバーにも伝えたいです。

――本日はありがとうございました。最後に、『北斗の拳』を愛するプレイヤーの方々に、メッセージをぜひ。

安部
 本当はこのインタビューで、「我が開発人生に一片の悔いなし!!」と言いたかったのですが、現行機向けの家庭用版がほしいと言われているので……まだ「一片の悔いなし」とはならないですね。ただ、引き続き『北斗の拳』を愛していただけたら、それを励みに私たちもがんばっていけますので、今後もぜひ、プレイしていただけるとうれしいです。プレイヤーの皆さま、本当にありがとうございます。
『北斗の拳』世紀末格ゲー“バスケ”の謎がついに明らかに。強すぎるトキ、ヤバい性能の“ナギ”、バスケはなぜ生まれてしまった? など21年後しの開発インタビューで新事実続出※画像はプレイステーション2版の『北斗の拳 〜審判の双蒼星 拳豪列伝〜』のものを使用しています。

      担当者プロフィール

      • リプ斉トン

        リプ斉トン

        話題のゲームはなんでもプレイしたくなる雑食系のゲームライター。気に入ったゲームはトロフィー(実績)をコンプリートするまでやりたい派。

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